いよいよロボか?
「さて、こいつに魔力を流すと・・・。おっ、見えた見えた」
今日は、魔物の解体屋からワイバーンの魔核と翼を引き取って来た。で、翼に魔力を流してみた訳だけど。
「思ったとおり」
ワイバーンの翼は魔力器官だ。翼一面に複数の魔法陣のような物が浮かび上がって見える。魔法陣にしか見えないが、全く読めないし、もちろん意味も解らない。ワイバーンが言葉や呪文を体に刻める訳は無いよなー? どんな進化をすればこんな器官が出来上がるんだろうねー。まあ、ファンタジーな世界だしなー、どうせ考えたってわかんねえよな。
「進化だとすれば、必要無い記述なんかも有るんだろうけど読めねえんだしなぁ。まあいいか」
進化によって邪魔な部分は無くなってるかも知れねえけど、どうでもいい部分なんかは残ってるかも知れねえ。邪魔じゃ無きゃ良いけど構文が増えるなぁ。そこにガーネットがやってきた。
「何してるんだ? こんな所で」
「ん? ワイバーンの翼が大きすぎて部屋に入らねえんだ。で、中庭で研究中って訳さ。思ったとおりワイバーンの翼は飛ぶための魔術を発動させる。言ってみれば、魔力器官だな。奴はそいつのおかげで空を自由に飛べるんだ」
「そんな物を研究してどうするんだ? とべーるくんがあるんだ。ワイバーンとの空中戦でも店長が勝つんだから今更何を研究するのだ?」
「とべーるくんは1人用だ。俺が抱えても2人しか飛べない。ワイバーンが飛ぶ方法が解明出来れば、もっと大きな物、多くの人を飛ばすことが出来るかも知れない。ロボは重いんだ」
「店長はブレないんだな。そのロボとやらを作る事に全力を注いでいるのだな。・・・と言うことは。剣聖との修行にも何か意味が有ったのか?」
「いや、あれは本当に修行だよ。俺が修行していた流派の完成形が師匠の『魔闘流』に近いってのは本当な気がするんだ。もっとも、もう確かめる事は出来ねえんだけどな」
「師匠が亡くなっているのだったな」
「ああ、師範と会う事も出来ねえからな、正直手詰まりだったんだけど爺さんのおかげで、何とかなりそうだ」
「何とか?」
「爺さんが、秘伝の2つは見せた。後は、自分で工夫しろとさ。そして、強くなって爺さんを超えられたと思ったら戻って対戦しろってさ。とんだバトルジャンキーだよ」
「秘伝の一部を伝え、後は自分なりの技を編み出せと言うことか」
「ちょっと違うんだ、秘伝の技は今日見せられた2つなんだと。前に進むのを止め先達の技に執着する事で停滞してしまう。流派が死んでしまう。だから、流派に伝わる秘伝は2つなんだ。そいつを習得した処で皆伝になる。皆伝からがスタートって事なんだ」
「つまり、同門といえども慣れ合わず、皆ライバルと言う訳だな」
「ああ、爺さんの所はそうなんだろう。思考がバトルジャンキーだよな。今回の修行で俺は一応皆伝に必要な技は発動させられるようになった。後は自己鍛錬だとさ」
「とすると、明日は休みで良いんだな?」
「ああそうだな、なんだ明日の予定を聞きに来たのか?」
「まあな。アシャが店長に会いずらそうにしていたからな。自分が聞きに来た」
「そうか、特に用事が無いからな、観光の続きでもしようか」
「そうだな、休暇のはずだったんだ。まあ、修練も身に着いたようだし良かったじゃないか」
「だな。しかし、何事もやってみるもんだ。おかげで、考えも付かなかったロボの操縦方法のヒントを掴んだよ」
「掴んだ? 武術の修行とそのロボ? の操縦になにか共通点があったって事か」
「共通点って訳じゃあないが、魔力操作・・・・・・? 何だか騒がしいな?」
「ん? そうだな」
ホテルの方を見上げると。
「なんだ、ダルニエルか」
中庭に面した廊下には窓が無いが、角度のせいでここからは見えない。魔力の質からすると、ダルニエルが俺の泊っている部屋の辺りに居るようだ。
「店長に何か用事かな?」
「あー、さっきダルニエルの家の中庭に落っこちてさ、ベンチを1つ粉々にした」
「爺の家で修行していた店長がどうして領主館の中庭でそんな事をしたのだ」
「身体強化で空に跳びあがっちまってさ。1km位かな? 元に戻れそうも無かったんで、近間の広い場所に降りたんだ。そこにベンチが有ってな、不幸な事故だった。さっき、弁償するって言ったんだけど、気にするなって言ってたんだけどな。やっぱり弁償しろって言いに来たのか? ヤバイな、高いのかな? 領主館で使ってるようなベンチだもんなー。俺弁償出来るかな」
「自分は知らんぞ。まあ、貸してやらん事も無いが」
その時、中庭に面した4階の廊下から中庭を覗き込んだダルニエルが俺を見つけると。
「タケルそこを動くな!」
そう言ってそこから飛び降りた。え? 4階だぞ?
『ズン!』
すげえ音がしたぞ。ダルニエル平気なのか? 何事も無かったように俺に走り寄ったダルニエルは、両手で俺の襟を掴むと顔を寄せてきた。
「あー、やっぱり弁償する?」
俺が聞くと。
「そんな事はどうでもいい! タケル、リーネアに何をした! 事と次第によってはタケルといえどもただではおかんぞ!」
へ? リーネアちゃんに? 俺何かしたか?
「さっきも言ったけど。目の前に落っこちて、ベンチをぶち壊した。驚かせてしまって悪かったと思ってるよ」
「驚かせただけ? それだけでリーネアがあんな風になるものか!」
「あんな風って、どんな風だ?」
そこで、少し考え込むような顔をしたダルニエルが、俺の襟を掴んだ腕の力を緩め少し顔を離した。
「話しかけても上の空でボーっとしている。あんな事は初めてだ。大人しい娘だが、私との会話を避けるような態度を取った事など今までに無いのだ。何か有ったとしか思えん。タケルの事は信用しているが、本当に何もしなかったのか?」
「俺が何をするってんだよ」
「店長は、年上が好きなのではなかったのか? 11歳の少女でも良いとはな衝撃の事実だな。アリアにも注意するように言わないとな」
「ガーネット、失礼な事言うなよ。確かにリーネアちゃんは可愛いよ。初めて見た時は天使かと思ったよ。俺、空から落ちて死んじまって天国に来たのかと思ったもん。でも、さすがにリーネアちゃんは無いわ―」
一度離した顔をまた近付けると。
「タケル! リーネアのどこに問題が有ると言うんだ! 我が妹ながら、性格も良く、可愛らしい! 非の打ちどころの無い娘ではないか! 言ってみろ。どこが悪いと言うのだ!」
「年齢?」
「は?」
ダルニエルは呆けたような顔をした。
「それだけなのか?」
「んー、年齢以外の問題は何も無いな」
俺は頷きながら言った。
「店長は、美人で、可愛くて、優しくて、気立ての良いナイスバディなお姉さんが希望だそうだ。未だ11歳の少女には興味が湧かないんじゃないのか?」
ガーネットが、呆れたように言う。ダルニエルの顔にも呆れた表情が浮かんだ。
「いやー、最近反省する事仕切りでして、外見などには惑わされない強い心を持とうと決心したんだよ? 本当だぞ? だからリーネアちゃんに何かしたなんて事は無い。無意識になにかしていたと言うなら無いとは言えないが、少なくとも心当たりは無いぞ」
ダルニエルは。
「だったらなぜ、リーネアはなぜ・・・・・・」
とつぶやく。
「はー。アースデリア公認の勇者になっても全く成長しておられないのですね。早とちりして行動を起こす所は昔のままです。シュバルリ公爵家の嫡男で在らせられる御方がこれでは家臣として将来が心配でなりません。タルート殿お館様にご報告しておいていただけますか」
「そうですね、ここまで短慮になってしまうとは。お育てしたわたくしの責任です。お館様の処分はわたくしも共にお受けしましょう」
振り向くとそこには、タルートとリーネアちゃんの側に居たメイドさんがいた。ダルニエルは俺から手を離し、2人を振りかえる。
「2人とも、なぜここに? それに、成長が無いとか短慮とか失礼では無いか」
「リーネア様のお話を最後まで聞きもせずにお屋敷を飛び出しタケル様に詰め寄るなどと、お嬢様の恩人に向かってなさることとは思えません。これを短慮と言わずして何と申せば良いのでしょう」
「リーネアの話に続き? 続きどころか何も話してくれず態度がおかしかっただけではないか。タケルの名前を呼んでいたから、原因はタケルだろうと思って問い詰めに来たんだ」
メイドさんが俺に深々と頭を下げると。
「我が家の、短慮な嫡男殿が大変失礼いたしました」
「いや、別に気にしちゃいねえよ。リーネアちゃんが心配でやった事だろ? 俺にも妹がいるから気持ちは分かるよ」
「だから、短慮短慮と連呼するなと言ってい」
「ありがとうございます。タケル殿は寛大なお方ですね」
「おい、ラネア! 私の話を聞かんか」
このメイドさんはラネアって言うのか。ラネアはダルニエルを無視して、さらに俺に話しかけてくる。
「実は、お願いがあって参ったのです。お嬢様が、タケル様を是非お茶にお誘いしたいと仰っています。明日の午後お時間を頂けませんでしょうか?」
「ああいいよ、明日は休みにするつもりだったし、明日の午後寄らせてもらうよ」
ここでダルニエルが。
「ラネア本当か? あの人見知りが激しいリーネアが? タケルを?」
「はい。是非お会いしてお話がしたいと仰いました」
あー、リーネアちゃんって人見知りなのかー。あの時はそんな風には見えなかったけど俺に驚いて気が動転してたせいかも知れねえな。
「人見知りが激しいってんなら。ケーナも連れて行こうか? 女の子同士だし、歳も近いしな。村育ちの平民の娘だからな、公爵令嬢と話が合うかどうかわからねえけど。田舎者でろくに女の子と付き合った事が無え俺が1人行くより少しは益しなんじゃねえか?」
「おー、そうだ、ケーナたんも呼べばいい。リーネアは同年代の友人などいないしな。ケーナたんがリーネアの友人になってくれたらこんな素晴らしい事は無い。うん!」
「そうですね、あの娘は明るく真っ直ぐな性格をしているように感じましたね。リーネア様に良い影響を与えてくれるかも知れませんね」
トーラスも援護してくれた。
「是非ケーナ様もご一緒においで下さいとお伝えください」
「ねえ、タケル兄ちゃん。あたしの格好、変じゃ無いかな?」
「いや、変な所なんかねえぞ。だいたい俺達は平民でしかも冒険者だぞ? きちんとした格好とか言われたら着て行く服が無くなっちまうだろ? 清潔感のある服なら良いんだよ」
「そうなのかな?」
「そうさ」
ケーナの服はブラウスに皮のベスト、キュロットに厚手のタイツ。足にはショートブーツだ、防寒の為にフード付きのコートを羽織っている。だいたいいつもの格好ってことだ。俺は手持ちの中では一番まともな服を着て、右手に鞄を提げてケーナと2人で道を歩いている。
「うー。緊張するー。公爵様のお嬢様なんだろ? あたしなんかが行っちゃっていいのかな?」
「いいんだよ。俺じゃリーネアちゃんとどんな話をしたらいいか分かんねえ」
「あたしだって分からないよー」
「平気平気、何とかなるって」
天気の良い午後の大通りを領主館に向かってしばらく歩き目的地に着いた。
「いらっしゃいませ。ようこそおいで下さいました」
玄関で迎えてくれたラネアに客間に案内される。そこにはリーネアだけでなくダルニエルにターニャとファーシャも一緒だ。ダルニエル達とは軽く挨拶を済ませ、リーネアに向き直り。
「本日はお招きいただきありがとうございます。冒険者をしていますタケルです。こちらは、ケーナ。俺と一緒に冒険者をしている妹です」
「ケーナです、ほっ本日はおまねきゅいただきましゅて、ありがとうごじゃいます」
かみっかみだな。よっぽど緊張してるんだな。
「リーネアです。今日はお越しいただきありがとうございます。お二人とも普通に喋ってくださったほうが嬉しいです」
「じゃあ遠慮なく。それからこいつは土産だ良かったら受け取ってくれ」
俺は持ってきた鞄から箱を取り出しリーネアちゃんに差し出す。それから皆でテーブルに着くと、リーネアが。
「タケル様、見てもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ、もうリーネアちゃんの物さ。俺の手作りだし、試作品だからあんまり期待しない方がいいけどな」
すると、ダルニエルが。
「タケルはゴーレムや魔道具を作る凄腕の職人だ。そのタケルの手作りだと言うのだからな。期待するのは仕方が無いと言うものだ」
「えーと。これは・・・・・・なんでしょう?」
箱の中身を見たリーネアは首を傾げて聞いてきた。中を見た皆が、ケーナも含めて揃って首をかしげる。
「まあ見ただけじゃ分からないよな。ちょっと良いかい?」
箱の中身は、20cm程の卵型をしたオリハルコン製の魔道具に見えると思う。見ただけじゃ用途は全く分からないはずだ。そいつを受け取り。
「座ったばかりで悪いけど、ちょっと庭に出てくれるかい?」
皆を引き連れ庭に出た俺は、魔道具を庭に置いて。
「我が僕よリーネアに使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」
魔道具が輝きだし地面が動きだした。ムクムクと土が集まり始める。そして頭から尻尾の先までで60cm程のネコが現れた。土を硬化させただけでなく、柔らかな毛並みも再現している。毛並みの再現や女の子でも簡単に持ちあげられるように体重を減らすのに苦労した会心の一品だ。ネコはリーネアに向かってトコトコと歩いて行き目の前でペコリと頭を下げた。
「まあ、可愛らしい」
そう言うリーネアに。
「リーネアちゃん名前を付けてやってくれ」
「え?」
と言って、考え込むように小首を傾げると。
「この子は、男の子ですか? それとも女の子でしょうか?」
「んー? お前オスか?」
ネコは首を横に振る。
「だそうだ」
「では、女の子なのですね。・・・・・・テイル。あなたの名前はテイルです」
テイルは。
「ナーォ」
一声鳴くと、リーネアに向かって跳び上がった。思わず受けとめたリーネアの頬をペロリと舐めるテイル。
「あらあら、挨拶してくれるのですね。よろしくテイル」
「どうだい? 気に入ってもらえたかな?」
「はい! タケル様ありがとうございます。大事にしますね」
テイルを抱きしめながら無茶苦茶良い笑顔で返事をするリーネア。あー、この娘本当に天使なんじゃなかろうか?
「タケル良いのか? 土産にゴーレムなど。そんな高価な土産など聞いた事も無いぞ」
ダルニエルが言う。
「でも、ペット用なんでしょ実用性はないわね。可愛いけど」
とターニャ。
「愛玩用のゴーレムなんてずごい贅沢ですよね。攻城兵器や土木用にしか用途の無いゴーレムで、こんなに可愛らしいネコを作るなんて。タケルさんはやっぱり変わってますね」
ファーシャが言うと。
「ネコのゴーレムって珍しいのですか? こんなに可愛いんですから、皆が欲しがるのでは?」
リーネアが首をかしげる。
「ゴーレムは普通主人の言う事をただ実行する事しかできないんだ。自由意思を持っているゴーレムなんてのは、ウチのゴーレム以外にはほとんどいないだろう」
「自由意思? この子には心が有ると?」
「心か、俺は有ると思うよ。普通のゴーレムにはそれが無いからね、自分の言うとおりにしか動かないペットなんてつまらないだろ?」
「そうですね」
「それに、柔らかい毛並みや、体重を本当のネコ並みにするのが大変だったんだ。そういったペットにしか必要ないような、無駄に見える機能を研究する意味が殆ど無いだろ戦争や土木工事には必要ないからな」
そう言ってから、テイルの機能と注意点を説明しながら客間に戻ってお茶にすることにした。お茶を飲みながらケーナが。
「タケル兄ちゃん。ペット用のゴーレムなんて何時の間に作ってたの?」
「貴族や金持ちに高く売り付けようと思って作ってたんだよなー。ただ、使い方によっては凄く危ない物だと思ってな売るのは止めにした。このテイルだけしか作っちゃいない」
リーネアの足にまとわり付いてそのまま抱き上げられ頭を撫でられているテイルを見ながらファーシャが。
「こんなに、小さく可愛らしい物が危険なのですか?」
「毛並みや軽い体重を実現させるために魔力の大半を使ってるから、こいつはほんのちょっとだけ本物のネコよりも力が強い程度だけどな。やりようによっては暗殺に使ったり出来るぞ」
「「「あっ」」」
「テイルは悪い事なんかしません! ねーテイル?」
リーネアちゃんマジ天使!
「タケル兄ちゃん、ペットゴーレムってテイルしかいないの? あたしも欲しいかも」
「ケーナにはライが居るじゃないか。あいつ焼き餅焼くぞ」
絶対にそうなる。あいつはロリコンだからな。
「ケーナさん。ライと言うのは?」
「ライはね、あたしのゴーレムホースだよ。タケル兄ちゃんが作ったんだ」
「え? ゴーレムホースですか? 全部のゴーレムホースはゴーレムドンキーになったって聞きましたが」
「うんそうだよ。ウチの2人以外にゴーレムホースはいないよ」
「え? それって?」
「うん、それはね・・・・・・」
ケーナがあの時の事を話して聞かせると。リーネアは「まあ」と驚いたり「ふふふ」と笑ってみたり。楽しそうに話を聞いている。
「で、ゴーレムホースはウチのライとツァイだけになったんだよ」
「面白いです。まるで物語のようですね」
「だよねー。あたしが一緒だったのはこれだけだけど、タケル兄ちゃんって色々やってるよね。考えたらまるで物語みたいだね」
「そうなのですか? タケル様のお話をもっと聞きたいです。お兄様達にも冒険のお話は色々してもらいました。わたくし冒険者にはなれないでしょうけど、お話を聞くのは大好きです」
笑顔を向けられて、乞われるままに今までの冒険の話をした。・・・・・・振り返ると俺って結構やらかしてるんじゃなかろうか?
「とまあ、そいつがケーナの旦那になる予定のシルバードラゴンって訳さ」
「まあ! タケル様だけでなくケーナも冒険をしているのですね。私はこの家でこうして大人しくしていなければいけません。ケーナのように冒険してみたいけれど、公爵家の娘にはそんな事をする自由は有りませんから」
少し残念そうな顔で言うリーネア。
「だったら、あたしがまた話をしてあげるよ。リーネアが見た事も無いような体験をしたら話に来るよ。だからリーネアもあたしが考えも付かないような体験を話してね。それから、シロは旦那じゃないよー」
「ふふふ。はい。私はあまり面白いお話が出来るかどうかわからないけど」
2人は大分打ち解けたようだ。
話しているうちに良い時間になったので俺達は宿に戻る事にした。テイルを抱いたリーネアも玄関まで見送りにきてくれた。
「ケーナ、タケル様またいつかいらしてくださいね。お待ちしています」
「うん! 絶対にまた来るよ」
「ああ、直ぐと言う訳にはいかないけど。こっちの方に依頼で来た時には、また寄らせて貰うよ」
「はい!」
「タケル、今日は時間を取らせてすまなかったな。良ければまた話をしに来てくれ」
「ああ。じゃあまたね、リーネアちゃん。俺達もそろそろガーゼルに戻る」
「リーネア、手紙書くね」
「はい。私も書きます」
皆に見送られ俺達は領主館を後にした。
「明日にはガーゼルに戻るのだろう? 今日はどうするのだ?」
「んー。俺まだこの街の名物の食べ歩きとかしてねえんだよなー。帰る準備をしながら、食べ歩きでもしてくるかな」
朝食を済ませ、アシャさん達の部屋で今日の予定を話しあっている所だ。と言っても大した予定じゃねえけれど。
「イイネ、あいんモオ供シテアゲテモヨロシクッテヨ」
「何だアインその『ヨロシクッテヨ』って言うのは?」
ガーネットがアインに聞いたが、こいつら俺の事をからかってるんだろう。
「貴族ノ真似ダヨ。ますたーガ貴族ノ女ノ子ヲ気ニ入ッタミタイダカラネ。練習シテオコウト思ッテネ」
俺は。
「何度も繰り返すようだけどな。リーネアちゃんは可愛いと思う。思うが、まだ11歳だぞ。ストライクゾーンから大分外れてるよ」
アシャさんが。
「今年12歳なんです。1人前とは言えませんが、世間ではもう働き始める年齢ですよ。私もそのころから実家の店で働き始めました。けして子供と言う訳では有りません」
ストライクゾーンって通じるのかー。
「アシャさんまで変な事言わないでくれよ。まあ、あの子は天使のように可愛らしかったけどな。ダルニエルの妹だぜ、変な事出来る訳無いじゃないか」
「そうでしょうか?」
「そうです!」
「本当に?」
「本当に!」
と言って睨み合う俺達
「ふふふふ」
「あははは」
どちらからともなく俺達2人は笑い出した。
「何ガ可笑シイノカ全クワカラナイヨ」
肩をすくめるアインってやっぱりおかしなゴーレムだよな。
「タケル兄ちゃん、リーネアに変な事しちゃダメだからね!」
「だから、何もしねえよ!」
この後皆で街をブラブラと回り、この街に居る知り合いに挨拶を済ませた俺達は翌朝ツァイとライの引く馬車に乗ってガーゼルに向けて出発した。
「雪だ」
空を見上げて言うと。
「今朝から雲行きが怪しいと思っていたが、やはり降ってきたか」
「休暇を取ったばかりですけど仕方有りませんね」
「アシャ姉ちゃん、仕方無いって何の事?」
「え? ああ。ケーナちゃんはガーゼルの冬は初めてだったわね。雪が降ると、かなり積ってしまうの。そうするとかなり活動に制限を受けるでしょ? 冒険者への依頼は無くなる訳じゃないけれど、依頼を受けなくて良いくらいお金が有る冒険者は無理に依頼は受けないのよ」
「あたし達はどうするの?」
「幸いにして、差し迫って依頼を受けなくても良いくらいの蓄えは皆持っているだろ? 無理をして依頼を受ける必要はないだろう。街の人が困ってるような物を中心に受ければ良いのではないか?」
「うん、そうだね。でも、タケル兄ちゃんにはその蓄えってあるの?」
「なっ! なーにを言ってるのかなー、ケーナ君? 江戸っ子はな宵越の金は持たねえもんなんだ」
「『えどっこ』とはなんだ? 店長はたまに意味不明な単語をつかうな」
「つまりお金は無いって事が言いたいんでしょ店長は」
「金は有る! 今回の依頼料は結構な金額になるだろ?」
「そうですね、でも本当に良いんですか? 皆で均等に分けてしまって。店長がほとんど1人で依頼をこなしてしまったのに」
「いいさ。大体、アシャさんがいなきゃワイバーンを生きたまま運べたか怪しい訳だし、ガーネットやケーナがいなきゃ旅の準備に時間を取られただけじゃ無く、ちゃんと準備できたかどうか怪しいだろ? 俺は野営なんかした事ねえんだ。準備が整わないまま旅に出て途中の街で補給とかして結局は時間を取られたんじゃねえかな? だから今回の依頼はファミーユの皆がいなきゃ成功しなかったってことさ」
「はい」
「ああ」
「うん! で、タケル兄ちゃんは結局お金大丈夫なの?」
「大丈夫だ。最低限の生活費を残して全部オリハルコンのインゴットを買うだけだからな。少し足りないかもしれないけど、なーに、ワイバーンでも乱獲すればそれなりの金は稼げる」
「なあ店長。ワインバーンの乱獲とか軽く言うが、どうやって運ぶのだ? しばらくは馬車は使えんぞ。どうやって運ぶつもりなのだ?」
「え? 馬車使えないほど雪が積もるのか?」
んー、車輪にスパイクとか付ければ平気じゃねえかと思うけど。
「そんな無茶なことをしなくても、オリハルコンのインゴットでしょ、少しくらいなら買って上げますよ」
「うん、そうだな自分もそうしよう」
「あー。あたしも! あたしも買うよ」
「幾らパーティメンバーだからって、いや、だからこそ金を借りる訳にはいかねえよ。その辺はきちんとしねえとダメだろ」
「貸す訳じゃありませんよ。プレゼントです。元々、その為に働いてるんでしょ? これから1月半くらいは街の外には出にくくなるんですから。この機会に、そのロボ? を作ってしまってください。雪が融けたら冒険者も活動を始めます。お店のポーションもそうならないと売れないでしょうし。私もその時までに下ごしらえを済ませてしまいたいですしね。基本的に冒険者の仕事は暇になります」
「店長の言うロボを早く見てみたいしな」
「お金は必要な人が使うのが良いんじゃないかな? 無理をする訳じゃないんだし、アシャ姉ちゃんがちゃんと管理してくれるから大丈夫だよ」
えー、良いのかな。皆の好意を素直に受けてしまって。
「私達ファミーユは、みんな揃って依頼を受ける事が少ないじゃないですか。店長の戦闘力が高すぎますからね。討伐依頼だと店長がいれば済んでしまうと言うのではパーティを組んでいる意味が有りませんから。ガーネットとケーナちゃんは冬の間に修行してみたらどうかしら?」
「ああ、自分もそう思っていた所だ。ダルニエル殿に見てもらって少し思う所もあるのでな」
「あたしも修行するよー。春になったら、タケル兄ちゃんと肩を並べて魔物の討伐だよ!」
「「「それは無理だ(ですね)」」」
「ぶーー」
そう言って頬を膨らますケーナ。
「ふふふふ」
「「あははは」」
ガーゼルの街はもう直ぐそこだ。
「「「「ただいまー。アリアちゃん、シルビアさん」」」」
「「おかえりなさい」」
「ケーナちゃん、寒くない? 風邪ひかなかった? 皆も部屋に荷物を置いたらお風呂に入っちゃってください。もう直ぐ夕御飯ですよ」
「だいじょうぶだよ。タケル兄ちゃんが作ったまもーるくん着てるからね。これを着てると暖かいんだよ。温度調節機能? が付いてるんだって。夏も暑くないんだってさ」
「へー、凄いんだねタケルさんって。魔道具って便利なんだね。いいなー、あたしも欲しい」
「アリアったら何を言ってるの。寒ければ1枚服を着ればいいのよ。そんな魔道具なんて高くて買えないわよ」
んー、カイロみたいな物は無いのか。暖房用の魔道具でも売り出してみるか? でも、食堂にある暖炉は暖かくて気持ちいいよな。
『ガンガンガンガンガン・・・・・・』
俺が作った魔道具のハンマーがリズムを刻む。日本刀作る訳じゃねえから成形する必要は無いんだし、品質がそろったオリハルコンのインゴットを鍛造して必要な強度を出せば良いだけだ。
「出来上がったら、モデリングで形にすれば良いんだからな。楽なもんだ。毎日毎日これだとさすがに飽きるかな?」
鍛造したオリハルコンを大量に作ってモデリングで骨格を作り、そいつにシリンダーを組み付けてアダマンタイトで関節部分を覆い、そこにシリンダーを覆うオリハルコン製の1次装甲を貼る。それでロボの素体が出来上がるって訳だ。
「骨格が重いよな。どうやって組み上げれば・・・・・・。作業用のゴーレムか? また借りるか? でも、これからはずっと必要になるのか。よし! 作っちまうか!」
アイアンゴーレム3体もあればいいか? Dクラスの魔結晶を1体につき2個づつ使って鉄製のゴーレムを3体作ろう。機能性重視だけど人型じゃ無いからイメージで一気に作るのは難しいか? モデリングで形を作ってゴーレムにするかな。3対の腕と4本の足、頭部は無く実用本位な形状。ただの鉄のインゴットと鋼を少々。
「よし! こんなもんか」
モデリングが済んだ。さて。
「我が僕よ使役される者よ! いでよ! ゴーレム!!」
出来上がったゴーレムに鍛造したまま積んであったインゴットを奥に運ばせ、鍛造前のインゴットを運ばせる。制御式は人格を持たないタイプにしたから命令した事しかできない。
「さーて、続き続き」
『ガンガンガンガン・・・・・・』
・・・・・・ん? これってゴーレムにやらせても良いんじゃねえか? さっき作ったゴーレムを見回しながら。ちょうど3体居るから、鍛造前のインゴット運びと鍛造作業と出来上がったインゴットを運ぶ役をやらせりゃいい、どうせ組み上げが始まるまではやらせる事も無いしな。ゴーレムに作業を任せ、俺はモニターを作ろう。
「網膜投影とか良いと思うんだけどなー。どうやったらいいか全くわからねえけど」
まあ、趣味的には大きなメインモニターを真正面にドーンと据えて、メインモニターの周りにサブモニターを複数配置して死角をカバーするって感じになるんだけどなー。途中で試作品作りはほっぽったけどロボの主砲はでかくて射程が長い奴が欲しいんだよなー。メインモニター1枚じゃ遠近感とか距離感がつかめないんじゃないかな。それじゃ当たらねえよな。
「ヘッドマウントディスプレイタイプにするかーな? ヘルメットに付けよう」
目の前にガラスの鏡なんか危なくて置けないからな、透明なアダマンタイトで作った鏡に映像映す方法がいいな。ガラス並みの透明度出せるかな? ロボのカメラを2眼にして、そのまま目の前に映し出せば立体視が出来るんじゃねえかな? サブカメラの映像とか見えなくなるけど、人間の視界と同じなら平気か?
「操縦者意外にもう1人搭乗者がいれば良いのか? 誰を乗せる? ・・・・・・フィーアが良いな。身体制御させるならフィーアが良いよな」
1機目は試作機と言うより、実験機か実証試験機になるだろう。
「姿勢制御のノウハウはフィーアが実際にやる事でデータを蓄積する方法が良いだろうな。コンピューター無えんだから、シミュレーションなんか出来ないんだし、実際に動かしてみるしかないもんな」
相変わらずぶっつけ本番な物作りだ。
「どんな経験も無駄にはならないもんだな。操縦方法は・・・・・。魔力操作でダイレクトにイメージどおりに動かせばいいな。師匠の所で魔力操作の仕方を習っておいて良かったよな」
あれがなきゃ操縦者のモーショントレースにするしか無かったもんな。アニメみたいにスティックとペダルで人型の機械を動かす方法なんか無いと思ってたもんな。
「それじゃ人の動き以外の動きなんて出来ないし、モーションフィードバックとか付けてロボの関節が変なふうに曲がったら骨折しちまうもんなー。大体人間は飛べねえから、ワイバーンの魔法器官の研究とかする意味が無くなっちまう」
飛行機メカを作りてえもんな。航空力学とか内燃機関とか普通の高校生だった俺が今から勉強してたら寿命が尽きちまう。
「やっぱりロボは飛べねえとなー」
でも、学習型の制御式にしとけば、ダイレクトなイメージコントロールと併用してスティックとペダルで操縦する事も可能になるかもしれない。
「んー、趣味的で素晴らしいな」
「ますたー。独リ言バッカリ言ッテルト寂シイ人ミタイデ、見ルニ堪エナイヨ」
「うるせえ、1人暮らしが長かったんだ、癖になってるんだよ。それに独り言を言いながらの方が考えが纏まるんだよ」
「ろぼノぱーとなーハ、あいんデイイジャナイカ」
「姿勢制御はフィーアの方が得意だろ? それにアインの方が戦闘能力高いんだから、ロボに乗って無い方が都合が良いんだよ。ケーナ達の側に居てくれ」
「ンー、ソコマデ言ワレタラ断レナイネ。ショウガナイ、ふぃーあニ譲ルヨ」
「ああ、そうしてくれ」
それにしても、スキルのおかげだよな。こっちの世界の技術でロボが出来そうだ。ただの高校生だった俺にロボを作れるような知識は全く無い。日本刀の作り方は趣味で調べてたけど、ロボに関してはあそこまで詳しい知識なんか全く無い。あの、魔道具のハンマーにしたって、鍛冶の動画を見た事が有ったから作ろうと思ったんだし。
『ガンガンガンガン・・・・・』
それにしてもうるせえなー。作業場にはハンマーがオリハルコンを打つ音が鳴り響いているいている。