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ここにもバトルジャンキーが

「フィーア、アプリコットの事なんで黙ってたんだよ」

「え? サプライズ・・・的な感じでしょうか?」

「そんなものいらねえよ」

「 いつかまた会おうぜ! でしたっけ? うふふふ」

「うっせ」

アプリコットを見つけた後、慌てて2人を地面に下ろし。ノルンにアプリコットを任せた。アプリコットをいたわりながらノルンは俺から見えないところに歩いて行った。待っている間にフィーアと話している。

「店長が呼ばれてすぐに、コヨミさんとアプリコットちゃんが2人でやって来たんですよ。アプリコットちゃんを店長に連れて行ってもらいたいって。コヨミさんは残るって言ってました。スバルさんを1人にする訳にはいかないって」

スバルのリア充め!

「別に羨ましくなんか・・・有る」

「店長だって両手に花じゃないですか」

まあ確かに、アプリコットは可愛い。髪は茶色で1本の三つ編みにし背中に垂らしている瞳の色は青。少しやせ過ぎていた顔や体も少しだけ肉が付いてきた感じだ。ノルンだって改めて見たらすげえ美人だ。薄い色の金髪に瞳は緑色。ローブを着てるから体型はよく分からないが、抱き上げた感じでは脱いだらスゴイんです的な予感がする。

「そう言えば、ノルンのローブって背中がザックリいってるんだよな。んーあの格好の女性を抱き上げてたのか・・・。勿体ない事したな。もっとよく味わっとくんだった」

「すみません。何か羽織るものは無いでしょうか?」

振り向くと。顔を真っ赤にしたノルンと、幾分ましになったが、青白い顔をしたアプリコットが並んで立っている。あー、今の聞こえてたよな。

「店長の服が左のトランクに入っています。サイズは合わないでしょうが、その格好よりはマシでしょうから」

それを聞き、トランクからシャツとズボンそれにセーターを出してやる。ノルンは服を着替える為に業火の後ろに回り込んだ。んー、色々とサイズが合わないだろうが背中がむき出しのローブを着せておく訳にもいかないしな。色々危険だ。主に俺の理性が持つかどうかが問題だ。

「何処かで服を買わねえとな。お尋ね者になっちまったが、小さな町に入るなら平気だろ」

「小さな町こそ見慣れない人間が目立つんじゃないですか。危険な事はしないでください」

着替え終わったノルンが戻って来た。

「例え見つかっても町の守備兵くらいなら、蹴散らすのは簡単だってこ・・・と・・・さ」

思わず思考が途切れてしまった。・・・・・・服は直ぐに買わないと不味い。着丈は長くお尻を隠す程長いし、袖丈も折り返さなければいけない。ここまではいい、しかし、反対に胸は・・・・・・とにかく凄い。セーターが張り裂けそうだ下のシャツは絶対に胸のボタンが留っていないに違いない。つまり、着替えてきても危険性はさほど変わらなかった。いや増加したという訳だ。俺は内心の動揺を隠すように。

「さーて、野営の準備をしよう」

「はい、店長。コンテナに無理やり押し込みましたので、下ろしてください。食べ物はトランクですからあたしが下ろします」

そう言って、フィーアが業火から降りてきた。テントや毛布を下ろし設営する。

「アプリコット、具合はどうだい? 食事できるか?」

「はい、もう平気です」

地面に浅い穴を掘り焚火をする。湯を沸かし、固形スープと干し肉に硬いパンの食事だ。ケイオスがけっこう届けさせてくれたが、3人で食べるんじゃ早々に補充しなきゃならない。モデリングで作った食器に盛り付け食べ始めた。んー味は今一だが、腹が膨れるなら文句は言えない。この前シュバルリに行った時もこんなもんだったしな。

「俺は料理なんか出来ねえけど、2人はどうなんだ? 食料はそこそこあるけど3人じゃそれほど保たないから補充しなきゃならないんだけど。毎回これじゃ味気ないだろ? 料理を作れれば保存食以外の食料も買えるからな」

「すみません。家事全般やった事が有りません」

縮こまりながらノルンが言う。宮廷魔術師長の娘で、自分でも魔術師団の団員なのだ。家事をやる必要も覚える必要も無かったのかもしれない。

「料理は作れます。その為に買われたので」

アプリコットが沈んだ表情で言う。やべ、ノルンにだけ聞けばよかった。えーと。

「よーし! 今からアプリコットはファミーユの料理長だ!」

「「ファミーユ?」」

2人の声が揃う。

「ああ、ファミーユってのは俺達のパーティの名前だ。家族って意味だ」

「家族」

とノルン。

「・・・・家族・・・家族!」

アプリコットは、最初つぶやくように。そして嬉しそうに繰り返した。

「俺は家族を全員無くしていてね。妹がいるって言ってたけど血はつながっちゃいない。妹も身寄りが無くて、12歳になってギルドの登録をする時に後見人になったついでに兄妹になったんだ。で、付けたパーティ名がファミーユだ。アプリコットも俺達のパーティに入らないか? 魔術師は随時募集中でさ。ノルンさんにも声をかけたんだ。残りのメンバーに確認しなきゃならないけど、2人ともダメとは言われないさ」

「ハイ! よろしくお願いします」

アプリコットは飛び上がるように立ち上がり頭を下げながら言う。

「改めて、よろしくお願いします。アプリコット様もよろしくお願いしますね」

「はい! ノルンさん、あたしこそよろしくお願いします! あたしの事は様付けは止めてください」

「・・・はい、アプリコットさん」

ノルンとアプリコットはニッコリと笑い合った。少しは元気になったかな?

「俺の事も様付けしなくて良いぞ」

「はい、タケルさん」

うん。美人の笑顔は破壊力抜群だ。


明日は日の出と共に出発する事にすると言って、晩飯の後は2人とも早めに休ませた。

「よし、フィーア2人分の座席を作っちまうぞ。このままじゃほとんど進めないうちにまた休憩しなきゃならねえ」

「はい。でもコンテナはいっぱいですよ? フィーアちゃんを乗せるのにぜーんぶ詰め込んじゃいましたから」

「いや、今からコンテナを大きくする。フィーアはトランクの荷物を全部下ろしくてれ」

荷物を下ろすのをフィーアに任せ俺はモデリングでコンテナを大きくし積載量を増やすと。業火の改造に必要な物を取り出していく。


「まずは、仕切りを切り取ってーっと。ちょっと高さが足りねえけど、我慢してもらうしかねえな」

コクピットの両隣りにはトランクスペースを確保していたのが良かった。ここを潰せば2人を乗せるくらいは何とかなる。ただし、アプリコットが乗り物酔いしやすいとなれば椅子を付けるだけって訳にはいかないよな。なんとかしなきゃ。オリハルコンに鋼と街道沿いの林から倒木を拾って来てスプリングにダンパーにシートを作っていく。


「よしよし、これで外が見えるな。目の前が金属の板じゃ気が滅入るだろうからな」

残っていた透明なアダマンタイトと銀貨で鏡を作りミスリルで接続して4つのモニターを作り、正面と横にセットした。正面のモニターは手元の操作で任意にカメラを切り替えられる。

「臨時に付けた補助的な物なのに無駄にハイスペックにしてしまった。フィーア、補助席のモニター点けてくれ」

「はい、店長」

フィーアの返事と共にモニターが外の景色を写し出す。朝日が登ったばかりだ。

「あー。夜が開けちまった」

こう言った作業を始めるとつい時間を忘れてしまう。

「わー、キラキラしてますー」

「黄金のゴーレムですか・・・」

2人が起きたようだ。コックピットから這い出し。

「おはよう。よく眠れたか?」

「「おはようございます」」

うん、2にんとも元気だ。

「タケルさん。業火が金色に変わってますよ」

アプリコットが言う。

「コレって金ですよね? どうしたんですか?」

ノルンの疑問は最もだな。昨夜は暗くて分からなかったんだろう。

「宰相がケチって、オリハルコンをよこさないって言うもんだから。自分で買う資金にしようと思って近間に有った金塊を戴いた。俺達の召喚された部屋の隣が偶々城の宝物庫だったみたいでな。15tほどもらって来た。持ち切れないんでな。装甲替りに付けたんだ。宝物庫に100tくらい有るから15tくらいならばれないかと思ったんだけどさ。上げ底になっててさ、実際には5tしか残らなかったんだよなー。国家予算じゃなくて、王家の宝物庫だから全く良心は傷まないな」

ひょっとしたら、誰かが横領してたのか。それとも、何代か前の王族が使い込んじまったのかもな。どちらにしろバレちゃまずい奴が上げ底にして隠してたんだろうな。他に高そうな剣やら何やら結構有ったからあそこが王家の宝物庫だった事は間違いないだろう。

「上から木の装甲で隠してたんだけど、昨日逃げる時に見せびらかした。悔しがらせてみようと思ったんだ」

「それって、泥棒じゃないですか」

「それは違う。こいつは慰謝料だ。現金化したらアプリコットにもやるよ。それとも金塊のままの方が良いか?」

「要りません!」

「えー、欲がないな。まあ、気が変わったら言ってくれ。次のロボを作るために使っちまう前に言ってくれると有難いな」

「全部使うつもりなんですか?」

ノルンが驚いたように言う。

「当然だ。これからも色々と作りたいからな。資金面の心配をしなくて良くなったのは嬉しいな」

「何と言ったらよいやら」

ノルンが今度は呆れたように言う。

「店長はこういう人です。これから長いお付き合いになるのですから。早目に慣れた方が良いですよ」

「こういう人って、何だよ」

「こういう人ですか。慣れるようにします。・・・はあー」

「ノルンさん。何ため息ついてんだよ」

「諦めるほうが良いのではないでしょうか?」

「アプリコットもひどいな」

そう言った後に。

「それはそうと、業火の改修は終わったぞ。昨日よりはマシな乗り心地になったはずだ。朝飯を食ったら出発だ」

俺はコックピットから飛び降りて。振り返り業火を見る。

「ちょっと、目立つかな?」

「「チョットじゃありません!」」

「何だよ2人とも。フィーア、装甲の上に動きに邪魔にならないように土を被せてくれ。そうすりゃロックゴーレムに見えるだろ」

元々、ゴーレムの記述式は同じだから、核を中心に素材を集めるのも、出来合の物を使う事も自由に選べる。今回は出来合の体を集めた素材で包み込むだけだ。俺たちの見ている前で、業火は土をまとい始めた。

「ロックゴーレムに見えるように覆えよ」

と言う。すると、手足が太目になっていく。関節部分は元のままだが大分ゴーレムらしくなったな。


「乗り心地はどうだい? ハーネスはきつく無いか?」

「はい、大丈夫です。これなら気持ち悪くならないと思います」

右のアプリコットは笑顔で答える。

「私も大丈夫です。でも、凄いですね、一晩でこんな風にしてしまうなんて。サイズもピッタリです」

左を見ると。ノルンも笑顔だ。しかし、ハーネスが食い込む胸がやばいことになっている。ガン見しないように、強靭な意思の力を振り絞って正面を見る。

「乗り物酔いしたら、かえって余計な時間がかかるから、調子が悪くなりそうだったら、休憩を取るから遠慮なく言ってくれよ」

「「はい」」



「さて、町に寄っても平気かな? 手配書とか回ってるかな?」

地図に有る町を指差しながら尋ねる。

「王都からも大分離れましたし。どうでしょうか? 手配書を早馬で送るにしても大来な町や領都になるでしょうから。そこなら平気なのではないでしょうか」

「じゃあ、ちゃんとした食事ができますね」

「逃亡生活なのですから食べられるだけ良いのかも知れませんが」

「そうだよな。さすがに保存食にも飽きてきたからな」

そろそろ保存食以外の食事が恋しくなってきたのは俺だけじゃ無いようだ。


操縦をフィーアにまかせ、地図を見ている。色々書き込みや訂正が入っている。町の名前が変わってるところも有るな。いや、国の名前すら変わっている。ヤマト帝国やヤマト帝国に取り込まれた国なんかがそうだ。

「ヤマト帝国か。ここって通れるのかな? 通れないとなると、結構遠回りになるけどな」

「通行を制限しているなんて事は無いですよ。戦時中と言う訳で無ければですが」

「だって、サースベリアから行くんだぞ。敵対とはいかなくても仲は良くねえだろ?」

「サースベリア王国とヤマト帝国は直接接していませんからね。小さな国ですが、そこを経由しますし。普通に民間レベルでの行き来は有りますよ」

「それもそうか。次の国で冒険者登録すりゃあいいか」

「そうですね」

「戦争で併合したりしてるんだから当り前と言えばそうなんだけど、ヤマト帝国の当たりは結構名前が変わってる・・・な?」

訂正のために二本線で消された町の中に見覚えのある名前を見つけた。アリステア・・・。こんな所に有ったのか。

「名前が変わってるって事は」

「何かあったんじゃありませんか? 戦争で隣の国に編入されて、名前が変わったとか」

なるほど。アリシア元気にしてるかな? もう結婚とかしてるかもな。俺はあの時から歳を取っていない。気付かれないだろうから店を覗いてみるかな。

業火は歩いているが、人間の7倍の身長だ。速度もそれなりに出ている。大体普通の人間が走るくらいじゃないだろうか。しかも、乗っている人間が耐えられるならば24時間進む事が出来る。まあ、乗っている俺達がまいっちまうからさすがにそんな事はしない。適当に休憩をはさみながら、夜もテントで寝てる。これから長い旅が続く事になるんだから、体調を崩さないような旅をするのが大事だ。だが王都を出てもう3日になる。できる限り街道から外れ町を避けて進んでいるが、業火にとっては道が有ろうが無かろうがそれ程関係無い。

「よし、町に着いたら明日は1日休養と買い物をしようか」

「いいんですか? 先を急ぐ旅では?」

「先は急ぐけど業火は移動用の乗り物じゃ無い。俺達がまいっちまったら進む事もできないからな」


「そんな、大きなゴーレムを町に入れる訳にはいかないぞ」

「もちろんだ。でも、門の横に置いておくのはかまわないだろ?」

「ああ、そうしてくれ。まさか、暴れたりしないだろうな?」

「術師の命令無しにそんな事できるゴーレムなんかいねえだろ」

「違いない」

うそでーす。ここにいまーす。

「よし、通っていいぞ。タイラントルにようこそ」

「おう、ありがとう」

俺達はタイラントルの街に入った。街が遠くに見えた所で業火を降り歩いて一緒に町に来た。物は試しとばかりにカードの表示を当たり障りのない部分だけ表示して提示たところ、門を守る兵士は何の不信も抱かずに俺達を通してくれた。

「まずは宿を取って落ち着こう」


ホテルに部屋を2部屋確保し、3人で俺の部屋に集まった。

「やっぱり、手配書は回っていないようですね」

とノルン。

「今の所はな。まあ、いざとなったら業火を乱入させれば逃げるのは難しくは無い」

「この町の住人の為にも手配書が回って来ない事を願うばかりですね」

ノルンが苦笑しながら言う。

「あいつらが見たのは金色のゴーレムだ。あんな目立つ物に乗って町に寄るとは思わなかったんじゃないかな?」

「町に駐留する兵士では相手にならないと思っているのでは? 大きな町には早馬を使い私達を追い越して手配書を回している可能性は十分に考えられます。早馬を出すにも数には限りがありますから」

「つまり、大きな騎士団を持っている領主には連絡してるって事か?」

「はい」

とすれば、領都を避けて進めばいいってことか。

「すると、このルートを使う事になるのかな? でも、何処かの領都の側は通らないとこの国からでられないか?どこを通っても戦闘は避けられねえか。だとすれば」

「最短距離を進むべきでしょうね」

「だな。すると。トルーン辺境伯領か」

領都からどれだけ距離が取れるかな。

「トルーン辺境伯領。騎士団は精強だと聞きます」

「ある意味、辺境の守りの要だよな? 壊滅させちまっても良いかい?」

ノルンに確認するように言うと。

「この国を捨てますので、私の事は気にしないでください。ただ、出来れば戦いは避けていただきたいところですが、辺境伯の騎士団が壊滅すれば、国が危険になるでしょうから。王家や上層部には見切りをつけましたが、国民を巻き込みたくはありません」

「その辺は向こうの出方次第だな。辺境伯ってのは、かなりの裁量を持たされてるんだろ? 俺を見逃してくれるくらい話の分かる人だと有難いな」

まあ、無いな。情報部が目を光らせてることは分ってるんだろうし。

「王国の盾と呼ばれていますが、なにぶん王都から離れた場所ですし、辺境伯は領地からほとんど離れない為にどのような方かは存じ上げません」

「んー。まあ、行ってみれば分るだろう、見つかるとも限らないし。さて! 町に出てみるか」

「はい! ノルンさんの服を買いに行きましょう」

「まずはそこからだな。2人の冒険者登録もしてえけど、万が一国から手が回ってると不味いからこの国を出てからが良いな」

「冒険者ギルドは国から独立していますが? 不味いのでしょうか?」

「たぶん大丈夫だ。しかし、犯罪者として討伐依頼が出てたら洒落にならないしな。向こうさんは俺を異世界人だと思ってるだろうから、冒険者ギルドに登録しているなんて事はばれないほうが良い」

「「なるほど」」

俺としてはギルドに用が有るからなるべく早くギルドには行きたいところだ。ギルド経由でケーナ達と連絡が取れるんじゃないかと思ってる。返事が受けられなくても俺の状況を説明し、今ガーゼルに向かってるって事を知らせたい。俺達はホテルを出て服屋に向かった。女性の買い物に付き合うのは厳しいが、護衛を兼ねて付き合う事にする。


「タケルさんにお時間を取らせてしまってすみません」

「いや、思ってたよりも全然早かったよ。なあアプリコット?」

「はい、でもノルンさん美人だからどんな服でも似合っちゃうんですよねー。羨ましいなー」

「そんな事は有りませんよ。でも良かったんですか? アプリコットさんは自分の分を買わずに?」

「あたしはこの間買ったばかりだし、その服は全部持ってきたから。無理やり付いてきたのにこの上荷物を増やすのは・・・」

「あっ」

っと言ってノルンが俺を振り向く。

「気にすんな。このくらいなんでも無い」

そう言って両手に下げた荷物を持ち上げる。ノルンは顔を赤らめて。

「すみません」

と小声で言った。

「本当に気にする事なんかない。アプリコットも買ったって良かったんだぞ。せっかく2人とも素材が良いんだ。もっと着飾った方が俺も楽しい」

「「えっ?」」

アプリコットは可愛らしさもアップしているし。ノルンは美人だしアプリコットと違い体型も素晴らしい! どこがとは言わないが、アシャさん以上シルビアさん未満と言ったところだろうか。

「まあ、次に買い物をする時には、今回みたいに旅用の実用性重視じゃなくて見た目も重視して買ってくれ」

「「・・・・はい」」

2人して顔を赤らめながら返事をしてくれた。次に期待しよう。思ったより早く服の買い物が終わったので一度業火に戻って荷物を置き、今度は食料を買って宿に戻った。



「出来ました! ファイアーボールが使えましたよ!」

「あー・・・、良かったな。努力した甲斐があったな」

喜ぶアプリコットに若干棒読みな返事をする。

「ええ・・・、毎日頑張っていましたからね」

ノルンの返事も俺と似たような感じになった。

「なあノルンさん。ファイアーボールって、あんな大木が一気に燃え上がるような魔術だっけ?」

「えーと、アプリコットさんが詠唱したのは間違いなくファイアーボールでしたよ?」

俺とノルンは目の前で激しく燃え上がる大木・・・。いや、大木と言うのすら憚られる巨木を見ながら会話をしている。

「店長、消しますよ」

フィーアがそう言うと。業火から大きなウォーターボールが10個燃えさかる巨木に飛んで行った。

「フィーアちゃん、ありがとー。ほおっておいたら森ごと丸焼けになっちゃうところでした」

確かにアプリコットの言うとおりなんだが、普通のファイアーボールではそんなことにはならないんじゃないだろうか?

「ふう。明日からは違う魔術にしましょう。ウォーターボールがいいかもしれないですね」

「ああそうだな。それなら火事の心配はないな」

ここのところ夜寝る前にアプリコットにノルンが魔術を教えていたんだが、勇者補正だかなっんだか知らないがアプリコットは色々と規格外らしい。ファイアーボールなんか、戦闘では牽制の役にしか立たない威力のはずなんだが、アプリコットが使うと立派に必殺の威力が出るみたいだ。



「モグモグ」

「パクパク」

「ハムハム」

俺達3人は黙々と料理を食べている。2人より先に食べ終わった俺は。

「ふー。美味い! アプリコット。料理上手だな。無我夢中で食べきっちまった」

「えへへ。本当ですか? そう言ってくれると作った甲斐があります。お世辞でも嬉しいです」

「本当に美味しいですね。アプリコットさん、今度時間が有ったら私に教えてくれませんか? もう魔術師団にいる訳でも、家にいる訳でも無いんですから。料理が出来るようになりたいですからね」

「本当ですか! 良いですよ。ガーゼルの街に落ち着いたら一緒にやりましょう。あたしばっかり魔術を教えてもらってるのは心苦しかったので、何か教えてあげられるなら嬉しいです」

「ええ、そうね。でも、旅の間も少しづつ手伝えるようになりますね」

「はい」



「なあ、俺の気のせいかもしれないけど」

俺が言う。現実逃避だな。

「はい、あたしも気のせいだとおもいます」

とアプリコットが言う。これも現実逃避だ。

「あれは、トルーン辺境伯の騎士団だと思いますけど?」

ノルンが容赦なく現実を口にする。俺とアプリコットは声をそろえて。

「「ですよねー」」

1km先に整然と列を組み向かって来るフルプレートメイルの騎士団が見える。ここは地形のせいで街道から隠れて進める場所が無かった。で、開き直って街道を進んでいた訳だが、ゴーレム術師がいないゴーレムが歩いている事は不自然なため業火から降りて3人で歩いていたところだ。まあ、気分転換の意味も有る。

「あれって、俺達に向かって来てるんだよな? なんでばれたんだ? 王都を出てから7日、昨日トルーン辺境伯領に入ったばっかりだぞ」

「えーと、業火は目立ちますから。情報収集をきちんとやっていたって事じゃないでしょうか」

ノルンの返事に。

「えー、目立つか? どこから見てもストーンゴーレムじゃないか」

俺が言うと。

「背中に何に使うのか分らない道具を背負って、腰に剣を2本差しているから目立つんじゃないですか」

「じゃあ、装甲を土で覆ったのって無駄だったってことか」

「「結果的にはそうですね」」

「なんてこったい」

「店長、どうしますか? 土を落としてしまっても良いですか? 隠す必要が無いなら、この子を綺麗にしてあげたいんですけど」

「ああ、やってくれ。この国を出たら、また何かでカバーするよ」

『ザーーーッ』

これで業火の外見は金色に戻った。

「2人は業火に乗ってくれ。モニターで相手の陣容を確認したい」

2人には業火に乗り込みモニターで騎士団を見てもらう。ノルンが。

「騎士団ですが、1大隊規模です。魔術師団も弩弓部隊もいないようです。どういう事でしょう? 騎士だけで私達を捕らえるつもりでしょうか? 業火の情報が届いていないと言う事は考えられないのですが」

だろうな。あんな所で待ち構えているんだから、情報が届いていない事は考えにくい。しかし、ゴーレムを相手にするなら弩弓部隊くらいは必須と言える。もちろん魔術師団の方がよりベストだ。が、どちらも居ないと言う事は? んー、さっぱり分らん。だいたい、1小隊が20人、4小隊で1中隊4中隊で1大隊だから。

「300人程度の騎士だけでどうこう出来ると・・・。普通は考えるのか? 何と言っても普通はゴーレムに人が乗り込んだりはしないからな。ゴーレムを足止めしているうちに術者を倒せばいいってか? それにしても力技になるよな」

1体のゴーレムが幾ら暴れても300人からの人間を倒すにはそれなりの時間が必要だろう。普通のゴーレムならだけどな。

「罠とか仕掛けて有るんじゃないですか?」

それもあるか。2足歩行なんだから、落とし穴でも掘っておけば効果が望める。

「フィーア、罠の気配は?」

「まだ距離が有るので確認できません。しかし、双方移動しているのですから出会う場所は特定できません。落とし穴は無いのでは? 見晴らしも良いので騎士を伏せさせるのも難しいです」

と言っているうちにも距離はつまって行く。向こうは何を考えているのか、隊を展開させる事も無く綺麗に行進してくる。まるで、戦闘するつもりなど無いかのような歩みだ。何を考えているんだ?

「タケルさん。業火に乗り込まなくて良いんですか? このままでは戦いになっちゃいます」

アプリコットが心配そうに声を掛けてくれる。

「まあ、俺が本気になればあのくらいはどーってことないさー。刀を300回振るだけの簡単なお仕事だ」

とは言え、手加減しながらでは無理だ。皆殺しにする事になるだろう。

『ザッザッザッ・・・・』

俺達との距離が30mに近付いたところで、規則正しく響いてくる靴音が止んだ。俺も立ち止まる。その中から特に体格のいい騎士が1人だけ更に進み出て15mの所で止まる。フルフェイスの兜を取り左脇に抱える。30代半ばくらいだろうか? 精悍な顔立ちの男だ。後続の騎士達もそれに倣うように兜を取る。

「私は、トルーン領の領主を務めているトルバン・トルーン。勇者タケル殿とお見受けするがいかがか?」

なんと、領主自らが先頭に立ってお出迎えか。

「この国で言われているような勇者のつもりはないが、タケルだ」

俺が答えると。右手を開き胸に当てると頭を下げる。同時に騎士達も寸分違わない姿勢を取る。この国の騎士の敬礼だ。そうして敬礼を解くと直立したまま。

「王都に襲いかからんとするバシリスクの群れを退治していただき。王国の国民として心からお礼申し上げる」

そう言うと今度は深々と頭を下げる。えーと。俺はどう反応して良いか分らず。右手の人差指で頬をかきながら。

「えーと、礼は受けるので頭を上げてくれ。偉い人に頭を下げられるのには慣れていないんだ。ああ、偉い人と話すのにも慣れてないんで、この喋り方は勘弁してくれるとありがたい」

頭を上げたトルバンは笑顔になって大股で近付いてくる。

『ガシャン』

兜が地面に落ちて大きな音を立てる。呆気にとられて反応できずにいる俺の右手を両手で握ると上下に振る。

「はっはっはー。そうかそうか、気が合うな。堅苦しい喋り方は俺も苦手でな! 領主なんぞやっていると周りがうるさくていかん。しかし、こんなに若いとは驚きだ。バシリスクロードも倒したのだろう? ドレイクバスターじゃないか。英雄の誕生だ。その場に立ち会えなかったのは残念だが、こうして会う事ができた、いやー嬉しい限りだ。Aクラスの魔物だ。軍団を持って当たっても勝てるとは言いきれない魔物だぞ。いったいどうやったんだ?」

なんだ、この領主いきなりフレンドリーだぞ。

「この業火のおかげだ。バシリスク1匹ならともかくあれだけいると人間が1人で相手にできる訳は無い」

「こいつが? 確かに唯者じゃ無いほどキラキラしてるな」

「いやいや、キラキラしてる事と戦闘力には全く関係ないから」

「そうか? 強そうじゃないか。まあ、実際どんな色だろうと強いんだろうがな」

「それはそうと、バシリスクロードの事を知ってるんだ、王都から連絡が有ったんだろ? つまり俺が何をしたか知ってるんだよな?」

「ああ、王都から早馬が届いたぞ。異世界から勇者として召喚されながら王に対し全く敬意を表す事も無く、そのうえ王家の宝物庫から大量の金塊を盗み出した大罪人だとよ。お前さんやるもんだな。生死を問わず、金塊を取り戻せってことらしい。バシリスクの事は王都にいる家臣が国とは別便の早馬で連絡を寄こしたのさ」

やはり国からは手配されてるんだな。

「家臣から?」

「そうだ。辺境伯ってのは国境の守りの為に置かれている職だ。その中でもトルーンの家は王家が誤った政を行った時には諌言するようにと初代が時の王より命じれれている。その為の段取りはちゃんと用意してあるのさ。今回国がやらかした異世界人の召喚の事は最近になって情報が入って来たんだ。そんな事を続けさせる訳にはいかんからな。やめさせるために近々王都に向かおうと思っていたところだったんだが」

「俺が逃げ出しちまったってか」

「そう言う事だ。どんな事態になろうとも、自分たちの行く末を異世界人に委ねようとするなんざ。陛下と言えどやって良い事じゃない。異世界人には元の世界での生活も未来も有る。俺達の都合でそれを奪うなど到底許される事じゃ無い。そんな事も分らんとは嘆かわしいかぎりだ」

この国にもちゃんとした人もいたんだな。

「俺達を召喚した宮廷魔術師は死んじまったらしいし、召喚の魔法陣は壊れちまったからそう簡単には次の召喚なんか出来ねえんじゃねえかな?」

正確には魔法陣は俺が粉々にしたんだが。

「そうか。宮廷魔術師長は気の毒だが、これ以上召喚など出来なくなって良かった」

「俺達より先に呼び付けられた2人は残るって言ったから一緒じゃないんだがね」

「何だと。その2人の事を道具のように扱わないように進言せんといかんか」

「それは大丈夫なんじゃねえかな。あいつらはこの国の為に残ると言ったんだ。まともな奴なら今度は逃がさないようにちゃんと扱うんじゃないか?」

「いや、そうとは言い切れん。逃がさないよう何らかの手段を講じる可能性は有る。注意しなけばならんだろう」

たしかに、そうかも知れないが、スバル達には強くなってもらわなきゃならない訳だし、そうなると繋ぎとめるのは難しくなる。何か手を打つんだろうか?

「相手の意思を操る様な魔道具とか有るのか?」

「ん? そんなものは無い。なるほど。勇者には強くなってもらわなければならん。しかし、自分達で制御出来なければ意味がない。その辺が分かるのなら、きちんとした対応をし、いざという時には役に立ってもらわにゃならんか」

「ああ、そう思ったから、無理やり連れてはこなかったんだがね」

「呼んでしまったものは仕方が無い。おかしなことをしないよう注意しなくてはな」

「逃げ出しといてなんだが、よろしく頼む」

「タケル殿は既に十分な働きをしてくれたではないか。国を守ってくれた英雄殿の頼みとあらば必ず守ると約束しよう」

俺に嘘を言っても仕方が無いからな、信じてもいいだろう。こんな貴族もいるんだな。などと油断していると。

「ところで、家臣からはタケル殿の情報も入って来ていてな」

と言うトルバン。なんだか嫌な予感がする。いい笑顔になって。

「タケル殿は強いんだって? 騎士団の訓練参加が免除になるほどとはな」

「え? そんな報告も来てるのか?」  

「隠す気も無いみたいだったからな。どうだい、俺と一騎討ちしちゃくれねえか? 勝っても負けてもタケル殿を国から出す事は約束する」

そう来るか。やっぱり辺境伯だからな、何かしなきゃならないって事か。

「断る。俺にメリットが無い。業火がいるんだ、力ずくで国外に出るのは簡単だ」

「そう言うなよ。これでも、国の禄を食む身なんでな。タケル殿を黙って領を通す訳にもいかなくってな」

なんか、嘘くさい話だな。

「その、ゴーレムはバシリスクロードを倒せるほどの強さを持っているんだ、俺達に勝ち目はない。そのゴーレムとの戦闘を避け、タケル殿と一騎討ちに持ちこんだ。少しでも勝ち目が出るようにってな」

勝ち目ね。

「と言うストーリーにしたいんだ」

「ん? ストーリーに?」

このおっさん、ひょっとしたら。

「ああ、中央に対する良い訳が立ちゃあ良いんだよ。王都の連中もタケル殿を取り逃がしてるんだ。こっちばかりを責められやしねえ。近衛騎士団は上級貴族の子弟達だからどうせ大した罪には問えねえ。だったら、ウチにも文句は言わさねえ」

「だったら、あんたと一騎討ちする必要がねえだろうが。このまま通してくれよ」

「イヤだね。せっかく自分より強いかもしれんヤツに出会えたんだ。素通りさせるなんて勿体ないだろうがー!」

やっぱり、こいつバトルジャンキーだ。

「な? いいよな? やろうぜ―、一騎討ち」

「やろうぜー。じゃねえよ! そんなにやりたきゃ1人でやってろよ」

「久しぶりなんだよ。自分が勝てないかもしれない相手とやるのはよ。命の遣り取りの緊張の中でしか味わえないもんがあるだろ?」

「なんだよ、命の遣り取りってのは。それじゃ負けたら死んじまうじゃねえか。勝っても負けても通してくれるんだろ?」

「ん? そりゃー、なんだ、そういう気持ちでやろうって事さ。言葉の綾だ。本気な訳ねえだろ」

いや、このおっさん本気だ。その証拠に目が泳いでる。

「じゃあ、木剣でやり合うのか?」

「そんな物用意しちゃいない。剣ならお互い腰に付けてるじゃねえか」

「それじゃ殺し合いになっちまうだろうが」

「ん? 緊張感は必要だろ?」

ニヤリと笑ってトルバンは剣に手を掛ける。少し下がって。

「魔闘流。トルバン・トルーン。まいる」

そう言って剣を抜き構える。なるほど、師匠の弟子かよ。持っている剣は、バスタードソードだな。

「神討流。進藤尊」

そう言って刀を抜く。やべ、なんかやる気が出て来た。

「シントウ流? 聞いた事の無い流派だな」

「神を討つと書いて神討流だ」

「すげえネーミングだな。どんな由来が有るのか聞いてみたいところだが、まあいい。行くぜ!」

「おう!」

俺達は同時に相手に向かって駆け出した。


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