勧誘
「おー、映った映った。ちゃんと映るじゃないかスゲースゲー」
とは言え、鏡の精度のいせいか水晶球の精度のせいか、それほどクリアな画像ではない。でも、ちゃんと店の前の道が鏡に映し出されている。
「もっとちゃんと仕上げてやればきちんとした画像になるかな?」
そして、魔道具を起動させたまま。資料と記述式に目を通していく。カメラ代わりの水晶球は、金属製の箱から3分の1ほど顔をのぞかせて正面の風景を映し、モニター代わりの鏡はガラス製では無く金属製だ。曇りの無い水晶をきちんと研磨したり、モニターも歪みが無いように仕上げればいいんだろうな。
「なるほどー。遠見の鏡かー。こんな事が可能だとはねー。」
資料を読んでみると。遠見の鏡とは文字通り遠くの風景を見る事の出来る探知系の上級魔法で。見たい場所を指定し、その風景を目の前に用意した鏡に映し出す事が出来る。何も無い状態でカメラのような機能を魔力だけで実行させる詠唱と、場所の指定をする詠唱、映像を送受信する詠唱、鏡に映し出す詠唱と。まあ、無茶苦茶長い詠唱が必要で、その為に上級魔法になる。しかしこいつは、カメラ部分を水晶球を使った魔道具とする事で大幅に詠唱部分(魔道具なので記述部分になるが、)をカットし、さらにモニター部分と別パーツにする事で魔道具として機能する中級魔法の範囲に納める事に成功している。かなり無理に中級魔法に納めた為にカメラとモニター間の距離が10m程になってしまったようだ。でも、この距離については研究次第で伸びるんじゃねえか? そして、カメラを設置しなければならない事から場所を自由に設定する事は出来ない。というか設定する必要がないからさらに記述式を減らす事に成功している。ソークラスの親父さんは天才だな。
「おかげで実用的な魔道具とはとても言えない代物になっちまてるがな」
でも、10数メートルのサイズのロボのカメラにするには十分な性能と言える。いやー、俺が研究してこの結論に達するのは無理だったな。こいつを見た今なら、魔道具を機能ごとに分けると言う合理的な方法を使う事が出来るけどな。
「こいつは良い勉強になるな」
「何の勉強をしてるんだい?」
その声に顔を上げると。
「カーシャ、どうしたんだ? しばらく忙しいから訓練は出来ないって言ったじゃないか」
「ふふふ、タケルの顔をしばらく見て無かったからね、寂しくて来ちまったよ」
「え」
顔が熱くなった気がした。
「あははは。タケル可愛いね」
「かっ、からかうなよ」
あせって言うと。
「ところで、何してるんだい?」
と言いながら、鏡を覗き込んで。
「へー、新しい魔道具かい? 表の景色が映る鏡?」
「まあね、俺が作った物じゃねえけどな。水晶球の魔道具を置いた場所の風景が映し出せるんだ。と言っても、10m以上離したんじゃ使えないんだけどな。今は店の外に置いて、外の景色を映してるんだよ。オリハルコン製の高周波ブレードのノミに彫刻刀9本セットと交換したんだ」
「タケル言い間違ってるよ。10mじゃなくて10kmの間違いだろ?」
「いやいや、10mさ」
「たった10mかい? そんな魔道具何に使うんだい? 10mぽっち歩けばいいじゃないか」
「こいつはな、途中の障害物の有無に係わらず映像を映し出せるんだよ。どうだ? すげえだろ?」
「覗き意外に使い道の無い魔道具ですね。そんな物と木工道具セットを交換したんですか? タケルさんが作った道具セットなら100000イェンくらいするんじゃないんですか?」
「あれ、アシャさん。いやいや、ノミと彫刻刀だからな、刃の部分が小さいからな30000イェンくらいじゃねえかな? この前ダ―ロットに解体用の包丁を長いヤツ1本と2セット売った時に150000イェンだったからな」
「それだって、魔法剣とは思えないほど安いですよね」
「え? タケルって魔法剣作れるのかい?」
「ん? 作れるぞ。まあ、大した魔法が付与出来る訳じゃねえけどな」
「なあタケル。あたしに」
「いえ、ダメです。みんなで話し合った結果、ファミーユでは魔法系の武器は売らない事になりました」
「えー、アシャそんな事言わないでさー。あたしだけ特別って事で良いじゃないか。なあタケル」
「そう言う訳にはいかねえだろ。カーシャだけで済む訳が無いからな。ところで、アシャさん何か用事でもあったんじゃ?」
「ああ、そうでした。店長に会いたいと言うお客さんがお店にみえています」
「おう、今行く」
「じゃあ、あたしは今日はこれで帰るか。タケル、アシャまたね」
「またな」
「はい、またいらしてください」
カーシャは帰って行った。俺は水晶球の魔道具を回収してから、店に向かった。カウンターには、上等な服を着た貴族か大商人のような男が椅子に腰かけ、その後ろに冒険者? いや、護衛か? の男と、普通の服を着た男が立っている。ん? 護衛の男が持っているのは刀か? 反りが入った剣を腰に吊っている。サイズや反りを見る限り、打ち刀か? この世界にも日本刀が有るのか? 俺は3人に近づきながら。
「お待たせしました。俺が店長のタケルです」
「お前がタケル......若いな? まあ良い、それほど待たされてもおらん。わたしは、ホーラン商会アースデリア支店の支店長をしているアルガスだ。こっちは、本店で職人頭をしているトロスラそして、護衛のケイオスだ」
へー職人頭ねー、いかにも頑固職人って感じだな。それよりも護衛のケイオスねー、なんだか剣呑な雰囲気だな。俺はアシャさんの方を振り向いて。
「ホーラン商会? アシャさん知ってる?」
「はあー。店長は本当に常識無いですよね、ホーラン商会も知らないんですか? 商業国として有名なホグラン国で1、2を争う大店です。つまり、この大陸で1、2を争う商会と言う事です」
アルガスが顔をゆがめているが、知らない物は知らないんだから仕方が無い。一応アルガスに頭を下げながら。
「えーと、スミマセン。田舎から出てきたばかりで世事に疎くて。商会と言えばこの前ちょっとした事があったバロウズ商会くらいしか知らないもので」
するとアルガスは少しむっとしながら。
「バロウズ商会も国では5本の指に入ると言われている商会だが、うちの商会と比較される事など無い規模だ。うちの会頭は商業ギルドのグランドマスターでもあるのだからな」
「はあ、で、今日は何の御用でしょう?」
「その前にこの店で扱っている鍛冶品と魔道具を見せてもらおう」
「わかりました」
そう返事をして、カウンターに見本を並べる。練習用の剣、みえーるくん、おおごえくん、おはなしくん、そして、俺が普段使っているまもーるくん試作1号を出し一つ一つ説明した。説明を聞きながらトロスラは魔道具を手に取り、確かめている。
一通り確認したトロスラは。
「確かに、見た事も無い魔道具ですが、機能は素晴らしい物ですね。闘技場の魔道具と同じ人間が作った物でしょう。その若さでこれだけの魔道具を作るとは、先々楽しみな職人です」
闘技場の魔道具? あー、マイクとスピーカーか。
「なるほど、では、この書類にサインをしろ。明日の朝一番で本店に向かう用意しておけ」
と言うと。1枚の紙を差し出した。そいつを手に取り、後ろのアシャさんにも見えるようにして中を読んでみる。へー、雇用契約書か? 何ともふざけた内容の契約書だ。要約すると。10年契約で延長有り、ただしホーラン商会側にしか中途解約の権利は無い。年俸制で2000000イェン。俺が開発した魔道具の販売権は商会にあり、そいつの売り上げの10%が俺の収入になる。
「それなりに好条件にも見えない事も無いですね」
アシャさんが言った。
「当たり前だ。海の物とも山の物ともわからん職人に提示する条件としてはこれ以上破格の条件など無い。あまり時間をかけるな。書類にサインしろ」
もう丁寧な応対をする必要はねえな。
「断る」
「何? お前、断ると言ったか? あまりの好条件で気が動転したか? もう一度言おう。さっさとサインをしろ」
「こんな、条件を飲める訳ないだろう? あんた、俺の事をどの程度調べたんだ? 本店から職人頭を連れてくるくらいだから少しは調べたんだろうが、商人としちゃ落第だな」
顔をゆがめ、アルガスが。
「なんだと!」
「調査があまいと言っているんだ。ロクに俺の事を調べもしないで年俸がたったの2000000イェンだって? 随分安く見られたもんだな」
すると、トロスラが。
「確かに、お前さんの魔道具は珍しい物だ。機能も凄いとは思うが、魔道具職人の俸給だ。それでも多いくらいなのだぞ。さらに、売り上げの10%も別途報酬が出るのだ。破格の待遇と支店長がおっしゃったのは嘘では無い」
商人だから、商売の場合はきちんと情報収集するんだろうが、唯の職人だと思ってロクに調査なんかしてないんだろう。
「魔道具職人の俸給はそんなもんなのかも知れねえけどな。俺は、唯の魔道具職人って訳じゃねえぞ」
それを聞きアルガスは。
「何を言うか。魔道具職人でなくてなんだと言うのだ? まさか、冒険者だとでも言うつもりか? 冒険者など定職につけない者が生活するために付く仕事ではないか」
「まあ、冒険者でも有るんだけどな。魔道具職人兼鍛冶士兼ゴーレム術士兼雑貨屋の店長だ」
「フン、器用貧乏なだけだろうが、成人したばかりの者がそれほどの数の技術をまともに修めているいる筈がないからな」
「そうか? 鍛冶ギルドもゴーレムギルドもAランクなんだけどな」
「「何だと!」」
アルガスとトロスラが驚いて声を上げる。ケイオスの雰囲気は変わらないな。まあ、護衛なんだから商売に関心はないか。
「「「ただいまー(タダイマー)」」」
その時ケーナとアインとフィーアが帰って来た。今日ケーナはお使いクエストをやっていた。アインはいつもどおり手伝いだし、フィーアは顔見せを兼ねてケーナを手伝っていた。
「「「おかえり」」」
俺とアシャさんガーネットが返事を返す。
「アインちょっと来てくれ」
「ハイ、ますたー」
俺はトロスラを見て。
「このゴーレムは。俺が1から作ったゴーレムだ。半透明の顔パーツはアダマンタイト。俺が鍛えたもんだぜ、もちろん透明にも出来る。それに、ゴーレムギルド員でゴーレムホースを作れるのは俺だけだ。他のは全部ゴーレムドンキーだからな。そんな職人に向かって、年俸2000000イェンぽっちしか出せないとはな、ホーラン商会って、資金繰りに困ってるのか? それとも情報収集能力が三流以下なのか?」
2人は驚いている。
「だいたい、雇用契約書だって、1枚ってのは無いんじゃないか? 最後の文章と契約日の間にそれだけ隙間が開いてるんだ。サインした後、書きたい放題じゃねえか。まあ、大陸で1、2を争う大店なんだ、指定期日までに指定数量が完成しない場合は年俸を半減するとか書いて、絶対に完成しない程の量を指定するなんてセコイ真似はしねえと思うけどな」
2人の顔が赤くなり怒りを込めて俺を睨んでいる。なんだ、当たりか?
「ばっ、バカを言うな。けっ契約書は出し忘れただけだ」
「なんだ慌てて、そんな大事な物を出し忘れる程度で、支店長が出来るのかい? あー、アースデリア支店長ってのは左遷場所なのか!」
俺の言葉を聞き、怒って立ち上がったアルガスが顔をあたくして叫んだ。
「なんだと! ケイオス! こいつを切れ!」
あれ? 本当に左遷だったのか? それにしても沸点が低い男だな。ケイオスが腰の剣に手を当てた時にはすでに、俺は腰の後ろのホルスターからチーフを抜きアルガスに向けていた。
「動くな! こいつは無詠唱で攻撃魔法が発動するワンドだ。」
ケイオスは驚いた表情で動きを止めた。アルガスの顔は今度は青ざめた。
「いい判断だケイオスさん。アルガス、命拾いしたな。この距離でアースボルト食らうと死んじまうぞ」
そう言って、床に向けて1度引き金を引いた。『ドン』と言う音と共に、床に穴が空いた。
「くっ、今日のところは帰るが、唯で済むとは思わない事だな。うちの会頭は商業ギルドのグランドマスターだ。こんな事をして商売を続けられると思っているのか!」
「今まで、1度も商業ギルドの世話になった事は無いし、これからも係わる事は無いな。材料も販売も商業ギルドを通す必要は無いし、この店だけで商売が出来りゃいい」
アルガスは顔を歪めると、早足で出口に向かい。トロスラが慌てて追いかける。ケイオスは出口のところで振り向く事も無く小声で。
「エトランジェか」
と言った。
「エトランジェ? なんだそれ?」
俺が聞き返したが、そのまま店を出て行った。ガーネットが。
「あの商人、失礼な男だな」
アシャさんはそれに同意して。
「本当にそうですね。でも店長、だれかれ構わず喧嘩を売るのはどうかと思いますよ」
「確かに、店長は少し自重した方が良いんじゃないか」
「そうは言ってもさ、最初から失礼な物言いだったろあいつ。それでも客だと思って丁寧に相手してたよ俺は」
「それは今更だとして、あのケイオスと言う護衛だが」
「ああ、えらく剣呑な雰囲気出してたな。最後に言ったエトランジェって何のことだろうな」
エトランジェ......、異邦人だったっけ? 確かに俺は異邦人と言えるか。
「さあな、そんな事言ってたのか?」
「私もよく聞えませんでしたね。店長が殺気を出してたから、その事に対してなにか言ったんじゃないですか?」
「え? そんな物出てた? まいったな、温厚な性格のはずなのに」
「タケル兄ちゃん、温厚の意味知ってる?」
「もちろん、俺みたいな穏かな性格のことさ」
「「「「「はー」」」」」
なんだよ、失礼だな。
翌日は、冒険者も店も休みにした。俺は作業場で、遠見の魔道具の魔法陣の解析をしている。すると、店と作業場の間にある戸が開き。
「不用心だな」
「あんたが来るんじゃないかと思ってさ」
振り向くと、扉に手を掛けたケイオスが居る。
「まあ、お茶くらい出すから、カウンターに座ってくれ」
2人分のお茶を入れ俺も椅子に座って、ケイオスの方を向き。
「で、昨日帰り際に言ったエトランジェの意味でも話してくれるのかい?」
「お前の返答次第ではその話もするかもな」
そう言うと。一口お茶を飲んでから。
「お前が昨日出したワンドだが、あれは誰が作ったんだ?」
「ん? 俺だけど?」
「スミス&ウェッソンのチーフスペシャル型のワンドか、渋いチョイスだよな」
「チーフスペシャル? なんだいそれは?」
とりあえずとぼけてみたが、ケイオスも俺と同じでアルトガイストに来た者なんだろうな。
「とぼける事は無いさ。『アルトガイストへようこそ~』の方だろ?」
の方だろ......? なんだか変な言い方だな。まあ、ここまで来てとぼける事も無いか。
「ああそうだ、間違って買っちまったゲームを起動して、キャラクター設定をしたらこの世界にいた」
「俺は、こっちに来て10年以上になるんだが、9年ぶりにエトランジェに会えたんで懐かしくてな、2人で合いたくなって来ちまったよ。しかし、お前さん大分若いな」
「17才だ。だいたい10年前に来たんだけどな。チュートリアルステージが終わって時間と場所が飛んじまって、この街の外に転移してかれこれ半年になる。元は高校2年でもう直ぐ17才だった」
「なんだ、俺と同じころにこっちに来たのか。残念だな、マンガやラノベの続きが気になってたんだがわからずじまいか」
「そいつはすまなかった。もっとも、かなり偏った読み方だったからな、ご期待にはそえなかったと思うけどな」
「そうか? 結構有名なヤツだったんだぜ」
その後向こうの話で盛り上がった。俺がそっち方面に転んだのはそれほど前じゃないし、ロボがメインだったから話が合わないかと思ったが、ケイオスは知識量も範囲も広く俺に合わせて話をしてくれた。一区切りした所でお茶を入れ直し俺が切り出した。
「ところで、アルトガイストってなんなんだ? モニターの文字を信じるなら魂を複製してこっちの世界にステータスを反映されて作られた体に入れたって事なんだろうけど」
「ああ、それで合ってる。時間と場所が飛ぶとは知らなかったな」
ケイオスはこっちに来てから普通に暮らして来たのか。
「俺はこっちに来て直ぐに、奴らに声をかけられたからな。チュートリアルは終わらなかったんだな」
「奴らって?」
「俺やタケルは望んでこっちに来た訳じゃない。あのソフトを起動したせいだろ? でも、ソフトを組んだ奴とそいつの仲間は承知の上でアルトガイストに来た。そいつらは、もっとSSポイントが多くて、有る程度計画的にポイントを割り振ったんだ。自分たちを来訪者と呼んでいたな。俺達のように知らずにゲームを起動してこっちに来た者達をエトランジェと呼んでいた。SSポイントが俺なんかの数倍有ったみたいでな、来訪者はチート持ちだよ。で、ソフトを組んだ奴、そいつがリーダーなんだが、まあ、さらなるチートだな。エトランジェを探して仲間に誘ってたんだ」
「ケイオスは誘いを断ったのか?」
「いや、何もわからない世界で、同郷のヤツに声をかけられたんだ、仲間になったよ。そこで、色々と説明を受けた。もっとも、本当の事を教えられたのかどうかなんて判断出来ねえがな。今思うと、奴らに都合のいい事を言っていた部分だって有ったんじゃねえかと思ってる。なんたって下っ端構成員だったからな」
下っ端とか、ちゃんとした組織が有るって事か。
「でもケイオスって、今は商会の護衛なんだろ。何が有ったかは聞かねえけど、脱退も認めてるのか?」
「奴らも、日本人なんだよ。脱退するヤツには死を。なんて事は言わねえのさ。まあ、あの当時はって事かも知れねえけどな。俺は、身体強化と剣術に極振りしたおかげでさ、指揮官とかには出世できっこねえってよ、ハブられたって訳さ。17歳のガキだ、そんな環境に耐えられなくってよ。あっちも去る者は追わずってスタンスだったからな」
「ふーん、自分たちの価値観に合わないヤツはハブるって、確かに日本人だな」
「だよな」
「ところで、来訪者やエトランジェ達ってこの世界でなにしてるんだ?」
「俺達エトランジェはこの世界を楽しもうって感じだったかな。地球に元のままの自分自身が残ってるんだから、どうせ帰れねえ。だったら、こっちの世界で上がったスキルで俺ツエー!! ってやってみたいじゃないか」
「まあ、気持ちはわかるよ。俺もそうだからな、まあ俺の場合はツエーって方向じゃなくて、趣味全開って感じだけどな」
「ああ、昨日のゴーレムだな、喋るゴーレムなんて初めて見たぞ。凄いアンドロイドだな」
「ふふふ、あれは巨大ロボを作る為の試作品だ」
「は? 巨大ロボ? そんなもん作って何するんだ? 世界征服か国際救助でもするってのか?」
「そんな物が目的じゃ無い。自分のロボを操縦するのが目的だ! ロボを自由に扱えるなら魔物退治だろうと土木工事だろうとかまわねえよ」
「なるほどな、わかるよ」
「で、来訪者達は?」
「基本同じだ。奴らもゲーマーだったみたいだしな」
「だったらなんでエトランジェなんかを呼び込んだんだ? 自分たちより能力が低い奴らを仲間に加えたって邪魔なだけだろ?」
「タケルって、MMORPGってやった事あるか?」
「いや、ゲームはオフラインだけだな。ロボを作り込んでミッションをこなすって面では、どうしてもオフラインの方が深いと思ってさ。MMORPGだと、仲間と協力してとか、お互いに足りない部分を補ってとかさ、ロボ本体の作り込みは甘いんじゃねえかと思ってね」
「そうかも知れないな。MMORPGってのはさ、課金量やIN時間でキャラのステータスが大きく変わるんだよ。自分が犠牲にした何かに対するリターンが有るんだよ、現実と違ってな。自分の強さに対する憧れの視線や、やっかみの視線なんかがご褒美なのさ。来訪者だけじゃその気持ちは味わえないだろ? 言ってみればこっちの人間はNPCみてえなもんだからな。自分たちより劣るのは当り前だしな。スキルやステータスが高い事を自慢出来ないんじゃつまらねえとか考えたんじゃねえかな、と俺は思ってた」
「そう言うもんかね」
自分の努力で身に付けた訳じゃねえ物を自慢されてもな。
「まあ、そんな話をされた訳じゃねえから、あくまでも俺の主観だけどな。1年足らずしか一緒に居なかったからな。でも、そんな風に考えてるんじゃねえかて言う来訪者はいたと思う」
「同意は出来ねえけど、気持ちは分からないでも無いな」
「さて、邪魔しちまったな」
「いや、かまわねえさ。ところで今日は時間有ったのか? 昨日はアルガスが今日の朝出るって言って無かったか?」
「本店から職人頭まで呼んであの通りの結果だからな。言い訳と相談の手紙を書いて指示を仰がなきゃならねえんだとさ。昨夜徹夜で手紙を書いて朝一で送ったみたいでな。今日は休んで明日の朝アースデリアに出発だとさ。今日は1日休みを貰ったって訳さ」
「だったら、一緒に昼飯でもどうだい?」
「いいねー、もう少し向こうの話もしてえしな。午後も空いてるんだ、ちょっと手合わせでもしねえか? フェンリルバスターの実力を見せてくれよ」
「ケイオスは俺がフェンリルバスターだって知ってたのか?」
「ああ、その辺の情報は俺が止めておいた。闘技場のマイクとスピーカーを作った人間を探してただけだったからな。タケルがエトランジェなんじゃないかと思ってたんでね、俺が会いたかったんだ。余計な情報を渡して金策とかで時間がかかったんじゃつまらないからな。タケルの実力じゃ支店長決済で動かせる年俸を越えちまうからな。ははは」
「なるほどね」
「そうそう、奴らにも義理が有るからあまり詳しい情報は出せねえけどな、来訪者とエトランジェで小さな国を乗っ取ったようだ。で、当り前だが、その国は大きくなり始めている。中枢に色々なスキル持ちがいるんだからな。タケルがこの世界で活躍していけばいづれ係わる事も有るかも知れねえ。気を付けな、奴らは化け物だ」
「覚えておくよ。出来れば係わりたくねえなー」
俺達は店を出て、シルビアの宿で昼飯を食った。例のナルルムのメロールをやったら、ケイオスに受けた。
その後、冒険者ギルドの訓練場を借りて俺達2人は向かい合った。剣は俺がもって来た練習用の刀だ。
「ふーん、こいつなら思いっきり訓練出来るな。昨日聞いて面白いって思ってたんだよ」
そう言うと、ケイオスは腰を下げ鞘を左手で支え右手で柄を握る。ふーん、抜刀術か? それを見た俺は2本差した打ち刀のうち1本を抜くと、下段に構える。
「ふふふ、さあ始めようか」
「ああ」
俺はじりじりと、ケイオスとの間合いを詰めていく。ケイオスは俺を待つ構えだ。切っ先を少しだけ上げると俺はケイオスに向かって飛びこんだ。間合いは遠すぎるくらいだと思う。それを待っていたかのようにケイオスは刀を抜いた。いや、抜こうとしたが正しい。遠い間合いから俺の切っ先がケイオスの刀の柄頭を直撃した。ケイオスの刀を鞘に戻した俺は、左手で抜いたもう1本の刀でケイオスの胴を打ち抜いた。鞘に収まった刀は間合いが掴みにいものだが、うちの流派にはそいつに対応する方法もある。
「いやー、まいった。剣術も抜刀術も結構スキルレベル高いんだぜ。凄いなタケル。初見じゃ絶対に勝てねえな。今のはお前さんのオリジナルかい?」
「家の流派は無茶苦茶実戦的なんだ」
「剣道か、何段だったんだ?」
「剣術だよ、奥伝の2段目ってところさ」
「剣術? 奥伝? なんだいそりゃ」
「人を殺すためだけの技術だよ」
「おー、何だかすげえな。それにしても本当にダメージ無いんだな」
そう言うと、今度は剣を抜いて正眼に構える。俺も正眼に構えた。
「いやー、まいったまいった。さすがフェンリルバスターだな。いい経験させてもらったよ。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
俺達は握手を交わし。
「さて、また会おうぜ」
「ああ、またな」
手を振って訓練場を出て行こうとするケイオスに。
「そうだ、ケイオス。こいつを使ってくれ」
と言って、腰の刀を1本抜く。
「ん? そいつを? 大事なもんじゃないのか?」
「俺が作った刀だ。刃はオリハルコンだから、少し重いがそこは勘弁してくれ」
「おー、オリハルコン製の刀か。そいつは嬉しいな。金を出せば買えるってもんじゃねえからな。ほんとにいいのか?」
「いい話が聞けたからな。俺ばっかり得するのは対等な友達じゃねえだろ?」
「友達か。......そうだな、友達だ」
「そいつは、鍔の方の魔石に魔力を流すと高周波振動する魔法剣だ。俺は、オリハルコンの鎧なら叩き切れる。たぶん、ケイオスも出来るだろう。そして、柄頭の方の魔石に魔力を流すと、刃に物理障壁を張る。練習用じゃねえから打ち所が悪いと殺しちまうから気を付けろよ。俺は峰打ち機能って読んでる」
「安心しろ峰打ちだって、言いたいために付けたんだろ?」
「当たりだ。あははは」
「あはははは」
「で、ここからは出来れば秘密にして欲しいんだけどな」
「ああ、必ず守ろう」
俺は、小声で。
「物理障壁同士がぶつかると、干渉しあって障壁が消える」
「え?」
「つまり魔石への魔力の流し方によっては、そいつで切れない物は少ない。俺が作るまもーるくんは対策してあるけどな」
「そいつは、何と言っていいか。わかった必ず秘密は守る」
「なるべくでいいさ。気が付いてるやつは他にもいるはずさ。自分のアドバンテージだ誰にも言わずに秘密にしてるんじゃねえかと思ってる」
「かもしれねえが、誰にも言わねえよ」
「誰かに引き継ぐ時にはそいつには教えてやれよ。自分の子供とかな」
「ははは、元ゲーマーのオタクには結婚はハードル高いぜ。タケルは良いよな、あんな美人が側にいるんだもんな。ハーレム状態だよな。リア充爆発シロ」
「そんなんじゃねえよ、あの3人はただのパーティメンバーだ」
「リア充はみんなそう言うんだ、爆ゼロ」
「勝手に言ってろ」
「じゃあ、またなー」
「おう、またな」
今日で書き始めて1年になりました。閲覧数に励まされて1年過ぎました。
読んでくださって感謝です。よろしければ完結までお付き合いください。