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ロマン兵器

『ギャンッ!』

『ギャンッ!』

『ギィン!』

3度打ち合ってお互いに離れる。カーシャほどの力は無い。それにケイオスより遅い。だが、巧い! あれ? カーシャより非力で、ケイオスより遅い・・・。まんま俺の事じゃないか。

『ジャリ!』

トルバンは剣筋をずらすように剣を振る。俺が受けると、すかさず突いてくる。戻した刀で剣を流す。

『ギン!』

いや、俺なんかより断然巧いな。

「ふっ!」「はっ!」

同時に息を吐き力を込める。

『ギャン! ギャン!』

横薙ぎから、全く間を置かず袈裟切り。どちらも刃を合わせて弾く! 祖父ちゃんや師匠程では無いにしても強い。あの2人は人外だからしかたがないだろうが、的確で無駄の無い剣筋からトルバンも踏んでる場数が俺とは比べ物にならない事は分る。命の遣り取りの経験が違うんだろう。しかし、ある意味俺の実力を測るチャンスとも言える。

『ガリュッ!』

もう一度剣を合わせ受ける。大きく弾き、反動を利用して飛び離れる。魔力の展開を止め自分の魔力を制御する。これで相手の魔力を感じられなくなり、自分の魔力を悟られる事も無くなった。つまり、魔力無しで自分の技だけで勝負をする。

「セイ!」

トルバンに向かって突進する。

「!?」

いきなり魔力を感じられなくなったのだろう。トルバンが一瞬だけ戸惑った表情を見せたが、直ぐに表情を戻すと踏み込んできた。

『ガン!』

『ギャンッ!』

『ギャンッ!』

『ギィン!』

お互い足を止め四度打ち合う。魔力を使わず目や筋肉の動きから動きを読みながら攻撃をする。

『ゴッ!』

『ガッ!』

『ガンッ!』

さらに、相手の攻撃を受けながら三度打ち合う。ほぼ、互角と言ったところか? 鍔迫り合いになったところで。

『ブーン!』

左手でもう1本の刀を引き抜きながら大きく振り抜く。大ぶりなだけにトルバンは危なげなく大きく下がる。俺も大きく飛び下がり。身体強化をする。左手で抜いた刀を腰に戻し、残った刀を両手持ちになり構えを取る。

「これでどうだ!」

全速で左に踏み出すと一瞬停止しまた全力で踏み出す。前に練兵場でやった分身だ。ただし、今度はあの時よりも小刻みに停止し、さらに移動の幅も狭くする。トルバンは目を見張ると、若干足を開き少しだけ腰を落とす。俺はトルバンに近付き。動きを一瞬動きを止めながら刀を叩きつけるように振る。

『ギンッ』『ギンッ』『ギャッン! キーン』

ほとんど1つになった音が3度鳴った。俺の攻撃を受けたトルバンの剣が3振り目で折れ飛んだ。動きを止めた俺の刀はトルバンの首に添えられている。

「参った」

トルバンの首に添えらた刀を引き腰に戻す。

「あんたすげえな、今のを受けられるのかよ」

「前に師匠が同じ事をやるのを見てるからな。それに、どんなに動きが早くても俺を狙って剣を振ってくる事だけは確かだ。どこから剣が来るかは。・・・勘だな」

師匠もこれをやるのか。まあ、考える事なんかそうそう違わないって事だよな。それにしても勘で受けるとは。

「剣が保てば、全部受けられちまったかな?」

「あー、無理だな。あんな動きに、あれ以上着いていける訳ねえ。剣が折れちまうって事は受けきれてねえって事でも有るしな。それにしても、負けるのは久しぶりだ。いやー、楽しかったぜ」

そう言って刃が半ばで折れた剣を鞘に戻し右手を出して来た。

「俺の方こそ楽しかった。訓練以外で本気の剣を振るったのは久しぶりだ」

そう言って右手を出し握手した。結局俺もバトルジャンキーって事だな。手を離すとトルバンは後ろを振り返り。

「負けちまったぜ。タケル殿の実力は見ての通りだ。皆手出しは無用だぞ」

「「「はっ!」」」

後ろで控えていた騎士達が声を揃えて返事をする。

「ところでタケル殿。急いで国を出たいんだろうが直ぐそこが領都なんだ。ちょっと寄って行かないか? 田舎だから大したもてなしは出来んが、一晩泊って行かんか?」

「泊るって、まだ昼前だぜ」

「こいつをこのままにして進むってのはどうなんだい? 俺んとこの鍛冶場で何か覆いを付けちゃどうだ?勝負に勝った報酬ってことでよ」

「あー、そいつは有難いな。オリハルコンかアダマンタイトを少しもらえると嬉しいな」

「まかせろ、それ程多くは無いが備蓄もあるからな」

「それから、ちょっと情報が欲しいんだが良いかな? この国の国益を損なうような情報じゃないと思うから知っている範囲で教えて欲しい」

「ああ、かまわんぞ。それに報酬にはまだまだ足りないから、何か考えさせてくれ」

「別にそれ以上の報酬なんか必要ないさ。大体持ち切れない」

「遠慮深いな。だったら、食料の補給くらいしていくと良い」

「それは助かるな」

「さて、それじゃ」

そう言って振り向くと。

「タケル殿が館に寄ってくれるそうだ! 皆引き上げだ!」

「「「はっ!」」」


「で、知りたい情報ってのは何なんだ?」

あの後、1時間ほど歩いて領都に入った俺達は領主館で歓待を受けた。何か裏が有るんじゃないかとも思ったが、トルバンを信用する事にした。業火からアプリコットとノルンが降りてくると、トルバンと騎士達はひどく驚いた様子だったが、もちろん2人にも部屋と食事を用意してくれた。食事は王都のような洗練された物では無いものの、地の食材を使った素朴だが味わいのある物だった。2人も満足げに食事を取っていた。業火の装甲は夕食前に付け終わっている。今は食事が終わって、俺達3人とトルバンは、ソファーに腰掛けくつろいでいるところだ。

「ああ、これなんだけど」

そう言って地図を出し、アリステアの位置を指差す。

「ここに有ったアリステアって町の事を聞きたいんだ」

それを聞いたトルバンは難しい顔をし、顎に手を当てる。

「ここ辺境伯領は国の盾として他国からの侵略や、魔物の侵攻から国を守る勤めを担っている。その為には物理的な戦闘力を増強するだけでは無く。情報も重要だ。とは言っても他国の情報だ、伝わって来た範囲の話になっちまう」

そうだろうな、様々な脅威から国を守るんだ。情報は重要になるだろう。だから、この国から近い国にあったらしいアリステアの様子を聞こうと思ったんだからな。

「あんまり面白い話じゃねえ。と言うよりムカつく話だぞ」

頷く俺達を見てトルバンは話を続ける。

「今から10年以上前になる。その頃にアリステアが有ったボルコ王国の王家は既に滅び、今じゃヤマト帝国と名乗ることとなった訳だが、その原因となった事件が起こったのがアリステアだ。ヤマト帝国は元々ボルコ王国で活動していた傭兵団が国を乗っ取ったんだ。まあ、革命だな。国は乗っ取られても仕方が無いような事をやったんだ。その時は既に国民の心も王家から離れていた」

「革命か、その革命を起こした傭兵団を今は国民が支持している?」

「ああ、そう言う事だ。おかげで国は大きくなり。豊かになった。このまま成長を続ける限り不満を持つヤツは少ないだろう。ヤマト帝国がこちらに向かって来るのを防ぐのが俺の仕事なわけだ。そうそう、思い通りにはさせねえ」

そりゃそうだ、辺境伯の存在意義ってのはそう言うもんだろう。

「あ、話がそれたな。当時、アリステアは国王の弟が納める領地の領都だった。王には王子がいたが体が弱く後継ぎとして不安に思う者も多かったと聞く。そこで、王位を継ぎたい弟は国王に対し隣国に自分が総大将として侵攻軍を組織する事を進言した。まあ、事績を作り次の王位を王子から奪う事を画策した訳だ。そこで、領都騎士団に加え冒険者を徴兵しようとした」

「え? 侵略戦争に冒険者を使うは」

「今は国際法で禁止されているし、冒険者ギルドも防衛戦争以外で軍に編入される事を認めたりしない。しかし、その頃は冒険者ギルドは統合される前だったからな。個々の力は弱く国に対抗できる物では無かったんだ。で、冒険者達はアリステアを見限った。街から出て行ってしまった訳だ。街の住人達にとって不幸だったのはそのタイミングで魔物の大量発生がおこり街が襲われたことだ。かなりの規模だったらしく領都騎士団だけでは対処できないほどだったらしい。王弟は大半の騎士団を護衛に領都を逃げ出した」

「そいつ最低だな」

「ああ、最低だ。そいつが国王の座を狙っていたんだ。お笑い草だな」

「街の住人達はそうも言ってられなかったんだろう?」

「そうだ、情報が伏せられていて事前に街から逃げ出せた者はいなかった。全滅も必至な状況だ。そこに冒険者達が戻って来て防衛戦を行った。なんとか、魔物達を退けたが、街も冒険者達も甚大な被害を受けた。そこに王弟が騎士団を連れて戻ったと言う訳だ。残った街の住人達は自分達を見捨てた王弟を受け入れる事を拒否し街の門を閉ざした」

「そんな事をしたら。戦いになったんじゃ」

「なったよ、反乱だとさ。しかし魔物との戦いで疲弊していた冒険者も住人達もほぼ全滅だ。王弟は国王に街の反乱を自分に都合の良いように報告し、事実を隠ぺいするために街から逃げ出した住民たちにも追手を掛けたんだ。冒険者ギルドの助けで国外に逃げだせた者もそれなりにいたが、多くが殺された」

「それが原因で革命が?」

「ああ、幾ら隠そうとしても、そんな事は無理だ。噂が広まり国民が王家に不信感を抱くようになった。その時だ、傭兵団が中心になって革命が起きたって訳だ。ヤマト王国国王そのまま引き続くヤマト帝国皇帝はその傭兵団の団長だ。その事件は国外にもその事が公表された。冒険者ギルドが統合に向けて動いてはいた。しかし、全く話が進んじゃいなかった。が、その事件をきっかけに一気に統合が進んだって訳だ」

「じゃあ、アリステアは」

「今じゃ当時の住人はそれほど残っちゃいないはずだし、国外に出た住人もその後どうなったのか。元々地の利が良い所だから街は再建された。今はアスカと呼ばれていて、当時よりも発展し盛んに交易も行われているようだ。旧ヤマト王国じゃ王都に次ぐにぎわいを見せている」

「なるほど。ちょっと寄ろうと思ってたんだけどな。どうしようかな」

アリシアはもう・・・。

「しかし、なぜアリステアになど? ノルン殿の知り合いでも居るのか」

あー、俺とアプリコットは異世界から召喚されたと思ってるんだから、ノルン関係だと思うのが当たり前だな。

「亡くなった父の友人がいると聞いた事を思い出したんです。国を出た後頼れないものかと。ヤマト帝国内なので、追手から逃げるのにはちょうど良いかと思ったものですから」

とノルンが言う。上手い! 俺の事情はばらしたくない。トルバンは信用できそうだけど、余計な情報は与えたくない。師匠の弟子だってんなら話も弾むかもしれないが、下手に情報を聞かせると迷惑が掛かるかも知れないからな。

「なるほどな、その知り合いとやらはたぶん当てにはできんだろう。あの国とは、そう遠くない先に戦争になるだろう。ノルンがサースベリア王国で魔術師団に居た事が伝わればどんな扱いを受けるか分らんぞ」

「確かにそうですね。もっと遠くまで逃げたほうが良いようです」

とノルン。

「行き先がどこになろうと、タケル殿とあのゴーレムが居れば大体の問題は力技で解決できるだろう」

「確かにそうですね、タケルさんなら大丈夫ですね」

アプリコットが言う。

「力技でってのが気になるとこだけど。まあ、否定はしない」

まあ、折角近くに居るんだアリステアがどうなってるか確認して行くのは有りだろう。



一泊させてもらったが、罠も何も無く領主館を後にする事ができた。貰った食料は地の物が多く比較的保存もきくようだ。

「アプリコット、見た事が無い食材とかも有ったろ? 大丈夫かい?」

「はい、ちゃんと調理方法も聞いてきましたから」

「いつもみたいに美味いの期待してるぞ」

「アプリコットさんは、お料理が上手ですから」

「頑張りますね!」

嬉しそうにアプリコットが答える。アプリコットは褒められると嬉しそうな反応を返してくれる。この子もいい子だよな。



「さて、そろそろ国境だな」

「そうですね、私達の情報は国境警備に伝わっているでしょうね」

ノルンが言うと。アプリコットが心配そうに。

「じゃあ、どうすればいいんでしょうか」

「俺だけで国境の監視所を越える。国境を越えた事がねえからどんな手続きするのか知らねえんだよな。俺って密入国状態だろ? カードって、入国記録って残ってるのかな?」

「私も国を出た事は無いですから」

「まあ、何か言われたら国境は力ずくで越えちまうさ。途中の国も全部国境を破っちまえばいい。それでも最終的にアースデリアに行けば何とでもなる」

「アースデリア王国のガーゼルの街に行くんですよね?」

とアプリコット。

「ああ、そうだ」

「私とアプリコットさんがアースデリア王国に密入国する事になってしまいますよ」

「大丈夫だ、あそこの偉い人達にはコネがある。知り合いを2人見逃すくらいはしてくれるんじゃねえかな」

「どんなコネが有れば密入国が許されるのですか?」

「え? ガーゼルの領主と国の女王だけど?」

「王族と話した事が有るとは聞いてましたけど。そんな事してくれるような関係なんですか?」

「向こうがどう思ってるかはともかく。ちょっとした貸しってところかな」

「「どう思ってるかは分らないんですね」」

と言う2人に。

「そりゃあな。俺みたいな冒険者が、『貸しにしとくぜ!』なんて言える身分の人達じゃねえもん」

あ、そう言えば領主のザナッシュには言ったかもしれない。

「それは」

「そうですね」

「だろ?」

「さて、そろそろ行くか」

業火から降りた俺は国境に向かって歩きはじめる。


「しかし、あれはひどい!」

「ふふふ、そんなにひどい似顔絵だったんですか?」

「基本的には似てるんだよ。でも、異様に目付きが悪い。目付きだけで印象が全く変わるくらいに悪かった。ありゃあ、王女か宰相の悪意がつまってるに違いない」

ノルンの問いに答える。

「ふふふ、おかげで無事に国境を越えられたんだからいいじゃないですか」

「あたしのはどうでした?」

「ん? なかなかの出来だった。ちゃんと可愛く描けてたぞ」

「えへへ」

「ちなみにノルンの手配書は、5割増しで色っぽい絵だった。どっちも余ってるなら貰いたいところだ」

「どうせ私は、色っぽく有りません。それに国を出てしまったんです。手配書の絵がどうだろうと、もう関係有りません」

「だな」

俺だけちゃんと国境を越えた訳だが、心配するような事も無くカードのチェックだけで済んだ。カードは出入国の管理まではしないようだ。この国の冒険者ギルドに寄りたかったんでちゃんと手続きしようとしたんだが、心配する必要も無かったようだ。



「今日はどのようなご用でしょうか?」

冒険者ギルドの受付のお姉さんに尋ねられる。ノルン達を指しながら。

「この2人の冒険者登録を頼みたい」

お姉さんが何か言おうとしたところで、テーブルの方で俺達を覗っていた冒険者の1人が。

「おいおい、15になるまではD-ランク以上の後見人が要るんだぜ、そんな事も知らねえのか。そっちのお姉ちゃんも纏めてなら俺達のパーティで面倒見てやるぜ。坊主は必要ねえからお家に帰りな」

「「「がっはっはっは」」」

そちらを見ると、同じテーブルに座った男たちが下品に笑う。

「あーそう言うの間に合ってんだ」

俺はお姉さんにカードを出し、アプリコットの頭に手を置き。

「この子の後見人には俺がなる」

カードには名前と年齢、冒険者ランク、それにフェンリルバスター、ドレイクバスターの表示を出しもちろん勇者は出さずに渡した。ドレイクバスターの表示は教会でカードの更新をしたら付いてた。お姉さんはカードを見て驚いた顔をする。

「はい、ではこちらの書類に必要事項を記入してください」

「ほー。坊主は15なのにもうD-ランクなのか大したもんだなー。でも、そんな美人を連れて歩くにはちーっと力不足なんじゃないか? 俺はD+だ。俺達が面倒みるって言ってるのが聞こえなかったのか!」

男は席から立ち上がり俺達に向かって歩いてくる。

「俺は17だし、冒険者ランクはCだ。力不足はあんたの方だな」

「なんだと! どうせ、親にでも寄生して上げたランクなんだろうが! そんなもんで自分が強くなったと勘違いしてるんじゃねえのか」

と言って俺の目の前に立つ。剣に手を当てていないところを見ると、拳で来るのかな? そこで受付のお姉さんが。

「冒険者登録に来た人に絡むなんてやめてください!」

「別に絡んじゃいねえよ。このガキに冒険者って物を教えてやるんだよ!」

そう言って拳を繰り出して来た。

『ドガッ!』

俺は男の腕を取り背負い投げを決めた。

「 グァッ!」

強く背中を打ち倒れ込んだ男は声を上げた。俺は立ち上がり、お姉さんに。

「今の正当防衛だよな? それとも、弱すぎるヤツを投げ飛ばしたら過剰防衛か?」

「「「てめえ!」」」

男の仲間が椅子から立ち上がり、剣を抜こうとした。

「やめてください! ギルド内で人を殺さないでください」

お姉さんはカウンターを飛び越え俺の腕にすがりつくと。訝しげな顔をしている男達に向かって。

「そこの人を連れて出て行ってください! この人には絶対に敵いません!」

「何を言うんだ。やられるのはそのガキだ」

「個人情報なので、訳は言えませんが、このタケルさんの戦闘力はCランクを遥かに超えているんです!」

お姉さんが何を言っているのか理解できず、首を傾げる男達。不要なトラブルを避けるためだし、この街に長居するつもりはないから別にいいか。男達にカードを示しながら。

「フェンリルバスターとドレイクバスターのタケルだ」

「馬鹿を言うな! バスターってのは1人でAクラスの魔物を・・・。狩ったのか? おま、あなたが?」

男達の1人が近づいて俺のカードを覗き込んで言った。俺が頷くと。

「失礼しました! おい行くぞ!」

そう言って苦しむ男を連れてギルドから出て行った。お姉さんは握っていた腕を離すと。

「失礼しました。手続きしちゃいましょう」

そう言ってカウンターの中に戻り手続きを始める。

「あら、お二人とも魔術師なんですね」

「あ、あたしは修行中で初級魔術しか使えないんですけど。かまいませんか?」

「ええ、初級魔術でも立派に魔術師ですよ」

それを聞いた俺はどんな顔をしているんだろう? ノルンを見ると何とも言えない複雑な顔をしている。まあ、俺もあんな顔をしているんだろう。アプリコットはファイヤーボールで巨木を燃やしつくした後はウォーターボールの練習をしている。学校のプールとまではいかないが、ちょっとした公園に有るような池が1度であふれるほどの水を出していた。徐々に制御できるようになってはいるが、あれを初級魔術と言って良いんだろうか? 魔力量も常人を遥かに上回るしな。などと考えているうちに手続きは終わったようだ。

「はい、これで手続きは終了です。これから頑張ってくださいね。でも、無理はいけませんよ」

続いて冒険者ギルドの規則なんかの説明が始まった。


「ではこれで説明は終わりです」

「「ありがとうございました」」

2人揃って頭を下げる。

「では、他にご用は有りませんか?」

そう言われて、俺が。

「他の国の冒険者と連絡が取りたいんだが」

「はい、定期便のご利用ですね」

「定期便?」

「お預かりした手紙を王都の本部に集めそこから国の本部伝いに手紙を届けるサービスです。週に1度隣の国の本部に向けて定期便が出ています」

「直接連絡を取り合う方法って無いのかい?」

「普通の冒険者では使えませんが、国の本部とのホットラインが有ります。でも、国内の本部と各支部を直接つないでいるだけで、本部間の連絡はできません。技術的には可能なのですが、そんな事が出来ると国に知れたら警戒されてしまいますものね。できたとしても、国を越えて連絡が必要な緊急事態。それこそ、ドラゴンが大挙して国を襲うような国際的な災害クラスの事件でもおきなければ使えないでしょうね」

あー、やっぱり無理か。手紙じゃおそらく俺達が帰る方が早い。何かいい方法は・・・。

「あれ? パーティや冒険者個人の預金ってギルドを跨いでも情報って共有されてるよね? それって預金だけ?」

「はい、預金だけです。その他の情報の遣り取りはできません」

そうかー、まあ、気が付くかどうかは賭けだが。

「じゃあ、パーティ名ファミーユの口座に預金したい」

この間宝石店で稼いだ金の半分ほどを差し出した。預金の確認を定期的にしていれば、俺が無事な事ぐらいは気が付くだろう。また、途中のギルドで入金すればいい。

「はい、お預かりいたします。カードをお貸しください」

手続きを終えた俺達は、さっきの冒険者とのトラブルを避ける意味も有り街を後にした。



「さーて、もう直ぐアスカの街だな」

「今日中には付きますか?」

「そうだな・・・。ヤマト帝国に入って3日だろ? 地図の通りならもう直ぐ何だけどな。この地図って街の間の距離ってあんまり正確じゃないよな。小さな村とか載って無いし。まあ、街道と方角が合ってるみたいだから贅沢は言えないけど」

「タケルさんはそう言いますけど、そこまで正確な地図なんて国家機密級ですよ。さすが、ホーラン商会が使っている地図ですね」

「あれ? ノルンはホーラン商会知ってるのか?」

「ホグラン国に本店が有る商会ですよね? 大陸で1、2を争う大きな商会ですよ」

「帰る途中で寄るか。錬金術で金を稼がないとな」

「タケルさんは錬金術も使えるのですか!?」

驚くノルンにアプリコットが。

「タケルさんの言う錬金術って、アクセサリーを作って売る事なんですよ。10万イェンで買った金と宝石であっという間に作ったアクセサリー1組が80万イェンで売れちゃったんです」

「まあ! それじゃあ本当の錬金術師以上ね。タケルさんがどんなアクセサリーを作るのかしら今度見せてくださいね」

女の人はやっぱりアクセサリーに興味が有るんだな。

「業火の装甲から金を削り取って18金を作れば良いんだからな。簡単だ・・・? うん、簡単だな。売りさばくルートさえ確保できれば、資金の心配無くロボの開発が出来るな。雑貨屋の仕事からどんどん離れて行く気がするが、元々ロボを運用するための隠れ蓑なんだし問題ないな」

そんな事を考えていると。アプリコットが。

「あれはなんでしょう? 家が動いています。煙突が横を向いていますね。この世界にはあんな変わった家が有るんですね」

「はあ? 動く家なんて聞いた事ねえぞ。何番カメラの映像だ?」

と言って、アプリコットの表面モニターを覗き込んだ。

「え?」

そこには、有り得ない物が映っていた。モニターを切り替えたノルンも。

「初めて見る形ですが馬車じゃないですか? 馬が引いている様子は無いですけど。アプリコットさん、この世界の家もあんな風に動いたりしませんよ」

モニターにはこの世界じゃ有り得ない物が映っていた。

「あれ? おかしな物が見える。幻覚かな? 俺、変な物でも食ったか?」

「お昼は私が作ったパスタでしたね」

「え?!」

俺の頬を冷や汗が流れたような気(気のせい)がした。ノルンの方を向く事が出来ない。

「美味しいって言ってくれましたよね」

「はい」

ノルンが普通に訪ねてくる。穏かな声だ。今度は顔中から冷や汗が流れたような気(気のせい?)がした。

「お代わりしてくれましたよね」

「はい!」

「私に気を使ってくれたんですね。もう仲間だと思っていたのに。気を使われるなんて・・・悲しいですね」

ノルンが本当に悲しそうな声で言う。全身から冷や汗が流れている。気のせいじゃない。

「ノルンさん、タケルさんをいじめるのはその辺にしては? それよりあの家は何なんですか? タケルさんは知っているみたいですけど」

「そうですね、タケルさん御免なさい」

2人とも笑顔で言う。この旅の中でノルンもアプリコットの態度も大分砕けてきたみたいだな。まあ、良い事だろう。2人とも遠慮があったみたいだったしな。

「2人とも、あれは家じゃねえよ」

「え? 違うんですか?」

「やっぱりタケルさんは知ってるのですか?」

「あれは戦車だ。しかも多砲塔戦車だぞ」

そう、モニターに映る映像は多砲塔戦車としか言いようの無い物だ。俺達と距離を置いて並走している。キャタピラで走行し台車の上には中央やや前方の一番高い所に主砲塔が、それを挟むように前後に1個づつ副砲塔なのだろう主砲塔より小ぶりな砲塔が配置されている。さらに主砲塔の下には2連装の機銃砲塔が1つ付いている。主砲塔の形はタイガー1型、副砲塔は短砲身の4号戦車に見える。あまり戦車には詳しくないので、3号戦車と4号戦車の砲塔の区別なんかつかないけどな。それに機銃砲塔の形にも見覚えが有る。車体には所属を示すマークも書き込みも見えない。所属を明確にしていない? ヤマト帝国の戦車だろうに。サースベリアではあんな物の話は聞いた事が無かった。トルバンもそんな事は言っていなかった。つまり、実戦で使われた事は無い? 秘密兵器のテスト中だったりしてな。俺達は、目立たないように距離を稼ぐために街道を大きく離れて移動しているからなー。ちょいと面倒な事になるかもな。

「タホートーセンシャですか?」

「それは何をする物なんですか?」

ノルンもアプリコットも分らないようだ。こっちの世界の兵器じゃねえから当り前だな。そして、アプリコットの居た世界にも無かったようだ。

「兵器だ。しかも、使い物にならないとして、ほとんど実用化されなかったやつだ。でも、ロマンだけは、満載された兵器だな」

間違いなく来訪者だな。しかし、選りによって多砲塔戦車とはな。大きく重くなるためエンジンのパワーが足りなくなるから装甲を厚くできず速度も遅い。搭乗者が多くなるから指揮が難しい。材料も費用もかかるから、単砲塔の戦車を作る方が効率が良いし、対歩兵戦用の戦車だから、戦車が対戦車戦の兵器となってしまった2次大戦の時には直ぐに時代遅れの兵器になっちまって、大した戦果は上げていない。・・・だったか?

「「ロマンだけ。ですか?」」

「ああ、男のロマンだな。だけど、相手が戦車を持っていない国の騎士や兵士、魔術師を相手にするこの世界でなら十分な脅威だ。砲の射程は攻撃魔術よりも長いだろうから魔術のアウトレンジから攻撃し放題だな。とりあえず、フィーア速度を落としてくれ。ゴーレムが徒歩の冒険者と同行している程度まで頼む」

「はい、店長」

ゴーレムに人が乗り込んでいるなんて事はばれないほうが良いからな。ヤマト帝国。あいつらが周りの国を取り込んで大きくなっていく道を選んでいるなら、いずれやり合うことも有るだろう。業火のと言うか、俺のゴーレムの実力は伏せておきたい。

「あ、こっちに向かって来ますよ」

アプリコットの声に。

「フィーア、ヤツの映像をメインモニターにまわしてズームだ」

「はい、店長」

メインモニターにはこちらに向けて方向転換し進んでくる戦車がアップで映った。周りに対比物が無いから良く分からないが、主砲塔がタイガー1型と同じサイズだとしたらかなり大きな戦車だよな? あ、キャタピラが2重になってるな。重いせいか?

「フィーア。あれのサイズ分るか?」

「おおよそ全長15m、全幅6.5m、全高5.5mです。ちなみに距離は740mです」

ありゃ。もう射程距離に入ってるか? しかし、本当に大きい。現代戦車の1.5倍くらいあるんじゃないか? すると、質量は3倍くらい有るのか? そんな物動かす為のエンジンに興味はあるが、いずれ自分で作ればいい。ヒントは掴んでるしな。

「このままの速度を維持。念の為に左腕の対物理障壁は展開しておいてくれ」

「はい、対物理障壁展開します」

業火が完成しちまえば、戦車砲くらいなんて事無いだろうが。今の装甲は金の上に薄くオリハルコンを貼りつけただけだからな。衝撃が金に届き歪みが出て関節にでも咬みこむと面倒だ。

『チカ!』

戦車の主砲が光ったと思うと、黒煙が上がった。

『ドーン!』

業火の大分後ろを通過し見当違いの場所に着弾し、爆発した。方向が全く合っていない。

「固定目標にしか売った事がねえのか?」

「タケルさん今のは何ですか?! エクスプロージョンにしては射程距離が長いですし、速度も凄いです、目で追えないほど早いです!」

ノエルは魔術師だからな。今の砲撃をエクスプロージョンだと思った訳か。

「フィーア、速度を5kmから15kmの間でランダムに変更しながらこのまま真っ直ぐ進め」

「はい、店長」

「ノエル、あれは魔術じゃ無いんだ。大砲と言って、火薬を使って爆発する砲弾を飛ばしてるんだ」

「大砲? 爆発する砲弾? ・・・ですか?」

「聞いた事無いのか? まあ、俺もこっちじゃ見た事ねえけどな」

「店長次弾来ます」

フィーアの声に続いて。

『ドーン!』

今度も大きく外れた。さて、どうしたもんかな。戦車相手に砲撃戦じゃ無粋だよな。やっぱり、対戦車戦だと現状では接近戦しかないか。光線兵器でも有れば砲身を飴細工のように熔かしてやりたいところだけど、そんな物は装備してないし。手の内はあまり見せたくない。来訪者に知られるとこっちのアドバンテージが無くなる。いずれやり合う事になるかも知れねえからな。

「フィーアはこのまま進んでくれ、当たるんじゃないぞ」

「はい」

「あの、フィーアはって、タケルさんはどうするんですか?」

「あいつらを止めてくる」

そう言ってハーネスを外しメインモニターを格納し、開けたハッチを潜る。

「タケルさん止めるって、どうやって止めるんですか? あんなに大きくて、あんなすごい攻撃をしてくるんですよ」

訪ねてくるアプリコットに。

「平気だよ、見た所あいつは対人戦闘用のようだしな」

「だったら、危険じゃないですか!」

「ああ、言い間違えた。普通の人間を相手にする兵器だ。俺みたいに強い人間を相手にするのは想定外なんだよ」

「じゃあ問題ないですね」

「そうですね、タケルさんなら平気なんでしょうね」

冗談のつもりだったんだが、納得されてしまった。

「今のは突っ込んで欲しい処なんだけど。まあいいか、じゃあ行ってくる!」

そう言ってコクピットを飛び出した。

「「「行ってらっしゃい」」」

3人の声を聞きながら業火を見送る。ゴーレムは全て人間が作り、ウチのゴーレムのように術者無しで行動が出来る物は少ない。つまり、あいつらはこちらに人間がいる事を承知であんな攻撃を仕掛けて来たってことだ。殺る気満々ってことだな。

「自分がやった事には責任を取ってもらわねえとな」

インカムを作動させて。

「フィーア、ゴーレムランチャー作動。あいつの手前200mに3体出してくれ。とりあえず、連携は取らなくて良いから殴りかかってくれ。あいつの速度に着いていけるサイズで頼む」

『はい、店長』

返事を聞いてた俺は、戦車に向かって歩き出す。戦車までの距離は400m程だ。俺を飛び越えて、ゴーレム核が打ち出されていく。着地した核を中心にストーンゴーレムが3体立ち上がる。戦車に向かってゆっくり歩き出す。ヤツは進路を変えると停車し3つある砲塔を全てゴーレムに向ける。

「まるで、戦艦みてえだな。サイズから言っても陸上戦艦ってところか」

ゴーレムを回り込んで戦車の後ろから近付く為に走りだす。

『ドーン!』

『ドーーン!』

『ドーーン!』

3門の砲塔が次々に発砲する。主砲くらいは自動糾弾なんだろうか?  主砲弾は外れた、副砲弾は2発ともゴーレムに命中する。製作者が4号戦車を参考にしたなら短砲身の75mm砲か。削れはするがゴーレムを破壊できる程の威力は無い。結構短い間隔を置いて主砲が火を噴く。中央のゴーレムの左腕を肩から吹き飛ばす。

「おー、さすが88mm。でも、ザーンネン」

腕を捥がれたゴーレムはすかさずそれを再生させる。材料である土や石は足元に無限にあるし、Cクラスの魔結晶を使ったゴーレム核の魔力はこの程度で枯渇したりはしない。俺は接近しつつドラグーンっを1つ抜き、アーススピアに合わせ150mの所で引き金を引く。副砲塔の側面に命中する。命中したが、崩れてしまう。普通は砕けるんだけど、崩れるように壊れるところを見ると。

「対魔術障壁か・・・。対物理障壁も付いてるのか?」

ドラグーンをホルスターに戻し、今度は刀を抜く。さらに、銀貨を取り出しエクスプロージョンを刻む。戦車は既に目の前だ。エンジンルームと思われるハッチのスリットから銀貨を放りこむ。中までは対魔術障壁は無いだろう。

『ドーーーン』

後部のハッチが吹き飛んだ。よし! エクスプロージョンが発動したって事は中は魔術障壁が無いって事だな。と思った時、戦車がダッシュするように前進した。ゴーレムとの距離が100mを切ったところで距離を取るために移動したらしい。後部にエンジンが入ってるんじゃないのか? 離れながらも主砲、副砲を撃っている。

「チッ!」

舌打ちして走る速度を上げる。あの戦車大きな車体の割には早い。と言っても30kmを少し超える位だろうか? 当然ながら、俺が走る速度の方が早い。刀を両手で構え、2つの魔石に魔力を流しながらキャタピラに切りつける。

『キーーン!』

澄んだ音を立てて右側のキャタピラが2本とも切れた。戦車はゆっくりと、右に進路を変更しながら進む。

「やっぱり、対物理障壁も貼ってやがったか」

振動剣と峰打ちを使った、にもかかわらず、キャタピラが切れたと言う事は、対物理障壁同士が干渉して消滅したって事だ。対物理、対魔術両方の障壁を張れるって事か。意外と装甲は薄いのかな? 

「だから、あの巨体が実現したのか? お、止まった」

ゴーレムに側面を向けた状態で停車した戦車は砲塔をゴーレムに向けた。戦車に追いついた俺は一気に主砲塔の上に駆け上がった。砲塔上にはリモコン式の機銃は無いようだ。さて、主砲をどうにかしようか?  『ドーン!』

近くで見ると凄い煙が出ている。火薬の威力が弱いのかも知れない。さーて、次弾が発射される前に。

「ヤー!」

『キーーン!』

『ガゴン!』

身体強化を使い刀を振り主砲を短く切ってみた。よしよし、切れるじゃないか。

『ドーーーーン!』

さっきまでと音が変わったな。88mm方は今度もゴーレムに命中したが、短くなった砲身から撃たれた砲弾は大した速度を得られなかったのだろうゴーレムを破壊出来なかった。屈みこんで刀の柄で主砲塔のハッチを3度殴りつける。するとハッチが開き、乗員が上半身を出し右手のピストルを俺に向ける。この至近距離で発射された銃弾はかわせねえな。至近距離なので、左手を伸ばし銃を掴みスライドを下げる。

「バカ者、そんな事で防げるものか」

と言いながらトリガーを引いた。

「え?」

弾が出ない事に驚く男を刀を握ったままの右手で殴りつける。

「ぐあ!」

と声を上げ砲塔内に落ちて行く。オートマチックはスライド部分を少しだけ後ろに下げただけで弾は撃てなくなるんだよな。やっぱり至近距離では刃物だ。そう思いながら左手に残った銃を見る。

「P38か、戦車と言いドイツ軍好きなのか?」

そして、P38を持ちかえ、開いたままのハッチから中を覗き込み。

「やっぱり糾弾装置は自動なんだな」

今、落ちて行った男とそれを覗きこんだ砲手そして背中を見せてるのは、通信士か? 

「おい!」

大きな声で呼びかけると3人がハッチの方を向いた。

『パンパンパン』

トリガーを3度引く。3人の額に1つづつ穴が空く。この距離なら外しはしない。P38をベルトに差し込んで、ポケットから銀貨を2枚取り出す。薄く伸ばして、エクスプロージョンを刻み魔力を目いっぱい込める。中に放りこんでハッチを閉め戦車の右側に飛び降りる。側面に付いている機銃砲塔を刀で切りつけ機銃ごと前半分を切り落とす。機銃座に着いた砲手が唖然とした顔で俺を見る。ベルトから抜いたP38で。

『パン』

額に穴を開けた死体が1体増えた。

『ドーン!』

エクスプロージョンが発動する。斬り落とした砲塔から炎が噴き上がる。

「うわー!」

「ぎゃー!」

「うおー!」

叫び声を上げて、2か所の副砲と操縦席? のハッチから3人が上半身を出した。

『パン、パン、パン』

3人を倒した俺は、戦車を回り込み機銃砲塔に登りP38をかまえながらハッチを開けた。

「あー、こりゃ死んでるな」

エクスプロージョンの衝撃でどこかにぶつけたようで、砲手の首はおかしな方向に曲がっていた。

「これで、8人か」

最低限必要だと思っていた人数は確認した。後何人車内に残ってるかな? 生きてるかな? P38の残弾を確認するマガジンは空だ。チャンバーの中の1発が残りだ。刀を腰に戻し、チーフを抜く。こっち方がドラグーンよりも狭い車内で使うには向いているだろう。


乗務員は8人だった。3体のゴーレムを連れて業火の所に戻った俺を業火から降りた2人が待っていた。

「「おかえりなさい」」

「ただいま。止めて来たぞ」

「御苦労さまでした」

とノエル。

「どうやったんですか?」

とアプリコット。

「ん? 乗務員が居なくなれば動かないよ」

「そうですか。先に攻撃して来たのは向こうですしね。やっぱりヤマト帝国の兵器なのでしょうか?」

「間違いないだろうな。車体になんの書き込みも無い所を見ると、秘密兵器の試験でもしてたのかもな。そいつを見た俺達を殺そうとしたってところかな」

「だったら、仕方が有りませんね」

「えーと、何が仕方無いんですか?」

「普通のゴーレムってのはな、全てゴーレムに指示を出す人間が側に居なきゃ動かないんだ。あいつらはその事を知っていながら、あんな攻撃をしてきたって事さ。殺す気満々だろ?」

「人を殺すと言う事は。殺されても仕方が無いと言う事ですよ、アプリコットさん」

「あ・・・」

そう言ったあとアプリコットは黙ってしまった。その後移動して野営するまでアプリコットは一言も話さ無かった。



翌日俺が起きると、2人は既に起き出して朝食を作っていた。

「おはよう」

2人に挨拶すると。

「「おはようございます」」

2人は声を揃えて挨拶を返してくれた。さらにアプリコットは。

「タケルさん、昨日はゴメンなさい。ちょっとショックが大きくて・・・」

「気にするな。知り合いが人を殺して来たなんて聞けばショックを受けて当然だ」

「あたしの世界でも人を襲った盗賊が返り討ちにあって殺させるなんて事は当り前に有った事だった筈なのに。あたしは2人で森の中で暮らしていたせいで、その事を忘れていました。タケルさんに失礼な事をしちゃいました。本当にゴメンなさい」

と言ってアプリコットは頭を下げる。

「当たり前の反応さ、気にするな。ただ、これからもああいった事は有ると思う。でも、アプリコットには人殺しを強要するつもりは無いから安心してくれ。妹にもそんな事はさせたくないって思ってるんだ」

「はい、でも必要な時には必要な事が出来るようになります。すぐにとはいかないかもしれませんけど」

「ああ、それでいい。さて、巧そうな匂いだな。腹がペコペコだ」

「今朝は私が用意したんですよ」

「おー、ノエルさんが? 楽しみだなー」


朝食後出発した俺達は、その日の昼ごろにアスカの街に着いた。

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