心が病んでるかな?
盗賊の死体を道からどけて、とべーるくんで皆の後を追いかけた。遠くにかなり大きな街が見えてきた所で追い付いたので、少しだけ追い越して下に降りた。とべーるくんを抱えて待っていると、程なくして皆が追い付いた。
「タケル殿、盗賊達は?」
タルートの問いかけに、荷馬車の御者席に座りながら。
「ああ、全滅させた。まあ、行商人や旅人達を獲物にしている程度の盗賊だったみたいだ。裏は無いみたいだったな。最も時間が惜しかったからちゃんと尋問したわけじゃねえけどさ」
そう言って、馬車を発進させた。
「タケル殿1人で、盗賊達を全滅か、凄まじいな」
「旅人なら誰でも良かったのか、俺達を狙ったのかわからなかったからな。とにかくリーダーから話を聞きたかったけどな。それに追いかけられたら面倒だ」
「一体何人いたのだ?」
「んー、15人位じゃねえか? さっさと逃げ出した奴がいたならもっと多いかもな」
「15人の盗賊をたった1人で!」
「いやいや、アインがエクスプロージョンで5人吹き飛ばしたからな。アレのおかげで、相手が動揺してくれたからな。楽な展開だった」
「それにしたって、これ程の時間で、さすが勇者と言う訳か」
え? そう言えば、アシャさんがそんなことを言ってたな。
「ダルニエルと違って、俺は野良勇者(笑)だけどな。それより、この先に町が見えた。あそこには、騎士は居るのか? 盗賊達は道からは退けたけど、ちゃんとした後始末と残党狩りを頼めるかな? 倒木だってあのままじゃ、また盗賊が使うかも知れないしな」
「盗賊達のカードは回収してきたのだろう?」
「ああ」
そう言って俺は腰のポーチを軽く叩いた。
「だったら平気だろう。この先にあるのはこの領地の領都だからな、騎士団に話を通せばいいだろう。時間は惜しいが仕方が無い。なるべく早めに切り上げよう」
しばらく走り続けると街の方から騎馬が隊列を組んでこちらに向かって進んでくるのが見えた。おそらくオールガーテ領都騎士団だろうな。
「あれって領都の騎士団かな? 事後処理任せられるかな?」
馬車の速度を落としながらタルートに確認する。
「そのようだな。オールガーテ子爵。堅実な治世をするが、いかんせん慎重過ぎて対応が遅いとの評判だな。さっきの事を話すのはいいが処理に時間を取られるのは痛いな」
すると、騎馬は展開し道を塞いだ。そして、隊長らしい男が。
「止まれ!」
俺達に命令してきた。馬車を止めると。
「全員馬から降りろ!」
俺達が馬から降りると。騎士達5人が馬から降りて隊長らしい男を先頭に近付いてくる。
「こっちの馬車の積み荷は何だ!?」
まず積み荷から聞くのか? 疑問に感じながらも。
「ワイバーンだ、生け捕りにして、そのまま運んでる」
それを聞いた隊長が俺に歩み寄ってくると。いきなり腹を殴りつけてきた。
「グッ!」
まったく効いてはいないが、そこはサービスで腹を押さえて腰を落としてやる。
「「店長!」」
「タケル兄ちゃん!」
「「「「「タケル殿!」」」」」
心配そうに声をかけるみんなに右手を上げて何ともないアピールをすると。
「なめるな小僧! ワイバーンを生け捕りだとふざけるのも大概にしろ! なにか如何わしい物を運んでいるって訳だな!」
こいつ怒鳴らないと会話ができないタイプなのか? そして、ガーネットに向かって。
「おい。そこの女! カバーを外せ!」
ガーネットとアシャさんがワイバーンに掛けてあるカバーを外す。ワイバーンを見た騎士達が息を呑む様子が伝わってくる。隊長は。
「こっ、こいつはワイバーンじゃないか!」
その時、馬車にガチガチに固定されてほとんど動きが取れないワイバーンが少しだけ首をもたげた。
「生きたまま運んでるのか!」
「さっきそう言っただろ。依頼主の希望でね、生きたままシュバルリ領まで運ばなきゃならねえのさ」
隊長はワイバーンに近づくと。いきなり剣を抜き上段に構えると。
「これで私はワイバーン殺しと言う訳だ」
と言って剣を振り下ろした。俺は刀を抜きつつ魔石に魔力を流し、剣を追いかけるように上から刀を振り降ろした。剣の刃を切り落として刀を止める。下から切ると刃がどこに飛んで行くかわからねえからな。狙い通りではないが、切り落とした刃は馬車に当たると跳ね返り隊長の頬をかすめて跳んでいった。隊長をはじめみんなは茫然としている。俺は刀を鞘に戻すと、顔だけ隊長の方を向き。
「あれー、上から被せれば安全だと思ったんだが、あんたよっぽど日頃の行いが悪いんだな」
隊長は顔を真っ赤にし、半ばで切り落とされた剣を振りかぶると。
「貴様! 何をする!」
と言いながら、切りかかってくる。俺は隊長の懐に潜り込むと、剣を持った腕を抱え込み一本背負いで地面に背中を叩きつける。受け身など取れないように隊長に自分の体を落とし、ついでに腕も折った。
「ゴフッ!!」
立ち上がると。
「ギャーー!」
肩を押さえ悲鳴を上げる隊長を見た騎士達がそろって抜剣する。アシャさん達にタルート達も戦闘態勢を取る。俺は自分のカードを取りだし。
「ガーゼルで冒険者をしているタケルだ! フェンリルバスターの剣、受けてみたいならかかってこい!」
それを聞いた騎士達は。
「「「フェンリルバスター!」」」
「「ガーゼルの英雄!」」
と言いながら、気圧されたように後ろに下がる。俺は手の平を上にしタルート達を指すと。
「こちらは、シュバルリ公爵領領都騎士団のタルート殿だ。このワイバーンはシュバルリ公爵直々の依頼により生け捕りにし、運搬しているものだ」
公爵直々の依頼により運んでいる物を傷付けようとした事の意味を理解したのだろう。倒れたままの隊長をはじめ騎士達は青い顔をしている。隊長に顔を向け、ニヤリと笑うと。
「自分が何をしたか解ったか? 首を洗って待ってな」
そう言って隊長の頭を蹴って意識を刈り取った。それから、残された騎士達に向かって。
「さーて、不幸な事故だったな。隊長殿が落馬したところに偶然出くわしてしまった訳だが、先を急ぐのでお助けする事も出来ず本当に申し訳ない。お見舞い申し上げる」
みんな揃って。
「え?」
と言う顔をしている。
「そんな状況にもかかわらず、我々が討伐したはいいが、後始末も出来ないまま放置せざるを得なかった盗賊の死体の処理に残党狩りまで快く引き受けてくれるとは。いやー有難い申し出ですね。そうは思いませんかタルート殿」
騎士達は困惑しているようだ。タルートも困惑してるな。そりゃそうだな。
「あっああ、そっそうだな、そちらの申し出感謝する」
タルートが言うと。騎士達は。
「え?」
さらに俺は。
「しかし、こちらの隊長殿は凄いな。落馬して怪我を負いながらも、自分の事は放置して、残りの騎士の方たち総出で盗賊の残党狩りをするようとは。なかなか言える物では無い。いやーなかなか出来ない事ですよね」
「え!?」
騎士達は驚いて声を上げる。
「ね?}
俺が笑顔で念を押すと。
「「「はっ!」」」
騎士達は隊長を置いたまま馬にまたがると俺達が来た方向に向かって走り出した。
「さーて、俺達も行こうぜ」
「行こうぜって、タケル兄ちゃんこのまま行っちゃうの? この人どうするの?」
ケーナは隊長を指差す。
「こちらの言う事など全く聞こうとせず、店長を殴って、ワイバーンも殺そうとして、店長に斬りつけたんですよ? 手当の必要などありません」
「その意見には激しく同意するが、このままにしておくと魔物に襲われて死んでしまうかもしれないぞ?」
ケーナ、アシャさん、ガーネットが各々喋る。タルートが。
「これほど領都に近いのなら、まず魔物に襲われる心配は無いだろう」
「ほら、タルートさんもそう言っているじゃないですか。ガーネットは心配し過ぎです」
「アシャ、今日はなんだかいつもと反応がちがうね」
「店長を殴ったんですから、私ちょっと怒ってます」
「ははは......」
ケーナは苦笑している。
「と、言う事で特段問題も無いようだし。行くぞ!」
俺達は再びシュバルリ公爵領に向けて走り出した。
俺達はオールガーテの街を迂回し馬車を走らせる。
「いやー、結果的にバカな騎士隊長のおかげで時間を無駄にせずに済んだなー。よかったよかった。なあ、タルートさん」
「そうだな。結果的には最短時間でけりが付いた。しかし、彼の腕を折ったのはやりすぎじゃないのか?」
盗賊達を殺したせいで気持ちが高ぶっていたんだろうか? 確かにあそこであいつの腕を折る必要は無かったかな。
「まあ、やっちまったものは仕方が無いさ。彼には今回の事を反省してもらって、更生してもらおう」
ガーネットが。
「あれは根性が腐ってる。公正などしないぞ。あんな風に脅されればしばらくは大人しくなるだろうが」
ケーナが。
「そう言えば、あの人が言っていた。ワイバーン殺しって何のこと?」
「そうそう、俺も気になった。タルートさん何の事かわかる?」
「ワイバーンなどの一部の魔物を殺すとタイトルが手に入る事が有るんだ。タケル殿のようなフェンリルバスターのように貴族待遇を得られる訳ではないが、それなりに箔が付くってところか」
「えー、あんな風にワイバーンを殺したって誰にも自慢なんて出来ないじゃないか」
「どんな風に殺したかなんて自分から言わなければ分からないしな。ワイバーンを殺したと言う事実はカードに残るからな」
「そんなことしたって仕方ないじゃないか。結果だけじゃなくて過程が大事なんじゃないのかな」
「ふふふ、そうだな。ケーナの言うとおりだな」
ケーナの言葉にガーネットが同意した。
「でもなケーナ、今回の依頼もそうだけど冒険者のクエストは結果が全てだぞ。ガンバりましたじゃすまないんだ。特に今回の依頼は依頼時間に届けましたからじゃダメだ。人の命が掛かってるんだからな、彼女の命が助からないと意味が無いってことだ」
「うん、分かってる」
ケーナは表情を引き締めた。
夕食が終わって俺はみんなから離れ1人でボーっと星を見ている。
「人殺しかー」
カードの内容から、俺達を襲った盗賊は全員人が人殺しの経験があり、人身売買をやったことが有るヤツもいた。捕まれば確実に死刑になる奴らだった。捕まえて領主に引き渡す時間は無かったし、かと言ってあのままにするなんてのは論外だしな。
「あのままにしていたらもっと被害者が増えていた事は間違いありませんし、時間をかける訳にはいかなかったんです。盗賊を殺した事は仕方のないことでした。気にするなと言うのは難しいかもしませんけど」
「アシャさん」
俺を追って来たアシャさんを振り向いた。俺を心配して追いかけてきてくれたんだろうな。
「初めて誘拐犯を殺した時には悩色々と悩んだんだけどな。今回で2回目なんだよ人を殺したのは。何時からこんな風になっちまったんだろ」
「2回目ですか」
「ああ、たったの2回めだ。人の命が軽い世界だからなー。いつの間にかこんな風になっちまったみたいだな」
「こんな風に?」
「盗賊達を殺したことを後悔していない。後悔どころか仕方がなかったと自分に言い訳することすらしていない。そんな風になっちまったってことさ」
アシャさんは、息を飲み少し何か考えてから口を開いた。
「タケルさん。1度めと言うのは?」
「ん? えーと半年以上前だな」
もっとも、俺の体感時間でだけど。
「アシャさん達に初めて会った日の前日だった」
もっとも、その間には10年と言う年月が横たわっているんだけど。
「あの時言ったと思うけど。アリステアって街に居たんだよ俺。そこで知り合いの女の子が誘拐されてね、その子を助けた時に誘拐犯達を皆殺しにした」
俺は、アシャさんをチョットだけ窺ってから続けて。
「誘拐された女の子達を無事に救う為には誘拐犯を速やかに無力化する必要があるって思ってさ、追いかけてる途中で殺す覚悟をしたんだ。で、その時は攫われた女の子達を無事に送り返す事で頭がいっぱいと言うか、その事に集中して、人を殺した事を考えないようにしてたんだと思う」
そうだ、あの時は人を殺す事に罪悪感や嫌悪感があった。......と思う。少なくとも、何も考えず機械的に人を殺した覚えは無い。そう、あの時は。
「その後、アリシアを親父さんの所に届けたのさ。その時、急に目の前の風景が切り替わってね。気が付くとガーゼルの街の側にいて、アシャさん達を見つけたんだ。環境の急激な変化に驚いて人殺しの事を意識の隅に追いやったんだと思う」
「あれって、本当の事だったんですか?」
まあ、信じないだろうな。俺だって体験してなきゃ信じやしない。
「やっぱり、嘘だって思うよね。でも、本当の事なんだ。そうしてもっと信じられない事に、冒険者ギルドで話を聞いているうちに場所が移動しただけじゃなくて、時間も10年くらい経っていたって事に気が付いたんだ」
「10年......」
「そう、10年も経っていたんだ、驚いて誘拐犯を殺した事なんか忘れちまった。記憶の底に押し込んだんだな。......いや、忘れたふりをしてたのかな? そうして過しているうちに、こんな風に変わっちまったのかなーなんて事を考えてたんだ」
「タケルさん。......」
アシャさんは俺の名前を呼んだ後に何か言おうとして黙ってしまった。
「どう変わってしまったのかは私には分かりませんが、それでもやっぱり、さっきの事は仕方がなかったと思います。タルートさん達は任務上あそこで時間を取られる訳にはいきませんでした。でも、立場上ほおっておく訳にもいかなかったはずです。タケルさんは最良の選択をしたと思います。でも、タケルさんにだけ重荷を背負わせてしまってすみませんでした」
「ダルニエルの家族の命がかかってるんだから効率重視さ。それに、間に合うのは最低限の条件だしね、少しでも早く苦しいのを止めてやりたいじゃないか」
「ええそうですね」
「でも、俺の心のどこかが壊れちまったのかもな。オールガーテの騎士隊長にあんな事しちまったしな」
「そんな事はありません。あの人はワイバーンに切りかかっただけならまだしも。タケルさんに剣を向けたんです。腕の骨1本で済んだんですから。むしろ、罰としては軽すぎます」
回復魔法があるとは言え、骨折を直せるヒーラーが街にいて自分が払える料金で治療をしてくれるかどうかは分からない。その辺は隊長の運次第ってところか。
「まあ、おそらく最短時間で用が済んだんだからいいか」
「はい。タケルさんがおかしいなんて私達は思っていませんよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると、落ち着くよ」
まあ、壊れたとしても、この世界で生きて行くには必要なことなんだろう。良くも悪くも慣れてしまったって事なんだろうな。守らなきゃならない一線を踏み越えなきゃいいんだろう。その一線はこれから決めて行けばいいか。・・・・・・問題の先送りだな。とりあえず、今はダルニエルの家族の事を第一に考えないとな・・・・・妹なのかな? お姉さんなのかな? 美人に違いないよな? ・・・・・・よし! もう少しだ頑張らねえとな。
翌日は特にトラブルも無く夜を向かえた。ケーナはモデリングの修練をしている。ガーネットとアシャさんは何やら真剣な顔で話をしているようだが、タルートさんと焚火を前にして話している俺には聞こえない。「タケル殿、このまま順調に進めば明日の午後早くに領都に付く。あと少しだからと言って気を緩める訳ではない。ないが、タケル殿との契約金を決めていなかっただろう?」
「あー、そう言えばそうでしたね。んー、相場で良いんですけど」
「ワイバーンを生け捕りにして、そのまま運搬するなど聞いた事も無いからな、相場などある訳無い。一応は上から提示するように指示された額はあるのだが、本当にワイバーンを生け捕りにし、盗賊達すら全滅させてしまうなどと言う事を成した後に提示する金額に見合うのだろうか?」
なるほど、依頼前ならともかく、今、実際にワイバーンがいるのだから、依頼料を釣り上げる事も出来なくは無いって事か。実力を示した後だしな。
「最初に言ったとおりそちらに任せるよ。あー、そうそう、ワイバーンの翼って貰えないかな?」
「ん? 翼だけでなく、肝以外は全てタケル殿の物だ。依頼は生き胆を5日以内に届けると言うものだからな。結論として生きたままのワイバーンを運ぶ必要があっただけで、ワイバーンの体全てを取ってこいと言う物ではなかったからな」
おーそれはいい、ワイバーンの骨や肉を売ればそこそこの金は入ってくるな。
「ところで、翼を何に使うか聞いてもいいかね? なーに、ちょっとした好奇心さ」
「ちょっと試したい事がある。試すと言うより確認したい事かな」
「確認とは?」
「ワイバーンだけじゃなくて、ランドドラゴンと戦った時にも思ったんだけど、魔物って何かおかしいと思う訳さ」
「魔物がおかしいとは?」
「例えばワイバーンはあんな大きな体で飛行するには翼が小さすぎると思うんだ。あいつら飛んでる時にロクに羽ばたきもしないし。ランドドラゴンだってそうだ、幾ら鱗が硬いって言ったって限度がある。オリハルコンの鎧だって切れる剣で傷一つ付けられないなんて何か変だ。どんな理屈であんな事が出来るのか全く分からねえ。オリハルコンより硬い鱗とか生きものとしておかしいだろ?」
「そうかな? 魔物達が普通の生き物と違うのは当たり前だと思うが」
んー、こっちの世界の人間にとっては当たり前の事なのか。と言うよりそう言うもんだと思ってるって事かな。
「当たり前と言われればその通りなのかも知れないけどな。とりあえず新しい魔道具のヒントになるんじゃねえかと思ってさ調べてみたかったんだ」
「なるほど、そう言った好奇心が新しい発見に繋がるのかもしれないな」
ランドドラゴンの鱗やワイバーンがの翼の事が分かれば、何かロボの役に立つかもしれねえし。
「さーて、明日はいよいよシュバルリ公爵領都だ。早めに休ませてもらうぜ」
「ああ、そうだな」
「うわー、ガーゼルより高い外壁だね。街も大きいねー」
遠目に見えてきたシュバルリの領都を見たケーナが驚いていると。
「そうですね、さすがに公爵領の領都ですからね。ガーゼルよりもずーっと大きいですよ。王都程ではありませんけどね」
「あれ? アシャ姉ちゃんは、この街に来た事あるの?」
「これでも、みんなより冒険者になって長いですからね。依頼で何度か来ていますよ。街の隅々まで案内出来るかと言われれば無理ですけどね」
「そこそこの案内ならできるのだろう?」
ガーネットが聞くと。
「ええ、まかせてください」
「だったら十分だ。店長少し休みにして街を見て回らないか?」
「ああ、かまわないさ。何か美味い物でも食おうぜ」
「やったー。タケル兄ちゃんがごちそうしてくれるんだ」
「え? おれ?」
「「「ごちそうさまー」」」
「ますたー。あいんモ忘レナイデネ」
「アインもかよー」
そこにタルートが声をかけてきた。
「歓談中すまないが、ちょっといだろうか?」
「ああ、かまわないぜ」
「我々は街に付いたら薬を作る手配をする。準備が出来たら私が迎えに行くのでタケル殿達は冒険者ギルドで待っていてくれ。街の門の所で依頼の達成証明を渡すから手続きをしていてくれれば、時間もつぶせるだろう」
「え、いいのか? まだ間にお嬢さんが助かるかどうか分からないだろ」
「今回の依頼は、ワイバーンの生き胆の調達だ。指定期間内に届けて貰ったのだタケル殿は期待以上の仕事をしてくれた。後はこちらの問題だ。お嬢様は必ず助かる!」
「そうだな、わかった、そうさせて貰おう」
同行の騎士達の手配で全く待たされることなくスムーズに街に入った俺達は、タルート達と別れるとアシャさんの案内で迷うことも無く冒険者ギルドに到着した。まあ、冒険者ギルドなんてどこの街でも迷う所になんか無いんだろうけど。馬車はアインとツァイ達に任せておけば悪さが出来るようなヤツはいない。建物の中に入る。冒険者ギルドの設備なんてどこでも同じなんだな。カウンターに向かって歩いていると。テーブルに付いている冒険者の中には俺達を値踏みするように見るヤツもいる。考えてみると、俺達の組み合わせは結構目立つ。アシャさんもガーネットもタイプは違うが美人だし、ケーナだって美少女だ。そこにさえない俺が混ざっているんだから仕方が無いな。ガーゼルではこんな事は無かったから忘れていた。カウンターを眺めてみると、午前中とは言えもう昼も近い時間だからか空いている受付もちらほらと有る。どのに行こうかな・・・・・・ん? ・・・・・・え? えーーーーー!!
「どうしたんですか?」
受付カウンターを眺めたまま動きを止めてしまった俺を不審に思ったのか、振り向いたアシャさんが首をかしげながら尋ねてきた。俺は小声で。
「エ・・・・・エ、エルフ?」
俺のつぶやきが聞こえなかったのか。アシャさんは首をかしげたままだ。俺は無意識にアシャさんに顔を近付けカウンターの一点を指差し更に小声になって。
「エルフがいる」
そうなのだ、カウンターに座る受付の中に1人だけ、金髪碧眼で線の細い美女が居たんだ、しかも耳が有り得ないほど尖っている。初めて見たが、あれはエルフに違いない。アシャさんは一度受付に目をやると。
「ええ、そうですね。アースデリア王国では珍しいですが、エルフの中には自分たちの国の外で活動している人達も少なからず居ます。ガーゼルでは見た事はありませんね。店長はエルフを見るのは初めて?」
「ああ、初めてだ」
俺はそう言って、ちょうど誰も並んでいないそのエルフに向かって歩いていった。3人は俺に付いてくる。エルフの美女は。
「冒険者ギルドにようこそ。初めての方ですね」
それを聞きながら、依頼の終了証とギルド関係の情報を表示したカードをカウンターに置き。
「ガーゼルを拠点にしてるファミーユのタケルだ。依頼が完了した処理を頼む」
と言った。
「はい、少々お待ち下さい」
そう言って、終了証とカードを受け取ると、カウンターの後ろの棚からファイルを捕りだしページをめくり読み始めた。そして終了証とカードを見比べると。俺の方に顔を向け。
「この終了証は受理出来ません」
と言った。
「へ?」
俺が間抜けな声を上げると。ガーネットが。
「受理できないとはどう言う訳だ。その終了証は確かに領都の騎士から受け取った本物だ。受理できないとはどう言う事だ?」
受付のエルフは。
「どう言った伝手を使ったのかは解りませんが、確かに終了証は本物のようですね。しかし、この依頼を完遂する事は不可能です。よって、この終了証は受理できません」
そう言って、終了証を2度3度と破いた。
「ちょ! 何するんだよ!」
ケーナが言うと。
「Eクラスの冒険者パーティにワイバーンなど狩れる訳がありません。万が一狩れたとしても、ワイバーンの生き胆は日持ちしません。魔の森でワイバーンを狩り生き胆を取ったとしても、このシュバルリまで持ってくるまで鮮度が持ちません。よって、初めから達成不可能な依頼なのです」
アシャさんは。
「達成不可能と言いますが、現に終了証を持参しているのです。依頼の仲介をしておいて終了証を不受理とは納得がいきません」
「常識で考えてください。公爵家直々の依頼なのでギルドでもしかたなく依頼を仲介しましたが、達成の期待はしていない物でした。大方パーティのランクを上げるために公爵家の知人にでも頼んだんでしょうけれど、そんな不正を冒険者ギルドが見逃すとでも思ったのですか? こんな不正をするようではランクを下がるどころか、除名も考えなければいけませんね」
アシャさんたちは呆れたのか言葉が出ないようだ。なんだこの姉ちゃんは。俺は、受付のエルフに向かって。
「常識か? 誰の常識か知らんが、そんな常識なんかクソ喰らえだ!」
「なんですって?」
「クソ喰らえだと言ったんだ。聞こえなかったのか? エルフは長寿で容姿も若い時のまましばらく変わらないと聞いたけど。なーるほど、あんたもその口か。見た目どおりの歳じゃ無くて、良い歳ぶっこいたババアって事か。耳が遠くなっちまったんなら受付なんか止めちまえ、迷惑だ」
「な!」
と言ったまま怒りに震えている。
「なんだ怒ってるのか? 聞こえてるんじゃねえか婆さん」
「婆さんじゃない! 私はまだ127才です!」
「なーんだ、やっぱりエメロードの婆さんより年寄りじゃねえか。引退しちまえ」
「エルフの寿命は400才以上よ! 私はまだまだそんな年齢じゃないわ」
「誰の常識だか知らねえが、あんたも冒険者ギルドの受付なんだろ? 冒険ってのは新しい事、今まで誰もやらなかった事に挑戦する事じゃねえのか? 常識に捕らわれてるような人間が冒険者って言えるのかい? ふん! エメロードの婆さんの方がよっぽど覇気があるな。あの婆さんは未だに冒険者だ」
「そんなふざけた事を言っているから冒険者は長生き出来ないのよ! 行ってくると言ったきり2度と帰ってこなかった冒険者がどれだけいたと思っているの! どれだけ見送ってきたと思ってるの!」
そう言って破った終了証を俺に投げつけてきた。
「こんな不正をしてまで冒険者クラスを上げて、実力に見合わない難しい依頼を受けて、あなたも帰ってこない冒険者の仲間入りをしたいの? 無理な依頼を受けて失敗するのが冒険なの? 冒険者ってのはそんな人間ばっかりなの? 私は許さない。依頼を完遂できず死んでしまう冒険者なんて許さない!」
あー、長く生きているって事は、多くの冒険者を見てるって事か。依頼途中で死んでしまった多くの冒険者を。
「あんたの言いたい事は解からなくもない。でもな、俺は無茶はするが無理はしない。証拠を見せてやるから表に出ろ」
そう言って、彼女の腕を引いて立たせると。そのままカウンター越しに手を伸ばし抱え上げ肩に担ぎあげ表に向かって歩き出した。ケーナ達だけじゃ無く、ギルドの中に居た冒険者と職員も付いてくる。
「ちょ、何をするの! 下ろしなさい!」
「証拠を見せるって言ってんだろ。いいからちょっと付き合え」
馬車まで歩いて行き、彼女を下ろすと。とべーるくんを取りだした。
「何をするんですか! それはなんですか。そんな物が証拠だとでも言うのですか?」
「こいつは、とべーるくん俺が作った空を飛ぶための魔道具だ」
そう言って、とべーるくんを装着し、彼女の腕を引いて俺の前に立たせた。
「きゃ。なんですか」
かわいい悲鳴を上げる彼女の腰を抱えると、上昇用の魔石に魔力を流し浮かび上がる。後ろに思いっきり重心を掛け、とべーるくんの先端を空に向けるとリストバンドの魔石に魔力を流す。
「きゃーーーーーーーー」
悲鳴を上げた彼女を抱えたまま俺達は天に向かって急上昇する。
待っていてくれる方がいるのかは分かりませんがお待たせしました。だいぶ間が空いてしまいました。いやーエタる所でした。
今回の話は途中で全く書けなくなってしまいました。何とか捻りだした感じでしょうか? この先の話はちゃんと考えているので、これからはもう少し早いペースで話を出せると思います。