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生け捕りですか

「でも、タケル兄ちゃん大丈夫なの? 忙しかったんじゃないの?」

「ああ、良いんだ、最近は店やら何やらと忙しくって、狩りなんかやって無かったからな。たまには気分転換も必要だよ」

店の方は、アシャさんのポーションの販売が軌道に乗って来た。弱ポーションと中ポーションそして、特製ポーションを常備して、受注生産で強ポーション。相変わらず魔道具の注文は無いが、みえーるくんとおはなしくんがぼちぼち売れてはいる。作業場の設備拡張につぎ込んだから残っちゃいないけどな。

「でも、Eクラスの討伐依頼だぞ。Cランクのタケルが付いてくる必要は無かっただろ? グレイウルフの10頭くらい俺達だけで十分だぞ」

トーラスが言った。事の始まりは、最近店やら何やらにかまってたせいで、討伐どころか冒険者ギルドの依頼をやっていなかったことに気が付いたケーナが、冒険者ギルドで討伐クエストを探している所にやって来たトーラス達に誘われて、グレイウルフの討伐依頼を共同で受ける事になったようだ。

「グレイウルフと言っても魔物は魔物だぞ、確認されている数が10頭に満たないからって油断は禁物だろう? それに今日の俺は、討伐パーティに入ってる訳じゃねえからな。ケーナの討伐の見学だ。邪魔はしないし、手伝いもしない」

俺はトーラスに言った。グレイウルフは単体ではFクラス。ご多分に漏れず群れで行動する魔物なので、その場合はEクラスの討伐依頼になる。今回は10頭に満たない数が確認された事による出された討伐依頼のようだ。よって、6匹以上の討伐で依頼は達成する。2、3匹残っても群れが崩壊したグレイウルフは森に引き揚げるのが普通だ。単体で森から出てくるヤツは群れから追い出された個体と言う事になる。

「あいんガイルンダヨ、けーなニハ万ガ一ニモ怪我ナンカサセナイゾ、けーなニハネ」

「ケーナにはって、それはねえんじゃねーかアイン。俺達はどうなっても良いって事か?」

トーラスが抗議する。

「ふ、ケーナたんには、かすり傷一つたりとも付けさせはしない! どんな魔物が来ようとも、俺の魔法が炸裂する」

ボイスが言うと。

「お前の魔法で倒せるくらいの魔物ならケーナちゃんに怪我なんかさせられねえだろうが、剣術メインの魔法剣士が魔法を炸裂とかできねえだろう」

「何を言うトーラス。魔力が少ないんだから、ここぞと言う時しか魔法は使えない。剣士メインとしてやっていくしかないんだ。しかし、いざという時には俺のファイアーボールが炸裂するのだ」

へー、ボイスは魔法を使えるのか。

「アインの言うとおりグレーウルフなんかが、アインのいるパーティをどうにか出来るなんって思ってねえよ。それよりも、こんな大人数で歩いてたんじゃグレーウルフなんか逃げちまうんじゃねえのか?」

「タケル兄ちゃんも人数を増やしてる1人だよね」

「え? あれ? そう言われると否定出来ねえな。んー、そう言われると、確かに俺はいない方が良いかもな。よし、アイン俺達はここで別行動だ」

この状況でグレーウルフに遭遇したら、俺は無関係ですから、ほっといてくれと言う訳にはいかねえだろうしな。トーラス達の邪魔をするのは本位じゃないからな。

「エ? あいんモ別行動スルノ?」

「少なくとも、グレイウルフよりも人数が少なくないと、奴ら近付いて来ねえだろ? トーラス、俺達はいない方が良いよな?」

「ああ、元々アインの力を当て込んで受けた依頼じゃないからな」

「うん! あたし達だけで平気だよ」

「お兄さん任せてください」

「ボイスはお兄さん言うな! じゃあ、俺達はその辺で何か狩ってるよ」

そう言って俺とアインはケーナ達から離れる事になった。


「ますたー、けーな達ハ平気カナ?」

「んー、グレイウルフの群れが10匹いないんだったら、平気なんじゃねえかな? ただ、7人だってグレイウルフの数とそれほど違わない。襲ってはこないだろうな。かと言って、森と平原の境目辺りでトーラス達が先に奴らを発見出来るとは思えないしな」

「ダッタラ、今回ノ討伐ハ失敗?」

「そうとばかりは言えないな。奴らの数は確定じゃないからな。もしも奴らが20頭くらいいれば襲ってくるんじゃねえか。落ち着いて対処すれば、トーラス達で対処出来るだろ。それ以上いたら、ちょいと厳しい事になるかもな」

「ダッタラ、あいんトますたーガ一緒デモ変ワラナカッタンジャナイカナ」

「そうとも言う」

「ダッタラドウシテ別レタノ?」

「ケーナの戦いぶりを見たかったってのは本当の事だ。俺達じゃグレイウルフなんか瞬殺だろ? やっぱりあいつらの邪魔しちゃ悪いからな」

「ソウダネ」

「もっとも、魔物の数が多かったら介入するけどな」

「ますたー、過保護ダネ」

「悪いかよ」


結論から言うとグレイウルフは8頭だった。トーラス達は大した被害も無く全ての討伐に成功していた。俺は離れたところから見ていただけだが、なかなかいい動きだったな。ケーナもちゃんと活躍していた。俺達が近付くと、怪我をしたボイスにケーナがハイヒールを掛けていた。

「ケーナたん、ありがとう! そう言えばヒール使えるんだったね。すげえよなー」

「タケル兄ちゃんがくれたワンドのおかげだけどね」

「そうなのか、お兄さんありがどわ!」

「俺はお前の兄貴じゃねえって言ってんだろうが。あんまりしつこいと殴るぞ」

おれがボイスの頭を軽く殴りながら言うと。

「殴るぞじゃなくて、殴ったよな!」

「ふん、今のは撫でた程度だ。殴るってのはな」

俺が拳を振り上げると。

「いや、いい。証明はいらない」

と言って、座ったまま後ずさるボイスを見てみんなで笑いあった。なんかいいなーこういうの。



そんな平穏な日々を過ごしていたが。

「よし、バレルに使う風魔法の改良はこんなもんか」

強化版のAMR用の魔石の調整をしていると、フィーアから声が掛かった。

「店長、冒険者ギルドからお使いが来ましたよ―。ギルド長がお呼びだそうです。指名依頼だそうですよ」


「で、なんだいギルド長直々に指名依頼なんて異例の事なんじゃねえのか?」

ギルド長室にはエメロードの他に騎士風の男がソファーに座っていた。

「緊急事態さ、しかたないだろ? あんたくらいしか頼める冒険者に心当たりが無いんだ」

俺くらいにしか? どんな依頼なんだ。

「こちらは、シュバルリ公爵領の騎士でタルート殿だ。今回の指名依頼の依頼主の使いだ」

シュバルリ公爵って、ダルニエルの実家か。騎士はソファーから立ち上がると、頭を下げ。

「タルートです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

俺も頭を下げる。ソファーに座ると、タルートはさっそく用件を切り出した。

「時間が惜しので、さっそく依頼内容を説明させていただきたい」

俺が頷くと。

「薬を作るための素材のの1つを調達していただきたいのです。ダルニエル様が、タケル殿であれば可能であろうと。いえ、タケル殿にしか出来ないだろうと」

ダルニエルにも出来ないって事か?

「公爵家の身内に病人が? まさか、ダルニエル?! だから自分で取りに行けない?」

「いえ、ダルニエル様ではありません。お嬢様なのです。公爵家の令嬢の病気ですので、事を公にする訳にはいかないのです。秘密は厳守していただきたい」

そうだよな、公爵家令嬢の個人情報だ、将来にどんな影響が出ないとも限らねえからな。

「依頼主の情報です、秘密を守るのは当然ですね。誓約書でもお書きしましょうか?」

「いえ、必要ありません。ダルニエル様のご紹介です、まったく心配ないとのお話でしたが、一応確認させていただいたまでです」

「ダルニエルは友達ですからね、信頼を裏切る訳にはいきません。で、必要な素材とは?」

「はい、ワイバーンの肝です。他の素材はもう揃っているはずです」

肝、肝臓の事か。確かに、魔の森に行けば幾らでもワイバーンはいるな。と言うより、この国では他ではめったに見つからないはずだ。でもダルニエルに出来ない事じゃないよな。なぜ俺に仕事を振ったんだ? 自分でやった方が秘密も漏れないはずだが。タルートは続けて。

「ワイバーン等の強力な魔物の肉は傷みにくいのですが、内臓は別です。シュバルリ公爵領までは早馬で飛ばしても4日はかかります」

馬で4日はかかるか、つまりワイバーンから取り出した肝臓は4日は持たないと。

「するってーと、なにかい? シュバルリ公爵領でワイバーンの解体ショーをやろうって訳か」

「はい、タケル殿にはワイバーンの生け捕りお呼び公爵領領都シュバルリまでの輸送を依頼したいのです。ダルニエル様でも生け取りは難しく、さらに運搬に要する時間も1週間で届けられるかどうかとおっしゃっていました」

「それはまた、随分難し依頼だな」

あ、いつの間にか砕けた口調になってるな。まあ、相手も気にしてないようだからいいか。

「はい、タケル殿以外の冒険者には実行不可能だとダルニエル様がおっしゃっています」

「で、期限はいつまでなんだ?」

「はい、お嬢様の病は早ければ発症から2週間で死に至り、自然治癒はしません。お嬢様は既に発症から9日経っています」

ツァイで馬車を引いて目一杯飛ばせば早馬と同等の時間で届けられるかも知れない。ギリギリのタイミングじゃねえか。俺はソファーから立ち上がると。

「了解だ、依頼を受けよう。時間が惜しい、直ぐに準備に取り掛かる」

そう言って、ギルド長室を出て行こうとする俺に向かって。タルートが。

「タケル殿、報酬の話がまだ」

俺は、タルートの言葉を遮り。

「報酬は、そちらの良心に任せる。今は、少しの時間でも惜しい。タルート殿には、シュバルリまでの案内を頼みたい。南門で待っていてくれ。1時間後だ!」

そう言い捨てて、ギルド長室から走りだした。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが、無視して店に戻る。


走って店に戻ると、運良く店にはアシャさんとガーネットにケーナがそろっていた。みんなに向かって。

「緊急の指名依頼が入った」

「今の呼び出しですか?」

「で、どんな依頼なのだ?」

「ああ、ワイバーンを生け捕りにして、シュバルリ公爵領の領都に運ぶ。ダルニエルの家族が死の病に侵されている。ワイバーンを生きたまま届けなきゃ助からない。最悪5日以内にだ」

「えー、ワイバーンを?」

「生け捕りだと?」

「無理です!」

ケーナ、ガーネット、アシャさんの順に言ったが。

「大丈夫だ、問題ない」

「問題ないって、どこに問題ないのか全然わからないよ」

「ケーナどこに問題が有るって言うんだ? 全然難しくなんかないさー。冒険者パーティファミーユの実力を見せてやろうじゃないか。そんな事より、この依頼受けて来たんだが、一緒に来てくれるか?」

「もう受けてしまったのだろう」

「タケルさんがリーダーですから」

「ダルニエルさんの家族が大変なんだろ」

「「「だったら、やろう(やりましょう)」」」

「みんなありがとう。じゃあ、アシャさんは俺と一緒にツァイで荷馬車を引いてワイバーンの生け捕りだ。ガーネットとケーナはライに幌馬車を付けて、旅の準備をしてくれ。余裕を見て5日分の水と食料とキャンプ用品を頼む」

俺は、カウンターの奥から木箱を取り出し。

「馬車の準備を頼む。俺はワイバーンを運ぶ準備をする。幌馬車にはこいつも放りこんでおいてくれ。一番奥で良い」

「「「はい」」」

と言って、3人は倉庫に準備に向かった。さて、鎖を準備しなきゃな。


ケーナ達と別れた俺達は、南門でタルート達5人の騎馬と合流した。魔の森に向かって馬車を走らせながら指示を出す。

「アシャさんとタルートさんたちは、魔の森の手前で待機していてくれ。俺がワイバーンを引っ張って来て森の外で叩き落とす。首だけ残して四肢を切り取ってしまえば馬車で運べるだろう」

「我々全員で森に入って行くならまだしも。タケル殿1人で何が出来ると言うんだ」

「1人で魔の森に入るなど。タケル殿になにかあればどうするのだ」

「何を言ってるんだ。ワイバーンを1人で倒すなど無理だ」

騎士達が口々に言う。俺は。

「場合が場合だ、多少の無茶には目を瞑ってもらおう。ワイバーン狩りは前に1度やっているから気にする程の事じゃ無い」

「気にする程じゃ無いか......。さすが、ダルニエル様が自信を持って推薦するだけの事はあると言うことか」

と、タルートが言う。

「アシャさんはワイバーンの止血を頼む。せっかく生け捕りにしても失血死されたんじゃ元も子もないからな。状況によってはかなりの高度から叩き落とす事になるから、エクストラヒールで内臓の回復も頼むよ」

「はい、でも内臓が欠損してしまってはエクストラヒールでは直せませんから気を付けてください」

手足をはじめ内臓の欠損を元に戻すには、メガヒールが必要になる。こいつを使えるヒーラーはこの世界にもほんの数名しかいないそうだ。アシャさんでもエクストラヒールまでだ。でも内臓の損傷は直せる。

「翼1枚、足1本、毒針付きの尻尾を切り落とすだけだ。ワイバーンもBクラスの魔物だ、空から落ちたくらいじゃ大した事にはならないだろう。万が一の保険だよ。よし、この辺りで良いだろう。ツァイ止まってくれ」

馬車を止め、とべーるくんを装着した俺は魔の森に向かって飛び上がった。


「げー、お前ら3匹もいらねえんだよ! 1匹でいいんだよ!」

と言いながら、俺はすれ違いざまに1匹の翼を切り落とした。森に向かって落下するワイバーンを無視して急旋回し、俺に噛みつこうと近づいてきたワイバーンをかわすと、今度は急上昇をする。直ぐ後ろを追いかけてくるワイバーン、俺は刀を鞘に仕舞うと、グローブの魔石に魔力を流しさらに速度を増して上空に駆け上がっていく。そこで、カットバックで急激に速度を落とし、俺を追い抜いたワイバーン追い抜かれながら首に向かって刀を抜き首を切り落とす。

「よっしゃー!」

少し勿体ないかな、まあしょうがねえか。

「よーし、お前は付いてこいよ!」

この間とは違い、グローブの風魔法も使った俺のスピードはワイバーンの速度に拮抗する。それでも、徐々に追いつかれる。急降下や急旋回をしながらヤツから逃げ回る。そろそろ、ヤツが俺の動きに慣れてきたようだ。ちょいとヤバイか? 直ぐ後ろで大口を開けて迫っているであろうワイバーンに食いつかれるのはゴメンなので、とべーるくんを前方斜め上に蹴り上げ、上昇用の魔石に魔力を流し、急ブレーキをかけ森に向かって落ちて行く。

「よっと」

姿勢を戻し、森の中に潜り込む。速度を落とし、木の幹をかわしながらしばらく森の中を移動する。ワイバーンは俺を見失ったようで、上空を旋回している。

「さて、いくか!」

ワイバーンが森の内側に向かって進んでいるのを確認し、俺は森から飛び出した。ヤツを窺うと、俺に気が付いて旋回に入っている。このままなら、何とか逃げ切れるか? アシャさん達が居る方向に向かうのが最善なんだが、大体の方向しかわからない。まあ、森を超えれば見えるだろうけど。


何とか追いつかれる事も無く魔の森の上空から抜けだし、周りを見渡してアシャさん達を見つけた。

「そっちか」

さらに方向転換しながら高度を落とし、アシャさんたちの方に向かってヤツを誘導する。高度が低く縦の旋回が難しい状態だったので、真横に倒れながら急旋回をかけ、そのまま膝をたたんでワイバーンの左の翼の付け根に向かって突っ込んで行きながら、刀に手をかける。

「やー!」

気合と共に抜刀し翼を1枚切り落とす。振り返ると、残った翼が空を向き真横になりながら地面にを滑って行く様子が見えた。俺は、とべーるくんをワイバーンに向けるために旋回に入った。旋回を終えるとヤツに向かって加速して突っ込んで行く。片方の翼を失ったせいか、少しよろよろと立ち上がり俺の方を向いた、振り向いて俺を見据えると。

『ギャーーー』

大きく一声吠えて、口を大きく開いて牙をむき俺を噛み砕こうと駆け出した。あっという間に俺達の間は詰まって行く。とべーるくんの金具を足をひねって外すと。両手を広げ体に風を受け、とべーるくんから飛び降りた。とべーるくんは、ワイバーンの頭に向かって飛んで行く。俺はそのまま、両足で地面を滑り速度を落とすと、ヤツに向かって走り寄った。とべーるくんを避けるように頭をひねったせいで、俺から視線が外れる。俺はそのまま頭を避け左足に向かって切りつけようとする。

「もらった!」

あ、これってフラグか? 首をひねった勢いでそのまま状態をひねり、尻尾についた毒の棘が俺に向かって繰り出される。俺は少し体をずらし尻尾を元から切り取る。尻尾を切り取られたワイバーンはバランスを崩し前のめりに倒れた。

「これで、フィニッシュだ!」

倒れ込んだワイバーンの右足に刀を叩きつけるようにして切り落とした。

『ガーーーーー!』

吠えながら、首を向けて噛みつこうとするが、片足では思うように動けない。俺は刀を鞘に納めリボルバーワンドを抜き、アイスボルトをワイバーンの体中に満遍なく打ち込んで行く。集中して打ち込むと体が砕けちまうからな。徐々に動きが鈍くなって行くワイバーン。そろそろいいかな。インカムでアシャさんを呼びだす。

「アシャさん。馬車をこっちにお願いします」

「はい、店長」

アシャさんが来る前に、傷口だけ塞いどこうかな。凍えているせいだろう血の流出は減っているがこのままだとちょっとヤバイかもしれねえし。ハンマーを動かしハイヒールのカートリッジをバレルに装填するとトリガーを引く。すると、傷口から流れ出る血が止まり、傷口を皮が覆っていく。もちろん欠損部分は再生などしない。

「店長、意外と速かったですね。エクストラヒールは?」

アシャさんと、タルート達がやって来た。

「まだだ。とりあえず、積み込んじまう」

動きの鈍ったワイバーンにオリハルコン製の鎖を使って拘束して行く。荷馬車に載せ固定し、頭に篭状の拘束具を付ける。まあ、こんなもんだろ。

「アシャさん、頼む」

アシャさんが、エクストラヒールをかける。凍えて動けなくなっていたワイバーンがピクリとし。

『ギャーーーー!』

一声吠えて、起き上がろうとして。

『ギャン!』

鎖が鳴った。でも、ヤツは起き上がる事は出来ない。オリハルコンの鎖だ、しかもモデリングで継ぎ目無しで作ったからな、ドラゴンとかならあるは引きちぎれるかもしれないが、傷付いたワイバーンごときに出来る事じゃない。

「よし、出発するぞ!」

俺達は、ガーゼルに向かって馬を走らせた。


「こっちの準備もオーケーだよー」

ガーゼルの街南門の前で、ケーナが手を振りながら言う。

「おー、ご苦労さん。じゃあこのまま走り抜けるぞ!」

ケーナ達の幌馬車と合流し、馬車2台、馬5頭でシュバルリに向かって走りだした。


「しかし、騎士ってのは無茶苦茶するんだな」

夕食を済ませ、と言っても具のほとんど無いスープに乾パンそして干し肉と言った簡単な物だったけどな。食休みをの時間をみんな思い思いにすごしている。

「タケル殿に無茶苦茶などと言われるなど、心外だな。早馬を走らせる時はあのくらい常識だぞ、でなければ、早馬などとは言えまい?」

とタルートが言えば。

「そうだな、1人でワイバーンを生け捕りにするような人間に無茶呼ばわりされる程では無いな」

ガーネットまでそんな事を言う。

「じゃあなにか? 騎士も馬もスタミナポーションでドーピングするのが普通の早馬だってのか?」

「「「「「「常識だな」」」」」」

5人の騎士達とガーネットまで声を揃えてそんな事を言う。馬が可哀想だろうが。

「でも、夜は走らねえんだな」

「足元が見えないのでは危なくて走らせる事は出来ないからな。昼間は目いっぱい走り、暗くなったら、休むのだ」

こんな無茶をしないと4日でシュバルリまで行くなんて事は出来ないって事か。その時、ケーナが歓声をあげた。

「やったー! タケル兄ちゃん。できたよー!」

そう言って、ケーナが俺に向けて薄く伸ばされた銅貨を差し出した。

「やったなケーナ! 凄いじゃないか、こんなに早く出来るようになるなんてな、やっぱりケーナは才能あるんだな」

正直こんなに早く金属の加工が出来るようになるとは思っていなかったんだけどな。

「えー、そうかなー? へへへ」

「ああ、保証する」

「そいつは、銅貨か? どうすればそんな風になるんだね? 道具を使っていた様子はなかったが」

そう言うタルートにケーナが。

「あたしがモデリングでやったんだよ。銅貨で出来たのは今が初めてだけどね」

そう、ケーナはちょっと前から、モデリングのスキルを取る訓練を始めていた。それこそ才能が有るんだろう、あっという間にスキルを取得し、今は金属の変形が出来るようになった。まあ、俺の弟子だからな。これで、魔石に記述式を刻めるようになれば、魔道具職人にもゴーレム術師にだってなれるだろう。

「ほう、モデリングか、一流の職人ならほとんどの者が持っているスキルだったか?」

「モデリングがなきゃ一流になれない訳でもないし、持っていても一流になれるとは限らないがな、物を作る職人にとってはのどから手が出る程欲しいスキルだ。この子には才能が有る。銅貨をこのレベルまで伸ばせれば初心者としちゃ上出来だ」

「へへへー」

「まあ、もう少し均一に伸ばせるようになれば初級レベルは卒業かな」

「この出来で合格ではないのかね? 均一に見えるがね」 

「最初にしちゃ大したもんさ、でも、記述魔法を綺麗に発動させるにはもう少し練習が必要だな」

「はーい。ガンバルよ!」

「頑張るのは良いけど、今日はもうこの辺にして休もうぜ」

本来は、見張りを立てて、順番に起きていないといけないんだが、俺達のパーティにはアインにツァイとライがいるので、人間が見張りをする必要が無い。全員がゆっくり休む事が出来るのだから、明日も万全の体調で走り続ける事が出来る。



今日は、日の出少し前に置きだし、朝食を済ませる。日の出と共に出発だ。昨日のようにスタミナポーションを使いながら、シュバルリを目指す事になする。一応ワイバーンにも乾し肉と水は与えてみた。こいつを飢え死にさせる訳にはいかないからな。


しばらく走ると、小さな村が見えてきた。しかし、立ち寄らずに、走り続ける。昼にはまだ早いし、昼飯を食う暇は無い朝飯と晩飯はしっかり食ってるから平気だ、なんたって人の命が掛かっている。さらに走り続けると遠目に何か見えてきた。あれは?

「タケル殿、前方に大きな倒木が道をふさいでいる」

うん、タルートの言うとおり直径1mを超える大木が道をふさいでいる。馬なら迂回も出来るかも知れないが、俺たちの馬車では、道を外れて走らせることは出来ない。あまり密度は無いけど、馬車では通れない程度の林が道の両側に広がっている。それに......。

「こっちで排除する。アイン、先行して全力でエクスプロージョンだ。あんな倒木なんか吹き飛ばせ」

俺が声をかける。

「ハイ、ますたー」

そう言って、馬車からアインが飛び出した。俺たちは馬車の速度を気持ち下げながらも、止まることなく道を進む。

「タケル殿?」

タルートが、訝しげに俺を呼んだ。アインが倒木まで30m程のところに差し掛かると。倒木の向こう側から、弓をかまえた盗賊風の男達が、立ち上がると。アインに向かって。

「こいつが見えるなら、そこで止まりな!」

と言った。

「構わねえ、ブチかませ!」

俺が叫んだ時には既に、アインの周りには直径3m程の火球が生じ、そのまま倒木に向かって飛んで行く。

『ズッガーンンン!』

大音響を響かせ木が、幅5m程吹き飛んだ。勿論弓を構えた奴らがどうなったかなど言うまでもない。人間よりも木の方が遥かに丈夫だ。アインのエクスプロージョンに驚いたのか、こちらへの攻撃が始まる気配は無い。よし、このまま行けるな。

「盗賊の襲撃だ! タルートさん、みんなもこのまま走り抜けろ!」

と言って、俺はとべーるくんを掴むと馬車の御者席から飛び降りた。

「タケルさん!」

「タケル兄ちゃん!」

「タケル」

「「「「「タケル殿?!」」」」」

みんなが驚いて叫ぶ。俺も叫び返して。

「時間が惜しい、皆は先行してくれ。俺も直ぐに追いつく。こいつらの裏を確認しないと安心して進めないだろ。唯の盗賊だったら全滅させる」

タルート達は騎士だ、いくら急ぎの用が有るとは言え、ここで盗賊をほおっておく事は出来ないだろう。しかし、時間が惜しい。

「「「了解」」」

「なっ、全滅だと。タケル殿!」

驚くタルートに向かって。アシャさんは。

「タルートさん、ここはこのまま走ります。店長に任せれば平気です!」

「しかし」

「時間が無いんです。行きますよ! 店長は勇者ですから。こんなことでどうにかなるはずありません」

「勇者?!」

おはなしくんから、アシャさん達の声が聞こえる。皆が遠ざかって行くのを見送る間もなく両方の茂みの中から俺に向けて矢が飛んでくる。狙いが甘く俺に当たる軌道を取るのは1本だけだ。刀を抜いてそいつを切り払う。とべーるくんを放り出し、リボルバーワンドを抜く。さらに矢が飛んできたが、そいつを避けるように左の茂みに飛び込んだ。背の高い草むらの中に潜みファイアーボルトのカートリッジを装着する。まあ、こいつの火力なら火事にはならないだろう。一番近くで弓を持っている盗賊に向けてトリガーを引く。レーザー状にファイアーボルトを打ち出すカートリッジだ、フェンリルには効かなかったが、ゴブリンは1撃だった。人に使えば。

『ドサ』

まあ、結果は同じだ。さーて、あと何人仕留めればいいかな? 暗く深い森ではないから後1回くらいなら引き金を引いても位置はばれないだろう。移動せずに引き金を引く。

『ドサ』

『ガサガサガサ』

「おい、ゲオ! ゲオがやられてる。どんな手を使いやがったんだ」

「お頭ー、2人やられた!! こっち側にいるぜ!!」

盗賊達が騒いでいる。こいつらの練度は低いな、狩る事にも狩られる事にも慣れていない感じだ。もっとも旅人を狙うだけならこんなもんか。俺は草むらから道の方に向かって素早く移動し、道の反対側が見渡せる辺りに伏せ道を渡ってくる奴らを待つ。道の向こうから盗賊が現れた。

「敵は1人だぞ。何をしてるんだ! これだけなめた真似されたんだ唯じゃおかねえ! たたっ殺してやる」

口汚く叫んで自分を呼んだ手下の方に向かって5人の男が走っていく。弓を持った最後尾の盗賊に狙いを付け引き金を引く。

『ザーッ』

頭を打ち抜かれて又1人倒れ込んだ。よっぽど頭に血が登ってるんだろうな、4人は気が付きもせず草むらに入っていく。俺は少し離れて後を追った。

「くそ、どこに隠れて居やがるんだ! 出てきやがれ!」

奴らを窺うと、倒れた男の所に集まって周りを警戒しながら叫んでいる。んー、やっぱりこいつら唯の盗賊か? 俺達を妨害するために待ち伏せていた訳じゃないのか? 弓を持ったヤツは残り1人だな。そいつに狙いを定め引き金を引く。男が倒れると同時にその場で立ち上がり、道に向かって走りだした。

「いたぞ、あそこだ!」

「やっちまえ!」

「待ちやがれ!」

こいつら頭が悪いのか? それとも怒りで我を忘れてるのか? もう5人しか残ってないのに、普通追いかけてくるかね? 逃げないと次は自分の番だとは考えないらしい。俺は道に出ると、刀とリボルバーワンドを腰に戻して、茂みから少し離れ奴らが出てくるのを待つ。直ぐに盗賊達は茂みから出てきた。

「奴は1人だ! 詠唱する暇を与えなきゃ魔術師なんぞ1人じゃ何にもできやしねえ。一度にかかるぞ!」

「「「「オウ!」」」」

自分達の行動を伝えてから何かしようって言ったところで、俺が大人しく待ってるとでも思ってるんだろうか? 盗賊たちに突っ込みながら、刀に手を掛ける。すれ違いざまに1人を切り払い。更に振り向いてもう1人切り倒す。

「魔術師じゃねえのかよ」

腰が引け、逃げようか迷いが見える手下2人に向けてリボルバーワンドを引き抜き2連射する。眉間を撃ち抜かれ仰向けに倒れる手下達を見て、ようやくどんな人間を相手にしていたか理解したようで、そこには頭と呼ばれていた、盗賊が1人腰を抜かして座り込んだ。

「さーて、あんたには聞きたいことが有るんだ。俺達を狙ったのは、誰かの指示かい? それとも、割の良い獲物にでもみえたのか?」

盗賊に近付きながら尋ねると。

「ひーー、よっ寄るな、化物!」

俺に顔を向け、座ったまま後ずさる。俺は足を止め、奴の左肩を撃ち抜いた。

「ギャー」

一言叫ぶと支えを失った方に向かって倒れ込む。そのまま地面を這って逃げようとする男に向かって。

「もう一度しか聞かねえぞ。誰かの指示で俺達を狙ったのか?」

「そんなもん知らねえ、俺達はただの盗賊だ!」

そう言って俺に振り返り。

「たっ助けてくれ。もうこんなことは止める心を入れ替えて、真っ当に生きるから。勘弁してくれ」

「手際の良い仕掛けだったよな。今までの獲物はどうしてたんだ? 男は皆殺し、女は慰み者、子供は人買いにでも売り払ったのか?」

男は、口を開け閉めして返事ができないようだ。

「何だ、図星か。捻りがねえな、荷物を少しだけ奪って、人を傷付けたりなんかしてねえとか、そういった盗賊とか居ねえのか?」

「バカを言うな。そんな事をしてたんじゃ、直ぐに足が付いちまう。獲れる時には全部取るに決まってる」

「だよな、取られる時は全部取られるんだもんな」

俺は、そう言って引き金を引いた。

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