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落下した先で天使を見た

「まったくひどいめに会った。いきなり人に向けてエクスプロージョンとかおかしいだろ? 何考えてるんだよ」

俺がターニャを責める。ターニャは。

「えー、魔術の改変が出来るんじゃなかったの? それに、威力は限界まで下げてたわよ。タケルだってアフロになっただけで済んだでしょ」

「ちょっと待て! アフロになっただけ? なっただけじゃねえだろうが。ヒールで治ったから良かったようなものの、あのままだったら。俺の二つ名に『アフロ』が増えてたところだ。大変な事だぞ」

そこにノルマルトが口を挟んで来た。

「タケル君、君だって私の髪をアフロにしたじゃないか」

俺はノルマルトに真剣な顔を向けると。

「ノルマルトさん。あれは不幸な事故だ。しかし、その不幸な事故ですら皆の笑いに変えたんだ。さすが勇者だと言わせて貰いたい」

「皆の笑いならタケルも取ったじゃないの。良かったわねー。私に感謝しても良いくらいよね」

「なんて、事を言うん「お待たせしました―」」

「あーお腹すいたー。ゴハンゴハン」

ケーナはそう言うと、出てきた料理を取り皿に載せだした。

「ええ、もうお腹ペコペコよ」

ターニャめ話を逸らしやがった。・・・・・・まあ良いか。俺も腹は減ってるし。俺達は今晩飯を食いに来ている。あの後、せっかくだから食事会をして親睦を深めようと言うドミニクの意見でこのような事になった。俺達4人とダルニエル達3人にノルマルト達4人の11人。結構な大所帯だな。


「でもーー、ほーーーんと。タケル君って凄いなーーー。ノルマルトの馬鹿をボコボコにしちゃうんだもんねーーーー。お姉さん驚いちゃった」

と言ったドミニクが俺の腕を抱え込んで右肩に頭を預けてきた。うわー、良い匂い・・・・・・と酒の匂いがすげー。

「仮にもホグランの勇者で冒険者ランクはA+のノルマルトより強いんですもの、頭は残念な男とは言え、見ていて感動してしまいました。タケル君はー、年上の女は嫌い? 私結構尽くすタイプよー」

リムレアも俺の腕を抱え込んで左肩に頭を預けてきた。こっちも良い匂いだ・・・・・・でも、酒も匂う。

「お姉さん、タケル君のこと気にいっちゃったなー」

時間が経ち食事会は飲み会に移行していた。俺の隣の2人はかなり酔っ払っているようだ。まるで、当ててんのよ。と言わんばかりのオッパイの感触が大変素晴らしい。そして周りを見渡すと、結構カオスな状態になっている。ダルニエルとノルマルトはなんだか、泣きながら話したり叫んだりしている。ガバナスはその2人に挟まれ目を閉じてしきりに頷いている。なにやらターニャとケーナが真剣な顔で話し合っている。その横でワインを片手に俺を睨みつけるアシャさん、ガーネットにファーシャ、視線で人を殺す事が出来るとしたら、まさに3人の視線がそうに違いない。3人ともまったく同じタイミングでワインの入ったグラスを口に運んでいるのが不気味だ。視線に耐えられなくなった俺は席を立って。

「タケルくーーん。どこに行くのーー」

ドミニクに聞かれ。

「トイレだよ」

そう答えトイレに向かう。途中で。

「あんたたち五月蠅いわよ。まあ、ここはそう言う所だから仕方無いけど」

カウンターで酒を飲んでいる女性がそう言った。

「連れがうるさくしてて、すまない。みんな酔っ払いなんだ」

と言って女性を振り向く。・・・・・あれ? この女性どこかで・・・・・。

「あら」

と言って立ちあがった女性は俺に深々と頭を下げると。

「先日は大変失礼な事をしてしました。お詫びいたします」

そう言って顔を上げた女性は。

「テラピア?」

「はい、先日は冒険者ギルドで感情に任せ、タケル様に大変失礼な態度を取ってしまいました。すみませんでした」

「あー、謝罪は受け入れるよ。実害は無かったからな。全く気にしちゃいないさ」

「ありがとうございます」

「そう言えば、謹慎食らったんだろ? いいのかこんな所で飲んだくれていて」

俺は、テラピアの前に置かれたワイングラスを見ながら言った。

「謹慎じゃ無くて、停職3ヶ月よ。反省しろって事よ。飲んで暴れて、反省の色が見えないと言うならまだしも、外食してワインを飲むくらいは許されるんじゃないかと思ったり思わなかったりするわ」

「そう言うもんか」

「そう言うものよ。座らない?」

そう言って、隣の席を示す。

「果実水を」

飲み物を注文するとカウンターに座る。

「あの時は、ついかっとなっちゃって本当に馬鹿な事をしたわ。反省してる」

「何年くらい受付をしているのかは知らないが、冒険者ギルドが統合される前から受付をやってるんだろ? 色々な冒険者を見てきたんだ。あんたの言うとおり無茶な依頼を受けて二度と戻らない冒険者を何人も見てきたんだろ? テラピアの気持ちに共感出来るって言ったのは本心だ。反省してるってんなら俺から言う事は何にも無いさ」

「でも、あなたに迷惑を掛けてしまった」

「もういいさ。・・・でも、テラピアの気が済まないってんなら、一つ貸しにしとくよ。この先何か困った事がおきたら、助けてくれればいいさ。ふふ」

と言って俺が笑うと。

「ふーっ。わかった、そんな事になったら全力で手伝わせて貰うわ。こう見えても、元B+の冒険者だったのよ、今でも戦闘部隊にも所属する魔術師なの。力技の方が得意だから事務仕事よりも荒事の方に向いてるのよねー、そっち方面の厄介事なんて無い方が良いんでしょうけど」

「元B+の冒険者? なぜ、受付なんか? ・・・・・おっと、人には色々有るよな。ほとんど初対面の女性に聞く事じゃねえな、すまない」

「もう80年程前になるわ。所属する冒険者パーティがあたしを除いて全滅したのよ。無茶な依頼を受けようとしてパーティの中で意見が分かれてね、その時のクエストに置いて行かれたの。その後色々あってね、ギルドの受付兼戦闘部隊に入ったのよ」

「何年くらい冒険者を?」

「ん? 30歳で国を出てからだから、15年くらいかしら?」

「へー、大先輩だな」

「昔の話よ? ただ長く冒険者ギルドに係わっているだけよ」

「これからも、テラピアには冒険者を心配する受付のままでいて欲しいね」

「おかげで停職3か月よ? 自重しなきゃ」

「冒険者の命を心配する根っこの所は変わらないでほしいね」

「そこは、変わらないわ。性分だもの」

「そうか」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、何か困った時はよろしく」

「任せて、と言いたいけど困らない方がいいわよ?」

「そりゃそうだ。あははは」

「ふふふ」

「じゃあ、またな」

「ええ、またね」

テラピアと別れて席に戻ると・・・・・・酔っ払いたちが潰れていた。

「あーあ、しょうがねえな」

こいつらどうしてくれようか。

「ぐっはっ!」

いきなり後ろから首を絞められた。そして、左右から両腕を掴まれると。

「タケルさん。ちょーっとお話しましょうねー」

ファーシャが良い笑顔で俺の腕を引く。・・・・・・目が笑ってねーし。

「いや、みんな潰れちまったみてえだし、そろそろ」

「私達と話す時間ですよねー。店長?」

首から手を離した。アシャさんが、俺の前に回って言った。

「うむ、てんちょー。こっちに来るのだ―!」

ガーネットあんた、『来るのだ―!』ってキャラじゃねえだろ。テーブルの隅で3人に囲まれるように座った俺に向かって。まずは、アシャさんが。

「だいぶ、モテモテでしたねー。鼻の下がデレーーンと伸びてましたよねーーー」

と言って、俺の鼻をつまんでひねった。

「いたい、痛いから。鼻の下なんか伸ばして」

「いたよなー、店長」

「痛い痛い、そこ耳だから、鼻と関係ないから」

「やっぱり、タケルさんも大きさですか! 大きければ良いんですか!」

「だから、そんなんじゃ、ってファーシャも耳引っ張るな。伸びる! 伸びちゃうから」

「「「やっぱり伸ばしてたんだ」」」

「痛てえから。伸びるの耳だから、鼻の下じゃねーから」

俺の耳や鼻を捻りながら、ワイングラスを呷る3人。


「だかーら、大きいだけじゃダメだと思うんです! やっぱりー形だと思うんですよー?」

と、ファーシャが言えば。

「うん、そうだな。過ぎたるは、それすなわち、及ばざるがごとしだな」

と、ガーネット。

「わたしはー、大きさもそれなりですしー、形だって悪くないと思うんですよー」

そう言ったアシャさんは。俺の右手首を両手で握り、自分の胸に押しつけた。おっ大きいそしてすんげー柔らかい。いやいや、そうじゃなくて。

「ちょっ、アシャさん」

慌てて振りほどいたが、すげー柔らかい感触が手の平にのこっている。

「アシャほどの大きさはないが、自分も形とバランスにはちょっと自信が有る!」

そう言ったガーネットも。俺の左手を自分の胸に押し当てた。こちも柔らかいなー。って違う違う。

「だー、ガーネットもなんて事」

「どうせ・・・、どうせあたしは小さいですよ! でも、これからです!」

両手で自分の胸を寄せて上げながら力強く言うファーシャ。カオスだカオス過ぎる。ここ最近スキンシップ過多だろ。嬉しい状況だ。相手が酔っていなければもっと良いんだが、酔って無きゃこうはならない。痛し痒しってところか。

「あれ?」

気が付くと3人ともテーブルに突っ伏して寝てしまった。ホッとしたような残念なような。まあ、酔っ払って変なテンションの3人にいじられるよりはましか。



「私頭が、ガンガンするので今日はホテルで休みます。店長は稽古頑張ってください。あ、それから、昨夜はなーんにも無かった。良いですね、なーんにも無かったんです」

頬を赤らめながらアシャさんが言った。二日酔いって顔が青くなるんじゃ? 酒が残ってるんなら赤くなるのか?

「自分も同じだ、今は何もする気になれない。いいか店長、アシャの言うとおり昨夜は何もおかしな事は無かったよな」

「2人とも調子が悪いみたいだから、あたしも残るね。タケル兄ちゃんは心配しないで稽古行ってね」

ドアを閉めた俺は。

「二日酔いか。俺は酒は飲まないようにしよう」

改めてそう思った。ノルマルトを見た時に感じた厄介事の予感って昨夜の事だったんかなー。嬉し楽しいイベントではあったよな。・・・さて、師匠の所に行こうか。


「なんじゃ、今日は男ばっかりか。昨日は女子おなごが大勢おって、楽しかったのー。華やかじゃったのー」

師匠が遠くを見つめるような目をしている。俺が。

「ウチの女性陣は宿酔だ。ノルマルトさん。あんたの所のドミニクさんと、リムレアさんのおかげで飲み過ぎたんだ。なんだよあのカオスな状態は」

「そうは言ってもな、ああなった原因はタケル君だぞ。タケル君を大分気に入ったみたいだからな、2人とも酒に弱いのに飲み過ぎて宿酔だ」

「え? ほんと? 俺にモテ期到来?」

「気のせいじゃな。女の尻の良さも分からん餓鬼を好くような女はおらんじゃろうて」

「何言ってんだ爺さん。オッパイにはな、男の夢と希望がいっぱい詰まってるんだ」

そこにダルニエルが。

「女性の胸は脂肪で膨らんでいるんだぞ。そんな事も知らないのか」

「「「そんな事は分かってる」」」

3人の声がハモった。師匠が。

「ダルニエル、硬いのー、つまらんのー。そんな事じゃから修行もすすまんのじゃ。もっと柔軟な頭でないといかんぞ。先ずは、女子の尻の魅力が分かるようにならんとのー」

「え? そうなのですか?」

「あー、ダルニエル。頭を柔軟にするのは本当だと思うけど。お尻の魅力ってやつは関係ねえと思うぞ」

「そうだな、タケル君の言うとおりだな」

「ところで、ノルマルトもダルニエルも結構飲んでたよな? 平気なのか?」

そう、あの2人も昨夜かなーり酔っ払ってたよな? ダルニエルは。

「ん? 私は幾ら飲んでも二日酔いになどなった事は無いぞ?」

「あー、私も無いな。昔なら二日酔いするほどの量を飲んでも今は平気だ。きっと勇者補正だな」

「「はー? 勇者補正?」」

俺とダルニエル2人の声がそろう。しかし、無駄に発揮される勇者能力だな。そう言えば、俺、勇者スキルが付いても、なーんにも変わっちゃいねえような。 

「そんなことよりスカラート様。今日はどのような稽古をするのですか?」

「3人で総当たりの試合をして見てはどうかの? 色々な相手と経験を積むのも必要じゃ」

「では、まず私とタケルからでいいな!」

ダルニエルが、なんだか嬉しそうに言って開始位置に歩いて行く。ノルマルトに向かって。

「じゃあそう言う事で」

頷くノルマルトから離れ、ダルニエルに向かって歩いて行く。

「さーて、久しぶりだよな」

「そうだな、前のようにはいかないぞ」

「さーて、それはどうかな?」

開始線で向かい合う。剣をかまえ。

「「いざ!」」

俺達は、同時に駆け出した。俺は魔力を展開しダルニエルの魔力を読みながら剣を交える。


「くー、タケルにもノルマルト殿にも勝てん! もっと修行せねば!」

「こう見えても冒険者ランクA+だ、ダルニエル殿にむざむざやられはせんよ」

「でも、前に見た時よりも剣速は上がってるし、見切りも正確になってたよな?」

「そうじゃのー、いい感じじゃったぞ。ダルニエルちょっと来い」

師匠とダルニエルが試合を始めた。

「ダルニエル、強いよな?」

「彼の歳は?」

「んー、今年20歳か?」

「その若さであれだけ剣を使うか、大したものだ。と言うより私が彼の歳の頃よりよほど強いぞ。さすがはスカラート殿の弟子だな。どこまで成長していくのか楽しみであり怖くもあるな」

「爺さんのレベルまで行くんじゃねえの? それこそ、勇者補正ってやつであーっと言う間に」

「勇者補正などと言うがな、実際にはどんな効果が出るかなど人それぞれだからな。さっきの二日酔いにならない程度の効果しか無いのかも知れんぞ。あーっはっはっは」

「まあ、有るか無いかわからねえスキルの効果に期待するよりも、修練する方が確実ってことか」

「タケル君の言うとおりだ。さて、我々も試合おうか」

「ああ」


「本当ですか! ありがとうございます!」

ん? どうしたんだ? ダルニエルが嬉しそうに師匠と話している。

「どうしたダルニエル?」

「おー、タケル! 師匠が、中伝終了だと!」

「へー、やったなダルニエル。まあ、奥伝に進んでからが大変なんじゃねえの? ウチの流派は、そこからが大変だったぞ。奥伝に具体的な技とか無くってさー。どこに向かって進んでいいかまったくわからねえ。苦労してるよ」

「うちの流派もその辺は似たようなもんじゃ、ダルニエル今までの修行で魔力を感じられるようにはなっとるじゃろうが、とりあえず魔力の質を見分けられるようになる事じゃ、ワシとタケルが今から試合をやるから、魔力の違いを感じるんじゃ」

そう言って、俺を手招きする。向き合った俺たちは試合を始めた。


しばらく転がされ続けているうちに、師匠が纏う魔力がいつもと違ってきていることに気がついた。外に出て来る俺に向けて出されている魔力は変わらないのに、攻撃や動きの時に動く魔力が極端に読みにくくなっている。放出する魔力を絞っているのか? 俺に見せるために? ちょっとやってみるか。師匠を真似て魔力操作をしてみたが、師匠に伸ばしていた魔力が半分程の距離になってしまった。まあ、これだけ展開していれば、何とか必要な情報は得られるな。そして、自分にも見えていた動く度に出ていた俺の魔力が殆んどでなくなった。師匠が目を細め驚いた表情を浮かべた後、ニヤリと笑って、攻撃の手を激しくしてきた。

「うわ!」

防御がちょっと辛くなってきた。さらに集中し、師匠の魔力に注意しながらも、自分が出している魔力を抑える。


「まったく、ズルイのー。反則じゃ。これ程早く出来るようになるとはのー」

師匠に俺の攻撃がかすり始めた処で大きく距離を取り、構えを解いた師匠が言った。

「え? 出来るようになってるか?」

「出来なきゃ、ワシにかする事など無理じゃろうが。まあ、ギリギリ及第点と言った処じゃがな。奥伝の最後も出来るようになっとるよ」

「っしゃー!」

俺は両手を上げて叫んだ。

「まあ、もっと修練していく必要はあるがの、ここまで来れば後は慣れじゃ。イメージじゃ。何がしたいのか、どんな事をするのか、イメージを明確にするんじゃ。うむ、タケルなら見せただけで秘伝も出来そうじゃな」

師匠がそんな事を言った。

「もともと、見て覚えるんじゃねえか」

「まあ、そうなんじゃがな。よお見とれよ」

師匠が、魔力を俺に向かって伸ばしてきた。ゆっくりとゆっくりと、俺に見せるためにわざとゆっくりやっているんだろう。伸ばした先端が俺の右腕に届いたと思ったら、腕の中がかき回されるような感覚が走ったと思ったら、いきり右腕の力が抜け木刀をとり落してしまった。

「え?」

「どうじゃわかったかの?」

俺の魔力に師匠の魔力が侵入し掻き乱した?

「想像は出来るが、解ったとは言い難いな」

「イメージじゃよ、やってみい」

俺は、ダルニエルを向いて魔力を伸ばした。イメージ、右腕に・・・・・・あ。ダルニエルが操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。慌てて魔力の放出を止め、内心あせりつつ。

「あ、やり過ぎた。ダルニエルわりい」

立ちあがったダルニエルが。

「何をするんだタケル! 驚くじゃないか!」

「ちょっと効きすぎた。驚いただけだったんなら良いじゃん。もうちょっと付き合えよ。今度はもっと上手くやる」

するとダルニエルは慌てたように、後ずさりながら。

「良いじゃんじゃ無い。おっ、おい、止めろタケル。私で練習しようとするな」

「大丈夫だ、問題無い」

「いや、問題だらけだろう! 他人の魔力をいじろうと言うのだ、やり過ぎて心臓が止まったりしたらどうするつもりだ!」

「え? んーーーー。困る?」

「私は困るじゃすまないのだ!」

「どうなんだい? 爺さん、そんな事が出来るのか?」

「ワシには、出来んの。自分の意思で動かせる部分だけじゃな。内臓は無理じゃな」

「ほーら見ろ、問題無いじゃないか」

再びダルニエルに魔力を伸ばす。

「タケル! そ、その技は、魔物にも効くのだろう? 魔物で練習しろ!」

「そうじゃな、加減はともかく出来ておるんじゃ、後は練習を重ねるだけじゃな。元々が対魔物用の技じゃからの、ダルニエルの言うとおり魔物でやってみい」

「ああ」

「さて、じゃあ次は身体強化じゃな」

と言う師匠を見ていると、魔力を操作し体を覆い始めた。そして、魔力は徐々に体の中に吸収されていくようだ。師匠が屈みこんで。と、いきなり魔力がはじけた。

「おー!」

師匠は10mほど飛び上がって、おりてきた。綺麗に着地した師匠が。

「どうじゃ? 見えたか?」

「ああ、見えた。ちょっとやってみる」

師匠がやったように魔力を操作しようとする。体に魔力をまとわせる事は出来る。でも、体に入っていかない。

「んー、上手くいかねえな」

「イメージじゃ、体に魔力を浸透させるイメージじゃよ」

イメージねー。浸透・・・・んーー、浸透! 

「浸透!! ・・・しねえ」

いや、ちょっとだけ入ってくる気がする。・・・・・・うん、入ってきてる。でも、大半がこぼれ落ちて行く感じか? だったら、量を増やせば良いんじゃねえか? よーし、おー入ってくる気がする。記述魔法で一度に使える魔力量はアイン達にはかなわない俺だが、魔力を直に使うのにはその限りではないのか、一度に使える魔力量には制限がかからないようだ。ガンガン入って、どんどん溢れている気がするが気にしない。

「ふっ!」

息を止め、屈み込んで、全力で跳び上がった。え? ええーーー! 目の前の風景が突然変わった事に驚き足元を見ると。地面がどんどん離れて行く。えー! 何だこりゃ? グングン上昇して行く。そして、とべーるくんを使ってさえ上がった事が無い高空まで上がった俺は。・・・・・・あれ? これからどうなる? 高いところまで登った物体はどうなる? そう。

「おちるーーーーー!!」

下を見ると、街が箱庭のように小さく見える。スカイダイビング気分だパラシュート無えけどな。両手を広げ体を水平に保ち、空気抵抗を最大にして、速度を抑える。身体強化で跳び上がった高さだ、身体強化したままなら当然無事に降りられるはずだ。・・・よな? 比べる物が無いので良く分からないが、落下速度は安定してきてる? と、いいな。まるでスカイダイビングだけど、パラシュート無しとかしたくねえぞ。真っ直ぐ跳び上がれた訳じゃねえし風も有るだろう。初めての街で道場の位置なんかわかんねえぞ。とすれば、このまま落下して道場の庭に降りるのは無理か? だったら、どこか人に迷惑がかからないところに降りねえとな。街の外に飛び出せれば良いんだが、ウイングスーツ来てる訳じゃねえんだから街の外まで飛び出すほど自由に落下位置を選べる訳じゃ無い。シュバルリ公爵領の領都だかなり大きいんだなこの街って。

「仕方ねえな、街中でどこか無えかな?」

グングン近づいてくる地面を見渡すと。あった! おそらく降りられるだろう広い場所が近くに見つかった。それにしても本当にこのまま着地出来るんかな? 不安になった俺は頭を下に向け、両手を頭上に向ける。グローブに魔力を流し、下に向けて風を出した。重力に逆らう力が働き始める。

「あれって、領主館の中庭だよな?」

大分高度が落ちてきた。もっと速度を落としたいところだが、このまま落ちると頭から地面に突っ込む。体勢を変え足を地面に向け、グローブから風を出し続ける。 あと50m程で地面と言う所で、領主邸の中庭に驚いたように口を開け空を見上げる女の子がいることに気が付いた。あれ? これって衝突コース?

「ヤベッ!」

俺は両手を前に突き出し慌てて落下の方向を変える。

『ドン! メキ! グワシャーン!』

「いってー! まるで、空の上から落っこちてベンチをぶち壊し地面に叩き付けられたように痛い」

慌てて方向を変えた瞬間に身体強化も切れちまった。せ・な・か・が・いってー。・・・まあ、女の子との衝突が避けられたんだから良いか。俺は仰向けになったまま目を開ける事も出来ず顔をしかめた。

「あ、あの、だいじょうぶ、ですか?」

消え入りそうな小さな声が聞こえた。俺は片目を開けて、声のした方を見た。するとそこには。

「・・・・・・天使?」

緑色の瞳が印象的な、美しいふわふわの淡い色の金髪の天使が、心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。あれー、俺死んじまったのか?

「空から降りていらっしゃったあなたはアルト様の御使い様でしょうか?」

天使が喋った。俺は空から降りたんであって、天に召された訳じゃーねえみてえだ。

「降りていらっしゃったなんて上品なもんじゃねえよ。落っこちたんだ。ただの冒険者さ、神様の御使いなんて言ったら罰が当たるぜ」

「あら、冒険者さんなのですか。わたくしの兄も冒険者ですよ」

天使がニッコリとほほ笑んだ。すると俺達の間に割って入ってきたメイド服の女性が、天使を背中にかばうようにしてから、スカートをたくし上げ太腿に付けたホルスターから短剣を抜きかまえた。惜しい! 見えなかった!!

「怪しい奴、何者です!」

「いや、俺は怪しい者・・・・」

いや、怪しいな。空の上からベンチを壊しながら落ちて来た男。うん、怪し過ぎる。

「ですね。うん、十分あやしいよな俺」

短剣をかまえ後ろに下がるメイドさん。天使は庇われながらも、俺を見ている。

「今の音は何事ですか!?」

慌ててやってきた男が声を掛けてきた。肘をついて上半身をゆっくりと持ち上げ、現れた男に顔を向ける。あららー。そこには見知った顔があった。

「やあ、タルートさん」

「タケル殿! 何をしているのですか、こんな所で」

タルートが、安心したような、呆れたような顔をして俺を見た。領主邸の中庭なんだ、シュバルリ公爵の騎士のタルートが居ても何の不思議もねえよな。俺が立ち上がると。メイドさんが。

「タルート様、この者を御存じなのですか?」

「はい、こちらは、ダルニエル様の御友人で、冒険者のタケル殿です」

「こちらが、あの!?」

驚くメイドさん。天使がメイドさんを押しのけるようにして俺に近寄って来た。

「まあ! あなたが、タケル様ですか! お兄様からお話はお聞きしています」

ん? ダルニエルの実家。お兄様? あー!

「リーネアちゃん?」

「はい!」

俺が名前を呼ぶと。満面の笑みで返事をしてくれた。

「タケル様、此の度はお世話になりました。ありがとうございます。タケル様のおかげで一命を取り留め、こうして元気になりました」

そう言うと、丁寧にお辞儀してくれた。

「いや、俺は依頼を完了しただけだし、薬には様々な材料が必要だったはずだ。俺のおかげって言われる程の事はしていないさ」

そこで、タルートが。

「ワイバーンの肝が一番厄介な素材だったんです。タケル殿が居なくては薬は完成しませんでしたよ」

「そうかい?」

リーネアが。

「やっぱり、タケル様のおかげです」

とニッコリ笑うリーネア。この娘本当に天使じゃなかろうか?

「ところでタケル様は、なぜお空の上から降りて来られたのです?」

「剣聖の爺さんの所で修行していたんだけど、身体強化を試してたらうっかり空に跳びあがっちまってさ。落っこちてきたんだ。でも、爺さんの家が区別できないぐらい高く飛んじまって。降りられそうな範囲で一番広かったここに落ちてきたんだ」

「そんなに高くまでですか?」

「いやービックリしたよ。急に目の前から爺さん達が消えたと思ったら空の上でさ、足元に小さな街が見えるんだからな。飛ぶ事に慣れてなかったらパニックになって何にもできずに転落死してたところさ」

「飛ぶ事に慣れている、ですか?」

とリーネア。タルートが。

「そう言えば、タケル殿は空を飛ぶ魔道具をお持ちでしたね」

「まあ! そんな魔道具があるのですか? タケル様はまるで、悪い魔術師からお姫様を救った英雄のようですね」

と言ってとても良い笑顔を俺に向けてくれた。

「そんな風に言うと、英雄様に怒られちまうぜ。俺はただの冒険者だよ」

「いいえ! タケル様は私を助けて下さった英雄様です!」

勢い良く俺に詰め寄ってくるリーネア。

「おっ、おう」

あまりの勢いに押されるようにのけぞる。

「とっ、ところで、リーネアちゃんは、外に出て大丈夫なのかい? 病み上がりじゃないか、今日は温かいけど真冬に外にいたら体を冷やしちゃうよ」

「もう体は平気なんですよ。家の中に居るばかりでは鈍ってしまいます」

そこにメイドさんが。

「いいえ、お嬢様、タケル様のおっしゃる通りです。もうお約束の時間は過ぎております。お部屋にお戻りください」

「私まだ、タケル様とお話したいです」

「俺、修練の途中だから、皆が心配してるかもしれない、戻らないといけないんだ」

そう言って、身体強化を始める。魔力が十分に溜まった状態で。

「じゃあな」

軽く手を振ると。師匠の家に向かって跳んだ。

「あっ、タケル様! またいらしてください」

リーネアちゃんの声が遠くに聞こえた。今度はちょうど良い感じに跳べたようだ。師匠の家が見えてきたので、グローブに魔力を流し姿勢と方向を制御しながら庭に向けて降りて行く。

「あー、ベンチ壊したままだった。弁償しなきゃ」

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