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証人ですか?

「おー、目標発見」

角を曲がると、さっきの馬車がやたらと豪華なホテルの前にゆっくり止まる所だった。めっちゃ高そうなホテルだな。俺はその場に止まって馬車の様子をうかがう。御者席から降た男は馬車から降りた男を守るようにしてホテルに入って行った。馬車から荷物が降ろされホテルに運び込まれるのを確認してその場を離れた。

「あれー。待っててくれたのかー。先に帰ってくれて良かったのに」

「あんなに慌てて走って行ったら心配するに決まってるでしょ」

「そうですよ」

「どうしたんだ、あんなに慌てて。それに、こんなに荷物が多いんだ僕だけじゃ運べない」

「ちょっとな、知り合いに似たヤツを見かけたんでな」

「「「はあ?」」」

3人の声が揃う。

「ん? なんだよ」

「タケル。王城の外に知り合いなんて何時作ったんだ?」

「そうよ、王城から出たのって昨日だけでしょ? しかも業火で。どうやって知り合い作ったのよ。夜にこっそり抜け出して夜遊びでもしてたの?」

「そんな! 夜遊びなんて、タケルさんはそんな事しません!」

「おー、アプリコットは俺のこと良くわかってるよなー。アプリコットは良い子だなー」

「だったらどうやって知り合ったのよ?」

「向こうの世界でだ」

「「「え?」」」

3人の声が再び揃う。

「だったら、こんな所にいる訳ないだろ」

とスバルが。

「あたし達4人以外にも召喚された勇者がいるって事?」

コヨミが言う。

「そうかも知れないし、そうじゃ無いかも知れない」

俺が言うと。

「そうじゃないかも?」

アプリコットが聞いてくる。

「ああ、そうじゃ無いのかも知れない・・・・」

俺は、そう言って荷物を持って王城に向かって歩き出す。


城の入口では騎士団員数名が俺達を待ちかまえるように立っている。そのうちの1人が。

「タケル様、直ぐにお部屋にお戻りください」

俺達では無く俺を待ってたらしい。

「上からの命令です御不自由をおかけしますが我慢していただきたい」

へー、軟禁か。・・・・・監禁じゃねえんだな。スバルは。

「タケルが何をしたと言うんだ! まるで罪人扱いじゃないか」

「ゴーレム隊を壊滅させたせいじゃねえの? 裁判でもするってか?」

俺が言うと。

「私達はタケル様を部屋から出すなとの命令を受けただけです。理由など説明はされません」

と騎士団員。

「まあ、そんなもんだろうな。スバルそいつと交換だ」

スバルが持っていた鎧の包みとコヨミの荷物を交換し。

「こいつをアプリコットの部屋まで運んでやってくれ」

1人の騎士に包みを渡す。そして。

「さあ、行こうか」

部屋に向かって歩き出した。


「食事は運ばせます。しばらく御不自由を掛けますが、このドアから出す訳にはいきません。タケル様なら騎士などいてもいなくても同じでしょうが、こいつらにも生活が有りますのでよろしくお願いいたします」

「ああ、あんたらに迷惑をかける訳にもいかないからな」

そう言って部屋に入る。バス、トイレ、鉄格子付きの4階の部屋だ。最初からこの部屋だった訳だが、こう言った事を想定してたのか? まあいいか、今のうちにまもーるくんを完成させちまおう。

「スバルの鎧って結構カッコ良いよなー。俺のも取り替えようかなー」

スバルの鎧と違って、俺のは一山幾らって言うような安い量産品だからな。魔結晶の加工は済んでるから装着するだけで終了だ。サッサと済ませてコヨミのまもーるくんの方に取り掛かる。


「よーし、これでいい。でも、アシャさんのと色が被るか?」

コヨミのまもーるくんは、スバルの鎧の色に合わせて白をベースに銀をあしらってみた。長袖のレオタードタイプで幅広のベルトをあしらってみた。胸がそれほど邪魔になるサイズではないので、コルセットでは無い。ハイレグを隠すように片方に深いスリットの入ったスカートを付けた。長さはそこそこ短く動き回るのに邪魔にならないようになっている。袖はアプリコットと同じように中指のリングにつながっていて、足元はショートブーツにニーハイソックスだ。絶対領域はちゃんと装備されている。

「さて、そろそろいい時間だな」

作業が終わるとすでに日は落ち外は暗くなっている。窓に近付くと窓を開け鉄格子に手を掛ける。

「モデリングが出来る人間を閉じ込める方法って有るのかね?」

鉄格子を2本変形させて外せば俺が通れる隙間の出来上がりだ。下を見れば丁度いい感じに暗がりになっている。魔力を流し身体強化してから飛び降りる。身体強化をしたまま城壁に向かって歩きながら、辺りを探ると。

「ビンゴ。今日の当直はあいつだな」

軽く後ろに飛び上がって、刀を抜く。俺を監視していた奴の後ろに着地して、首筋に刀を当てる。

「よう。これから夜遊びに出掛けるんだ。見られると恥ずかしいから引いてくれないか?」

首に当たった刀を気にする様子もなく。

「部屋から出ないように言われただろ?」

斬られるとは考えていないらしい。

「いいや。ドアから出るなと言われたからな。窓から出て来た」

「普通は鉄格子のはまった4階の窓から出るような奴がいるとは思わない。部屋から出るなという意味だ」

「そうかい? 意思の疎通ってのは難しいな。あんただって、俺が出てくるって思ってたから外で張ってたんだろ? 良かったな無駄にならなくて」

「全くだ。余計な仕事を増やしてくれる」

「給料分は働けって事だろ? 宮仕えは辛いね。残業手当と危険手当は宰相に請求してくれ」

そう言ってから、男の前に回り、当身を入れた。

「ウッ」

と言って、崩れ落ちた男を抱えて一度部屋に戻る事にする。鉄格子をさらに外し、拘束具を作る。動けないようにしてから、猿轡をしてクローゼットに放り込んだ。

「後で用があるから大人しくしてろよ」

意識を無くした男に声を掛け部屋を出た。


「ここにホーラン商会の人が泊まってるはずなんだけど」

「あなた様がどなたかは存じ上げませんが、宿泊されているお客様の情報をお教えするわけにはまいりません」

さすが高級そうなホテルだな。

「いや、護衛のケイオスさんに呼ばれた冒険者のタケルって者だ。そこのソファーで待たせて貰うから呼んでくれないか。ずいぶん急いでいたらしいんだ」

「では、お声をおかけしたしますのでそちらでお待ちください」

「ああ、ありがとう」

そう言ってソファーに座る。注文した果実水を飲みながら待っていると。

「ようタケル。よく訪ねてくれたな。それにしても護衛か? 随分とガーゼルから遠くに来たもんだな」

やっぱりケイオスだった。召喚は召喚でも異世界召喚では無かったって事だな。カードは出ねえし、魔物のランクとか同じみてえだし、そして大陸の中心には魔の森。止めは共通通貨の単位がイェンだもんな。あの時は何の疑問も無くガーゼルと物価を比べちまったけどおかしいと思わなかったよな。無意識に同じ世界だって思ってたのかな。

「仕事じゃねえよ。誘拐されたんだ」

「はあー? タケルを誘拐? そいつは人間には無理だろ。ギガントか何かが犯人か?」

ケイオスのやつ、何気に失礼だな。まあ、言ってる事は間違っちゃいねえけどさ。俺は声をひそめて。

「異世界から勇者を召喚する魔術をこの国が使った。そいつに巻き込まれたんだよ」

「へー、そんな事をやったのかー。すると、ヤマト帝国か?」

「正解。自分達が搾取している小国が同盟を組んだから懲らしめるんだと。まあ、急成長した帝国に危機感を抱いてってのが本当のところらしい。ヤマト帝国ってのは、やっぱりあれか?」

「そうだ。来訪者達が乗っ取った国が勢力を拡大してヤマト帝国を名乗ってる。俺が居たころは、どこか適当な国に食い込もうって話だったんだがね」

「チートな能力で?」

「そうだ。俺みたいな体術系だけのヤツが多いエトランジェと違って、体術プラス技術系のチート持ちも多いんだ来訪者達は、そいつらは兵器開発なんかもやってたな。まあ、理屈だけ分ってたって、技術の積み重ねが無きゃなかなか上手くはいかないみたいだったがな」

「正解が分っているなら、無駄な試しをしなくて済むんだ。あっという間に技術は完成するんじゃないのか? だから、国を乗っ取れたんだろ?」

「どうなんだろうな、こっちには魔法がある。金属だってとんでもない物がそろっている。逆に揃わない物だって有る。素材が変更になるんだ。おのずと正解は変わってくる」

「なるほど、前の素材で出来上がる正解を知っていると。そいつが足を引っ張るか?」

「さあな、アドバンテージは有るんだろうが、新しい素材でどれだけアレンジできるかが肝なんじゃねえかな」

「あっちに義理が有るんだろ? あんまり情報を漏らさなくていいぞ」

「全く具体的な話はしてねえだろうが。まあ、これ以上話すとな、そっちの話になっちまうからやめておこう。あ、最後に一つだけ忠告だ。タケルは空を飛ぶだろ? あんな、板切れで飛んでるうちは平気かも知れねえがな飛行機械は作るな。空には魔物が住んでいる」

「は? 魔物が住んでいる・・・・・? 魔物が住むか、色々な場面で色々な意味で使われる言葉だよな。向こうじゃねえんだ、こっちには本当の魔物がいるんだぞ。比喩的な表現じゃすまない」

「スカイフィッシュそう呼んでたぞ。そいつが妨害するってな。無人の飛行機、飛行船、気球も含めて航空機の実験機は全て砕け散った。墜落すらできなかった。空に上がったと思ったらあっという間だった。無数のスカイフィッシュに貫かれボロボロに砕け散ったんじゃないかって事だった。大きさなのか、速度なのか、それともその両方か。なにがキーになるか分らねえが、実用的な能力を持った航空機は全てそんな具合だ。タケルもそんな物作って飛ぼうとするなよ。お前さん、いきなり自分で操縦しそうだからな。死ぬぞ」

「ははは。ロボは飛ばなきゃってさ」

「だよなー。でも死ぬぞ」

「何か考えるか」

そうか、飛ぶのは無しなのか。となると、とべーるくんレベルの物でも十分な航空戦力になるのか?

「しかし、異世界から勇者ねー。タケルを引掛けた所を見ると、少なくとも人選は間違っちゃいねえって事か」

「どう間違って無いと?」

「異世界人って事と。下手な勇者よりも強いだろうが、おまえさん」

「まあ、勇者(笑)だしな。この前、勇者Lv1ってカードに出た。スポンサーは断ったからなー。野良勇者だ」

「ほー、アースデリア王国には新参の勇者がいるだろう。あの国の国力じゃ勇者2人は厳しい。彼の代わりにと請われたのか?」

「アースデリアはダルニエルを切るなんて事はしない。あいつは歴代一の勇者になるんだ絶対にな」

「ほー、歴代一か。タケルの友達ならなっちまうかもな。だったらどこだ?」

「アルト聖教会さ」

「おー、大手じゃねえか。アースデリア王国よりも、何倍も資金援助は受けられるな」

「断っちまったけどな。宗教なんか深く係わるつもりはない。ロボの資金を援助するとか言われたけどな。宗教の資金でロボとか作ったらシートの座り心地が悪くなる」

業火の装備の材料はこの国から貰ったけど、あれは迷惑料だからな借りじゃねえ。

「確かにな。で、こんな所で何やってるんだ? 帰らねえのか?」

「直ぐにでも帰るさ。でも、さっきそこの交差点でケイオスを見るまではここが異世界だと信じてた。俺の他の召喚勇者の3人のうち2人は日本人だからな、疑う余地が無かった」

「へー、会えねえかなー。アニメやラノベの結末が知りたい」

こいつ、この前も言ってたな。

「時間軸が同じなら、俺達がこっちに来た時7歳くらいだからな、知らねえんじゃねえの?」

「なるほど。そいつは残念」

「もっとも俺達が暮らしてた日本と同じ日本かどうかは確認してねえけどな」

「ん? パラレルワールドってか? あながち有り得なくもないか」

「で、ケイオスに頼みがあってさ」

「大抵の事ならOKだぞ。タケルには刀を貰いっぱなしだからな。いやー、これは良い物だ」

と言う。

「この大陸の地図が欲しい。詳しければ詳しい程有難い」

「地図かー。向こうと違ってこっちの地図ってのはなー」

「最重要機密なんだろ? でも、ガーゼルに帰るにはどうしても必要だ」

「だよな。ちょっと待ってろ」

ケイオスは席を立つとどこかに行ってしまった。

「お待たせ」

程なく戻って来たケイオスの手には地図が握られていた。

「ほれ、俺が使ってる地図だ。持ってけ」

「いいのか? 自分で言っといてなんだけど。結構無茶なお願いだよな」

「商会が作った地図を写し取った物だ。きちんと測量されてはいないが、商人が作った地図だ。国が持ってる地図に比べても遜色ない出来だ」

「だろうなー、儲けに直結する情報だもんな。あちがとう」

頭を下げる俺に。

「友達だしな。それにこいつの礼には、まだまだ足りねえよ。機密の塊りって点ではこいつの方が上だろ? 何人知ってるんだ? あの事」

刀に手を掛けながら言った。

「んー。はっきり言ったのは、ケイオスだけだったと思う」

「ほーら見ろ」

「さて、歩いて帰れるって事が分ってホッとしたよ。帰還魔術どうしようかと思ってたからな」

「やっぱり、帰す事なんか考えずに召喚したのか。残りの3人は帰れねえって事じゃねえか。全く、クズだな。ところで、歩いて帰るのか? ゴーレムホース作るなら、資金の援助も材料の調達もするぞ?」

「いや、平気だ業火があるからな」

「ゴウカ? 何だいそりゃ?」

「ふふふ・・・。聞いて驚け! 巨大ロボだ」

「おーー! 完成したのか! すげーじゃねえか。もっと時間がかかるかと思ったぞ」

「今度機会が有れば見せるよ」

「ああ、楽しみにしてるぜ」

「さて、そろそろ帰らねえとな。おそらく業火のせいだと思うんだけど、今軟禁中なんだ」

「よくよくトラブルに巻き込まれるヤツだな。ここに居る事からして大した事ねえんだろう。それに、直ぐにでもガーゼルに帰るんだろ? 必要な物が有ったら言ってくれ大至急準備しよう」

「いいや、近々裁判でも有るんだろう。少しくらいは待っても良いさ、犯罪を犯して逃げ出したなんて言われるのは・・・・・・ん? 別にかまわねえな。今から出ようかな。すぐ帰ろうかなー」

今回の件、結果は気になるが、みんなの所に帰る事が最優先だ。1分でも早く出たいな、このまま業火の所に行こうか。

「準備してあるのか? 野営の準備とか、保存食とか。行き当たりばったりに出かけると、途中で余計に時間を食うぞ。明日1日有ればそれなりの物を準備してやれる2日待て」

「野営の準備はできてるし、金も用意した。食料はまだだな、じゃあ頼めるかな。俺は旅の準備とか自分でやった事ねえから、何を買ったらいいか分かんねえ」

「ふふふ。ああ、まかせろ! 途中で補充する必要は有るだろうが、この国を出る間は補充なしで行けるようにしないとな。追いかけられたら面倒だろ?」

「すまない」

「いいさ、友達だろ」

「ああ。だったら、明日中に裁判になったら付き合ってみるかな」

「注意しろよ。国や貴族なんてのは、常識が通用しねえぞ」

「こっちにもあいつらの予想外の切り札が有るさ」

「そうか、じゃあまたな」

「ああ、またな」

そう言ってケイオスと別れた。


部屋に戻って、まもーるくんを抱えてアプリコットの部屋に外から回り込み、明日の朝一でスバル達に渡してくれるように頼んでから、また部屋に戻った。

「さーて、素直に話しちゃくれねえだろうな」

クローゼットから男を出して、拘束を一度外してから手枷と足枷を付け直し男を起こした。

「ウッ、・・・ん!」

少し呻いてから俺に気付き驚いたように目を見開く。

「さーて、寝起きのところ済まないが話を聞かせてくれるかな?」

当然ながら、そっぽを向く。

「まあそうだろうな」

そう言いながら猿轡の上からさらに厚手の布を重ねて縛った。それから、2時間くらい断続的に低いうめき声が続いたが、部屋の前には漏れなかったようだ。



「タケル様、私に付いて来て下さい。武器の携帯はご遠慮願います」

「ああ、武器は持ってねえよ。で、何が始まるんだ?」

武器は夕べのうちに業火に仕舞って来た。どうせ取り上げられると思ったし、普通の人間を相手にするのに武器は必要ない。手加減は必要ないからな。俺を迎えに来た騎士が身体検査をしながら。

「はい、査問委員会が行われます。ゴーレム術師達がタケル様を訴えたそうです。タケル様が勇者と言うことで、裁判ではなく査問委員会となったようです」

そう言ってから、声をひそめ。

「裁判ほど公正に裁かれることは無いでしょう。結果は決まっているのでしょう、公正な判断で処分を決めた形が必要なのです。お気をつけ下さい」

「まあ、そんなもんだろうな。どっちが正しいかなんてのは問題じゃないんだろう」

「委員会の会場には我々騎士団は入れません。近衛が引き継ぎます。近衛騎士団長は人格者ですが、彼も貴族です。家の事を考えるでしょうし、近衛はあくまでも護衛が任務ですから」

ゆっくりと身体検査をしてから、会場に連れて行かれた。

「へー、仰々しいもんだな」

会場に入り。席に付いてから周りを見渡すと。多くの貴族が席に付いている。正面にはさらに豪華な服装の貴族だ。宰相は傍聴席の最前列に王女と並んで座っている。アプリコット達も傍聴席にいるな。俺から少し離れて座って居る連中がゴーレム術師達なんだろう。さて、どんな茶番が始まるのかな? 俺が部屋を見回していると、査問委員会を始める宣言がされ、早速ゴーレム術師の証言が始まった。

「先日王都の外に有る訓練場で我々が訓練をしているといきなり、ゴーレムが襲いかかって来ました。そちらの、勇者タケル殿のゴーレムであることは一目見ただけで分かりましたので、こちらとしては手出しもできずに、一方的な蹂躙を受け、その場で訓練していたアイアンゴーレム5体、ストーンゴーレム15体全てゴーレム核を壊されてしまいました。勇者タケル殿のゴーレムには勇者本人が乗り込んでいる事は皆知っております。こちらが手出しできない事をいいことに勝手な振る舞いをしたのです。査問委員会において適切な処分をお決めいただきたい」

その後、残りのゴーレム術師達が次々に証言し、最後に。

「・・・・・・と言った事が行われた訳です。なにぶん訓練地区内での事ですので証人は用意できませんでしたが、それこそ勇者タケル殿が計画的に事を仕組んだ証拠と言えるでしょう。国の財産であるゴーレムの半数を破壊した事になります。これは許される事ではありません。本来なら、厳罰に処す所でしょうが、勇者タケル殿のゴーレムの量産と運用を我々ゴーレム術師団に任せ、自分は勇者として我が国の発展の為に働く事を約束するなら不問にしてもよいかと考えます。異世界から召喚された勇者なのです。ちゃんと働いてもらいましょう」

なーんだ、証人を用意してねえのか。・・・それはそうか、あいつらは情報部第5大隊、宰相直属の部隊らしいからな。公文書には残せないって事かも知れないな。どうせ、今回の処分には宰相や王女も絡んでるんだろう。要求が露骨すぎるだろ、あれじゃ魂胆が見え見えだよな。

「ではこれで休会とする。午前の部は終了。タケル殿の証言は昼食を挟んで午後とする」

査問委員会の委員長が言った。

「だったら、午後は証人を呼んでも良いかい?」

俺が言うと。委員長は一瞬戸惑ったような顔を見せたが。

「証人がいると言うなら証言させるといい。証言の信ぴょう性は委員会で判断しよう」

そう言って部屋を出て行った。俺は査問委員会が有った部屋の隣の部屋に入れられた。昼食が準備されていたので食いながら待っていると。やはり宰相が入って来た。

「おい。証人とは誰の事だ?」

「ん? 聞いてどうする? 始末しに行くのか?」

「なんだと?」

「情報部第5大隊第3中隊んぼ連中を使えば簡単だろ? いや、もう始末する命令でも出したかい?」

「貴様! 何を言っている。情報部は第4大隊までしか無い」

「公式にはだろ。証人は情報部第5大隊第1中隊第1小隊所属だそうだ。王都の貴族連中を監視してるんだって?」

「どこまで知っている」

「さすがに第3中隊、暗殺部隊を宰相直属で組織してるなんて事が査問委員会の議事録に残るのは拙いのかい? ああ、議事録は改竄できるか。でも傍聴人や近衛騎士団員達は貴族やその子弟だもんな。自分たちを監視しているシステムが有るくらいは考えているだろうから驚かねえか。でも、暗殺部隊が自分達を何時でも始末できるように準備されてる事まで許容範囲なのかな?」

「貴様!」

「さっきの、処分の中身。露骨だったよなー。ゴーレム術師団はともかく。あんたら欲張りすぎじゃねえのか? だいたい、あんた報告受けてるよな? それなのに査問委員会かい? 茶番だよな。どうせ、あんたの差金だろ?」

「私がそのような事をするはずが無かろう。そんな証拠は無い」

「証拠? あるぜ」

「今回の査問委員会すらまともに乗り切れないような証人しか用意できんのだろ? 私が報告を受けていただと? ふざけるのも大概にしろ」

「なるほど。」

だったら、切り札を切るかな? 俺はろくおーんくんを出して、昨夜の会話を再生する。

『さて、この間俺が王都の外の草原で俺がゴーレムのテストをしてた時の事を話してくれ』

『草原でタケルのゴーレムが、背中から何か撃ちだし、その何かが核となってゴーレムが立ちあがった。その後・・・・・・』 

『森からゴーレムが20体出現し隊列を組んで、タケルのゴーレムに襲いかかる。アイアンゴーレムの胸には王国の紋章があることから・・・・・・』


『・・・全てのゴーレムを破壊した・・・・・・』

『・・・・・・報告書は提出済み・・・・・・』

『では、お前の所属と名前を言え』

『情報部第5大隊第1中隊第1小隊所属マッケイン』

『情報部第5大隊とは?』

『宰相直属の非公式な情報収集部隊』

『第1中隊とは?』

『王都の貴族の監視が主な任務』

『中隊は幾つ有る? 各々の中隊の任務は?』

『3中隊。第2中隊は王都以外の国内貴族の監視。第3中隊は国内外の王侯貴族の暗殺』

ここで、再生を止める。

「驚いたかい? 良い魔道具だろ? しかし情報部ってのは口が堅いな。大したもんだ」

「どうやったのだ・・・・・」

「ちょっとやそっとの拷問じゃ喋る訳無いってか?」

「当たり前だ」

「口に猿轡を噛ませてから、何も質問せずに黙って体中の骨を折ってはハイヒールで治すのを繰り返した。3本折って、ハイヒール。2本折って、ハイヒールってさ。2じか、いや1刻だな。50回くらいハイヒール掛けても正気を保ってたよ。いやー本当に大したもんだな」

そう言ってから、ニヤリと笑い。

「こんな事が公文書に残ったら。いや、委員会の参加者の誰かから国外に漏れたら一大事だよなー」

宰相は青い顔になっている。

「このままじゃー。俺は無実の罪を着せられて、この国に飼われる事になっちまうからな」

そう言って折りたたんだ紙を宰相の胸ポケットに突っ込んだ。

「午後はあんたに証言してもらおうかな? マッケインに証言させるよりいいだろ? 信用のおける筋から証言があって、午前中に報告が上がって来た事にすりゃあいい。証人の名前は証人の安全の為に伏せるが、身元はあんたが保証すればいいだろ? 証言席でそいつを読んでみてくれ。頑張れよ」

そう言って査問委員会の会場に入った。


「さっそくだが、被告の証人を呼んでもらおうか。原告側は証言者は多いが、全て身内の証言で有る。被告は証人を用意していると言う。被告の証人の証言を聞きたい」

委員長に言われ俺は。

「はい、俺の部屋に待たせている。マッケ「待ってくれたまえ!」」

俺の発言を遮り宰相が立ち上がる。

「先ほど、私のもとに今回の件について重要な報告が上がって来たので、私が証言してもよろしいでしょうか?」

「異例な事ですが、重要な証言とおっしゃるなら。どうぞ」

宰相は、証言席に付き。

「では、報告書を読ませていただきます」

そう言って胸のポケットから取りだした紙を広げた。少し固まってから、俺を振り向くと凄い顔で睨んできた。少しの間俺を睨むと、前を向き。

「では、報告書を読ませていただきます」

そう言って証言を始めた。なかなか堂々として落ち付いた口調で証言している。宰相は証言を終えると報告書を折りたたんで。

「以上の報告から分かる通り。タケル殿に全く落ち度が無い事を証言いたします。報告者の名前は本人の生命の安全の為伏せさせていただきますが、身元が確かである事は私が保証いたします」

委員長は、複雑な顔をしながら。

「ドルコネル殿がそこまでおっしゃるのです。その証言こそ真実でありましょう。原告の処分については後日改めて査問委員会を開き決定するものとします。以上を持って閉会とする」

そう言って部屋から出て行った。部屋の貴族達も部屋から順次出て行った。ゴーレム術師達は信じられない物を見るような目で宰相達を見ながら部屋を出て行った。しばらくすると、部屋に残ったのは俺と宰相そして王女それにスバル、コヨミ、アプリコットの6人だけとなった。宰相は、ポケットからさっきの紙を取り出すと。

「ふざけた事をしおって。何の真似だ」

と言って、紙を机に叩きつけた。紙には『ガンバレ(笑)』と書かれている。要は勧進帳だ。俺は。

「な? それが証拠だよ。報告を受けていなけりゃあんなに細かい証言が出来る訳ねえもんな。随分すらすらと話してたよな。あんたが俺を取り込む為に今回の事を仕組んだんだ」

それを聞いた宰相は。顔を歪め出口に向かって歩き出した。

『バーン!』

その時、部屋の扉が勢いよく開くと。役人が飛び込んできて。

「宰相! 緊急事態です。王都に向けてバシリスクの群れが向かっています。数は7匹! 中に1匹角付きが、バシリスクロードがいます。途中の村を3つ壊滅させて王都に接近中。このままではあと数時間で王都を来襲します」

「なに!」

「なんですって・・・」

宰相と王女だ。スバル達は良く分からないって顔をした。俺も知らない。バシリスク? バシリスクロード?

「でっかいトカゲかなんかか?」

俺が言うと、宰相が。

「Bクラスの亜竜だ。ただし角付きはAクラス。ブレスは致死性の毒。そんな魔物が7匹もいれば王都は壊滅的な被害を受けかねん」

「そりゃー大変だな。ファーーー」

欠伸をしながら、そう言って、部屋を出ようとする俺に向かって王女が。

「タケル殿どこに行くのですか!?」

「あ? 部屋に戻る。いろいろやってて昨夜良く寝てねえんだわ。査問委員会終わったからな昼寝する」

「「タケル!」」

とスバルとコヨミが驚いたように。

「タケルさん?」

とアプリコットが戸惑いながら。

「貴様!」

宰相が怒鳴る。

「あなた! なんの為の勇者なのです? バシリスクを撃退しなさい! 王都に危機が迫っているのです。なんの為のゴーレムなのですか!」

王女が叫ぶ。

「俺が勇者? 異世界から誘拐されたら勇者か? ふざけた事を言うなよ。だいたい今の査問委員会だって、あんたらの仕込みだろうが。罪を許して恩でも売るつもりだったんだろうが残念だったな。あんな茶番を仕組んでおいて、困ったら俺達を頼るってか? 恥ずかしいって言葉知ってるか?」

さらに。

「何の為のゴーレムかって? 俺の趣味の為以外の何物でもねえさ、ロボを操縦できるなら別に何かと無理に戦う必要は無いな。逃げ出すにしたってまだ時間あんだろ。じゃあな」

そう言って部屋を出る。


部屋に戻ってベッドに横になる。

「アプリコットやスバル達が狩りだされたりするんかな? だとすれば、出るしかないか・・・」

この国の為に何かやってやる必要は無いよな。俺達はイレギュラーな存在だ。俺達が何もしないで受ける被害は、元々受ける筈の被害だもんな。その事に責任を感じる必要は無い。騎士団の連中や食堂のおばちゃんなんかも気の良い人達だが、俺が面倒をみなきゃならない理由にはならない。あんな事をする奴らが中枢にいる国に生まれちまった事が不運だったってだけだ。これがアースデリアなら迷わず出るんだけどな。

「Aクラスの魔物か、業火でやれるか? 相手の魔力を乱すことが業火でもできれば・・・・。なーんて、考えてる時点で出るつもりになってるってことかな。甘いよなー俺」

『コンコン』

その時ドアをノックする音がする。王女か? 早いな。

「どうぞー」

俺が答えると。ドアが開いた。

「呆れた人ですね。本当に昼寝するつもりだったのですか」

「ろくに寝てねえって言ったろ。嫌味を言いに来ただけなら、寝かせてくれ」

「バシリスクが直ぐそこまで来ているのですよ。このままでは王都は壊滅です。あなたも死んでしまうのですよ」

「え? 王都が壊滅するのと俺が死ぬ事がどうして直結するんだ? やばくなったら逃げるぞ俺は」

「この国を見捨てて逃げ出すと言うのですか? あなたは。あなたはそれでも」

「この国を見捨てず、逃げ出さない理由って何だい? まさか、まだ俺を勇者だとかふざけた事を言うつもりか? 俺は誘拐の被害者だ。犯人達が魔物に襲われて混乱してるんだ。逃げ出すなんて当り前じゃねえか」

「誘拐だなんて、自分たちの力が及ばない問題に直面した時に、異世界から力有る者を召喚して何が悪いのですか! 勇者の力を借りて何が悪いと言うんですか!」

「悪くは無いだろ。力を貸しても良いってヤツに力を借りるなら文句は無いさ。ただし俺は御免だ」

「くっ・・・」

悔しそうに俺を睨む王女。その時、まもーるくんを着たアプリコットが現れて、ワンドを差し出しながら。

「タケルさん。この魔道具の使い方を教えてください!」

そう言えば魔術1発撃てれば良かったからちゃんと教えて無かったな。それにしても、やっぱりアプリコットは行くつもりか。おそらくこの子が行ってもどうにもならない。AクラスのバシリスクロードどころかBクラスのバシリスクだってどうこう出来る魔道具じゃ無いだろう。同じBクラスでもワイバーンなら落とせるかもしれねえが、あいつは飛ぶせいかBクラスだが強さや丈夫さはそれほどでも無い。

「アプリコット。そいつは中級魔術しか使えない。同じような炎の魔術を使っても上級とは違う。どれだけ威力が有るように見えても所詮は中級だ。BクラスのバシリスクはともかくAクラスのバシリスクロードには効かないと思うぞ」

王女が。

「練兵場にあれほどの穴を空けるほどの魔術です。中級とは言え効果が無いとは言えないのではないですか」

王女が部屋にいた事に初めて気が付いたのか、アプリコットが驚いた顔で王女を見る。

「俺も一度しか見た事がねえけどな。上級魔術と中級魔術には大きな違いが有るはずだ。炎系の魔術なら規模の問題じゃない。温度が根本的に違う。なんたって炎の色が違う。上級の方が温度が圧倒的に高い筈だ。爆発力が強くても温度が低ければ魔物は耐えるかもしれない」

俺が言うと、アプリコットが。

「炎の色ですか?」

「赤やオレンジよりも、青白い炎の方がより温度が高いですよね」

コヨミが言う。コヨミとスバルもまもーるくんを着て俺の部屋に現れた。

「正解だ。少なくともAクラスの魔物であるフィフスホーンには上級の炎の魔法も効かなかった。同じではないだろうが、おそらくAクラスの魔物には中級魔術じゃ話にならねえよ。それに、ブレスってどのくらいの射程が有るんだ? あのワンドだと頑張っても100m位しか飛ばないぞ。ブレスの射程より短いんじゃないか?」

そう言って、ベッドから起きあがると。アプリコットの側に行き、頭を撫でながら。

「アプリコットには無理だ。少なくとも今はな」

「でも、でも・・・・・・。あんなに多くの人達が。あんなに楽しそうにしてた人達が」

周りの国からむしり取った金のおかげで幸せなのかも知れねえけどな。

「アプリコットは優しいな」

俺は、アプリコットの頭を撫でながら。王女に顔を向け。

「王女様。俺は冒険者だ依頼内容が自分の手に負えるものなら。そして、報酬が危険に見合う物なら依頼を受ける事は吝かでは無い」

「・・・・・依頼します。報酬はどれくらいですか?」

「報酬は依頼人が決めるもんだ。俺から言い出したら、弱みに付け込むみてえじゃねえか」

「・・・・200万イェン。200万イェンなら私の裁量で動かす事が出来ます」

「200万イェン・・・・・・意外とケチだな」

「あなた! 口を慎みなさい!」

王女が言う。

「タケル!言い過ぎだ」

スバルが言う。

「200万イェンよ、十分に大金じゃないの」

コヨミだ。

「口と一緒に行動も慎もうか? この部屋で謹慎しててやっても良いんだけど? 俺達だけで逃げ出すなら業火が有ればまだまだ時間にも余裕が有る。街が壊れ始めて王城内が大混乱してからでも全然間に合う」

「くっ」

王女が悔しそうに俺を睨む。アプリコットが心配そうに俺を見ている。そろそろ、弄るのはやめておこうか。

「その金額だったら・・・・・・そうだな。倒した魔物の素材は全て俺の物と言う事で。魔核なんかは自分で使うから。それ以外の素材は相場の2倍で国に買い取ってもらおうかな。素材が流通しちまえば2倍なんて金額じゃ到底買えっこない。国も損はしないはずだ」

「分りました。それで頼みます。ただし、王都に被害を出したら報酬は無しです」

まあ良いだろう。王都に侵入されたらどうせ報酬にまわす金なんか無くなる。

「誰に言ってるんだ? 俺の業火を舐めるなよ。なーにがバシリスクロードだAクラスの魔物だ。ふっ、楽勝だよラ・ク・ショ・ウ」

そう言って身体強化をしながら昨夜壊した窓に向かって歩いて行く。

「報酬の準備しとけよ!」

窓に手を掛けて。

「「「ちょ! ここ4階!」」」

部屋を飛び出した。


「さて、ロボの次は怪獣だぜ。ワクワクするよな」

「店長、怪獣では無く魔物です。だいたい、ワクワクするってどうなんですか? 不謹慎でしょう」

「巨大ロボの相手って言えば、ロボと怪獣と相場が決まってるだろ。この気持ちをワクワクと言わずしてどう表現しろって言うんだよ」

業火に乗り込んで稼働前のチェックをフィーアがしている処だ。

「まるで、他人事ですね。この子は魔物と戦った事が無いんですよ。不安がってるじゃないですか」

「何言ってるんだよ。業火なら全く問題無い。まあ、街に近付ける訳にはいかねえからな。ADRで片を付ける。残弾ってどのくらいある?」

「この前使った後補充していませんから。徹甲榴弾は残り5発です。元々カートリッジ1つしか作ってませんから」

「あー、そういや作って無かったな。徹甲弾でいいな、ヘッドショットならいけるだろ」

徹甲弾で頭蓋骨を抜けなきゃどうせ徹甲榴弾だって、効きやしない。

「頭蓋骨が貫ければ、徹甲弾でも脳みそは無茶苦茶になる」

「店長、稼働前チェック終了。問題無しです」

「OK、魔結晶接続。業火起動!」

「はい店長」

「徹甲弾のカートリッジを2個装備。ADRのカートリッジも換装してくれ」

「はい、店長」

「カートリッジ換装後ADR接続」

「はい、店長」

直ぐに軽い振動が伝わって来た。

「接続完了しました」

「さーて、行こうか。怪獣退治だ!」

業火を立ち上がらせると外に向けて歩き出す。

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