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漢として

「きゃーーーー! キャーーーーー!」

受付のエルフは叫び続けている。俺達は垂直に近い角度で急上昇している。それにしても耳元で叫びやがって、あーうるせえ。

「うえるせえ! 口を開けてると舌を噛むぞ!」

耳元で大声で叫ぶ。

「え?」

とりあえず、悲鳴を上げるのを止めた処で。

「気絶すんなよ!」

そう言って、今度はとべーるくんを蹴り上げターンを決める。そうして緩い螺旋を描きつつ降下に入る。

「ひっ!」

息を呑む声が聞こえるが、無視したまま地面に向かって降下することは止めない。俺達を見つめたまま大口を開ける冒険者達の顔が急速に近づいてくる。

「よっと」

掛け声を掛けながら上昇用の魔石に魔力を流し地上2m程の所で水平飛行に移る。

「もう少し付き合ってもらうぞ!」

冒険者達の頭上を舐めるように飛び過ぎると街の門が見えてきた。このまま街の外に出ちまうのは拙いか? そう思った俺は、斜め左に上昇し街の外壁の上端にとべーるくんの底を擦り付けそのまま、10m程横に滑る。速度が落ちた所で上昇用の魔石に魔力を流し、壁から離れ冒険者ギルドに向かってターンする。今度は高度5m程で全速力で飛行する。

「これはサービスだ!」

そのままリストバンドに魔力を流しっぱなしにし、速度を上げさらに先端を上に向け、宙返りに入る。そして宙返りの頂点で上下を180度入れ替え水平飛行に入る。そう所謂インメルマンターンだ。水平飛行に入って直ぐに、抱えていたエルフを振りまわし、3回捻りを加える。捻り終えてから、また、180度上下を入れ替えると頭を下にしたまま、とべーるくんの先端を上に向け、つまり地面に向かって宙返りを始める。こっちはスプリットS。インメルマンターンと同様に空中戦のテクニックだが、地面に向かって突っ込んで行く為にとべーるくんでやるにはスプリットSの方が難易度は高い。

「ぎゃーーーーーーーっ!!」

再び叫び出すが、ターンが終わって水平飛行に移ってから、緩い螺旋を描き馬車の方にとべーるくんを向ける。そのまま降下して馬車の真横に着地した。エルフを解放すると、彼女はその場にへたり込んでしまった。

「なーんだ、腰が抜けたか? 根性がねえな」

彼女は怒りを込めた目で俺を睨むと。

「こんな事が、何の証明になるんですか! ただ飛んだだけじゃないですか!」

空を飛んだ経験がある奴なんかめったにいないと思うし、なかなかのテクニックだと思うんだけどな、それをこんな事呼ばわりか。

「そうさ、ただ飛んだだけだ。だけどな、今みたいな空中戦闘機動が出来れば、ワイバーンなんか簡単に落とせるんだよ」

「何を言うんですか! まるで1人でワイバーンを倒したような事を言って。ワイバーンを1人で倒すなんて非常識な事出来る訳がありません」

「いいや、ワイバーンを落とすなんて俺1人で十分さ、ただし、ワイバーンを運ぶのには仲間の力が必要になるって事だ。信頼できる仲間とならクラスなんか関係ねえんだ。だいたいさっきも言ったがな。誰の常識なんだよ」

「誰のじゃないわ! 一般常識なのよ! ワイバーンはBクラスの魔物なの! そんな事を1人でなんて、Aランクの冒険者だって出来っこない。あなたは唯のCランクなのよ出来る訳が無いわ! それに、万が一討伐出来たとしても、生き胆は直ぐに腐ってしまう。魔の森からシュバルリまで運んだって、何の意味も無いじゃないの。あの依頼なんて完遂出来るはず無いのよ!」

それを聞いていた冒険者達が同意するように頷いている。

「ワイバーンなんて、ちょっと大きな羽の生えた蜥蜴だろう? あんな物を討伐するなんて何の苦労もねーよ」

俺の、羽の生えた蜥蜴発言で周りの連中からざわめきが起きる。

「生き胆が直ぐに腐って、使い物にならなくなっちまうってのは、それこそ常識なんだろ?」

そう言った俺は、馬車のシートをめくりながら。

「だから、わざわざ生け取りにして来たんじゃねえか」

シートの下から現れたワイバーンは。

「ガーーーー」

幾分勢いは落ちているが、元気に吠えた。俺達を囲んでいた人の輪が大きく広がった。目を大きく見開き口をパクパクと開け閉めした彼女の前に膝を折り目線を合わせた俺は。

「俺はガーゼルのタケル。意外と強いんだ」

そう言った。彼女は俺がギルド関係の表示しかしなかったカードを見てパーティランクだけで、俺達には依頼を完遂する能力が無いと判断したんだろう。ワイバーンはソロで倒せる魔物では無いから俺がCランクだとかは気にしなかったんだなきっと。勇者なんてステータスが見えちゃ恥ずかしいからステータスは表示しなかったからな、フェンリルバスターだとは気付かれっこないしな。

「ガーゼルの英雄・・・・」

「フェンリルバスター?」

「フィフスホーンを1人で追い返したって聞いたぞ」

「災害級の魔物の氾濫を1人で防いだヤツがこんなガキなのか・・・・」

そんな言葉が聞こえてくる。そんな中、人混みをかき分けて男が1人俺達に近づきながら。

「何の騒ぎだ! 街のみんなに迷惑掛けるんじゃねえ!」

誰だこのおっさんは? 40? いや50代位か? やけにガタイの良いおっさんだな。

「ん? 誰だお前? お前がこの騒ぎの原因か、なんだそのワイバーンは? 何の真似だ。あんまりふざけた真似をすると磨り潰すゾ!」

そう言われた俺は。

「俺は、ガーゼルの冒険者でタケルだ。この受付の婆さんが、俺が提出した終了証を破り捨てて、詐欺師呼ばわりしやがったからな、証拠を見せてただけだ。で、あんたはナニもんだ?」

「ほー、お前があの・・・・・なるほど。俺は、このシュバルリの冒険者ギルドのギルド長のアスタックってもんだ」

そう言ったアスタックは、座り込んだエルフに向かって。

「テラピア。タケルの話は本当か?」

「・・・・・・はい、本当です。ワイバーンの生き胆を取ってきたなどと言うものですから・・・・・」

「ふむ、まあ普通ならその反応もしかたねえか。フェンリルバスターの実力を持ってすればこれくらいは造作もねえ事だった・・・か?」

「はい」

頷くテラピアを見てから、アスタックは俺の方を振り向いて。

「うちのモンが迷惑をかけたようだな。すまねえ」

「まあいいさ、証明は済んだ。嘘をついてねえ事がわかってもらえればいい。それにテラピアの冒険者に対する気持ちには共感できる所もあるからな」

アスタックは俺の肩をバシバシと叩くと。

「はははは! さすが、エメロード婆さんの秘蔵子だ。心が広いなー」

「いてえ。いてえって!」

アスタックから逃げた俺は肩をさすって。

「いってえなー。ギルド長のわりには元気じゃねえか。まるで現役だぞ」

「鍛え方が違うからな。がーはっはっはー」

豪快なギルド長だなー。

「よし、それじゃ手続きしするから中に入れ。テラピアたむぞ」

「はい」

アスタックは周りを取り囲む冒険者達にむかって。

「ほら、お前達も解散だ! こんな所で周りに迷惑だろうが!」

そう言われギルドに戻って行く者、街中に消えて行く者と行動はそれぞれ移動を始める。俺達に興味を持っている奴らが多いようだ、好意的なものから良からぬ事を考えているようなものまで様々な視線を感じながら俺たちもギルドに戻って行く。

「タケル兄ちゃん。行動が過激すぎだよ」

「そうか? あの位やらなきゃ解ってもらえないじゃないか」

「いえ、いくら相手の態度が失礼でも、いきなり抱え上げて空に連れ去るのはどうかと思いますよ」

「そうだな、あれはやり過ぎだ」

「そうか? あー、空の上で漏らされたり、吐かれたりしたら大変な事になってたかも知れねえな」

俺が言うと、テラピアは俺を振り返り。

「そっ、そんなことはしません!」

顔を赤らめて叫ぶ。

「そうか? ちょっと大人しい飛び方だったかー。機動が足りなかったかも・・・・・。しょうがねえよな、人を1人抱えてたんだ。俺1人ならもっと過激に動けたんだ。気を使っちゃったよ。気づかいの出来る男なんだ俺」

「あんな事をする時点で全く気を使ってなどいません!」

テラピアが突っ込む。

「だって、あんた、俺の話だけで納得したか? しねえだろ。だったらやって見せるのが手っ取り早いじゃねえか」

「ワイバーンを見せるだけで良かったはずです!」

「いーや違うね。あれを見せただけじゃあんた納得しなかったと思うぜ。1人でワイバーンを狩る事なんか常識では考えられない。どんなイカサマを使ったんだとか何とか言いそうだ」

「そっ、そんなことは・・・ありません・・・」

心当たりが有るんだろう。テラピアは言い淀む。

「ほーら。どうせ、その後に飛ぶことになったんだろうから順番が変わっただけじゃないか。途中であったに違いない問答が無くなったんだ無駄な手間がはぶかたじゃねえか」

「うーー」

テラピアは反論出来ないようだ。

「ふっ、勝ったな」

「「「勝ったな、じゃ無い(ありません)!!」」」

3人のパーティメンバー達に声を揃えて反論された。

「俺何か間違ってるか?」

「ギルドと余計なトラブルを起こすことは得策じゃありません」

「そうだ、関係を悪くして良いことなど何も無いぞ、店長は少し反省した方がいい」

アシャさんとガーネトが言う。

「俺に反省する所が有ったとは思えないんだが」

「タケル兄ちゃん。反省って言葉しってるかい?」

「ケーナまで変なこと言うなよ。知ってるさ、俺は反省の無い人生を送りたいと常々思っている!」

「「「「そこは、後悔だ(です)!」」」」

テラピアも含めて、4人の声が揃った。

「そうとも言う。ってか俺、今後悔って言ったよな? な?」

4人の視線が揃って冷たく感じたが。気にしないことにして。

「あー、ほらほら早く手続きしちまおうぜ。グズグズしてると・・・・」

「タケル殿待たせてしまったな」

「タルートさんが来ちまうって言おうとしたんだけどなー」

「誰のせいだと思ってるんだい。タケル兄ちゃん」

「え? テラピアのせい?」

「へ?」

絶句するテラピアに向かって。

「残念だが、待ち人が来ちまった。急ぎの用があるんだ。手続きは後回しだ」

と言うと、タルートに向かって。

「作業場に案内してくれ。少しでも早く楽にしてやらないとな」

そう言ってギルドを後にした。


「そう言えば、このワイバーンだけどさ。ガーネット、止めを刺すかい?」

おはなしくんを使ってライの引く馬車の御者をするガーネットに話しかける。

「止めを? 自分はかまわないが、今の店長の言い方は何だか含みが有りそうだな?」

「タイトルが手に入るかも知れないって、タルートさんが言ってたじゃないか。ちょっと試してみたくないか?」

「無いな。試したらタイトルが付きました。なんてのは御免だからな。そんな風にして付いたタイトルなど必要ない」

「え? 何かの時に役に立つかも知れないじゃないか。どうやって付いたタイトルかなんて他人には分かりっこないんだし、ラッキー程度に思えばいい。だいたいタイトルが付くがどうかもわからない」

「他人には分からなくても自分が知っている。自分に嘘をついてまで付けたいタイトルでも無いし、タイトルならいずれ自力で取ればいいさ」

「そうか? じゃあケーナかアシャさんどお?」

「ガーネットの話を聞いた後にでは自分が、と言えるほど厚顔ではありませんし、わたしはヒーラーですからそもそもそんなタイトルは必要ありません」

「あたしもいらなーい」

「ケーナ遠慮はいらないんだぞ。アシャさんだって、戦うヒーラーとかかっこいいじゃないか?」

「いらない」

「いりません」

「そお?」

そんな話をしているうちに。

「タケル殿ここだ。この解体屋で肝を取り出す」

タルートから声がかかった。


ワイバーンの肝を取りだし、タルートがそれを持って薬師の所に向かう事になった。俺達が同行するのはここまでにした。魔核や残りの素材の取引を解体屋に任せる事にした。金はギルドの口座に振り込まれることになる。俺は分かれ際に。

「タルートさん。ダルニエルはいるのかい?」

「ああ、ダルニエル殿達も屋敷に戻っておられる」

「落ち着いたら会いたいって伝えてくれないか。少しこの街で休暇を取るからさ。宿は後でギルドに伝えておくよ」

「了解した」


解体屋を出た俺達は宿に向かう事にする。アシャさんが以前使った事が有る宿に行くことにした。

「タケル兄ちゃん。どのくらい休暇にするの?」

「そうだなー、ここの所忙しかったしな。1週間ってところかな?」

「美味しい物食べに行きましょうね、ケーナちゃんアインも」

「「うん(ウン)!」」

「俺は?」

「店長はダルニエル様達に用事が有るのでしょう?」

「そう言えばそんな話だったな。何の用事なのだ?」

「ん? 渡す物が有るんだよ。ダルニエルのディフェンダーの改良パーツが出来上がってるから渡したいのさ。それにターニャとファーシャのまもーるくんも作ったからな」

「えー。タケル兄ちゃん、あれを渡すの? ターニャ姉ちゃんとファーシャ姉ちゃんに? 2人とも王女様なんだよ。あんな格好する訳無いじゃないか」

「あんな格好ってどんな格好だよ。失礼だな」

「あれを王族の方々に着せると言うのは自分も賛成出来んな。下手をすれば不敬罪だぞ」

「不敬罪とか言い出す奴らじゃねえぞ、この国の王族は。それに、あいつらに渡すのはガーネットが使ってるビキニアーマーでもケーナのスク水アーマーでもねえぞ。アシャさんが使ってるヤツの色違いだアシャさんのは真っ白だろ? ターニャのは朱色、ファーシャのはエメラルドグリーンだ2人とも後衛だから、ビキニアーマーほどの軽快さはいらないだろう」

「店長、王族の方々にあいつらは無いんじゃないですか? それに、私のまもーるくんだって・・・」

「だって?」

「あしゃノモ、結構キワドイでざいんダッテコトダヨますたー」

「えー、あのくらいじゃないと俺が楽しくないじゃない・・・・・・か」

ヤバイ、つい本音が。

「「「へー楽しいんだ(ですね)」」」

「あー、・・・・・・仕方ないじゃないか! 彼女いない歴イコール年齢なんだぞ! あんな格好をしてくれる人なんて居なかったんだから・・・・・。でも、動きやすさを重視してあのデザインにしたってのも本当なんだ!」

「店長さみしい人生だったんですね」

アシャさんに言われた俺は崩れ落ちるように床に両膝をつき、前に倒れ込む上半身を両手で支えると。

「おーあーるぜーっと」

言わずにはおれなかった。



翌日シュバルリの街を観光しながら食べ歩きを終え宿に戻った俺達が、各々の部屋でくつろいでいるとドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けるとそこにはダルニエル達が立っていた。

「よお、ダルニエル久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだ。タケルには世話になった。ありがとう」

と言って頭を下げるダルニエルに。

「おいおい、俺は受けた依頼を完了しただけだ、礼を言われるような事じゃないだろう?」

「いやいや、依頼を完遂出来る冒険者などタケルしかいないのだ。いくら感謝してもし過ぎって事は無い」

「そう言うもんかね」

「そう言うものだ」

そこにターニャが。

「廊下で立ち話してると、迷惑になるわよ」

そう言われた俺達は、女性陣の泊まっている部屋に移動した。俺は寝られればどんな部屋でも良かったので普通の1人部屋だが、彼女たちはせっかくの休暇を楽しむ意味でチョットだけ良い部屋を取っていた。4人部屋で寝室の他にリビングが付いている。

「ケーナたん久しぶりだな、元気にしていたか?」

「うっうん、あたしは元気だよ」

ケーナたんと言われるのが恥ずかしいのか少し引き気味にしているな。するとファーシャが。

「タケルさん、知らないうちにパーティメンバーが増えたんですね。紹介して頂けませんか?」

「ああ、そうだな。自己紹介で良いよな」

「はい。ではわたしから。ファーシャです。冒険者パーティ「黄金の翼」のヒーラー兼エンチャンターです。よろしくお願いします」

「私はターニャ、魔術師よ」

「ターニャに変な事をすると燃やされちゃうから気を付けるように」

俺が注釈を加えると。

「タケルのような失礼な事をしなければそんな事はしないわ」

こいつしれっとして言いやがった。

「私は、ダルニエル。パーティリーダーをしている」

「なと、この国の勇者様だ」

「タケルのおかげで勇者になれたが、本当の意味で勇者になれるように日々精進している。そしてタケルの友人だ。よろしく頼む」

「わたしは、アシャと申します。パーティ「ファミーユ」のヒーラーです。こちらこそよろしく」

「アシャさんは、ポーションも作るんだ。戦闘中に使える程に素早く効果が出る優れものだ」

「ほーう、それは凄いな」

「自分は、ガーネット、アタッカーだ。もっともタケル程の腕は無いがね、未だ修行中だ。よろしく頼む」

自己紹介も済んだところで、俺はダルニエルに話しかけた。

「ところでダルニエル、良かったのか? 病人をほおっておいてこんな所に来ちまって」

「ああ、リーネアはもう大丈夫だ。薬が効いて病は治った。しばらく伏せっていたから体力は落ちたが、ポーションで回復できた。それに私達を呼んだのはタケルだろう」

「良かったです。急いで運んだ甲斐が有りましたね、店長」

「ああ、そうだな」

アシャさんに同意すると。

「ダルニエル。重要な話が有る、聞かせてもらえないか?」

「ん? リーネアの病気については話す事は出来んぞ。公爵家の娘なのだ、噂になるような事は避けねばならん。タケルの事は信用しているが、秘密は知るものが少なければ少ないほど洩れにくいものだからな」

ダルニエルの言う事は当然だ、それに完治した事が重要なのであって、病人のプライバシーまで知る必要は無い。

「そんな事は分かってるさ、俺が聞きたいのはもっと重要な事だ」

「ん? 重要な事? なんだそれは?」

俺は大きく頷くと。

「うん、リーネアさん、それともリーネアちゃん? どんな娘? やっぱり公爵令嬢って事は深窓の姫君って感じなのかな? なあ、ダルニエル教えろ! いや、教えてください。それだけを楽しみにワイバーン運んで来たんだ」

「ますたー、相変ワラズダネ。だめ人間ップリニ磨キガカカッテルネ。女ノ人ニシカ興味ガナイノ?」

「何を言うんだアイン! 重要な事だろ? 自分が人を助ける手伝いが出来たんなら助かった人は綺麗なお姉さんの方が良いに決まってるだろ、公爵令嬢だよ? お嬢様だよ? テンションが上がっちゃうだろ?」

俺が言うと。沈黙と共に皆から冷たい視線を浴びせられる。ダルニエルが。

「リーネアは妹だ、歳の離れた妹でな家族中が甘やかしてしまったが、我儘な所なども無く素直に育った」

「そうですね、とても良い子ですね、リーネアちゃん」

「うん11歳にしては聡明で良い子だ」

「そうか。11歳なのか。・・・・・・それは残念だ。あと10年いや7年したら是非紹介してくれ」

「「「「「はー」」」」」

女性陣はそろってため息を吐いた。しかしダルニエルは。

「まあ、タケルになら紹介するのはかまわんが7年後なのか? あと4年で成人するんだぞ? まだ話は出ていないが、公爵家の娘だ成人するころには結婚の申し込みが殺到してしまうぞ。成人前から粉を掛けておかないと結婚は難しい。それに10年もしたら立派な行き遅れだ」

『ビキ!』

ダルニエルの発言で一部の女性の気配が音を立てるように険しいものに変わったが、俺のせいじゃねえからな。

「11歳の女の子に手を出す訳に行くか。俺が育った所でそんな事をすれば犯罪者として社会的に抹殺されちまう」

ターニャが。

「どんな所で育ったの、タケルは」

「そんな所だよ」

「ダカラ女ノ子ニ縁ガ無カッタンダ。ト言イタインダネますたーハ。デモソンナ言イ訳シナクテモイイヨ、ますたーガモテナカッタノハソレガ理由ジャ無イカラ」

「ほっとけ!」

「やっぱりお姉さんが良いんですね店長は」

「いや、アシャさんそれは違う。お姉さんなだけではだめだ。・・・・・・人格が素晴らしい人が理想?」

「最後が疑問形だな店長?」

「それ以上追及しないでくれ」

このままではまずい。話題を変えなければ。

「と、まあ、本当の話はこれからなんだ。ディフェンダーの改造パーツが出来たんだ。折角だから持って来た。後で付けるから持ってきてくれ。」

「なに! 本当か? じゃあ持って来よう。しかし、本当に作ってしまったのだな。流石だ」

「それだけじゃ無いぞ。ディフェンダーを参考に作ったまもーるくんもターニャとファーシャの分を持ってきたんだ。これはウチのパーティメンバー全員が使っていて、高評価を得ている。よかったら2人とも使ってくれ」

「へー、そんなものを作ったの? でも、タケル。3人とも微妙な顔をしているわよ」

「そんなことはない! 気のせいだ。そっちで着替えてくれ」

リビングに連なる寝室の方を指差す。アシャさんが微妙な顔をしたまま。

「どうぞ、使って下さい。お手伝いしましょう」

5人は寝室に入っていった。リビングで待つ事になった俺は。

「ダルニエル」

「何だ?」

「チャンスだとか思ってるだろ? バレるとヤバイから覗くなよ」

「誰がするかそんなこと!」

「え? やらないの? えー」

俺は立ち上がり、寝室に向かって歩き出した。

「なにが、えーだ! おいこら! 立ち上がるな! そっちに行くな! 行くなと言っている!」

ダルニエルが、歩き出した俺に大きな声で呼びかける。俺は右手の人差し指を立て唇にあてて、小声で。

「しーーー。ダルニエル静かに!」

すると、俺の方に近づきながらダルニエルは。

「だから、覗きなどするなと言っているのだ」

と、小声で言う。こいつ素直だな。

「なーにを言うんだね、ダルニエルくん。直ぐそこに素晴らしい光景が広がってるんだぞ? 男なら、いいや! 漢として覗かないなどと言う選択肢はない!」

「何が漢としてだ。ふざけた事を言うな」

「そりゃあダルニエルには見慣れた光景なのかも知れんが、独り占めは良くない。幸せは皆で分け合うべきだ。そう思うだろう?」

「幸せって何のことだ。2人の着替えなど覗いた事など無い!」

「なんだって! 3人で冒険者をしているにもかかわらず? あー、覗く必要なんてないって事か。お前の目の前で普通に着替えてるって訳か! あんな美女2人と付き合ってるって事か! 着替えを見せて貰えるだけじゃなくて、あーんな事や、そーんな事もしてるんだろう! なんて羨ましいんだ! 爆ぜろ! 爆発してしまえ!」

「何を言うんだ、私と彼女達はパーティメンバーだぞ、そんな関係では無い! タケルこそ3人もパーティメンバーがいるじゃないか。まさかケーナたんに如何わしいことなどしていないだろうな!」

「何だと。ケーナに手を出すなんて有り得ないだろ。俺はお姉さんが好きなんだ。それにしても、ダルニエルって、彼女達と付き合ってないの? うそー!」

「何がウソー! だ本当だ」

「だったら、覗いても問題ないじゃないか。いや、むしろ覗くべきだ」

「何だその理屈は」

「そう言う訳で行くぞ」

「どんな訳だ」

なんだかんだヒートアップしていたが、俺達は小声で話していた。ダルニエルも寝室の彼女たちに声が聞こえるのは拙いと思っているって事だ。つまり。

「お前もみたいんだろ?」

ダルニエルに聞いた。

「・・・・・・そんな事は勇者らしい行動とは言えない・・・・・」

さらに声が小さくなって行く。

「ダルニエル。勇者である前に俺達は漢だ。そうだろ?」

「・・・・・」

声も無く頷くダルニエル。俺はニヤリと笑い。更に寝室のドアに近づいて・・・・・・。

「ジャジャー・・・・・・ん? タケル兄ちゃん・・・ダルニエルさん・・・何してるの?」

俺達の目の前でドアが開きケーナが飛び出してきた。

「「え? 覗きなんかしてない」」

「覗きだな」

「覗きですね」

「ええ覗いてたわね」

「はい覗いてましたね」

ガーネット、アシャさん、ターニャ、ファーシャだ。くそっ! ダルニエルがグズグズしてるから。

「おー、2人ともすげえ似合ってるじゃないか! なあ、ダルニエル?」

「あっ、ああ似合ってる」

ダルニエル声が小せえよ! ごまかせねえだろうが! でも本当に似合ってるな。アシャさんがニッコリしながら。

「タケルさん。お聞きしたい事が1つ有ったんですが、2つになりました。いいですか?」

アシャさんが俺をタケルと呼んだ。こいつはヤバイ? 

「はい」

俺は、神妙に答えた。

「お2人はそんなところで何をしていたんでしょうか?」

「え? えーと・・・・・・。2人の着替えを覗こうとしていたダルニエルを止めようとしていました」

ダルニエルは何か言おうとしながらも声に出せずに、口をパクパクとさせている。アシャさんは、笑顔を深めながら。でも、目が笑ってねえ。

「お2人はそんなところで何をしていたんでしょうか?」

「2人の着替えを覗こうとしていたダルニエルを・・・・・・」

そこまで言った時に、アシャさんの笑顔が更に深まった。俺は言葉を切って。

「すみませんダルニエルと2人で、着替えを覗こうとしました。反省しています。すみませんでした」

両膝を付き両手を付き頭を床にこすりつけるようにした。まあ、土下座だ。

「ダルニエルに無理やり誘われて断わりきれずに・・・・・・」

「お2人はそんなところで何をしていたんでしょうか?」

殺気を感じた俺は。

「俺を止めるダルニエルを説得して2人で覗きをしようとしてました。ニドトコノヨウナコトハイタシマセン、イマハココロノソコカラジブンノオコナイヲコウカイシ、ハンセイシテオリマス」

俺の横では、ダルニエルも土下座している。

「後悔も反省もしないんでしょタケル兄ちゃんは」

「ああ、確かにそんな事を言っていたよな店長は」

「えー、そんな事を言ってしまった事も含めて反省してます」

「まあ、今回は未遂でしたし反省もしているようですから良いでしょう。2人とも立ってください」

俺達は立ち上がり。皆でソファーに移動した。

「では、もう1つの質問です。どうしてお2人のまもーるくんのサイズがピッタリなんでしょうか? お2人ともサイズを測られた覚えは無いと言っています。どうしてピッタリに作る事が出来たんでしょうか?」

「そう言えば、自分たちのまもーるくんもそうだったな」

「うんそうだね」

「タケルさん何時の間に?」

「タケル、あんたって人は」

「何か、誤解してるぞ。あー、何と言うか・・・・・・。そう、モデリングのスキルってのはさ、いかにイメージを形にするのかが重要になるんだよ。記憶した事を正確に再現できないといけないからな。レベルが上がってくるとそのイメージを再現する能力が上がるんだ。記憶をイメージで補完してマネキンを作ったのさ。モデリングスキルのおかげだな」

「マネキンですか。まもーるくん君を作った時のマネキンはどうなったんですか?」

「全部倉庫の奥に大事にしまってあるけど?」

「帰ったらさっそく壊してくださいね」

アシャさんが笑顔でとんでもない事を言い出した。

「え? あれは、大切な・・・・・・」

「壊してくださいね」

「・・・はい」

俺はうなだれて答えた。


髪飾りを渡して、使い方や注意点を説明した処でターニャが。

「これは、後衛用なんでしょ? 前衛用ってどんなデザインなの?」

と聞いてきた。

「前衛用は個人個人に合わせて若干デザインを変えてるんだ。激しい動きを想定してるからな」

「してるからなに?」

「ガーネットとケーナ何かだと体型が違い過ぎるだろ? 胸とかバストとかオッパイとか。動きに邪魔にならないように、ホールドするために様々な形にしてある。もっとも、一番良いデザインを決めるのに試作品をいっぱい作ったってことなんだけどね」

「胸のことばっかりなのね」

「大事なことなので表現を変えて3度言ってみましたが何か? そうそうこれから大きくなってサイズが合わなくなっても、そこの金具である程度の調整は出来る」

と言いながら、ターニャの胸に手を伸ばすと。アシャさんに手の甲を思いっきり抓られた。

「イッテー!」

慌てて手を引っ込め、アシャさんに抗議する。

「アシャさん、痛いよ。説明しようとしただけじゃないか」

「いいえ、私が説明しますから。タケルさんはやっちゃダメです」

「えー、そこは製作者として、自ら説明しなければ、責任が果たせない・・・ナンテコトハアリマセン。ハイ、アシャさんお願いします」

「はい」

アシャさんが良い笑顔で答えた。


「ところでタケル達はいつまでこの街にいられるのだ?」

ダルニエルに聞かれた俺は。

「そうだなー、後5日くらいはゆっくりするつもりだ」

「そうか、ところでその間に時間は取れるか? 前に話しただろ。私の師匠に会ってみないか? とんでもない御仁だぞ、剣については剣聖と言われる程だ」

「ん? 剣聖? そいつはまた御大層な呼び名だな。戦う事数多有れど、敗れる事1度としてなしみたいな感じか? 俺がいた所にも過去に剣聖と呼ばれた人は何人かいたぞ」

「1度も負けた事が無いかどうかは知らんが、とてつもなく強い方だ」

「是非会ってみたいな。でも、突然訪ねて行ったら迷惑なんじゃないか?」

「そんな事を気にするような人では無いよ。明日行ってみるか?」

「おう頼むぜ。皆はどうする?」

「剣聖か自分はお会いしてみたいな。剣を使う者としてお話を聞くだけでも何か得る物が有るだろう」

「あたしも会ってみたい」

「私だけ残っても仕方ありませんし、一つの道を極めた方のお話を聞く機会などめったにありませんから是非お会いしたいです」

「あのー、ダルニエル? 私達も行った方が良いでしょうか?」

「私は遠慮しようかな」

「他に用が有るのであれば仕方が無いが」

「いえ、用は無いのですが・・・・・・」

「あのおじいちゃんは・・・・・・。んー、ケーナちゃん達だけ行かせるのも何だし、ファーシャ行きましょう」

「そうですね、行きます」

何だか、ターニャとファーシャの反応がおかしいな? まあ明日になれば理由もわかるだろう。それにしても剣聖とまで言われる人か。うちの祖父ちゃんみてえな人なのかな? 明日が楽しみだな。


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