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あー...、ヤればデキる

「あーあ、やっちまった。怒られるかな? 怒られるよな? どうするかなー」

どうするもこうするも、領主館の目の前でアインを巨大化させちまったんだ。誰が家を壊したかなんて、考えるまでも無く俺だという事はわかる。まあ、考えてもどうしようも無いか。そこで、アインの方を見ると。巨大化したアインに突っ込んだフィフスホーンが角を突き立てた。しかし、今度は突き抜けることも弾き飛ばされることもなく。数m下がっただけで、突進を受け止め、額から延びる2本の角を両手で掴み押し返そうとしているが、力が拮抗して固まったように動かない。こうなると俺にできる事なんてなーんにもねえな。気が抜けたようにただただ見つめる事しかやる事が無い。そこで、アインが壊した家のことを考える。

「マズイな、何とかウヤムヤにならねえかな? ならねえよなー」

「何をウヤムヤにするんだ?」

急に後ろから声を掛けられ、振り返ると。

「やっ、やあ、トーラス君と光の剣の愉快な仲間たちじゃないかー。今日はどうしたんだね? こんなところで合うなんて奇遇じゃーないか」

「誰だよ愉快な仲間たちってのは」

「仕方ねえだろ、この前は、トーラスしか自己紹介してくれなかったろうが」

「ああ、そういやそうだったな。右からランバー、ドラグル、ハミル、ボイス、マーロウだ」

なるほど、お兄さんと呼ばせてくれと言っていた野郎が、ボイスだな。

「で、さっきの続きだが、俺達はFランクだからな、街中を見回って逃げ遅れた住民を捜してたって訳さ。で、戻ってみたらあんなヤツが領主館に迫ってるじゃねえか。中には入れねえし、とは言え、逃げることも出来ねえだろ? どうしたもんかと思ってたところさ。タケルこそどうしたんだ? ウヤムヤってのは何のことだ?」

「ウヤムヤ? 何のことだ? 俺がウヤムヤにしなけらばならない事など何にもないぞ?」

「まあいい、で、タケルはなんでこんなところにいるんだ? 外で魔物たちを撃退してたんじゃないのか?」

「してたさ、でもよ、あいつは無理だった、どうしようもねえから戻って来て、アインを改造した」

と言って、フィフスホーンの額の2本の角を両手に握り、進行を止めているアインを指差した。

「なに! あのでっかいゴーレムは、タケルのなのか? すると、あいつの足下で壊れている家って「なーんのことかなー。聞こえなーい」」

「お前は子供か! 聞こえなーいじゃねえだろうが!」

「いや、もう少しフィフスホーンが押し込めば、あの家を壊したのがアインだなんてわからなくなっちまうだろうが。お前ら目撃者の口を封じればな」

ニヤリと笑って、刀に手を掛けた。トーラスは頬をひきつらせて一歩下がる。その分俺が前に出る。その時だ、俺は後頭部に衝撃を感じた。

「ぐわ~、まるで後頭部をグレートソードの峰で殴られたように、頭が痛い。うー頭痛が痛いから、俺は店に戻って休むことにする」

と言いながら後ろを振り返ると、そこには、抜き身のグレートソードを肩に担ぎ呆れた顔で俺を見るカーシャの姿があった。そしてその後ろにはシューティングスターの面々も揃っている。サルビア、イムラ、トーカ、デーリア、レミアスみんな美女揃いだ、選考基準が厳しいんかな? みんな無事で良かった。

「なんて事だ。カーシャたちまでも。無理だ! こんな美女までも殺めなければならないと言うのか! できない! 俺にはそんなことはできない!」

カーシャが。

「もう一回殴ってやろうか? 馬鹿なこと言ってないでこの後はどうするつもりなんだい?」

サルビアが続けて。

「そうだよタケル、あんたこの後どうするか、考えてなかったなんて言わないよね」

この後ねー、うん! 考えて無かった。アインにAクラスの魔結晶を付ければ行けると考えていた。アインに付けた魔結晶、1個じゃ足らなかったかな? でも、時間的にギリギリだったからな。急いで改造したけど、やっと領主館まで300mのところで何とか間に合った訳だし。

「実際、ここまでしか考えて無かったんだよなー。アイン1人で何とかなったらいいなーってさ。カーシャどうしたらいいと思う?」

みんなで、領主館の方を見る。アインとフィフスホーンの力は互角のようだ。となれば、アインの魔力が尽きるか、それともフィフスホーンの体力が先かって事になる。

「あれは、タケルのゴーレムなんだろ? あんたにわからないことが、あたしにわかるわけないだろ。しかし凄いね、フィフスホーンと互角の力を持ってるのか」

「まあそうなんだけどさ、互角じゃダメなんだよな。魔力はしばらく保つ筈だから、今のうちに攻撃してみようかな? せっかく、アインが止めてる訳だし」

「そうだね、それしかないね」

「ところで、カーシャはなんでここまで来たんだ? 他の連中は来てねえんだろ?」

「ヤツが街の中に入るまでに倒せなかったんだ。防衛戦は失敗だよ。ここで魔法なんか使ったら、被害はより大きくなっちまうからね。普通の攻撃は全く効かなかったし、どうしようもないさ。あとは、どれだけ少ない被害で帰ってくれるかって問題さ。ただね、あたしはAランクの冒険者さ、何にもしませんでしたって訳にはいかないさ。この娘たちは、あたしに着いてきちまった」

「慕われてんだな。しかし、ランドドラゴンって魔法障壁も物理障壁も持ってねえんだよな? 何で全く攻撃が効かない?」

「あの巨体のせいさ、あれだけ大きいんだ、皮も鱗も厚くて硬くて丈夫なせいだよ、シングルホーンサイズなら何とかなったんだけどね」

「なるほどね」

そう言って、フィフスホーンに向かって歩きながら太刀を抜いた。

「タケル! 何をしようってんだい! あいつの鱗に剣なんか効きやしないよ」

俺を止めようとするカーシャに、振り返ることもなく。

「アインは俺の相棒だからな、1人じゃできないことは2人でやるんだ」

カーシャは俺の横に走り寄って。一緒に歩き始める。

「ふーん、でもさ3人いてもいいよね」

と言いながらグレートソードをかまえ直した。本当に切れねえのか試してみないで諦めるのもなー。今回フィフスホーンには1度も攻撃を入れていないんだ。あんな、怪獣みたいなサイズの魔物に有効な攻撃手段なんか思い付かなかったしな。

「いくぜ!」

「ああ!」

2人で全力疾走する。まず俺が、フィフスホーンの前足のくるぶし付近に向けて太刀を入れる。続けてカーシャのグレートソードの攻撃も入る。一応関節を狙うのがセオリーだと思う。魔力を流し、高周波ブレード状態で斬りかかったが。

「キーン!」

「ガキン!」

と、音がし鱗1枚削ることなく弾かれた。こいつ物理障壁でも張ってるのか? 高周波振動させながら、更に物理障壁を張った。これで物理障壁が有っても高周波ブレードが当たるはずだ。もう1度斬りつける。

「ギンッ!」

「ガキン!」

太刀が弾かれた。やっぱり物理障壁は張っていないな。つまり、こいつの鱗はオリハルコンより硬いって事か? スピードが足らないのか? 俺の攻撃など全く気にならないと言う事なのだろう。俺のことなど気にする様子も無くアインとの力比べ状態を止めようとはしない。これは無理じゃね? でも、もう一太刀! 少し下がって、スピードを乗せ、全体重を掛けて突きを放つ。

「キン!」

「あー、無理だな」

「だね、刃が欠けちまったよ。一旦下がるよ!」

俺達は、走ってフィフスホーンから距離を取るとヤツを見上げた。その時。

「ミーーーーー!」

何だ? 音のする方を振り返って見ると。ケーナとガーネットがこちらに向かって走ってくる。何かを追いかけてる? そして、その前をシロが走っている。その時、背中の方で気配が変わった。もう一度振り向くと。フィフスホーンが力強く首を振りアインが倒れるところだった。あー、また家が下敷きに......。俺はなーんにも見なかった。見なかったぞ。フィフスホーンはシロの方を向くとその場に止まり。

「ウォーーーン!」

と吠えると、深く頭を下げた。俺の顔の横を白い何かが飛び過ぎた。え? 今のは? シロ? 飛べるのか? よく見るとシロの背中には1対の翼が銀色に輝いていた。フィフスホーンの顔に向かって急上昇しながら。

「ミーーー!」

もう一度鳴いて、額の2本の角の間に降り立った。フィフスホーンは頭を下げたままその場に留まった。何がどうなったってんだ?

「えーっと。どう言う事だ?」

俺の横に並んで立ち止ったケーナとガーネットが。

「シロのお母さんなのかな? お父さんかな?」

「親子なのかどうかはわからんが、あいつはシロを迎えに来たのだろうな」

カーシャは。

「ドラゴンの......子供? あれが、ケーナが手当てしたって言うシロかい?」 

それを聞いた俺はカーシャを振りかえり。

「でも、シロは飛んだよな? 子供のうちはランドドラゴンって飛べるのか?」

「ドラゴンの事なんか何にも分かっちゃいないんだよ。めったに人の前に姿なんか現わさないしね」

「なるほど」

シロはしばらくフィフスホーンの額の上でミーミー鳴いていたが、こちらを振り向くと羽を羽ばたいて飛び寄って来た。ケーナの目の前に降りる。

「ミーー」

一声鳴くと。前足で鼻の上を撫で始めた。よく見ると、サファイヤのような青く美しい小さな角が生えている。ケーナはシロの前に屈んで声をかける。

「どうしたのシロ?」

「ミー」

ポロリと角が取れた。

「ミーー」

取れた角を鼻で押してゆっくりとケーナの前に差し出す。何だか神聖な場面を見ているようだ。俺達は、俺と、ガーネット、シューティングスターのみんな、光の剣のみんなもその光景を黙って見ている。穴に土を戻したアインも側にやって来ていた。ケーナが角を手に取り。

「これをあたしに?」

シロは頷くと。

「ミーー」

と鳴き振り返ってフィフスホーンの頭に向かって飛んだ。フィフスホーンの頭に戻ったシロは。

「ミーーーーーーーーーー!」

ひときわ大きな鳴き声をあげた。

「ウォーーーン」

小さく吠えたフィフスホーンは振り返ると。街に入って来た跡をそのままたどって歩き出した。

「あー、親子の対面ってやつか? いやーよかったよかった。......のか?」

街にやって来た時と比べて、随分ゆっくりと歩いて行く姿を見送る俺達。何だか疲れを感じて、その場に座り込む。みんなも座り込む。誰からともなく。

「「「「はあーーーーーーーーー」」」」

大きなため息がもれた。


「まあ、なんにせよ、魔物の氾濫は防ぎきったし、フィフスホーンは撃退できたんだ。あたしたち良くやったよね! 結果だけ見れば」

カーシャが言うと。ヒースが。

「そうですね。外壁も私達魔術師が応急修理を済ませましたからね、魔物の森に戻ってくる魔物も街に侵入する事は無いでしょう。今日1日で事が済んで良かったですね」

俺達は、シルビアの宿に集まって宴会だ。俺達ファミーユ、シューティングスター、光の剣、そして蒼穹の翼。ただし、ヴァイオラとバトロスはここにはいない。フィフスホーンに蹴り飛ばされたヴァイオラを治療院に見せに行っている。本人は全く何ともないと言っていたし、外傷はなかったが、顔色が悪く気分が優れないようだったので大事を取って診せに行っている。ボイスは。

「へーそれがドラゴンの子供がケーナたんに渡してた角か。小さいけど綺麗なもんだなー。子供とは言えドラゴンの角だ、売ったら幾らになるんだろうなー。想像もつかねえな」

「これは売ったりしないよ。タケル兄ちゃんがペンダントにしてくれるんだ」

「お兄さんが? ケーナたんのお兄さんは器用なんだね」

「ボイス、お前にお兄さんと言われる覚えは無い。ケーナ、そいつから離れろ、何か取り返しが付かない事をするに違いない」

「何を言うんだ。お兄さんは知らないのか? 俺達真の紳士にはな、イエスロリータ、ノータッチと言って、ケーナたんのような美少女は愛でるだけで良いグワッ!」

俺が投げ付けた木製のコップが、ボイスの額に直撃した。

「いいか? ケーナはまだ12歳だぞ。変な目で見るんじゃねえ」

「なに? ケーナたんは10歳くらいじゃないのか? いやいや、歳なんか関係無いな、ケーナたんはこのまま永遠の12歳でいい」

「バカ野郎、冒険者登録出来たんだ。12歳以上に決まってるだろうが! 何だその、永遠の12歳ってのは!」

ケーナは村で厳しい生活をしていたせいか、成長が悪いと言うか、色々と小さい。でも、今はちゃんと食べているんだ、まだまだ成長期だ、ちゃんと成長してくれるだろう。ちゃんとした男が現れるまで、変な虫を近付けるなんてあり得ない。俺が全力で阻止する!

「アリアちゃんも、こんな男には気をつけるんだよ」

料理を持って来たアリアちゃんに声をかけると。ボイスはアリアちゃんを一瞥すると。

「フム、少々歳が経ち過ぎているな。まあ、確かに胸は合格だ、しかし歳がな。4年前に会いたかったな」

アリアちゃんは、料理をテーブルにおいて、戻る拍子にトレイの角でボイスを殴りつけた。

「どうせ、ペッタコよ! でも見てなさいよ、もう少ししたらおかあさんみたいなプロポーションになっちゃうんだからね! タケルさん! ちゃんと待っててね!」

そう言って厨房に戻って行った。

「タケルさん、モテモテですねー。綺麗な女の人の知り合いも増えてますね」

隣に座ったアシャさんが、テーブルを見渡しながら言った。シューティングスターの面々が俺を見ている。

「いやいや、よーく見ようか。トーラスと光の剣の愉快な仲間たちだって友達だぞ。括弧。ただし、ボイスを除く。括弧閉じる。ほーら、知り合いが増えただけじゃーないですか。いっ、いやだなー、変なこと言わないでよアシャさん」

「そうかしら、あっちからも、そっちからも熱い視線が向いてますよ? 気が付かないんですか?」

アシャさん反対側の隣に座るカーシャが。

「さっきの、ヴァイオラの事を見てたからね。あんな攻撃を受けても無傷で生き残れる魔導具を作る男で、フェンリルバスターで、剣1本持ってランドドラゴンに向かって行く度胸も有る。優良物件だろ。しかも、フィフスホーンに臆することなく向かって行く処を目の前で見せられちまったんだ。まあ、惚れちまうよね」

「え? 俺ってそんな風に見られてるの? 人生初のモテ期到来? いやーまいっちゃうなー。えへへへ、ってー! 痛っ痛い、そこ柔らかいところだから。痛いって、ごめんなさい、調子に乗りましたスミマセン」

アシャさんに、わき腹を思いっきりつねられた。その時、スナフの大声が聞こえた。

「おー、バトロス。どうだった、ヴァイオラは大丈夫だったんだろう?」

バトロスがやって来た。

「ああ、無事だった、心配無かったよ」

ん? 何だか複雑な表情をしているな。俺の向かいに座ったバトロスが。

「タケル、礼を言う。ありがとう。あの防具のおかげで、ヴァイオラは無傷だった」

と言うと、コップの酒をグイっと飲みほした。

「たまたまだよ、防具のテストをしてもらってただけだ。偶然とは言え運が良かったんだなヴァイオラ」

「おかげで、お腹の子も無事だった。全部タケルのおかげだ。全くヴァイオラのヤツ無茶しやがって」

ん? お腹の子? えーーー! ヴァイオラ妊娠してたのか? 全然気が付かなかったぞ。アシャさんが。

「え? ヴァイオラに赤ちゃんが? まあまあ、良かったわ、でもあの子ったら本当に無茶ばっかりするんだから。バトロスちゃんとさせなきゃダメよ、あなたの子供なんだから」

カーシャは。

「へー、お腹の子供も無事か。改めて凄いね、タケルの防具は。これから冒険者はあんたの防具を買う事が目標の1つになっちまうねー。とにかく、無事で良かったね、おめでとうバトロス、あの子を大事にするんだよ」

「うおー! バトロスおめでとー!」

「バトロスおめでとー!」

食堂中にバトロスを祝福する声が上がる。バトロスは、頭をかきむしりながら。

「2ヶ月だそうだ、ヴァイオラも気づいて無かったらしい。俺が父親だぞ。全く実感がわかねえ」

スナフが。

「なーに言ってんだ。お前の子供なんだろ、実感がわかねえとかふざけた事を言うなよ」

ヒースは。

「まあ、いきなり父親だと言われてもそんな物かも知れませんね。私達はみな独身ですからね、そう言った経験はないですし」

俺は。

「バトロス、そのー。あー...、ヤればデキる。俺が前に暮らしてた所の言葉だ。実感が無いとか言うなよ。おめでとう!」

いい笑顔でそう言った俺の方を、何とも言えない顔でバトロスが見てきた。

「ガハハハ、タケルの言うとおりだな。なあ、バトロス、やったからには覚悟は決めなきゃな」

スナフが、バトロスの背中をバシバシ叩きながら言った。ヒースは。

「今回の魔物の氾濫を無事にくぐりぬけた子供です。元気に育つことでしょう。ところでバトロス、これからのパーティの活動について相談しなければなりませんね」

アシャさんは。

「その前に結婚はどうするの? 安定期に入れば式は出来るでしょ? まさか、結婚しないなんて事は言いませんよね」

「ああ、もちろんするさ。たった今、プロポーズをして受けてもらってきたんだ」

バトロスが言うと。

『おーーーーー!』

『きゃーーーー!』

男性陣と女性陣から別々の歓声が上がった。そして、相方から声を揃えて。

『おめでとーーー!』

「ああ、ありがとう!」

バトロスが加わり、宴は盛り上がりを増して行った。



「なあ、ばあさん、今回俺達は特に何にもしていないよな? どうしてザナッシュ様の所に行かなきゃならねえんだ?」

「何言ってんだい! 今回の件でファミーユ抜きにどう話を進めるって言うんだ」

まあ、想定の範囲内って言うか、当然と言おうか。分かってはいるが、文句を言いたい年頃なんだ。ケーナは。

「タケル兄ちゃんはともかく、なんで、あたしもいかなきゃならないの? 緊張するよ」

と言い。カーシャは。

「シロの事が有るからね、ケーナにしか分からない事が有るだろ? 核心に当たる部分にケーナは係わっちまったんだよ。諦めな、ザナッシュ様は気さくな方だからね、何にも心配する事はないよ」

ガーネットが。

「確かに、アインの事、シロの事。ザナッシュ様への報告には、直接説明をする方が良いだろうな」

「そう言うことさ。ケーナすまないが、付き合ってもらうよ」

「で、カーシャは現場を見ていた、高ランク冒険者って事で客観的な証人ってことか」

「そう言う事だ。カーシャもよろしく頼むよ」

「ああ、了解した。タケルの事を褒めまくってやるよ」

「恥ずかしいからそれは止めてくれ」


「はい、シロは、いえ、ドラゴンの子供は......」

「ケーナ、シロと呼んでいたのだろう? そのままでいいぞ」

ここは領主館の部屋の1つ、椅子とテーブルがありお茶を振舞われている。さっきからケーナが昨日有った事をザナッシュに話している。

「はい、シロは、ご領主様のお屋敷の北側に檻に入れられていました。ケガをして、お腹をすかせていたんだよ。あ、です。だから、ハイヒールをかけて、ご飯を食べさせたんです。そうして、店に連れて帰ったら。タケル兄ちゃん。あ、兄が、誰かが飼っているんだから、戻して来ないと心配するって言ったんです。だから、戻して来たんです」

「普通に話して良いのだぞ。緊張する事は無い」

「はい、それから何度もご飯を上げに行ったんだ。そして、フィフスホーンが来た時に、真っ直ぐにご領主様のお屋敷に向かって進んでる。ってタケル兄ちゃんが言ったから。そのままだと、シロが死んじゃうと思って助けに戻ったんだ」

「なるほど、ドラゴンの子供は、私の屋敷を挟んで魔の森の反対側に檻に入れられていたのか」

「檻から出して、抱きあげようとしたら、お屋敷の南側に向かって走りだしちゃったから追いかけたんです。そうしたら、目の前で羽を広げて飛んだんです。世話をしていた時には、羽なんか気が付かなかったんだけどなー」

「そのシロは本当にランドドラゴンの子供なのか? しかし、そうでないと迎えに来るはずはないか」

「その後、この自分の角をくれたんです」

そう言うと、ケーナは青い角を手の平に載せて差し出す。

「ほー、それがドラゴンの角か。ケーナまるで伝説の英雄のようではないか。なあ、エメロード殿」

「ふふふ、そうだね。まるで伝説のドラゴンライダーのようだねー」

「ドラゴンライダー? 伝説? なんだそれ?」

「伝説だよ、古の英雄の伝説の一つさ。ドラゴンと心を通わせ、ドラゴンに跨り悪の王国を滅ぼし自分の国を興した英雄の話だよ。その英雄が、ドラゴンの持つ宝石をもらい受けた。と言う話が伝わっている。ケーナのもらった角、まるで宝石のようじゃないか」

「そうそう、その話を思い出したよ。子供のころに読んだ物語の話だがな。ワクワクさせられるな」

領主の話を聞いた俺は。

「つまり、ランドドラゴンが迎えに来たシロはランドドラゴンでは無く、ドラゴンの子供ではないかと?」

「それは、私にはわからんよ。ただ、そう考えた方がワクワクするではないか。ははは、こう見えても昔はなエメロードと一緒に冒険者をやっていたのだ。夢を追っていたのだな。英雄の物語に憧れていただけでは無く、領主の次男坊など、上に兄弟がいれば、騎士か冒険者にでもならねば生活できないからなー。私もご多分に漏れずと言ったところだがな」

「ふふふ、懐かしい話だねー。昔は色々と無茶をしたもんさね。まあ、タケルの無茶には敵わないけどね」

「そうだな、タケルがしている事には足元にも及ばないがな。さて、とりあえずその檻を調べさせよう。何かわかるかも知れん。まあ、証拠など残っているとは思わんがな。少なくとも、ランドドラゴンでこの街を破壊しようと考えた何者かがいると言う事だな。ケーナが救わなければ、シロは死んでいたかも知れん。そうなれば、怒り狂ったヤツのおかげでこの街は壊滅していただろう。となれば、証拠をあえて隠す事もしていないかも知れん。モロー手配してくれ」

「承知いたしました、この後騎士団に調べさせましょう」

次に俺が、話をした。

「なるほど、Aクラスの魔結晶を使ってゴーレムを強化し、フィフスホーンにぶつけたと言う訳か。大事な魔結晶であったろうに、助かった。礼を言うぞ。ゴーレムがフィフスホーンの進撃を止めた場面は、住民と共に見せてもらった。皆の目にも頼もしく映ったに違いあるまい。この街の守護神のごとくな、これからもよろしく頼みたい」

ザナッシュはそう言うが、俺はそれほど楽観的には考えてはいなかった。そこで。

「しかし、アインが家を破壊してしまった。ついては、その補償として、カードに入った金の全額をお渡しする。今回破壊された街の復旧資金の足しにしてくれ。この間の勇者との一件でそれなりに貯まっているはずだ」

俺は、カードを差し出す。ザナッシュはカードをモローに渡し、残額を調べさせた。領主館にはそういった装置も有るんだな。

「タケル、これを全額と言うのか? 大金ではないか、そんな事をしたらこれからどうやって生活していくと言うのだ」

「ははは、全額と言っても先ほど50000イェン下ろしたからな。それだけあれば当面暮らしていくには困らない」

「たったそれだけでどうすると言うのだ、自分の生活も儘ならない状態で街の復旧資金など。もう少し考えて行動しないといかんぞ」

「ザナッシュ様、俺がこの街に来たのはほんの5ヶ月ほど前だ。その時の所持金は24000イェン足らずだった。その倍も残すんだ、どうとでもなるさ」

「ふむ、何を考えている? みんなあれを見ているのだ、家を壊したといっても、文句など言う者などいないぞ? それに、タケルが壊した家は騎士団員の家も多い。なおさら文句など言わんよ」

「それは表向きの理由だ。裏向きの理由は。今回の被害は最小限だったかも知れないが、俺の出す金だけでは全く足りないはずだ。俺は、それなりに防衛に貢献したと思っている。その俺が全財産に近い金を出したとなれば、被害を受けなかった住人、商人、ギルドなどからも多くの支援金が集まるだろう。今回の騒動はどこかの誰かの悪だくみによるものだ。大至急外壁を街を復旧する必要が有る。住民を安心させる必要が有る。騎士団員の士気を下げる訳にはいかないはずだ。その為には金が幾らあっても多過ぎると言う事は無い」

「確かにタケルの言うとおりだ。しかし、いいのか? パーティメンバーのケーナやガーネットはそれでいいのか?」

「うん、タケル兄ちゃんに任せるよ」

「タケルでなければ集められなかった金ですから、タケルの意思で使うのが正しいでしょう」

この事については、ここに来る前に2人には了解を得ている。



「えー、お金をぜーんぶ、あげちゃうのかい? なんでそんな事するんだい?」

「確かに今回は、街の一部を破壊したが、不可抗力だろう。だれもタケルを責めたりはしないぞ。確かに街の復旧には金が幾らあっても足りないだろうが、タケルがそこまでする必要は無いのではないか?」

「まあな、表向き、裏向きの理由だけならそこまでする必要は無いよ。でも、本当の理由はな、俺の為なんだよ、自分の為に使うんだ。出し惜しみしてるる場合じゃないさ」

「タケル兄ちゃんの為?」

「自分の為とは?」

「いいか、今回の件で、俺の力が街の住人にバレた。さらに、これから俺が作ろうとしている物はもっと強大な力を持っている」

「アインか」

「そう言う事だ。アインの力はフィフスホーンに匹敵するって事だ。魔の森の魔物たちが泡を吹いて逃げ出す魔物が今回街を襲った。その魔物と同等の力を持つゴーレムを自由にできる人間が街の中に住んでいる。そいつがゴブリンの暴走を防ぎ、フェンリルを倒し、フィフスドラゴンも追い返した」

そうだ、今はガーゼルの英雄、殲滅の白刃などと言われているからいいが。

「今まで住民達は俺の行動を話で聞いただけだ。だが、今回は違う自分の目の前で起こった事だ。直に俺の持つ力を見たんだ。その中には、俺の事を恐れ排斥しようと思う人間が出てくるかもしれない。俺はたった5か月前にふらっと、この街にやって来た得体の知れない男だ」

「なんでさ、タケル兄ちゃんは何にも悪い事していないじゃないか。考え過ぎだよ」

「いや、ケーナ。自分の住む街に得体の知れない男が、強大な力を持つ男が住んでいるのだ。その男を恐れる者は必ず出てくる。ケーナが思っている以上に人の心は弱い」

「そこでだ、その男が、街の為に自分たちの為に全財産をなげうつような人間だとすればどうだ? いつも助けてもらえると思われると困るがな。そこは大至急金を集める必要があるためだって裏向の理由で今回は特別だってことにする」

「確かにそうだな、こんな事がおきるたびに全財産を投げ出すようでは話にならんがな。今回だけだぞ」

「ああ、今回だけだ」

「うん、タケル兄ちゃんの思う通りにすればいいよ」



と言う話になっている。この話は誰にもする訳にはいかないけどな。

「わかった、今回はタケルの力を借りよう。この恩にはいつか報いるからな」

「はい、貸しにしておきます。ははは」

「ははは、利息は期待してくれていい。何かあったら、必ず頼ってくれ。私を恩知らずにはするなよ」

その後、カーシャの話を聞き、エメロードの話を聞いたところで領主館から解放された。



「ほらタケルさん、こいつも食べな」

屋台のおばちゃんが、俺が食べているパスタの皿の上にポテトサラダを載せた。

「ありがたいけど、こんなに食えねえよ。元々のパスタの倍くらいの量になっちまってるよ」

ポテトサラダを載せる前に、ミートパイとキッシュも載せられて食べているのだ。ポテトサラダも完食してテーブルに金を置いて席を立った。

「ごちそうさん。おばちゃんの料理はいつも美味いね」

「お代はいらないよ。タケルさんから金なんか取れるもんかね。あれだけ世話になったんだ」

「そうはいかないよ、おばちゃんだって商売じゃないか。そんな事されたら困る」

「何言ってんだい。街の復旧に全財産出しちまったんだろ。そんなあんたから金なんか取れるもんかね」

「いやいや、本当に困るよ。それじゃまるっきり集りだ。格好悪くて、もうこの屋台に来れなくなっちまうだろ。また食いに来たいんだ。だいたい、金に困ってる訳じゃないんだぜ。おばちゃんだって店作り直すのに金は必要じゃないか」

「あらあら、そうかい。嬉しい事を言ってくれるね。だったら何で、いつもパスタなんだい。一番安いからだろ? それにしちゃおいしそうに食べてくれるから、作りがいがあるってもんだけどさ。店の事は何とかなるだろうさ。タケルさんのおかげで、支援金はかなり集まっているんだそうだ、それなりの補償は受けられそうだからね」

「おばちゃんのハーブ入りパスタが好きなんだよ。いっつも一番安いパスタしか注文しなくて悪いんだけどさ、金が無いって訳じゃねえんだ。それに全財産出した訳じゃねえよ、それなりに冒険者のクエストやって行けば、しばらく食うのには困らないくらいは残してるんだぜ、そこまで無計画じゃねえさ」

「そうかい? だったら、今日はパスタの代金だけ貰っとくね。他はおまけだよ」

「んー、じゃあごちそうになるよ。でも次からはちゃんと金取ってくれよ。ごちそうさん」

「ああ、また来ておくれよ」

うー、食い過ぎだ。最近たまに昼飯を食いに行くようになった屋台だ。屋台なのにちゃんとした料理が食える。食堂をやっていたのだが、フィフスホーンに壊されちまった。おかげで今は屋台をやっているそうだ。バジリコスパゲッティのようなハーブ入りパスタが絶品なんだ。今までもそれしか頼んで無かったんだけど毎回のように1品おまけしてくれてた。若いもんがパスタだけじゃ力が出ないだろうって言ってさ。で、さっき正体がばれた。おかげで腹がはち切れそうだ。あそこにはしばらく行けねえかな。味をしめて集りに行くみてえだもんな。ほとぼりが冷めたころまた行こう。

「おばちゃんのハーブ入りパスタは絶品だからなー」

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