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魔法少女の装備と言えばやっぱり?

「俺こっちじゃ誰も殺しちゃいねえぞ? あんたは、人違いでエクスプロージョンぶち込むのか。ひでえ話だな」

「人違いなんかじゃ無い。お前のせいで! お前のせいでお父様は廃人になってしまった! 天才と言われた宮廷魔術師長のお父様が、今は魔術どころか話す事さえ儘ならない。全て、お前のせいだ。お前がそんなゴーレムと一緒にやってきたせいだ!」

なるほど、あの老人がこいつの父親なのか。それにしても、廃人かよ。帰還魔法はどうなっちまうんだ? まっ、最初っから当てにはしてねえから、かまわねえっちゃかまわねえけどな。

「あの歳じゃ呆けちまってもおかしくなんかねえじゃねえか。とんだ濡れ衣だな。だいたい業火を俺と一緒に呼んだのは、あんたの親父さんだ、それが原因で廃人になったってんなら、そりゃあ自業自得だ。責任転嫁するんじゃねえよ」

「お父様は、まだ43歳だ! 老人などでは無い。なのに、なのに・・・・・・」

悔しそうに顔を歪め、目に涙を溜めている。

「まあ、誘拐犯の片棒を担いだんだ、例え死んじまったって知ったこっちゃねえな。でも、良かったじゃねえか、生きてんだろ?」

「何だと! 何が良かっただ。あれでは生きているとは言えない。ただ、死んでいないだけだ」

「でも、家族に毎日会えるんだろ? あー羨ましいなー。うらやましい」

「羨ましいだと! 何と言う・・・・。お前が・・・・お前が!」

激昂しているが、こいつは自分の親父が何をしたのか分ってねえのか?

「ああ羨ましいね。俺の家族は12歳になる妹が1人だけなんだ。向こうに残った12歳の女の子が1人でどうやって生きて行けばいいんだろうな? 物乞いか? 盗みか? それとも春でも売れってのか?」

全く思いも付かなかった事を言われて、驚いたような顔をしている。俺は続けて。

「いいか? あんたらは勇者って呼んでるみてえだがな。誘拐の被害者だぞ俺達は。この国じゃ誘拐ってのは犯罪じゃあ無えのかも知れねえが、俺が居た所じゃ立派な犯罪者だ捕まりゃ死刑だぞ」

女は困惑したような口調で。

「誘拐? だって、勇者召喚なのに?」

「あのな、俺にだって、家族はいるんだ! 向こうの世界には、家族、友人、仲間、平穏な生活、仕事、そして、どうなるかは分かんねえけど将来だって有ったんだよ! そいつを全て奪っておいて。勇者だ? 帰す方法はまだ無いだ? 報酬を出すんだから敵を殺せだ? ふざけるんじゃねえよ! お前の親父のせいでひどい目に合ってんだよ! 迷惑してんだぞこっちはよ!」

怒鳴りつけると。女は狼狽して。

「そっ、そんな事を言ったって、王命なのですよ。お父様のせいでは・・・・・・」

女がそう言ったところで、俺はいつもの口調に戻って。

「なーんだ分ってんじゃねえか。お前さんの親父さんを廃人にしたのが誰かって事」

女は青ざめると。

「そんな不敬な事、考えたことも・・・無い」

有るな。考えたけど、恐ろしい結論だったから気が付かない振りをして。それでも気持ちが収まらなくて、俺に中級魔術をぶち込んだってことか。

「だったら、今から考えてみちゃどうだ。誰にエクスプロージョンをぶち込むのが正しいか分っただろ?」

「そんなこと・・・・・・。そんな事出来る訳が・・・」

「だったら、また、俺に撃ち込むか? まあ、俺にとっちゃあんたも誘拐犯の一味だ。今更どんな事をされても驚きゃしねえが・・・・・・。今度は確実に仕留めるつもりで来い。さっきみてえな温い魔術じゃ俺を殺せねえ。でもな、女だからって容赦はしねえ」

俺は刀の柄に手を当て、女に全力の殺気を当てる。

「次は抜くぞ」

低い声でそう言って、格納庫を出た。背中では女がへたり込んだようだ。そのまま寝ると凍死しちまうかもしれねえけど、まあ、意思気はあんだろうし知ったこっちゃねえな。



「ここの鍛冶場の連中使ってオリハルコンの鍛造・・・・・・やってくれねえよな。作業用ゴーレムまた作ろうかなー。今度はもうちょっと精度上げてえなー」

しばらくは、業火の装備を作るのに時間を割きてえ。胸部と首周りの装甲くらいはモックアップのままって訳にはいかねえよな。今のままでも大して支障はねえけど。あ、それと肘と膝の装甲くらいはオリハルコンにしとくか。あのエクスプロージョンをくらった日から3日経ち、今日はオリハルコンが納品された。昼飯を食ったら鍛冶場に行きてえな。

「動きを覚えさせるのは一段落したから、今度は武器の使い方を覚えさせたいよな。相手になるゴーレム用の魔核ももらったから、まずは刀からだな」

刀もADRも1度作ってるからな。オリハルコンの鍛錬だけしちまえば、作るのは楽なもんだ。まあ、その鍛錬の量が問題なんだけどな。鍛冶場に向かって廊下を歩いていると。角の向こうから話声が聞えて来た。

「・・・・だと言うのに、・・・・・ハズレということだな」

「仰る通りですな。あのタケルと言う男といい、2度目の召喚は本当にハズレでしたな」

「月に1日しか召喚の術は使えないうえ、2人しか呼ぶ事が出来ないと言うのに。無駄な人間など召喚する余裕などないんだぞ」

「男の方は、それなりに使えそうだと言うからまだしも、この子供は魔術の勇者と言いながら、未だにファイアーボールの一つも使えんと言うしな」

「・・・すいません・・・私・・・すみません」

「男の方と言えば、我が国に協力するかどうかは、帰還魔法が出来上がってからだ。などと言っているそうですな。召喚された勇者なのですから、大人しくこちらの言う事を聞いていれば良いものを」

角を曲がるとアプリコットに向かって身なりの良い3人の男が話しかけている。話しかけてると言うより、吊るし上げだなあれは。分り易く、デブとヤセとチビとしておこう。

「よう、アプリコット。飯だろ? 一緒に行こうぜー」

4人が俺の方を振り向く。

「あ、・・・・・・タケルさん」

「ほーう、これは勇者タケル殿。今から昼食ですかな? そう言えば、王城内の食堂では会ったことが有りませんでしたが、時間が合わなかったのでしょうな」

ヤセが言うと。デブがアプリコットを見ながら。

「これから我々も、昼食なのだがな。能無しと一緒では、料理の味も落ちようと言うものだな」

デブの言葉にアプリコットがビクリと反応する。

「あそこの料理美味いんだけど量が多くないか? いったいその体のどこにあの量が入るんだ? 見た目じゃ分んねえけどローブの下は実はおデブちゃんなのか?」

俺はアプリコットに近付きながら話しかける。3人のオッサン? 無視だ無視! そんな者より落ち込んでるアプリコットだ。

「ははは、冗談だよ。怒らしちゃったか? ゴメンゴメン。女の子に向かって体型の話をしちゃセクハラって言われちまうなー。あはははは」

そう言いながら、アプリコットの頭に手を乗せて。

「そんな顔しないで、一緒に飯に行こうぜ。女の子は笑顔が一番だぞ」

チビが。

「勇者タケル殿、挨拶も無しですかな? これだから、平民は」

俺は、アプリコットの手を取ると。

「さあ行こうぜ、スバルもコヨミも待ちくたびれちまう」

実際には2人の訓練が終わる時間まではまだ少しある。

「おい! 我々貴族に挨拶もしないとは、何様のつもりだ!」

そう言うヤセに顔を向けると。

「あー? 誘拐の被害者様だけど何か? そういや、やたらと上等そうな服を着てると思ったら貴族様だったのかい。子供1人を寄って集って吊るし上げるような奴らがこの国の貴族様だってのか。品がねえな。あー。そうかそうか、誘拐犯の一味だもんな。品格を求めるだけ無駄だよな」

「貴様!」

とヤセが。

「ふん! 平民が何をほざくか。勇者などとおだて上げられていい気になっているようだな」

とデブが。

「無能な者を無能と言っただけで、吊るし上げなどと。我ら貴族に向かって何と言う事を。言葉使いも分らんか!」

とチビがそれぞれ言った。

「はあー? 無能ってのは自分達の事かい? どうせ、先祖からの血筋以外誇る所がねえんだろ。もっとも、その無能な者ってのが俺の事なら正解だ。でも、もしもアプリコットの事を言ってるんなら」

そこで、一旦言葉を切り。相手を馬鹿にしたような表情を浮かべながら。

「ドラゴンの子供を見て大きなトカゲだって言ってるのと同じだ。この子は将来すげえ大魔術師になるんだぜ。自分の見る目の無さを、無能ぶりを大声で宣伝してるだけだぞ」

「「貴様!」」

ヤセとチビが叫んだが。デブは小狡い表情を浮かべ。

「勇者タケル殿、勇者アプリコット殿は召喚されて既に1週間立つのだぞ。勇者コヨミ殿は召喚の翌日にはヒールが使えるようになったのだ。初めて魔術に触れたにも係わらずだぞ。あちらの世界には魔術など無かったのだそうだ。それに比べその子供は魔術師の弟子だったそうではないか。なのに、ファイアーボールの一つも使えんのでは能無しとしか言いようが有るまいよ。勇者タケル殿がそこまで言うなら証拠を見せてもらいたいものだな。将来大魔術師になると言う証拠をな」

アプリコットに。

「環境が変わったから、まだ調子が出ないだけだよなー」

と言った後デブに向かって。

「この子の才能を見抜けないって事が無能者の証なんだけどな。良いだろう! その証拠ってヤツを見せようじゃーないか! なあ、アプリコット!!」

ニッコリ笑って言ってやる。アプリコットが握ったままの俺の手を引いて。

「タケルさん。無理です、あたし才能なんてありません!」

握ったアプリコットの手にもう片方の手も添えて。

「大丈夫だ。魔術を使って見せる必要はねえよ。ただ将来すげえ魔術師になるに違いない所を見せればいいんだから。楽勝だよ楽勝」

デブに向かって。

「良いんだよな? 魔術を使わせるなんて言ってねえもんな。アプリコットの将来性を潜在能力ってヤツを見せてやれば良いんだろ?」

「有りもしない物をどのように見せてくれるのか楽しみだな。で? いつ見せてくれるのかな? その無能な子供が魔術が使えるようになってからか?」

「明後日の午後だ。練兵場を借り切っておけ。面白い物を見せてやる」

「そんなには待てないな明日の午後だ」

「ああ、良いだろう」

「では、楽しみにさせてもらおう。しかし、練兵場を借りるのか。そこまで、大事にするのだ、ただの見せものではつまらんな。勇者タケル殿どうだ。賭けをしないか? その子供の潜在能力とやら、示せなければ。そうだな、勇者タケル殿のゴーレムを貰おうか。何でも大層なゴーレムだそうじゃないか」

「ああ、いいぜ。じゃあ、俺が勝ったら。・・・・そうだな25cm超えの魔核12個だな」

「「何だと! ふざけるな!」」

ヤセとチビだ。

「いや、真面目だぞ。あれには、25cmの魔結晶3個に30cmの魔結晶1個。それに20t以上のオリハルコンが使われている。それに、見せただろ? 1度に10発のエクスプロージョンが撃てるんだぜ。魔核12個とじゃあ釣り合わねえと思うけど、まあ可哀想だからそれで勘弁してやる」

「良いだろう。公平になるように王族のどなたかに判定してもらう事にしよう。せいぜいがんばってみる事だな」

「ああ、それで良いが、王族の都合が付かないからって言って時間を早めるなよ。こっちにも準備って物が有るんだ」

「分った。逃げるなよ」

「そっちこそ。魔核12個渡すのに年1個の分割払いとか言うんじゃねえぞ。速攻で渡してもらうからな。1週間伸びるごとに利息として1個追加だぜ」

「そんな心配などいらん。出入りの商人に一声かければ済む事だ」

「じゃあ、そう言う事で」

そう言ってからアプリコットの手を引いて。

「さて、飯、飯ーっと」

「ちょ、タケルさん!」


「悪かったな。勝手に決めちまって」

騎士たちの宿舎の食堂で、スバル達に事情を説明してからアプリコットに謝った。

「いいえ、タケルさんはあたしをかばってくれたんですから。でも、あんな約束してどうするつもりなんですか? あたし才能なんか・・・・・・。タケルさんの大切なゴウカが」

「業火がなんだい? そんな事よりAクラスの魔核が12個だぜ。パペットバトラー4機は作れるぞ。ワクワクするよなー」

「ワクワクって、どうやって才能なんて示すんですか? 私にはそんな物ありません」

アプリコットが自信無げに言う。

「ダーイジョウブだ。俺に考えが有る」

「何を考えてるのか知らないけど、貴族と喧嘩するとはな。あんまり利口な判断じゃないぞ。あいつらプライドだけは高いんだ。適当にご機嫌を取っておかないとこの先面倒な事になるんじゃないか」

スバルが言う。意外と世渡り考えてるな。

「こんな所に呼び付けられて俺は怒ってるんだ。少しは意趣返しさせて貰わねえとな。しかし、あの貴族達大人しかったよな、あれだけ煽ったんだけどな。何か考えが有るのか、それとも・・・・」

コヨミが。

「意趣返しって。アプリコットを巻き込んじゃだめじゃないの。まあ、その場にいたらあたしも言い返すけど」

「アプリコットを巻き込まねえように、俺だけに怒りが向くようにああ言ったんだ。おれなら、別に何を言われても、何をされても平気だからな」

スバルが呆れたように。

「わかっててやってるのか。たちが悪いな」

コヨミが。

「そんな事よりどうするの? 才能を示すなんて、どうやったらいいか分からないわ」

アプリコットも。

「私も分りません」

「そこでコヨミに協力してもらいたい」

「え? あたし? あたしヒーラーよ? 攻撃魔術を教えるなんて出来ないわよ」

「そんな必要は無いさ。コヨミにはもっと重要な事を頼みたい。コヨミにしか出来ない事だ。やってくれるか?」

真剣な顔をして言うと。コヨミは唾を飲み込んで。

「分った。協力するわ」

俺は前かがみになった。3人も顔を寄せてくる。周りに聞こえないような声で。

「コヨミには、アプリコットのサイズを測ってもらいたい」

「「「はあ?」」」

3人が大声で反応する。周りから訝しげな視線が集まる。

「スリーサイズだけじゃねえ。身長から足のサイズまで全部だ」

「そんな・・・・・・恥ずかしい」

「ちょっとタケル。何を考えてるのよ」

アプリコットとコヨミ、2人とも顔を赤らめている。

「2人が考えてるような、いやらしい事は考えて無い」

「「な、なに言って「装備だ。魔道具を作る」え?」」

「その魔道具の為に必要って事なのか?」

「そう言う事。じゃあ俺は格納庫で準備してるからよろしく」

スバルの質問に答えてから、測る部分をメモに書いてコヨミに渡し席を立つ。


「なんだなんだ、透明なアダマンタイトまで作れるのかお前さん。勇者なんか止めて、このままここで働いて欲しいくらいの腕だな。いやー、大したもんだ」

実は、柔らかいアダマンタイトも作れます。なーんてことは言わねえ。さすがにやり過ぎだろうしな。

「よし、これで準備はお終いだな。じゃあ、ありがとうさん」

「おう、また来いよ」

鍛冶場を出て、格納庫に戻る。

机に座って、モデリングで部品を作り始めると、スバルがやってきた。

「見学させてもらって良いか? アプリコットの事だからな。僕も落ち付かない」

「ああ、初めて見るなら面白いかもな」

そのまま机の横に椅子を持ってきて座る。

「そいつは何だい?」

「ん? ミスリルで記述魔術のカートリッジを作って、アダマンタイトで色付けをしたんだ。そうすればセットされてる魔術が一目で分るだろ?」

「アプリコットは記述魔術だって使えないんじゃないか?」

「あー、普通の魔道具は魔力が有れば使えるんだ。アプリコットでも行ける。俺のリボルバーワンドは記述魔術が使えなきゃダメなようにしてあるけどな」

「つまり、アプリコットにそのリボルバーワンドを作るって事か」

「そう言う事、ただし、俺のとは違って、使う魔力量を制御して威力を揃えるんじゃなくて、一度に出せる魔力を全部使って、魔力量に見合った威力の魔術が発動するようにするんだ」

俺やケーナのリボルバーワンドは発動する魔術の威力を揃えるような調整がしてあるが、アインや業火に装備した物は、入力する魔術量を変える事で発動する魔術の威力が変えられるようになっている。今の俺なら出来るが、放出する魔力量を自分で調節するってのは記述魔法では難しい。だから、記述式の中で制御するし、詠唱魔術でも詠唱の中に使う魔力の量を制御する部分は入っている。詠唱魔術師はその部分をいじって威力を制御する事が出来る。ただし、熟練者はって事になるようだ。

「一度に使える魔力の量が多ければ多いほど、高威力の魔術が発動するって訳さ」

「つまり、アプリコットの魔力量が多い事を見込んでそんな魔道具を?」

「あの時発動したライトを見たろ? アプリコットのポテンシャルはとんでもないぞ。それこそ勇者補正ってやつだ」

「なるほど」

「前に居た所でも、ダメだグズだって言われてたみたいだからな。自分でもそう思い込んでるんだろ。だからライト以外の魔術が発動しないんじゃねえかと思ってさ」

「と言う事は、アプリコットに自信を付けさせるために、いずれ、この魔道具は作るつもりだった?」

「正解」

モデリングを使ってアダマンタイトにミスリルにオリハルコンを使ってリボルバーワンドを作っていく。後衛の女の子が使うんだし拳銃型にするのは止めにする。しかし、最後の仕上げの部分に来て手が止まる。

「ここの処をもうちょっと何とかしてえよな」

「ん? タケルの使ってるのとは大分形が違うんじゃないのか?」

「ああ、それはそうさ。アプリコットは後衛だし、女の子なんだから可愛いい方が良いだろ?」

「まあ、それは分るが・・・・・・。タケルって本当に日本から来たんじゃないのか?」

「どうして?」

「いや、そのワンドのデザインンが」

「まるで、魔法少女のステッキね」

コヨミが言った。

「あれ、もう終わったのか?」

「はい、コヨミさんに測ってもらいました」

アプリコットが顔を赤らめながら言った。

「そうだよな、コヨミもそう思うよな。まるでアニメの魔法少女だよなこの魔道具」

3人の視線が俺の手元に向けられている。俺がアプリコット用に作ったワンドはまるでサドルの無い一輪車のような形をしている。フレームはオリハルコン製で、アダマンタイトで光沢のあるピンクに仕上げたスティック状で途中にトリガーが付き出ている。車輪に当たる部分は、透明なリングで、中に色とりどりのカートリッジが入っている。こいつを手で回して、使いたい魔術を選ぶ。一目で分かるように、魔術ごとに色を変えて有る。リングを挟んだ反対側には、真っ赤な鏃状の突起が付いている。

「ところで、何とかしたいって?」

ああ。リングの中央が少し寂しいだろ? なにか意匠を組み込みたいなーとね。アプリコット何かアイディア無いか?」

「え? 急に言われても」

アプリコットが考え込む。

「ねえねえ、星型なんてどうかな?」

コヨミが言う。

「なるほど、魔法陣をイメージするって事か。いいな六芒星にするか」

「うんうん、その星がクルクル回ったら可愛いわね」

コヨミが言うが。向こうには、物に回転運動を与えるような魔術や機関は無かった。魔力シリンダーをピストンとして回転運動を与える事は出来なくないけど、このデザインに組み込むのは厳しい。

「何だと。回すだと・・・・・。回すのはちょっと」

俺が言うと。

「えー、回らないの? それじゃ可愛らしさが半減しちゃうわよね。アプリコットもそう思うでしょ?」

と、コヨミが。

「いえ、あたしは良く分かりません」

と、アプリコットが。

「星が回らないだけで、可愛らしさが半減するのか? 僕には分らない世界だ」

スバルが言うが。

「気が合うなスバル。俺も同じ気持ちだ。まあ、星を回す件は前向きに考えるとしてだ。サイズ測ってくれたんだな。ありがとう」

「なあ、もうワンドは出来上がるんだろ? こいつを作るのに体のサイズなんかほとんど関係ないんじゃないか」

「えー。タケルって、ロリコン?」

「え!」

「コヨミは何を言ってるんだ。アプリコットに変な事吹き込むな。俺は、ロリコンじゃねえ、お姉さんの方がいい」

「ハイハイ」

コヨミが呆れたように返事を返す。ハイは1回だろ。当然ワンドを作るのには必要ないが、アプリコットにまもーるくんを作ってやろうと思うんだ。もちろん、魔法少女っぽさは重要である。

「その魔道具と対になる装備を作るんだ。さて、仕上げちまうから1人にしてくれ。細かい作業になるからな」

3人が帰って行った。1人になった俺は、考え始める。回転運動ねー。難しい注文だな。電動のモーターが有る訳じゃないからな。たとえ小さな部品とは言っても回すってのはなかなか難易度が高い。

「でも、可愛さが半減しちまうんじゃ、やるしかねえな」

まずは、まもーるくんだな。デザインにはあんまり自信が無いが、ケーナのヤツをベースに魔法少女っぽく仕上げれば良いな。

「こりゃあ徹夜だな今夜は」

「後で、夜食を用意しましょうか?」

フィーアが声を掛けてくる。

「ああ、ありがとう。軽く食べるかな。満腹になると眠くなるからな」

さーて、まもーるくんだけど後衛用の特化装備を追加するかなー。



「ふぁーあー」

「どうしたタケル。でっかい欠伸だな」

朝飯を食いに食堂に来たら、スバル達3人に会った。

「ほんと、徹夜でもしたみたいね」

「え、タケルさん。徹夜したんですか? あたしの為に?」

「ん? 徹夜はしたけど、俺は2、3日寝なくても平気だぞ。鍛え方が違う」

祖父ちゃんに定期的にやらされた訓練にサバイバルみたいな訓練が有ったからな。雪山に放りだされて寝たら死んじまうような訓練だった。手足が凍傷になりかけた。

「ところで、魔道具は出来上がったのか?」

スバルの問いかけに。

「ああ、もう少しだ。まもーるくんは出来上がった。我ながらいい出来だぞ。リボルバーワンドはもう少しだな」

「今日の午後からなんでしょ? 間に合うの?」

心配そうにコヨミが言う。

「何とかする。星を回転させるってギミックが難しいんだよなー。回転させるための動力が無いんだよなー」

「え? 回転させるギミック?」

「ああ、回転させる方法が思い付かない」

「えーと、回さなければ?」

「とっくに出来上がってる。でも、可愛さが半減すると言われてしまえば、やるしかないだろう。なーに、アイディアが思い付けば、作るのは簡単だ。絶対に可愛いと言わせて見せるから楽しみにしててくれ」

「はー、タケルってそう言う所に拘るタイプ?」

「わざわざ作るのに、細部に拘らなくてどうする。せっかく出してもらった意見なんだ。きっちり仕上げるに決まってるだろ」

「はあー。がんばってね」

「まかせろ!」

親指を立てながら言うと。コヨミは少し呆れたような顔をしている。スバルは頷きながら話を聞いていたな。

「あのー、まもーるくんって何ですか?」

アプリコットが聞いてくる。

「まもーるくんってのは。俺が着てた鎧だ。アプリコットのは、完全に後衛用に作ってみた。接近戦には向かないけど。魔術師が近接戦闘するくらいなら逃げちまった方が良いからな」

「タケルが来た時に着てた革鎧か。革鎧じゃ大して防御力高く無いだろ? アプリコット用って、もっと軽い鎧にしたのか?」

スバルが俺の鎧を思い出しながら言う。

「俺のまもーるくんは、フルプレートメイルなんか足元にも及ばないほどの防御力だぞ? 俺でもそう簡単に壊せねえ」

魔結晶に蓄えられた魔力が切れるまで連続で攻撃し続けるか、身体強化して強力な攻撃を叩きこめばいい。

「フルプレートメイルより? どんな革鎧なんだ」

「魔道具の革鎧だ」

コヨミが。

「それにしても、まもーるくん? ネーミングセンス無いわね」

「ほっとけ!」

ネーミングセンスが無いのはデフォルトだ。

「飯を食ったら、試着してくれよ。一応コヨミが測ってくれたとおりに作ってみたけど、調整したいしな」


「タケルー!! 何よこの服は!!」

格納庫の奥に布で仕切った更衣室からコヨミの怒鳴り声が聞えて来た。

「あ? 着方分んねえか? ケープは肩の留め金で固定してくれ。腕のヤツのリングは中指だ」

「そうじゃなくて! このデザインの事を言ってるのよ!」

「可愛いだろ?」

「うっ、確かに可愛いけど・・・・・・。何かが違うわ! うん! 絶対に何か間違ってる!」

「機能性を追求した結果だ。きちんとした理由があってそのデザインにしてんだ。とにかく試着だ」

ワンドに取りつける六芒星を手に持って眺めながら返事をしているが、やっぱり回転は無理か。などと、考えていると。

「おーーーー!!」

スバルの叫び。いや絶叫が響いた。更衣室の方を見ると。そこにはコヨミが付きそったアプリコットがまもーるくんを着て恥ずかしそうに立っている。

「あのー・・・・・・」

何と言って良いか分らない様子のアプリコットは。ピンクをベースに所々にアクセントの白を加えた、スクール水着を着ている。腰にはミスリルのベルトの横から後ろにかけてオーガンジーで短いスカートのような部分が小さなお尻を覆っているが、前は開いている。魔結晶は左右に2個ベルトに付いている。二の腕の中ほどから手首までをカバーした白い布は手首から中指のリングにのびて、手の甲を少しだけ覆っている。足元は、くるぶしまでのショートブーツ。白のオーバーニ―ソックスは太腿の中程まで。アプリコットの年齢じゃガーターベルトは無い方が可愛いだろう。ここまでなら、ケーナやアシャさん達の物と変わらないが、アプリコットのまもーるくんには、襟の立った丈の短いケープと肩の前から背中を覆う幅15cm長さ1m程の先の尖った短冊状の帯が7本垂れ下がってマントの様になっている。こちらもスカート同様に前はカバーしていない。こいつが言わば後衛用専用パーツだバージョン2.0と言ったところだな。今までのはバージョン1.1とか1.2と言った所だ。

「うん! アプリコット可愛いな。良く似合ってるぞ」

「あっ、ありがとうございます。でも、あたし可愛くなんか」

「いやいや、可愛いよな、スバル?」

アプリコットに目が釘付けになっているスバルは。

「うんうん」

と大きく何度も頷く。すると、コヨミが。

「可愛いわよ。良く似合ってるのも認めるけど。これのどこが皮鎧なの? 水着の部分だけじゃないの皮を使ってるのは。こんなので本当に防御とかできるの?」

「あれ? 疑ってる? んー。試すにしてもアプリコットを殴る訳にもいかねえな。スバル。俺に切りつけてみ」

「え? タケルに切りつけるのか?」

「ああ、遠慮はいらない。思いっきり来い」

と言って、まもーるくんを着た。

『ガツ』

スバルの剣を受けても傷一つ付かない。それを見て。

『ガツ!』

次は思いっきり切りつけて来た。

「すげえな、名前はともかく防御力は完ぺきだな」

「本当ね。名前はともかく」

「ネーミングセンスが無いのは自覚してるよ」

アプリコットが。

「あのー、名前は別に良いんですけど。デザインが恥ずかしいです・・・・・」

コヨミも。

「あー、そうよ! 何よこれ。水着じゃないの」

スバルは。

「魔法少女! って感じのデザインでは有るよな」

「だろ? それに、軽いうえに動きやすい。さらに、フルプレートメイルを上回る防御性能だ。言う事無しだろ?」

「マントが付いてるだけ益しだけど、それだってちょっと強い風が吹いたら捲くれちゃうじゃないのどうして短冊状なの? ちゃんとしたマントにすれば少しは。チョットだけだけど益しなのに。アプリコットが恥ずかしがってるわ」

ん? 風が吹くと捲くれる・・・?

「短冊状なのにはちゃんとした理由が有るんだよ・・・。風で捲くれ・・・る? それだ!!」

「え? どれ?」

「風だよ風! 風魔法で回せば良いんだよ!」

「ん? 何を回すんだ?」

とスバル。

「星に決まってんだろ。ずーっと悩んでたんだ」

と言って小さな魔石に記述式を刻みはじめる。魔核をグリップの中に仕込んでっと。握ると、魔力に反応して風魔法でリングの中心に据えた六芒星を回転させる。

「よし! 出来た!」

と言ってワンドを高々と持ち上げた俺を呆れたように3人が見ていた。


「私達まで巻き込んで、勇者アプリコット殿の才能を見せるとはどういう事なのです? デーブナ侯爵達からの申し出ですから、練兵場の使用は許可しましたが、勝手な事をされては困るのです!」

カメリア王女が立会人としてやって来た。

「しょうがねえだろ。あいつらがアプリコットを吊るし上げてたんだ。注意したってどうせ聞きやしねえだろ。城に居る貴族達は俺達を馬鹿にしているみてえだからな」

ドルコネルが。

「お前達は、王命で呼ばれた勇者なのだぞ。あの娘は未だ魔術が使えないではないか。こんな事で、無能ぶりを証明されては王の権威にも係わるのだ。勝手な事をしおって。失敗したらどう責任を取るつもりなのだ」

「責任なんか取る必要なはいな。だって、失敗なんか有り得ないからな。俺はともかくアプリコットの魔力は凄まじいと思うぞ」

「タケル殿がそう思っているだけでしょう。実際に魔術は使えないのです。どうするつもりなんですか」

「だったら、失敗したら俺の責任にすりゃあ良いじゃないか」

「分った。今回の件で才能を証明できなければ、お前に責任を取ってもらう!」

「じゃあさ、成功したらどうすんだ? あんたが責任取ってくれるんか? 失敗したら俺のせいで、成功したら、王家の功績ってか? 随分虫が良い話だな。誘拐犯らしい身勝手さだ」

「誘拐では有りません。勇者召喚です。あなたたちは勇者なのです。実際にはあなた達の信頼が下がるのは王家の痛手でも有るのですよ」

「じゃあさ、成功したら褒美くらいよこせよ」

「褒美だと? 勝手に話を進めておいて、褒美を要求するなど」

「いいえ、かまいません。では成功した時の報酬に何を求めますか?」

「金だな」

「あさましいな。やはり勇者と言っても平民か」

「ああ、そうだ。こっちに連れて来られて、城から出る事も出来なくてさ。いい加減あきてんだ。俺達4人の外出許可と、美味い物が食えて、服や小物が買えるくらいの金が欲しいな」

「「え?」」

「それだけで良いのですか?」

「それだけの物すら貰っちゃいなかったからな」

「分りましたそのようにいたしましょう。良いですね宰相?」

「ええ、成功した時の事を考えれば、安い物ですな。条件までだしおって、失敗したらただでは済まさんぞ」

よし、カメリアの言質は取れた。あとは、ワンドの出来次第って事だ。

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