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3人目の勇者

「何を見ている」

男が言った。軍服のようなきちんとした服だが、その下の体は凄いマッチョだ。

「爺さんに用事が有ったんだが、何だか忙しそうだな。と言うことで、俺たちは又日を改める事にするよ。じゃあそういう事で」

踵を返し立ち去ろうとしたのだが。

「タケル、何を言っている。師匠が今日も修行だと言ったではないか」

あー、言っちゃったよ。ダルニエルには是非空気を読んでもらいたい。

「なに? すると君達はスカラート殿の弟子と言う事か! スカラート殿もう弟子は取らないと仰ったではないですか」

男は立ち上がり、師匠に詰め寄る。

「ダルニエルが最後の弟子じゃ、もう7年になるのー。こ奴を最後に弟子を取るのをやめたんじゃ。なかなか修行に専念せんもんじゃからのー、未だ中伝も修めきれん不肖の弟子でのー。こ奴を仕上げるまでは新しい弟子を取る気はないんじゃ」

そう言われたダルニエルは。

「すみません、勇者になってからなかなか集中して修行が出来ず・・・・・・」

「イヤイヤ、勇者として活動しながらなら7年は長くないんじゃねえの?」

俺が言うと。

「おー、ダルニエル殿と言えば、アースデリアの勇者ではないか!!」

身なりの良い男は、そう言うとダルニエルに走り寄り両手でダルニエルの右手を取り、上下に大きく振る。

「私はホグランの勇者でノルマルトだ。ダルニエル殿はスカラート殿の弟子なのか。なるほど、その若さで国公認の勇者になるとは凄いと思っていたが、剣聖の弟子であったか。私が弟子入りすればダルニエル殿は兄弟子と言う訳だな。大分年上の弟弟子だが勇者同士でも有る事だしよろしく頼む」

ノルマルトのオーバーなアクションに少し戸惑いながら、右手を振りまわされるまま。

「あっ、ああ、こちらこそよろしく」

手を振りあっている2人を気にする事も無く師匠は。

「そう言えばタケルは何年かかったんじゃここまで」

「んー・・・。9年だな。もっとも、カーシャと訓練するまでは相手の攻撃なんか見えて無かったんだけどな。ウチの流派じゃ周りの気配から人を特定する事が出来るようになって奥伝の2段なんだが、そこから全く進んでなかったな2年くらいか?」

「ほー、カーシャか。元気にしておったか?」

「え? カーシャって爺さんの弟子だったりするのか?」

「そうじゃ、もっとも冒険者稼業に専念すると言ってここには来なくなったがな。タケルは試合ってみたのか?」

なるほど、カーシャがねー。あの強さも納得だな。

「5本に1本しか取れねえよ。本気で戦ったらまあ勝てねえな」

「5本に1本か。今度やれば負けんじゃろう」

「え? 昨日の修行だけで?」

「タケルが1本取れるって事は、魔力操作は五分五分と言う所じゃろう。カーシャの方が多少なりとも、身体強化が上なんじゃろうな。無意識の強化じゃから完勝出来んのじゃろうて。昨日の様子では感知の範囲が広がっとったぞお前さん。話を聞いた限りでは感知範囲が広がったお前ならカーシャに負ける事はあるまいよ」

「え? ほんと? そんな事が急に出来るようになるのか?」

「2年も燻っておれば下地は十分だったんじゃろうな。出来る時はいきなり出来るようになるもんじゃ」

「そんなもんかねー」

手を振る事に飽きたのかノルマルトが、俺の方を向き。

「奥伝の2段? タケル君もスカラート殿の弟子? 子ど、まだ若いではないか」

あ、言い直してくれた。

「いいや、俺は弟子じゃねえよ。昨日から爺さんに稽古を付けてもらってるだけだ。どうも、俺の流派と爺さんの『魔闘流』結構似てるみたいでね。俺なら爺さんと同じ事が出来るようになるかもしれねえって。自分と戦う事は出来ねえから俺がそうなれば戦えるってよ。とんだバトルジャンキーだぜこの爺さん」

「何を言うか。ワシとてまだ修行中の身じゃぞ、修練の相手は必要じゃろうが。修練が楽しい方が良いじゃろうが」

やっぱり、戦うのが楽しいんだな。なーにが『何時お迎えが来るかも分らん』だよ、しばらくそんなもん来ねえよ。

「何と! 弟子でも無いのに稽古を付けて貰っているとは! いやいや、実に羨ましい。タケル君を羨ましがる人間は私だけではないだろう」

バトルジャンキーな師匠に付き合わされる為の促成栽培のような気がしてならないんだけどな。まあ、進んで無かった技の習得が早まるってのは嬉しいけどな。

「スカラート殿! 是非! 是非私にも稽古を付けていただけないでしょうか?」

「フム、ちょうどワシ以外にもタケルの相手が欲しかったところじゃからの。それで良ければ一緒に稽古に参加してもかまわんぞ」

いやいや、無いだろ。俺の相手で良ければなんて条件を飲む訳ねえじゃねえか。相手は国公認の勇者だろうが。

「おー! 稽古に参加させていただけるのですか? かまいませんぞ! タケル君の相手でも何でもいたします」

えーーーー? それで良いのかよ? すると、ノルマルトがニヤリと笑い。

「しかし、タケル君より私の方がスカラート殿の修練相手に相応しいとなれば、稽古相手は私と言う事ですよね!」

なーる程、そう言うことね。脳筋ならではの思考だな。要するにバカなんじゃねえのか。

「よしタケル君! さっそく稽古だ! 試合おうではないか! ふっふっふ。人間相手に全力で戦えるなど久しく無かったからなー腕が鳴るぞ! さあやろう! 直ぐやろう!」

こいつもバトルジャンキーだったか。ノルマルトがそう言ったと思うと。ノルマルトの両肩の後ろから1本づつ2本の腕が伸びてきたと思ったら。左の頬と右の耳を摘み力いっぱい捻った。

「ゴッ! いたたたた!」

叫ぶノルマルトの後ろから、2人の女性が出てきた。歳は2人とも20代後半くらいかな? アシャさんよりは年上な感じだ。身長は2人とも女性にしては高いな180cmくらいか? 1人は赤銅色の髪をショートカットにしている。鋼のような筋肉質で、太い腿に太い腕、腹筋は6ついや8つに割れている。胸はかなり大きく腰はこれでもかと言うくらい張っておりウエストのくびれは凄い、正にバンギュンブォンって感じだ。なぜそんな事がわかるかと言うと。上はチューブトップに短い丈のベスト指抜きグローブ、下はショートパンツに膝までのブーツという出で立ちだった。今は真冬だ寒くねえのかこの人? もう一人は濃いめの金髪を肩のあたりまで伸ばし。魔術師かヒーラかと言った感じのたっぷりとしたローブでは隠しきれないほどの爆乳の持ち主だ。あれはシルビアさんより確実に大きい。いや、今まで見た中じゃダントツに大きい。それ以外はローブに隠れ良く分からない。しかし、抜群のプロポーションに違いないと俺の勘が叫んでいる。そして、どちらも凄い美女である。片や獣ののような精悍な顔つき。もう片方は、少し垂れ目で右目の泣き黒子がめっちゃ色っぽい。などと考えていると。2人が俺に近づきながら。

「全く、あんたってどこまでバカなの? 頭じゃなくて筋肉でものを考えるタイプよね」

「本当です。ちゃんと考えてから行動してくださいと何時も言ってるじゃありませんか」

あー、やっぱりバカなんだこの勇者。2人はそう言って俺の横まで来ると。俺の両腕を片方ずつ胸に抱え込んで。うわー、フカフカなのと適度な張りのあるオッパイが・・・・・。非常に心地よい。

「こんな幼気な子供と全力で戦うだと? バカだバカだとは思っていたが、ここまでだったとはな。お前はホグラン公認の勇者で、A+ランクの冒険者なんだぞ、子供相手に本気だと? ふざけるんじゃない!」

と言いながら、筋肉美女がオッパイをグイグイ押し付けてくる。なっなんと素晴らしい!

「バカとは何だ。スカラート殿が稽古を付けておれれるのだぞ。タケル君の実力は高いに決まってるだろう! 本気を出さねばタケル君に失礼ではないか」

実力が高ければ師匠は稽古ではなく試合をするだろうなー。なんて言ってもバトルジャンキーだからな。

「ほーら、やっぱり何にも考えて無いじゃないですか。ドラゴンでも子供の頃はあるんです。幼くして見出されこれから才能を伸ばすに決まってるじゃないですか。今の時点で、あなたが本気で戦って良いわけがないでしょ。こんなに可愛い男の子に何をしようとしているんですかまったく!」

と言って、こちらの爆乳美女もオッパイをグイグイと。昨日からスキンシップ率高いんじゃね? 急に星周りが良くなって来たんじゃね? 

「タケル兄ちゃんだって、勇者だよっ!」

筋肉美女との間にケーナが体を押し込んで俺の腕に腕を絡めてきた。うん、ツルペタだ。

「「「「「「え?」」」」」」

俺達を除いたみんなが驚いている。

「勇者(笑)だけどな、冒険者ランクだってCだし」

爆乳美女との間にアシャさんが割り込みながら。

「タケルさんの冒険者ランクは当てになりませんよ。何と言ってもフェンリルバスターですから」

「「「! ガーゼルの英雄! こんな子供が?」」」

今度は、ノルマルトとその連れらしい美女達が驚いている。美女達はケーナとアシャさんに押し退けられた事を気にする余裕もないようだ。

「いや、たまたまだからな。フェンリルを倒したからって他のAクラスの魔物を倒せる訳じゃねえぞ、現にフィフスホーンには全く歯が立たなかったし」

美女2人の後ろから、いかにも魔術師ですといったローブを着た中年の男が現れ。

「フィフスホーンは実質Sクラスの魔物だからな。あれを倒すのは無理ってもんだ」

ダルニエルは。

「タケルが勇者だと? どう言う事だ?」

「ん? タルートさんから聞いてねえのか? 今年の初めに教会でカードの更新をしたら付いてたんだよ。正直要らねえけどな。 俺はダルニエルと違って、勇者をやらなきゃならない理由もねえしな」

「君も勇者だったとはな、ガーゼル領公認なのかい?」

ノルマルトが言う。

「イヤイヤ、野良だ。言ったろ(笑)だって、何処の公認も受けちゃいないよ」

「なーんだ。驚かせないでよ」

筋肉美女が言った。公認を受けられない勇者ってのは結構居るのかな? で、公認を受けられないってことは実力もそれなりと見られちまうんだろうな。落胆したような、ホッとしたような筋肉美女の言葉を聞いたケーナが。

「タケル兄ちゃんをバカにしないでよ!」

と食って掛かる。

「馬鹿にした訳じゃ無いんだが、気に障ったのなら謝るよ。ただ、野良勇者ってのはそれなりにいるんだよ、タケル君みたいに若い子はなかなか公認して貰えなくって苦労してるんだ」

筋肉美女が言った。継いで爆乳美女が。

「勇者スキルを持ってるって言っても、スキルが付いただけじゃ実力も実績もないでしょ? でも、周りは期待だけはするのよ、支援もせずに結果だけ求めるのよね。それで、結果を出せない子達は、白い目で見られたりするし、それでいて嫉妬やヤッカミの対象にされて辛い目に合う事も多いのよ。タケル君をバカにした訳じゃ無いのよ」

たしかに、そう言う事もあるだろうな。

「タケル兄ちゃんは、アルト聖教会の公認を断ったんだよ。ただの野良勇者とは違うよ」

「「「「「「「はあ? アルト聖教会の公認を断わったー?」」」」」」」

みんなが更に驚いて俺を見る。ダルニエルが。

「タケル、何て事をしたんだ。アルト聖教会の公認など簡単に受けられるものではないのだぞ。小さな国の勇者など比べ物にならないような支援が受けられるのだ。多い時でも5人居たことは無かったはずだ。確か今は、2人だったんじゃないか?」

なーんだ、他にも教会公認の勇者いるのか。だったら、あの時の女の子はそっちのパーティに入れるのか?

「自分の装備を組織から貰ったり、そこの金を使ったりしたら後々面倒な事になるような気がしたんだ。それに、教会だぞ。あちこち飛ばされたんじゃ敵わない。俺は、しばらくガーゼルを離れる気はねえよ」

するとノルマルトは。

「タケル君、ちょっと勘違いしているようだね。勇者と支援組織の関係は対等なのだ。公認した組織がするのはあくまでも支援だ」

「それじゃあ、支援する方のメリットが無いんじゃ?」

「あくまでも勇者は自由意思で活動する。もちろん、公認組織の意向を重視するのも自由だ。あまり自由にやり過ぎれば公認を解かれてしまうだろ? しかし拒否権は有る。公認組織は依頼は出来るが、命令は出来ない。勇者を名乗って行った行動で生じた損害の賠償の全部又は一部を負担する。例えば国の騎士だった者が勇者になった場合は騎士を止めなければいけない。雇用関係は取れない」

「戦争の時はどうなるんだ?」

「国際法で決まっていてな、侵略戦争には勇者は参加出来ない。まあ、抜け道はどんな事にでも有るからな、防衛戦から逆進行には参加が出来る。相手に先に仕掛けさせればいいのさ。たとえ誘導したとしてもな。まあ,国際法に批准していない国もあるがね。それに、あまり露骨にやると、勇者のスキルが消えちまうらしいし」

「へー、そんな事があるんだ」

「そう言う訳で、公認勇者になっても活動に支障はないはずだ」

なるほどね。

「さて、そう言う訳で、さっそく稽古だ」

そう言って門をくぐって道場の庭に入って行った。

「なにがそう言う訳なんだ?」

と言いながらもノルマルトに続いて行こうとすると。爆乳美女が。

「タケル君、自己紹介させてね、私はリムレア、ヒーラーよ」

続いて筋肉美女は。

「あたしは、ドミニク。タンカーだ」

「俺は、ガバナス。魔術師だ」

中年男が言った。続いて、アシャさん達にダルニエル達も自己紹介した。

「おーい、タケル君! 稽古だ稽古!」

「はー。タケル君すまないが、付き合ってやってくれ」

ドミニクが言う。

「どんな怪我でも私が直しますからね。全力でやってくださいね」

リムレアは、俺の怪我を直すつもりなんだろうな。まあ、修練用の剣を使うんだ怪我はしねえけどな。門をくぐりながら。

「ノルマルトさん、武器はなんだい?」

ノルマルトのバスターソードを作り、道場の庭で向かい合った。

「では、はじめ!」

師匠の掛け声で俺達は剣をかまえた。俺は魔力を展開しノルマルトまで伸ばすイメージをする。ノルマルトが纏う魔力をはっきり感じる事が出来た。おー、昨日の稽古が役に立ったのか? あれっぽっちの修練でこれが出来るようになったってのか? まあ、それまでの時間が長かったしな、何かのきっかけで解るようになる下地が有ったってことかな。などと考えていると。ノルマルトがじりじりと間合いを詰めてきた。合わせるように俺も前進する。もう少しで俺の間合いだが、バスタードソードの方が間合いが長いそろそろか? きた! 魔力の流れを感じた俺は刀で受け流すために動いた。踏み込みながら、その通りの軌道で剣が打ち込まれる。速いっ! 受け流すとさらに2の太刀、更に3の太刀が俺を襲う。全て魔力の流れから受け流す事が出来る。それにしても速いな。おそらくケイオス並みに速い剣速だ。当然俺よりも速い訳で、見てから受けるんじゃこんな事を考える余裕はないな。さらに、2度の打ち込みをかわしノルマルトの左側を通り位置を入れ替えながら、距離を取りまた向かい合ってかまえる。今度は俺から打ち込むが、さすがはA+の冒険者と言うことか。受け、流し、かわしながらも合間に攻撃してくる。こいつ見てからかわしてるな、フェイントを織り交ぜるがやはり的確に受けられてしまう。さすがに場数を踏んでるってことか。ん? 今までとは違う流れを感じた俺は、そこに向けて刀を振る。

「!」

今までよりも少しだけ余裕の無い受け方をするノルマルト。さらに同じ流れに乗せるように振る。3振り目で相手の胴に刀が吸い込まれるように入って行った。

「ぐっ」

そこでお互いに構えを解く。

「まいった」

ノルマルトが言うと。

「タケル君が?・・・・・」

とリムレア。

「「ほー」」

こちらはガバナスにダルニエル。そして。

「やったー、タケル兄ちゃん」

「タケル、やるな」

「タケルさん」

「やったー。タケルくーん」

「タケルさん」

「タケル」

うちのパーティメンバーとドミニクにファーシャにターニャだ。おい、それで良いのかドミニク?

「いやー、タケル君強いな! 私の方が速かったんだが、全て受けられてしまったなー。最後の3打は受けきれなかったぞ!」

「爺さんとの稽古のおかげだな。昨日の俺じゃ間違いなく受けきれなかった。さすがだね、速いし重いし、何とか勝てたってところだな」

ノルマルトは師匠に向かって。

「さすがスカラート殿ですね。たった1日でタケル君をそこまでにしてしまうとは」

「馬鹿をいうな。どれほどの才能が有ろうと、たった1日であんな事が出来るようになる訳が無いわ。ワシがそこまで行くのにどれだけ時間がかかったと思っとるんじゃ!」

「ですが、タケル君はそう言っているじゃありませんか」

「下地が有ったんじゃろうな。こ奴の師匠とやらに会ってみたいところじゃが、亡くなっておってはそうもいかんな。まあ、タケルに会えただけで良しとしよう」

ノルマルトは、俺に向き直り。

「さて、タケル君もう少しやろうではないか。このままやられっぱなしでは済まさんぞ」

「ああ、いいぜ」

ノルマルトと試合をしてみて、今まで漠然と感じていた魔力がはっきりわかるようになってきたからな。俺としてももう少しやってみたいと思っていたところだ。再度向き合った俺達は。

「「いざ!」」

開始位置から走りだした。


「ゼーゼーゼー・・・ぜー。タッ・・・タケル君。君ちょっと強すぎないか? ここまで、やられると私は自信を無くしそうだ。さきほど、私の方がスカラート殿の修練相手に相応しいとなれば。などと言った自分を怒鳴りつけてやりたい気分だよ」

ノルマルトが地面に座り込みながら言った。まるで、昨日の自分を見ているようだ。

「俺も驚いてるところさ。ノルマルトさんと試合をしているうちにどんどん、感覚がつかめてきているからな。感謝しないと」

俺達が試合をしているうちにダルニエル達は、改良したディフェンダーやまもーるくんの調子を見たり、稽古をしていたようだが、俺達の手が止まったのをみて、こちらにやってきた。

「タケル、まもーるくんは凄いじゃないか。タケルの言っていたディフェンダーの弱点を見事に克服しているぞ、大したものだなあれは」

「だろ? すげえだろ!」

すると、師匠が。

「確かに凄いな。しかし、あれはいかんなー」

「え? なにか、おかしなところ有るか? デザインの事なら受け付けねえぞ」

「いいや、あのデザインはいかん!」

え? あのお尻大好きの師匠が?

「剣士用の物は露出が多過ぎじゃ! もっと隠れている感が欲しいところじゃ。しかし、魔術師用の物はイイ! あの見えそうで見えないところが良いの―」

そうだよなー、師匠はこういう爺さんだったよな。ファーシャが。

「スカラート様が、大人しくしていると思ったら、そんな事を考えていたのですね」

「なんじゃ、さわって欲しかったのならそう言わんか。心配するでない、十分見せてもらったでの、ここからは、お触りの時間じゃ」

「師匠! 何を馬鹿な事を言っているのですか!」

ダルニエルが言うと。

「ノルマルトとは、また別の意味でバカだな」

ドミニクが言うと。ノルマルトは。

「馬鹿とは何だ、人の事を馬鹿と言うヤツのほうが馬鹿なのだ。ところで、タケル君。剣士としての私が君に敵わない事はわかった。しかし、私は負けず嫌いでね、このまま負けっぱなしと言うのは気にいらん。どうだろう、最後に、冒険者としての本気でやらせてもらいたいのだが?」

えーと、この人A+ランクだったよな。

「えーと、俺Cランクなんだけど? A+の冒険者に勝てるわけないよね? そうまでして勝ちたい訳?」

「ああそうだ!」

思いっきり言いきったぞこの人。冒険者としてねー。

「だったら、俺も冒険者として戦っても良いのか?」

「おお、もちろんだ!」

「ノルマルト殿それは、止めた方がいい。冒険者のタケルはランクでは測れないほど強い」

ダルニエルが口を出した。ちっ!

「ダルニエル殿、どう言う事だ。タケル君がただのCランクでは無いと?」

「そこにいる、アイン。あー、ゴーレムな。私はアインにコテンパンにやられたのだ。まあ、タケルにも敵わなかったがな。タケルはゴーレム術師でもあるんだ、冒険者として戦うのであればアインを使うと言い出すぞ。それだけじゃ無く、魔道具職人でも有るんだから、おかしな魔道具を使うかもしれない」

ダルニエルの話を聞いて。

「え?」

と言って、ノルマルトは驚いたように俺を見た。

「えーと、冒険者としてのタケル君は、ゴーレムや魔道具を?」

と聞かれた俺は。

「冒険者としての本気なら、アインだけじゃなくて、AMRやリボルバーワンドも使うかな」

「りぼるばわんど? ・・・ワンド! タケル君も魔法を使うのか? それと、AMRとは・・・なにかな?」

「AMRはアンチモンスターライフル。・・・・手っ取り早く言えば、700m先のブラッドグリズリーを一撃で仕留めることが出来る対魔物様の魔道具だな」

俺達と、ダルニエル以外の人間が俺を驚いた顔で見ている。いや、師匠は驚いて無いな。あれは、面白い物を見るような顔だな。

「は? 700・・・メートル? そんな物を使われて生きていられる人間がいるわけないだろう?」

ノルマルトが言ったが。

「いや、爺さんなら平気な気がするけどな」

「確かに」

「だよなー」

ノルマルトが。

「あー、タケル君。ここは、狭いし私は魔物では無いのだから・・・・・」

「アインはスゲエぞ、透明なアダマンタイトを使ってることから俺の鍛治士としての腕が判るし、喋る事や自我を持ってる事からゴーレム術師としての腕も判る。そして、魔法も使うんだ、魔道具職人としてもそれなりって事だと思うぜ、こいつは俺の職人としての技の集大成ってやつだ」

「フフフ照レチャウネ、モット褒メテクレテモイイヨ」

「まあ、使わねえよ。それに、本当の全力のノルマルトさんとやる事で何か掴めるかも知れないからな」

すると、ノルマルトは。

「そうか? そうか! よしやろう! 直ぐやろう!」

と言って開始位置に着く。A+の冒険者としてのノルマルトか、どんな攻め方をしてくるのかな? 俺が位置に着くと。

「「いざ!」」

今日何度目かの試合が始まった。打ち合いが始まるが、さっき迄とは違ってノルマルトは積極的な攻めをしてこない。俺の攻めを受けているが、向こうの方がスピードに勝るので、正直言って受けに回られるとちょっと攻めきれない。下手なフェイントなんかすると、こっちに隙が出来ちまうだろうし。

「ん?」

なんだ、ノルマルトの纏う魔力の流れが変わった? 魔力が左手に向かって流れていく。そう言えば、さっき『タケル君も魔法を使うのか』って言ってたな。ノルマルトは魔法が使える? 魔法戦士ってヤツか。まるでボイスみてえだな。あれ? ノルマルト詠唱してねえぞ。魔力が集まり魔法陣を描き始める。記述魔法のように順を追って魔方陣が描かれて行くのではなく、パーツ毎に魔方陣が組まれて行く感じか。詠唱魔法を無詠唱ってことか? 無詠唱でも即発動って訳じゃないのか。奇襲にはもってこいだな。もちろん俺は攻撃をやめてはいないし、ノルマルトも動作を止めたりはしない。えーっと、あの魔方陣はファイアーボールか・・・・・・。徐々に完成していく魔方陣を見ながら面白いことを思い付いた俺は魔力を操作し始める。

「ハッ!」

そう叫んだノロマルトの左手に火球が現れた。やっぱり詠唱魔法か。すると、火球はその場で薄く大きく広がり、ノルマルトの上半身を包み込んだと思うと燃え上った。大した威力ではなかったが、俺はその場から下がり距離をおき、ファイアーボールが収まるのを待った。ファイアーボールが消えた後には、アフロヘアーのノルマルトが茫然と立ち尽くしていた。

「ブッ! ブワハハハ!」

その場で思わず吹き出し腹を抱えて笑出した俺は。呼吸を整えると。

「ノルマルトさんの、冒険者としての本気ってやつを見せてもらったよ。ククク。まさか、捨て身のギャグをかましてくるとは。いやー、まいった俺の負けだ。ブハハハハ」

「「「「「「「アハハハハハ」」」」」」」

茫然とするノルマルトを見て、みんなも笑い出した。いや、みんなじゃねえな。ターニャは驚いた顔で唖然としているし、ガバナスと師匠は真剣な眼差しで俺を睨むように見ている。我に帰ったノルマルトは。

「タケル君、一体何をしたんだ?」

ガバナスも。

「いくらノルマルトでもファイアーボールの制御をしくじるなどあり得ないぞ。魔術を改変したのか? イヤイヤ無理だろ。そんな話は聞いた事がない」

「いくら私でもとは、ちょっと失礼だろう」

そこで、ターニャがハッとしたように、俺に顔を向け詰め寄りながら。

「今のは何? 何をしたの? 魔術に干渉する? あり得ないわ」

あー、やっぱりそうだよな。

「フフフ、秘密だ。これでも冒険者だぞ、そう簡単に手の内はばらさねえよ」

「「「うっ」」」

3人は、それ以上質問はしないだろう。

「魔力の流れがわかるようになったんじゃ、魔法の発動のタイミングは簡単にわかるようになるんじゃが、さて、どうやればあんな事ができるのかはさっぱり分からんの」

「まあ、魔力操作の内だ。魔力の流れがわかるようになったおかげで解った事が有ってな。ノルマルトさんが無詠唱だか詠唱省略なのかわからねえけど、発動させようとしていた時に見えたんだよ。左手に魔法陣がさ。魔法の発動速度が遅かったせいかパーツごとに順々に魔法陣が組みあがっていくところが見えて、いじれそうだったからな、やってみたら出来た」

まあ、そんな感じだ。

「やってみたら出来たー? 魔法を詠唱すると魔法陣が出来上がるですって? そんな話し聞いた事も無いわよ」

ターニャが言う。

「爺さんの領域まで行かねえと魔力の流れなんて見えねえんだ。普通はわかんねえだろ」

師匠は。

「ワシは、魔力の流れや発動のタイミングは分かるが、魔法陣が見えた事は無いの―」

あれ? そうなのか?

「俺が記述魔法を使うせいかな?」

ガバナスが。

「なるほど、タケル君だからこそって事か。お前さんとは敵対しないようにしないとな」

と言うと。ターニャが。

「ちょっと、それ本当なの? タケル。ちょっといらっしゃい」

そう言って俺を引っ張って庭の真ん中に立たせると。自分は少し距離を取って俺と向き合い、ロッドを掲げてブツブツと呪文を唱え始めた。慌てて魔力を展開すると、杖の先に魔力が集まり、あっという間に魔法陣が完成した。改変どころか、手出しも出来ないうちにロッドが振られそこから炎が飛び出した。慌てて避けると。横をエクスプロージョンが通り過ぎていく。

「だー、あぶねえな。いきなり何しやがる」

ん? 魔力の流れが・・・・・・。

「どわー!」

そう叫んで刀を背中に向けて振り降ろすと。引き返して来た炎に当たり、エクスプロージョンが俺の至近距離で発動した。

『ボゥン』

直撃では無かったが俺も炎に包まれた。

「なんて事しやがるんだ! あぶねえだろうが!」

俺が叫ぶと。

「「「「「「「ブッ! アハハハハハ」」」」」」」

皆の笑い声が道場の庭に広がった。


アフロになった髪の毛って、ヒールで治るんだな。

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