教会?
「大分出来るようになったじゃないか」
ケイオスと別れた俺がギルドの訓練場を出るとカーシャがいた。
「なんだ、見てたのか。入って一緒にやれば良かったじゃねえか。ケイオスだって嫌とは言わなかったと思うけどな」
「あの男、ケイオスってのかい。剣速はタケルより有ったね」
「だよな、技も凄かったよな。10本中6本しか取れなかったからな」
こっちに来てから、カーシャに次いで負けてるな。しかも、あの感じが有った時にしか勝てなかった。
「取れた時は、出来たんだろ? やっぱり、実力が拮抗してたからかも知れないねえ」
「そんなもんかね。少しだけ感覚が掴めてきたのかな」
そこで、ニヤリとしたカーシャは、俺の襟を後ろから掴むと訓練場に引きずるように入って行った。
「その感じを忘れないうちに体で覚えた方がいいね」
両手にバスタードソードを持ちながらカーシャが言った。
「今日はこれくらいで勘弁してやろうかね」
「ありがとうございました」
俺は、礼をして今日の訓練は終わった。
「でも大したもんだね、5本に1本は取られるようになっちまった」
確かに、前よりずっといい勝負が出来るようになった。しかし、練習用の剣だから肉体的なダメージは無いが、精神的にはボロボロだ。
「あーあ、やっぱりカーシャにはまだまだ敵わねえなー」
「人間を相手にするのが一番難しいね、あたしだってひやひやものさ。でもタケルだけが強くなる訳じゃないからね。あたしだってまだまだ伸び代はある。そう簡単に追い抜かれてやる訳にはいかないさ」
「まあ、一生修行って事なのかね」
「体が動くうちはな。体力が落ちても技でカバーするのさ。継戦能力は落ちるかもしれないけど、それはまだまだ先の話だ」
「だな」
「さーて、晩御飯一緒に食べようか。シルビアのところでいいだろ?」
「ああ、もう腹ペコだ」
「あらあら、カーシャったらタケルさんに負けちゃったのー? タケルさんすごいわね」
食堂が混むまでまだ時間が有るようで、シルビアさんもテーブルの横で俺達の話に加わっている。ケーナ、アシャさん、ガーネットも一緒だ。
「まだ、5回に1回くらいしか勝てないけどね」
「それでも凄い事よー。何と言ってもカーシャ強いもの。Aランクの冒険者とそれだけ戦えるってのは凄い事よ」
「初めて訓練した時には、1本も取られなかったんだけどねー。タケルはドンドン強くなってるね」
「剣だけ強くなれば良いって訳じゃないけどな」
「えー剣が強いっていいじゃないか。強くなれば色々な事が出来るようになるじゃないか。大切な人、大切な物が守れるじゃないか」
と言うケーナに、俺は。
「魔物相手ならそれでも良いのかも知れねえけどな、カーシャと訓練してるのは対人用のもんだからな。人間相手の場合は剣だけ強くてもなー」
気を呑むって言うのはあくまで人間用だ。魔物の考えなんかわかる訳無いんだから無駄なんじゃないだろうか? それに人間個人に対してはになれても、数を揃えられたり人質を取られたり騙されたりと一筋縄ではいかないのが人間だろう。そう考えると、下手な魔物より人間の方が怖いかもしれない。不思議そうな顔をするケーナに、ガーネットが。
「人間は、策を練り、罠を仕掛け、数を頼み、時には金だって力になる。勝った方が強いと言う事だ。常に勝つと言う事は難しい。今日勝てないと思ったら逃げればいい。生きている限り負けでは無い。どんな事をしても良いとは言わないが、必ず勝たなきゃならない時にはそうも言っていられない。難しいのだ、人間を相手にするというのはな」
ガーネットは元騎士だからな、人と戦う事も想定の範囲内だろうし、実際に戦いもしたんだろうな。アシャさんは。
「そうね、人の強さには色々有るものね。私達のパーティは所詮4人しかいないのですから。協力して行きましょうね」
そう言うアシャさんに、俺達は。
「うん!」
「ああ」
「おう」
と返事を返す。カーシャとシルビアさんは俺達の事をやさしい笑顔で見ていた。突然カーシャが。
「そう言えばタケル。ケイオスに渡した剣って、タケルがいつも使ってる魔法剣だよね?」
3人は驚いて。
「「「え?」」」
カーシャは続けて。
「魔法武器は売らないんじゃ無かったのか? ケイオスは良くてあたしがダメってのはどうしてだい? あたしにも売っておくれよ」
それを聞いたアシャさんが。
「店長、ファミーユでは魔法系の武器は売らないってみんなで決めたばかりですよね? それを何ですか。どこの誰ともわからない人に売ったんですか?」
「売ったんじゃなくて貴重な情報の対価として渡した。俺にとっては無茶苦茶貴重な情報だった」
「その情報の対価に剣を要求されたんですか? どれだけ大切な情報だったかは分かりませんけど」
「あいつとは友達になった。と、俺は思ってる。同郷なんだケイオスは。絶対に死んで欲しくないんだ。あの刀なら、ケイオスの腕に答えてくれるはずだ」
ケイオスの使っていた剣は鈍らとは言わないが、とても刀とは言えない出来だった。俺が初めに改造したなんちゃって日本刀まではひどく無いが、こっちの世界の鍛造技術で作られた物のようで、日本刀のようなしなやかで強靭な刃ではなかった。俺の刀ならケイオスは100%実力を発揮できるだろう。
「お友達になったんですか。死んで欲しくないですか。そうですか剣を渡せて良かったですね」
と言ってアシャさんは微笑んでくれた。
「そうだな、店長が鍛えた剣なら何が有っても友達を守ってくれるだろう」
ガーネットも微笑んだ。
「ふーん、あたしは友達じゃないってことか? あー、恋人だからな」
意地悪な笑顔でカーシャがさらりと言うと。アシャさんが俺を睨みつけて。
「てんちょー」
顔を近づけてきた。俺は顔の前に両掌をかざしながら。
「いや、アシャさん落ち着こうか。カーシャ変な事言うなよ」
「ねー、あたしもタケルの魔法剣欲しいよ―」
と言って、カーシャも顔を寄せてくる。
「近い近いって2人とも! あー、わかった、わかった。作る作るよ!」
「やったー!」
と言って、カーシャが俺の頬にキスをした。
「あ」
俺が頬を押さえると。
「「「あーーー」」」
『バシッ!!』
3人の声がハモり。アシャさんの平手が思いっきり大きな音を立てて響き、カーシャが唇を当てた頬と反対の頬に決まった。
「なぜだー」
理不尽だ。
「さーて、次は何を作ろうかなー」
カーシャのグレートソードをオリハルコン製の高周波振動剣として作り。俺の打ち刀も前のと同じ仕様で作り直した俺は、今日は作業場で次にやる事を考えている。冒険者や店の事よりも、やっぱりロボの事を考えている方が楽しいもんな。
「モニターカメラの目処は立った。1、2を争う難しさだろうからな。残った問題点は操縦系だよな」
スティック2本とペダル2個でロボットが操縦者の自由に動くなんて事は無いと思うんだよなー。ゲームだったらともかく、この世界には色々な魔物がいるんだ。様々な場面でロボを使う。それこそ指1本から思ったように動かす必要が有ると思う。クレーンやパワーショベル程度を動かすのでさえ、何本ものスティックやペダルを操る必要が有るみたいだしな。ゴーレム核が有るとは言え細かな作業をスティックで指示するなんて無理だよなー。
「どうやればいいのか全く思い付かない」
まあ、先送りでしょうがないだろうな。
「とすれば、次はやっぱり主砲の開発だよな。うん、最強の遠距離兵器を装備しねえとなー」
相手は戦車じゃあないんだ。成形炸薬弾なんか、どう作ったらいいのかわからねえからな。質量のある実体弾で徹甲榴弾がいいよな。AクラスやSクラスの魔物だったら物理障壁や魔法障壁を持ったヤツって他にもいるんだろうな。実体弾の先頭に物理障壁張って、何かに当たったら障壁が消えるようにして、速度が落ちたら爆発する。当面は魔物を相手にするんだからこれでいいよな。
「何の為の当面かは置いておくとしてだ。それだとフェンリルには効かないかー。あいつAMRの弾ぐらい避けそうだもんな」
んー、専用の銃を作って弾速を上げたらどうだろう? それこそ、よける間も無いくらいの速度だったら?
「AMRの弾速はおそらく音速の2倍くらいだよな。極超音速ってマッハ5とかだったっけ?」
バレルを長くすれば速度は上がるかもしれないけど、あれ以上の長さじゃ取り回しがしずらい。エクスプロージョンで打ち出すかな。
「バレルの中の風魔法の威力を上げないと、弾丸に回転を与える間もなくバレルを飛び出しちまうよう気がするな。反動も強いだろうから、バイポットを地面に固定する為に土魔法も使うか」
AMRはケーナにも取り回しがしやすいようにバレットライフルのM92にしたんだよな。今度のは俺が使う事にして、M82にしようかな、ヘカート2もいいよな。
「ロボに付ける時は、120mmにしようかな。対戦車砲って言ったら120mmだよな。まてよ88mmってのもありかな」
などと考えていると。ガーネットが俺を呼びに来た。
「店長お客さんだぞ。店長にではなくタケルに用事らしいがな」
「俺に客? だれだい?」
「アルト聖教のガーゼル教会の司祭だ」
「司祭って?」
「ガーゼル教会のトップだな」
「え? そんな偉い人が俺を訪ねて来たのか?」
「いや、その司祭の使いだ」
「ですよねー。でも司祭が呼んでるってのは間違いないんだろうな。教会から呼び出しを受ける心当たりが全く無いんだが、行ったほうがいいのかな?」
「この間の商人といい人気者だな店長」
「嬉しくねえ、おっさんに声を掛けられてもゼッンゼン嬉しくねえ」
「やはり、美人でやさしくて可愛くてナイスボディなお姉さんじゃなければ嬉しくは無いか」
「いや、ガーネット違うから、そんなんじゃないからな。俺は心を入れ替えてだな」
「ああ、そうだったな。気立てがいいが抜けていたな。すまない」
「あー、まあいい、その使いって人をあんまり待たせちゃ悪いからな」
俺は外出の準備をする。今日は打ち刀は1本で良いだろう。後はチーフでいいか。
「司祭様って、俺になんの用なんだ?」
「さあ、私はタケル殿を教会までお連れするよう仰せつかっただけですので」
「教会に呼び付けられるような事したかね?」
全く心当たりが無い。行けばわかるんだろうが、行く前に情報が欲しかったな。などと考えているうちに教会に付いた。礼拝堂って言うのかな。椅子が沢山並んだ部屋で待つように言われ司祭が来るのを待つ。それほど待つ事も無く、さっきの使いの人を伴って1人の壮年の男がやって来た。穏かな笑顔を浮かべ近付いてくる。
「お呼び立てして申し訳ありません。私は司祭のボルストロと申します。タケル殿急にお呼びしたのに来てくださりありがとうございます」
「いえいえ、ちょうど店にいましたし、特に急ぎの用は無かったので平気です。で、今日はどう言った用件ですか? 教会に呼ばれるなんて全く心当たりが無いんですが? 俺何かやっちゃいました?」
「ははは、タケル殿、何か勘違いをなさっているようですね。今日は中央、いえ教会本部からタケル殿にお会いしたいとおっしゃる方がお見えになっているのです。応接室でお待ちです。一緒に来ていただけないでしょうか?」
「え? 会わないといけませんか?」
「何か問題が有りますか?」
質問に質問で返されてしまった。教会の偉い人なんて会いたい訳が無い。トラブルの匂いがするもんな。とは言え、人の良さそうな司祭の顔を見ると。ダメだ、何となくトラブルの匂いがするなんて理由で断れる雰囲気じゃ無いなこれは。
「いえ、何も問題は無いです。偉い人と会うなんてちょっと、気が引けただけです。お会いしますよ」
「そんなに緊張なさる事はありませんよ。お呼び立てしたのはこちらの方なのですから。タケル殿はお客様ですよ」
「はあ」
お客様ねー。
俺は、ボルストロ司祭に連れられて教会の廊下を歩き、1枚の扉の前に着いた。ボルストロが。
「この中におられます。それで、申し訳ないのですが、武器をお預かりさせていただきたいのです」
まあそうだろうな、本部の偉いさんが待ってるんだ。武装した冒険者と同席させる訳にはいかねえよな。
「ああ、じゃあこれお願いします」
といって、一緒に付いて来た男に。刀を鞘ごと抜いて渡した。さらにチーフを抜いて、それから棒手裏剣を腰の後ろのホルダーから3本、胸から3本抜いて男に渡そうとして。男が持ち切れない事に気が付いて。
「箱か何か、持って来ては?」
と言うと、男はどこかに走って行った。ボルストロ司祭は呆れているのか、ため息をついて。
「はあー、タケル殿、冒険者とはいつもそのように武器を持っているものなのですか?」
「いえいえ、このサイズの剣なら、普段はもう1本持っている事の方が多いですし、街の外に出る時はワンドはあと2本持ってますね。剣の方が手加減がしやすいんですよ」
「そっ、そうですか」
ボルストロ司祭は若干顔をひきつらせながら言った。そこに大きなトレーを持った男が戻って来たので武器を預けて扉に向かった。そう言えば、領主館に初めて行った時の事を思い出すな。あの時は、婆さんが俺を先に部屋に入れたんだよな。......その後騎士団長の肋骨を折った。まっまあ、ハイヒールしたしな、もう時効だ時効。司祭は扉を開けると自分が先に入室した。後をついて部屋に入る。ざっと中を見ると応接セットに3人、年配の男女1人づつ若い女1人、その両脇に騎士風の武装した男が2人女が1人の計6人が俺を見ている。騎士風の男の若い方が俺に向かって。
「遅いではないか! 貴様、司教様巫女長様をお待たせするとは失礼であろう! 冒険者など所詮その程度か」
俺の都合も聞かずに呼び出しておいて、いきなり失礼呼ばわりかよ。失礼なのはどっちだ。相手の態度がああなら、まじめに相手をする必要はないな。
「司祭殿、俺の武装を返してもらいたい」
あえて武装と言う事で、この場の緊張感を煽ったのだが。その通り部屋の中に緊張が走る。俺は後ろを向いて部屋から出ようとする。
「あ、タケル殿お待ちください」
俺を引きとめるボルストロに振り向くと。
「キャンキャン吠えてるヤツがいつ剣を抜くかわからねえからな」
「誰に向かってそんなふざけた事を言っているのだ。わたしは聖騎士だぞ! 無礼者!」
聖騎士の方を無視して、ボルストロに。
「さっきも言ったろ? 剣がねえと手加減がしずらいんだ」
ボルストロは、聖騎士を気にしながらも。
「手加減ですか」
「ああ、剣が有れば俺がハイヒールで直せる程度のケガで済ませられるがな、無手だとエクストラヒールでなきゃ治らないケガになっちまうかもしれねえ。俺はエクストラヒール使えねえからな。万が一にも教会の中で人死にを出す訳にはいかないだろ?」
「貴様、私を無視するな! そもそも、冒険者風情が聖騎士である私を傷つける事など出来はしない!」
「な? 今にも切りかかりそうだろ? まだ若いんだ。殺しちゃ可哀想だろ?」
と言って、部屋を出た。先ほどの男を探し、刀、リボルバーワンド、棒手裏剣を装備しさっきの部屋に戻るとドアをノックした。ボルストロがドアを開け俺を招き入れた。応接セットに座った3人はそのままだが、聖騎士の3人はさっきと違って、応接セットと入口の間に立っている。若い聖騎士とは違う方の聖騎士が。
「タケル殿、先ほどはバーゼルが失礼な事を申した。申し訳ない。聖騎士団長のこのスカルドの不徳だ」
と頭を下げた。
「いや、別に怒っちゃいねえよ。あんたが頭を下げることはねえさ」
スカルドは頭を上げると。
「では、あらためて、タケル殿には武装を解除していただきたい。我々は司祭様と巫女長様に武器を持った人間を近づける訳にはいかない」
「いやだね。3人も帯剣してるじゃねえか。1人くらい増えてもそれほど変わらねえだろ?」
バーゼルが。
「バカを言うな! 我々はお二方の護衛である。貴様と一緒にするな!」
「じゃあ、その武器を持った3人から誰が俺を守ってくれるんだ?」
「我々は聖騎士だ。そのような心配をするなど、無礼であろう!」
そこで、初めて司教が言葉を発した。
「スカルド団長、かまわぬタケル殿を中へ」
スカルドは。
「しかし」
「タケル殿をお呼びしたのは我々なのだ。そこまでする必要はない」
「はっ!」
聖騎士達は、応接セットの両脇まで下がった。司教が。
「タケル殿、さあ、こちらへ」
俺は頷き、応接セットに座り。
「さて、今日はどんな話が聞けるのかな」
俺が座るのを待って、司教は話始めた。
「さて、タケル殿。私は、アルト聖教本部で司教をさせていただいている。タルカスと申します」
巫女長に顔を向けて。
「こちらは、同じく本部の巫女長でインディゴ殿。そちらの巫女がアカシア。護衛の聖騎士達は聖騎士団団長のスカルド殿、バーゼルにカーマインです」
紹介されるたびに、俺に向かって軽く会釈をしてく。バーゼル以外はだけどな。
「タケル殿、今日お呼びした用件をお話する前に確認させていただきたい事があるのです」
「はあ、なんでしょう」
「うむ、聖歴3016年つまり、今年の1の月1週の1日に行ったカードの更新において、タケル殿に勇者のスキルが付いたと聞いたのですが?」
え? 勇者スキル? なんだそりゃ?
「そんなスキル付いちゃ......」
あれ? そう言えばあの時は、ケーナのタイトルに気を取られて自分のは確認しなかったかな? あーそう言えば忘れてた。そう思って、俺はカードを取り出して右下をつまむ。
「......いね......? 勇者? えーーーー!!」
カードのスキルに『勇者LV1』とある。タルカス司教は満足そうに頷くと。
「うむ、報告の通りでしたか」
ん? 報告のとおり? アルト聖教では、カードの更新で得た情報を収集しているってことか?
「普通ならカードの情報が私の所に来たりはしないのです。いや情報の収集すらしていないのです。ただ今回はフェンリルバスターともガーゼルの英雄とも言われているタケル殿に勇者のスキルが付いたのでね、その噂はガーゼル教会の中だけに留まらず私の耳にまで聞こえてきたのです」
俺が、むっとした顔をしていたからか。そんな言い訳じみた事を言い出した。
「でタケル殿、単刀直入に言うと、教会の後援を受け勇者になっていただけませんか? ガーゼル教会では無く。アルト聖教会の後援です。限りなくAクラスに近いBクラスの後援を、お約束しましょう」
おー、ひょっとしてすげえ高待遇なんじゃねえか? やっぱりフェンリルバスターの肩書はすごいってか? 前もって、この話を聞いていなかったのかバーゼルとカーマインは驚きを隠せない様子だ。
「ついては、勇者パーティの要員として連れてきたのが、こちらのアカシアです。そちらの巫女長インディゴ殿の推薦です」
後を引き継ぐように、インディゴが。
「このアカシアは、本部のあるホーエン教会の若い巫女の中でも才ある者です。回復魔法はエクストラヒールまで使いこなし、他に支援魔法もかなり使えます。勇者パーティのメンバーにおいても十分に働いてくれる人材です」
インディゴに促されアカシアは。
「アカシアです! 勇者様のパーティに加えてもらえたら精一杯頑張ります!」
アカシアは、俺よりも少し若いくらいの歳だろうか? 長く美しい銀の髪に緑色の目をした、やさしげな美少女だ。シスターのような格好をしているので体型は良く分からないが、服を通しても分かるほどのメリハリの利いたボディと言う事は無さそうだ。タルカスが。
「どうだろうか? タケル殿アルト聖教公認の勇者になってくれないだろうか?」
俺が勇者か、全くピンとこない。まあ、ないな。
「あー、アルト聖教の勇者ですか。せっかくのお話なのですが、お断りさせていただきます」
俺の返事に一同が驚きの表情をする。タルカス司教が俺に。
「タケル殿、訳を聞かせていただいてもよろしいですか?」
と聞いてくると。
「貴様、司教様の申し出をお断りするとは、失礼であろう!」
バーゼルが噛みついてくる。こいつ俺の事をよっぽど嫌なんだろうな、きっと、どんな返事でも納得しねえんじゃねえか?
「俺は、しばらくこの街を離れる訳にはいかないんですよ。アルト聖教の勇者になったら、大陸中で仕事をしなければならないんでしょ? そんな事をしている暇は無いんですよ」
「この街に何が有るのです? 何をしようとしているのですか?」
タルカス司教がそう聞いてくる。司教は穏かで、いい人っぽいよな。まあ、いい人なだけじゃ教会なんていう大きな組織の中で上の方の地位になどいられる訳はないだろうけどな。でもなー、ロボって言っても分からねえだろうし。
「今までに無いゴーレムを作っています。技術的な問題もまだ残っていますから、時間がかかるんです。そして何より金が無いんで稼がなきゃならないんです」
「そのゴーレムが出来上がれば、この街に留まる必要は無いのですね。だったら、その費用、アルト聖教会が負担しましょう」
「いや、あれは俺の趣味で作る物です。そいつに、どこかの組織の金が入っていては、落ち着かないんですよね。ゴーレムの性能が俺が考えている通りになれば、俺の自由にならなくなるかも知れませんからね。そうなったら何のために作るのかって事になっちまう。なんってったって、趣味で作るゴーレムですからね」
「そう言えば、タケル殿はガーゼルを襲ったフィフスホーンを止めたゴーレムを作ったんでしたな。となれば、確かにそのゴーレムには魅力を感じますね。しかし、そんな物を作ってしまっては、資金援助などしていなくても、この国もほおっておかないのでは? アルト聖教会の後援を受けておれば、そのような事も無くなるのではないですか?」
「女王陛下はそんな事は言いませんよ、あの人は」
「タケル殿は陛下と親しいのですか。私も何度かお会いしていますが、確かに、女王陛下ご本人はそうかもしれませんね。しかし、女王としての立場ではそうもいかないのではないですか?」
「その時は、逃げ出しますよ。はははは」
「そうですか、逃げますか。はははは」
「そんな訳で、この街を離れられません。残念ですが、今回のお話をお受けできません」
「そうですか、わかりました。ただ、私はまだ諦めた訳ではありません。そのゴーレムが出来上がってからもう一度お考えください」
そこで、インディゴが。
「タケル殿は冒険者をなさっているのでしょう? どうでしょう、このアカシアをタケル殿のパーティに加えてはくださいませんか? 先ほどお話したように、才能豊かな者です。しかし、まだ若く実戦経験も有りません。タケル殿のもとで経験を積ませていただけませんか?」
え? この可愛い美少女を俺のパーティに? いや、まてまて、そんな事をしたら、将来アルト聖教会の勇者に向かってまっしぐらじゃね?
「俺のパーティメンバーにはエクストラヒールが使えるヒーラーがもういるんです。それに、俺の他にもハイヒールが使えるメンバーがもう1人いるんですよ。無理なクエストを受ける事はしていませんし、前衛が2名ですからヒーラーを加えても守る対象が増える事でパーティのバランスが崩れてしまうでしょう。ありがたい申し出ですが、お断りさせていただきます」
「そうですか、残念です」
それを聞いたアカシアが、残念そうな顔をした。あー、もったいなかったかー?
なかなかに美味しい話だったけどしょうがねえよな。組織に取り込まれたら、自由が無くなっちまう。でも、アカシアかー、無茶苦茶美少女だったよなー。まあ、好み的にはアシャさんに軍配が上がるけどな。
「ただいまー」
店のドアを開けると。アシャさん、ガーネット、ケーナがカウンタでお茶を飲みながら、何やら真剣な顔で話をしていた。
「おかえりなさい」
「どんな話だったのだ?」
「タケル兄ちゃん、教会に呼び出されるような事を何かやっちゃったの?」
「ケーナ失礼な事言うなよ。俺は何にもやっちゃいねえよ」
「だったら、何のはなしだったのさ」
「あー、えーと、なんっと言うか」
「なんだ、店長はっきりしないのだな」
んー、みんなに話すならまあいいか。
「んー、俺のスキルに勇者が付いたんで、アルト聖教会の勇者にならないかってさ」
「「「......えーー!!」」」
「勇者って、そんなスキルが付いたなんて一言も言ってなかったじゃないですか」
と、アシャさん。
「年始のカード更新の時に付いたらしいんだけどな。ケーナのタイトルに驚いて、自分のカードの中身を確認してなかったんだよ。あははは」
「タケルさん、アハハハじゃないですよ。そんな大事な事に気が付かないなんて。まったく、どんな神経しているのかしら」
ガーネットが。
「で、アルト聖教会の勇者に誘われたのか? ガーゼル教会では無く? 本部付きって事か? 凄いじゃないか。国の公認とはいかないが、Bクラスの後援でも提示して来たか?」
「ああ、Aクラスに限りなく近いBクラスの後援が得られるそうだ」
アシャさんが。
「国の公認では無いのでAクラスにはならないでしょうが、アルト聖教会の組織力を考えれば、小さな国の公認以上の後援を受けられるじゃないですか」
ガーネットも。
「うん、そう言う事かもしれないな」
「まあ、断っちまったけどな」
「「「えーーー勿体ない!!」」」
その後、事情を話したところ、俺の考えはわかってもらえた。特にアカシアの話を聞いたアシャさんは安心したような顔をしていた。......ような気がした。