こいつは買いだろ
「シロの事か? シロってランドドラゴンの子供じゃ無かったのか?」
ガーネットが。
「やっぱりシロの事なのだろうな。ランドドラゴンは飛べないのだから、シロは別種のドラゴンなのだろうとは思っていたのだがな」
アシャさんは。
「なにはともあれ、教会の中でする話では無いでしょう。お店に行きませんか?」
「そうだな。戻ろう」
店の中で椅子に座ると。アシャさんが全員分のお茶を用意してくれた。お茶を一口飲んで落ち着いてから、アシャさんが。
「シロと言うのは、この前街を襲ったフィフスホーンが迎えに来たランドドラゴンの子供ですよね?」
俺は。
「ああ、そうなんだけど。ケーナのタイトルから見ると、あれはシルバードラゴンの子供って事なんだろうな。ひょっとすると、ドラゴンってのは自分で子育てをするんじゃなくて、ランドドラゴンを養い親として子供を育てるのかね?」
ガーネットが。
「ドラゴンの事で私達人間にわかっている事などほとんど無いのだ。めったに人間の前に姿を現す事など無いし、比較的小型のレッドドラゴンでさえ現れた時はまるで災害のような被害を出す。そんな魔物だ。」
ケーナは。
「でも、この間ご領主様のところで聞いた話だと、伝説のドラゴンライダーって人がドラゴンに乗って悪い国を滅ぼしたって言ってたよ。悪い魔物ばかりじゃないんじゃないのドラゴンって」
「そうかもしれませんね、あくまでも伝説のお話ですから、本当に有った事なのかどうかはわかりませんけどね」
「シロがシルバードラゴンの子供だとして、ケーナのタイトルのシルバードラゴンのフィアンセってヤツは何なんだろうな」
俺はケーナの方を見ながら言った。
「あたしにわかる訳無いよ」
ガーネットが。
「シロが自分の角を差し出し、ケーナはそれを受け取った。あれがプロポーズで、ケーナはそれを承諾したと言う事なのではないか?」
「えー。そんなの知らないよー」
「まあ、そう考えると辻褄は合うよな。ケーナ婚約おめでとう。将来有望な若者をゲット出来て良かったじゃねえか。まあ、ちょいと年下かも知れねえし、種族も違うが、全ての障害を乗り越えて愛を育んでくれたまえ。愛さえ有ればきっと乗り越えられるさー」
「あたし、婚約なんかした覚えないよー」
ケーナは少し涙目だ。
「けーなオメデトウ、将来有望ドコロカ考エラレル限リ最強ノぱーとなーダネ」
「アインも、何言ってんだよ!」
「ふふふ、まあ、どう言う事なのかは今はまだわからないんですから。ケーナちゃんをからかっちゃいけませんよ。店長もアインも」
「そうだ、ケーナにとっては重要な事なのだぞ。兄なのだから、まじめに相談に乗ってやるのが本当だろうう? それをそのようにからかうなど、どうかと思うがな」
「あ、いや、そんなつもりじゃなかったんだ。訳の分からない事態で重くなりそうな雰囲気をだな、少しでも和らげようと思っての事なんだ。からかうつもりなんかこれっぽっちもないぞ」
俺は目の前で指を摘んで見せる。つづけて。
「まあケーナのタイトルについてはドラゴンの事が全くわからない状況でこれ以上考えても仕方ねえよな。ただ言える事は、これから厄介事が増えるかも知れねえって事だな」
ケーナが不思議そうな声で。
「厄介事って?」
「まず、シロをガーゼルの街に連れて来た奴もしくは奴らが居る。今回はケーナのせいで計略は中途半端な結果に終わった訳だけどな。そいつらがまた何か仕組むかもしれねえ」
アシャさんが。
「それはそうかも知れないですね」
ガーネットも。
「フィフスホーンの保護下に有ったシロをさらいガーゼルの街に置いた奴らか、この街を壊滅させる事を狙っていたのかもしれないな」
「そう言う事。ガーゼルの街はアースデリア王国の国境に一番近い街だ。ここを押さえられると、この国は外と交流する手段を失う。さらに、この街を起点として王国を攻めるなんて事も出来るんじゃねえかな?」
「とすると、目標を達成できなかった連中は手を替えて、ということか?」
「そうかもな、ただ仮にそうだとしても、領主は気が付いてるんだから俺達が出来る事は無いだろ。何かが起きた時に対処するしかないよな。それとは別に、シロとケーナに繋がりが出来た事によって俺達に何か厄介事でも降りかかるんじゃねえかなー、なんて思ったりしてね」
「何かって、何さ。変な事言わないでよ」
「そうですよ、訳の分からない事を言って脅かさないでください」
「脅かすつもりなんてないんだけどさ、これからドラゴンが絡んできたりしたら面倒だなと思っただけさ」
対ドラゴン用の武器を作っておこうかな。
「ロボが出来上がるまでの繋ぎになるような物が何か作れねえかな」
「何だ? そのロボが出来ればドラゴンより強力なように聞こえるが?」
ガーネットに問われて。
「そりゃそうだろう。アインはフィフスホーンを押さえこむ程の力を持っているんだぞ、俺が作るロボの性能はそれ以上を目指すさ。フィフスホーン以上と言ったらドラゴンくらいしかいねえだろ?」
「しかいねえだろって。ランドドラゴンとドラゴンでは格が違うんじゃないですか?」
「アシャさんの言う通りかもしれねえけどさ、アインより弱いロボじゃ作る意味が無え」
「まあ、理想は高い方が良いんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
「頑張ってね。タケル兄ちゃん」
「ケーナちゃん、お店では店長って呼ぶようにしようって決めたでしょ?」
「あ、はーい」
年も開けて6日になったので、そろそろ店を開けようと思った俺は、アシャさんに。
「ねえ、アシャさん。スナフとヒースさんに聞いたんだけど、アシャさんが作るポーションって.....」
俺が言い淀むと。
「彼らが何と? ......あー、私の作るポーションが不味いって言ってたんですね」
「なんだ、アシャのポーションは不味いのか? ポーションとはどれも同じじゃないのか?」
「アシャ姉ちゃんのじゃないマナポーションしか飲んだことないけどあれは普通に美味しかったよ? アシャ姉ちゃんのはそうじゃないの?」
アシャさんは、うつむきながら小さな声で。
「昔から、効果は高くなるんですけど......、味は全くダメダメなんです......」
ガーネットは。
「だったら、効果は普通で味も普通の物を作れば良いのではないか?」
するとアシャさんは、一瞬ポカンとした顔をして。
「え? ......それは......考えた事無かったですね。回復速度と回復量を追求していましたからね」
考えた事が無い?
「アシャさん、ひょっとして効果が高ければ味はどうでも良いとか考えてた?」
「パーティ内でしか使っていなかったですからね。効果を上げる事を優先していましたから、味を良くしようと考えた事は無かったですね」
「味よりも効果優先かー。うん、売り物じゃなきゃアリだな」
「ええ、戦闘中に使う事も出来るようにするのは結構大変でしたよ」
ん? 普通のポーションって戦闘中には使えないのか? アリシアのポーションも不味かったし、戦闘中に使えるくらい回復が早かったはずだよな。ああ、速度重視の方は回復量は少なかったんだっけな、と思っていると。ガーネットが。
「そんなに回復速度が早いのか。確かに、それなら味など二の次になってもしかたがないか?」
「つまり、普通のポーションってのは、戦闘中に飲んで即回復って物じゃないって事か? 戦闘終了後に使って次に備えるって事?」
「はい」
アシャさんが答える。オレは。
「回復効果も味も普通のって作れるか?」
「最近は作っていませんけど、ポーション作成を覚えたころは普通のポーションを作っていましたからもちろん作れますよ」
この前飲んだスタミナポーションは向こうのスタミナドリンクのような味だったよな。
「だったらさ、ちょっと作ってみてくれないか? 普通のとアシャさん特製のヤツとさ」
「ええ、良いですよ。作っている所を見ますか?」
そう言って立ち上がるアシャさんに続いて、俺達は店の奥にある扉から工房に入って行った。
工房は元々は俺が魔道具を試作するために使っていた部屋だったのだが、アシャさんの加入によってポーション作成部屋に変更した。俺の魔道具作成場所は作業場兼倉庫の片隅に引っ越した。そこには作業机と製図台、黒板やコルクボードに工具棚を持ちこんでゴチャゴチャとした、なかなか居心地が良い空間を作っている。そして、アシャさんのポーション部屋と言えば、まるで科学の実験室、イヤ錬金術師の部屋のようになっている。天秤ばかりやガラス製の器具、すり鉢とか蒸留装置にコンロや鍋など、中には用途の良く分からない物も結構あるな。
「では、まず普通のライフポーションから作ってみますね」
そう言うと、乾燥させた薬草を量るとすり潰し始めた。2種類の薬草をすり潰し、ビーカーに入れると黄色い液体と透明な液体を加えコンロで熱し始めた。沸騰した物をから布を使って固形物を取り除く。黄色い液体が200cc程ビーカーに溜まった。
「こうして出来た液体に。魔力を加えます」
ビーカーに向かって右手をかざし、目を閉じて集中する。すると、ビーカーの中の液体の色が徐々に変化し始める。黄色い液体が黄緑色を経て緑から青になった。アシャさんは両目を開けると手を下ろし。
「これが普通のライフポーションです。味はどうなんでしょう? 冷めたら試してみましょう」
「あっという間に作っちゃうんだね。アシャ姉ちゃんすごいね」
「ああ、さすがに手際がいいな。思わず見とれてしまったな」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ、次は普段使っているポーションを作ってみますね」
そう言うと、先ほどと同じ手順で作業を始めた。黄色い液体がビーカーに溜まると。
「ここまでは、全く同じ工程なんですよ」
そう言って、やはりさっきと同じように魔力を加え始めた。しばらくして液体が青くなった。それでも魔力を流し続けると、ビーカーの中身は濃い青になり表面がわずかに揺いだかと思うと、かすかな光を発した。光がおさまると、そこには濃い紫色に染まった液体が残った。
「はい、出来上がりです」
アシャさんが言うと。ガーネットが。
「何だか......。毒々しい色だな」
ケーナは。
「材料は普通のポーションと同じだったよね......」
ニッコリ笑ったアシャさんは。
「はい、普通のポーションに更に大量に魔力を注ぐことでこんな風になるんです。適切な量を超えて魔力を注ぐ事で回復速度と回復量が増えるんです。師匠との研究成果ですよ」
俺は。
「って事は、普通は戦闘中に効果を発揮できるようなポーションは作れないって事?」
「そうですね、戦闘が終わってから使うのが普通ですね。こういったポーションは見た事は有りません。材料は同じですので、中級とまではいきませんが、初級クラスでは最高の効果が出ます。ただし、見た目はこんな風になりますし、味に至っては......」
と、言葉を濁す。
「「「うっ......」」」
っと、言葉に詰まった俺達は。口に含んだ紫色のライフポーションをゴクリと飲みこんだ。ケーナは舌を出しヒーヒ―言いながら。
「ひー、すっスゴイ味だね」
ガーネットは目に涙をためながら。
「確かに、かなりの物だな」
確かにこれは、ひどいな。アリシアのポーションもひどい物だったけど、こいつはそれ以上だ。あれ? 何か引っかかるな? と考え始めると。ケーナが。
「あっこっちは普通に美味しいね」
ガーネットも。
「ああそうだな、これは普通のポーションだな」
2人の言葉を聞いて。
「アシャさんって普通のポーションも作れるんだ。スナフ達がアシャさんのポーションは不味いって言ってたから、アシャさんって味覚に問題が有るのかと思ってたよ」
考え事をしていた俺は、思わずそんな事を言う。軽く俺をにらんだアシャさんは。
「蒼穹の翼に居た時には作らなかっただけですー。別に必要が無かったから作らなかっただけですー。だいたいポーションなんて回復量が多い方が良いに決まってるじゃないですか。しかも回復速度も特別早いんですよ。私の味覚に問題って失礼じゃないですか! いくらタケルさんでも言って良い事と悪い事が有りますよ。だいたいみんな大げさなんですよ! 私のポーションはそこまで不味くは無いです!」
そう言ったアシャさんは、作業机の上のビーカーに半分ほど残った、と言っても通常のポーション容器5本分は有るだろうか? そいつを一気に飲みこんだ。実に良い飲みっぷりで有る。
「ぷはー。ほーら、ちゃんと飲めるでしょう?」
そりゃああんな風に飲んだら味を感じる時間は短いんじゃないか?
「アシャさんは、それ飲み慣れてるでしょ? というか、ポーションはいつもその味なんでしょ?」
「なーに言ってんですか! 慣れていても不味い物は不味いんです! ......あっ」
顔を赤らめたアシャさんか、そう言う顔も良いなー。
「と言った非常に特殊な特性を持ったポーションな訳だが、こいつは店の売れ筋商品になる可能性が有る。いや、看板商品にしないと定期的な金が稼げない! みえーるくんはともかく魔道具ってそんなに売れるもんじゃねえんだろうからな」
それが出来なきゃ魔物の討伐に力を入れなきゃならねえ。まあ、それでも良いけど。
「タケル兄ちゃん、このポーションどうやって売るのさ」
「あー、それはこれから考える」
「頑張って、考えてくださいね」
「はい」
考えた。それはもう真剣に考えた。そして、数日後ギルドの掲示板に店の宣伝を出した。
『雑貨屋ファミーユ。ポーション販売を始めました。1の月2週1日から3日までの3日間、弱ライフポーション通常価格1,000イェンのところ700イェンにて販売します』
新商品取り扱い開始に伴うセールだ。ガーゼルの街に限った事ではないが、普通の店では客と店との値段交渉により価格が決まる場合と、店側が表示した価格で客が購入する場合がある。ポーションは薬屋や雑貨屋など色々な業種の店で売られているが、初級ライフポーションの値段はどこでも1,000イェンだ、主に冒険者が購入する事が多いのだが、冒険者達の多くは値段交渉を面倒くさがる者が多く、どこで買っても同じ値段の方が喜ばれるのだ。作成者の腕によって品質にはバラつきが出るので、冒険者達は自分の好みに合った店で買う事になる。セールと言った売り方をする店は少なくともガーゼルの街では見た事が無い。アシャさんには、そんな売り方をしら安売り競争が始まってしまう。最初にそんな売り方をした店は他の店から怨みを買う事になると言われたが、3日間だけだし、元々ポーションは保存が効かないんだから、買占めされる心配もないし、他の店の怨みなんか買わないさ。と言って押し切った。大体アシャさん特製のポーションを売るのが本当の目的だ。あれは普通の店で売っているポーションとは全く違う物だ、幾らで売ろうと文句は出ない......はずだ。
「そっちのポーションは普通の弱ライフポーションだろ?」
店の中を軽く見渡すふりをして、少しだけ声をひそめ、特別に教えるような雰囲気を出しつつ。
「でもな、こいつはチョーっと違う。回復量は弱ポーションより少しだけ多い程度なんだけどな」
「なんだよタケル、もったいぶるなよ」
トーラスも声をひそめて聞いて来た。そこで、もう一度店の中を見渡す動作をした後、更に声をひそめて。
「回復速度が半端ないんだよ。全回復するのにかかる時間が数瞬なんだ。普通は四半刻(約30分)程かかるだろ? つまり」
「つまり?」
「魔物との戦闘中にケガをしても、その場で即回復が出来るって訳さ。こいつを常備しておけば生存率がグッと上がるって訳さ」
「確かに、それは凄いな。でもなんでこんなに声をひそめるんだよ?」
「特別製なんだよ。普通のポーションに比べて作るのに時間が掛かるんだ。とは言え所詮は弱ポーションだからな、値段は1500イェンだ。数にも限りが有る。誰にでも声をかける訳にはいかねえからな。トーラス達は知らない間柄じゃ無いだろ? 特別な客にだけ声をかけてるんだ。」
「と、特別な客?」
トーラスがちょっとだけ嬉しそうだ。
「まあ、欠点も有るんだけどな」
「なんだ、欠点ってのは?」
「不味いんだ」
「え?」
「不味いんだよ。効果を高める処理をする段階で、味が悪くなる」
「なーんだ、そんなことか。そんな事は気にしない。万が一の時に生き残る事が優先だからな。とりあえず試してみるから4本くれ。前衛が1本づつ持つ事にするよ。あ、普通のも6本くれ」
俺はいい笑顔で。
「まいどあり」
と言うと、カウンターのアシャさんに向かって。
「トーラスが弱ライフポーション6本お買い上げだ。それから、例の物も4本だ」
その声を聞いた他の客が。俺達の方を見た。あの客も特別な客だな。
「用意したポーションほとんど売れましたね、店長凄いですね」
「だろ? 俺が前に住んでた所の売り方さ。おとり広告を出して来店した客に目当ての商品以外も売り付けるんだ、しかも、あなただけは特別とか数に限りが有るとか言って購買意欲を刺激する。どうだ画期的だろう?」
まあ、所謂悪質商法を参考にした売り方だ。そんな売り方をする店はこの街には無いみたいだ。
「でも、客をだましてるみたいな気がするのだが?」
「そうだよねー、みんなに特別なお客さんって言ってるし」
「俺は、一言も嘘は言って無いじゃないか。だましたとか言われるのは心外だな、小学生の時に担任が言ってたんだよ、誰もがみんな特別な人間なんだってな、普通より少しだけ作るのに時間が掛かるし、あまり売れないだろうからって、それほど数を作って無いポーションを売っただけだ」
「小学生って何? タケル兄ちゃん嘘は言って無かったかもしれないけど、何だかなー」
「アシャさん特製ポーションは使ってみないと効果はわからないだろ? でも、1度使えばその画期的な性能は実感できるはずだ。トーラス達に死んで欲しくは無いからな。あのポーションを当て込んで無茶をされたんじゃたまらないけど。あの味なら、常用しようとは思わねえだろうし。元々ポーションなんて10日くらいしか効果がもたない消耗品だからな、次に特製ポーションを買いに来た客はついでに普通のポーションも買っていくはずだ。なんたって、性能もそれほど変わらない物なんだし値段はどこでも一緒だ。わざわざ普通のポーションだけ別の店で買う意味が無い」
「そうやって、1度使わせると言うことか。確かに、効果は抜群なのだからな。後は、口コミで広がるかも知れんな」
「そうそう、口コミで広がるって事を考えれば、不味いってのはある意味話題として面白いからな、より効果的に話が広まるんじゃねえかな」
「ますたーハ相変ワラズ性格ガワルイネ」
「うるせえ。でも、特製ポーションはそこそこ売れると思う。何と言っても看板商品だからな、売れないと困る。フィーアはしばらく店番を頼む事になるかな。」
「はい店長!」
「魔道具の値段ねー。うちの店の魔道具は一品モノじゃねえし、家庭用の量産品でもねえんだから、他の魔道具屋の値段なんか参考にならねえと思うんだよなー」
魔道具職人が商品を売る方法は主に2つ有る。1つは自分で魔道具を開発し自分の店で売り、また、注文を受けた物を得意先に納品するような実力があり有名な職人の売り方。俺の場合はこれに近いが、有名な職人って訳じゃ無いけどな。もう一つは、量産品を生産したり、開発した魔道具を雑貨屋に下ろしたりと、自分の店は持てない者達の魔道具を売る前の世界で言えば量販店のような店だ。ライトの魔法を発動させる物や、コンロなどの日用品は比較的安くそこそこの数が出回っている。それなりの家なら揃えられる程度の値段になる。俺の作る魔道具の値付けの参考にするように店を回ってこいとアシャさんに言われたのだ。今までは値段は適当にその場の勢いで付けてるって言ったら、他の店を見て来いって言われた。ポーションの安売りをしたが、3日間はあっという間に過ぎ、一過性のものとは言え俺の店は忙しかった。何とも珍しいことだ。アシャさん特製のポーションも準備した物はほぼ売り切った。ギルドに行って、聞き耳を立てていたが、不味い事は不味いが、効果が高い。しかも、あそこまで即時に効果が表れる弱ポーションは凄いとの評判だった。店の主力商品になる事は間違いないな。主力商品が安定した売り上げが見込めるようになりそうなのだ。俺の作る魔道具もきちんと売らなければいけないと言う訳だな。
「冒険者や、隊商向けの魔道具しか作ってないんだからなー。家庭向けの魔道具の値段とか参考になるのかねー?」
と言いながら、適当な店に入った。店の商品と値段を見るが、結構高いな。ライトの魔道具でも俺の見えーるくんよりも大分高い値段が付いている。俺ならあの5分の1の値段で売っても儲けは出る。まあ、俺の場合は元がズルだからな。他の職人達の邪魔をするつもりは無いけど。などと考えていると。店のカウンターの方から何だか、もめてるような声が聞こえてきた。何となく気になって見てみると。店の店主と、20~30歳位の男が話し合っている。
「そんな事を言ってもな。こんな使えもしない魔道具を引き取れってのは無理な話だ。ちゃんと使える物を持ってくるんだな」
「そんな事言わないで買い取ってくれないか。親父が最後に作った魔道具なんだ。今までに無い魔道具だろ? 何とかならないか?」
「確かに今までに無い魔道具だ。でもな、たった10m先の風景が映るだけの魔道具にどんな使い道が有るって言うんだ? そんな物誰も買わんよ。嘘だと思うなら他の店を当たってみるんだな」
「他の店でも断られたんだよ」
「もっと遠くの風景が映るような物なら買い手も付くだろうから、研究してみちゃどうだ?」
「親父の遺品を整理していて出てきた物なんだからな。俺はそっちの才能は全く無いから木工職人やってるんだ」
「お前さん木工の腕は良いんだ。そっちで頑張ってるんだ。こんな物で金儲けする必要ないだろ?」
「それはそうなんだけどよ、こいつは、親父の遺作なんだ何とかして世に出してやりてえじゃねえか」
「気持ちはわかるけどな、無理な物は無理だ」
そう言われた男は諦めたように店を出て行った。それほど落ち込んだ様子じゃないのは、他の店でも断られて諦めていたのか、自分で作った物じゃないからそれほど思い入れが有る訳でも無いってところか。俺は、店を出て、男の後を追いかけ声をかけた。
「ちょっと良いかい?」
振り向いた男に。
「その魔道具幾つ有るんだ? 良ければ俺が買うよ」
「え? あんたが買ってくれるのか? って、子供じゃないか。大人をからかうのは止めてくれ」
男は胡散臭そうな目を向けてきた。
「いやいや、本気で買いたいんだ。さっきの話を聞いてたんだけどさ、俺は魔道具職人もやってるんでね、その魔道具にすげー興味が有るんだ。で、幾つ有るんだい6個くらい欲しいんだけど」
「ほー、その歳で魔道具職人なのか? 現物はこれ1つだ。でも、資料は残ってるからなそういつも込みで売るよ」
「ああ、自分の店も持ってるんだ。あんたの魔道具って、俺が欲しかた物なんだ。自分で作ろうと思ってたんだけどさ、どうやったら良いか思い付かなかったんだよ」
「なんだって、店を持ってるのか。見た目に寄らず実は年寄りか?」
「17だ。見た目とそれほどずれちゃいない。で、どうだい売ってくれるかい?」
「ああ、たぶん記述式も親父の残した資料の中に有るだろう。合わせて売るよ。こいつは魔道具職人だった親父の遺作でな、何とか世に出してやりたくてよ。まあ、使えない魔道具って事だから値段は適当でいいからあんたが決めてくれ。ああ、その前に試してみなきゃ値段も付けられないよな。これから家に来てくれ」
「ああ、お邪魔させて貰うよ。あ、俺はタケル冒険者兼雑貨屋の主人だ」
「おう、名乗りがまだだったな。ソークラスだ」
ロボのモニターどうやって作ろうか悩んでたんだよなー。最悪、アダマンタイトでコックピット周りを囲んで直接外を見るしかないかと思ってたんだからな。やっぱりモニターじゃないと気分でないよな。しかし、どうやって風景を映すんだ? 中級魔法で光学系の魔法なんて有るのかな? などと考えているうちに、ソークラスの家に付いた。俺は物置に案内され。
「こいつが親父の残した資料だ。さっきも言ったけど値段はあんたの言い値ででいい」
「言い値って言われても困るんだよな。俺が売ってる魔道具の値段が安すぎるって、うちの経理に言われてさ、相場の確認にさっきの店に行ったんだ。俺に適正な値段なんか付けられねえよ......。そうだ。ソークラスさんて木工職人だって言ってたよな。だったら、あんたが使う道具。そうだな、ノミや彫刻刀なんかを作らせてくれないか? 鍛冶士もやってるんだよ俺、物々交換でどうだい?」
「ほう、鍛冶士もか、多才だな」
「無茶苦茶切れ味のいい道具を作るぞ。ソークラスさんの道具を見せてくれないか?」
「ああ、こっちだ」
ソークラスの作業場で、道具を見せてもらった。うん、これならオリハルコンの高周波ブレードで一式作れるな。
2日後ノミ2種類と彫刻刀7本のセットを魔道具と資料一式交換できた。試しに使ったソークラスはとても喜んでくれた。
「タケル本当にこいつを貰ってもいいのか? そんな金にならないような魔道具とじゃ、全然釣り合わないぞ、この道具は」
「いいんだよ、気にいって使ってくれれば作った者としちゃ嬉しい限りだ。ソークラスさんだってそう思って、木工品作ってるんだろ?」
「そりゃちげえねえ」
「良かったら、知り合いに紹介してくれりゃ嬉しいがね、あんまり客が来なくってさ」
「そうだよな、幾ら良い道具だって使ってもらわなきゃしょうがねえもんな」
「そう言う事。あはははは」
「がははは」
ひとしきり笑い合って俺達は別れた。