もう酒なんか絶対に飲まない!
「うわーー!」
顔の横から炎が噴きあがり驚いた俺は、AMRを放り出して飛び退いた。
「あービックリした。あー驚いた。何がどうしたんだ?」
ライから連絡が入る。
「店長、今の飛距離は247mだ」
「ああ、ありがとう。引き続き頼む。でも、少し時間がかかると思うぞ」
「了解だ」
とりあえず弾は飛んだようだ。え? 247m? たったの? まあ、それはいいか。でも、何だったんだ今の炎? なんであんな所から炎が噴き出す? AMRに近づくと、炎を噴いた当たりを見る。そこは普通のライフルならストックだ炎が噴き出す物など何も無い部分のはずだ。しかし、ブルパップ式のこいつには廃莢用の穴がある部分だ、俺のAMRは薬莢は無いが、弾丸を変更する時に排出出来るように穴は開いている。爆発の反動で少しボルトが下がって、そこから炎が噴き出したってことか。
「スプリングが弱かったのか? でも、スプリングをいくら強くしても、ボルトが下がるのが全く無くなるって事は無いよな。 ......いや、弾が抜ければ圧力は下がるんだ、それまで耐えられればいいのか? まあ、スプリングの強化だったら簡単だな」
馬車でAMRをバラし、持ってきた中で一番強力なスプリングに交換して組み上げるだけだ。
「よし出来た!」
ボルトを動かすレバーを引いてみる。うん、かなり強力な手ごたえが右手に伝わる。
「うんうん、これだけ強力なスプリングなら爆発の圧力にも耐えられるな。レバーを引くのにこんなに力がいるんだからな......? あれ? これ、ケーナの力じゃ引けなくね? ......スプリング戻そう」
もう一度バラした。
「そうそう、これだよこれ、初めからボルトを押さえる金具を付ければ良かったんだよなー」
ボルトを押さえる金具を追加し、トリガーを2段引いた時に金具を外してからシリンダーを動かすように変更した。もちろんレバーを引いてボルトを動かす時も金具は外れるようにした。一度組み上げてから、金具が動かなかったのでやり直したのは秘密だ。シートの場所に戻るとライに話しかける。
「ライ待たせたな。再開するぞ、観測頼む」
「了解だ店長、大分時間がかかったな」
「ああ、ちょっと、...細工が細かくてな時間がかかっちまった」
「そうか、俺はまた、ミスを連発して3回くらい分解したり組みあげたりを繰り返していたせいで時間がかかったのかと思ったぞ」
こいつ見ていやがったのか?
「あははは、ソーンナコトハナイサー」
「なんだか、セリフが棒読みだが、まあいい。こちらはいつでも平気だ、始めてくれ」
なんか、ライのくせに生意気だな。とは思ったが、とにかくテストだ。シートに伏せ撃ち姿勢になりAMRのレバーを引き弾丸を装填する。スコープを覗き500m先の岩に狙いを付けて引き金を絞る。
「ズガン!」
曳光弾が光を引いて飛んで行く。飛んで行って岩の斜め上を飛び過ぎて行く。
「店長、今の飛距離は742mだ」
「ありがとうライ」
短いな、ライフルの最大射程程度しか飛ばないか。爆発力が弱いのかロスが大きいのか。
「とりあえず、爆発力を上げてみるか」
弾丸の記述部分のパラメータをいじって、爆発の威力を上げてみる。
「よーし、ライいくぞー」
「了解だ」
さっきの弾道の記憶を基にスコープの調整を少だけしてみる。さて、息を吐き呼吸を止め岩の少し上に狙いを付けて引き金を絞る。
「ズガーン!」
さっきよりも大きな音がしたかと思うと。スコープの中を光る戦を引いて飛んで行った。岩は超えたようだがどこまで飛んだか?
「1027mだ、大分飛ぶようになったじゃないか」
「ああ、次行くぞ」
今度は更に威力を上げてみる。
何度か試してみたが、1050m以上は飛距離が伸びなかった。
「まあ、弾がバレルを飛び出した後にいくら爆発が広がっても関係ないもんな。爆発の大きさが必要なんじゃなくて、瞬発力が必要なんだな。バレルを出るまでにどれだけ速度を稼げるかだ。それに、爆発力のロスが大きいんだろうな。弾とバレルの隙間が大きいんだろう、狭くすると弾とバレルが接触しちまうな」
爆発の風圧が弾とバレルの隙間から抜けちまうんだろうな。
「まあ、魔物を倒すなら1000mも飛ぶ必要は無いんだから、どのくらい着弾が纏まるかの方が問題だよな」
ファイアーボールの威力を飛距離に合わせて調整し、スコープを微調整すると今度は岩の中心に向けて引き金を引く。弾が飛び出し岩の中心からやや右側に当たる。
「ライ、今当たった岩を見ていてくれ。着弾位置がどの程度纏まるか確認してくれ」
「わかった」
ライの返事を聞くと。馬車に戻り鋼のインゴットを持ってきてモデリングで道具を作る。下に付いている杭を地面に打ち込みAMRを固定する。スコープを覗きながらレティクルの中心が岩の中心を捕らえるようにしてから引き金を引いて弾を打ち出して行く。途中でマガジンを交換し、10発撃ってみた。
「ライ、どんな感じだ?」
「全て岩に命中している。着弾範囲は、左右が126cm上下83cmの楕円だ。ちなみに岩のサイズは上下左右共に大体3mくらいだ」
「おう、ありがとう。次は弾を換えて試す岩の状態を確認してくれ」
「了解だ」
マガジンを交換し、ボルトを引いて残っていた曳光弾を排出し徹甲弾を装填する。数発撃ってみる。
「どうだ?」
「跳弾した弾が1発、後は岩にめり込んでいる」
「よし、また弾を換えるぞ」
再びマガジンを交換し、ホローポイントを装填して数発撃ってみる。
「今度は、岩の表面が直径10cmくらい砕けた。弾は砕けた岩と一緒に落ちたようだ」
「了解した。今日のテストはここまでにしよう。ツァイもライも戻ってくれ。ご苦労さん」
帰りの馬車で考える。パワーのロスと弾が回転していないのが問題なんだよな。テストの感じではそこを何とかしないと、飛距離も命中精度もこれ以上は良くならないと思う。
「バレルにライフリング刻んでみようかな。何本か試作すればどうにかなるか? いや、これから先、弾の材質をオリハルコンにでもしたらライフリングで弾が削れないよな。そうしたら発射できなくなるな」
鉛や真鍮みたいな柔らかい材質なら問題ないが、これから先オリハルコンなんか使うようになると今の滑空銃じゃないと発射できずにバレルに閊える事になる。
「すると、滑空銃で正解って事になるな。バレルの中で魔法で弾を回転させてみるか? バレルの内側に沿って気圧を上げながら空気を高速回転させて、弾丸に刻んだ溝で風を受けるようにすれば回るんじゃねえのか? うん、なんかいい感じじゃねえか? うまく行きそうな気がしてきた」
そうだよ、中心は弾の直径より少しだけ小さなサイズで普通の気圧にすれば爆発力のロスも無くなるな。
店に付いた俺はさっそくバレルと弾丸の改造に取りかかる。ちょっと複雑な記述になったがバレルの中で高圧、高速で回転する風魔法を発動させる事が出来た。弾丸に溝を刻んで終了だ。更に、みえーるくんも改造して風魔法を組み込み、ズーム出来るようにした。ついでにみえーるくん2号として、双眼鏡タイプも試作した。双眼鏡の方が、単眼鏡より疲れないといった事をネットか何かで読んだ事があるせいだ。ケーナ達が戻るまでに時間が有ったので、オリハルコン製の弾丸に強い衝撃を受けた時にだけ発動するエクスプロージョンを仕込んだ徹甲榴弾的な弾も作ってみた。こいつは超音速で物に当たるとエクスプロージョンが発動する。落とした程度では何とも無い。でなきゃ危なくて持ち歩けないしな。
「しかし、オリハルコンに魔石まで組みこんだ弾か。コストがとんでもない事になるな。まあ、使いどころは限られるから仕方が無いか」
翌日はケーナ達がライと馬車を使いたいと言うのでツァイと2人でテストに出かけた。
「今日は改造するにしてもたいして物は必要ないからな。馬車まではいらないだろう。ツァイ、今日は周辺の警戒はいいから、テストに付き合ってくれよな」
「はい、主様」
まずは、昨日の岩に的をいくつか貼りつけた。そこからさらに500mほど離れた岩にも的を貼りつけ昨日の射撃場所に来た。
「初めは飛距離だな。ツァイどのくらい飛ぶか見ていてくれ」
「はい」
まずは曳光弾を装填して撃ってみる事にする。射撃姿勢を取りボルトを引いて弾を装填する。引き金を2段階目まで引けば自動装填されるが、万が一弾が残っていたらとんでもない事になるので使い初めはボルトを引く事にする。新しく付けた魔石に魔力を流しバレル内の空気に回転を与える。そして引き金を引き絞り発射だ。
「3000mを大きく超えています。そこから先は藪が深く確認出来ません」
「了解した。次は手前の岩の的に数発打ち込むから集弾の状況を確認してくれ」
よし、狙った通りの飛距離が出た。
「わかりました、移動しますので少々お待ちください」
待つ間に、昨日作った固定用の道具を設置しAMRを据え付ける。徹甲弾のマガジンに交換し、スコープの倍率を合わせる。ツァイからの準備が整ったとの返事を待て、1発1発スコープを調整しながら、数発打ち込むと。
「6cmの中に全て着弾しています」
「思ったより纏まったな。ところで、的までの距離ってどれくらいだ?」
「はい、518mです。向こうの間とまでは978mになります」
「ありがとう。次の的を狙うぞ」
ツァイは奥の岩に向かって走り出した。
固定具を調整して的を狙う。今度もスコープを調整しながら数発撃ちこむ。
「15cmの中に全て着弾しました」
「立派に狙撃銃として使える性能だよな? 今度は手前の的に戻ってくれ。的の中心を狙うから、1発ごとにどのくらい中心に近いか教えてくれ」
「はい、主様」
固定具を外し、さっき手前の的を狙った時の位置にスコープの目盛りを合わせ倍率も調整する。伏せ撃ちの姿勢を取り新しい的に向けて狙いを定める。息を吸い大きく吐きだして息を止める。本当は心臓の鼓動も止めた方が良いらしい。生きてるんだから無理だけど。引き金を絞る。
「15cmずれました」
「ずれた方向を時計の短針で教えてくれ」
「7時30分です」
「了解」
目盛りを調整し、何発か撃ちこむ。
「5cmずれました。2時です」
「やっと中心の円に入ったっかな」
「はい、ちょうど境目と言ったところです」
固定具を使わずにこのレベルなら良しとしよう。俺はスコープの目盛りをメモした。奥の的に目標を替えて数発撃ちこみ目盛りを記録する。それから、マガジンを交換し徹甲榴弾を装填する。奥の岩に向けて狙いを定める。
「ツァイ、エクスプロージョン弾を試すから少し離れてくれ」
ツァイが十分な距離を取った事を確認し引き金を絞る。体感で1秒半程後に岩が爆発した。弾速は大体音速の3倍くらいはあるのか? 本物のAMRに近い性能が出たか? まあ、連射性能は落ちるけど弓なんかよりは断然早いからいいだろう。......夢中で作ったけど、元々狙撃銃なんか作るつもりは無かったような気がする。
「ははは、仕方がねえよな、口径が大きくないと魔物なんかには効かないだろうしな。機関銃なんか機構が思い付かなかったんだから狙撃銃で安全な所から狙うって事で仕方が無いよな。後はこいつをケーナが使いこなせるかって事だけど、オヤジさんが猟師だってんだから。狙撃の才能を受け継いでるんじゃねえかな」
1000mも離れた所から魔物を狙い撃つケーナか、いいんじゃねえか? 前衛で戦うより安全だしな。
「まてよ? 1000m離れるのか。俺達との連携どうすんだ? そんなに離れたんじゃ護衛が必要になるんじゃないか? ......あれ?」
AMR作ってみたのはいいけれど、運用については良く考えないとダメだな。重いから振りまわす訳にはいかないし。普通のパーティが戦う距離だと使いにくいのか? そこは、ケーナがちゃんと扱えるようになってからおいおい考えて行けばいいかな。
テストが終わったので取りあえず、魔物を狙ってみるか。実戦テストだな。双眼鏡を覗き込み魔物を探す。狙いを外したり、魔物を貫通したりする事を考えると使いどころが難しい武器な気がするな。さて、何かいないかな? 草原を見渡しているとブラッドグリズリーがゆっくり歩いているのが目に入った。
「ちょうど良いのがいるな。あとは、あれを狙ってる冒険者が他にいなければいいんだけど」
魔物が気が付かないんだから、俺がこんなところから探せるわけが無いか。距離が結構離れているので近付くことにして歩き出す。風下から近寄らないといけないのだが、今はほぼ無風だ。
「500mくらいまでは寄りたいな」
草深い所を選んで進んで行く。だいたい700mくらいだろうか? ちょうど良い大きさの岩を見つけその後ろで伏撃ちの姿勢を取る。
「さて、どの弾を使う? 相手はCランクの魔物だからな。エクスプロージョン弾でいいか? あいつなら、赤字にはならないだろう」
準備を済ませ、スコープの真ん中にブラッドグリズリーを捉える。
「あいつの頭はデカイからな、狙い易いのは良い事だ。あれ? 討伐証明用の場所ってどこだ? クエスト受けてる訳じゃねえんだから魔核が取れればいいかな。さーて、頭蓋骨はどの位硬いかな?」
大きくて狙うのは簡単だ。移動はしているが、ゆっくりだし当てることは出来るだろう。どの弾とどの魔物の相性が良いかは、全くわからないのだから、データ取りってところだな。顔の真ん中に照準を合わせ引き金を引いた。
「ズガーン!」
跳ねあがった銃が落ち着いたところで、ブラッドグリズリーの顔面が弾け、のけぞるように倒れるところがスコープ越しに覗けた。
「よし!」
ちゃんと魔物に対して有効じゃないか。テストは成功だな。AMRをストラップを使って背負うと、ツァイを呼び跨りブラッドグリズリーの方を見ると。冒険者パーティらしき人影がブラッドグリズリーを挟んで俺と反対の方から現れ、駆けよるのが見えた。
「あー、やっちまったな、あいつらの獲物を横から攫っちまったか?」
ツァイを走らせ近ずいて行くと。珍しい事に女性だけの6人パーティのようだ。ブラッドグリズリーを眺めていたうちの1人が俺に気が付き仲間に声をかけたようで、皆が俺の方を向いた。俺はツァイのスピードを落としながら、冒険者に声をかけた。
「あんた達のクエストだったのか? すまなかったな、横取りするつもりは無かったんだが、あんたらに気が付かなかった」
ツァイから降りて彼らの方に歩いて行った。するとリーダーだろうか?
「討伐依頼を受けて探してたんだが、あたし達もこいつを見つけたばっかりで、隠れて様子を伺ってた所だからね、気が付かなくて当然ださ」
大柄な女性が言った。身長は190cmを超えるだろうか。革鎧のを着ているが全身鎧では無いため体付きはわかる。筋肉質だが男とは筋肉の付き方が違うのだろうゴツゴツした感じは無く女性らしいラインを保っている、ウエストは引き締まり胸と腰のボリュームは凄まじい破壊力だ。くすんだ金髪をアップに纏めている。俺の知っている女性達とはタイプが違うがかなりの美女だ、年齢はやや高いが十分に守備範囲だな。
「これを、あんたがやったのかい? あたしは周りにも注意してたんだけど全然気が付かなかったね」
スカウトらしい小柄な女性が言う。俺は背中に背負ったAMRを示しながら。
「遠距離攻撃用の魔道具を作ったもんでね、テストしてたところなんだ」
性能はあんまり大っぴらにしたくないから、実際の距離を教える必要は無いだろう。
「遠距離攻撃ってどれだけ遠かったんだ? ん? あんた殲滅じゃないか」
「ああ、そう呼ばれる事もあるな」
「やっぱりそうかい。あんたの所で買ったみえーるくんのおかげで狩りの効率が上がったよ、こいつは凄い魔道具だね。なんだい、また新しい魔道具を売りだすのかい?」
「売り物になるかどうかは、これからのテスト次第って所かな」
「かなりの距離からブラッドグリズリーを1撃だろ? 期待できる性能じゃないか」
「まあ、性能は良いと思うんだけどさ、他のメンバーとの連携が取りにくいんじゃねえかと思ってね」
「あー、なるほどね」
と、スカウトの女性が言った。俺はブラッドグリズリーを指差しながら。
「ところで、こいつの扱いってどうなるんだ? あんた達の邪魔をしちまったんならすまない事をしちまったな。口裏合わせて、あんたらの討伐って事にするかい?」
別にたまたま的にしただけだし構わないな、と思って話をすると。最初に話したリーダーらしき女性が。
「何バカなこと言ってんだい。こういう時の慣例が有るんだ、そんな不正なんかしたらギルドを除名になっちまうよ」
と、言って俺を諌めた。
「そうなのか? 知らなかったよ。テスト中なんで、傷の状態を調べられるだけで良かったんでね」
「なるほど、でもこういった場合、慣例では討伐報酬を半分ずつに分ける。討伐クエストは成功扱いだけど、クエスト成功のポイントはどちらにも付かない」
「そんな慣例が有るのか、知らなかったな」
「知らなかった? 登録の時の説明を聞いてなかったのかい。仕方が無い子だね。討伐クエストを受けた冒険者以外の冒険者が魔物を討伐しちまうなんて事はそれほど多い事じゃないが、聞いた事も無いってほど珍しくもない。そんな時のトラブルを防止するための慣例さ、まあ規則じゃないから双方の合意が有ればこの限りじゃないけれど、討伐者を誤魔化すなんてのは規則に違反するんだよ。不正にクエスト成功のポイントを稼ぐなんて事に目を瞑ってたんじゃ、いつか不正をした本人以外も巻き込んでとんでもない事になるかも知れないじゃないか」
「そう言われれば最もだな」
「だろ? じゃあ、さっさと剥ぎ取りしちまおうか」
リーダーはそう言うと、テキパキと指示を出す。俺達は協力して、解体を始めた。俺は。
「素材や肉は、あんた達が持って行ってくれ。今日はテストだけのつもりで来たから荷物を持って帰れないんだ。いらないと言うよりは元から放棄しなきゃならない」
「そう言えば、馬車じゃないんだね。あたし達の馬車で運んであげるから、向こうで分けよう」
「いやいや、元から俺には持って帰れない物だったんだあんたらの取り分だよ、それは」
「カーシャ姉さん、貰っちゃおうよ殲滅がいらないって言ってんだからさ」
リーダーはカーシャって言うのか。彼女は呆れたように。
「そこまで言ってくれるなら、有難く貰う事にするよ。ああ、紹介がまだだったね、あたしはカーシャ、このシューティングスターのリーダーだ」
「俺はタケル、ファミーユのリーダーをしてる」
「あたしは、サルビア。よろしくねタケル」
スカウトの女性だ。小柄だがメリハリの利いたボディで赤毛のこれまた美女だ。
その後、次々にシューティングスターのメンバーが自己紹介をしてくれた。
ガーゼルの街に戻った俺達はギルドで報告と換金を済ませた。別れようとするとカーシャが俺の首に腕を回して。
「よしタケル、飲みに行くよ! 友達になった記念だ、あんたには稼がせて貰ったからね、今日はあたしの奢りだ」
「いつの間に友達になったんだよ。まあいいけど。荷物を置いて着替えてきたいんだけどいいか?」
「ああ、だったら後で、あたし達の宿においでよ1階が酒場になってる」
カーシャは強引そうだな、まあ、特に断る理由もないな。
「ああ、ごちそうになるよ」
宿の場所を聞いて店に戻る事にした。
店に戻って、装備を片付け宿に戻る。ケーナ達に食事に誘われたからと言って1人で宿を出る。さて、カーシャ達の待つ宿に行こう。
宿の酒場に入り、店の中を見渡していると店の奥から。
「おーいタケル! こっちこっち」
俺を呼ぶサルビアの声に引かれるように店の中を進んだ。
「待たせちまったか?」
カーシャの隣の席が空いていたのでそこに座りながら言った。カーシャは。
「そうでもないさ。あたし達も今席に着いたところだ」
それほど待たずに料理が並べられた。それなりに待たせちまったようだな。直ぐに飲み物も揃い。サルビアの音頭で宴会が始まった。
「みんな飲むよ―。カンパーイ」
宴会が進むとみんな酔いがまわってきたようだ。そして俺は今。
「なんだい、タケルー、全然酔って無いじゃないかー! 酒を飲んだら酔わなきゃいけないんだぞー! 酒に失礼じゃないか」
「いや、俺が飲んでるのは、果実水だからね。酒なんか飲んじゃいないんだから酔う訳ないだろ。それに酒に失礼とかどう言う理屈だよ」
カーシャに絡まれていた。
「なんだとー、宴会で酒を飲まないってのはどう言う量見だい? あたしみたいな年増の行き遅れとは一緒に酒は飲めないって言うんだね!」
「いやいや、俺は酒なんか飲んだ事が無いって言ったじゃないか、だいたい、酒なんて飲まなくたって、楽しめればいいってカーシャが言ったんだろうが」
そうだ、俺は悪くない。
「なーに、言ってんだい。あたしはあの時は飲んじゃいなかったんだよー。でも今は酒を飲んで酔っ払っているーんだ。いいかいタケル! 状況は刻一刻と変化するんだ。その変化に対応できなきゃ冒険者としてやって行く事なんかできないよ!」
「カーシャ、後半は冒険者の心得として良い事言ってるけどな、全体でみるとたちの悪い酔っ払いのセリフだぞ」
「あーそうさ、あたしはただの酔っ払いだー」
カーシャはそう言うと、コップの酒を一気に口に含み、右手で俺の後頭部を掴むと俺の口に自分の口を付けそのまま口移しで酒を送り込んできた。驚いた俺はそのまま飲みこんでしまい。
「あ、美味い」
「そうだろー? そうだろ! よーし、もっと飲め! さあグーッといけ」
カーシャは手に持っていたコップを俺の口にあてがうと、俺の口に流し込んできた。やっぱり美味いな。俺は、そのままコップの酒を飲み干し。
「おー、タケルいい飲みっぷりだねー。そうこなくっちゃ」
......そこで意識を手放した。
「ばー、アタマガ、ガンガンスル~。ムカガ、ムネムネスル~。これが二日酔いか? もう酒なんか二度と飲まねえぞー」
そう言って、寝がえりをうつと、右手が何か柔らかい物を掴んだ。何気なく手を動かしてみる。
「モニュモニュ、フニュフニュしてて、気持ちいい」
今までに、経験した事の無い感触だ。
「あんっ。くすぐったいよ」
ふーん、くすぐったいのかー。......ん? んん? 目を開けると。目の前には美しい女性の顔が。
「おはようタケル」
あれ? この美人は? 手を更に動かしながら。プニュプニュ。んー気もちいい手ごたえ。
「もう、タケルったら、朝からするのかい?」
そこで、俺の意識がキッパリハッキリ目覚めた。
「うわーーー!!」
そう叫ぶと、ベットから転げ落ち壁際まで飛び退り、壁に背中を付けて座り込んだ。ベッドに横たわりとても良い笑顔で俺を見つめる美女を指差し。
「なんで俺のベッドにいるんだ? だっ誰だあんた! あんたみたいな美人のに知り合いなんかいねえぞ」
「あら、あたしを美人だなんて言ってくれるのは嬉しいけど。同じベッドで一夜を共にした女に向かってそんな事を言うなんてつれないねー。だいたい、ここはあたしの部屋だよ」
俺は、当たりを見渡して。
「あれ? なんでこんな所にいるんだ? 昨夜はー、あれ? シューティングスターの皆と宴会をして」
美女がニヤニヤしながら。
「宴会をして? それから?」
「そうだ、カーシャに無理やり酒を飲まされて?」
「飲まされて?」
「目が覚めたら、頭がガンガンして、胸がムカムカ気持ち悪くて、プニュプニュして気持ち良かった」
「あーははは、気持ち悪くて、気持ち良かったのかい」
美女はベッドから起きあがると、胸元から下を前だけシーツで覆い俺に向かって歩いて来る。俺は更に下がろうとしたが、壁のおかげでこれ以上下がる事はできない。シーツ1枚の美女は、俺の横にあるクローゼットの戸を開けて中を覗き込む。それなりの年齢のようだが、ぜんぜんタレてなどいない綺麗なお尻に見取れていると。
「タケル、そんなにガン見されてるとあたしも着替えずらいんだけど?」
「うわー、ゴメン!」
そう叫んで、反対側の壁に走り寄って壁を睨みつける。背中からゴソゴソと音が聞こえ。
「今日はどれに......。」
着替えているのだろうか動く気配が聞こえてくる。この、女性は誰だ? あんなタイプの美人に知り合いなんて......。そう言えば凄く身長の高い筋肉質のボンキュンボン......カーシャか? 髪を下ろしているから気が付かなかったのか? 女の人って、髪型が変わると印象が全く変わるんだな。
「タケル。どお?」
と声をかけれられ、何にも考えずに振り向くと。上下黒の下着を付けただけのカーシャが両手を後ろに回してポーズを取っていた。すげえ破壊力だ。
「どぅおわー!!」
俺は、再び叫び声を上げ、部屋を走り出ると、そのまま宿を飛び出した。あー驚いた。少しだけ冷静になった俺は。
「それにしても、眼福ではあったな。脳内メモリーに永久保存だな。しかし、どうしてカーシャの部屋で寝てたんだ?」
シルビアの宿に戻りロビーに入ると。そこにはアリアちゃんとシルビアさんとケーナとガーネットが話しこんでいた。俺は、嫌な汗が背中を流れていくような錯覚に襲われながら。
「ただいま」
何事も無かったように4人に挨拶をした。俺の方を向いた皆の目つきが険しいのは気のせいだよな。4人の挨拶を待たずに。
「着替えてくるからちょっと待っててくれ。朝飯を食ったら、いつもの訓練な」
と言いながら、階段に向かって歩いて行く。あっ、何だか、視線が痛い。走り出したくなる衝動を抑えつつ平静を装いながら4人の横を通り過ぎようとすると。シルビアさんが。
「タケルさん。昨夜はどちらに泊まったんですか?」
アリアちゃんが。
「泊まるのは構わないんですけど。一言声をかけてね」
ガーネットが。
「タケルが朝帰りとは、珍しいな」
ケーナは。
「誰と一緒だったの?」
4人とも笑顔何だが、目が笑って無いぞ。
「え? ああ、昨日知り合った冒険者に晩飯に誘われてさ。そこで、初めて酒を飲まされちまって意識を無くしてさ。俺って酒弱いのな、飲んでみて初めてわかったよ。コップ1杯で意識が無くなるなんてまいっちゃうよなー。ははは」
「昨日知り合った冒険者ですか?」
シルビアさんが俺の方に近づきながら尋ねてくる。相変わらず目が笑っていない。
「ああ、シューティングスターってパーティですよ」
「あら? カーシャのところでしたか」
近い、シルビアさん近いですよ。シルビアさんの豊かな胸が当たりそうなほどに近づいている。
「うん、もしかしてシルビアさん知り合いだったり?」
直ぐに逃げ出せと、俺の勘が警報を鳴らす。
「昔は、あそこは全員女性のパーティだったはずだけど。最近会っていないうちに男の人がパーティに入ったのかしら?」
ヤバイ、シルビアさんは元冒険者だ、カーシャの年齢から言っても知り合いである可能性はあったはずなのに、正直に話しちまった。俺って相当テンパッテルな。
「あら、タケルさん良い匂い。どこで付けてきたんです?」
俺は自分の腕に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら。
「カーシャが香水でも付けて......」
シルビアさんに引掛けられた。魔物に気が付かれてしまうような匂いを発する香水を、冒険者が付ける訳無いんじゃないだろうか?
「ふーん、そうですか。カーシャと朝まで一緒だったんですね」
シルビアさんの雰囲気が一変した。シルビアさんの背中に鬼が見える。
「タケルさん、不潔」
「不潔って、アリアちゃん。何にも無かったよ?」
「タケル兄ちゃん、女の人と何をしてたの?」
「だっだから、なっ何もしてねえよ? 酒を飲んだ後、意識が無かったんだから、何かする訳無いだろ?」
「タケルの女性関係に文句を付ける気は無いがな。うちのパーティにはケーナも居るし、自分も一応女なのでな。そう言う事はばれないようにするのがエチケットなんじゃないか?」
「だから、そう言う事ってどう言う事だよ! 俺は何にもしてない...よ?」
4人に詰め寄られ、1歩、2歩と後ろに下がりながら言い訳にもなっていない言い訳を繰り返す。その時、宿の入口のドアが開き誰かが入って来た。
「あっ、いたいた、タケル忘れ物だよ。全く、大事な剣を忘れて行くなんて、そんなにショックだったのかい、あたしの裸は? 鍛えてるから弛みなんか無いし、歳の割には良い線行ってると思うんだけどね?」
壊れた機械人形のようにぎこちなく振り向くと、そこにはカーシャが俺の刀を持って立っていた。
「ちょっとカーシャ、いったいどう言う事なのかしら。裸って、あなたまさか」
俺を押しのけるようにして、シルビアさんがカーシャの前に立つ。表情がきつくなってるな。
「おー、シルビアじゃないか久しぶりだね。あんた、昔と変わらないね。相変わらず美人だ」
シルビアさんは、毒気を抜かれたようにため息を付きながら。
「はあー、いつ戻ってきたの? あなたアドべックの街を拠点にしてるんじゃなかったの?」
「ガーゼルの街が最近面白い事になってるって聞いてさ、拠点を移そうと思ってな、ちょっと前に戻って来たのさ。元気そうで何よりだ」
「ふふ、あなたも元気そうね」
カーシャとシルビアさんって単なる知り合いなだけじゃ無く、友人? そんな事を考えていると。カーシャはアリアちゃんを見つけ。
「おや、そっちはアリアじゃないか。カーシャだ。覚えてないかな? 最後に会ったのは10年以上前になるかね? うん、カルラに似て来たね。美人になったね、このままいけば近い将来、男をかき分けて歩かなくっちゃならなくなるね。あははは」
アリアちゃんは、ちょっとビックリしたような顔でカーシャを見ている。
「カーシャちょっと良いかしら?」
シルビアさんはカーシャの腕を取ると食堂に引っ張って行った。アリアちゃんは釣られて後を付いて行く。俺達も後を付いて行こうとしたが。
「タケルさんはお風呂に入ってから着替えてらっしゃい」
シルビアさんに言われた。ケーナとガーネットはそのまま食堂に入って行った。下手に付いて行って追求されたらかなわないので、大人しく部屋に戻ろうか。
風呂の中で俺は今朝の事を考えていた。今まで、考えないようにしていたんだが、俺って昨夜カーシャの部屋で寝てただけなんだろうか? 朝起きた時カーシャは裸だった。......まさか。いや、全然覚えてないし。でも、カーシャのあの態度って、妙に親しげだったような。覚えてないって事は何もしなかったって事と同義では無いよな。
「タケルったら、こんな年増で良いってのかい? あんたの歳はあたしの半分くらいなんだよ? こんなオバサンを相手にするなんて......」
「何言ってるんだよ、人を好きになるのに歳なんか関係ないじゃないか、それにカーシャは綺麗だ」
「綺麗だなんて言われた事が無いから。それに、あたしは普通の男より背が高くて、可愛げなんかこれっぽっちもないし」
「そんな事を言うところが可愛いんじゃないか。背の高さなんか関係ないさ、ほら、こうして横になっちゃえば、キスが届かないなんて事は無いんだから」
更に何か言いたげに口を開こうとしたカーシャの唇を俺は自分の唇で塞ぎ、そのまま2人は......。なーんて事が有ったんじゃないか? いや、きっとあったに違いない。何てことだ! 初めてのはずなのに! 何にも覚えちゃいないだと? 思い出せ! 死ぬ気で思い出すんだ!
「まっ、何にも無かったわな。大体おれはきちんと服着たままだったしな。終わった後に俺にだけ服を着せて自分は裸とか? 無いわ―」
「大体にして、あんな美人だ俺みたいなガキなんか、相手にしてくれる訳がないよな。さて、出よう」
風呂に入り着替えを済ませた俺は、食堂に入って行った。食堂には他に客はおらず、5人がテーブルに付いて朝食を食べながら、談笑している。俺が近付くと。シルビアさんが、席を立ちながら。
「今朝ごはん直ぐに用意しますね。座って待っててくださいね」
さっきまでと違って、いつもの笑顔、いや、いつも以上の笑顔だな。何があったんだ? カーシャはどんな話をしたんだ? テーブルを見ると。残りのみんなも何やらニヤニヤしている。皆と同じ席に座ろうとして椅子を引いた俺に向かって、ケーナが笑顔で。
「タケル兄ちゃんってヘタレ?」
アリアちゃんが真剣な顔で。
「タケルさん、あたしは信じてたよ? 本当だよ」
ガーネットがこれまたニヤリと笑いながら。
「あの状況で何にも出来ずに逃げ出すなど。タケル情けないぞ。ヘタレとはタケルの為に有るような言葉だな」
椅子を引いた姿勢で固まっていた俺は、カーシャに顔を向け。
「えーと、カーシャ? どんな話をしたのかな?」
「タケルは、女の裸を見てビビって逃げ出しちまうような、初な男の子だって話をしてたのさ。昨夜酒を飲ませたところから、克明にね。タケル、ファーストキスだったのかい? 口移しで飲む酒の味は格別だったかな?」
俺はガックリと崩れ落ち、床に両手と両膝を付いて首をうなだれた。
「おーあーるぜーっと」
言わずにはおれなかった。