ロボの為なら自重しない
「凄かったよなー、さっきのライト。何が爆発したのかと思ったよ」
俺が言うと。コヨミも。
「本当にね。まだ目がチカチカしてる」
「騎士の練兵場の方まで光が届いたからな」
スバルが言う。
「・・・ゴメンナサイ」
アプリコットが小さくなって謝っている。
「アプリコットが謝必要はない」
スバルが言う。
「そうそう。タケルがやれって言ったんだもの」
「あーそうですよ。俺の目がチカチカするのは自業自得だよ。アプリコットは本当に気にすることはないんだぞ」
「はい」
俺達は中心にいたからもの凄い光量をもろに受けた訳だが、周りの特に魔術師達もめちゃくちゃ驚いていた。練兵場の反対側にいた騎士達も気が付く位だったみたいだ。魔術師団長も驚いていた。
「しかし、アプリコットの魔力のせいなのか? それとも、アプリコットの世界の魔法って全部あんななのか?」
「いいえ、あんなに光ったら、眩しくて何にもできません」
あー自分でも眩しかったわけね。
「ハイよ! しっかり食べて強くおなり!」
「こんなに食ったらおばちゃんみたいに「あたしみたいに?」えーと。・・・元気になれるかな」
「これっぽっち食べた位で太るような訓練してんじゃないよ! いいね!!」
「はいはい」
「返事は1回だよ」
すげえ迫力のおばちゃんがランチを配っている。やっと俺達の番だ。
「おや? 見ない顔だね?」
「ああ、今日から世話になるタケルだ。よろしく」
「んー、細いねー。よし、任せときな! いっぱしの騎士になれるようにたーんとお食べ!」
俺の皿にぶ厚い肉がドーンと乗った。普通は食べきれない量じゃないかこれ?
「・・・・・・」
おばちゃんは。
「ん? 食べきれないって言うのかい?」
「いや、ちょうど良いかな」
おばちゃんはニッコリ笑うと。
「ちゃんとお食べよ!」
「ああ、ありがとう」
俺が、主に肉のせいで重くなったプレートを前にテーブルに座って待っていると。3人もやってきた。同じテーブルに付くと。
「いっつも凄い量なのよねここ」
「僕は平気だけどな」
「よく太らないわよね。あたしの分も半分くらいあげてるのに」
と言いながら、
コヨミは、肉の半分をスバルのプレートに乗せた。アプリコットは驚いた顔をしながら。
「お肉がこんなにいっぱいです。こんな量のご飯なんか食べた事がありません」
確かに、すごい量の肉が乗っている。でも、アプリコットの言いたいことはそう言った話ではないのかもしれない。この子は、お腹いっぱい食べた事が有るんだろうか。年齢の割に背が低い気がするし、ローブから覗く腕も細い。まあ、成長の仕方なんて人それぞれだけど、ちゃんと食べさせてもらえてたんかな? さっきは買われたとか言ってたしな。俺は。
「食べられるだけ食べればいいさ。食べきれなければ、スバルのプレートに置いちまえばいい」
「ああ、構わないぞ」
「そんな、食べ残しなんて」
「いや、ロリコンのスバルには、ご褒美かもしれない」
「「え!」」
「なんて事いうんだ! 人の事捕まえてロリコンとか失礼だろうが」
「違うのか?」
「チガーウ!!」
「あー、あのお姫様みたいなのが好みなんだっけ。失礼失礼」
「な、なんてこと言うんだ! それこそ失礼だぞ!」
「あれ? 違うのか? 昨日の言い方だと・・・・・・」
「あー、せっかくのランチが冷めちまう」
スバルは、そう言って食べ始めてしまった。俺達も食べ始める。
「ところで、タケルって、日本人でしょ。さっき使ってた魔道具のデザインが、地球のピストルにそっくりだったわ。それに、その剣だって、日本刀じゃないの」
残念。ピストルってのは、自動式の拳銃のことだ。おれのは、リボルバーと言うのが正しい。ただし、アメリカではだ。向こうが本場だからコヨミが知らないのは当たり前か。刀はオリハルコン製で製法が日本刀とは全く違う刃紋が無いから見れば分る。まあ、どっちも日本の女子高生じゃ分からないのは当たり前か。
「残念。これは俺が作ったワンドと刀だ」
そう言って、ドラグーンとチーフをテーブルの上に出した。
「コルトニューアーミーとスミスアンドウエッソンチーフスペシャルだな。どこから見ても、アメリカの拳銃だ。どっちも写真でしか見たことが無いけどな。やっぱりタケルも日本人だろ」
「偶然だろたまたま似たような形になっただけだ。俺は、アースデリア王国にあるガーゼルの街で冒険者兼ゴーレム術士兼魔道具職人兼雑貨屋の店長をやってたんだ」
「確かに、日本人だったら、あたし達と同じように、魔法とか使えないはずなのよねー」
「それはそうなんだけどさ」
「そう言う事」
「でも、タケルって名前も日本人としか思えないんだけどなー」
「あのー、冷めちゃいますよ」
「「「・・・はい」」」
アプリコットに言われ、俺達も食べ始めた。
「おーい、フィーアお待たせー」
「店長、どうしたんですか? そんな板を持ってきて」
「業火がここから出る時に裸じゃ可哀想だろ? 女の子なんだから」
「え? この子って女の子なんですか?」
「いや、ゴーレム術を発動させる時に思ってる方の性別になるみたいだからな。俺のパートナーとして覚醒したなら、そいつは女になるはずだ! まあ、そんな制御式は組み込んじゃいねえから性別は出ないだろうけどな」
「よっぽど女の子が好きなんですね。しかも、人間で無くても良いんですね。アイン姉様もツァイ姉様もテイルもそうですもんね」
「いや、無意識だからね。俺が狙ってる訳じゃないからね」
「無意識に出ちゃうんですね。寂しいですね」
「しみじみ言うな! なんか俺が可哀想な人みてえじゃねえか」
「違うんですか?」
こっこいつ。
「材料をもっと持ってくるぞ!」
「はい、店長。でも木の板で装甲を作ってどうするんですか?」
「モックアップって言って、出来上がりを確認するために木で作ってみるんだ。大きな物を作るから全体のバランスを見たいんだ」
「バランスですか」
「さあ、もっと材料もってくるぞ」
「はい、店長」
「俺が装甲を作るから、フィーアは色を塗ってくれ」
「はい、店長」
材質がある程度揃っているとモデリングでお互いを接続が出来る。鋼やオリハルコンなら、鍛造して品質をそろえる事で大きな物が出来上がる。組み立て用のクレーンや業火の骨格はそうやって作った。だから木は難しい。品質がそろわないんだ。でも、ここの板は同じ森から切り出された物。ひょっとしたら同じ木だったみたいで接続できた。
「これをこうしてーと。こことくっ付けてー」
「ペータ、ペタ~。ヌーリ、ヌリ~」
フィーアが俺の横で変な掛け声を掛けながら刷毛を使っている。無茶苦茶正確な塗り分けをしている。さすがと言うか、当り前と言うか。
「フィーア上手いじゃないか」
「はい、こう言った作業は得意です! 任せてください」
ガッツポーズを決めるフィーアが。
『バキッ!』
バランスを崩して手を付いた場所に穴が空いた。
「あ・・・。平気平気、店長いるから」
「こらー。フィーア」
「エヘ」
「エヘじゃあねえよ、エヘじゃ」
フィーアに言いながら穴をふさぐ。
「ありがとうございます。店長」
さて、もう少しやっちまおうかな。業火をここから出せるようになるまで短くて3日間ほどだろうか? それまでにやれる事はやっておかないとな。
「なぜだ! なぜカードが出ないんだ!」
「そんな事言われても俺のせえじゃねえもーん」
「じゃあ誰のせいだと言うんだ!」
「持ってくる途中で下に落したんじゃねえの?」
カード発行機を持ってきたヤツに顔を向ける。
「なっ、何を言うんだ! 我々は壊してなどいない」
ドルコネルが。
「だったら、なぜこいつのカードが出ない!」
「壊れてるかどうか、あんたがやってみればいいんじゃねえの?」
ドルコネルに言うと。
「カードを持っている限り再発行は出来ん」
「だったら、そのカード粉々にしてみればいいんじゃね?」
「下らん事を言うな! そんな事よりなぜお前のカードが出ないのかと言う話だ」
「召喚術に失敗したんじゃねえの? だいたい、ゴーレムを一緒に召喚なんかするから色々とトラブったんじゃねえのか?」
「なるほど、確かにお前の召喚は色々想定外の事が起こったな。なるほどその所為かもしれん」
カメリアが。
「カードなど無くても、良いではありませんか。騎士団長のローダンと魔術師団長のアーズベルト殿から報告を受けています。勇者タケル殿は剣を使えばまるで剣聖か剣神のようであり。魔術は威力こそ中級魔術ですが、無詠唱で幾らでも連射できるそうです。カードなど無くとも、勇者で間違いないでしょう」
「それは、そうですが」
「勇者スバル様や勇者コヨミ殿、勇者アプリコット殿より、現時点では強力な戦力となるでしょう」
スバルだけ様付けか。
「それはそうですが」
「いいや、現時点では全く戦力にはならないな」
「なぜです。勇者タケル殿」
「だって、約束守ってもらってねえからな。オリハルコン減らされちまったし。期待されてねえんだろ? 期待してなかった奴にどんな能力があっても関係ねえだろ? 自分から動く訳ねえよな?」
ドルコネルに向かって言うと。
「何の事です? 私はなにも報告を受けていませんよ」
カメリアがドルコネルに質問する。
「ゴーレムなどに手間をかける必要など無いでしょう。どうせ戦の役に立つ訳でも有りません」
「何を言うのです。一度約束した事ですよ。それに、勇者タケル殿と一緒に召喚されたゴーレムです。こちらの世界の常識を凌駕する性能である可能性だってあるでしょう。勇者タケル殿も一国の軍隊を相手にできると仰っていたそうでは有りませんか。直ぐに手配しなさい」
「はい。直ぐに手配いたします」
ドルコネルは礼をして去って行った。後ろ姿が巨大な怒りを表してる気がする。
「申し訳ありません。勇者タケル殿。知らなかったとはいえお約束を違えてしまいました」
「別に気にしちゃいないさ。業火の事を自分達の基準でしか考えられなかっただけだろ。そんな事より俺を勇者と呼ぶのは止めてくれって言ったよな。今のところ勇者と呼ばれるような事をするつもりはない」
「そんな、帰還魔術が完成してから考えると」
「ああ、そう言ったが、約束した俺の望みすら聞こうとしないんだ。今はマイナスさ、俺のあんたらに対する評価はな。だから、手助けするつもりは全く無くなった。ああ、約束だから訓練は続けよう。相手が約束を守らないからと言って自分も守らないんじゃ同じレベルになっちまうからな。まあ、これから誠意ってヤツを見せてくれてもいいんだぜ。評価がゼロまで戻るかもな。まあ、今は、帰還魔法が完成したら迷わず帰るつもりだけどな」
そう言うとカメリアに背を向けて部屋を出た。
「タケル殿、お約束は必ず守りますので、どうか」
カメリアがそこまで言ったところで部屋を出た。
「店長、稼働前チェック終了。問題無しです」
「OK、魔結晶接続。今回は0番から3番まで全部だ」
「はい、店長。0番魔結晶接続。・・・1番魔結晶接続。・・・2番魔結晶接続。・・・3番魔結晶接続。出力予定値で安定」
「よし、業火行くぞ。立ち上がれ」
俺が魔力操作で指示した通りゆっくりと業火が立ち上がる。予定通りに壁に穴が開けられいよいよ、業火が大地に立つ日が来たって訳だ。
「さて」
俺は、左手のレバーを操作し、外に向かって開いた穴に正面を向けた。右手のレバーを軽く前に倒しながら右足のペダルを僅かに踏み込んだ。
「お―歩いた歩いた」
「当たり前です。毎日あたしが教育していたんです」
「ああ、そうだったなフィーアありがとう」
「いえ、この子の為でもありますから」
地下を歩き、急ごしらえの坂を登ると。モニターが明るくなった。業火が初めて太陽の下にでた。
「こんなゴーレム見た事無いぞ」
「細いな。こんなんで戦えるのか?」
「美しいな。戦闘用では無いのではないか」
「巨大ロボ・・・?」
「キレイ」
等々、マイクが周りの人々の声を拾う。巨大ロボって言ったのはスバルだろうな。さて、格納庫に向かうかな。しばらく歩いて練兵場の側の格納庫に業火を入れ入口に正面を向け駐機姿勢を取らせる。格納庫と言うにはいささか無理がある。木の骨組みに厚手の防水布を被せただけの物だが、急造だし雨風が凌げて外から覗けなければ別にかまわない。業火から降りた俺にスバルが。
「凄いなタケル。巨大ロボだな。お前のいた世界にはこんな物が有るんだな。やっぱり日本から来たんじゃないんだな」
「スバルの世界ではこんなのは無かったのか?」
「ああ、アニメや特撮の中だけ。・・・物語の中にしか無かったな。こっちじゃゴーレムって言うんだろ?」
「まあ、大きな括りで言えばゴーレムだな。でも、人が乗り込んで操縦するゴーレムは俺のいた世界では無いみたいだったな」
「この世界にもありません。なぜ人間が乗る必要が有るのでしょうか?」
騎士団長が言う。
「細かい事をやらせる事が出来るし、ゴーレムを使う時に術師が無防備になる事を防ぐには乗り込んじまうのが一番だ。で、このタイプのゴーレムを、俺はパペットと呼ぶんだけど。こいつは戦闘用だから、パペットバトラー、個体名は業火だ」
「ゴウカ、んー。カッコいいなー。俺にも操縦できる?」
スバルが言う。分るぞ! 分る。男のロマンだよな。しかし。
「無理だな。俺の言う事しか聞かない」
と言うより、魔力操作が出来ないと動かせない。いずれは、スティックでもある程度は操縦できるようにしたいけどな。
「そうか、残念だな」
「業火はプロトタイプで、言うなれば実験実証機だからな。実用機を作る事があれば、訓練すれば誰でも使えるようにすると思う」
もっとも、この国の為に作る気はない。向こうに帰って皆が使えるようにしたいな。その為にも絶対に帰ってやる。
「これが、タケル殿のゴーレムなんですか。大きさの割には細いんですね。普通のゴーレムはもっと力強い姿をしていますよ」
カトレアが言う。ドルコネルが。
「王女の仰るとおりだ。こんな物が一国の軍隊に匹敵する戦力になるなど信じられん」
ここで、実力を見せてやればこいつらも少しは気前が良くなるかな?
「じゃあ、ちょっとやって見せよう。完成には全然程遠いんだけどな。今見せられる範囲でいいよな。練兵場に的を出してくれ。適度にバラバラに10個だ」
実は俺も魔法撃ってみたい。業火を振りかえって。
「フィーア。業火を起動させろ」
「はい、店長」
スピーカーからフィーアの声がする。俺はコクピットに収まってハッチを閉める。
「さーて、業火行くぞ」
立ちあがった業火を格納庫から出し、練兵場の方を向いた。しばらく待つと的が設置された。ヘッドマウントディスプレイの中央に有るレティクルを的の1つに合わせる。
「魔法を選んで―と」
左手のスティックの頭に付いているダイヤルを回し、ファンクションキーを選ぶ。
「炎系の魔法の所はFだな」
モニターの隅のファンクションキーを表す部分がFと表示される。ダイヤルの横のボタンを押しこむ。
「マーク1、チェックっと、的までは200mくらいかねー」
モニターの中に1と番号が振られたマーカーがモニターに出る。
「フィーア照準調整を行う。ファーアーボルトを1回撃つから。それを元に照準調整を頼む。出力は1%でいいかな」
「はい、店長」
スティックの親指以外の所には全てボタンが有る。人差指の部分のボタンを軽く押しこむ。これで、小さな炎の矢が空中に浮かんだはずだ。さらにボタンを押し込む。モニターには業火から飛んで行った炎の矢が狙った的を1m程外して飛んで行き、地面に当たって小さな炎を上げる。
「なんだありゃ?」
「外したな」
「それにしてもショボイ魔術だな」
「ファイアーボルトか? まともに当てられもしないのか」
「ゴーレムが魔術を?」
「見かけ倒しか」
マイクが外の音を拾う。
「店長、照準調整完了しました」
「おー、ご苦労さん。じゃあ本番だ」
モニターのレティクルを1番外れの的に合わせて、ボタンを押す。1番マーカーがモニターに表示される。次々にボタンを押して的にマーカーを付けていく。
「よし、マーク10っと。フィーア、エクスプロージョンを10発撃つ。出力は20%に調節してくれ」
「はい、店長」
さっき回したダイヤルの横に有るダイヤルを回しながら一々押し込む。モニター上のマーカーの色が次々に変わっていく。
「さーて、どんな事になるかねー。楽しみだ」
人差指のボタンを軽く押し込む。今度は、業火の周りにはエクスプロージョンが10個セットされているはずだ。
「よし。いけー!」
人差指でボタンをさらに押し込む。直径1.5m程の火の玉が10個、一気にバラバラの的に向かって勢い良く飛んでいく。練兵場のあちこちでで炎がはじけた。
『『『『『『『『『『ズッガーーーーン!!!』』』』』』』』』』
直径5mくらいの火球が各的を中心に10個半球状に燃えあがった。業火を格納庫に戻し、今度はフィーアと一緒に2人の前に立って。
「まだ、魔術しか覚えさせてねえからこんなもんしか見せられねえ。でも、結構凄かったろ?」
「タケル殿のゴーレムは魔術を使うのですね」
「信じられん。今のは?」
「ああ、エクスプロージョンだ。業火は中級魔術までしか使えない。でも、人間が扱える魔力なんか足元にも及ばない量を一度に使えるからな。まあ、あんな事も可能だ」
「一軍を相手にできると言ったのは法螺話では無かったと言う訳か」
「こいつで魔術を使うのは初めてだったからかなり抑え気味だったけどな、全力でやったら今日からしばらくの間練兵場が使えなくなっちまうだろ?」
「「なっ・・・・」」
「それに、業火が想定する敵は魔物だからな。こっちではどうか知らないが、俺がいた世界では人間の手によって倒された事が無い魔物達。Sランクの魔物を討伐するのが最終的な目標だ。そいつらは中級魔術なんかじゃダメージを与えられっこないからな。要は、魔術はおまけってことさ、雑魚を減らしたり、人間相手にしか使えねえ」
「馬鹿な事を言うな。人間が倒した事が無い魔物を倒すだと? 大法螺を吹くのもいいかげんにしろ。1人の人間が扱えるような魔道具などでそんな事が出来る訳が無いだろう」
「ドルコネル宰相の仰るとおりです。Sランクの魔物などとドラゴンでも倒そうと言うのですか?」
「だって、Aランクの魔物の中にも俺が生身で倒せるヤツがいるんだ。こんな大層な物を作って同じランクの魔物しか倒せないんじゃ意味が無いだろ」
「ふん。お前の世界と、こちらの世界では、魔物の強さが違うと見える」
「かもな、同じ呼び方だったとしても、同じ魔物の事を指すとは限らねえもんな」
「あ、そうですね。タケル殿の言う通りかもしれません」
「なるほどそう言うことか」
カトレアとドルコネルが納得したように頷き合うと城に戻って行った。俺はスバル達の所に行って。
「どうだい? 業火は。あんなのを見せれば、向こうも出し惜しみしないで俺の欲しい物を出すだろ」
「凄いですね。今のはエクスプロージョンなんですか? あんなに威力がある魔術じゃないですよね?」
「アプリコットは見たことあるのかい?」
「はい、わたしを買った魔術師が使うのを見た事が有りますけど。もっと小さな火球でしたし、10個も一度に使うなんて」
「タケル。僕も業火みたいなパペットバトラーが欲しい!」
「昴、なに子供みたいな事言ってるの。だいたい、あなた剣の勇者でしょ。ゴーレム貰ってどうするのよ」
「そうだけどさ、剣でちまちま戦うの馬鹿らしくないか?」
「あなたね。なんで自分の存在を自分で否定するかな?」
「あんなの見ちまうとさ。ロボってやっぱり男のロマンなんだよ。女には分らねえんだな。なあ、タケル」
「男のロマンと言う意見には賛成だけどさ。手間と費用を考えるとロマンの一言で済ますにはかなり無理が有るんだよなーこれ」
「やっぱり高いのか?」
「金があっても手に入らない材料も使ってるしな。だいたい、ねじ1本から手作りだぞこれ」
「げ! 諦めきれないが、今日の処は勘弁してやる」
「それに、オプションパーツも作りたいしな。剣や大砲、それからパイルバンカーにドリルなんかも良いよなー」
「おー、タケル分ってるな」
うんうんと頷きながらスバルが言う。なんだか、コヨミとアプリコットが呆れたように俺達を見ているが、こんな話が出来るってのが嬉しい。ケイオスと話して以来だもんなこんな話をするのは。
「お前さん、大した腕だな。勇者にしとくのは勿体ないぞ」
「そうかい? じゃあ、材料がそろったら」
「ああ、ここの施設は自由に使ってくれてかまわんぞ。存分に腕をふるってくれ」
「おう。ありがとう」
鍛冶場長のドワーフに礼を言って鍛冶場を後にする。
「良かったですね店長。店長の腕を見なきゃ鍛冶場を使わせないって言うからどうしようかと思いました」
「まあ、俺の実力から言ったらこんなもんさ。後はオリハルコンが納品されれば準備OKだ」
「いつになるのでしょうね」
「あの様子じゃ、意外と速いと思うんだけどな。地下から業火を出す準備で忙しかったからな、この世界の勉強もしたいし少しはいいだろう」
アプリコットは午前中訓練をして午後から勉強をしているんだが、俺がいなかったので計算の勉強等をさせられているようだ。今朝朝食を食べながら大変だと言っていた。俺が合流してから、地理や歴史、一般常識等を習う事になるそうだ。俺がこっちの計算くらいはできる事が分ったせいで、俺がいないうちはアプリコット専用のカリキュラムが組まれているらしい。
「アプリコットが、毎日計算問題をやらされていて大変だって言ってたからな。そろそろ合流してやらないと可哀想だ」
「だったら店長も一緒に習えば良かったじゃ有りませんか。勉強が得意には見えませんよ」
「おまえ、何気に失礼だな。確かに勉強ができる方じゃねえけどな。いまさら、四則演算の基礎から勉強しなきゃならないほどじゃあねえぞ。半年前まで現役高校生だぞ、こう見えても」
「あー、そうでしたね。ロボットと剣術しかできないのかと思ってました」
「あのなー」
「これがこの大陸の地図だ。世界にはこの大陸と、それを中心とし周りを囲む海に有る多数の島から構成されている。中心は広大な森林地帯が有る。魔の森の俗称で呼ばれているな。森は広く我々人間は周辺部を僅かに利用できるだけだ。中心に近付くほど強い魔物が居ると言われている中に入って戻った者はいない」
目の前の壁に取り付けられた地図には中心にアフリカ大陸を少し膨らませたような形の大陸が1つと、周辺に多くの島が描かれている。中心部には森らしきものが有るが、この世界でも魔の森って呼ばれる森が有るんだな、帰って来た者がいないんじゃ中まで森かどうかは分らねえのか。
「この大陸のこの部分に有るのが我がサースベリアだ。東西に走る大きな街道を使って旅人が歩いて2ヶ月程かかる。南北に至っては3カ月程だ。そしてこの街道が交わるここが、王都サースベリアだ」
地図の左の端のかなり大きな部分を示した。
そうして・・・・・。各貴族達の名前や領地等のどうでもいい説明が続き。
「・・・・・・で、ここがトルーン辺境伯領だ。王国に隣接する辺境の国々からの魔物の侵入に備える重要な領地であり、伯爵の責任は重く領都の騎士団は精強だ」
やっと終わったか。そして、王国を含むさらに大きな場所を指しながら。
「今から1000年ほど前にはこの辺り一帯を支配する大きな国があった。今にはその原因は伝わっていないが、ある時に分裂し多数の小さな国に分れ戦国の世となった。その中で、我がサースベリアの始祖となる王が現在の部分をまとめ上げ今に至るのだ」
確かにでかい。しかし、魔の森の方がでかい。とてつもなくでかい。たしかに、奥まで入りこんで無事に出て来れるとは思えない。
「サースベリアと魔の森の間には小さな国が沢山有るんだな。そっちには国を広げなかったんだ」
サースベリアと比べると、かなり小さな国が20では効かない程魔の森の間にある。全部合わせると、サースベリアの面積を上回りそうだが縦長だ。横幅はサースベリアの方が有るな。
「そう思うのは無理はないな。確かに我が国と魔の森との間には小さな国が沢山ある。しかし、そこが先祖の偉いところだ。見てわかるとおり、我が国は魔の森に接していない。魔の森からあふれてくる魔物の相手など、あいつらに任せておけば良いと言う事だ。こちらには肥沃な大地が広がっており向こうは魔物の相手で手いっぱいだ。こちらが食料を売ってやらねばたちまち飢えてしまう。国としての体裁を取らせてやっているだけでなく。我が国が養ってやっているようなものだ」
なるほど、賢い政策なのかも知れないが。この国の王族は昔っから腐ってたって事か。美味しい所だけ自分の物にして面倒事は他人任せ。さらに、そいつらを食い物にしているって訳だ。そう言った昔からの体質が俺達を召喚した土壌に有るって事か。気に入らないな。
「おかげで、我が国はこの辺りでは最も豊かな国として栄えておるのだ」
皆で幸せになるって考えはねえんだろうな。いや、皆の定義は自分達ってことか。人間なんてそんなもんだよな。俺だってこの国の置かれている状況とか気にするつもりは全くねえしな。業火を完成させて、さっさと出て行くつもりだ。
「あっ、ヤマト帝国ってのは?」
「うむ、わが国はヤマト帝国などと名乗る小国など認めてはいない。単なる辺境の国々が同盟を結んだに過ぎん。あのような辺境の地に住む者達など幾ら集まろうとも我が国の脅威などとは成り得ない。ただ、ちょっと上手くいって調子に乗っているようなのでな。勇者殿達を召喚しお灸を据えてもらおうと言う訳だ」
あー、そう言う訳か。プライドだけは高く、自分達が見捨てた土地にへばり付いて自分達の盾としか見ていない奴らと交渉するつもりなど無い。相手が脅威となってきた今になっても、自分達の力は極力使いたくないって事か。やっぱり腐ってるな。
「そして帝国を名乗る辺境の国とその国に与するその他の国の集団はこの辺りだな」
サースベリアとの間に幾つもの国を挟んで魔の森側に10数個ほどの国を示した。そして、その中の1を指して。
「ここが同盟の中心となる国だ」
まだ、サースベリアには直接国境は接してはいないって事か。しかし、ここ10年ほどで、あれだけの国を従属させちまったって事は、確かに脅威って事かもな。コヨミの言うように、日本から来たかどうかは別にして、こことは違う世界からやってきた奴らなのかも知れないな。まあ、俺はこの国に深く係わるつもりはないからどうでもいいけどな。
「さて、地理はこんな物かな? ああ、もちろん他にも国は有るが、勇者殿方には、当面この辺境の同盟を相手にしていただくのでな。他の国に関しては今は教える事は無いな」
「この世界の事を教えてくれる約束だろう?」
「上からの指示なのでな。一度に多くの知識を与えられても混乱するだけだろう。まあ、おいおいと言った所だな」
「少なくとも、他にもこの国と隣接している国だって有るんだし。離れていても、何かしかこの国にや帝国に関係有る国だって有るかも知れねえ。国からの指示だけで動くなんてのは御免だからな、自分で判断できるような材料はできるだけ欲しいな。特に今説明が有った国の近隣の情報は欲しい」
「勇者殿方に好き勝手に動かれるのは困まる。そう言うつもりなら、私の一存ではなおさら教えられんな」
「なるほど、もっともだ」
アプリコットと2人で並んで城の廊下を歩いて騎士団の宿舎に向かった。王城の上級職員用の食堂で食う許可は得ているが、高級官僚や近衛騎士達と一緒の場所で飯を食うのが何だか煩わしい。あいつらが俺達を見る目付きが何だか嫌な感じなんだよなー。あんな所で飯を食っても美味く無い。と言う訳で、騎士団の宿舎でスバル達と一緒に飯を食う事にしている。
「タケルさん、あたし頭がパンクしそうです~。こんなに毎日勉強した事なんか今まで無かったし」
「アプリコットって、今日の説明全部覚えようとしたのか? 貴族の名前と領地の場所なんか俺達に必要無いだろうに」
「いいえ、せっかく勉強ができる機会です。ちゃんと覚えないと、教えてくれる人にも申し訳無いです。せっかく時間を取ってくれてるんですから」
「偉いな、アプリコットは。午前中は魔法も習ってるんだろ? 俺には無理だな」
「今まで魔術師の所に居ましたけど、ダメだ、グズだって言われてライト以外の魔術は教わっていなかったんです。今日も習ってますけど全然できるようにならなくて。もっと勉強しないと」
「魔術を習い始めたばかりだろ? そう簡単に覚えられたら魔術師団の連中の立場が無くなっちまうぞ」
「でも、スバルさんもコヨミさんも勇者の力を発揮しています。タケルさんなんか、もうこの国の人達が望んでいる勇者のように強いです・・・・・・」
「あのさ、俺がこっちで見せた剣技とか魔術だけど、全部向こうから持ってきたもんだぞ。こっちに来て新しい力を得たなんて実感は全くねえよ」
「スバルさんが勇者補正って言ってましたけど。こっちに来て出来るようになったんじゃないんですか?」
「違う違う。剣技なんか、8歳のころからやってんだぞ。この前見せたヤツが出来るようになるまでに9年かかったんだ。異世界召喚の副作用だか勇者補正だか知らねえが俺の9年間を否定する事は出来ないさ。スバルだってコヨミだって毎日努力してんだ。勇者補正がどんなもんか分らねえけど、努力しなきゃ力は自分の物にはならないさ」
スキルポイントを使って覚えた技術を使ってる俺が何偉そうに言ってるんだろ。
「はい! あたしも頑張ります!」
「あー、アプリコットはまだ12歳なんだ。成人するまでまだ3年有るんだ。無理はするなよ」
と言って、アプリコットの頭に手を乗せてグリグリと撫でる。
「はい」
アプリコットって素直だよな。
「さて、フィーア。業火は行けるか?」
「はい、店長」
オリハルコンが納品されるまでに業火の基本動作をファンクションキーに登録したいからな。魔力操作とマーカーそしてファンクションキーを組み合わせて技を繰り出すように登録して行く。いずれはスティックの動きで、魔力操作部分を置き替えて行くのが理想だ。ケーナ達のロボを作るには必要な事だ。
「その為のプロトタイプが業火だしな」
どんな事でも出来るようにと、必要以上に強力な魔結晶を業火には搭載してある。様々な動作を繰り返し、最適化された動きを登録して行く。
「武器を作る前に基本的な動きは覚えさせたいな。それに、格闘や剣の動きを覚えさせるには相手が欲しいなー。なあフィーア、この国のゴーレム1つ貰えねえかな?」
「この国のゴーレムは、使い物にならないと思います。皆があそこまで馬鹿にする物ですから、性能もそれなりなのでしょう。店長がそれなりに動ける物を作ってくれるなら。あたしが外部から操作してお相手しますよ」
「おー。だったら魔結晶を貰って・・・・・・。これ以上何かたかるのは無理か? 自分で狩ってくるか。とべーるくん作りたいしちょうど良いか」
それから一通り動作の登録をしていると。
「店長、今日はそろそろ終わりにしないと周りに迷惑がかかります。結構大きな音が出ています」
「あーそうだな。上がるか。あとは明日だ」
動きの登録も佳境に入ってきて地面を踏む音なんかも大きくなるような動きもするようになってきた。格納庫に戻り駐機姿勢を取る。フィーアは今日も業火の中で動きを最適化させると言う事だ。
「じゃあなフィーア。お休み」
「はい、おやすみなさい」
フィーアの声を聞き振りかえろうと思ったところで大きな魔力を感じた。魔力を展開し感じた魔力を探ろうとする。
「!?」
攻撃魔法? ヤバイ! 魔法障壁も魔術の改変も間に合わねえ! 格納庫の入口を振り向くと、入口の向こうの暗がりから直径50cm程のエクスプロージョンが俺に向かって飛んでくるのが見えた。
「くっ!」
胸の棒手裏剣を1本抜きエクスプロジョンの核に向けて投げつける。エクスプロージョンは中心に有る5cmほどの核に何かが触れると爆発を起こす。つまり、飛び道具で核を打ち抜いてやれば。
『ズガーン!』
格納庫に入って直ぐの所で爆発が起きた。俺は魔力を体に流し身体強化をする。棒手裏剣の狙いを付けるのが難しくなるので投げ終わってから強化した。エクスプロージョンの爆発が治まるタイミングと同時に地面を蹴る。エクスプロージョンを放った人間以外は展開した魔力にかからなかった。相手は1人だ。エクスプロージョンが飛んで来た場所に向かって走る。左手で鞘を掴み右手を柄に添え。
「?」
抜刀しようとしたが、次の魔術を詠唱しようとしていたローブ姿を見つけ。右手を離す。
『ザッ!』
「え?」
目の前に止まり、驚く相手に左手で刀を鞘ごと引き抜き柄頭で当て身を入れる。
「グッ」
と声を上げその場に崩れ落ちそうになるローブ姿の人間を右手で抱きとめる。左手でローブのフードをめくり上げる。
「見た事ねえ女だな。誰だ?」
「うっ、・・・・・うーん」
地面に敷いたシートの上に寝かせていた女が目覚めたようだ。
「よお、目が覚めたか?」
数度瞬きをしながらゆっくりと頭を振り俺の方を見ると。
「!」
一瞬息を飲み、立ち上がって俺を睨みつけ。辺りを見回し。
「くっ」
と言った後に、右手を前に出し何かブツブツと唱え出した。そして。
「え?」
自分の手の平を見つめて。いぶかしげな顔をする。
「ざーんねん。魔術を使わせない手札は持ってるんだ。で、なんであんな事をしたんだ? 俺、あんたに何かしたっけ?」
女の魔力に俺の魔力を干渉させる事で魔術の発動を妨害しながら聞いた。
「お父様の仇が何を白々しい事を!」
え? 俺って誰か殺したっけ?




