稼働試験
「何だい、ゴーレムが鍛冶をしてるのかい?」
「ん? カーシャか。良いんだよ、剣を作る訳じゃねえ、オリハルコンを鍛えるだけだからな。この方が品質がそれなりのレベルで揃うんだ、外注に出すとどうしてもバラつきが出ちまうからな」
そうなのだ、クレーンを設置する時に鋼の鍛造を外注したんだが、そのままでは使えない品質の物がそれなりに混ざっていた。高過ぎたり低過ぎたりして、合わせる時に無理が出るレベルだった。それに、鋼ならともかくオリハルコンの鍛錬が出来る鍛冶屋なんかガーゼルの街にそれ程居る訳でも無い。
「オリハルコンなのかい? これ全部? タケル、国と戦争でもするのかい?」
作業場を見まわして積み上げてあるインゴットを指しながらカーシャが言った。
「ゴーレム1体分の材料だよ。別に軍隊の武器や鎧を作る訳じゃ無い」
まあ、ロボが望むとおりの性能にできたとしたら。やりようによっては国と戦争だって出来ない相談じゃ無いけどな。
「オリハルコンでゴーレムを作るのかい? それはまた豪気だねー。まあ、アインを作るような超一流のゴーレム術師なんだから、普通とは違うのは当たり前か」
「超一流なんて誰の事だよ。俺はそんなんじゃねえよ」
キャラ設定の時に抑え気味に設定したゴーレム術だけど、結構色々やってるからなー、LVは7まで上がっている。とは言え、スキルの取得がズルだからな、胸を張って自慢なんかできねえよな。
「それにしても、ここは煩いねー。耳が馬鹿になっちまうよ。タケルってばこんな所に1日中篭ってるのかい? 耳どころか頭がおかしくなちまうよ」
「鍛冶屋が煩いのは当たり前だろ。静かな鍛冶屋ってのは仕事が無いって事じゃねえか」
「店長は仕事してる訳じゃ有りませんよね。趣味全開で作業場に篭っているんですよね」
「雪に覆われて冒険者の活動が出来ないうちにロボを作っちゃえって言ったのはアシャさん達じゃないか」
「そうですけど、もう1週間もお店に篭ってるじゃありませんか。こんな煩いところで良く作業が出来ますね」
「慣れれば、どうって事ないさ。おかげで、モニターシステムは完成したし、操縦系統に手を付け始めたところだよ」
「それにしても、ずーっとこんな所に居たら体を壊してしまいます」
「そうだよ、あたしもここのところ暇でさ、タケルを誘いに来たのさ。ちょっと気分転換にギルドの訓練場に付き合いなよ」
「えー、毎朝の修練は欠かさずにやってるんだ。俺はなまっちゃいないぜ」
「いいから行って来てください。ガーネットとケーナちゃんも修練に行ってますよ。私も行きますからタケルさんも一緒に行きましょう」
「はい」
アシャさんのお誘いだ、訓練場だろうとどこだろうと付いて行く事に異存は無い。ギルドに向かいながらカーシャと並んで歩く。
「ところでタケル。シュバルリで師匠に会ったんだって?」
「ああ、この間クエストでシュバルリまで行ってさ、ダルニエルに連れて行かれて師匠に稽古を付けてもらったんだ」
「へー、じゃあさ! じゃあタケルってあたしの弟弟子って事じゃないか。そうかそうかー。よし! 今後あたしの事をお姉さんと呼んでくれていいんだよ」
「別に師匠に弟子入りした訳じゃねえよ。ただ、師匠が魔闘流の技を覚えさせて、自分と同じ事が出来るようになった奴と対戦してみたいって想いだけで俺に見せてくれただけだ」
「見せてくれただけ? 教えてもらった訳じゃ無いのかい?」
「奥伝や秘伝には型が無いんだから見て覚えるしかねえだろ」
「あー、そうだね。で、出来るようになったのかい?」
「まだまだ全然制御が甘くって実戦では使えねえけどな。魔力を無駄使いしてゴリ押しで技を出す事だけは出来るようになったんだ。きちんと制御できるようになったら、面白い事が出来るようになると思ってる」
「奥伝だけじゃ無く秘伝も?」
「ああ、一応な」
「へー、面白いね。やってみせとくれよ」
「やってみせるのはかまわねえけど、あんまり期待するなよ」
ギルドの訓練場に着いたが、ケーナとガーネット以外に冒険者はいない。まあ、ロクな仕事も無いんだからな、訓練をする人間もあまりいないって事か。
「あー、タケル兄ちゃん。どーしたの?」
「試合か? 久しぶりなんじゃないか?」
「雪のせいで体がなまらないようにタケルと試合をしようと思ったんだけどね。タケルが師匠の所で稽古したって言うからさ。ちょっと興味あるじゃないか」
開始位置に着いて向かい合った処で。
「いくぜ」
「いくよ」
俺は魔力を展開した。
「あーーーー悔しい! 全く歯が立たなくなっちまったー!」
ギルドの飲食スペースでテーブルに伏せたカーシャが嘆いている。と言っても悔しそうな感じじゃないような気がする。
「まあ、奥伝が修得出来ればあんなもんだ。秘伝はおいおいって処なんだけどさ」
「でも、カーシャさんと店長って、この間は5回に1回しか勝てないって店長が言ってましたよね?」
「カーシャは奥伝の半ばまでしか修得できていないんだから、結果はあんなもんだ」
「タケルと試合をして結構使えるようになったんだけどねー。タケルがあそこまでできるようになっちまうとはね。才能の差かねー。落ち込んじまうよ」
伏せた状態から顔だけ持ち上げてカーシャが言う。
「そんなに違うものなんですか? どちらの動きも素早くてよく見えませんでしたけど」
アシャさんが言う。紅茶のカップをテーブルに置きながらガーネットが。
「スピードは店長の方が速いな。スピードだけで相手を翻弄できるほどの差ではないだろうが、動きも的確だったな」
と言うと。カーシャも。
「前にやった時はスピードの差は経験でカバーできる程度だったんだけどね。動きも分かったしね。タケルは身体強化だってできるんだろ? だったら、本気でやったら全く歯が立たないよね」
「身体強化はできるようになたけど、制御は全然できない。初めてやった時は空に飛びあがっちまった。1kmくらい飛びあがったぞ。そのまま落ちたら死んでた・・・・・、いや、身体強化したままなら平気だったのか?」
「今も、こうして生きてるんだから平気だったんだじゃないか」
「あの時は、魔道具を使ってスピードを殺しながら降りてきたんだ。きちんと制御できないうちは危なくって使えねえ」
「秘伝も使えるようになったんじゃ、今はあの時のフィフスホーンだって倒せるんじゃないか?」
「んー、どうだろうな? あいつはあまりにも規格外な気がするし、シロの養い親だったみてえだからな。使えなくて良かったんじゃねえか、あの時は」
「そうかも知れませんね」
「ダメだよ、シロの親なんだから。殺したりしたらシロが悲しむじゃないか」
「街の人に被害が出るようならやらなきゃならない。場合によっては殺す事になる」
「ダメだよ! そんなことしちゃ」
「魔物と人間は共存できない。あいつが人に害を為すなら仕方が無い事だ」
「そんな・・・・」
ケーナがうな垂れる。俺はケーナの頭に手を乗せグリグリしながら。
「人が暮らす領域はまだまだ狭いし、限定された地域にしか住めない。あの時みたいに悪意のある人間の操作が無ければそうそう衝突する事も無いさ」
「だったら、そんな事にならないようにしなきゃ」
「何が出来るか解らないけどな。少なくとも、あのシロと戦いたくは無いな」
「シロってシルバードラゴンなんだろ? ケーナが心配するまでも無いよ。レッドドラゴンさえ追い払うことすら難しいんだ。だからシルバードラゴンなんかが来たら何も出来ないうちに全滅だ。街が消えるか、国が滅ぶかは分からないけどね」
「でも、店長ならシルバードラゴンでも倒せるような気がするな」
「今は無理だ」
「今は。ね」
カーシャが言い。
「今はなんですね」
アシャさんが言う。
「その為のロボさ」
「タケル兄ちゃん。シロはダメだからね」
「そうだな、できればケーナの旦那とは仲良くしたいね」
「だから、旦那なんて知らないよ!」
操縦系の記述が終わったので、コクピットを作り始めた。ボディを作るのはオリハルコンの鍛造が済まないと作業用ゴーレムの手が空かないのだから仕方が無いし、どうせいつかは作るものだ。
「やっぱり正面にモニター付けよう。長距離移動中もヘッドマウントディスプレイでモニターするのって疲れそうだしな。ヘルメット付けっぱなしってのもなー」
周辺を映すサブモニターも付けよう。どうせ趣味のロボなんだから実用性一辺倒ってのは味気無いよな。
「操縦系だって、魔力操作で直接動かす方法が取れるようになったけどそれだけじゃつまらない。何より俺しか動かせないロボになっちまう。いずれは、皆の分も作りたいしな」
魔力操作で基本動作を学習させて、最適な動きをパターン化し、ファンクションキーとスティックにフットペダルで操縦する事も出来るようにするんだ。俺以外の操縦者がパターン化されていない動作をする場合には、モーショントレース方式を一部採用すればいい。
「楽しいな。ロボは作るのも楽しい」
作業場にアシャさんが入ってきた。
「店長、お昼に行きませんか? 私のポーションの下ごしらえも一段落しましたから皆で行きましょう」
「ああ、一緒に行くよ。そうだ、アシャさん。俺がこの格好をしている時は博士と呼んでくれたまえ」
俺は今、白衣を着ている。ロボを作るんだ作業中は白衣だろ! 白衣を着てロボを作ると言えば、当然博士と呼ばれてみたい。まあ、普通の高校生だったんだから博士号なんか持ってる訳は無いんだけど。そこは雰囲気だ、雰囲気は大事だろ。
「は? 『はかせ』? なんですかそれは?」
アシャさんには通じないようだ。
「いえ、何でも無いです。忘れてください。さー、飯行きましょう」
そう言って、立ち上がると。アシャさんと一緒に作業場を出た。ふー、危ない危ない、危うく黒歴史のページを増やす処だった。
「そうそう、明日ちょっと街の外に出たいんだけど一緒に行かないか? ロボの主砲にするADRの試作品が出来たんで試し撃ちに行きたいんだ」
「自分はかまわないが、ロボの装備なのだろう? 街の外は雪が深い。あまり重い物を積むと馬車が移動するのに支障が出るぞ?」
「いや、理論の検証用だ人間が使えるサイズにスケールダウンしてあるから、AMRと同じような物さ。最も、ケーナの魔力量だとあんまり撃てないかな?」
要は、ファイアーボールの代わりにエクスプロージョンで弾丸を撃ち出そうと言うだけだ。反動が大きくなるだろうから、バイポットを魔法で地面に固定したり、バレル内を通過するスピードが恐ろしく速くなるから弾丸を回転させる風魔法を改良しなればならなかった。回転速度を上げようと思ったんだが、それ程速くならなかったからな、発想を変えた。もともと弾丸には風を受ける溝が付けて有った。溝の形を変え、風魔法でライフリングの形に空気を固定した。これで、弾丸がどれだけ速くてもバレルを通過すれば必ず回転運動が加わる仕組みだ。
「タケル兄ちゃん、ADRってどう言う意味?」
「対ドラゴンライフルの略だ、ロボの主砲だからな。ドラゴンくらい相手にできないとな」
「はあ、ドラゴンですか? ほとんど遭遇する事の無い魔物ですよ? そんな物を相手にする武器なんて装備する意味が有るんですか?」
「この間のフィフスホーンを一撃で倒すくらいの威力は欲しいね。でないとアインより強いって言えないだろ?」
「ランドドラゴンを一撃で倒すと言うのか? そいつは英雄と呼ばれる行為だぞ。わかってるのか店長」
「英雄はどうでも、せっかく作るんだからな」
そこに、定食を運んで来たアリアちゃんが。
「タケルさん。今度はフィフスホーンを倒すの? この前追い払ったのだって、奇跡みたいなものだって皆が言ってたわよ?」
「わざわざ喧嘩を売ったりするつもりは無いよ。ただね、あいつを倒すくらい強いのを作ってみたいじゃない?」
「ふーん、タケルさん凄いんだね」
「フィフスホーンですかー。タケルさんなら本当にやってしまいそうね」
「目標は高くって事ですよ。シルビアさん」
「ふふふ、頼もしいですね」
そう言って微笑んだシルビアさんの笑顔がまぶしい。アシャさんに睨まれてるような気がするけど、何か変な事言ったか?
俺達はツァイとライが引くソリに乗って移動していた。馬車は滑ったり、雪に埋まって使い物にならないって聞いたから大きい物を作ってみた。一応ブレーキみたいな物は付けたが、単に爪を立てるだけな感じだから、スピードを出すのは厳禁だ。ツァイ達に棒で固定してあるから、あいつらが止まればソリも止まりはする。でも、質量が有るんだ危ないよな。
「店長、こいつはなかなか良いな。雪が無い所では収納してある車輪を出して馬車として使うという発想がすごいな。売れるんじゃないのか?」
「こいつを見た誰かが簡単に作って売るんじゃねえの? もっとも、シリンダーの技術を知っているかは分からないが、他の方法で何とかなるんじゃないか?」
「その『しりんだー』がどういった物かわからないですけれど、雪の中をわざわざ出かける人は居ないんじゃないかしら? 吹雪にでもなったら遭難してしまいますよ」
「そうだね、村でも雪が積もったら、大人しくしていたよ。出歩くなんてもっての外だよ。雪を舐めるとトンでも無い事になるって皆言ってたよ」
「まあ、馬車を作る職人の領域を侵すつもりは無いよ」
技術の取得に何の苦労もしていない俺がやって良い事じゃ無い。モーターや内燃機関が作れれば、スノーモービルや戦車みたいなキャタピラを使った乗り物も作れるんだろうけどな。回転運動をする動力って無いんだよなーこの世界に。自分で作ろうとしても知識が無い。向こうじゃ日常的にあった物だし、俺だって普通に使っていたけど、製品を使える事と、原理を理解し作る事は全くの別物だ。SLの動輪みたいにシリンダーの前後運動を回転運動にする方法は思い付いたんだけど、ある程度の出力を得るためにはかなり大きな装置になりそうなんだよなー。ロボのキャリアを作る時には採用するかな。
「さーて、森も近いしこの辺に獲物はいないかな―っと」
みえーるくんを覗き獲物をさがす。何でもいいんだよなー。
「あ、店長、あっちに何かいます」
双眼鏡タイプのみえーるくん2を使っていたアシャさんが指さす方を見てみると。
「なんだろう。結構大きいか?」
ちょっとした丘の向こうに生きものの背中のようなものが動いている。積もった雪に顔を埋めゆっくりと丘を登ってきたのは。
「ビックボアだ。大体600m先ってところか」
リボルバーワンドで風を起こし雪を吹き飛ばす。俺は、試作RDMを地面に下ろし、伏せ撃ち姿勢を取る。ストックにある魔石に指を当て魔力を流し土魔法でバイポットを地面に固着させる。これを忘れると撃った瞬間に十数メートルは後ろに吹き飛ぶことになる。
「皆、耳をふさいでおいてくれ。こいつの音はAMRの比じゃ無いはずだ」
そう言ってスコープを覗く、レンズの役目をする風魔法を調整し倍率を合わせ、ボルトを操作し弾丸を装てんする。弾丸は徹甲榴弾で良いだろう。目標に接触してから、50cm進んだら爆発するように設定したオリハルコン製の弾丸だ。AMRに使ってる弾丸じゃエクスプロージョンの爆発の熱に耐えららないし、空気との摩擦熱で溶けちまう。グリップを握りスコープ内の十字の中央をビックボアに合わせるとグリップに魔力を流した。バレル内では風魔法を使いバレル内の空気でライフリングを作っているはずだ。そして息を吐いたところで呼吸を止めると、引き金を絞るように引いた。
『ドッーン!』
弾丸の後ろでエクスプロージョンが発動し、衝撃波が前方の雪を吹き飛ばす。弾丸が極超音速で飛びビックボアの上半身いや、前半身か? を消し飛ばした。後ろはゆっくりと雪の中に倒れ込んだ。
「よし!」
俺はつぶやいた。
「なーにが『よし!』なんですか? なに格好付けてるんですか?」
地面に寝っ転がってる俺の足元から穏かな口調で辛辣な声がかかる。振り返りながら。
「え? 実験成功しただろ?」
振り返ると、アシャさんの冷たい視線とぶつかった。
「えーっと。アシャさん?」
「店長。後ろ半分だけ残ったビックボアって、どれだけ価値が有るんでしょうね?」
にっこり笑ったアシャさん。でも目が笑っていない。半分ダメにしたから? 勿体ないってか?
「後ろ半分だから、価値も半分・・・・・かなー?」
「討伐依頼が出てるかどうかにもよるが、まず毛皮が完全では無いので割り増し分が無いな。牙も買い取り対象部分だが、残っているかな?」
ガーネットが的確な意見を述べてくれた。
「でも、残ってる部分が有ればただ働きって事は、無いんじゃない・・・・・かなー?」
「魔核が壊れてたら後ろ半分も消えてるかもね」
「・・・・・・ケーナ君悲観的なご意見ありがとう」
「じゃあ、消えたビックボアを確認しに行こうか」
「はー。そうですね」
「いや、半分は残ってる!」
3人に睨まれた俺は。
「・・・・・んじゃないかなー、と思う訳です」
「足首から先は2次装甲はいらねえよな」
モデリングで足パーツを作っている。
「プラモと同じに足! 腕! ボディー! 頭部! って作ってから一気に組み上げる訳にはいかないよなー。足1本の骨格の重量が8tくらいだろ? 作業机で作れる重さじゃないしな」
もっとも、大腿部の骨格だけでも人が持ちあげられる重さじゃ無い。まあ、身体強化した俺なら持ちあげる事も可能かな? まあ、作業用ゴーレムも有るし何とかなるだろう。プラモやアニメの設定資料を参考にしたいところだけど。
「可動範囲がなー」
隙間が多いんだ。アインやフィーアを作っていた時にはあまり気にならなかった隙間だけど。あいつらとはスケールが違うからなー。
「まあ、素体を作ってから、可動試験や基本動作の学習をさせればいい」
アインと同じ比率で大きくしちまうのはつまらないよな。アインは人間のプロポーションに近い。人間が使う道具を使うのに都合が良いからな。道具は専用の物を用意するんだし、ロボらしいプロポーションにしたいところだよな。
「女性型、と言うよりも、よりらしさを強調しよう」
でも、ハイヒールにすると、地面にめり込むか? でも、土魔法で地面を硬化しながら歩けば平気じゃん。魔法便利だぜ。魔力の無駄遣いのような気がするが、見た目重視だよな。
「そこは譲れねえよな」
モデリングでさらに絞り込んだデザインに変更していく。
「まあ、こんなもんか」
出来上がった足を分割し、シリンダーを組み付け、さらに土魔法を記述したDランクの魔結晶を設置した。こいつは足の裏が接地した部分を硬化させ、離れると元に戻す魔法を刻みこんである。中枢の魔結晶で制御するんじゃ面倒だから、足に内臓することにした。
「これで土なんかが隙間から入ってくるのも防げるよな。うん! 素晴らしい!」
あんまり複雑な動きはしない足のパーツだが、やらせたい動きをさせるには意外と部品点数は多くなる。向こうの世界のロボットのように制御用のセンサーやジャイロのような物を末端の部位に仕込む必要は無い。中枢に制御式が記述された魔結晶が有ればゴーレムとして動く。俺が作ろうとしているロボはゴーレムをベースにしてパイロットが搭乗して操縦する物だ。
「パイロットにロボットか。・・・・・・何だかピンとこないな。大きな括りで言えばゴーレムだってロボだよな。いや、ロボよりもゴーレムの方が範囲が広いか?」
とにかく、ロボだと示す範囲が広いな。・・・・・・人形、ドール? 操り人形、パペット。うん、パペットがいいか? 戦闘用だから・・・・・・パペット?
「俺の方式で動かすゴーレムはパペットバトラーと呼ぼう。パイロットはパペットマスターで、製作者はパペットマイスターだな」
手作りだもんなこいつって。まさにマイスターって感じだよな。組み上がった足を作業用ゴーレムを使って組み上げ場所に運んだ。ここから上に向かってクレーンでつり下げながら組み付けて、足場を作って組み上げていく作業になる。そうして積み上げた骨格にシリンダーを組みつける。
「地味だ。ひたすら事務な作業だ。飽きちまいそうだな」
「で、また飽きてしまったと言う訳ですね?」
振り向くと細かなシリンダーが付いた背骨が立ちあがったパペットを背景にアシャさんが立っている。
「足から作り始めてもう10日だぜ。まだ、背骨が立ちあがった処だ。アインやツァイ達と違って時間ばっかり掛かるんだよな」
「あんなに大きいんですから仕方無いんじゃ有りませんか? で、今は何をしているんです?」
「パペットの主砲を作ってみようかなってね。ADRの本物さ」
「パペット。操り人形ですか。巨大ロボじゃないんですか?」
「俺が作るロボをパペットって呼ぼうと思ってね」
「そうなんですか。でも、この間のは150cmくらいでしたよね? でもこれは」
「ああ、15mあるね。ロボ本体の身長が12m位だからこの前の試作品をりも比率としては長くなるね」
「そんなに長いと持ち運ぶのも大変だし、動きにくいんじゃないんですか?」
「持ち運ぶ時は途中で2つに分割しておいて使う時だけ組み立てるんだ。銃身・・・? いや、砲身は長ければ長いほど速度が出しやすいからね。それで、無理無く扱える長さとして15mくらいかなーって考えてんだ」
モーターと言うか。回転運動をする動力が無いからどうやって組み立てようかと思ったけど。結局はシリンダーの前後運動を回転運動に変えて動力にする事にし、ギヤを回してレールを走らせる事にする。中折れ式にはロマンを感じるが、展開する時のバランスが取りずらそうなんだよな。コケたりしたら目も当てられない。
「速度ですか? どのくらい速いんですか?」
「んー。AMRは音の速度の2倍くらいなんだけど。こいつはその5倍だなー。この前の試作品でもそのくらい出た。で、こいつが打ち出す弾丸は大きくて重くなるから、10mの砲身で加速させるのさ」
「良く分かりませんけど、とても速い事だけは分かりました」
「ははは」
「でも、3日前にも飽きたって言って剣を作ってましたよね」
「パペットが出来上がったら直ぐに動作確認や、パターン学習に入れるようにって思ってさ。最低限の装備は作っておこうかな―っとね」
「なーっとですか」
「うん、装備は色々考えてるけど。基本装備は刀2本とADRになるかな。近接と遠距離戦闘用の武器だね」
他には、ドリルやパイルバンカー、それからスコップも作ろうかな。そうそういずれは翼も作る。ワイバーンの魔力器官は鋭意解析中だ。
「何だか、ギガントのスケルトンみたいだな」
パペットを見上げたガーネットの感想だ。でも、内臓が無いから肋骨は無いんだけどな。
「ギガントって、こいつはそんなに大きくないはずだぜ。あいつは20~25m位有るんだろ? こいつは12mそこそこだ」
「ギガントの半分位なのか? 大きく見えるな」
「建物の中で、近くから見上げてるから大きく見えるんだろ。フィフスホーンとやり合った時のアインの半分も無いぞこいつの身長は」
「そう言うものか?」
「そういうもんさ」
「これからコクピットを組み込むからな。それから1次装甲を付けるから、そうなればスケルトンぽさは無くなるんじゃないかな?」
その代わり、ミイラみたいだとか言われそうだけど。
「骨と皮になるまでダイエットした人みたいだね」
ケーナの感想だ。まあ、当然かな。
「そう見えるよな。こいつに2次装甲を被せるんだ。フルプレートアーマーや軽鎧、部分鎧に革鎧ってな感じに用途によって装甲を変えたりする事も視野に入れて装甲は2重構造なんだ」
「その『にじそうこう』ってまだ付けないのに足場外しちゃったりしていいの?」
そう、今のパペットはクレーンから鎖を使ってつり下げられているだけで足場は取り外している。
「2次装甲を付ける前に、まずは動作確認するんだ。部分ごとでは手の指しか動かしてないからな。外部魔力としてCクラスの魔結晶を使ってとにかく全身の骨格が動くかどうかの確認だ」
「ツァイの時にもやってたよね?」
「ああ、良く覚えてるな。この後に実際の魔結晶を積み込んで実働テストをするんだ」
さて、パペットを見上げ魔力操作を実行する。
「まずは右手の指からだな」
パペットは右手の指を1本1本曲げたり伸ばしたりし始める。それから、手首の曲げ伸ばし、捻りもおりまぜて動かす。
「あ、動いた動いた」
ケーナが嬉しそうに言う。
「あのな、動いただけで喜ぶな。こんなのは当たり前だ。当然なのだよケーナ君」
パペットは肘を曲げ始めた。
「うん各関節の動作に問題は無いな。音もしないし、滑らかに動くじゃないか」
「そうだね、上から吊ってるから本当に操り人形みたいだね」
「そう言われればそうだな」
確かに鎖で吊り下げられて、単純な動作を繰り返すパペットはまるでマリオネットのようだ。
「だよねー。あははは」
「あははは。本当にそうだな」
「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」
これでゴーレム核は稼働した。俺はパペットを見上げて頷いた。
「よし。お前の名前は・・・・・・」
どうしよう。・・・・・・なーんにも考えて無かった。
「5番目のゴーレムなんだから、5を表す名前で良いんじゃないの? いつものとおりじゃないか」
「5番目はテイルだ。もう数字シリーズは途切れてる」
じゃあ、次は漢字で行くか? ロボの胸に漢字で名前を入れるとかロマンだな。
「よし、お前の名前は『業火』だ。これからよろしく頼むぜ」
業火が頷いたように感じたが、動力用の魔結晶はまだ接続されていない。
「有り得ないな」
制御用のゴーレム核はBクラスの魔核だ、パペットを動かせないほど低出力では無いものの、直接体を動かせるような接続はしていない。
「タケル兄ちゃん。『ごうか』ってどういう意味?」
「このパペットにはとんでもない大金を掛けてるんだ。豪華だよな」
「そうですね豪華ですよね」
「そうじゃねーし。業火の意味は、罪人を焼き尽くす地獄の炎だ。俺の大切なものに仇なす者を焼き尽くす炎って意味だ」
「「「自分が焼かれないでね(くださいね)」」」
「当たり前だ!」
と言ってタラップを登る。
「さて、始めるか」
俺はパペットの胸部コクピットに入りシートベルトを締めヘルメットをかぶった状態で、頭部コクピットのフィーアに声をかけた。
「よし、フィーア。俺の方は準備完了だ。チェックを頼む」
俺はまもーるくんを着て、刀を2本差し、ドラグーンも2本装備した。実戦時のフル装備が操縦の邪魔にならないか確認するためだ。シートの腰の部分がドラグーンに当たったので、モデリングで変形させたところだ。
「はい、店長」
ヘルメットのスピーカーからフィーアの声が聞こえる。
「1番から37番までオールグリーン」
「38番レッド。39番レッド」
「フィーア。38番から52番まではチェックしなくていい。そこは今はレッドだ」
そこは、2次装甲の状況のチェックだ今は付いていないんだからチェックは必要ない。
「はい、店長」
「53番から72番までオールグリーンです」
「次から最後までも飛ばして良い。そこは装備に関する部分だ」
「了解です。稼働前チェック終了。問題有りません」
「よし、じゃあ次は」
「タケルにいちゃーん! 何やってるのー? 速く動かして見せてよー」
「そうだ、パペットのチェックなんかフィーアに任せればいいじゃないか。だいたい、そこまでは完了しているからこその試験なのだろう?」
皆が見守る中で稼働試験をするところだ。ケーナとガーネットの問いかけに。
「何を言うんだ! ロボを動かすんだぞ! チェックは様式美だ! ぜったいに外せない儀式のような物だ」
本当はチェックリストを全て読みあげて欲しい処だが、それだとさすがにケーナ達が飽きちまうだろう。
「「「はいはい」」」
「フィーア、続けてくれ。魔結晶を順次接続。3番は保留」
「はい、店長。0番魔結晶接続成功」
「1番魔結晶接続成功」
「2番魔結晶接続成功」
「状況は?」
「予定出力に達しません。0番魔結晶、2番魔結晶の出力が不安定です干渉しあってるようです」
0番魔結晶か。あれはフェンリルの魔核から作った魔結晶だ。他の3つの魔結晶に比べサイズが大きく出力が高い。総出力の50%以上をたたき出す魔結晶だ。干渉している2番魔結晶は1度使っている物を再利用した物だ。3番は魔術を使う専用の物だ今回は接続しない。本当はフェンリルの魔結晶だけで本体を動かすためのパワーは足りると思うんだけど。念の為手持ちのAクラスの魔結晶を全部使った。
「んー。フェンリルの魔結晶の機嫌が悪いのか? それとも一度アインが使った2番になにかあったか?」
「ますたー。他人ノセイニスルノハ良クナイゾー! マルデあいんガ悪イミタイジャナイカー!」
「あー、わりいわりい。そう言うつもりじゃねえよ。フィーア魔結晶を接続解除だ。2番と3番の魔結晶を入れ替えよう」
「はい、店長」
まあ、3番は魔術の動力にするために搭載している魔結晶だ。動力用の0番とは干渉しないだろう。
「接続を解除しました」
「オーケー。さて、ちゃっちゃと取り替えるかな」
シートベルトを外そうとした処でフィーアから声がかかる。
「店長。0番1番2番の魔結晶から魔力の放出を検知しました。凄い勢いでパペットの足元に出現した魔法陣に吸い込まれています」
「はあ? 魔法陣って? 足元? なんでそんな物が。メインモニターに足元の映像を出せ」
ヘッドマウントディスプレイを撥ね上げてメインモニターを見る。足元には大きな魔法陣が浮き出ている。
何だありゃ? 凄い魔力を感じる。ありゃヤバイやつか?
「あと3秒で魔結晶内の魔力の全てが吸い出されます」
「はあ? そりゃあすげえ魔力になる訳だ」
その瞬間足元の魔法陣から膨大な光が溢れ出し、モニターを白く染めた。