表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/91

ロボ屋内でちょっとだけ立つ

「さーて、魔石の入れ替えくらいは直ぐに終わるよなー。そうしたらいよいよ稼働だ」

俺はフィーアと並んで廊下を歩いている。

「でも、あの時の魔結晶どうしの干渉は何だったのでしょうか? 0番と2番の相性のせいなら良いんですけど、そうでない場合は」

「その時は、0番だけでも業火を可動させるには十分だろう。まあ、魔結晶を入れ替えて、稼働前チェックをしてみよう」

あいつらが召喚に使った部屋って結構奥の方なんだよなー。そう言えば、見て無かったけど業火がぶち抜いた下の部屋ってどんな部屋なんだろ? 何かぶち壊して文句言われたりしねえだろうな。

「魔法陣が組み込まれていた床は全部落ちてたよな。簡単に再生できねえように潰しちまおうかな。業火が動かせれば直ぐに出来ちまうよな」

「どうしてそんな事を?」

「ん? 嫌がらせだ。単なるな」

「えーと、あの子を使って初めてやる作業が嫌がらせでは、ちょっと可哀想かなーって思うんですけど」

確かにそうだな。俺がモデリングでやっとくか。外に出られるようになるまで3日は掛かるって言ってたしな。業火のもとに向かいながら、俺は先ほどの話の内容を思い出していた。


まず、アプリコットは成人するまで戦場に出さず、成人を待って改めて協力を依頼する事。ただし、成人してから直ぐに戦えるように訓練を行う事。召喚によって無理やりこちらの世界に呼んだのであるから、待遇や報酬、生活面の面倒を見るという約束が交わされた。本当に戦争になったらどこまで約束が守られるか分らねえが言質は取った。俺の方は、無理やり召喚した詫びとして、業火を完成させる材料と場所の提供そして鍛冶場の使用を認めさせた。で、帰還魔法が完成したらこの国の為に戦うか判断すること。訓練は受けろと言うので、この世界の知識と引き換えならと言う事で了解した。業火の事については、数日中に準備するとの事だった。

「あの宰相オリハルコンを10tって言ったら驚いてたな。この世界では貴重なのか? もしかすると違う物を指す言葉なのか?」

他に、100kgのアダマンタイトにDクラスの魔結晶を数個そして魔石を数十個。せっかくだから振動剣とADRも作っちまおう。2次装甲が無くても1次装甲がオリハルコン、関節にはアダマンタイトを使っているんだから防御力的には十分なんだけど。

「でも、見た目は大事だよなー。このままじゃミイラみたいだもんな」

駐機姿勢の業火を眺めながらつぶやく。

「店長、あまり穴に近付くと床が落ちますよ」

「おっとそうだな」

下に降りても、上から床が・・・天井が落ちてくる心配をしないとな。

「まあ、平気だろ」

軽く助走を付け業火に飛び付いた。コクピットハッチを開き中に入りシートを持ち上げ床下のハッチを開けた。魔結晶の位置を入れ替えシートを元に戻した。

「フィーアコクピットに入ってくれ、稼働試験をやり直すぞ」

「はい店長」

フィーアは軽く飛んだようにしか見えない動作で業火に飛び移った。頭部コクピットのハッチが開き、直ぐに閉まる音がした。俺もシートに座り、ハーネスを締めヘルメットをかぶる。ハッチを閉めメインモニターを下ろす。

「こっちは準備完了だ。フィーア、チェックを始めてくれ」

「はい、店長」

少し時間を置いてスピーカーからフィーアの声が帰ってくる。

「1番から37番までオールグリーンです。38番から52番までカットします」

ここに来る前の作業を繰り返す。

「53番から72番までオールグリーンです。以降はカットします。店長稼働前チェック終了。問題無しです」

「よし、魔結晶接続。今回も3番は保留だ」

「はい、店長。0番魔結晶接続。・・・1番魔結晶接続。・・・2番魔結晶接続。出力は予定出力で安定しました」

よし、前回はここで躓いたんだよな。今回は出力が安定している。出力ってのは常に魔力から取り出せる魔力量だ。こいつが安定しないときちんとパペットは動かない。

「さて、行くぞ。業火立ち上がれ。フィーアバランスに気を付けてくれ」

「はい、店長」

別に声に出す必要は無いんだけど、何となく気分だ。魔力操作で業火に動きを指示する。モニターに映る風景が下に流れる。業火が止まる。よし立ち上がる事に成功した。

業火に使った記述式は学習型だ。いずれ、フィーアの身体制御は最小限で済むようになる。まあ、その他の管制作業は減らないけどな。 

「業火が経験を積めばフィーアのサポートは減ってくる。しばらくは面倒見てやってくれよ」

「はい」

「少し狭いけどちょっと動かしてみるか。フィーアどうだいけるか?」

「足元のコンディションが悪過ぎます。バランスを崩す恐れがあります。現状ではお勧めできません」

足元に床だった石が散乱している。たしかに、最初の一歩がこんな所じゃフィーアの制御も追いつかないかもしれないな。今日のところは魔結晶が安定した事で良しとするか。

「よし、3番魔結晶接続」

「はい、3番魔結晶接続しました。放出魔力安定しています」

それを聞いてから業火に駐機姿勢を取るように指示を出す。軽い浮遊感を伴って業火が駐機姿勢を取る。

「よし、魔結晶の接続解除だ。平気だとは思うが万が一にも1人で動きだしたら大変だからな。業火良くやった、ご苦労さん。もう直ぐ出口を作ってくれるそうだ。少しの間待っててくれ。寂しいかもしれないけど頼むぞ」

そう言って俺とフィーアは業火から降りる。業火の足元に立って周りを見渡す。上と違って光が無いが、見える範囲では何も無い部屋だった。チーフを抜いてライトの魔法を使う。俺を中心に結構な範囲が明りに照らされる。業火の足元には崩落した床の石が散らばっている。ほとんどが原型をとどめている。屈みこんで右手を石に伸ばし。

「モデリングよりも、土魔法で何とかならないか?」

未使用のカートリッジを取り出し魔術式を記述する。モデリングじゃ1個づつしかいじれないからな。ドラグーンのカートリッジを1つ交換し右手でかまえる。魔力を流す量を調節しながら引き金を引く。十数個の石が砂のようにサラサラと崩れた。崩れた部分の中心で足で砂を払った。元からあった床が5cm位へこんでいた。

「ちょっとやりすぎたか」

ちょっと抑え気味に魔力を流した。攻撃用のカートリッジは魔力量で威力が変わったりするような式にはしていないが、今回の石を砕く魔術は流す魔力を意識する事で範囲を調節できる。


数十分後には地下の床には石の代わりに砂が積もった。

「これで、この魔法陣は復旧できねえよな。まあ、もう一度最初から作り直す方が時間も金もかかるだろう」

ちょっとした嫌がらせだ。

「ここは最近まで倉庫だったようですね。天井が残っている方の床には棚が置いて有ったような跡が沢山残っています」

俺が石を砕いている間にフィーアが調べてくれていたようだ。

「おー、ありがとう。そい言えばぶち抜いた天井からも床と梁しか落ちて来なかったな。そっちも空にしたってことか。召喚魔術と何か関係あるんかね?」

そう言って壁際に歩いて行った。刀を鞘ごと抜いて壁を叩く。壁に沿って歩きながら部屋を1周した。

「そっちの壁だけ音が違うな。壁の外は土なんじゃないか?」

だとすれば、俺だけで業火を外に出してやれるかも知れない。適当な石壁の1つに手を当ててモデリングで変形させる。魔力を体に流し身体強化をする。変形させた石を抜き取り床に置く。そして中を覗き込む。

「・・・・・・何と言うか。石壁?」

「壁の奥にも壁が有るんですか?」

「うん、そうだな。音が違ったのはこのせいだな」

壁の奥に隙間なく積まれた石の壁が有った。手前の壁の石をモデリングで変形させながら取り除き始める。残った壁が崩れないように、そちらもモデリングで接合しておく。それなりに石を取り除いたので、2つ目の壁の石をモデリングで変形させ引き抜く。フィーアと一緒に覗き込むと。

「・・・石壁・・・」

「ですね」

「何だ? この奥には何が有る? なんか気になる!」

「はい、気になります!」

当然のごとく2つ目の壁も取り除く。そして、3つ目の壁の石を1つ引き抜く。そして、フィーアと覗き込むと。

「真っ暗だな」

「真っ暗ですね。でも、土でも無いし壁でも無いです」

真っ暗で何も見えないが、そこに空間が広がっている事は間違いない。

「ちょっと入ってみます」

そう言うとフィーアが頭から壁に潜った。足をバタバタさせながら壁に空いた穴に潜っていく姿は大変可愛らしい。潜り込んだフィーアが穴から顔をのぞかせて。

「店長、倉庫のようです。確認しますので明かりをください」

「おう」

そう言って、チーフを手渡す。

「やっぱり倉庫です」

「なーんだ、これだけ壁が分厚いんだ、金庫かと思ったんだがなー。期待はずれだったか」

「はい、お金も有りますが、金の延べ棒とか宝石の方がずっと多いですね」

「何!」

俺は、壁を補強しながら、石を取り除き始めた。1個だけじゃ俺は中に入れないからな。いくつか石を取り除き中に入った。

「ほー、こりゃすごいな。宝物庫ってやつだな。国庫の金とは別なのかな?」

「いっぱい有りますねー。ウチのお店にはオリハルコンやアダマンタイトのインゴットがいっぱいですけど、こっちの方が綺麗ですねー」

「そりゃあね。こんなもんが仕舞ってあるんじゃ壁も厚くするわな。金の延べ棒なんかどれくらい有るんだろうな?」

「重さにすると100tくらいですね」

「ほー、そんなに有るのか、・・・凄いな。オリハルコンもう少しねだっても良かったかな」

「店長、欲張り過ぎるとロクな事が無いですよ」

「だな。さて、穴をふさいで戻ろうか」

「私は、ここに残っても良いでしょうか? この子は生まれたばかりです。知らない場所で1人でいるのは可哀想ですから」

「ああ、良いぞ」

「ありがとうございます。店長」

「あ、お前達に悪さしようとするヤツがいても、殺すなよ。足腰立たなくなるまでで止めとけ」

「はい、店長」



「はあ? 3tしか用意できない?」

「ああ、そうだ。オリハルコンは我が国の鉱山からは産出しない。ゴーレムなどどうせ使い道など無いのだ。そんな物にオリハルコンを3tも渡してやるのだ感謝をしろ。文句を言われる筋合いなど無い」

召喚した詫びだった筈だが、今は引いてやろうか。

「・・・・・・まあいい。他の物は用意できるんだろ? だったら鍛造済みの鋼を5t追加してくれ」

ADRは諦めよう。3t有れば剣を2振りとソードストッパーくらい出来るだろう。第2装甲は飾りでもいいか。

「今は戦争の準備中だ、剣や鎧を作らねばならん。鋼など1kgも無い。他の物は準備させよう」

「だったら、アダマンタイトを1tと木の板を200枚だ。木の板は出来るだけ大きいのが欲しいな」

「会計科に話しを通しておこう。自分で申請しておけ」

と言ってドルコネルは離れて行った。木の板は、貯金箱でも作ってやろうか。鞘はアダマンタイトで作ろう。透明な鞘ってのも良いかもしれない。

「待たせて悪かったな。さて、練兵場に行くか」

アプリコットに声を掛け練兵場に向かった。

「材料貰えないんですね。大丈夫なんですか?」

「ああ、手に入る物だけで何とかしなきゃならないこともある。昨日あんな事を言ったんだから俺の印象は最悪だろうさ。でも、俺の印象が悪い分アプリコットの評価は良くなるだろ。報酬もちゃんともらえるんじゃないか?」

「あたしの為に、あんな事をしてくれたんですか?」

「いや、かなり頭に来てたからな。そのせいだ。アプリコットの事を考えた訳じゃないよ」

話をしながら練兵場に入った。王城の裏手にあるはずなのだが、かなり広い。見渡すと騎士達が思い思いに体を解している。朝早くからご苦労なことだが、あれが仕事なんだから当たり前だな。スバルとコヨミを探していると。

「あ、あそこにコヨミさん達がいます」

アプリコットが指差す方を見ると、ベンチに腰掛けたコヨミとその前で柔軟体操をしているスバルがいた。あいつらは、騎士の宿舎で暮らして居るそうなので朝飯が別だった。俺達はまだ騎士団や魔術師団に組込まれていないので、王城内に部屋を与えられ朝飯もそちらで食べてきた。2人に近付きながら。

「おはよう」

「おはようございます」

「おう、おはよう!」

「おはよう。アプリコットよく眠れた?」

「はい」

スバルは朝から元気だな。俺達はコヨミの座るベンチの横に座った。

「今日は見学なんでしょ。昴が、ボコボコにされるところを見ててあげてね。ふふふ」

コヨミがアプリコットに笑いかける。

「え! スバルさんボコボコになっちゃうんですか?」

「いつの話をしてるんだよ! 今はそこまでひどくやられたりしねえぞ!」

「前は、あたしの練習の為にボコボコになってくれたの? わざと? 実際にヒールを使うのが一番の訓練ですからね」

「ワザとボコられたりしねえよ! そんな変態じゃねえ!」

「なるほど、コヨミはここで怪我人の手当をしてる訳か。戦いの訓練はしないのか?」

「いいえ、最低限自分の身を守る為に、メイスと盾をつかうの。その訓練はしているけれど、あまり長時間という訳ではないのよ」

なるほど、ヒーラーだからな。あまり技術を必要としないメイスを使うって訳か。

「今日は2人が見学だというから一緒に見学かな。怪我人が出ればヒールはするけどね」

俺達は明日からって事だそうだ。

「あら、始まるのかな」

騎士たちがキビキビと集まり出した。スバルも俺たちに声をかけてから走り出した。その先にはいかにも歴戦の戦士のような男がいる。そいつを見ていると。コヨミが。

「あれが、騎士団長よ。だいたい昴の相手をしているわね。強いわよー。昴も頑張ってるけど、いつもやられてるわ」

「スバルって、向こうでは何か武術でもやってたのか?」

「高校でサッカー部だったって言ってたから。体力には自信があったみたい。でも、高校の部活レベルの訓練じゃないみたいで、初めは全然付いていけなかったのよ。でも、直ぐについて行けるようになったのよねー。勇者補正ってことかしら?」

「勇者補正ですか?」

「そう考えでもしないと、剣を持った事もなかった高校生が、たったの1月でとりあえず何年も騎士として剣を鍛えてきた人達の訓練について行くどころか、騎士団長ともそれなりに戦えるようになる訳はないって昴は言ってたわね。あたしのヒールの技術も凄い勢いで上達しているって魔術師団長には言われたわ。実感はないけれど」

と言って、微笑む。騎士達はランニングを始めた。それを見ながら。

「勇者補正ねー、俺にも付いてるのかね?」

「私にも?」

「付いてるんじゃないの? 元々素質の有る人を召喚するらしいし、世界を飛び越える時に、色々と整えられて才能を発揮しやすくなるんじゃないかって言ってたわ。私たちの成長速度が尋常じゃ無いって言って、後付けかもしれないけれど。最初は何もできなかったもの、あたし達」

なるほど。そういう奴が召喚に引っ掛かったって訳か。

「私には才能なんて有りません。師匠にはいつもダメだ、グズだって言われてましたし」

「アプリコットって、魔術師の弟子か何かだったのか?」

「・・・・・・はい」

ん? なんだか歯切れが悪いな。帰れなくてもかまわないみたいな事も言ってたしな。気にはなるけど、そんな事を突っ込んで聞けるほどの関係じゃねえしな。暗くなった雰囲気を何とかしようとしたのか。コヨミが。

「そう言えばタケルさんて歳は幾つなの? アプリコットは12歳よね?」

「俺か? 17だ。今年18になる」

「えー、同い年なの? 年下かと思ってた」

「はい、コヨミさんの方が年上に見えます」

「言われ慣れてるよ。悲しい事に」

「だったら、丁寧な言葉遣いなんかしなくていいよ。普通に喋ってよ」

「は? 俺はこれが普通だぞ? 丁寧になんか喋っちゃいないぜ?」

「え? だって、昨日は最高に敬意を払った言葉遣いだって」

「はい、国の王女様ともそのまま話したって」

「あー、ありゃあ嘘だ。俺は最初からこんな国の王族に敬意なんか持っちゃあいない。ああ言っとけばどこでも普通に喋れるだろ? ああ、王女とはこのまま話したぞ。ただの気さくな人ってだけじゃあねえみてえだったけどな」

2人は一瞬呆けたような顔をした後。

「「あはははは」」

アプリコットの笑い顔は初めて見たが、年相応のかわいい笑顔だな。

「何をしている。見学をするように言われたはずだろう!!」

騎士が1人俺達を怒鳴りつけた。アプリコットは両目をきつく瞑り怯えた表情をしている。しまったな、この子の事は気にしてやりたいな。俺はベンチから立ち上がり1歩前に出ながら。

「見学なんかしなくても、走ることぐらいできるぜ。俺って、インドアタイプに見えるのか?」

「貴様!」

騎士が、そう言って剣に手を掛ける。俺は一気に間を詰め柄頭を手で押さえ、殺気を込めて。

「近衛騎士と一緒で気が短いんだな。剣から手を離さなければどうなっても責任は持たねえぞ」

「あ・・・」

騎士は顔に驚愕の表情を浮かべ、剣から手を離し数歩下がる。そこに、騎士団長がやってきた。目の前で立ち止まると。

「気が荒い連中ばかりですまんな。昨夜、勇者タケル殿が陛下に対し不遜な態度で有ったとの噂が広まっていてあまり良い印象を持っていない者もいるのだ。召喚されただけで勇者と呼ばれ良い気になっていると考える者もいる。あまり挑発しないでもらいたい」

「俺は勇者と呼べなんて言った覚えはねえし、挑発なんかしちゃいねえ。人が走るところを見ないと走れないなんて事は無いって言っただけだぞ」

「なるほど」

更に、一歩近づき。

「腰の剣が飾りで無いなら、ちょいと振って見せてくれ。ウチの連中の見る目を変えて貰わないと訓練に身がはいらない」

まあ良いだろう。自重はしないと決めたしな。

「ちょうどランニングも終わったみてえだしな。少し場所と時間を貸して貰おうか」

修練場に向かって歩きながら。奥を指差して。

「打ち込み用の鎧みたいな物が有るなら100mくらい向こうに5つ適当においてくれ。無ければ、使わないプレートメールを杭に括り付けてくれてもいい」

騎士団長な頷くと。騎士が数名走って行った。残りは俺を囲むようにして遠巻きにする。

「ところで、その剣はみた事が無い形だな?」

「これか。刀と言う剣でな。俺が自分で打ったモンだ」

そう言いながら、鞘ごと1本抜いて騎士団長に渡す。鞘から抜いた騎士団長は。

「サーベル? いや、片刃のバスタードソードか? そんな細身の剣じゃフルプレートメイル相手には衝撃が通らんだろう。いや、鎧を着けていない者を切り裂くための剣なのか?」

鞘におさめた刀を受け取って刀を抜く。

「魔物をメインに討伐していたからな。フルプレートメイルを付けた人間は斬った事がねえからどうなるか分らねえな」

そう言うと、騎士団長から離れて構えを取る。俺の言葉を聞いた騎士達は馬鹿にしたような顔をし、スバル1人が驚いた顔を俺に向けている。周りを一瞥し、初伝の一段目からゆっくりとした動きで刀を振り始めた。そうする事でブレが無い事を確認していく。転移の時に何か有ったかも知れないなんて言われては、いきなり全開とはいかない。初伝が終わり中伝に移行する。

「なんだ、ハエが止まるぞ」

「あれだけゆっくり振ってまるっきり剣先がブレてない」

「みた事が無い型だな」

などと話す声が聞こえてくる。もう1本の刀を引き抜き2刀流になり相変わらずゆっくり振り続ける。片手持ちでゆっくり振ると切先はぶれる物だが、刀は流れるように振れている。中伝半ばで、剣速を上げ始めるる。

「舞うような演武だな」

「お、剣速が上がったぞ」

「ふん、実戦で役に立つものかよ」

中伝の最後まで終わると。刀の1本を鞘に納め今度は魔力を軽く体に流し身体強化をする。さて、何人着いて来れるかな? 初伝の一段目から再び振り始める。

「剣が見えない」

中伝に入り2刀流になった処で、さらに流す魔力を増やす。

「・・・・・・」

中伝の最後まで終わると。鎧の準備が終わり5体の鎧が100mほど先に置かれた事を確認する。魔力を流し、全力に近くまで魔力を流すと。左に向かって走りだす。一気にトップスピードに乗せ。3m程進んで急停止し直ぐに又走りだす。それを繰り返し、大きく蛇行しながら鎧に近付いて行く。幅20mで10往復すると右側にある鎧から次々に斬りつけ5体目を袈裟切りにしてから立ち止り騎士達に向かって振り向きながら刀を鞘に納める。ここまで、だいたい5秒程だろうか。

「チン」

澄んだ音が響くと。

『ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!』

次々に鎧が地面に落ちる。様々な驚きの表情を浮かべる騎士達に向かって歩みよる。

「今のは何だ?」

「分身?」

「幻か?」

「魔法か?」

「あんな魔法聞いた事もないぞ」

そんな声が聞こえる中。騎士団長の前で立ち止まると。

「ちょっと本気を出してみたんだが、どうだった?」

騎士団長は俺に対し敬礼すると。

「先ほどは失礼いたしました! 素晴らしい技をお見せいただきました。しかし、勇者タケル殿に剣をお教え出来る者は我が騎士団にはおりません。明日からは、自主訓練をお願いいたします」

「じゃあ、明日からの訓練はこの時間じゃなくてもいいよな? いつも朝飯の前に自主練してんだ」

「はい、そのようにしていただいて結構です」

「そうそう、勇者呼ばわりは勘弁してくれないか。俺はこの世界で何も成しちゃあいない」

「はっ! ではタケル様とお呼びいたします」

「様も着ける必要無いんだけどな。まあいいか。じゃあ、そこんとこも含めて上の人に説明しておいてくれないか。訓練をサボってるとか言われちゃ面倒だからな」

「はっ!」

「訓練を邪魔して悪かったな。じゃあ、ベンチで見学させてもらう」

「はい!」

俺が2人の座るベンチに向かおうとすると。

「タケル様。素晴らしい技を見せていただき有難うございました!」

見ると俺とそんなに歳が離れていない若い騎士が敬礼していた。

「つい最近覚えた事の応用だ。せっかく的が有ったんで試させてもらった」

そう言って、騎士団長の横を抜け2人の待つベンチに向かう。驚いている2人に向かって。

「ちょっと本気を出してみた。どうだった?」

そう言ってベンチに座る。コヨミが。

「今の何? タケルって忍者なの?」

「忍者って何だ?」

「凄いです。タケルさんがいっぱい見えました」

「そうか。いっぱい見えたか。うんうん、思った通りだな」

忍者小説じゃねえけど、分身の術っぽい事が出来るようになったか。たららたったー! タケルはレベルが上がった。分身を覚えた。ってか。

「でも、騎士達の俺を見る目がさっきまでと全く違ってるんだけど」

「この国の騎士団は下級貴族の子弟なのよ。国民の為に何かしたいって言う意識が高いんじゃないかと思うわ。変なプライドが無い分素直になれるんじゃないの? 強い者に対して。近衛騎士団とは違うわね。あっちは上級貴族の子弟でね、なんだか好きになれないタイプが多いわ。何だかあたし達を軽く見ているのが言葉の端々ににじみ出てる感じかしら。王城にいる貴族や王族もそんな感じかな」

「なるほど、魔術師団はどうだい?」 

「魔術師団は能力主義って所かしら。魔術師って変わり者が多いみたい。それにプライドが高い人も多いかな。でもあたしには優しいわね」

「アプリコットは魔術師団に付くんだろ? アプリコットは可愛いから可愛がられるなきっと」

「そんな、私は可愛くなんかありません」

「いやいや、可愛いよな?」

コヨミに言うと。

「うん! アプリコットは可愛いわ」

「そんなこと・・・」

アプリコットは顔を赤らめ俯いてしまう。

「じゃあ、王女様は?」

「王女様はねー、昴には優しいわね」

「俺には優しくねえな。あの王女」

「タケルの態度が悪かったからじゃないの?」

「あー、なるほど。納得だ」

「分っててやってたのね」

「まあな。頭に来てるからな」

「まあ、気持ちはわかるわ。・・・・・・でも、やるしかないのよねー」

「あいつらの思い通りに動く気なんかねえよ。その為には自重しないぜ、俺は」

「タケルが何をするかは分からないけど、アプリコットは巻き込んじゃだめよ」

「ああ」

俺達はアプリコットを見た。

「あ、あれは?」

アプリコットが見ている方向からローブ姿の集団が練兵場に入ってきた。

「魔術師団ね。騎士団とは反対の方で訓練してるわ」

俺は騎士団の訓練を眺めて、昴が騎士団長に直々に訓練を付けられている所を見ながら。

「騎士弾の訓練みてても退屈だろ? 魔術師団の訓練見に行くか?」

アプリコットに尋ねる。

「タケルさんはいいの? 訓練みてなくて」

「俺は明日から自主練だからな。今日はアプリコットに付き合うよ」

そう言ってベンチから立ち上がる。

「あたしも、一緒していいかな? 怪我人が出れば呼ばれるでしょうし」

コヨミとアプリコットも立ち上がる。俺達は場所を移し魔術師団の訓練を見始めた。的当てをする者。何人か纏って議論している者もいる。議論の輪を抜けて来た1人のローブ姿の男が。

「君達が昨日召喚された2人だね。私は、魔術師団の団長をしているアーズベルトだよろしく。騎士団の方はもういいのかい? 勇者アプリコット殿はともかく、勇者タケル殿は剣士なのだろう? 向こうにいなくていいのかね? まあ、見学は2人とも歓迎だがね」

アプリコットを見て、それから俺の腰の刀を見て言った。

「まあ、俺は記述魔術は使える。魔道具職人もやってるからな。魔物と戦う時には記述魔術は便利なんだよな、ノータイムで発動する上に威力も安定してるし、詠唱魔術と違って失敗が無い。中級までしか使えないから、強い魔物相手には牽制するくらいにしかならないけどな。相手が人間なら話は別かもだな」

「魔道具作り用の魔術だと思ってたよ。戦闘に使えるのかい? 魔力で魔法陣を書いたり、あらかじめ魔法陣を書いて有った物に魔力を流して使うんだろ? 使いにくいよね」

こっちの世界もだいたい同じか。剣との相性はいいと思うんだけどな。

「やって見せようか?」

「おー、頼むよ。記述魔術で戦闘かー。興味深いねー」

アーズベルトの指示で的場が空けられた。ドラグーンのカートリッジを普段使っている物から、派手目なヤツに交換してホルスターに戻すと。

「ちょっと行ってくる」

そう言って的場に立った。的までの距離は50mくらいか。魔術師達は俺を取囲むようにしている。

「いくぜ」

右手で抜いたドラグーンを的に向けて、普通のエクスプロージョンを撃ち出す。5発連射して。

『ドゴーン!』 『ドゴーン!』 『ドゴーン!』 『ドゴーン!』 『ドゴーン!』

的場でエクスプロージョンが炸裂する。続いて左手抜きアイススピアを撃ち出す。

『ドーン!』 『ドーン!』 『ドーン!』 『ドーン!』 『ドーン!』

撃ちながら右手でカートリッジを変え、今度はファイアーウォールを2発。

『ブォア!』 『ブォア!』

燃え上がるファイアーウォールに向かって。左手のドラグーンを操作する。

『ゴゴッゴゴッゴ!』

地面が盛り上がって、土の壁を作る。アースウォールでファイアーウォールを弾き飛ばす。両方のカートリッジを改良型のエクスプロージョンに変えて。

『ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド!』

アースウォールで作った土の壁を撃ち砕いて行く。壁が崩れるまでエクスプロージョンを撃ってから。

「中級魔法じゃこんなもんだな」

アーズベルトは。

「何だい何だい! 記述魔術ってのはこんなに凄いのかい? 中級までとは言え、属性関係なく無詠唱で発動させるとか。とんでもないね勇者タケル殿。いやー、興味深い。そのワンドで発動させるって事は、そいつが魔道具って訳?」

周りの魔術師達もざわついている。

「そう言う事。中級までしか使えないから、詠唱魔術を使う優秀な魔術師には敵わないけどな。アプリコットやコヨミの方が凄い事になるだろうね」

「ん? 勇者コヨミ殿の方が? 勇者タケル殿って回復魔法も使えるのかい?」

「ハイヒールまでだな。外傷と骨折までは治せる。内臓や欠損は直せねえって所かな」

「はー、大したものだね。魔術師団で活躍できる程の魔術は使えるって事だ。ところで、あそこまで連射して魔力が枯渇しないのかね?」

「魔力の総量はそこそこ多いんだ。あれくらいじゃ無くなりゃしない」

「どうだい? うちに来ないか? あれだけ連射速度が速いとなると、うちでも中堅を張れるよ」

「どっち道、帰還魔法が出来上がってからの話だ」

「ああそうだったね。その時は考えてくれよ」

「その時になったらね」

そう言ってアプリコット達の方に歩いて行き。

「おまたせ」

「ハイヒールだってあんなふうに連続で使えるんでしょ? あたしより凄いじゃない」

「そんな事は無い。コヨミはいずれエクストラヒールやメガヒールだって使えるようになるさ。アプリコットだってそうだ、上級の攻撃魔法を使えるようになる。俺のは本来は魔道具を作るための物さ」

「あたしは、そんな事で来ません。攻撃魔法なんて使えません」

そう言って俯くアプリコットの頭に手を置きグリグリしながら。

「人を殺すためにわざわざ覚える必要はないと思うんだけどな。まあ、自分の意思で自分や大切な人を守るために使いたいと思ったら覚えりゃあいいさ。お互い、この国には何の義理もねえんだからな。報酬やら何やらは誘拐の慰謝料くらいに考えとけばいい」

「それでいいの?」

アプリコットが言う。

「いいんじゃねえの?」

「うん、いいと思うよ。あたしと昴はヤマト帝国と戦うつもりだけど。2人に強制はしないわ」

「戦うつもりなのか。前の世界じゃ平和に暮らしてたんだろ?」

「ええ、でもね、ヤマト帝国ってネーミングセンスがあたし達の世界から来た人達としか思えないのよ。もしそうなら、この世界の人が自分たちだけで解決すればいい問題じゃないと思うのよ。これは昴も同じ意見よ」

「同じ世界ねー。何か根拠が有るんだろうけど。・・・・・・んー。コヨミとスバルって同じ世界から来たって言ってるけど、向こうでは知り合いじゃ無かったんだよな?」

「ええ」

「だったら、よく似ただけの別の世界って事だって有るんじゃねえの? ましてや、ヤマト帝国のやつらだってそうさ。それに、自分達が呼びこんだ奴らが悪さをしている訳じゃねえ。2人が責任を感じる必要なんか無いと思うがね」

「なるほど、似ている世界か。そんな事は考えた事も無かったわね」

「まあ、お互いの情報をよーくすり合わせてみたら、意外と違ってたりしてな」

「もしそうだとしても、戦う事になると思う。まだ、覚悟ができてるかって言われると何とも言えないけれど」

「そう簡単にそんな覚悟が出来る訳無いさ」

「タケルは、人を・・・・・・いいえ、いいわ」

「・・・20人くらいかな。8人目からは数えるのを止めた」

正確には、アインが何人吹き飛ばしたか数えられなかったからな。おそらく5人程だろう。トータル20人ってことろか。コヨミは顔をひきつらせ、言葉が出ないようだ。

「冒険者の仕事中だったって。人を殺す依頼は受けた事が無いって言ってた」

アプリコットが俺の援護をしてくれた。2人から目をそらし。

「ああ、誘拐された知り合いの女の子を救い出した。誘拐犯は7人。その次は、病気の女の子の薬の材料を運んでいる途中で野盗に襲われたんだ。時間が無かったんで生け取りには出来なかった。何人かは跡形も無く吹き飛んだんで、数えられなかった」

「「・・・・・・ごめんなさい」」

2人に謝られた。

「2人が謝る必要はない。これからしばらく一緒にいる事になるんだ。俺がどんな人間か早めに分って良かったろ。俺は、必要だと思ったら人を殺せる人間だって事さ。しかも、野盗達を殺した事を後悔も反省もしていない」

「女の子ばっかり助けてるんですね」

「は? アプリコット、突っ込むのはそこか?」

「そうよね、2人とも女の子なんですものね」

コヨミが言う。

「うんうん」

アプリコットが頷く。2人がぎこちない笑顔を向けてくれた。

「・・・・・・誘拐されてた女の子は全部で5人だったけどな」

「・・・・・・何と言えばいいのやら」

「・・・・・・女好き?」

「いやいや、それは違う!」

「女の子嫌い?」

「そうじゃない!」

「やっぱり好きなんだ」

「だから!」

「ふふふふ」

「あははは」

「勘弁してくれ」

このままだと笑われっぱなしだな。

「そう言えば、アプリコットって魔術師なんだろ? どんな魔術が使えるんだい?」

「わたし、・・・・・・魔術師の所にいて家事をしていただけです。魔術師なんかじゃ有りません。魔術なんか教わっていないです」

「ん? 弟子なんじゃ・・・・・・。12歳だったか。俺がいた所じゃ15歳で成人なんだが、12歳になれば見習いとして仕事を始める。12歳ならこれからなんだろ?」

「12歳から働き始めるの? あたしの国じゃ、まだ子供扱いだよ。15歳までは義務教育って言って学校で勉強しなきゃならない。働き始めるなんて事は無いよ」

「わたしの国でも12歳から働き始めます。でも、私は10歳の時に買われたから。それから家の事だけやってます」

アプリコットは俯いてしまった。その沈んだ顔付きを見て。俺はやっちまった事に気が付いた。『人殺しはしたくないけど、帰れなくてもかまわない』って言ってたが、魔術師のところでひどい扱いでも受けてたんじゃないだろうか。どーすりゃいい? こんな小さな女の子にこんな顔をさせるなんて最低だぞ。何か考えろ。魔術師の所にいたんだ何か魔術を覚えていないのか? 

「あー、アプリコットって、本当に魔術は何も使えないのか? ほら、魔術師の所にいたんだろ? ちょっと便利な魔法の1つくらい覚えてないか?」

少し間をおいて。

「・・・ライトが使えます」

俺は、チーフを抜いて。

「ライトってこれか?」

目の前にライトの明かりをともす。日中のせいだけでなく、ヨワヨワしい光が浮き上がる。点灯時間を長くする事で光量を下げてみた。

「はい、夜でも繕い物が出来て便利なんですよ」

「そうだな、俺も細かい作業の時に手元を照らしてるよ。一緒だな」

「はい! 一緒です」

と言って笑ってくれた。ふー、内心で胸を撫で下ろした。そんな俺をコヨミが微笑んで見ている。

「ちょっとやってみ」

「・・・・・・はい」

「思いっきり魔力込めてやってみようぜ」

「思い切りやっても変わりませんよ」

アプリコットは右手を上げて。

「輝け、照らせ、真昼のごとく」

『ビッカーーーー』

音がしそうな勢いで光が爆発的に辺りに広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ