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これが剣聖?

明けて翌日、俺達は剣聖の家に向かっていた。

「剣聖殿か、どのような人物なのだろうな」

「怖い人かな? 優しい人かな?」

「理由も無く怖い人などいませんよ。どんな事でもその道を極めた人と言うのは、優しく、そして厳しいのではないでしょうか。そのような人だと思いますよ」

「優しくて厳しいの?」

「不思議ですか? 優しさと厳しさは1人の人の中で矛盾なく同居出来ると思いますよ」

「んー、良く分からないよ」

アシャさん達が話している。

「怖い方では無いぞ。ただ、何と言えば良いのか・・・・・・。会ってみればわかるとしか言いようが無いのだが、ケーナたんの言う怖いとはちょっと違うと言うか」

ダルニエルが言うと、ファーシャとターニャが。

「そうですね。スカラート様は・・・・・」

「会えば分かるわね。我慢なんかしないでしょ、あのおじいちゃん」

「何だ? 歯切れが悪いじゃないか。まあ、ちょっと変わってるなんてのはしょうがねえんじゃねえの? 普通の人間じゃ剣聖なんて言われる程まで剣を極めるなんてできないだろうからな」

俺の祖父ちゃん達だってかなーりおかしかったと思う。じゃなきゃ銃を持った人間との戦い方を学ぶためだけに外国に行ったり、練習相手になるために孫に銃を習わせたりしないよな。おかげで、今役に立ってるんだからどんな事でも無駄な事って無いんだなー。祖父ちゃんが異世界転移まで想定してたとは思えねえから、祖父ちゃんにとっては普通の事なんだろうけど、あっちの世界でそれって無茶苦茶おかしい。

「まあ、変わった人である事はまちがいないだろ」

などと話しているうちに目的地に付いたようだ。塀で囲われた庭は広く、俺から見れば西洋風の周りに比べ少し小さめの家と。かなり大きな家が並んでいる。大きな方は道場だろうか? 

「失礼します! ダルニエルです師匠は御在宅でしょうか!?」

門扉越しに大きな声で呼びかけるが返事は無い。出かけてるのか? ダルニエルは門を開け中に入って行く。俺達も後に続く。小さい家のドアをノックし声を掛けるが反応が無い。やはりこっちが住居なのか? 

今度は大きな家のドアをノックし声を掛けたが、やはり返事は無い。しかし今度はドアノブに手を掛け引いた。鍵はかかっておらずすんなり開いた。物騒だな。いや、剣聖の家に忍び込むような命知らずな泥棒もいないか。中に入って行くダルニエルに続いて俺達も道場に入って行く。室内に入って周りを見渡す。うん、ここは道場だ。壁には何本もの木剣が掛けられている。床は土を固めたものだ。ふーん板の間じゃねえんだな、こっちの剣術だから靴や防具を付けて修練するってことか。

「留守・・・か」

俺が言うと。ダルニエルは。

「師匠はこの時間は家に居るはずだし。今日、訪問する事は連絡しておいたのだ」

「ふーん、急用でも出来たんじゃ「きゃっ!」・?」

アシャさんの悲鳴を聞いて振り返ると。アシャさんの後ろにしゃがんだ老人が尻を撫でていた。アシャさんが飛んで逃げたが、老人はアシャさんから離れる事なく撫で続ける。

「このじじい!」

俺は反射的に襟を掴もうと手を伸ばすが、こちらも見ずにそれを避けた老人は、今度はガーネットの方に素早く移動し、後ろに回り込むと尻を撫でる。

「なっ何をする」

振り向きざまに振り下ろしたガーネットの拳を苦もなく避け後ろに回り、引き続き撫で続ける。

「こいつ!」

そう言って、出したガーネットの拳を更に避けると、まだ尻を撫でる。

「てめ!」

今度は殴りに行った俺の拳をバックステップでかわした老人は。

「んー、どっちもなかなか良い尻じゃ、ダルニエルの所の小娘達のはまだまだじゃからのー」

なんだこの爺は・・・・・・? 年寄りだと思って加減はしたが、2回とも老人が簡単に避けられるようなスピードでは無かったはずだ。・・・・・・なるほど。

「この、エロ爺がダルニエルの師匠って訳か・・・」

今度は、本気で殴りに行った。どこを殴ればいいか、例によってわかった。顔よりも避けにくいだろう腹に向けた拳を流れるように避けるスカラートは。

「ほう?」

面白い物を見たように笑った。俺は更に拳を打ち出す。もう相手が剣聖だということも老人だということも頭から消え始めていた。久しぶりの感覚だ。

「ほっほっほ」

笑うスカラートからあの感じを受ける。何か来る! その何かを避けるような最小限の動きで、剣聖から繰り出される拳を避けながら、足払い、と言うより素早いローキックを放つ。軽く飛び上がる剣聖。よし! 思った通りだ、空中に居てはもう避けられない。そう思って拳を打ち出す。あれ? 力が入って無い? その拳に軽く手を添え、反動を利用して方向を変えた剣聖は着地しそのまま蹴りを繰り出す。こっちの動きを分かってるような攻撃だ。俺も相手の攻撃は分かるので当たりはしない。少しの間だが俺達は至近距離で拳や蹴りを繰り出し会う。数発づつ打ち合った後に剣聖は大きく後ろに下がった。お互い見合った俺達。スカラートは。

「ほー面白いのう。その歳でそこまで出来るか。よく修練しとるのー、じゃがまだ道半ばと言ったところかのう。ワシも修行中の身じゃが、お前さんよりちーとばかり先を行っとるようじゃ。どれサービスじゃ、その先と言うヤツちょっと見せてやろう」

そう言うと、俺に向かって飛びこんで来た。と思ったらスカラートが目の前から消えた。

「!」

右下? そいつを避けるように動く。右下から今までに倍するほどの速度で蹴りが飛んで来た。右横! その蹴りも避けられた。速すぎる! 避けられはするが、攻撃する隙は無い。目で追うのがやっとの攻撃を数回避けていると、今度は今までに無い程のヤバイ感じがした。やられる! そう思った瞬間に居合いで刀を振ると大きく後ろに飛び退く。もちろん魔力を流し、峰打ちモードで刀を使う程度の冷静さは残っていた。更に数歩下がって間合いを空ける。

「くっ!」

スカラートに向かって走り出す。余裕を持って俺を待ちかまえる相手の左側に向かって大きく足を踏み出しながらリストバンドに魔力を流し、風に押されて速度を上げて飛び出す。更に刀から左手を離し、グローブに魔力を流す。左手から右に向けて風を打ち出し空中で進行方向を変えつつ相手の右側に飛び込みながら刀を振るおうとした。当たらない! それが解った。刀を振らずにスカラートの脇をすり抜ける。更にそのまま飛びこむように前転し、立ち上がる。振り返ると、スカラートの拳が俺向かって来る反射的に避ける。更に蹴りが、これもギリギリでかわし。え? わからない? さっきまで攻撃がわかっていたのに? そこでスカラートが消えた。後ろ! 今のはわかった訳では無く勘だ。振り返ろうとした時に側頭部に衝撃を感じた。今のもわからなかった・・・・・・ぞ。

「なにやら面白い物を使うのう」

そこで、俺は意識を手放した。


あー、何だか後頭部が気持ちいいなー。目が覚めようとしてるなー。あれ? 何時寝たんだ俺? それにしても頭の後ろが気持ちいい。温かくて柔らかいのに適度な弾力もある。素晴らしい枕だなー、こっちに来てから。いや、向こうに居た時だってこんな気持ちの良い目覚めは無かったんじゃねえか? 俺はこの素晴らしい寝心地の枕を撫でるように手を動かす。

「あん」

あれ? 何だか大きな枕だな。更に手を伸ばして行くと、手触りが柔らかく変わった。ギュッともみ込むと。

「キャッ」

と言う悲鳴が聞こえ。突然枕は消えた。

『ゴン』

「ガー! 頭が地面に叩きつけられたように痛い」

頭を抱え土の床に寝そべった俺は上を見上げた。慌てて飛び退ったアシャさんの顔は真っ赤だった。俺を軽く睨むアシャさんに。

「あー、ゴメン。悪気は無かった」

と言いながら、その場で起き上がり座り込んだ俺は周りを見渡し、スカラートを見つけると。

「あー、やられたのか俺。あそこまで綺麗に殴られたのは久しぶりだ」

するとスカラートは。

「回し蹴りじゃ、見事に入ったな」

「げっ、良く死ななかったな俺」

あんなのをまともに貰ったら死んじまっても不思議は無いところだ。

「あのまま当てたりはせんよ。こんな面白い子供を殺す訳無いじゃろ?」

「あーそうかよ。アシャさんありがとう、ハイヒールしてくれたんだろ?」

「はい。どうですか? まだ痛みますか?」

体を確認しながら。

「んー。いや、床にぶつかった後頭部以外は平気だな」

「あっ、ごめんなさい」

そう言ったアシャさんは、俺にまたヒールを掛けてくれた。

「ありがとう」

そう言って立ち上がり、俺を見てニヤニヤ笑っているスカラートを指差し、ダルニエルに向かって。

「このエロ爺が?」

「ああ、私の師匠、剣聖スカラート殿だ」

「剣聖か、剣を持たない剣聖相手に手も足も出ないってか」

「エロ爺でも剣聖か」

「ガーネット、失礼ですよ」

「アシャ姉ちゃんも、お尻さわられたんだよ? 剣聖様の方が失礼だよ」

そう言ってケーナはお尻に手をやって隠すようなしぐさをする。

「わしは、子供の尻に興味は無い。後15年ほどしたら考えんでもないがの」

「スカラート様」

「お爺ちゃん」

ファーシャとターニャが呆れたようにスカラートに声をかける。

「お前さん達もじゃ、あと10年は必要じゃな」

「剣聖って称号を得るには人格関係ねえんだな?」

ダルニエルに尋ねると。

「剣に向き合う姿は、正に聖人だぞ師匠は」

「でも女の尻に向き合うと、とりあえず手が出ちまうって事か、やっぱり人格関係ねえんだ」

「失礼なガキじゃな。女の尻の良さも分からんくせに人の人格云々ぬかすな」

「タケルだ。俺は女の人は尻より胸の方が好きだ! 尻が嫌いな訳じゃねえけどな、特にさっき随分好きになった気がする」

「タケルさん!」

更に顔を赤くしたアシャさんに叱られた。

「タケルか、面白いな。もう弟子は取るつもりは無いのじゃ。弟子にとは言わん、少しワシの所で修行してみんか? お前さんの流派はわからんが、ウチの流派と共通するものが有るようじゃ。ウチで言えば奥伝の半ば過ぎと言った所じゃな」

「あー、俺の所じゃ奥伝の2段だったんだけど、このところ少しは上達してるような気がしなくもねえ。もっとも、奥伝と言っても具体的な技が無い。気を練り全てを飲み込み無となれ、さすれば振るう全てが技となる。訳が分からねえんだよな。師匠は死んじまったし、師範とももう会えねえ。正直これからどうすりゃいいかわからねえ」

「ほー、気を練る、か。・・・・・なるほど。うちの場合は魔力じゃな。魔力を操るんじゃ、さっきは秘伝まで使って見せたんじゃが、わかったか?」

「急に速度と威力が上がったよな? それに・・・急に攻撃が分からなくなった。そうそう、腕の力が消えたのもそうか? どうやるのか全くわからねえ」

「奥伝を修めれば、対人戦では負ける事はほぼ無い。・・・と言える」

「でも、ウチのに似てるなら奥伝なんて人と戦う事を前提とした技だろ? 魔物と戦うだけなら俺の流派も奥伝いらねえし」

「まあ、その通りとも言えるし、そうでは無いとも言えるな」

ん? ウチの場合は人間しか相手がいないから仕方がねえけど、こっちには魔物が居るんだ。対魔物との戦闘って考えた場合はこのままやっててもな。

「秘伝は魔物と戦う技じゃ、自分の身体強化と相手の魔力を散らす技じゃな」

「ん? 攻撃の気配を感じられなかったのは?」

「あれは、奥伝の最後じゃな。自分の魔力を完全に制御できるようになればああなる」

「おいおい、まだ修行を受けると言ってもいない俺にそんな事まで教えていいのかよ?」

「そうです師匠。弟子である私はそんな事を教えてもらっていません」

「ダルニエルのレベルじゃそんな事聞いてもどうしようもない。タケルのレベルに来ていれば、こんな事聞かずともいずれ出来るようになる」

魔力を操る・・・か。向こうの気に該当するのが、魔力って事か?

「まずは」

まずは何からやるんだろ? 組み手はさっきやったから、俺の実力はわかってるよな。

「説明からじゃな」

「へ? 説明? 普通は技は見て盗めとか感じるんだとかじゃねえの?」

「見て感じて? やり方に関してはそうじゃが、何となく理屈がわかったつもりになった方が覚えやすいんじゃよ、出来ると信じてやれば出来るようになるのも早いじゃろう?」

「いや、あの動きを見せられたら何言われても信じるけどな」

「師匠、私達も一緒でよろしいのでしょうか?」

「あーかまわんかまわん。聞いてからの方が分かりやすいってだけじゃしの。あくまで想像の域を超えない話じゃ」

「はあ」

何となく釈然としない顔だがダルニエルも納得はしたようだ。

「さて、冒険者のクラスが上がってくるとそいつは強くなっていく、Aランクともなれば人間の限界なんぞ超えておるヤツなんぞゴロゴロしとる。そいつらは、無意識のうちに魔力による身体強化をしておるんじゃないかと言う事じゃ。人間誰にでも魔力は有るんじゃが魔術を介さずに意識して使う事は出来んのじゃ、しかし、指1本動かすにも魔力無しには出来ない。体を動かす時にはまず魔力が動く、意識が向いた所に反応するんじゃ・・・・・多分な」

それを聞いた俺は。

「え? 身体強化の魔術なんてないよな?」

「魔術じゃ無いぞ。呪文や魔法陣のような決まりきった構文で制御できるほど人の動きは単純じゃないんじゃからな、じゃから皆が無意識にやっとるこなんじゃよ」

「無意識に魔力をねー」

「タケルなら、人の気配なんぞ簡単につかめるじゃろ? それは、魔力を見とるんじゃよ。多分な」

「多分かよ」

「ワシは、武闘家じゃ研究者ではないのでな。そう考えるのが一番しっくりくると言う事じゃ」

「なるほど、攻撃される場所がわかるってのは、相手が狙った場所に魔力の道筋がはしるそいつを感じるってことか」

「そうなるの。しかも無意識じゃからの。魔力の道筋は隠せんのじゃよ。そいつを意識的に表に出ないように制御出来るようになれば奥伝の習得と言う事じゃ」

「しかし、魔力の道筋なんてどうこうしようったって、無理なんじゃねえか? だいたいそう考えないと説明出来ないって言ってもな。魔力だろ? そんなもんで身体強化とか、爺さんが単に化け物みてえに強いだけなんじゃねえのか? まあ、それっぽいもんは感じるけど、ウチの流派じゃ気って言ってるぞ」

「化け物は言い過ぎとしても、師匠が強いだけと言われた方が納得出来ます。魔力を現象に転換させるのが魔術のはずです。魔術の仲介なしに魔力で何かすると言われても」

ダルニエルが言う。

「ふん。お前達ランドドラゴンを知っておるじゃろ?」

「ああ、フィフスホーンしか見た事ねえけどな」

「ああ、タケルはフィフスホーンを追い返したんだったな」

「俺じゃねえよ、ケーナのおかげだ」

「何だと、ケーナたんのおかげだと」

話がそれそうになった所にスカラートが。

「続けるぞ。シングルホーンからフィフスホーンまであれだけ体の大きさが違うと言うのに、なぜ全部ランドドラゴンと言われるかわかるか?」

と言って俺達全員を見渡す。

「何を当り前の事を、と言った顔じゃな。あいつらは全部同じ体型をしておる。だから、全部ランドドラゴンと言われる訳じゃ」

「それは当り前なんじゃないですか?」

アシャさんの言うとおりだ。

「それが当たりまえじゃないんじゃよ、お嬢ちゃん。いいかね? シングルホーンとフィフスホーンじゃ体の大きさが5倍も違うじゃろ? 体の大きさが5倍って事は体重は5の3乗つまり単純に言うと125倍になる。じゃが体型が変わらないと言う事はじゃ、その体重を支える骨や体を動かす筋肉は5の2乗の25倍の太さにしかならんと言う事じゃ下手すりゃ立つ事も出来ないじゃろう」

なるほど、125倍になった体重を支え、しかもあれだけのスピードで動くには当然太い足にならなきゃおかしい、同じ体型で有る筈が無いってことか。

「あいつらは、筋肉や骨なんかの身体強化をしとるんじゃ、身体強化で骨が強くなるだけじゃ無く鱗も硬くなる。死んだランドドラゴンは解体出来ないほど硬くはない事からもそれは間違いないじゃろう。そして魔物は魔術なんぞ使わん」

なるほど、刀が全く通らなかったもんな。

「魔核の魔力を使ってると考えるのが妥当じゃ。ワイバーンや鳥型の大型魔獣もあんな大きさの翼じゃ飛べるわけ無いじゃろ? 体重の増え方に対して翼の大きさが追い付いていない。あやつらも体型が変わっとらん。じゃから魔力を使って飛ぶんじゃろう。呪文などなくともな」

「人間は魔核を持って無い。魔物と同じ事は出来ないんじゃないか?」

「出来んな。じゃが魔力は有る。魔力を練り自由に使えるようになれば似たような事は出来るんじゃないかと考え、実践したのがワシの流派『魔闘流』じゃ。もっと凄い事も出来るんじゃぞ」

「凄い事?」

「ああ、自分の魔力を使って自分を強化するだけじゃ無く、相手の魔力を散らす事も出来るようになる」

「そんなバカな事が・・・・・・あ」

「やってみせたじゃろ?」

確かにそうだ。スカラートはやっていた。

「魔力の流れを把握するのが奥伝、魔力を意識して操るのが秘伝じゃよ。無意識にやるのとは比べ物にならんくらいの強さじゃ」

「確かにさっきは、目で追えないほどのスピードだった」

「魔術は魔力の制御をするための技じゃが、魔術では制御出来んほどのスピードで動くにはに魔力を直接制御すれば良いだけじゃ」

「良いだけって、その『だけ』が出来ねえから魔術を使うんだろうに」

「無意識では似たような事をやっとるんじゃ、それを意識して可能にするのが修練じゃよ。弟子の誰もそこまで行ったヤツはおらんがな。タケルなら行けるじゃろう」

「買いかぶりだ、俺のここには魔核なんて入って無いぞ」

胸を指差しながら言う。

「当り前じゃ、そんなもんわしにもないわい。魔核がありゃ話はもっと簡単じゃよ」

「そりゃそうだ」

「どうじゃ? きっかけだけでも掴んでゆけ。別に弟子になんぞならんでもええ」

「今は自分なりの修練しか出来てないから助かるけど。なぜ、そこまでしてくれるんだ? あんたにメリットがねえじゃねえか」

「そうでも無い。なんせ、自分が幾ら修行して強くなっても自分とは戦えんからな。自分と同じ技を使う人間と戦ってみたいんじゃよ」

この爺さんとんだバトルジャンキーだ。でも、祖父ちゃんが見ていた場所まで行ってみたいな。

「そう言う事なら修練させたもらいたい。よろしくお願いします」

そう言って立ち上がると頭をさげた。

「よーし、さっそく始めるぞ。試合じゃ試合じゃ」

何だか嬉しそうに木剣の方に歩いて行く。

「ちょっと待ってくれよ、師匠。もう座学は終わり・・・ですか?」

「ん? 今の話で何となく自分にも出来そうな気になってきたじゃろ? その気持ちが大事なんじゃ。お前は弟子じゃ無いんじゃ爺さんでええぞ。敬語もいらん」

「確かに、出来そうな気はしてきた。でも、修練の方法と言うか、あれをどうしろとか、ここをそうやれとかは?」

「最初に言ったじゃろ? やり方は見て感じるんじゃと」

「ああわかった。ちょっと俺に木剣いじらせてくれねえか? 練習用の道具を作る。思い切り剣を振った方が良いだろ? 当てっても怪我なんかしねえ魔道具に仕立てる」

「当たれば大怪我をするかもしれん緊張感が必要な人間もおるんじゃが、まあ、タケルはもうそう言うレベルでは無いじゃろうな」

スカラートの使うバスタードソードタイプと、自分用の刀タイプの木剣を作り使い方を説明する。

「さーて、行くぞ!」

「おう!」

道場の中央で見合った俺達は剣を交える。


『ゴロゴロゴロ』

「だーーー!」

俺が壁に向かって転がされながら叫ぶと

「少し休憩じゃ、もう歳じゃてな、長時間の魔力の行使は疲れるわい」

スカラートは言うが、稽古を始めて1時間以上経ってるぞ、十分長時間だ。

「ふーー!」

俺は壁にもたれかかって大きく息を吐く。疲れたー、剣によるダメージは無い、打たれるたびにヒールがかかるからな、でも剣激によって転がされる事によるダメージはスタミナを奪う。

「タケル兄ちゃんが面白いように転がってるね」

「面白いだろ? 見てる分にはな。ケーナも転ってみるか?」

「ううん、あたしはいい」

「しかし、店長があそこまでやられるとはな、さすがは剣聖と言う事だな」

さっきまでダルニエルと打ち合っていたガーネットが言う。

「どうだいダルニエル。ガーネット良い動きするだろ?」

「うむ。騎士出身だからだろう特有の癖は有るが、Eランクの強さでは無いな」

「ねー、ダルニエルさん。今度はあたしとやろう」

「え? ケーナたんと? ケーナたんはタケルに習っているのか?」

「うん! ゴブリンになら勝てるよ」

「よし、見てあげよう」

「ダルニエルの方が教えるの上手いかもな」

と言うより、俺は人に教えるのはケーナが初めてだしな。ガーネットには教えると言うよりチョットしたアドバイス程度のことしかしていない。

「どれ、タケル再開しようか」

「え? もう少し休みてえんだけど」

「ん? そうか? だったらワシはお嬢ちゃんの尻でも」

「さあ、始めようか!」

皆まで言わさず立ち上がって爺さんを促す。

「ほっほっほ、どっちでもいいんじゃがな。わしは」

「俺は修練したいんだよ」

俺じゃ爺さんの動きに付いていけねえからな、アシャさんの尻はまもれねえ。

「ほっほっほ、さすがその若さでそこまで出来る男は違うの―。熱心じゃのう」

「ぬかせ」

「その熱心さに報いてやろうかの。自分の魔力は感じられるようになったか?」

「自分の魔力はわからねえ。爺さんの魔力は感じられる、いいや、見えるようになった」

たぶん、俺に見えるように操ってくれているんだろうな。全身を包むような何かが見える。ただ、俺を攻撃してくる魔力は俺の体に入ってくるところでないと見えない。

「見えるようになったけど、攻撃は爺さんの早い動きじゃ避けられないくらい近くに来ないと見えない」

「見えるようになったか。自分の魔力は心臓から血管を伝って全身をくまなく覆っている感じなんじゃが? もっともこれはワシのイメージじゃがの」

心臓から血管を伝わってか。俺は目を閉じて自分の体を探ってみる・・・・・・。心臓なのか? だーめだわかんねえ。でも、こう言う時は丹田とかじゃねえのか? たしか、へその下あたり。・・・・・だーめだやっぱりわかんねえ。んー・・・・・。イメージねえ。魔核はねえんだから、心臓はねえんじゃねえか?だいたい、血液の流れる速度なんてそんなに早くねえんだから、そこを流れるって言われても早いイメージが湧かねえ。丹田って言われたって、そんなもん信じられねえ、だいたいへその下辺りって魔力と関係有るとは思えねえし。そんな事を考えているからわからねえのかな? ・・・・・イメージねー。頭から神経経路を通るって言われた方が、スピード感有るよなー・・・・・・。イメージなんだよな、だったらそのイメージで行ってみるか。お?

「おー、見える! 見えるようになった!」

「え? 嘘じゃろ? もう出来るようになったのか?」

「嘘って何だよ。出来ると思ったから言ったんじゃねえのかよ」

「言われただけで出来たら苦労せんわい。ワシがそこまで行くのにどれだけ時間がかかったと思うんじゃ! ワシの時間を返せー!」

「返せる訳ないだろうが!」

爺さんは、ガックリと項垂れトボトボとアシャさんの方に向かって歩いて行きよろめいた。

「あ、大丈夫ですか」

思わず支えようとしたアシャさんの差し出した手をかいくぐるようにして、抱きついた。

「え?」

胸に顔をうずめ、両手をお尻にまわした。

「きゃー!」

突き飛ばそうとしたアシャさんから、素早く離れると。

「タケルの言うようにオッパイも悪くは無い。しかーし! 尻にはかなわん! と言わせて貰おう」

爺さんは、無茶苦茶良い笑顔で俺に言った。

「じじーい!」

俺は、爺さんに突っ込んで行った。


『ゴロゴロゴロ』

「だーーー!」

俺が壁に向かって転がされながら叫ぶと

「少し休憩じゃ、もう歳じゃてな、長時間の魔力の行使は疲れるわい」

「嘘付くんじゃねえ。さっきより魔力量絞ってたじゃねえか」

「ほー、そこまでわかるようになったか。よしよし、いい感じじゃのう。今まで何となくしかわからん状態で長い間くすぶってたんじゃなー。コツを掴んで一気に来たってところか」

「いい感じねー、攻撃箇所がわかるのがあんなに至近距離じゃ結局爺さんのスピードに着いていけねえじゃねえか」

「あー、そこな。相手の魔力が自分の魔力にさわったところで攻撃がわかる訳じゃ。つまり、自分の魔力に相手の魔力が干渉する場所を相手に近づければ」

「んー。つまり爺さんまで自分の魔力を伸ばすって事か」

「正解じゃ。そうやって自分の魔力を操作出来るようになれば」

自分の魔力を自在に扱えるようになれば自分の身体強化もできるようになるって事か。なるほど、そうやって段階を踏んで覚えるってことね。

「まあ、その辺の所は、また明日じゃ。年寄りにはこれ以上はキツイでな」

俺達は道場を後にした。


「ケーナたんは筋が良いな。修練を始めてからの時間を考えると上達が早いな」

「えっほんと? あたし強くなれるかな」

「ああ、このままいけば数年で一流の剣の使い手だ。私が保証しよう」

「えへへへー」

「ガーネットはスピードがある。そこを伸ばせば人間だろうと魔物だろうと相手を選ばず戦える」

「スピードか、店長にはまだまだ追いつけないがな」

「タケルは特別だ、修行で更に早くなりそうだしな」

「そうだな。しかし、自分もこのままでいるつもりは無い」

「おじいちゃんは相変わらずだったわね」

「スカラート様は、これからもずっとあのままでしょうね」

などと話す皆の後をふらつきながら俺が付いて歩いている。あの爺さん年寄りにはキツイとか言っていたが、ああ言ったのは俺の体力が限界にきていたからだ。剣についてはダルニエルが言うとおり、『剣に向き合う姿は、正に聖人だ』なんだろう。しかし、今日は驚いた。あんな事が出来るようになるなんてな。

「タケル兄ちゃんもそれで良いかい?」

「は? それって、どれ?」

「店長聞いていなかったんですか? 一度戻って着替えてから皆で食事をしようって話してたんですよ」

晩飯か。

「あー俺は遠慮するよ。体力が限界だ。晩飯まで起きていられる自信が無い。今だって足元がふらついてるしな」

と言ったタイミングで足がもつれた。

「タケルさん大丈夫?」

アシャさんが慌てて俺を支えてくれた。やっ柔らかい。すんげー柔らかさだ。腕に当たる部分がもの凄く素晴らしい感触だ。ここ最近で一番の我慢強さを発揮し。

「あ、ありがとうアシャさん。もう平気だ」

と言って、しっかりと立ち、アシャさんから離れた。今日はアシャさんとのスキンシップが凄い。素晴らしい! 素晴らしいが、もう限界だ。眠い。

「あー、そうだ皆明日はどうするんだ? 俺は師匠の所に行くけど。皆も来るならまもーるくん持参で来てくれ。ダルニエルはディフェンダーな。せっかくだから、試してみよう」

「ああ分かった」

「スカラート様の前であの格好?」

「あのエロ爺の前であの格好か」

「私達は持って行かなくても良いんじゃないですか?」

「あたしもそう思うよ」

「あのお爺ちゃんの前であの格好をするのが2人だけってのはちょっと嫌ね。みんなで使いましょうよ」

「「「「「はー」」」」」

どうやらみんなで着る事にするようだ。

「師匠は俺の相手をしてくれているから平気じゃね?」

「「「「「甘い!」」」」」

まあ、あれじゃ信用されないわな。そんなこんなで、宿に着いた。ダルニエル達は屋敷に戻ってから宿のロビーで合流だそうだ。俺は自分の部屋に入るとベッドに倒れ込んで、深い眠りに着いた。



翌日はほぼいつも通りの時間に目が覚めた。

「んーー。よし。疲れは残ってねえな」

隊長を確認するが、まあ万全だ。とりあえず風呂に入ってさっぱりしてから飯だな。昨夜はあのまま寝ちまったからな。剣聖か、武術に関するところはすげえ人だったよな。性格はアレな所もあるが、それほど嫌なわけでは無い。アシャさん達の尻をさわったり、胸にさわったりしたが・・・・・・、何だか思い出すとちょっとムカッとするか? などと考えつつ準備を終え食堂で皆と合流した。食事の時の会話で。

「昨夜食事中に他の冒険者達のうわさを聞いてギルドに確認して来た。例の受付達に処分が下った。本人は停職3カ月だそうだ。更にギルド長、副ギルド長、受付統括共に減俸2割を3カ月。妥当な処分なのかは置いておくとして、店長に連絡が来ないと言うのはおかしいのではないか」

「ん? 来ねえんじゃねえかな? 俺あの時に依頼が完了扱いになればかまわねえみたいな事言った、ような気がするし。あのエルフの処分とか全く興味ねえよ、報告されてもヘーソウデスカって感じだ。ギルド的にけじめを付けようとどうしようとかまわねえ」

「そんなものか。フフ店長らしいのかもな」

「店長って自分に害が無ければ大抵の事は気にならないんですか?」

「俺だけじゃねえよ。俺達にだな」

「「「フフフ」」」

そんな事を話しているところにダルニエル達がやってきた。朝飯を食い終わっていた俺達は、ディフェンダーを改造してから道場に向かった。


しばらく歩いて道場が見えるところまで来ると。

「あー、急用を思い出した。俺帰るわ」

「何言ってるんだい、タケル兄ちゃん。ここまで来て帰るなんて」

「そうだぞ、タケル。師匠が稽古を付けてくれると仰ってるんだ。どんな急用が有るか知らんが後にしろ」

「あれを見ろよ、厄介事の匂いがプンプンする。面倒事は御免だ」

「さすがだな、店長だてに厄介事にばかり巻き込まれてはいないな」

「そうですね。店長には厄介事が付いて回ってますよね。いっつも解決方法は過激だし、実は楽しんでますよね?」

「アシャさん、楽しんでる訳ないだろ。平穏な生活が好きなんだぞ俺は」

話しながらも師匠の家に近づいて行くと。門を挟んで身なりの良い男と、師匠が話している声が聞こえてくる。

「ワシはもう弟子は取らんよ。何時お迎えが来るかも分らんからの、弟子なんぞ取っても中途半端になってしまっては申し訳ないでの」

「そんな事仰らずに、是非弟子にしてください。弟子にすると仰って下さるまで私はここを動きません」

と言って身なりの良い男は門の前に座り込んだ。それを見て立ち止った俺は。

「ほーら、門の前に邪魔な物が有って入れないじゃーないか。さあ、帰ろう」

もうかなり門に近づいていた俺の声が聞こえたんだろう。座り込んだ男は俺達に顔を向け喋っていた俺を見た。

「あーあ、目が合っちゃったよ」

俺は小声でつぶやいた。

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