こいつは慰謝料!
「バシリスクはーっと? あー、向こうから来るのか」
王都の外に出て辺りを見回すと、東に騎士団や魔術師団に近衛騎士団までもが整然と並んで戦闘準備を整えている。業火を操り後ろから近付いた俺は。
「とりあえず俺が業火で出る。通してくれ」
騎士達が左右に割れ、業火の前に道が出来る。アクセルとスティックを操りそこをゆっくりと進んでゆく。騎士達の間を抜けて一旦止まる。業火に騎士団長のローダンが近付いてくる。
「タケル様。業火で出てくださるのか。我々はどうすればいい?」
「俺は、もう少し前に出てバシリスクを迎えうつ。相手は7匹だからな、俺が漏らした分を頼む。最悪時間を稼いでくれれば何とかする」
「頼みましたぞ!」
「ああ、依頼を受けたからな。俺の冒険者パーティは依頼の達成率が100%なんだぜ」
まあ、ケーナ達はともかく俺は自慢できる程、依頼を受けちゃいないがな。そう言って更に業火を前に進める。騎士団達を抜けてから500mほど進み業火を止める。俺の後ろでは騎士や魔術師達が隊列を整え、迎撃準備を整え始めた。
「フィーア、ADRセットアップ」
「はい、店長」
『ウィーーーーー』
『ガシャ』
音と共に。
「店長、セットアップ完了です。続いて射撃位置に移動させます」
「おう」
伸ばされた砲身を一度右側に倒し、持ち上げた右腕の下を潜って前方に砲身が移動してくる。ファンクションキーとボタンを操作し射撃準備を終える。メインモニターで前方を監視する。
「おー、来た来た。あれがバシリスクか」
ヘッドマウントディスプレイを下げズームし、マーカーを付け始める。バシリスクか。頭部はワニのように長く口が大きく鋭い牙が何本も生えている。前傾姿勢で2本足で歩いているが、図鑑やネットで見たティラノサウルスよりも、スピノサウルスに似ているか? ただし、スピノサウルスのように背中の大きな帆の様な突起は無い。それに前足は大きく長く鋭い爪が生えている。あの爪で殴られたらただでは済まないような凶悪さだな。最後尾に1匹だけ鋭く長い角を持った個体がいる。
「あれが、バシリスクロードか。体も大分大きいな。対象物が無いから大きさが分らない。フィフスホーンよりは小さいのか?」
「はい、正面なので全長は掴めませんが、あの姿勢で背中まで8m位です。ちなみにバシリスクは6mですが、背を伸ばし頭を上げれば1.5倍程でしょうか。フィフスホーンに比べると大分小さいですね」
「さて、1kmまで近付いたら攻撃開始だ。バシリスクからいくぞ。数を減らす」
「はい、店長」
さほど待つ事も無く。
「店長、先頭の魔物までの距離が1kmです」
「よーし。いくぞ」
ボタンを押し込むと。
『ドグォーーーン!』
極超音速で射出された砲弾が、バシリスクの額に穴を開ける。そいつはそのまま5歩歩くと前にのめり込むように倒れた。グリップを操作し次弾を装填、素早く次の目標に向けて。
『ドグォーーーン!』
次の目標も同じように倒れ込む。3匹目に狙いを付けようとすると。残ったバシリスク達は業火に向かって勢いよく走りだした。距離は800m。狙い辛くはなるが、音速の10倍を超える速度で飛び出す弾だし、こちらに向かって来るんだから、見越し射撃の必要も無い。リズミカルに動く頭の動きを読んで。
『ドグォーーーン!』
3匹が転がるように倒れた。
『ドグォーーーン!』
4匹。
『ドグォーーーン!』
5匹。
『ドグォーーーン!』
6匹。
立て続けにADRが火を吹きバシリスクは倒れた。
「さーて、残ったのはお前さんだけだ」
最後に残ったバシリスクロードが立ち止まり。
『ギュガーーーー!!』
空に向かって大きく吠えると、業火に向かって狂ったように走りだす。大きく揺れる頭のリズムを読んで。ボタンを押しこむ。奴までの距離は300mを切っている。この距離なら外しはしない。
『ドグォーーーン!』
その瞬間。バシリスクロードの角が弾をはじいた!
「何! 弾道を読まれた?」
全く、フェンリルの時もそうだったが、強い個体ってのは勘が鋭いのか?
『ドグォーーーン!』
また、弾かれる。Aクラスってのはこんなのばっかりなのかよ!
「くっ! フィーア、ADR格納! 格納次第接続解除だ!」
「はい。店長」
ADRを展開していると近接戦闘が出来ない。ヤツがモニターに迫ってくるのが見える。フィーアの返事をじりじりしながら待つ。ヤツはもう目の前だ。角を突き出し突っ込んでくる。
「接続解除しました」
くっ。間に会わねえ! フィーアの声を合図に、魔力操作で腰を沈め、右足を踏み出し抜刀する。近すぎて刀を抜き切れない事は分ったが、柄頭で角の先端を受ける。角に弾かれ刀は鞘に戻る。そのまま右手を滑らせながら、角を掴み。突進の方向をずらしていく。よし! 進行方向がずれた。すかさず脇に避ける。
『ガキ!』
更に肩に蹴りを入れ勢いを付けて飛び離れる。バシリスクロードは50mほどの距離を走った後に。
『ギュガーーーー!!』
もう一度吠えながら振り向き。角を突き出しながら、向かって来る。今度はきちんと抜刀し、振りかぶった高周波の刃を頭に向かって振り下ろす。
『ギャン!!』
大きな音がして、刀の刃と角の先端がぶつかる。なんだと! こいつ狙って受けたのか?
『ギーン!』
大きな音がして、刀が半ばから折れた。
「なっ!?」
体を沈めて角を避ける。
『ギャン! ドゴッ!』
体当たりを喰らって弾き飛ばされる。素早く立ち上がりもう1本の刀を左手で抜き、半分になった刀も右手で構える。バシリスクロードは距離を取って振り向く。
「フィーア被害報告!」
「襟の装甲が33cm千切れ飛びましたが、それ以外の被害は有りません」
襟と胸部装甲はオリハルコン製だぞ! もう一度突っ込んでくる。
『ガーーーッ!』
ヤツの角を右手の刀で左に受け流しつつ、左手の刀を首に向けて振り抜く。
『ガツ!』
左手の爪で刀を受けながら、首を左に大きく振る。
「尻尾か!」
鞭のように撓った尻尾が業火に向けて飛んでくる。右手の刀を叩きつける。
『ザリュ!』
「え?」
尻尾を半ばで斬り落とされたバシリスクロードはバランスを崩し、踏鞴を踏む。
「硬いのは角と爪だけなのか?」
『ドーン!』
エクスプロージョンで加速し業火を突っ込ませながら頭の付け根に刀を付き入れる。
『ゴリュッ!』
そんな音と共に刀が付きぬける。
『ドゴーーーーン!!』
大きな音を立てて、バシリスクロードが倒れ込んだ。
「ふーーーー」
大きく息をついて。
「楽勝だったなー」
「バシリスクは楽勝でしたね。バシリスクは」
「えー、バシリスクロードだって楽勝だったろ」
「刀が1本折れちゃいましたね。オリハルコンの装甲も削れちゃいましたし」
「あー・・・、細かい事は気にするな」
「ふふふふ、はい」
「さて、バシリスクロードの角と爪。できればバシリスクの爪も回収してえな」
「王国が全て買い取ってくれるのですよね? 回収に来るのではないですか」
「さあね、口約束なんか守る必要は無いなんて思ってる奴は多いぞ。それに、全部売り渡すつもりもないしな。だから絶対に欲しい素材は確保する」
「はい、店長」
フィーアと2人で回収を始める事にする。角も爪も業火の刀を完全に受けきったと言う事は。おそらくこいつは魔力器官だろう。何としても俺の物にする。比較の為にただのバシリスクの爪も欲しい。
「まずは角からだな。フィーア、業火を操作して角を支えてくれ」
「はい」
業火が角を握った。刀を抜いて角の根本に付き入れる。魔力が通っていない状態だとこんなものか。よし、後は手分けして爪だな。
「店長。王都の方から、馬車が来ます」
「へー。意外と早かったな。爪も回収したから別にいいな」
騎士団と魔術師団が馬車を引き連れてやって来た。騎士団長のローダンが。
「タケル様、我々がバシリスクを運びます」
「おー、ご苦労さん」
ローダンがバシリスクロードを見て。
「・・・・・・タケル様。角が無いんですが、破壊したのですか?」
俺は業火が持った角を指差して。
「俺が抜いた。付けたまま宰相に渡すと絶対に帰って来ねえだろ? あの角は絶対に俺が貰う」
「いや、そう言われましても。これから凱旋パレードです。バシリスクロードに角が無ければ格好が付きません」
なるほど。そう言われれば角は必要だな。街を襲おうとしたバシリスクロードを騎士団が退治したか。住人に対するアピールとしちゃ絶好なネタだよな。
「あれ? 近衛騎士団も防衛に出てたよな? パレードしねえの?」
向こうは上級貴族の子弟だ。手柄を自分たちの物にしねえのか? するとローダンが、門の方を指差し。見ると、整然と並んだ近衛騎士団が見えた。
「あそこで待ってるから、回収して来いって事でして」
「あー、だよな。だったら」
俺は、近くに生えている1本の木に近付き、抜刀した。
『ズン!』
と音を立てて倒れる木を適当な長さにし、モデリングで角の形に成形する。そいつを抱えてバシリスクロードの角が生えていた位置にモデリングで固定する。
「これでよし」
慌てたように、ローダンが。
「いやいや、よしじゃ無いでしょうが! 木なんかで作ったってダメでしょう! 大通りを城に向かってパレードするんですよ? ばれたらどうするんですか!」
「バシリスクロードを近くで見た事が有る奴なんか街にいる訳がない。バレっこねえよ」
「バレなければいいと「いいのさ」」
「バシリスクロードの死骸である事に間違いは無い。後は見た目だけの問題だろ? 平気平気」
ローダンが複雑な顔をして。
「では、回収して行きます」
「おー、俺の獲物をよろしくな」
ローダンが複雑な顔をしながら回収の指揮をとり始めた。
「まあとりあえずここでいいか」
業火の左腕に装着したソードストッパーに角を括り付ける。すでに腰にはコンテナを装着しており、格納庫に有る資材や爪もそこに収納済みだ。
「まるで夜逃げね」
「逃げる気満々だな」
「逃げちゃうんですか?」
振り向くとそこには、コヨミにスバルそしてアプリコットが並んで立っている。
「友達が準備してくれている荷物が今日中に届く手はずになってんだ。まあ、街中がごたごたしてるから今日中に届くかどうかってところだけどな。来なくても今晩中にここを出る」
スバルが。
「で、どこに行くつもりだ?」
「昨日見かけた男な、やっぱり知り合いだったんだ。あいつは異世界転移なんかしていなかった」
「どういう事だ?」
「俺にとってここは異世界じゃ無かったって事だ」
「「「え!」」」
「歩いて帰れる所に俺の家族がいる。仲間がいる。友達がいる。店も有るんだ。ここからずっと東に有るアースデリア王国のガーゼルって街に俺が帰らなきゃならない場所が有る」
「そうか。だったら帰らなきゃな」
「ああ」
それを聞いたアプリコットが、俺達に背を向けて走り出す。
「ちょっと、アプリコット!」
そう言って、コヨミが後を追う。俺は呆気に取られて2人を見送るしかなかった。
「慕われてるねー」
「うるせ」
「ところで、どうだ? スバルも一緒に来るか? まあ、ここもスバル達には取っては俺程悪い待遇じゃねえだろうから無理にとは言わないけどな」
「タケルの待遇は自業自得な気もするが、この国のトップがロクでも無い連中だって事は事実だな。でも、騎士団の連中や魔法師団それに寮のおばちゃんなんかは悪い人たちじゃ無い。俺は此処で勇者をやる」
「そうか・・・。自分がやりたい事をするのが一番だよな。機会が有れば訪ねてくれ。ちょっと遠いけど」
そう言って右手を出す。
「ああ、元気でな」
スバルはそう言って右手で握り返して来た。
「そうだ、コヨミ達が付いて行きたいって言ったら連れて行ってやってくれないか?」
「ああ、かまわない」
そこに。騎士が荷車を引いた男を連れてやって来た。
「タケル様に荷物が届いています。ホーラン商会からだそうです」
「ありがとう」
そう言って荷物を下ろす。騎士達は何も言わず戻って行く。中には食料やら何やらが入っている。中身を確認していると。さっきとは別の騎士がやって来て。
「タケル様、陛下からの呼び出しです。謁見の間においでいただきたいとの事です」
なんだ? 陛下って国王だよな。この国に呼び付けられてから1度しか会っていない。なんだ今更?
「断れるのか? 今日は疲れてるんだ」
「お疲れなのは分りますが、陛下の呼び出しを断るなど。私にそんな報告をさせるんですか?」
怨みがましい目で俺を見る。
「あー、了解した」
この騎士が責任を取るような事になるのは気の毒か。国の上層部にしか悪感情は持ってねえしな。スバルがコヨミとアプリコットに話をする時間も有ったほうがいいからな。
「じゃあ、スバル確認しておいてくれ」
「ああ」
俺は騎士に付いて歩いて行った。
「勇者タケルよ。たった1人でAクラスの魔物を倒すとは、俄かには信じられん程の偉業である。この度の働き見事であった。召喚した勇者がドレイクバスターになるとは。喜ばしい限りだ」
「あのくらいは軽いもんだ」
近衛騎士が俺を睨むが、このくらいで頭に来るとは器が小せえな。
「その偉業を称え伯爵に叙し、近衛騎士団3番隊の隊長に任命し」
ふーん、俺を国に抱え込み、さらに騎士団の隊長にする事で、バシリスクロードを倒したのは近衛騎士団と言う事にしたいって訳か。こいつらセコイな。王の話は続いている。
「相応の領地を与える。しかし、近衛騎士団の隊長ともなれば王都を離れてもらう訳にはいかん。こちらが代官を選ぶので領地の管理は代官に任せればよかろう」
「爵位に領地ねー。そんな事より帰還魔術はどうなったんだ? 開発中って言ってたよな?」
俺の言葉に顔をしかめて不快感を隠そうともしない王に代わって、宰相が。
「宮廷魔導士長のザルークス殿は一昨日亡くなった。帰還魔術だけでは無い、召喚魔術も使えない状況だ。そんな事より。陛下が爵位を賜ると仰っておれれるのだ。お返事をせんか」
へー、あの爺さん死んだのか。まあ、勇者って名の犠牲者が増えないのは良い事だ。
「あー。断る!」
王が俺を睨みつけ。
「今何と申した!」
「耳が遠いのか? そんな物いらねえって言ったんだ」
そう言って部屋から出る為に向きを変え歩き出す。
「まて! 何が不満だと言うのだ! 伯爵では不満だと申すか」
そう言う王を振り向かずに。
「この国の為に働くつもりは無いって事だ。じゃあな。あ、そうそう、この国にいる理由が無くなったんでこれから出ていくわ」
そう言いながら足を止めない。
「そ奴を捕らえよ! 国から出すな。陛下に対する不敬罪だ!」
「「「「「は!」」」」」
近衛騎士達が一斉に俺に向かって来る。
「はははは、王を敬わない事が罪だと言うなら。まあ、不敬罪だわな」
そう言いながら。向かってきた騎士に拳を叩き込む。身体強化はしていない。こいつら相手には必要ないし、殺人鬼じゃねえんだから、むやみに人を殺したりはしない。
「ぐお!」
『ドサ』
「ウッ」
『ドン!』
歩みを止める事無く。向かって来る近衛騎士を避け、殴り飛ばしあるいは、投げ飛ばしながら。出口に向かって歩く。宰相が。
「相手は1人だ! 一気に取り付け!」
その言葉を受けてか、5人が一斉に飛び掛って来た。右手の騎士に飛び掛り腕を掴んで、身体強化を掛けながら振り回す。
「「「「「うわーーー」」」」」
4人の騎士が吹き飛ぶ。振り回した騎士を放り投げ、歩いたままドアに向かう。
「腰の剣は飾りか! 止めよ! 逃がすな!」
『ズザアアアー』
扉の前に近衛騎士団が並んだ。
『シュラン』
息を合わせたように抜剣する。
「揃ってるじゃねえか」
だけど。
「俺には無意味だな」
ドアを守るように立ちふさがる騎士達を回り込んで、壁際に向かう。騎士達は俺を壁に追い詰めるように集まってくる。
「あれー。俺、追い詰められてる?」
そう言って、壁に向く。腰に右手を引き拳を握る。
「やー!」
掛け声と共に、拳を壁に放つ。
『ドグォン!』
ちょうど人が通れるような大きさで石の壁を打ち砕いた。身体強化のおかげで、技の威力が増している。目標を打ちぬくのではなく。拳が当たった場所を中心として衝撃を与え、振り抜いた拳で広範囲に破壊力を伝える技だ。うちの流派の中伝5段の技だ。うちの流派は技に名前を付けないので、技名はない。ネーミングセンスの無さは遺伝なんだろうな。
「この前壊したドアを直したばっかりなんだろ? 毎回壊したんじゃ職人さんに申し訳無いからな。今度は壁にしてみました」
そう言って、呆気に取られた騎士たちを置いて部屋から出る。
「さて、アプリコットは部屋かな?」
そう言ってアプリコットの部屋を小走りに目指した。
「まったく無駄に広いよな。城ってやつは」
アプリコットの部屋のドアをノックする。ちょっと待ったが返事がない。ノブを引くとそのまま開いた。
「おーい、アプリコット」
部屋の中を見渡したが、誰も居ない。仕方が無いが、アプリコットは諦めるしか無いか?
「スバルが話してるかもしれないしな」
それに、ついて来てくれるとも限らない。ここで、魔術の修行をするのも悪くは無いだろうし。俺は窓際に進み鉄格子を3本外して、モデリングで木刀の様な形に変形させる。数回上げ下げを繰り返し。
「こんなもんか。鉄刀・・・鉄パイプの方がしっくりくるな。日本語的に」
せっかく作った鉄刀だが、再びモデリングで鉄パイプに変形させる。そして、格子を外した所から外に飛び降りる。格納庫はー。あっちだな。格納庫に普通に歩いて行く。今頃は騎士たちに囲まれている事だろう。
「まあ、蹴散らせばいいんだ。問題ないな」
格納庫が見えてきた。案の定騎士団の連中が抜剣し俺を待っている。ローダンも居るな。
「タケル様! 大人しく捕まってくれませんか? 我々では、貴方を止められない」
「だったら、そこをどいたらいい」
「上からの命令です。そう言う訳にはいかんのです!」
俺は鉄パイプを構え。
「宮仕えは辛いな。あんたらは気のいい連中だが、邪魔をするってんなら仕方ねえ。頭には気を付けな。割れたら死んじまうぜ」
俺は腰を落とし、迎え討つかまえだ。ローダンが。
「総員かかれ!」
騎士団が俺に向かって駆け出した。苦い顔をして切り込んで来る騎士の剣に鉄パイプを叩きつける。
『キーン』
場に似合わない澄んだ音を立てて剣が半ばから折れ飛んだ。鋼の剣だって峰を叩けば、結構簡単に折れるもんだ。騎士の胸に手を当て、身体強化しながら思い切り押し戻した。3人を巻き込んで吹き飛ぶ。騎士達は・・・まあ、死にはしないだろう。次は剣をかいくぐり鉄パイプを腹に当て・・・・・・振り抜く。
『ブッン!!』
『グワラン。グォロン』
今度は5人が吹き飛ぶ。
「おー。転がる転がる」
面白いように転がっていくなー。
『キン!』
『ドグォン!』
『ドーン』
・・・・・
さほどの時間も掛からずに、騎士達は俺を遠巻きにすることしか出来なくなった。こんなどうしようもない捕り物で怪我をしては堪らないだろう。殺しはしていないが、直接鉄パイプで殴られた騎士はただでは済まない。暫くは行動不能だ。巻き込まれた騎士は、・・・当たり所が悪いと行動不能かな。大して気にも留めずに俺は格納庫に歩を進める。騎士達は、俺の進みに合わせるように移動する。もう格納庫は目の前だ。格納庫を背にして右手に近衛騎士団が、左手に魔術師団が集まっている。そして。
『ブォワー!』
俺を中心に直径20m高さ3mのファイアーウォールが立ちあがった。これで俺を足止めか。この状況で遠距離攻撃でも集中させるつもりなのか? こんな炎なんか簡単に飛び越えられるんだからそんな事をしても無駄なんだけどな。しかし、炎の壁を作った後は特に何もしてこない。火攻めか? 俺が消耗するのを待つつもりか? だとすれば、なんとも気の長い話だ。などと考えていると。魔術師達の中からローブを着た人影が走り出し、格納庫の正面で屈みこみ両手を地面に当て。
「アースウォール!」
魔術師の正面から俺に向かって2本のアースウォールがファーウォールをかき分けるように走ってくる。
「タケル様! こちらに!」
魔術師が顔を上げ叫ぶ。あれ? あいつ、この間俺にファイアーボールを撃ちこんできた女魔術師じゃねえか。何のつもりだ? と一瞬考えたが、言われる通りに走りだす。
「貴様ー!」
そこに飛び込んできた近衛騎士が女魔術師の背中を切りつけた。
「きゃー!」
女は倒れ込んだ。そこで集中が切れたのか、アースウォールが崩れ始める。俺は身体強化を使い軽く飛び上がる。ファイアーウォールを飛び越え2人の前に降り立つ。
「ふざけおって!」
近衛騎士がうつぶせに倒れ込んだ女魔術師に剣を突きたてた。
「ぐっ!」
女が呻いた。
「てっめえ!」
俺は近衛騎士の懐に飛び込んで胸に掌底を叩き込んだ。吹き飛んでいく騎士には目をくれる事無く女魔術師を抱き上げる。女は気を失っている。
「ん、息は有る。有るが」
こいつはヤバイ。剣を突きたてられた事で内臓をやられているかもしれない。クソ! そのまま女魔術師を抱えて格納庫に走り込む。王に謁見だってんで武器は全て業火に仕舞ってきちまった。どっちにしろハイヒールしか使えねえから内臓がやられてたら直せねえけど、こいつの運が良ければ内臓は傷付いて無いかもしれない。
「業火起動!」
「はい、店長」
業火に乗っているフィーアから返事が来る。後ろを振り返ると、近衛騎士達が抜剣しゆっくり向かって来るのが見える。
「業火起動しました」
フィーアの言葉を受けて。
「ファイアーウォールで格納庫を囲め! 出力100%だ!」
「はい、店長」
フィーアの答えと共にファイアーウォールが立ち上がる。
「こいつに向けて、ハイヒール! 全力だ!」
血が止まった。傷はふさがったみたいだが。相変わらず苦しそうだ。
「くそ! やっぱりハイヒールじゃ無理か」
どうやら内臓をやられていたらしい。命の火が消えかけていくのを感じる。
「俺じゃどうしようもねえ!」
俺を殺そうとした女魔術師。そいつが今度は俺を助けようとして命を落とそうとしている。俺はただこうして見ていることしかできない。名前も知らない、ロクに会話も交わしていない。しかし、俺を助けようとしてくれた事だけは事実だ。
「くそ!」
その時、女魔術師に魔術が当たるのを感じる。え? こいつは、・・・エクストラヒール? 女魔術師の息が穏かになる。
「コヨミか!」
エクストラヒール。使えるようになったのか。
「さすが、異世界の勇者。フィーア、コクピットハッチオープン」
ハッチが開く。女を抱き上げたまま軽く飛び上がってコクピットに入る。抱き上げたままシートに座ってハッチを閉める。
「店長、その人を連れて行くつもりですか?」
「しょうがねえだろ。このまま置いて行く訳にもいかねえ。あんな事やっちまったんだ、下手すりゃ死刑だぞこいつ」
「それは可哀想ですね。必要無い事とは言え、店長を助けようとしてくれた訳ですしね」
「そう言う事。業火いくぞ」
「はい、店長」
両腕がふさがってるから、魔力操作で業火を操る。ゆっくり前進させ、未だ立ちあがってるファイアーウォールの上で止める。腕を持ち上げ、炎を吹き上げ燃えているのを確認する。今頃は他の装甲からも炎が立ちあがってるはずだ。
「そーら、燃えろ燃えろ」
「店長! せっかく作ったのに燃えちゃってますよ! あたしが頑張って塗ったのに!」
「しょうがねえだろ。演出だよ演出。ここからずらかる前に、あいつら悔しがらせてやりてえじゃねえか」
「もう! そう言う所、子供みたいですよ」
「男はな、いつまでも少年の心を持ってるものなのだよ」
胸部以外の装甲は城から出す前にフィーアと作ったモックアップのままだ。つまり、ファイアーウォールの中に立てば燃えあがる。
「さて、そろそろいいかな」
燃え尽きて灰になった腕の装甲を確認する。この分なら他の装甲も燃えただろう。業火を炎の壁から前に出す。足の装甲は歩いた衝撃で崩れ落ちたかな。5歩歩いたところで業火を止める。騎士や魔術師たちは業火を見つめて驚いている。業火の両手を腰に打ちつける。
『ガゥィーン!』
腕を持ち上げ確認すると、金色に輝いている。それを見ていた連中から。
「「「・・・黄金のゴーレム・・・」」」
そんな声が聞こえてきた。
「業火が落っこちた部屋の隣の部屋にこいつがいっぱい積んで有ったんでな。使わせて貰ったんだ。宰相のヤツがケチでな。オリハルコンを寄こさないから、手近な金属で装甲を作らせてもらった」
スピーカーを使って表の奴らに聞かせてやる。
「なーに、全部使っちゃいない。ほんの15tくらいだ。自重が増えたせいで大変だったんだぜ。動きにくいし、何と言っても。太くて格好が悪くなっちまった」
本当はもっとスリムなデザインを考えていたが、それなりに持って行こうとした結果、腕や足は予定よりも太めになっている。当然ながら、王国のアイアンゴーレムなんかよりは大分スマートだ。
「王家の財産を持ちだしたと言うのですか! 何と言う・・・。その盗人を捕らえなさい!」
おやおや、王女が来てる?
「王女様。こいつは慰謝料だ。あんな所で埃をかぶらせとくのは無駄だろ? 俺が有効に使ってやるよ」
「そんな大量の金が慰謝料などと。ふざけるのもいいかげんにしなさい!」
「ふざけてるのはどっちだよ。散々面倒事を吹っかけてくれたじゃねえか。いいか、慰謝料ってのはな。迷惑を被った被害者が納得できる金額を加害者が支払える範囲で出すもんなんだよ。王家の宝物庫には、まだまだ残ってるじゃねえか。このくらいで勘弁してやるんだ感謝して欲しいもんだな」
「えーい! 止めろ! ゴーレムなど壊してかまわん。あ奴が死んでもかまわん!」
あれ? 宰相も来てたのか? こいつら意外と暇だな。
「いつもの出口からこっそり出て行こうと思ったけど。せっかく王女に宰相が見送りに来てくれたんだ正面から出て行くか。フィーア、王城の正門に向かうぞ」
「正門をくぐるのは無理ですよ、あそこの高さは5mしか有りません」
スピーカーを切らずにフィーアに指示を出す。
「いいからいいから。こっそり誘拐されたんだ。出て行く時くらいは派手に行こうぜ!」
「はい、店長」
「正面からだと、止めよ! 何としても止めるのだ!」
宰相が叫ぶ。魔術師団に向けて指示が飛ぶと。
『カッ!』
『ドン!』
『ギン!』
魔法があちこちから飛んでくる。
「はーっははは! そんな魔術で業火が止まると思ってるのかー? 甘いぜ!」
スピーカーを切って。
「フィーア、対魔術障壁を展開しろ。業火は平気でも金がはがれたら勿体ない」
「はい、店長」
わざとゆっくり歩いて正門に向かって行く。対魔術障壁と言っても大して強力な物では無い。業火が全力でエクスプロージョンを打ち込めば吹き飛ぶ程度の物しか展開できない。しかし、人間の魔術による攻撃ぐらいじゃ全く効いていない。周りを見渡すと。
「フィーア、対物障壁も展開してくれ。弩弓だ、使われると金がはがれる」
対物障壁はまもーるくんに使っている物と同じだから、強力な攻撃を受け続けると魔力が切れるが、人間が携帯できる程度の弩弓では簡単に削られる事は無いだろう。どちらの障壁も店に帰ってオリハルコンで本来の装甲を作れば必要無くなるから、業火に装備しているリボルバーのシリンダーに組み込まずに臨時に魔結晶を付けただけの物だ。しばらく歩き、正門が正面に見えて来た。ここで、スピーカーを入れ。
「あれー。正門が小さいなー。あれじゃ業火がくぐれないじゃーないかー。この国はこの辺じゃ豊かで、国土も広いんだろ? だったらもっと大きな入口が必要だよな。広く門戸を開き様々な人々を招き入れ。意見を聞き国政に反映させる。うん! スバラシイネ!!」
そう言って。
「さーて、フィーア。エクスプロ―ジョンスタンバイ」
そう言ってから。スピーカーを切って。
「出力60%で、10発だ」
「はい、店長」
業火の周りに直径10mの炎の玉が10個浮いた。また、スピーカーを入れ。
「えー。正門近くにいる奴は逃げたほうがいいぞ。10数えてやるから死にたい奴だけ残ると良い!」
「1! 2! 3! ・・・・・・」
数を数え始めると。慌てふためいて門番達が逃げ出し始める。
「・・・・・8! 9! 10! フィーアやれ!」
エクスプロージョンが10発、正門を中心に両方の城壁にも飛んで行った。
『ズッガーーーン!』
大音響と共に大きな火球が10個出来上がった。火球が消えた後には、門も城壁も無くなり、王都の街並みが現れた。
「んー、200mくらいか? このくらい大きく門戸を広げて、広い心で政を行って欲しいよなー。宰相殿のようにセコイヤツはさっさと首にでもすりゃあいいんだ」
正門が有った所まで進め、業火を振り向かせる。近衛騎士団も魔術師も騎士団の連中も、もうこちらを攻撃する気力は失せたようだ。スバル達の姿を探すと。直ぐに見つかった。コヨミはぐったりとして、スバルに支えられている。ひょっとして、さっきのエクストラヒールで魔力を使い果たしたのかも知れない。まだ、慣れていないせいかな? 業火に大きく手を振らせると。
「じゃあな」
そう言って城を背にして歩き出す。門の内側にエクスプロージョンを数発打ち込んで、追手を牽制した。
「結局アプリコットとは話せなかったな。まあ、こんな形で飛び出すんだからな。仕方がね・・・・・・。あれ? 俺のせい? うん、いまさら仕方ねえな。いつかどこかで再会する事も有るよな。うん、いつかまた会おうぜ! それまで元気でいろよアプリコット!」
さらに。
「ああそうそう、見送りはいらねえからな。俺は照れ屋なんだ。追いかけて見送りなんかされたら、恥ずかしくてそこいら中に見境なくエクスプロージョンぶちまいて、王都を更地にしちまうかもしれねえぞ。今、正門を壊したエクスプロージョンは全力じゃねえ、嘘だと思うなら試してみな。次は全力のエクスプロージョンを見せてやろう」
そう言ってからスピーカーを切る。業火には大通りをゆっくり歩かせる。業火を見た通行人は慌てて路地に掛け込んだ。まだ夜になったばかりだと言うのに通りに人影はなくなった。走ろうと、跳ねようと、危険は無い。でも思いっきり走らせでもしたら、沿道の家は軒並み壊れるに違いない。さすがにそこまでするつもりもない。
「でも、悪い奴らに捕まって脱出する。その時に敵の仲間の女が寝返って助けてくれる。その時女はケガをし、俺はその女と一緒に逃げ出す。敵は追手を放ち俺達を追い詰めようとする。敵の勢力圏を出るにはまだまだ困難が待ち構えている。まるでアクション映画みたいにテンプレな展開と言える。いやー、ロマンだなー。ワクワクするなー」
「店長は、バシリスクと戦う前にもそんな事言ってましたね」
「そうだったか? せっかくファンタジーな世界にいるんだしな。少しは楽しまなきゃな、皆と別れて結構イライラしてたからな。こうして帰る目途が立ったんだ。少しは、気も抜けるさ」
「そうですね、やっと帰れるんですね」
「ああ、帰るんだ!」
フィーアに宣言する。
「そう言えば、王都の門も業火じゃくぐれねえよな?」
「そうなんですか? あたし見た事無いので」
「王城の門よりは大きかったかな。城の正門を壊したついでに、あそこも壊しちまうか」
「やめてください。お城の門とは違うんです。あそこを壊したら魔物が侵入します街の人たちに被害が出てしまいます」
ふいに、下から声がした。
「お、気が付いたか。具合いはどうだい?」
「はい、何処にも痛みは有りません。少し怠いですが、平気です」
「そうか、流した血は戻らないからな。怠いのはそのせいだろ。すまなかったな。俺のせいで怪我させちまった」
「いいえ、私が自分でやった事ですから。先日はとんでもない事をしてしまいました。すみませんでした。あの後色々考えましたが、どうしてよいか分からなくなってしまいました。さっきは目の前であんな事になってしまって、気が付くと飛び出してしまいました。タケル様には必要無い事でしたね」
「飛び出してアースウォールを使ってくれた。有難かったよ」
「それより、ヒールをして下さったんですね。有難うございます」
「いや、傷が深くてな。ハイヒールじゃ治せなかった。エクストラヒールだったな。おそらくコヨミだ」
「そうですか、コヨミ殿が」
「そうだ、名前」
「え?」
「名前聞いていいか?」
「ノルンです」
「そうか。ノルンさん、どうする? ここにいたら殺されるぞ。放り出したりはしないから、当てが有るなら送るぞ」
「タケル様はこれからどうするのですか?」
「ん?」
ノルンはさっきの件で立派なお尋ね者だ。ばらしちまっても平気だろう。
「親父さんがやった勇者召喚だがな。中途半端に成功したんだ」
ノルンは俺を見て首を傾げている。
「俺は、この国に来る前からスキルに勇者が付いている。つまり、親父さんは勇者召喚には成功していた。でも、俺は異世界から来た訳じゃない。ここから見ると遠く東にいったところにアースデリア王国って小さな国がある。そこのガーゼルって街が俺のいた場所だ。召喚された異世界の勇者じゃないんだよ俺は」
「そんな・・・。じゃあお父様がやった事は誘拐・・・」
「いや、異世界から召喚しても誘拐だと思うぞ。ただ、誘拐した奴らにとっちゃ誘拐じゃねえって主張はしやすいよな」
「ごめんなさい。父がとんでもない事を。なんとお詫びすれば」
「ノルンさんは何も悪くは無いだろ。悪いのはこの国の偉い連中だ。で、俺はそこに帰る。冒険者なんだぜけどな、大分さぼっちまったけど。で、これからどうする?」
「たった1人の家族だった父が亡くなってしまいましたし。お城にも帰れません。この国に未練も有りませんから。タケル様さえよろしければ、どこか適当な国まで連れて行ってくださいませんか。そこで新しい生活を始めたいと思います。タケル様のように冒険者になってみましょうか」
「おー。冒険者ならウチのパーティに入らないか? 優秀な魔術師は絶賛募集中だぜ」
「優秀かどうか分りませんが、魔術師ではあります。でも、あなたの命を狙った女ですよ。信用していいんですか?」
「ノルンさんは、さっき俺を助けようとしてくれたろ。そのせいで死にそうな目にも遭ったし」
「じゃあ、よろしいんですか?」
「一度、俺のパーティメンバーに会ってからになるけどな。なーに、ガーゼルは良い街だぜ。メンバーにならなくても住むには良いところだ」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
その時フィーアが。
「店長、女性を口説いてる所すみませんが、門が見えてきました。どうしますか?」
「口説いてねえし! いや、口説いてるけど。パーティメンバーとしてだし! ノルンさんは、そこで赤くならない!」
「すっ、すみません」
「壊しちゃまずいなら。飛び越えるしかないだろうな」
門は業火の胸の高さまである。意外と高いな。俺は業火を屈ませて、思い切り踏み切った。
『ドン!』
背中でエクスプロージョンを発動させ前進する。
『ズン!』
地響きを立てて門の外に着地した。
「さて、ガーゼルに帰るぞ」
「「はい」」
そう言って業火を走らせ始める。
30分ほど走ると業火が突然止まった。そして、駐機姿勢を取る。俺は何もしていない。軽く走って来たので結構な距離を進んでいる。夜だったし、追手は出されていないだろう。とは言え無理やり追手を出してるかも知れないし、もう少し距離を稼ぎたい。
「どうしたフィーア? 急に止まったりして」
「店長すみませんが、ちょっと右胸のトランクを確認してください」
「追手がかかってると面倒だぞ」
「それ程時間は掛かりません。それに、追手が来れば店長分りますよね?」
まあそうなんだけど。トランクがどうしたんだ? 開いたコクピットハッチを足場に右胸の前に回りこむ。トランクを開けてセットしてあるランプの明かりに照らされた中をノルンと一緒に覗き込む。
「・・・・・・アプリコット?」
「アプリコット殿?」
そこには、真っ青な顔をしたアプリコットが。
「・・・タッ、タケルさん・・・。気持ち悪いです」
「え!? 俺? 俺気持ち悪い?」
「はっきそ・・・うっ」
「え? え? え?」
俺って、はきそうなほど気持ち悪い? フィーアが冷静な声で。
「乗り物酔いだと思われます」