あれはロボ、ロボ、ロボ! いいえ、あれはゴーレムです。 知ってるし。
森から現れたゴーレムは20体。さっきデータ取りの相手をさせていたような、腕が長く足が短いストーンゴーレムが15体。まるでフルプレートメイルを着た様なアイアンゴーレムが5体だ。さーて、どんな用件なのかな? 普通のゴーレムなら術師が近くに居るはずだ。
「ここはゴーレムなんかの訓練に使う場所らしいからな。訓練に付きあってくれるのかーな?」
「少なくとも、この子を敵と見なしているようです。隊列を組みながら向かってきます」
「術者達はどこに居る? フィーア。ハッチを開いてくれ」
慣れていないせいかコクピットの中では魔力が感じにくい。おそらくあの辺りだと思うんだけどなー。森とは反対側に小さな丘が有る。あそこならこの平原が良く見える筈だ・・・・・・居た。丘の上に人が数人いる。あいつらがゴーレム術師か? 他にも1人・・・か? コクピットに戻ってハッチを閉じる。
「フィーア、さっきの動きの最適化って今出来るか?」
「完璧にするには、時間が必要です。でも、取りあえずファンクションキーに仮登録は済ませてありますから。あの程度のゴーレムに遅れは取りません」
「よし、じゃあやってみるか」
「でも、良いんでしょうか? あれって、この国の紋章が入ってますよ?」
「え? ・・・・・・へー本当だな」
ヘッドマウントディスプレイをズームさせて見ると、確かにアイアンゴーレムの胸には紋章が入っている。どう言うつもりだ? 魔核が惜しくなったデブの差し金か? それとも、俺たち勇者に含むところの有る連中でも居るのか? それとも、俺個人に恨みでも・・・・・・? うん、その線なら有り得るな。
「まあ、せっかく相手になってくれるってんだ。付き合ってもらおうか。タップリとな」
ニヤリと笑いながら、スティックのボタンを何度も押して、地面にマーカーを置いて行く。
「フィーア。出力100%で発動だ」
「はい、店長。オーケーです」
ダイヤルで魔法を選ぶと左手薬指のボタンを押し、魔術を発動させる。
『ゴゴゴ・・・・』
地響きと共に高さ30m直径300m程の土の壁が1体のゴーレムを弾き飛ばしながら立ち上がり、15体のゴーレムを囲んだ。まあ、いくら頑張っても越えられないだろう。集団戦闘は初めてだからな、1度に相手が出来るのは囲まなかった5体がいいところだろう。そいつらは、囲まれた連中を気にすることなく業火に向かってくる。
「いよいよ、初めてのロボ戦だな。ロボ対ロボかー。燃えるなー。ワクワクしちゃうね」
あれは、ゴーレムじゃない。ロボだ!
「あれはロボ、あれはロボ、あれはロボ」
自分に暗示をかけるように言うと。
「ロボ? いいえ、ゴーレムです」
「フィーアー、気分の問題だ。ロボで良いじゃねえか」
「はい、店長」
フィーアと話しているうちに、5体が近付いてくる。残りは未だ壁から出られない。スティックを操作して先頭のゴーレムに。いや、ロボに向かって走り出した。あいつらは1体を先頭に左右に2体づつ後ろに引いて、くさび形の陣形で向かって来る。左右両方のファンクションキーを、Cに合わせる。業火は今、刀に手を添えいつでも抜刀出来る姿勢で走っているはずだ。マーカーを先頭から右に3体の腰に付け直す。先頭のロボがパンチを出そうと腕を引いた処で、アクセルを踏み込んでスピードを上げ、真横に並んだタイミングで、左の人差し指のボタンを押し込んだ。少し遅いタイミングで抜刀しスピードが乗っていないにもかかわらず一太刀で先頭から3体全てのロボの腰を両断する。
「さすが、高周波ブレード!」
ブレーキを蹴飛ばし、スティック操作で振り返り。残った2体が、止まろうともたついている処で、マーカーを付ける。そして右手の小指のボタンを押し込むと。ブースターとして、弱めのエクスプロージョンを使う。両肩と腰そしてふくらはぎに、すり鉢状のパーツを付けその底でエクスプロージョンを爆発させる事で瞬間的な加速力を得る。
『ドーン!』
背中から爆発音がして、同時に業火が背中を蹴飛ばされたような勢いでロボに迫る。左手中指、右手中指のボタンをタイミングを合わせて押し込む。残った2体は右から左、左から右にと、次々に腰を斬られ崩れるように倒れた。
「よーし、良い動きだ。フィーア、これで最適化終わってねえのか?」
「はい、もっとも無駄の無い動きを選んでいますが、データが少なすぎます。最適とは言えません。まだまだ、詰める余地はあるはずです」
「そうか? 十分じゃねえの? 今だって、ロボをバッサリじゃねえか」
「十分ではありません。あの程度のゴーレムですから問題有りませんが、今の場合最も細い部分を切断すべきです。そして、あれはゴーレムです」
「もう、ロボでいいじゃないか」
「ところで店長。ゴーレムが復活していますが。平気ですか?」
振り返るとモニターにロボが立ち上がるのが映る。ストーンゴーレムはゴーレム核に魔力がある限り復活する。だから、核を破壊すれば再び立ち上がる事は無い。ただし、身長12mのロボの体内に有る直径20cm程の核を刀で破壊するなんてのはかなり難しい。まあ、魔力感知がコクピットの中から出来るようになればやれない事は無い・・・・・かな? エクスプロージョンとかで核ごと壊すのが普通の対応だ。動きが鈍いし、だいたい核は体の中心付近にあるから、数発撃ち込めば壊せる。
「でも、魔力が切れればこんなもんだな」
十数分後、業火の足元には魔力切れを起こし体を維持できなくなったロボだった石の山が5つ出来上がっていた。体を維持し動かすのにも魔力は必要だが、自然回復もするので激しい動きをしなければそうそう魔力切れを起こしはしない。しかし、破壊された体を再構成するには多くの魔力を必要とする。つまり、数十回も破戒してやればこうなる。
「さて、フィーアデータは取れたか?」
「はい、店長。いい感じです。少し時間をいただければ、もう少し良い動きが出来ますがどうしますか?」
「じゃあ頼もうかな。次のラウンドはこっちの好きな時に始められるしな」
そう言って、アースウォールで作った囲いの方に目をやった。土木工事が得意なゴーレムと言っても、業火が全力で作ったアースウォールを壊すのは簡単じゃない。とは言え、追加でアースウォール作ってやらないと、そろそろ効果が切れるだろう。だいぶ移動したから、距離は500mくらいは離れたかな? そんな事を考えていると。
「店長、データの整理終わりました。今のところはこんなものでしょう」
「おー、ご苦労さん。そろそろ壁も壊れるだろうし、ADR撃ってみようか。フィーアADRセットアップだ」
「はい、店長」
フィーアの返事がして。
『ウィーー・・・・』
背中から、音がし始める。今、ADRはガイドレールが立ち上がり機関部と重なるように仕舞われている砲身がガイドレールに沿って登っている筈だ。
『ガシャ』
音と共に、軽い振動が伝わる。登りきった砲身の後端が機関部に納まった音だ。
「店長、セットアップ完了です」
「ADR、射撃位置に移動」
「はい、店長」
支持しているアームが動いてADRを射撃位置に移動させた。モニターに砲身が映り込んだ事でそれを確認し。ファンクションキーを動かしてAを表示させる。右手薬指のボタンを押し込む。これで業火の右手がグリップを握る。左手中指のボタンを押し込む。これで腰に装着していた徹甲榴弾タイプの砲弾を納めたマガジンをADRにセットする。最後に右手中指のボタンを押し組む。グリップを前後させる。この動作でマガジンから薬室に砲弾が給弾される。後は、右手人差指のボタンを押し込めば発射だ。
「やっぱりトリガーは人差指だよな。お、崩れた」
アースウォールの効果が切れ囲いが崩れた。土の山が出来上がった。
「あー、つぶれちゃったか? 勿体ない事したかなー。データ取りもっと出来たのになー」
「店長、心配無いみたいですよ」
土の山を見ると、ムクムクとロボ達が立ちあがった。
「おー、意外と丈夫だな。半分以上残ったか」
立ち位置のせいか丈夫なロボだったのかゴーレム核が土に押しつぶされなかったやつが思ったより多いな。アイアンゴーレムのロボが3体、ストーンゴーレムのロボが8体立ちあがった。
「ちょうど良い。アイアンゴーレムのロボからいくか」
モニターをズームアップしてアイアンゴーレム3体全部の紋章部分にマーカーを付けた。ズームを戻し、こっちに向かい先頭になって走り出すロボのマーカーをダイヤルとボタンで選択する。
「フィーア。爆発タイミングを接触から1mにセットしてくれ」
「はい。・・・セット完了です」
「ありがとう。さあ、いけー!」
右手人差指のボタンを押し込むと。
『ドグォーーーン!』
大音響と振動と共にADRが火を噴いた。同時にモニターの中のロボの胸に大穴が出来上がり、もんどりうって倒れ込む。すかさず右手中指のボタンを押し込みグリップを前後させる。次のマーカーを選択する。業火は一度崩れた体勢を発射姿勢に戻す。トリガーボタンを押しこむ。
『ドグォーーーン!』
今度はロボの胸だけでなく頭も吹き飛ばす。膝から崩れ落ちるロボを見て。
「射線がちょいと安定しねえか?」
『ドグォーーーン!』
三度目の発射でもロボに穴を空ける。
「店長、アイアンゴーレムばかり狙うのはなぜですか? アイアンゴーレムとの近接戦闘データ、取らなくて良いんですか?」
「データなんか、どれでも大して変わらねえだろ?」
「それはそうですが。アイアンゴーレムとストーンゴーレムでは動きが違いますから。サンプルは多い方が良いんですけど」
「わりいわりい。なんか、あの紋章見たらどうしても撃ち抜きたくなった」
「まったく、仕方の無い店長ですね」
「まあ良いじゃないか。そんな事よりADRのテストは成功だ」
ADRの砲弾は、先端がオリハルコン製で、中に魔石が2個入っている。対物障壁用とエクスプロージョン用だ。手間もかかるし金もかかる。勿体ないから今日は3発でやめておこう。
「フィーア、ADRを収納してくれ」
「はい、店長」
今度は、接近戦だ。さっきよりも数が多いからな。ファンクションキーをC2に合わせて、っと。
「店長、ファンクションキーの文字って意味が有るんですか? AとかCとかFとか使ってますが?」
「ん? AはADRだし、Fは炎系の魔術だ。そしてCは、チャンバラのCだ。C2は二刀流のことな」
「あー、了解です。ADR格納出来ました」
「よし! じゃあ、ADRを接続解除して、待機させてくれ」
「はい」
少し待つと。
「店長、ADR切り離しました」
「よし! 行くぞ、フィーア!」
「はい、店長」
そう言ってこちらに向かって来るストーンゴーレムのロボに向かって走り出した。土の山から出るのに手間取ったヤツも居たようで、走って来るロボは、さっきと違ってバラけている。
「いい感じにバラけてるな」
そう言いながら、左手小指のボタンを押しこむ。業火は左右の手でそれぞれ刀を抜いた。
「ロボを操ってる奴下手くそだな」
それとも、慌ててるのか? 統制が取れていない。あんな動きしかさせられないからゴーレムは使えないなんて言われるんだよな。
「モニター越しじゃ魔力感知しずらいな。慣れれば出来るようになるかな」
モニター越しの魔力感知の訓練をさせてもらうか。せっかくの機会だしな。最初は魔力操作でやってみるかなー。ブレーキペダルを踏み込み業火を止める。少し腰を落とし右の刀を頭の上に。左の刀は水平にして先端を右に引いて構える。業火を抑え込もうというつもりなのか、両腕を前に突き出して向かって来る。もう少しだ。
「今だ!」
伸びあがりながら左手の刀を振り抜きロボの両腕を切り落とし、右手の刀を振り下ろした。頭上から股間に掛けて2つに分かれたロボは左右に分かれ倒れた。
「ちっ、ずれたか」
ゴーレム核を狙ったんだけどなー。ゴーレム核を壊せば、ロボは形を留められずに崩れる筈だからな。分り易くて良いな。モニターをにらみながら、次のロボに向かって走り出す。一応アクセルを踏み込む。操作に慣れないとな。左手で突きを放つ。胸に突き刺さるが、ロボは崩れない。素早く引き抜き、今度は右手の刀で逆袈裟に切り上げる。2つに分かれたロボの上半身が滑り落ちるが、やっぱり崩れはしない。
「なかなか難しい」
「良いデータが取れてますよ。もっとお願いします」
フィーアの声を聞きながら、次のロボに向かう。今度は袈裟切りにする。今度のロボは粉々に砕けた。
「よし!」
成功だ。狙い通りにゴーレム核を破壊出来たみたいだな。狙い通りとはいえ、魔力感知で核の位置を正確に掴めた訳ではない。でも何となく場所を感じれれるようになってきたか?
「次!」
次々に襲ってくるロボを切り倒していく。7回目で再びロボが砕ける。何だか今のは良い感じだったな。
切り捨てられては起き上がってくる残り6体のロボ全てのゴーレム核を砕き終わるころには何とか核の位置が分かるようになった。
「ふー。何となく分るようになってきたか?」
「店長、今のデータを使って最適化作業を行います。まあ、とりあえずと言うところですが、あれが来るまでには何とか形にしてみます」
「ん? あれって? どれ?」
「8時の方向です、最初に魔力切れを起こしたゴーレムが立ちあがりだしました。もう直ぐこちらに向かってくるでしょう」
「あー、そう言えば、放置してたな。復活するだけの魔力が溜まったんだな。・・・・・・何と言うタイミングの良さだ」
「はい、ちょうど良いタイミングです。もう少しだけ待ってください」
そんな事を話している間にも、ロボ達は近付いて来る。後100mと迫ったところで。
「店長、終わりました。さっきよりも大分マシなはずです」
「おう、ご苦労さん。さーてどんなもんかな」
俺は迫ってくるロボに次々とマーカーを付ける。付け終わると、レバーとペダルを操作しロボに向かって走り出した。先頭のロボを袈裟斬りにする。ロボは砕けて石の山になる。次いで、頭から股間まで真っ二つに切り裂く。こいつも砕けてしまった。
「核の場所が分かるようになってきたし、業火の太刀筋が良くなってるな。フィーア、ありがとう」
さっきまでは、取り敢えず刀を振っている感じだったが、今は刀を当てる場所や角度が大分良い感じになってる。
「まだ、十分とは言えませんが、今の段階では仕方がありません」
フィーア的にはまだまだなのかも知れねえが、このロボを相手にするくらいならこれで平気だな。よし! 残りもサクッといこうか。考えているうちにも、1体のロボを袈裟斬りにし、残りのロボの1体を逆袈裟、最後のロボの胸に刀を突き入れると、そいつも崩れ落ちた。核の位置は分るようになったし、太刀筋の最適化も進んでいる。
「いい感じだな、フィーアのおかげだ。これは、最適化が楽しみだな」
「はい、お任せください。この子の力はこんなものでは有りませんよ」
「ははは、期待してるよ」
「はい、店長」
「ん? ロボを操っていた連中は撤収して行くみてえだな」
と言うより。大慌てで逃げだした感じだな。さーて、これからどうなるかな?
「明日は町に行こうと思うけど。フィーアも行くか?」
「あたしは、この子と一緒にいます。こんな事が有ったばかりですから、何か起こるかもしれません。この子だけでは対処できませんから」
俺かフィーアのどちらかが搭乗しなければ業火は戦闘ができない。
「この前も言ったけど、お前達に何かしようとする奴がいても極力殺すなよ。ちょっとやそっとじゃお前達を傷付ける事なんかできねえんだから」
「でも、騎士団に攻め込まれたり、魔術師団に攻撃魔術を撃ちこまれるとちょっと困りますよ」
「殺すなと言うのは、俺の勝手な都合だ。自分の命と引き換えにする事は無い。蹴散らせ」
「はい」
どうせ、今日の成果を見て業火を奪いに来るくらいだろう。誰が来ようと関係ない、例え国の役人と言えどもだ。この国には貸しはあっても借りは無い。刀もAMRもこの国から貰った材料で作ってはいるが、向こうで作ってたあった物を又作ったもん。俺の時間を無駄に使わされただけだ。
「格納庫に戻るぞ。予定より長く動かしたからなー。点検してやらねえとな」
「はい、店長。この子をよろしくお願いします」
「フィーアこそ、最適化頼むぜ」
格納庫に戻ると、そこには身形の良い男たちが俺を待っていた。
「で、用件は何だい?」
「はっ、お館様よりこれをお持ちするようにと」
「これ?」
男たちの足元には大きな木箱が3つ置いてある。
「魔核か?」
「はい、Aクラスの魔核15個です。お受け取りください」
蓋を開け中を確認した。
「確かに。受領書は?」
「必要ございません。では、私達は失礼します」
そう言って帰って行った。
「フィーア、こいつを仕舞っておいてくれ」
「この子の物入れでいいんですか?」
「ああ」
コクピットの両横にトランクスペースを作っている。自動車のトランク程しかないが、とりあえずちょっとずつ色々な物を仕舞ってある。そのうちこの国を出るつもりで野営道具一式って処だ。いつになるか決めてねえから食料はまだだし、金もねえけど。
「金貨なんか初めて見ました。1人3枚ずつも貰っちゃいましたね」
アプリコットが嬉しそうに言う。
「正確には小金貨だけどな」
俺が訂正する。
「僕も金貨は初めて見たよ。1枚1万イェンって言ってたけど。どのくらいの価値なんだろうな」
スバルが言うと。
「100イェン有れば、お腹いっぱいご飯が食べられるて言ってましたから。1枚で10万円くらいなのかしら? もっとも工業とか無いんだから服とかは高いのかな? どっちにしても1人に3万イェンってけっこう大金よね。最も、報償として国から出すんだからあまり小額と言う訳にもいかないわよね」
コヨミがそんな事を言った。
「んー、スバルの鎧を買うにはちょーっと心許無いかなー。結構するんじゃないか鎧って? 宰相のおっさんも鎧作るのに鋼が足らねえみたいな事言ってたしな。意外とセコイよなー」
俺が言うと。
「え? そうなのか? 4人合わせて120万円分だろ。結構良いの買えるんじゃないかな」
「えー、あたし達の分もスバルの鎧買うのに使っちゃうの? あたし達だって洋服欲しいわよねー。アプリコット」
「え? ご飯300回分のお金で? お洋服買うんですか? えーーーーーー? そんな贅沢したら。バチが当たりますよ」
「アプリコット、贅沢じゃ無いわよ。女の子なんだから、洋服を買うのは必要経費よ」
コヨミが拳を握りしめ力説している。
「とりあえず、武器屋行ってみようぜ。そこをちょっと覗いてから服屋に行ってみよう」
そう言って街並みを見渡す。そこには幅広い通りがあり。道の両端には石造りの建物が立ち並んでいる。建物はだいたい3階から4階建てで、まるで計画されたように整然としている。どの建物も立派と言うか、ヨーロッパの街並みのようなと言えばいいのか。アースデリアの王都より随分立派だ。街並みを見渡していたコヨミは。
「まるで、ヨーロッパの街みたいね」
「暦美って、ヨーロッパ行ったことあんの?」
「有るわよ。昴は無いの?」
「有りませんー。外国なんか行った事ねえ」
俺は、銃を撃ったり、銃弾をかわす訓練の手伝いの為に行ったことあります。アメリカです。
「まあ、相場も分かんねえから適当な武器屋に入ろうぜ」
「おいタケル。僕の防具だぞ。適当ってなんだよ」
「だって、俺が改造するんだぞ。見た目重視でいいよ。ああ、動きやすさだけは気にしたほうがいいぞ」
そして俺の意見どおり、まずは手近な武器屋に入って行った。
「高いなー。革鎧しか買えない。それでも高いのは買えない」
とスバル。
「本当よねー。ちょっと良いなと思った服なんか1万5千イェンよー。高すぎるわよねー。オーダーなんかしたら幾らくらいかかるのかしら」
これはコヨミ。さりげなくオーダーとか言いやがったな。こいつどこのお嬢様だ」
「あたし、あんなに素敵な服なんか着ても似合いません。隅の方に有った服でも贅沢すぎます」
そして、アプリコットが順番に言う。
「いや、アプリコットは可愛いよなー。何着ても似合うと思うけどな」
スバルが言うと。
「そうよ、アプリコットはもっと自信を持たないと。せっかく可愛いんだから」
コヨミも言う。
「そんな・・・・・」
アプリコットは真っ赤になってモジモジしている。それにしても、ガーゼルよりも物価高いな。飯は100イェンって言ってたし、1.5倍くらいか? 服はもっと高いな。ケーナの服を買った時はもっと安かったよな。俺は。
「宝飾品店ってどのあたりにあるんだろ?」
「えー。アクセサリーは要らないわよあたしは。服があんなに高いんですもの。アクセサリーなんかもっと高いわよ」
「はい、あたしも要りません。お洋服だけでも贅沢なのに。宝石なんて」
揃って言う2人の女の子に。
「別にアクセサリーを買う訳じゃねえよ。金が足らないみたいだからな。錬金術ってヤツを見せてやるよ」
「え! タケルは錬金術も使えるのか? 鉛から金を作るれるのか?」
「そんな事出来る訳ねえだろ。鉛から金が出来るんなら、業火を作るのにあんなに苦労する訳ねえ」
「じゃあ、錬金術ってなに?」
「まあ、まかせろ」
「あ、あれそうじゃないか?」
スバルの指差す方を見ると。宝石の意匠を模った看板を掲げる店が有った。3人を引き連れ店に入る。
「いらっしゃいませ」
丁寧に挨拶する店員に。
「18金のインゴットと小さなルビーを少し欲しいんだ。それから店主に会えるかい?」
「はい、では、そちらにお掛けになってお待ちください」
案内された、応接セットに腰掛け待っていると。店の奥から初老の男がやってきた。
「ようこそいらっしゃいました。18金のインゴットとルビーでございますね? で、どのくらい用意すればよろしいでしょうか?」
「ああ、ルビーは小さな物で良いが10粒。残りは18金で。予算は10万イェンだ」
「まだ、お若く見えますが。初見のお客様とは現金取引となりますが」
「ああ、当り前だよな」
そう言って、財布から小金貨10枚を取りだした。
「失礼いたしました。では直ぐに用意いたしましょう」
そう言って店の奥に戻って行った。
「金なんか買ってどうするのよ。2万イェンしか残らないわよ」
「まあ、見てなって」
店主が手にトレーを持って戻って来た。トレーの上には小さなルビーとインゴットが5個乗っている。
「では、こちら18金は500gになります」
「ああ、じゃあこれ」
と言って10万イェンを渡す。
「ちょっと、ここを借りて良いかい? それから、ご店主は時間を少し取ってもらえるか?」
店主はちょっと不思議な顔をしたが。
「はい、結構です」
と言ってくれた。俺は、インゴットを2個手に取り、モデリングで、形を変えていく。横に座ったコヨミ達3人は驚いた顔で、俺の手元を見ている。ほんの僅かな時間で金の塊だった物が、見事な髪飾りになった。薔薇を立体的に模った大きめの髪飾りにルビーを3個摘んで飾り付けた。
「素敵・・・」
「キレイ・・・」
とは、コヨミとアプリコット。
「・・・・・・」
しばらく、黙って髪飾りを見ていた店主は。
「その若さで、素晴らしい腕前ですね」
「これ。幾らで買っていただけますか?」
「そうですな。確かに素晴らしい出来では有りますが、髪飾りではなかなか買い手が付きにくいですね。25万イェンで、いかがでしょう?」
2.5倍になったか。しかも、まだ材料は残っている。
「んー。だったら、これでは?」
そう言って。残りの材料全てを使って、揃いの意匠のネックレスとイヤリングそしてブローチも作って並べた。
「これなら、貴族に受けるんじゃないか? パーティに付けて行っても十分見栄えがするだろ?」
「確かに、これなら買い手に心当たりが数名おります。即金で80万イェンでいかがでしょうか?」
「「「え!」」」
3人が驚いている。
「・・・・・・」
俺が黙っていると。
「売れた金額の50%でよろしければ、おそらく100万イェン以上お渡しできるでしょうが、即金とはいきません」
「じゃあ、80万イェンで」
「はい、ありがとうございます。良いお取引が出来ました」
「こっちこそ、ありがとう」
金貨8枚を受け取り店を出た。
「800万円が直ぐに手に入っちゃった。確かに錬金術だわ」
「それにしても即金でそんなに」
「目の前で作ったからな。真贋の鑑定する必要が無いし。貴族の所に持っていきゃあ250万や300万になる客を抱えてるんじゃねえの?」
「えー、何だか。損してない?」
「元は10万イェンだぞ。不満の無い取引だったよ」
「それもそうね」
「さーて、これで金の心配無く買い物できるよな。みんな遠慮しないで欲しい物買っちゃえよ。アプリコットも遠慮したらダメだからな」
「「「はーい」」」
「モグモグ・・・ング。でもさー、熱心に見てたよな3人とも」
「それはそうだろう。自分の命を守ってくれる物だ、真剣にもなるさ」
「ショッピングなんて久しぶりだもの」
「あたしは、服を買うなんて初めてです」
「そう言うタケルは何も買わないのか?」
「武器や防具は持ってるしな。特に必要な物は無いからな」
買い物を済ませて遅めの昼飯を食べているところだ。俺とコヨミはパスタ料理を、アプリコットとスバルは魚料理の定食を食べている。いつもの食堂の方が量は多いし、結構美味いんだが、肉中心なんだよなー。たまにはこういった物も食べたい。皆も同じ意見だったみたいだ。
「なあタケル、僕の鎧はどうだい? まもーるくんに改造できるかい?」
「どんな鎧でもベースにできるさ。まあ、鎧じゃなくたっていいんだけどな。ブーメランパンツでも平気だぞ。表面積が小さいから、別に魔結晶を入れるリュックとか必要になるけどな」
「ップ」
コヨミが吹きだす。
「ブッ、ブーメランパンツは勘弁してくれ」
「ブーメランパンツってなんですか?」
そう言うアプリコットの耳に顔を寄せてコヨミが何かささやくと。アプリコットは真っ赤になってしまった。
「で、でっ、でも真っ白な革鎧凄く素敵ですよね」
「おー、アプリコットもそう思う? だよなー、ホワイトワームの皮だってさ」
「えー。ワームって虫ーーー?」
「あのな、ファンタジー的には亜竜だぞ」
「そうだな、Bクラスの亜竜だ。飛べないからワイバーンよりは簡単に狩れるかもしれないが、かなり強い魔物だぞ。一流の冒険者パーティでないと難しって聞いたな。俺が居た世界でだけどな。皮は丈夫なんじゃないかな」
「タケルのおかげで買えたけど。40万イェンだもんなー。でも本当に良かったのか?」
「何を今更言ってんだよ。せっかく異世界で勇者になったんだ。それっぽい装備の方が気合が入るだろ」
「そうそう、あたし達だって、貰ったお金以上の買い物しちゃったし、今更でしょ」
「はははは・・・・」
笑うしか無いって感じのアプリコットの頭をグリグリ撫でてから。
「さて、そろそろ帰ろうか。別に門限が有る訳じゃないだろうけど。これ以上買い物しても、俺は靴下1枚も余計には持てねえぞ」
俺は両手に荷物を持って立ち上がる。
「本当だよな」
スバルも自分の鎧の他に服の入った包みを持ち上げる。
「あら、か弱い女の子達にそんな荷物を待たせるつもりなの? 男の風上にも置けないわね」
「あのー、あたし、自分の分は持ちます」
「いや、アプリコットは気にしなくて良い。今日一番買い物をしたのはコヨミだ」
「そうそう、僕の事は気にしなくていいぞ。アプリコットじゃこんな荷物もてないさ」
会計を済ませて、王城に向けて道を歩いている。俺達の横を、結構豪華な馬車が追い抜きちょっと先の交差点を曲がって行った。紋章が無いから貴族では無いのか? と思いながら何気なく御者席を見るとそこには御者の他に護衛だろうか、もう1人座っていた。
「ん?!」
と思わず声が出て、立ち止った。俺を振り向いたスバルが。
「タケルどうしたんだ?」
今の馬車? いやいや。でも。まさか。
「先に帰っててくれ」
そう言って、荷物を置いて馬車を追いかけた。
「おい! タケル!」
「タケル? 荷物!」
「タケルさん」
3人の声を置き去りにして、馬車を追いかけた。