えーと、異世界転移
舞台が変更になります。今後の為には必要な、予定していた展開なのですが、どんなもんでしょう。
「ぐあー。目がチカチカする」
『バキバキバッキバキ』
「ん? フィーア何の音だ?」
「天井と言うか上2階分の床が崩れ落ちました」
「はあ? ウチの店は平屋だぞ?」
そう言ってメインモニターを見ると光は収まっており、石の床には光を失った魔法陣とその上に散らばる木や石等の建材の破片が見て取れた。
「店の床じゃない?・・・・・・!」
その時床が歪みはじめるのがわかった。
『ミシミシ・・・ゴッ!』
そして、床が抜けた。一瞬の浮遊感の後。下から衝撃が突き上げた。
『ドーン!』
業火が足から下の階に落ちたようだ。こいつの自重は20tを超える。まあ、普通の床は耐えられないよな。
『グラッ』
ヤバイ! 業火は動けないんだった、幾らフィーアでもこれではバランスを取りようが無い。俺はコンソール脇のレバーを引いた。業火がゆっくりと沈み込むのを感じる。今引いたレバーはシリンダーをニュートラル状態にするレバーだ。直立した業火に自重だけで駐機姿勢を取らせる事が出来る。業火は今右片膝を立てそこに右腕を乗せ、左ひざを床に突き左腕を腹の前に出しているはずだ。見ようによっては上位者の前でかしこまっているようにも見えるかもしれないな。
「ん?」
落下の衝撃で目の前に降りてきたヘッドマウントディスプレイには今おかしな光景が映し出されている。目の前で座り込んでいるローブを着た老人。それに、後ろに控えるフルプレートの騎士達。騎士達に守られるようにその後ろに居るドレスの女性。いや少女と言っても良い年齢か?
「まるで王女様ってか?」
そして、隣には文官らしき男が3人。みんな、こちらを見て固まっている。取り合わせはバラバラだけど、何となく統一感があるな。
「これは、召喚? だよな、やっぱり」
転移には慣れてんだ俺。慣れているって言っても、嬉しい訳じゃねーし。いや、むしろ怒りを覚える。そんな風に観察しているとドレスを着た少女が騎士達の間を抜けてこちらに近づいてくる。
「姫! 危険です!」
そう制する騎士に向かって、振り向いた姫が。
「召喚に応じた者です。それに、ご覧なさい。こちらに敬意を表しているではありませんか」
と言いながら向き直ってこちらを見上げる。
「あなたは、言葉が分かりますか? 喋れるのでしょうか?」
俺は、ヘルメットを脱ぎ、正面のハッチを上下に開ける。ハッチの位置は姫の居る床より少し高い程度だ。陥没した床は直径で15m程で、魔法陣を全て階下に落していた。俺は、ベルトを外し少し距離のある床に向かって跳び下りながら。
「単なる駐機姿勢だ。別に敬意なんか払っちゃいねえ」
姫はいきなり現れた俺に驚いたのか1歩後ろに下がった。しかし、気を取り直すと。
「召喚に応じていただきありがとうございます勇者様。わたくしはカメリア・サースベリアと申します。このサースベリア王国の第一王女です」
あちゃー、やっぱり勇者召喚かよ。やってくれたな!
「人違いだ」
そう言って後ろを振りかえり。
「フィーア! とりあえず降りて来い」
業火のマスクが前にスライドしシートに座ったフィーアが頭部から出て、軽やかな動作で俺の横に飛び降りた。
「フィーア、ハッチを閉めてくれ」
「はい、店長」
フィーアがそう言うと。マスクが格納され、胸部ハッチが閉じた。
「その者は何なのですか? 人では有りませんね」
「さて、ここはどこなんだ?」
フィーアに向かって尋ねてみる。もちろん答えを期待してはいない。
「魔法陣の光りが収まった時にはすでに、この場所にいました。まったく理解不能な状況です」
「だよな」
「お答えください!」
姫が少しだけ苛立ちを含んだ声を出した。俺はゆっくりと振り向くと。
「俺はタケル。ご覧の通り冒険者だ。そして、こいつはゴーレムのフィーア。そして後ろにいるのが、パペットバトラーの業火だ」
「勇者タケル様は、異世界で冒険者をなさっていたのですね。召喚に応じていただきありがとうございます。我がサースベリア王国へよくおいで下さいました」
「そんな物に応じたつもりは無いんだがね」
そこに文官の中で一番身なりの良い男が近づいてきて。
「貴様! 王女に対して何と言う口のきき方だ! 不敬であろう!」
そりゃあ尊敬の念とか全くねえもん。俺は怒ってるんだ!
「良いのです。勇者様は突然の事態に混乱なさっているのです」
文官にそう告げると。
「別室にて詳しくお話をさせていただきます」
「それはそうと、そこで座り込んでる爺さんは平気なのか?」
部屋にいる人間の全ての視線が床に座り込んだ老人に向く。
「「「「「「ザルークス殿」」」」」」
初めて気が付いたように。皆が老人に駆け寄る。老人は、茫然と目を見開き、口を半開きにし座り込んでいる。騎士の1人が老人の肩を揺さぶりながら。
「どうしました。ザルークス殿! ザルークス殿!」
意識は有るようだが、ぼんやりとして返事は出来ないようだ。文官の1人が。
「ザルークス殿を治癒室に運ぶのだ」
「「はっ!」」
2人の騎士が両脇から抱えるようにしてザルークスを運び出す。
「大丈夫かい? あの爺さん」
先ほどの文官が。
「爺さんでは無い。ザルークス魔術師長は、まだ40歳をわずかに過ぎた年齢だ。しかし、何が起こったと言うのだ?」
へ? 40歳? どう見ても60歳より若いって事は無いように見えるけどな。80歳と言われても信じちまうぞ。
「タケル様を召喚するまではあのような見た目では無く、年齢相応だったのです。何が有ったのでしょうか?」
カメリア王女が心なしか青ざめて言う。何となく想像は付くが言う義理はねえよな。おそらく俺を召喚する時に業火の不安定だった魔結晶と干渉して無茶な召喚をする羽目になったんだろう。人間を召喚するつもりで20tを超える業火ごと引き寄せたんだ。体に恐ろしい負担がかかったとしても仕方が無いだろうさ。全く同情するつもりはないけどな。しかし、そんな事に気が回らないって事は召喚に慣れていないのか?
「とにかく、お話をお聞きください。落ち付ける場所にご案内いたしましょう。さあ、ご案内します」
まあ、現状を把握する必要は有るな。
「ああ、了解した。フィーアは連れて行っても良いのか?」
カメリアに返事をし、頷くのを確認してから業火に振り返り待機するように告げる。
「業火、そこで待ってろよ。後で迎えに来るからな」
俺はフィーアを伴って、女王の後についてこの部屋を出た。騎士達に周りを取囲まれ。後ろには文官達を従えて廊下を歩く。召喚された場所は建物の奥まった場所だったらしく、少し歩くと先ほどまでと違って装飾された廊下に出た。
「大きな建物なんだな」
独り言をつぶやくと。カメリアが反応した。
「ここは王城ですから、当然です」
「すると業火は王城の床をぶち抜いたのか・・・・・・」
「お気になさらずともよいのです。タケル様をお呼びしたのは私達なのですから」
「ああ、気にしちゃいないさ。あのくらいじゃ業火には傷一つ付きやしない」
文官が俺の言葉に反応し。
「王女様は貴様に気を使って仰ったのだぞ。あんな物を持ちこみ、召喚魔法陣を破壊しおって。あれを作るのにどれほどの時間と費用がかかったと思っているのだ! なんの役にも立たたんゴーレムなどのせいで、どれほどの被害を出したと思っているのだ」
「本当だよ、全くこまったもんだ。業火はまだ完成してねえんだぞ。今のままじゃ実力の半分も出せねえ」
「そう言う事を言っているのではない! 即刻あそこからどけるんだ」
「無理だな。あいつは未完成だ。可動試験をしようとしてた所だったんだ。あのまま動かしたらどんな不都合がでるかわからねえ。それに、壁や床をぶち抜いてもいいのかい?」
最初からわざと話を噛みあわせていない事に気が付かねえのかな、このおっさん。軽い嫌がらせだ。
「くっ! 貴様!」
「ドルコネル宰相。タケル様を責めるのは筋違いです。控えてください」
「はっ」
ドルコネルは不承不承引き下がった。そんな話をしているうちに目的の部屋に着いたらしい。扉の前にいる兵士にドルコネルが合図をすると、兵士は扉を開けた。部屋の中はなかなか立派で、大きな応接セットが置いて有る。そこには、ローブを着た1人の少女が座っている。ケーナと同じくらいの歳かな? 何だか緊張した顔でこちらを見ている。カメリアが。
「アプリコット様お待たせいたしました」
少女に挨拶をすると。俺に向かって。
「どうぞお掛けください。今、お茶を用意させます」
促され、俺はアプリコットの横に座る。フィーアは俺の後ろに立つ。お茶が出てくる前にカメリアは話し出した。
「アプリコット様、こちらはタケル様です。今新たに召喚に応じてくださいました」
「ア、アプリコットです」
少女はつっかえながら、囁くような小声で名乗ると。ペコリと頭を下げた。右手を上げて軽く挨拶しながら。
「タケルだ。で、こっちはフィーア」
フィーアを紹介した。
「フィーアです。店長が作ってくださったゴーレムです。よろしくお願いいたします」
と言って、礼儀正しく頭を下げる。紅茶とお菓子が目の前に出されたので、喉を潤す。俺はカップを戻し、お菓子に手を伸ばす。
「ん?」
視線を感じ横を見ると。アプリコットが俺の前に置かれたお菓子をじーっと凝視している。俺はお菓子の乗った皿を持ち上げる。すると、アプリコットの視線も上に上がる。手元に引き寄せてみる。やはり視線はお菓子を追いかける。カッカワイイなこれ。引き寄せた皿をゆっくりと動かしアプリコットの前にコトリと置く。すると食い入るように頭が前に出る。
「ゴクリ」
喉を鳴らす少女に向かって。
「食べていいぞ。俺は腹が減っていないからな」
「え? えええ?」
そう言いながら、俺の方を見上げる。
「食べていいぞ」
もう一度言うと。ペコリと頭を下げて。
「ありがとうございます」
小声で言うとパクパクと美味そうに食べ始めた。うーん良いな。とても良い笑顔でお菓子をパクつく姿は無茶苦茶癒される光景だ。アプリコットがお菓子を食べ終えるのを待ってカメリアは口を開いた。
「では、お話をさせていただきます」
「ああ」
さてどんな話が聞けるんだろうな。勇者召喚と言えば、相手の定番は魔王率いる魔族と言うのがテンプレだけど。
「はい」
やはり小さな声で返事をするアプリコット。口元にはお菓子のかけらが付いている。取ってやったほうが良いんだろうか? セクハラとか言われねえかな。
「勇者様達をお呼びしたのは、この国を救って欲しいからです。今、我がサースベリア王国を悪の帝国からお守りください。勇者様達のお力がどうしても必要なのです」
ん? 悪の帝国? 悪魔の帝国と聞き間違ったか? 悪魔に攻められてるんじゃ、勇者も呼びたくなるってか? 呼ばれた者としちゃ、ふざけろ巻き込むんじゃねえ! と言いたい。アプリコットは驚いた表情を浮かべ。
「悪魔に攻められているのですか?」
やはり小声で言った。
「いいえ、そうでは有りません。相手はヤマト帝国といいます。取るに足らない辺境の小国だったのですが、数年前から周りの国に戦争を仕掛け併合し始め、最近ではその武力を背景にして属国にし。またたく間に巨大な帝国となってしまいました。その武力はあまりに強大です。たったの数年で国土を数十倍にしてしまったのですから。このままでは我が国に攻め入ってくる事は必定。そうなれば王国騎士団だけでは対処は難しいでしょう。800年の歴史あるサースベリア王国を守るために是非勇者様達のお力をお貸しください」
相手はヤマト帝国だと? 転移や転生した日本人の国か? それはそうと、相手は人間で、しかも戦争すら始まってはいないって事かよ。まあ、泥沼の撤退戦とかになってるよりはマシなのか。
「あ、あの、あたしにどんな事が出来るかはわかりませんが」
「今の話だけで、はいとは言えよな。答えは保留だ」
アプリコットの言葉を遮るようにして俺は言った。下手に了承しようものなら後々面倒になる。
「俺は冒険者だ。依頼内容と報酬が見合って、実行可能な場合に依頼を受ける。だいたい、数は力だ。俺達2人だけで戦争が出来る訳が無い。強大な武力を持った国なんだろ? 騎士団か軍隊かわからんが個人でどうこうなる状況じゃあねえだろ」
「怖気付いたか。だが貴様たちだけでは無い。すでに2人の勇者を召喚し、我が国の為に戦う事になっておる。1月に2人づつだが、これからも召喚される。悪の帝国が侵攻してくるにはまだ時間がある。戦力の増強は可能だ」
うわーい。戦力が倍になったー。これからもどんどん増えるー。って喜べば気に入ってもらえるのか? こいつら自分たちが誘拐をしてるって自覚が無いのか? と、そこにドアのノックの音が響いた。紅茶を出してくれたメイド? がドアの所で応対し、ドルコネルに耳打ちする。一つ頷き。
「謁見の間の用意が整った。国王陛下と謁見してもらう。くれぐれも粗相のないようにな」
そう言って立ち上がる。俺達も立ち上がった。護衛の騎士が。
「勇者殿。武器をお預けいただきましょう」
「あたしは、武器は持っていません」
「謁見の間ってのは、武装は厳禁なのか?」
カトレアが。
「当然です。護衛の近衛騎士以外は武装できない決りとなっております」
「この剣が無いと、手加減出来ねえんだけどな」
「何に対して手加減するのですか。謁見の間なのですよ勇者様を害するような事は起きません」
フラグが立ったか? まあいい、何かあったら手加減しなくていいって事だ。
「・・・了解した」
少し考える素振りをしてから、そう言ってテーブルの上に刀を2本、ドラグーンを2挺、チーフ1挺、ナイフ1本、棒手裏剣を6本置いた。んー、完全武装の俺って危ない人間だな。
「フィーアはここに残す。あんたらに預ける代わりにここで見張らせる。いいよな? こいつは俺が向こうから持ってきた財産だ。おいそれと他人に預ける訳にはいかない。フィーア頼んだぞ」
「はい、店長」
俺の武器を見て絶句している皆を無視して話を進める。
「そのゴーレムは戦闘用なのか?」
「戦闘用では無いが、戦闘は可能だ。王様の前に連れて行って、あとでその事がわかったら拙いだろ」
「うむ」
頷くドルコネル達に促され謁見の間に向けて廊下を歩く。さっきまでと違って表向きの場所なんだろう。ここの廊下は装飾されている。さすがに800年続く王家と言ったところか、華美に過ぎず良い趣味なんじゃないだろうか。衛兵が守る大きな扉の前まで案内され、中に案内される。
「!」
アプリコットが俺の隣で息を飲むのがわかった。中には、貴族だろうか? 豪華な服装の人々、護衛の近衛騎士達、文官達も数名。たしかに、普通の人間だと圧倒される人数だな。中に通され、正面に見える玉座から10m程の所で止まるように指示される。俺達が止まるのを待っていたように。
「ペテルノーク・サースベリア国王陛下のご入場です」
そう声がかかる。騎士達は気を付けの姿勢を取り、貴族たちは片膝をつき右手を胸に持って行き頭を垂れる。俺も同じような格好をする。アースデリアと同じような礼だな。ふと横に目をやると。
「え?」
アプリコットの格好を見て思わず小さな声が出てしまった。アプリコットは時代劇なんかで見るような、正座で三つ指を着いた礼をしている。この子の世界ではこれが正式な礼なんだろう。しばらくすると。
「楽にせよ」
そう声がかかると、部屋の人々が立ち上がる気配がする。俺達も立ち上がった。
「さて、勇者たちよ。我が国の召喚に答えてくれた事嬉しく思う。まずは、そなた達のカードを作ろう。ステータスやスキルを確認させてもらおう」
王様がそう言うと、俺達の前にテーブルに乗った魔道具のような物が用意された。玉座の脇に立つドルコネルが。
「その魔道具に手を置きカードを作ってもらおう」
魔道具を運んだ者に促され、アプリコットが石板のような物に手を置く。魔道具の横に着いた係の者が何か操作すると石板が光りを発しカードが1枚出てきた。
「右下に手を当て表示された内容を確認し、スキルを読んでいただこう」
アプリコットが言われたようにカードを操作し。小声で。
「・・・異世界召喚者。・・・魔術の勇者」
そう言うと。
「おー!」
謁見の間にどよめきが起きる。次いで俺の番になる。同じように石板に手を置と係の者が操作をする。石板は光らない。
「あれ?」
そいつが、慌てたように何やらいじり始める。しばらくいじっているが何も起こらない。
「何をしているのだ」
ドルコネルが係の者を問い質す。
「はっ、魔道具が動きません。カードは入っているのですが、どうしたことか」
ドルコネルが俺に向けて。
「勇者タケル。何をしたのだ?」
「え? 俺は何もしちゃいないぞ。壊れたんじゃねえの?」
「貴様! 陛下の御前だぞ、なんだその言葉遣いは! 不敬であるぞ!」
「何を言ってるんだ? 俺の居たところじゃこれが最高に敬意を払った言葉遣いだぞ。異世界から来たばかりなんだ。これでも気を使っている。この、アプリコットだって、さっきの礼の仕方はまるで違ったじゃないか。世界が違えば敬意の払い方が違うのは当たり前だ。この言葉遣いで国の王女と話した事もある」
「勇者の言う通りである。召喚され1刻あまりだ。この国の礼義など覚える時間が有る筈は無い。自分の世界の仕方で礼を尽くすしかあるまい」
「はっ、仰るとおりです。魔道具は改めて用意いたしましょう。では、勇者タケル。解る範囲で自分の事を陛下に申し上げるのだ」
「勇者かどうかは分からないが、向こうでは冒険者兼ゴーレム術師兼魔道具職人兼雑貨屋の店長をしていた。もっとも、雑貨屋は開店休業みてえな状態だったがな」
周りの貴族達から馬鹿にするような雰囲気が伝わってくる。だいたい向こうの感じと同じようなのかな? ゴーレムを戦争に使うのは攻城兵器としてだし、魔道具職人は戦闘職じゃあないし、冒険者はならず者ってところなんだろうか。要は使えない人間決定って処なんじゃねえかな。まあここの貴族の評価なんか気にしねえけどな。俺の話を聞いた国王は。
「勇者アプリコット、勇者タケル。カメリアから説明が有ったと思うが、今、我が国は悪の帝国からの侵攻を受けようとしている。調査によると奴らの武力は我が国など相手にならないほど強力なのだ。お前達の前に召喚したこの2人、勇者スバルと勇者コヨミ更にこれから召喚する勇者達と協力して我が国の為に戦ってもらいたい。どうだ、やってくれるか」
スバルにカスミか顔付きからして日本人だよな。スバルはイケメンだし、コヨミは美少女だな。2人ともちょっとお目にかかれないほどだ。しかし、王様はなにふざけた事を言ってんだ、屑だな。
「条件も示さずに要望だけ伝えて了解が得られる訳無いだろ」
「国王陛下が頼んでおれれるのだぞ。それを条件などと、これだから冒険者などと言う輩は」
貴族達の中からそんな声が聞こえる。
「冒険者ってのはな、依頼内容と報酬等の条件を提示されて、自分の実力で達成可能か判断して行動するもんだ。で、この依頼を断った場合は当然帰れるんだろうな?」
まあ、こいつらに俺を帰す必要は無いよな。使えないとわかれば殺しちまったっていいんだからな。
「うむ、今は帰還魔術は無い。勇者達を召喚した魔術はザルークス宮廷魔術師長が開発し実行したものだ。そのザルークスには帰還魔術の開発をさせている。彼は天才だ。召喚魔術を1人で開発し実行したのだからな。とは言え、直ぐに帰せる訳ではないのだ。断る事はかまわないが、色々と不自由な思いをさせる事になる。我が国に益をもたらさない者に対し手間を掛ける事は出来んのでな」
へー、正直だな。
「協力してくれるのであれば、貴族としての待遇を約束し領土も与えよう。国の防衛に成功すれば、一生かかっても使いきれないほどの報酬を約束しよう」
横を見ると報酬を聞いたアプリコットは驚いた顔をしている。この子は帰れないと聞いた時に浮かべた表情は何だろう? 喜び? いや、安堵? とにかくあの話で浮かべる表情では無かったような気がする。無理やり召喚されたからと言って、帰らなきゃならないと考える人間ばかりではないって事か。
「まずは、その帰還魔術ってヤツを完成させてくれ。話はそれからだな」
するとドルコネルが。
「帰還魔術を開発するには時間が掛かると陛下がおっしゃっているであろう。それを何だ? 話はそれからだと! ふざけた事を言うな!」
「ふざけてるのはどっちだ。帰還魔術は完成するかどうかすら怪しい。そっちにしたら無理をして帰す必要すら無いんだろ」
ドルコネルが無表情になった。図星か。
「そもそも、俺にとっちゃここは異世界だ。全く関係ない人間だよな。どうなろうと知ったこっちゃない。相手は同じ人間なんだろ。自分達で何とかしようとするのが当然だ。話し合う努力はしたのか? 相手は属国を認めてるって言うじゃねえか、交渉次第じゃ国を疲弊させずに残す事だってできるんじゃねえのか。それを誘拐の被害者に対して良さそうな条件を示して人殺しをさせようって訳だ。こんな子供にまでも。あんたら性根が腐ってるな」
俺が言うと。若い近衛騎士の1人が俺に走り寄りながら剣を抜き上段に振り被った。ちょっと煽っただけでこれかよ沸点が低いヤツだな。
「無礼者!!」
振り降ろされた剣を真剣白刃取りし、左脇に捻った。同時に右足を加減しながら腹に叩き込んだ。
「グッハ!」
所謂当て身ってヤツだ。剣を手放し床に崩れ落ちる近衛騎士。俺は剣を床に放り投げる。
「王女には殺しても良いって言われたけど、そこまでする必要は無かったな。この程度なのか近衛騎士ってのは。あー新人なのか? 忠誠心だけは強いみてえだな。それだけじゃ結果はこうだけどな」
「私は殺人の許可など出した覚えは有りません!」
「え? 出したろ。俺は剣が無いと手加減出来ないって言ったよな。それでも剣を取りあげたんだ。手加減しなくて良いって事じゃないか。もっともこれじゃな」
と言って床に倒れ呻く男を眺める。
「何を言うか! 小隊長殿は油断していただけだ!」
「そうだ、そうでなければ小隊長殿が一撃で倒されるなど有りえん!」
何?
「何だと? 油断だと? 舐めるんじゃねえぞ!! 真剣を抜くって事は相手の命を奪うと宣言する事だぞ!! そんな温い気持ちで剣を握ってるのかてめえらは!! 恥を知れ!! そんな気持ちなら騎士なんか止めちまえ!!」
俺の怒鳴り声で静まりかえってしまった謁見の間。俺はアプリコットに向かって。
「アプリコット。俺は今から剣を取りに行ってくる。ここには無手の相手に剣を振るうような頭のおかしな連中がいるからな。ここにいちゃ危ないから一緒に来るか? 俺の見える範囲に居れば守る事も出来るぞ」
「はい」
そう言ってドアに向かって歩き出した俺の後を付いてくる。
「まて!」
と言うドルコネルを無視して歩き続ける。ドアの前に立つ2人の兵士向かって。
「どけ」
と言うが、奴らはどく気配が無い。
「どけと言っている」
そう言って2人に向けて全力で殺気を放つ。兵士は2人ともへたり込んでしまった。後ろのアプリコットも腰が抜けたように座り込んでしまった。
「あー。悪い悪い」
そう言ってアプリコットを抱き上げ、魔力を流して身体強化をした。両手がふさがってしまった俺はドアを蹴りつけた。
『ドゴ!』
大きな音をたてて吹き飛んだドアは廊下の反対側まで飛んで行ってバラバラになった。ドアが有った所をアプリコットをお姫様抱っこしたまま潜って廊下をさっきの部屋に向かって歩いて行く。後を追ってくる人間がいる事に気が付いた。
「勇者タケル殿! 少し話がしたい」
足を止め振りかえりそいつを待つ事にする。俺に追いついた男が。
「ちょっと話をさせてくれ。ワシはラーマルト、近衛騎士団の団長をしておる者だ」
「俺はタケル。ただの冒険者だ。この国で何も成していないのに勇者呼ばわりは止めて欲しい、なんだか馬鹿にされてるみてえだ」
「では、タケル殿。先ほどは部下が失礼した。申し訳ない」
「いや、俺が言いすぎたせいだろう。いきなり異世界に呼び出されて混乱してるし、かなり頭に来てるからな。異世界からわざわざ人間を召喚したんだ。最初から帰すつもりなんか無い事は分りきってるしな」
「なぜそう思うのだ?」
「元々、無関係な人間を召喚して都合の良いように使おうって連中だ。用が済んだら捨てるなり殺すなりすれば良いくらいにしか考えていないだろうって思うだけさ」
「なるほど」
「俺から生活、家族、仲間そして未来まで奪う行為だ。頭に来たのさ。俺の家族は12歳の妹1人だ。妹がこの先1人でどうなるかなんて考えるまでもないだろ。召喚する連中の事情なんか一切考慮してねえからこんな事が出来るんだろうさ。さっきの口約束なんか当てにできねえよ」
ラーマルトは帰す言葉が無いようだ。こいつは意外と善人なのかも知れない。アシャさんとガーネットが一緒だ俺が戻れなくても最悪の事態にはならないだろう。大体、帰還魔術とか言って燃やされちまうかも知れねえんだ、自力で帰る方法を見つけなきゃならない。その為には業火を完成させる必要が有るよな。
「アプリコット、立てるか?」
待合室に着いたので、頷くアプリコットを確認してゆっくりと下ろす。ラ―マルトはドアを守っていた兵士にドアをあけさせると。俺達をソファーに座るように促し、自分も向かい合って座る。
「先ほどの者はきっちりと処分する」
「まさか、死刑とかしねえよな? 王の前で客に剣を向けたとかで」
ラーマルトの顔を見ると図星のようだ。
「止めてくれよ、せっかく殺さなかったんだ。王家に対する忠誠心は見事なくらいなんだろ? そいつの家族に怨まれるのは俺なんだ。仇打ちなんて言われたら面倒な事になる。余計な厄介事は勘弁してほしい」
「タケル殿がそう言うのなら、そのように扱おう。さて、先ほど陛下からあった条件では納得できないのだろう? どのような報酬なら納得してくれるのだろうか?」
「ラーマルトさん、あんた子供はいるかい?」
「ああ、11歳の娘とと8歳の息子がいる」
「そうか、あんたの娘さんが誰かに誘拐されそこで大量の人殺しを強要されたとして。あんたが納得できるだけの報酬を準備してくれ。それを聞いてから考えてみよう」
「そんな事を許せる訳はないな」
「そうかい? 草の根を分けても誘拐犯を探し出し、そいつの命を・・・・・・」
「それは!」
「ふっ、冗談だ。だいたい用事が済んだら必ず帰してもらえるんなら、爵位や領地は必要ないだろ? もちろん大金なんて必要は無い。当座の生活に困らなければ良いんだ」
俺は考えるふりをしながら。
「そうだな。俺が持ってきたゴーレムは、まだ完成していないんだ、そいつを完成させたいからその材料、鍛冶場と作業場の用意をしてもらいたい。この世界の戦争がどんな物かは知らないが、勇者とは言え人間が重要な戦力になるような軍隊と戦うならば、あれは、一国の軍隊を相手にできる程の戦力だ。この国にも不都合じゃ無い筈だ」
戦う相手はこの国の軍隊かも知れねえけどな。
「この世界のゴーレムとは違うと言うことか。あれは攻城兵器にしか使えん物だと思われているからな。よし、陛下には伝えよう。他には?」
「んー、そうだな。・・・・・・帰還魔法が完成するまで勇者召喚を止める事かな。帰りたい者を帰すつもりが有ると言う事を証明してもらおう。あ、もちろんアプリコットの希望も聞いて欲しいな。なあ?」
アプリコットは。
「今は驚きで、考えが纏まりません。即答は無理です。それに、国を守れと仰っていましたが、私は人を殺した事など有りません。まだ12歳ですから」
へー、ケーナと同い年か。
「ん、分った。今から戻って話てみる。お2人はここで待っていてもらおう。それ程時間は置かずに迎えを寄こそう」
「ああ、ここで、お茶とお菓子でもいただいて待ってるよ」
「うむ」
ラーマルトは頷くと立ち上がり、部屋に残っていたメイドに指示を出して部屋を後にした。フィーアから武器を受け取り装備し終わるころにはお茶の準備ができていた。俺はアプリコットの向かいに座ると。
「すまなかったな。俺のせいでアプリコットの条件も悪くなっちまうな。まあ、そうならないように口添えするから、勘弁してくれるとありがたい」
「いいえ、あたしは、命令されて人を殺すのはいやです。帰れなくても別にかまいませんけど」
元の世界で何か有ったのかな?
「俺だってこんな理由で人を殺すのは嫌だな。殺した事はあるが、クエスト達成に必要な場合だけしかしていないし。そもそも、人殺しが条件の依頼は受けた事はないしな。ん?」
ドアがノックされた。ラーマルトの話が終わる訳は無いよな。メイドが確認してドアを開ける。
「入るぞ」
「失礼します」
と言って部屋に入ってきたのは、勇者の2人だった。スバルとコヨミだったか。近付く2人に怯えたようにアプリコットが俺の隣に移動してくる。あー、お菓子は持ったままなのね。俺達の向かいに2人が腰かけスバルが。
「なんであんな事をしたんだ」
あんな事って。どれのことだ?
「俺、なんかしたか?」
「な、何だと! 近衛騎士団の小隊長を殴り倒したじゃないか」
「あー、あれな。あれは正当防衛だ。自殺しなきゃならないほど将来を悲観しちゃいねえからな、俺は」
「お前があんな事を言ったせいだろうが!」
「俺が前にいた所には、目には目を、歯には歯をって言葉があってな。目をやられたら目まで、歯をやられたら歯までで止めておけ、やり過ぎるなって意味だ。口で言われたら口で言い返すのが筋だろ。もっともここは異世界らしいからどうだか知らんがね」
「目には目ってそれ、やられたらやり返せって意味だぞ。それに王族や貴族を馬鹿にしたら不敬罪で死刑や手討も有り得る」
「なーんだ、俺がいた所と大して変わらねえんだな」
「わかっててやったのか!」
「俺は、無茶苦茶頭に来てるんだ。こんな所で人殺しなんかしている場合じゃね。同じ殺すなら、この国の王侯貴族を皆殺しにして、王様に収まって例の魔術師に帰還魔術作らせるのも有りだぞ」
「「なっ」」
勇者の2人は絶句した。
「なーんて事はしたくねえからあんな事を言った。俺は帰るためなら自重は一切しない」
「この国の人々は困っているんだぞ。ヤマト帝国がいつ攻めてくるかも知れないんだ。そんな人達を見捨てるって言うのか!」
「あのな。この国の人々の事は知らねえけどな。少なくともこの王城の中で最も困ってる人間の1人だぞ俺は」
「なに自分勝手な事を言ってるんだ!」
「あ、ところで、自己紹介がまだだったな。俺はガーゼルの街で冒険者兼雑貨屋の店長をやってるタケルだ。そして、後ろに居るのがフィーア。俺が作ったゴーレムだ」
スバルの怒りを逸らすように自己紹介をした。ゴーレムって聞いても反応無しか。やっぱりゴーレムには大したことは出来ないと思われてるのか。
「アプリコットです」
アプリコットは小声で名乗った。コヨミはため息をついてから。
「はあー。昴が脅かしちゃったわね、御免なさい。あたしは暦美、で、こっちは昴。2人とも地球の日本から召喚されたわ」
「へー、じゃあ2人とも知り合いだったのか?」
「いいえ、たまたま同じ国から召喚されただけよ。接点は無かったわ」
「お前だって日本人だろう。何だその格好はコスプレか?」
「仕事着だ、冒険者の時のだけどな。何だいコスプレーって?」
はい、嘘をつきました。コスプレよーく知っております。
「なに? 日本人じゃ無いのか?」
日本にはコピーが、いや、俺ダッシュ? こっちの俺がダッシュかな。まあ、何かが残ってるんだ。あそこは俺が帰る場所じゃねえ。アルトガイストが俺の居場所だ。
「ああ、違うぞ」
本当の事を言ってもなー。
「さて、スバル君」
「召喚された者同士だ、昴でいい」
「そうかい、だったら俺もタケルと呼んでくれ。さっきの話の続きだが、この世界での起こる戦争だろ? だったら、この世界の人間だけで決着を着けるべきだ。俺達は完全な部外者だからな、干渉すべきじゃないと思う。大体、戦争に負けても為政者が変わるだけで国民は税金を納める相手が変わるだけだ。新しい政府の方が良い待遇で治めてくれるかも知れない。戦争の為に税金が上がったり、徴兵で家族が兵役に取られる事は痛手になるだろうがな。勝てない相手と戦争をしたくないなら属国になればいい。外交交渉次第じゃ王家だって残せるかも知れないだろ」
「相手は、悪の帝国だぞ。戦争に負けたら、この国がどんなひどい目に合うか分らないんだぞ」
「悪の帝国? それはこの国の奴らが言った事だろう? 戦争になろうかって相手だぞ、優しい国なんて言う訳ないだろ。敵対している国同士なんだから片方だけの意見を聞いて判断するのは早計じゃねえのか? スバル達はその相手の事をどれだけ知ってるんだ? 第三者の話を聞く機会は有ったのか?」
「無かった。しかし、王女がそう言ったんだ。彼女は僕に嘘など付かないと言った」
「嘘をつかないってのがそもそも嘘だっていうぜ」
「彼女はそんな人じゃ無い!」
コヨミの方を見ると、彼女は肩をすくめるようなしぐさをして見せる。
「まあ、俺は王女とはほとんど話した事が無いからな。よくわからん」
「だったら、よく見て判断すればいい」
「ああ、そうさせて貰おう」
一度言葉を切った俺はアプリコットに顔を向け話を続けた。
「ただし、これからどんな展開になったとしてもこれだけは絶対に譲らない、アプリコットに人殺しはさせない。さっき、この子は人殺しはしたくないと言ったからな。アプリコットは12歳だそうだ」
スバルとコヨミはアプリコットに目をやった後お互い見つめ合って頷くと。
「この世界で成人は15歳からだ。12歳なら連中もそんな事はさせないと思うが、俺達もその意見には賛成だ」
「あたしも賛成」
「ありがとうございます」
相変わらず小声で話す。
「勇者の方々おいでいただきたい」
どうやら迎えが来たようだ。さーて、彼らはどういった話をしてくれるのかな?