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魔法少女爆誕!?

練兵場には、騎士団員、近衛騎士団、魔術師団員もちろん今日は訓練日になっている連中だ。そして、例のデブ、ヤセ、チビの3人。そしてカメリア王女にドルコネル。王城にいる手すきの貴族や官僚など。かなりの人間が集まっている。

「タケルさん。お城ってこんなに人が居たんですね。あまりに多すぎて、ビックリです。こんなに沢山の人を一度に見たことなんか初めてです」

アプリコットが言う。

「そうなの? あたし達はこんなのより多い人ごみなんか結構有ったから。特に驚くほどの事は無いけど、アプリコットの居た所はそうだったんだ」

コヨミが言う。そりゃそうだろう日本の学校のや東京にでも居ればこの人数は直ぐに集まる。

「戦争にでもなれば、それこそ数千人規模で軍が集まるんだろうが、大きな町に住んでなきゃ見る機会は無いか」

俺が言うと。

「はい、小さな町のはずれにある森の中に2人で住んでいましたから」

なるほど、だったらこのこれだけの人数を見るのが初めてってのもうなずける。上がったりしねえかな? まあ、どれだけ緊張してもトリガーを引いてワンドを振り降ろすくらい出来んだろ。

「さて、そろそろやるか」

俺は、練兵場の中に進み出て。おおごえくんを取り出した。このおおごえくんは、昨夜慌てて作った物だ。

『お集まりの皆さん。これからアプリコットの才能を披露しようと思う。知っての通りアプリコットはまだ魔術を使えない』

そこで、リボルバーワンドを取り出し。

『で、この魔道具の登場って訳だ。こいつは記述魔法が発動する魔道具だ、魔力さえ有れば誰でも中級までの攻撃魔法が使える。ただし、一度に出せる魔力の量によって威力が変わる』

そこで、ワンドをしまい。

『魔力量の少なそうな人間、平均的な魔術師、そしてアプリコットの順でエクスプロージョンを撃ってもらう。攻撃魔術が使えないアプリコットがどれほど魔力をもってるか一目瞭然って訳だ。では、そこの騎士団の誰か。こいつを使ってみたい奴がいたら手を上げてくれ』

と言って、俺が手を上げると。騎士団の中からぽつぽつと手が上がる。

『じゃあ、あんた。こっちに来てくれ』

1人を指差した。出て来た騎士に向かって。ワンドを手渡し。

「このトリガーを引いたまま。こいつを持ち上げて、的に向かって勢いよく振り降ろしてくれ」

「ああ、分った」

騎士は頷くと。ワンドを受け取った。取りつけた六芒星はゆっくりと回り始める。あー、あまり魔力量は多く無いな。総魔力量によって、回転速度が変わるように術式を組んで有るからな。その場で、トリガーを引くとワンドを振りかぶった。頭上に直径10cmに満たない火球が出来上がる。あー、核とほとんど変わらないサイズの火球しかできないか、あれじゃファイアーボールより威力が弱いか?

「「「「「「おー!」」」」」

しかし、見物している連中からは歓声が上がる。騎士が30mほど向こうの的に向けてワンドを振り下ろす。火球が弱々しく飛んで行き、的のちょっと手前で地面に落下すると。

『ボワン』

何だか情けない音がして直径50cm程に火球が広がった。少しだけ地面が削れた。

「「「「うわー!」」」」

「「「「はん!」」」」

「「「「なーんだ」」」」

歓声や馬鹿にした声に呆れ声など、様々な声が上がった。騎士は俺の方を振り向くと。

「撃てたぞ。俺がエクスプロージョンを撃てた!」

俺にワンドを返しながら嬉しそうに言った。

「威力が弱いのは仕方がねえが、確かにエクスプロージョンだった」

「ああ!」

騎士は、騎士団の元に戻ると歓声で迎えられた。次いで、魔術師団から1人出て来た。魔術師だけあって、こいつは直径80cmくらいの火球を飛ばした。通常の詠唱魔法よりは大きな火球だな。今度も的を外し、少し遠くの地面に落ちた、直径3mくらいの火球は地面を軽くえぐった。

「「「「「「「おーー!」」」」」」

魔術師団の中からも歓声が上がっている。俺は小声で。

「やっちまったか? こいつの有用性がバレちまうか?」

そう、魔力さえ強ければ誰でも攻撃魔術が使える。魔術が使える必要は無い。悪用されたらロクな事にならねえな。まあ、いいか。量産しなきゃ良いだけだ。さーて、次はいよいよアプリコットの番だ。アプリコットが集団から抜け出して前に進み出る。デブとヤセとチビも前に出て来て。

「さーて、将来の大魔術師の才能とやらここでじっくりと見せて貰おうかな」

「あそこまで言ったのだ、今の魔術師団員程度の威力と言う事はあるまいな?」

「まあ、さっきの騎士よりは凄い物を見せてもらえるんだろうな。」

と言った。俺は。

「少なくとも、あんたらが目を回す程の威力になるぜ。将来の大魔術師が初めて放つ攻撃魔術だよーっく見とけよ」

そう言ってアプリコットにワンドを手渡す。

「さあ、アプリコット。ガツンとやっちまえ」

アプリコットがワンドのグリップを握った瞬間、星が勢いよく回り始めた。トリガーを引き頭上に掲げるとアプリコットの頭上には直径5mを超える火球が出来上がった。

「よし! 行けー!!」

俺が叫んだ瞬間アプリコットはワンドを振り下ろした。勢い良く飛び出した火球は的を大きく外し、50mくらい先の地面に落下した。

『ズウッーーーーグワーーーーーーン!!!』

落ちた処を中心に直径50m程の火球が出来上がったと思うと。盛大に地面を削り飛ばした。

「やべえ」

俺はソードストッパーに魔力を流し、物理障壁を展開する。結構大きな岩や石、それに土の塊がはじけ飛んで来た。アプリコットを見ると、ワンドを振り下ろした姿勢で固まっている。バスケットボール大の岩がアプリコットに向かって飛んで来た。

「「危ない!!」」

コヨミ達が叫んだ。アプリコットは。

「キャーッ!!」

と悲鳴を上げたが逃げる事は出来ないでいる。

『ガツ!』

その時、アプリコットのケープから垂れ下がっていた帯の一本がまるで意思を持ったように起き上がり、岩を弾き飛ばした。よし! バージョン2.0の積極的防御ってヤツだ。自分に向けられた攻撃に対し、あの7本の帯が硬度を上げて迎撃する。接近戦では邪魔になる機能だけど、後衛に対する不意打ちには有効だってことが証明された。それに、ダメージは受けないが、強い力で弾き飛ばされちまう事はあった訳だが、これでそれも防げるって訳だ。弾き飛ばされた方が良い場合もあるだろうが、後衛ならこっちの方がいいだろう。

『『『ドサ』』』

横を見ると。3人組が倒れていた。頭の横に割れた土の塊が落ちている。確認したら3人とも息が有った。良かった―。こいつにはAクラスの魔結晶貰わねえといけねえし。なにより、アプリコットに人殺しをさせずに済んだ。

「んー、本当に目を回すとは。ひょっとして俺には予知能力が、・・・・・・それは無いな」

アプリコットに近付きながら。

「アプリコットすげえじゃねえか。思ってたより凄いんで、ちょっと驚いちまったぞ」

そう、俺達の25m程前には直径50m深さ5mくらいの大穴が出来上がっていた。

「タケルさん、あれをあたしが?」

「そうさ、自分の才能がわかったろ?」

「あれを・・・あたしが・・・・・・。タケルさん! ありがとうございます!」

俺に向かってペコリと頭を下げる。

「アプリコットの魔力を見やすい形にしただけだよ俺は。凄いのはアプリコットさ」

「そんな、あたしは」

「でも、練兵場ダメにしちまったな。怒られるかなー。怒られるよなー。俺のせいだもんな。さっさと謝っとくかなー」

おおごえくんを取り出して、カトレアに向かって。

『いやー、思ったよりアプリコットの魔力が多かったな。練兵場を無茶苦茶にしちまった。俺の考えが甘かったせいだー。申し訳無い』

叫んだ。10mと離れちゃいないんだから、本当はおおごえくんはいらない。しかし、このまま。

『大丈夫だったか? 石とか当たらなかったか?』

カクカク頷くカトレアとドルコネルを確認し。転がった3人を指差し。

『こいつらは、驚いて目を回してるけど、アプリコットの才能を示すってのは成功で良いよな?』

再度、カクカクを2人が頷く。ドラグーンを抜き3人にハイヒールを掛けてやる。これで、傷はふさがったが、目は覚まさないな。まあいいか。おおごえくんから出た大きな声のせいで、驚き放心した状況から戻って来た奴らが、口々にアプリコットを褒めながら、取り囲んだ。

「あわわわわ」

人波に押されて俺から離れて行ってしまった。

「あーあ、一躍人気者だな。それにしても、態度を変える気持ちは分かるけど。露骨過ぎやしないかね? なあ、魔術師団長アースベルトさん」

後ろから近づいて来たアーズベルトに声をかける。

「仕方がないでしょう。この間のライトの一件は大した評価を得られた訳では有りませんでしたからね。あの時に勇者アプリコットの魔力に気が付いた人間など、タケル殿をはじめ私を含めてもそれ程多くはありません。ましてや、あれを見ていないとなると。今のデモンストレーションで一気に才能が知れ渡ったのですから。ああなっても仕方がありません」

「見たものしか信じない。信じたいものしか信じないってことね」

「そう言う事です。それよりも、私はタケル殿の作った魔道具に興味が有りますね。魔力さえ有れば誰でもあんな事が出来るとなれば、我々魔術師の存在価値が無くなってしまいます」

「いや、そうはならねえよ。あれは冒険者が使うような物で、戦争で使うような物じゃ無い」

と言うと。

「それはどう言う意味でしょうか?」

「そうだ、あの魔道具が有れば、我が国は無敵になれるではないか」

俺達の話にカメリアとドルコネルが割り込んで来た。

「騎士が使ったの見ただろ? 普通の人間が使ったんじゃ大した威力にならねえし、魔術師が使ったって自分で詠唱するのと変わらない」

「でも、無詠唱で使えるんですよ。それは、戦闘においてかなり有利です」

カメリアが言うが。

「後衛の魔術師がきちんと仕事が出来る状況で戦えねえんじゃその戦争は既に負けてるだろ? 騎士団が抜かれてるって事だぞ。連射が出来ても、使える回数が増える訳じゃねえ。むしろ威力がバラバラになっちまうんだ。戦争じゃ使えねえよ。冒険者用の装備って事だ」

アーズベルトが。

「あー、それはそうですね」

「あれに頼るような状況を作っちまうような間抜けは、指揮官になるべきじゃない」

「ははは。耳が痛いですね。確かに、あれを戦争に使う必要は無いですね」

「何故だ? 魔力の多い者は全て戦力になるのだぞ最強の国ではないか」

ドルコネルが言う。

「そうさ、あれはそう言う魔道具だ。子供でも使える」

「だったら、宰相の言うとおりではないのですか?」

「王女様、あんた子供まで戦場に出す気かい? だいたい、俺はあれを量産するつもりはない」

王女が。

「まだ、この国に協力するつもりはないと?」

「そう言う事だ。それに、あんな物が広まったら、敵だって持つことになるんだぞ。戦争が泥沼化するだろうが。だいたい、帰還魔術はどうなってんだい?」

「いま、開発中です。もう少し待ってください」

はーい、嘘ですね。例の天才宮廷魔術師長は廃人だ。帰還魔法なんて最初から当てにはしてなかったんだ。新しく誘拐される異世界人がいないだけでもマシだろう。

「だったら、話はそれからだろ?」

カメリアとドルコネルが苦々しい顔をする。

「だったらなぜ、あんなものを作ったのですか?」

「 あんた達がアプリコットの事を、そいつらなんかに無能呼ばわりさせておくからだろうが?」

その時、目を回していた3人が起きた。

「「「うーん。何が起きたのだ?」」」

俺は、練兵場に空いた大穴を指差し。

「アプリコットが魔道具を使ったんだ。王女様、賭けは俺の勝ちでいいんだよな?」

カメリアが大穴を見て驚く3人にむかって。

「賭けとはなんですか? そんな話は聞いていません」

カメリアが質問する。デブが。

「さて、なんの事でしょう。しかし、勇者アプリコット殿の魔術の才能が示された訳ですな。喜ばしい事ですな」

へー、とぼけるつもりなのか。

「おいおい、無能なアプリコットが魔術の才能を示せば、Aランクの魔核を12個って言ったろ? 納品が1週間遅れるごとに1個追加だぞ」

「あなた方、そんな賭けをしていたのですか。王命で呼ばれた勇者アプリコット殿を無能などと貶した上にそんな不敬な事までしていたんですか」

「殿下、こいつが嘘を言っているのです。貴様、なんの証拠があってそのような出まかせを言うのだ!」

顔を真っ赤に上気させ怒りを込めた口調で俺に詰め寄る。あー、そう言う事を言うのか。俺はろくおーんくんを取り出し。音量を下げて。デブの耳元で例の会話を再生してやった。真っ赤な顔が、真っ青になった。俺は、ニッコリ笑って。

「あー、冗談だ。侯爵様すまないな。つまらない冗談で不愉快な思いをさせてしまった」

「いっ、いや、かまわん。勇者タケル殿。気にしないでもらいたい。冗談なのだろう? 真面目に反応してしまった。まったく、アプリコット殿の魔術を見て驚いてしまったせいだ。私こそ大人げなかったな」

俺は、デブに。

「口止め料込みだ。魔核は15個だ」

と小声で言った。デブはカクカクと頷くと。

「では、私はこれで失礼します」

と言って慌ててこの場を去って行った。カメリアは。

「タケル殿?」

「ははは、趣味の悪い冗談だったか? まだ、この世界に慣れてなくってな。不愉快にさせたんなら申し訳ない」

「笑えない冗談は人を不快にさせます。今後は気を付けなさい」

そう言って去って行った。ドルコネルも。

「あまり、波風立てんで貰いたいものだな」

それから、小声になり。

「あまり大っぴらにはせんで貰いたいな。貴族を処罰などすれば、後々面倒なのだ」

「ああ、これからは気を付けよう。冗談は時と場合を選んで言う事にするよ」

「そうしてくれ」

そう言って城に戻って行った。俺達の会話が終わるとスバルがやって来て。

「さっきの爆発を想定して、まもーるくんを着せたのか? 自動迎撃システム付きの防御用の魔道具か。よかったら暦美にも作ってやってくれないか」

「ああ、かまわないぞ、ビキニアーマーがベースのヤツでいいか?」

「おう! それしかないよね」

スバルが言うと。

『スパーン』

小気味良い音と共に、スバルの後頭部を勢いよくスタッフで殴ったコヨミが。

「いらない! そんな格好するくらいなら。欲しくない!」

スバルが、頭を両手で押さえながら。

「いや、是非頼む。残念だけど、ビキニアーマーの話は無しで。とにかく暦美に怪我をさせる訳にはいかない」

「昴・・・」

「だったら、デザインは自分でしてくれ。ご要望にお応えできるよう努力しよう。でも、アプリコットのまもーるくんよりも、機能性が無かったら却下な。ビキニアーマーは無いとしても、アプリコットと似たようなデザインになるぞ」

「うーーー。わかった」



「えー、そんな事が? ふふふ。タケルさんって面白いんですね」

「はい、でも店長は真面目にやってるんですよね」

「えー。真面目でそれなんですか?」

「はい。そうなんです」

「あははは」

「ふふふ」

なぜだ? アプリコットとフィーアが格納庫のテーブルで談笑している。練兵場に大穴を空けてから数日が過ぎた。あれからアプリコットは毎日のように暇を見つけては格納庫に来ている。今では、まるで友達同士のようにフィーアと会話をするまでになった。まあ、王城には同年代の子供はいないんだし、少し前までは自分を馬鹿にしていたような者ばかりだったんだから、話相手がいないって事なんだろう。で、俺の所に来た訳なんだが、俺は俺で、忙しそうにしているから、フィーアと会話をするようになったのか。

「おいおい、君達はなぜ、俺の話題なんかで盛り上がるんだね?」

「「えー。だってー」」

「だってー。なんだよ?」

アプリコットが。

「フィーアちゃんと共通の話題なんて、タケルさんの事くらいしか」

フィーアが。

「そうですよー。あたし知り合いの人とか元々多くないですし」

2人そろって。

「「ねー」」

「何ハモッテんだよ」

「「ふふふふ」」

「何だか楽しそうね」

コヨミとスバルもやって来た。

「おー、どうした2人とも」

「これ、あたしのまもーるくんのデザイン」

「おー、待ってたぞ。スバルも見たのか? どうだ?」

「僕的には可も無く不可も無くって感想だね」

コヨミからデザイン画を受け取った俺は。

「・・・・・・これをコヨミが? 上手いな。絵でも習ってたのかい?」

そこには、洋服のデザイン画のようにドレスアーマーが描かれていた。俺はテーブルにデザイン画を置いた。アプリコットとフィーアも覗き込むようにしてデザイン画を見る。

「素敵ですね」

とアプリコット。

「上手です」

こっちはフィーアだ。

「えへへへ、そお? でも、絵は授業でやった程度よ」

「だが、却下だ!」

「「「「えーーーー! 上手いって言ったのに」」」」

コヨミにアプリコットにフィーア、それにスバルまで。

「あのなー、絵のコンテストじゃねえんだぞ。綺麗なデザインだからってOK出る訳ねえだろ。よーく考えろよ。防具ってのはな、使い道が2種類あるんだ。盾の様に積極的に攻撃を受ける物と、鎧の様にやむを得ずに攻撃を受ける物だ。ここまでは分るよな?」

4人が頷くのを確認して。

「魔術師やヒーラーが使う鎧だぞ? そこまで攻め込まれた時に使うんだ。逃げる時に守る事が主な使い道だ。だから、ケープの迎撃システムも背中の方が多いんだ」

「「「「なるほど」」」」

「それなのに、こんなに重そうな格好をしてどうすんだよ。魔術の物理障壁で攻撃を防ぐんだ。服の厚みや肌を覆う部分の面積とか関係ねえんだ。走って逃げるのに邪魔にならない形じゃないと意味が無い。軽くて動き易いことを重視したのがコンセプトだから、アプリコットのまもーるくんはあんなデザインなんだ」

「「「「へー」」」」

フィーアが。

「店長の趣味じゃなかったんですね」

「当たり前だ。失礼だな」

「だって・・・。アプリコットのを見てたら。まるでアニメのコスプレみたいだったんだもん。女の子にいやらしい格好をさせたいだけだと思ったのよ」

「僕もそう思った」

「タケルさんはそんな人じゃありません!」

「おー、アプリコットだけだな。俺を理解してくれるのは」

「理解じゃなくて、誤解なんじゃないの?」

「あー、暦美。上手い事言うな」

「お前ら失礼だな。しかし、そのコンセプトと俺の趣味が必ずしも乖離しているとは限らない!」

「「「「はあーーーー」」」」

「まあ、コヨミの好みの形は分ったから参考にさせてもらうよ」

「うーー。心配だけど、まかせるわ。でも、あんまり変なデザインは嫌よ」

「ダーイジョウブ! 任せてくれたまえ」

「それを聞いて不安になって来たわ」

コヨミの視線が冷たいのはなぜだ?

「失礼シチャウナー。シンケンニカンガエテルノニナー」

コヨミの視線が更に冷たくなった。えーと、えーと。

「そうそう。王女からこの前の報酬が出るだろ? 俺はもう少し業火に掛かりきりになる。あと1週間もすれば手が空くだろうから、一緒に王都見物しようぜ。案内してくれよ」

「そうだな、僕達も訓練づけの毎日だったからな。王城から出た事が無いんだ。たまにはいいかもな」

「そうねー。早く強くならなきゃって事を優先してたものね。美味しい物を食べたり、お買い物とかしたいわね」

「え? お前らも街に出た事無いの? 案内を当てにしてたのにガッカリだなー、なあアプリコット? この使えない先輩達の代わりに誰かさがさないとなー」

「はははは」

「少し笑いがうつろなアプリコットであった」

俺が言うと。

「「「ははははは」」」

3人が笑った。

「おーい、勇者殿ー。最後のオリハルコンだぞー」

ドワーフの鍛冶場長が作業用ゴーレムと一緒に格納庫に入って来た。

「あれ? 珍しいと言うか、初めてか? 鍛冶場長がここに来るの」

「おう。こいつが勇者殿が作っていたゴーレムかい? こんなに細っこいゴーレムは初めて見たな」

「正確には、こいつの装備を作ってたんだよ。剣は2振り出来上がってる。あとは、主砲と何か装備を1つ作れば一応目標の装備は出来上がりかな」

「主砲? そいつは何だい?」

魔術が有る世界だ、大砲は無いんだよな。

「実体弾を撃ちだす魔道具が主砲さ」

「良く分からんが、まあいい。オリハルコンの鍛錬が終わったじゃねえか。すると、こいつらはもう用無しなんだろ? だったら鍛冶場にくれねえか? インゴットとかを一度に動かすには便利だからよ。あれを見てたら欲しくなっちまってさ。城付きのゴーレム術師に話したらよー。作業用のゴーレムなんか作れるか! 馬鹿にするなと言われちまった。あいつらのゴーレムなんぞ平和な今は土木作業にしか使えないんだ。鍛冶場で有効に使えた方が良いよな?」

「俺もそう思うけどさ、主砲の組み立てにまだ使うんだ。結構重い部品が多いんだよ。1週間程したら一応終わるかな? そうしたら鍛冶場で使ってくれていいぞ。そっちが使いやすいように術式はいじるよ」

「おう、ありがてえ。頼んだぜ」

そうういって鍛冶場長が帰って行った。

「主砲なんて1週間で出来上がる物なのか?」

スバルに聞かれ。

「ああ、前に1度作ってるんだ。材料が揃えば組み上げるのは難しくは無い。もう1つの装備はだいたい構想が出来上がってるからな。軽いぜ」

「あたしのまもーるくんは?」

「ああ、スバルのも作るからな。スバルのヤツは俺と同じ既製品の革鎧か何か使えばいいだろ? 街に出た時に何か探してこようぜ。作るのはそれからだな」

「僕にも作ってくれるのかい?」

「友達だからな。でも、ベースになる鎧は自分で用意しろよ」

「ああ、でもフルプレートメイルの方が・・・。いや、軽い鎧の方が良いのか。デザイン重視でもかまわないのか?」

「そうだ。勇者っぽいのを選んでくれよ」

「ああ。楽しみだな」

「男性用は既製品で作るんですね」

アプリコットが言うと。

「趣味で作るみたいだし。男物は作っても楽しくないって事でしょ」

と、コヨミが言う。

「正解だ」

「「「はあー」」」

フィーアをいれて3人がため息をついた。



「よし、完成だ!」

あれから4日して、業火の主砲がADRが完成した。

「さてと」

俺はADRに向かって。

「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」

そう言うと。華奢な4本の足を展開したADRが立ちあがった。

「お前の名前は『ADR』だ。よし! 業火にドッキング」

駐機姿勢を取った業火の後ろに回ったADRは、アームを伸ばし業火の腰に着いたアタッチメント用のラッチを先端の装置で咥えこんだ。アームを畳んで所定の場所に収まったADRは続けて足も畳んだ。取り外しが面倒だから移動だけ出来るようにゴーレムにしたけど正解だったよな。もちろんあんな華奢な足じゃ単独で砲撃は出来ない。それに砲撃用の魔力は業火から供給するようにしている。

「フィーア。立ちあがって刀を装備だ」

「はい、店長」

フィーアが返事をすると。業火は立ち上がり、2本の刀を両の腰に装着した。

「さて、フィーア行こうか」

「はい、店長」

フィーアの返事と共に業火は駐機姿勢を取り、胸部ハッチを開いた。


「さーて、この辺でいいかな?」

俺達は、王都を出てしばらく進んだ草原に来ている。ここは軍が大規模な訓練をする場所だそうで、ゴーレムなども使った集団戦闘訓練なんかもやるらしい。

「ここなら、暴れ回っても良いって言ってたしなー」

両手でスティックを握り魔力操作を使い業火を操り始める。今日は刀を振るう動作を主に覚えさせるつもりだ。

「行くぞフィーア。サポートよろしく」

「はい、店長」

業火は左の腰から刀を抜いて構えを取る。

「よし!」

気合を入れてから、業火に初伝から型を覚えさせる。


「まあ、こんなもんだろ」

型を繰り返し、思い通りにできた物を登録して行く。地味だ、ひたすら地味な作業だった。

「さて、いよいよ本日のメインイベントだな。フィーア、Gランチャーだ。目標30mで1つ射出しろ」

「はい、店長」

ADRを背負っていない左側の肩に装着されたGランチャーから、卵の形をした20cm程の大きさの物を1つ打ち出した。30m先に落ちた卵に土が集まって行く。見る間に大きく成長し。全高12mのゴーレムになった。体型は足が短く腕の長い標準的なゴーレムの形をしている。ストーンゴーレムだから、俺の指示で色々な体型にしたり、手を棒状に伸ばし剣に見たてた物を持っているようにも出来る。訓練用のゴーレムだ。Gランチャーは、オリハルコンで包んだゴーレム核をスプリングで打ち出すだけの道具だ。最大射程は300m位だろうか? ちなみにGランチャーのGはゴーレムのGだ。ネーミングセンスの無さは、もはやデフォルトだな。

「フィーア、業火の制御をしながらあいつの操作できそうか?」

「はい、店長。問題ありません」

「よし、じゃあやろうか」

「はい、店長」

ゴーレムが業火に向かって突っ込んで来た。とりあえず、魔力操作で躱す事を繰り返して行く。業火の扱いには大分慣れていた筈だが、今日は背中に荷物を積んでいるので、ちょっと感覚が変わっている。

『ガリュ!』

ゴーレムの放ったパンチが肩をかすった。

「おっと」

重量が増加したことで動きが鈍い。出足も遅くなってるな。フィーアにも余計な負担を掛けているだろう。

「フィーア、済まないな。重量増加に慣れるまで余計な手間を掛ける」

「そのための、訓練です。気にしないで下さい。今は、データの収集に専念します」

会話しながらも、ゴーレムの攻撃をさけていく。同じ動作を繰り返させて、最適な動きをパターンとして蓄積していくんだ。結構時間は掛かるが、プログラムをするわけじゃなくフィーアが最適化出来るだけのデータが得られれば良いので、俺の負担はそれ程でも無い。


「よし、大分進んだよな」

ゴーレム核を収容し、今日の予定は終わりだ。考えていたよりは短い時間でこなすことが出来た。フィーアが優秀ってことだな。

「フィーアが、優秀なんだな。お疲れさん」

「ありがとうございます。店長こそお疲れ様でした。このデータを基に今晩最適化を行います」

「おう、頼むな。・・・・・・? フィーア。もう少し、データが取れそうだ。手間かけちまって悪いな」

「いいえ、気にしないでください」

草原に隣接する森の中から20体以上のゴーレムが出てくるのを見ながら、俺はフィーアに訓練の延長を告げた。


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