初詣?
思わずアシャさんの右手を両手で掴むと、上下に大きく振りながら。
「ありがとう! ありがとう、アシャさん。改めてよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
ニッコリ笑ったアシャさん......サイコー! よし、これでアシャさんがファミーユに加入だ。
「じゃあ、戻ろうか。ケーナとガーネットにも報告しなきゃな」
「はい」
2人で冒険者ギルドに戻ると、みんなは解散した後だった。シルビアの宿に戻るとケーナとガーネットが食堂で食後のお茶を飲みながらくつろいでいた。ただいまの挨拶を済ませてから俺は切り出した。
「2人とも聞いて驚け! なんと! アシャさんがファミーユに入る事になりましたー!」
「ケーナちゃん、ガーネットよろしくね」
「わー、アシャ姉ちゃん。よろしくねー」
「こちらこそよろしく頼むよ、アシャ」
お互いの挨拶が済むと、アシャさんが。
「そう言えばタケルさん。ファミーユの活動って偏ってますよね? 討伐やお手伝いクエストばかりで他のクエストってやってませんよね。なぜですか?」
俺は。
「さっきも言ったけど、俺達の冒険者ランクにバラつきが有って、一緒のクエストが受けにくいって事が一番大きいかな? ガーネットは戦闘力が高いから討伐や護衛向きだし、俺は一般常識ってヤツが無いから採取系やお手伝いはできない。ケーナはお手伝いクエストでこの街の人達と顔をつないだ方が良いって事と、街の人の為に何か役に立ちたいって思いも強いみたいだ。護衛は、パーティランクが低くて受けられないって事も有るけど、当面受けたくないな、あれは盗賊なんかにも襲われるんだろ?」
「盗賊ですか? そうですね、罠を仕掛けたり連携して襲ってきますから魔物とは別の意味で厄介ですね」
俺は、ケーナの方を見ながら。
「盗賊は人間だからな」
「あ、......そうですね」
ガーネットは頷いているが、ケーナは。
「タケル兄ちゃん、盗賊が人間なのは当り前じゃないか」
と不思議そうに言った。
「ああ、そうだな」
すると、話題を変えるようにアシャさんが。
「そう言えば、タケルさんのお店もファミーユって言うんですよね。本格的にお店を開けるのは何時からなんですか? ちゃんとお店開けて無いですよね」
「一応今でもちゃんと開けてるつもりなんだけどね。みえーるくんくらいしか売れてる物は無いけどね」
「あら、そうだったんですか? ファミーユに入ったって事は、お店の方もお手伝いするのかしら?」
ガーネットとケーナは、はっとした顔をして。
「いや、そんな話をした事は無かったな。それに、自分は剣を振るうことくらいしか出来る事がない。店の事など全くわからないぞ」
「タケル兄ちゃんに、頼まれてちょっとだけ手伝った事が有るくらいだね」
俺の趣味の為に始めた店だからな、2人に手伝ってもらう事なんか考えた事無かったな。
「資金が少なくなっちまったからな、もっと店に力を入れるのも有りかもしれないな。3人ともどうだい?店の従業員もやってくれるかい? 今は、給料はそんなに出せないから申し訳ないけどさ」
3人が頷くのを確認して続ける。
「じゃあ、店では俺の事は店長と呼んでくれ」
「うんいいよ。あたし頑張っちゃうよ。でも、せっかくスキルにゴーレムが有るんだから、そっちもやってみたいな。いいかな? 店長?」
「おう、じゃあケーナは弟子兼店番ってところか」
「自分は、店の事など全くわからんが、出来る事はやらせて貰いたい。店長と呼べばいいのか?」
「ガーネットもよろしく頼むよ」
「私は、ポーションを作ってお店に出してもいいかしら? それから、実家がお店をしていましたので経理などはお手伝い出来ると思いますよ。店長」
「経理かー、全く考えた事無かったな。金が残って無いからな、これからはちゃんとした方が良いかな?」
俺が何気なく言うと。アシャさんが真剣な顔で。
「考えた事がなかった......。タケルさん。みんなも、ちょっとお店に行きましょう」
で、4人で店に集まって今後の方針について話し合いとなった訳だ。アシャさんが。
「では、会議を開催します」
ケーナが。
「会議って何するの?」
俺が。
「つまりだな、ファミーユの今後の活動について、みんなで意見を出し合いましょうって事だな」
「つまり、赤貧洗うが如き現状をどのように打開するか。と言う話なのだな?」
と、ガーネット。
「いやいや、店が有るんだし、鋼にミスリル、オリハルコン、更にアダマンタイトに至っては40tも有るんだぞ、現金は無いけどさ、財産が無いって訳じゃ無いよね?」
俺が言うと。アシャさんが。
「でも、それは、店長の個人財産って事ですよね? 今まで、タケルさん達個人の資産と、パーティの資産、お店の資産はどのように管理していたんですか?」
「え? えーと、特に何もしていなかったと言うか。ケーナとガーネットがクエストで稼いだ金は各々のものとしてたな。店の運営は俺の金でやってた。まあ、パーティで受けたクエストなんかほとんど無いし、金も使っちゃいなかったな。店は俺の店だったしな、いつかは持ちたかったけど、急に手に入ったおかげで店としては何にもしていないような状態だったしな」
アシャさんが、額に手を当て頭を振りながら。
「つまり、お店は行き当たりばったり、どんぶり勘定だったと? パーティの事については、店長はともかく、ケーナちゃんもガーネットも全く気にしてなかったって事ですか?」
「「「はい」」」
俺はともかくって......。俺達の返事を聞いたアシャさんは呆れたようにため息をつくと。
「はー、まあ、店長は、田舎から出て来たばかりで、ケーナちゃんの後見人になってパーティを作って、ガーネットは最近そのパーティに加入した為に、どんな風にパーティ運営したらいいかわかっていなかった。それにお店に至っては、全く予想外に手に入った為にお店としてきちんと機能していないと。そう言う事ですよね?」
「「「はい」」」
力無く返事をする俺達。
「それなのに、店長は街の復興の為に全財産を出しちゃった訳ですよね?」
「それには一応ちゃんとした理由は有るんだ」
「理由って?」
「アインの力を見て怯える人が出ないようにさ。マスターの俺が基本的に善人だって印象付ける必要が有ると思ったのさ。それに、あれは、ダルニエルから巻き上げた分と賭けで儲けた分、そして、冒険者ギルドから貰った分が殆どだぜ。言わば泡銭だ。ロボを作る為の資金が無くなったのはちょいと痛いけど、自分の腹はそんなに傷んじゃいない」
「なるほど、そんな訳が有ったんですね。では、今後の活動方針や、お店の運営の仕方について話し合いましょうか」
色々と話し合った結果。ロボが完成するまでは、この街で冒険者をする。ケーナとガーネットは街の住民の為に何かしたいとの思いがあるから、討伐依頼を中心にし、ケーナはお手伝いクエストもやっていくことになる。今は護衛は原則として受けない事にもなった。店を長く空ける事が出来ない事もそうだが、それよりもケーナに人殺しをさせたくないと言うのが俺達3人の気持ちだった。たとえ相手が盗賊だったとしてもだ。でも、ロボが出来たらこの世界をあちこち見てみたいな。よし! クローラーも開発しよう。
ファミーユの資金については、クエスト報酬の10%を積み立て、パーティで使う消耗品などの費用とする事にした。
店については、俺がオーナー兼魔道具作成、鍛冶品作成、ゴーレム作成担当、ケーナは店番と俺の弟子としてゴーレム作成、魔道具作成を学んで行く事。アシャさんは経理担当兼ポーション作成を担当する事になった。ガーネットは店の手伝いはしても良いとのことだが、剣以外の特技は無いので普通に店員をやってもらおう。
店で売る商品は、武器以外の魔道具と鍛冶品そしてアシャさんの作る各種ポーションだ。武器系統の魔道具は強力過ぎて売る訳にはいかないって事になった。店の経営的には苦しい状況が続く事になりそうだ。魔道具なんかホイホイ売れる物でもないだろうしな。当面売れる物と言えば、みえーるくん(望遠鏡タイプ、双眼鏡タイプ)は良いとして、おおごえくん(メガホン)、おはなしくん(インカム)つまりは、冒険者用の比較的安価な魔道具。まもーるくん(防具)、防具職人の仕事を奪う訳にはいかねえからなー、絶対にこいつは安く売る訳にはいかない。んー、あんまり売れる物が無い。
そして、店の売上の一部と俺の資産でロボの開発費用とする事が決まった。組みたて用のベットなどまだまだ作らなきゃならない設備が多いが、いつかロボを組みあげる!
そんな事が決まって、お茶を入れながらくつろいでいると。フィーアから声がかかった。
「あのー、店長?」
「ん? なんだ?」
「王都から戻ったら、新しい体を作ってくれるって言ってました」
「おー。そうだったな。よーし、作っちゃうぞ! どんな体が良い? やっぱり戦闘はするつもりは無いのか?」
「いえ、今の体は強すぎて怖いですけど、戦闘が嫌な訳じゃないです」
「そうか、だったら戦闘でケーナがAMRを使う時には護衛も出来るような感じでいいかい? 店番してもらう事も有ると思うけどな」
「はい、それでお願いします」
「ますたー。あいんハドウナッチャウノ? 訓練スレバ、1人デモチャント動ケルヨウニハナルト思ウケド。ソウシタラ、くまニ戻ル時ニハコノ体ハ、ウゴケナイヨ。ゴハンヲ食ベルノニ一々仕舞イニ来ルノハメンドウダヨ」
「それは、元々の計画どうりに、体の制御だけするゴーレム核を作るさ。そうすれば、俺も使えるようになるしな。それで良いんじゃねえか?」
「ハイ、ますたーヨロシクダヨ」
「店長、よろしくお願いします」
フィーアのゴーレムかー、どんなのにするかな? そんな事を考えるのって、結構楽しいんだよな。
それから数日して。
「よし、フィーア動いてみな」
「はい店長!」
元気良く返事をして体を動かし始めるフィーア。腕の上げ下ろしや膝の屈伸に腰のひねりなど各部分を動かしていく。そして格闘技の型のような動きをし出す。初めはゆっくりと、そして徐々にスピードを上げ、終いには目で追えないほどのスピードになっていく。
「よし、フィーア。どうだ? 異常は無いか?」
動きを止めたフィーアが。
「はい、どこにも異常有りません。店長」
まあ、元の体をベースにしているんだからな、そうそう不具合は起こさないだろう。新しいフィーアの体は身長145cm程しか無く、魔力供給用の魔結晶もCランクの物を使っていることからチイパイだし、腕に搭載したシリンダーと腿に搭載したシリンダーは4個用だから、腕も腰回りもほっそりしている。まあ、ケーナの体型に近いかな。外装はアダマンタイトとオリハルコンを使った丈の短いメイド服をイメージした物に装甲を付けた黒のワンピースで頭にはブリムを付けている。オーバーニーソックスにくるぶしまでのブーツ、ガントレットは付けていない。まあ、所謂戦闘メイドってヤツだな。武器は2本の短刀を腰の後ろに差している。もちろんオリハルコンの高周波ブレードだ。
「新しいフィーアの体か、今までのとは、だいぶ違うのだな」
「今度のはボンキュンボンじゃ無いんだね」
「でも、可愛らしいですよフィーアちゃん」
「ぼいすニ影響サレテ、ろりこんニ目覚メタンダネ、ショウガナイますたーダネ。ヤレヤレ」
「店長......。いえ、何でも無いです」
「アイン変な事言うなよ。フィーアは途中で止めるな、気になるだろうが! 魔結晶が小さいんだから体も小さい方が良いんだ。パワーはないけど、重量を落としたからスピードは稼げる。手数で勝負ってことだ。アインの体型は魔結晶が大きいせいでああなっただけだぞ。だいたい俺は、ロリコンじゃねえ! お姉さんのが好きだぞ」
ケーナが。
「お姉さんねー」
ガーネットは。
「お姉さんなんだな」
そして、アシャさんは。
「美人で、可愛くて、やさしくて、気立てのいいナイスボディが抜けてますよ、店長」
「なにそれ?」
「なんだそれは?」
「前に、店長が言っていた女性の好みの話です。そうですよねえ?」
「イイエ、ワタクシ、女性ヲ外見デ判断スルヨウナコトハイッサイシテイマセンデスヨ? ハイ」
「「「「「はいはい(ハイハイ)」」」」」
「本当だよ?」
「「「「「はいはい(ハイハイ)」」」」」
話を切り替えるようにガーネットが。
「そんな事より店長、フィーアの登録に行った方が良いんじゃないのか? 明日から新しい年が始まる。1週の5日まではゴーレムギルドも休みになるかもしれないぞ」
「え? そうなのか? じゃあ今日中に行っておいた方がいいな」
「ガーネット姉ちゃん、ゴーレムギルドもって事は休みになる所が多いってことかい?」
「ああ、そうだ。住民のほとんどが、年が開けたらアルト聖教の教会にいってカードの更新をして昨年1年間の成長を確認して新たな年の成長を願うんだ。そして、家族で新年を祝うのだ実家に帰る者も多いのでな店を閉める場合が多いな。もちろん開いている店もあるが、食べ物屋や屋台くらいだな。2人は村に教会が無かったから知らないんだろうがな」
ガーネットの説明を聞いて俺は。まるで初詣だなと思いながら。
「へー、随時確認してるだけじゃないのか。なるほど、だからゴーレムギルドも休みになるかも知れないってことなんだな」
「ああそうだ、5日間全て閉めてしまう所も多いんだ。食料品を扱う店は商品が傷んでしまうからそんな事もないけどな」
ケーナが。
「じゃあさ、あたし達もみんな一緒に教会に行こうよ」
「そうだな、行こう」
「ええ、行きましょう」
「ああ、そうしよう。じゃあ俺は今のうちにゴーレムギルドに行ってきちまおうかな」
身構えながら、フィーアと2人で向かったゴーレムギルドでは、やっぱりと言うか何と言おうか。
「おい、またそんなゴーレムを作ったのか」
「そんなゴーレム? こいつの凄さがわからねえようじゃまだまだだな」
と言いながら振り向くと、そこには......。なんて名前だっけ?
「えーと、あんたは、アイランド? いや、ゴラウンド? あれ?」
王都に行く前に、俺達に絡んで来たゴーレムギルド員の男だったよな?
「ゴランドだ!」
「おー、そうそう、ゴーランドだったよな」
「ゴランドだ! この前は、遅れを取ったが、今度作った最新型ゴーレムはこの前のとは違う! 今度は負けたりしない!」
「それは凄いな。良く頑張ったじゃないか。俺はこいつの登録が有るから、またな」
そう言って、俺はカウンターに向かってフィーアを連れて進んだ。受付で登録をしていると。
「もう一度勝負させろ。今度こそ俺のゴーレムが勝つ!」
俺は書類を記入しながら。
「相手はフィーアでいいのか? 今日はアインは一緒じゃないぞ、この前の雪辱戦なんだろ? あんたの自己満足の為に付き合える状況じゃねえぞ」
「勝ち逃げするつもりか!」
「なんだ? あんたが勝つまで付き合わなきゃならねえのか? 時間の無駄だとしか言えねえな」
「これっきりだ、今度は俺が勝つ! もう一度だけ勝負しろ」
フィーアがOKならまあいいか、とか思っていると。その時入口の方から。
「何を騒いでいるんだ? なんだ、ゴランド君ではないか。どうしたのだ? 今日は君の作った新型を見せてくれるのだろう? 準備は終わっているのかね?」
「あ、最高顧問。はい、後ろの広場の準備は済んでいます」
ん? どこかで聞いた事が有る声だな? そう思って振り向くとそこには。
「おー、タケル殿ではないですか、この前は大活躍なさったそうですな。フィフスホーンの突進を止めるゴーレムを是非見てみたかったものです」
オルストロークがいた。
「あー、おっさ...。オルストロークさんじゃないか、どうしてグランドマスターがガーゼルに?」
「グランドマスターは後任に譲ったんだ。今は最高顧問という名誉職になって、新型ゴーレムの開発に没頭できるようになったのでね。タケル殿がいるこのガーゼルに研究の本拠地を構える事にしたんだ。ゴランド君をはじめとしてやる気のある優秀な者を集めて、タケル殿のゴーレムに負けない物を開発するぞ。楽しみにしていてくれ」
ゴランドは戸惑ったように。
「え? 最高顧問がこいつをタケル殿? え? タケル? Aランクのタケル......殿。ゴーレムホースの?」
そして、オルストロークに。
「最高顧問。お願いします。俺のゴーレムとタケル...殿のゴーレムを戦わせて下さい今度こそ俺のゴーレムが勝ちます」
「はははは。アインとフィーアにかね? それは難しいのではないかな、あれは素晴らしいゴーレムだあれを超えるゴーレムを作る事が、当面の我々の目標になるだろう。とは言え、ゴーレム同士の戦いには私も興味が有るね。ところで、そのゴーレムはタケル殿の新しい作品かね? 随分可愛らしいゴーレムだが」
「こいつはフィーアの新しい体ですよ。あれよりパワーは無いんだけど、小型軽量で末端の重量も少ないから、スピードは上だと思う」
「ほう、フィーアのかね。それは興味深い、何と言ってもあのドラムルの息子だからな。是非、切れのある動き見せてもらいたいな。ゴランド君のゴーレムと戦うのかね?」
「よし、最高顧問殿もおっしゃっている。行くぞタケル、殿」
「ああわかったよ。相手はフィーアでもいいんだな?」
「ん? この間のゴーレムよりもさらに戦闘用には見えないんだが、これも戦えるのか」
「まあね、アイン程パワーは無いけど、アインだっていつも全力出してる訳じゃねえからな、あの体の姿勢制御をしていたのは、このフィーアだしな。行けるかフィーア?」
「はい、店長」
返事を聞いて、フィーアにだけ聞こえるように。
「せっかくのチャンスだから、運動能力の確認と技の練習をするぞ」
「はい、店長」
「受け流したり投げたり転がしたりしてデータ取りさせてもらおうぜ。向こうもメンツがあるだろうし、あっさり倒しちまうと気の毒だし、ちょうど良いよな」
「店長、性格悪いです」
「ほっといてくれ」
ギルドの裏の広場の中心には、1体のゴーレムが立っていた。スチールゴーレムか? 身長は2mにちょっと足りないほどで、細身の体に長い手足が付いている。ほー、この前のマッチョタイプよりいい感じだな。まあ、前のやつだってかなりいい出来だったんだろうが、あっという間にアインが壊しちまったからな。ゴランドが。
「見ろ。これが新型のゴーレムだ。どうだ、素晴らしいだろう? この前のようにはいかないぞ」
「ああ、いい感じじゃないか。まあ、俺のフィーアに勝つにはまだまだ時間が掛かるだろうがな」
ゴランドのゴーレムに向き合うようにフィーアは広場の中央に進んだ。オルストロークの合図で。
「では、始め!」
戦闘が始まる。ゴランドのスチールゴーレムがフィーアに向かって走り出す。ん? 速いな。フィーアは軽く腰を落とし、両手を前に出し迎えうつ構えだ。相手は長いリーチを活かして、ストレートのパンチを放った。身長差から拳を打ち下ろすようになる。フィーアはパンチを避けながら左手で手首を掴み、上体をひねり更に下に引き下げ、右手で相手の胸を突き上げながら右足で軸足をはらった。ゴーレムは綺麗に宙を舞い背中から地面に叩きつけられた。
『ガシャーン!』
大きな音を立てながら転がったスチールゴーレムは素早く立ち上がるとまたフィーアとの距離を詰める。まあゴーレムなんだから痛みで動けないなんて事は無いわな。今度は小さなモーションで右手でジャブのようなパンチを繰り出す。フィーアは最小限の動きでパンチをかわしていく。すると左のパンチも織り交ぜて攻撃を始めた。身長差が有るせいで、打ち下ろす攻撃になる。パンチが当たった時に後ろに飛ばないので、ダメージが全て相手に入る事になる。計らずも効果的な攻撃になってるな。
「まあ、当たらなければその効果も発揮出来ないけどな」
更に、左のフックを出した。フィーアは少しだけ下がってそれをかわす。スチールゴーレムはそれを見越していたように、蹴りを放つ。少しだけ前に出たフィーアは相手の脛に右手を当て、つま先に右足を乗せると後ろに飛んだ。振り抜かれた蹴りの勢いも使って大きく後ろに飛び下がったフィーアは、先ほどと同じ構えを取った。
「上半身の防御に注意を向けさせて、下半身に蹴りを放つか、狙いは良かったな。なかなかやるじゃないか」
スチールゴーレムはフィーアに向かって走り寄ると、今度は右の回し蹴りだ。フィーアは走り込みながら、左腕で蹴りを受ける。走り込んだせいで膝部分が当たった。しかし当たった場所が浅いので蹴りによるダメージはない。軸足に足を掛け、右手でスチールゴーレムを押した。尻餅をついたスチールゴーレムから飛び退り、そこでフィーアはやはり同じ構えを取る。スチールゴーレムは素早く立ち上がり、右回し蹴り、左の後ろ回し蹴りを立て続けに放つ。フィーアは、右回し蹴りは体を反らす事で避け、左の後ろ回し蹴りは屈んで避ける。屈みながら、地面に手を付き、大きく遠心力を付けるように振りまわした足でスチールゴーレムの軸足を蹴る。大きく蹴り上げられた足を空に向け頭から地面に叩きつけられた。フィーアは距離を取る。またも立ち上がったスチールゴーレムは今度は走り込む事をせず、両手を前に持ち上げ、すり足でゆっくりとフィーアとの距離を詰める。
「フィーアは体が小さいからな、スピードでは勝てないが、力比べなら負けないと言うことか。そいつはどうかな?」
ゆっくりと近づいたスチールゴーレムは、いきなり踏み込んで、右手のパンチを出す。しかし、距離が少しだけ離れている。あれじゃパンチは届かない? 腕が伸びきる前に、腕から剣が飛び出し突きを放った。おー、仕込み剣か! フィーアは腰から左手で逆手に短刀を引きぬくと。短刀の刃で剣の先端を受け止めた。おいおい、厚さ1mmにも満たない部分同士だぞ。
「フィーアの身体制御は一級品だな。もう良いぞ」
スチールゴーレムは左手からも剣を出し更に突いてきた。フィーアは右手でもう1つの短刀を抜き、今度は受けずに剣を切断しその刃を回して右腕を切断。今度は左手の短刀で左腕を切断、左手を振り抜きながら、右足で後ろ回し蹴りをわき腹に叩き込む。数m吹き飛ばされたスチールゴーレムは仰向けに倒れ込んだ。蹴りが当たった部分は大きくへこんでいる。腕が切り飛ばされたが、両足で反動を付け飛び上がるように立ち上がったスチールゴーレムは走り込んで蹴りを放つが、軸足を腿から切断され倒れ込んだ。
「それまでだな」
オルストロークの一言で、試合は終わった。
「ゴランド君フィーアには勝てなかったが、良い試合だったな。どうだタケル殿のゴーレムは素晴らしいだろう?」
「はい、完敗です」
「しかし、この前のゴーレムより格段に動きが良かったよ。十分使えるんじゃねえの?」
ゴランドは。
「そう言って貰えると嬉しいのだがな、単独での戦闘ならともかく、まだ冒険者との連携を取るとかは無理なんだ。それに、タケル殿のゴーレムには手も足も出なかった。最初は手を抜いていたんだろ」
「別に手を抜いていた訳じゃねえよ。ただ、昨日出来たばっかりだったからな、テストを兼ねた訓練の意味は無かったとは言えないかな」
オルストロークは。
「ゴランド君、これからだ、これからだよ。今日は勝てなかった、明日も勝てないかも知れん。しかし、何時までも負けっぱなしでいるつもりはないだろう?」
「はい! タケル殿いつかフィーアやアインに負けないゴーレムを作ってみせる。その時には再戦だ!」
と言うゴランドに。力無く笑いながら返事をする。
「はははは、楽しみにしてるよ」
面倒くせえ奴と知り合いになっちまった。まあ、憎めないヤツだし良いかな。
年が明け、俺達は教会に向かっている。
「ほら、タケル兄ちゃん。はやく、はやくー。おいて行っちゃうよ」
「ふぅあー。別に、教会は逃げたりしねえよ」
「逃げはしないだろうが、混雑してしまうぞ」
「新年早々、待たされてイライラする事は無いですよ。せっかく早起きしたんですから」
「ああ、わかったよ」
初詣なんて混雑するのが当り前だろうと思うんだけどなー。まあ、日本の初詣とは違うんだろうが。そうそう、この世界には晴れ着ってヤツは無いみたいだ。俺達以外にも教会に向かう人は多いが、みんな普段着だまあ、俺達も普段着なんだけどな。アシャさんの晴れ着姿見たかったなー。
「でも、結構人が多いよな。やっぱり1日目に行く人って多いんだな」
俺が言うと。ガーネットは。
「1日目に教会に行って、後は家族で新年を祝う家も多いのだろう」
アシャさんは。
「そうですね、私の実家も商店でしたから、早めに教会に行って、4日頃には店を開けていましたね」
ケーナは。
「タケル兄ちゃん、ファミーユも4日頃から開けるの?」
「いや、5日までは休もうと思うよ。だいたい客が来ないんじゃないか?」
「タケルさん、来ないんじゃないか? じゃないですよ。お店頑張らなきゃいけませんよ」
「......はい」
前に王都の教会でカードの更新をした時とはちがって、更新用のブースが臨時にいくつか設置されているようだ。結構な時間並んだ後に俺達の番が来た。順番にブースに入る。俺が一番最後になった。更新を終えブースから出ると。ケーナ達が1枚のカードを見ながら何やら話し込んでいる。
「どうしたんだ?」
「あ、タケル兄ちゃん。これ見て」
と言って自分のカードを俺に差し出す。
「ケーナ、スキルとかは軽々しく人に教えるもんじゃないって言ったろ」
といいつつケーナのカードを受け取ると。
「剣術がLV3か、おー、狙撃がLV5じゃないか、すげえな」
「そこじゃないよ、後ろの方にタイトルが付いてるだろ?」
え? タイトル? そんな物が有るのか? どれどれ。
「ん? シルバードラゴンのフィアンセ? なんだこれ? ケーナ何時の間に婚約なんかしたん...だ?」
シルバードラゴン? シルバードラゴン! まさかシロ?
ケーナとシロの冒険を外伝として書く事は有るのでしょうか。