ほら、後ろに
「えーと、騎士団を辞める事と、俺達のパーティに入る事の関係が良く分からないんだが?」
と、俺が言うと。ガーネットが。
「冒険者になるために騎士団を辞めたいと申し出たのだが、『辞めたいと言うのなら止められない。だが、冒険者として活動するなら、ガーゼルの街を拠点に活動して欲しい』と言われ。さらに、『タケルならガーゼルを拠点にしていて、そう簡単には拠点は移さないだろうからタケルのパーティに入って欲しい』と言われたのだ」
「なるほど、でもなんで俺のパーティなんだろうな?」
「いざという時に街の防衛に付ける人間を確保したい、と言う事なのかな? タケルの訓練用の剣のおかげで団員の錬度は上がってきている。自分がいなくとも防衛には十分だと思うのだが」
なるほど、軍隊の予備役みたいなもんか?
「確かに、俺はガーゼルの街から拠点を移す気は無いからな。ガーネットの剣術の腕は随分上がってるだろ? だから騎士団を辞めて欲しくないんじゃないか?」
「タケルにはまだまだ敵わないんだ。強くなっている実感は無いな。ところで、どうだろうか? タケル達のパーティ構成からすれば、ヒーラーや魔術師が入るのが理想だとは思うのだが自分を入れてはもらえないだろうか?」
「まあガーネットの頼みだから俺は構わないけど、ケーナはどうだ?」
「え? あたしもいいよ」
「ありがとう。タケル、ケーナよろしく頼む」
と言うと、頭を下げた。
「こっちこそよろしく頼む」
「よろしくね、ガーネット姉ちゃん」
「ところで、何で冒険者になんかなりたいんだ?」
フェンリルを退治した時の様子や、みえーるくんを見せた時の様子から、騎士団の仕事に責任と誇りを持っているように見えたんだよな。辞めたいと思ってるようにはとても見えなかったよな。
「領民を守る仕事に責任と誇りを持っていた。持っていたが、人々を守るためには、必ずしも騎士でいる必要は無いと感じた。切っ掛けはタケルがゴブリンの襲撃を1人で止めてしまったことかな」
「あんな事、何時でも出来るって訳じゃないぜ。あの時はたまたま条件も良かったからな」
「そうかもしれないが、必ずしも騎士にこだわる必要は無いと思う切っ掛けはあの事件だった。自分の家は代々騎士でね、親や兄は王都の騎士団に所属しているし、姉は騎士の家に嫁いでいる。子供の頃から自分も騎士になるんだと何となく考えていたな。でも、父や兄の居る王都の騎士団では甘えも出てしまうだろうし、自分の力を正しく評価されないのではないかと思ったのだ。ガーゼルの街は魔の森も近いし、隣国にも最も近いところにある事から、完全に実力主義の騎士団だと聞いたのでな。この街で騎士になることを選んだのだ」
「その騎士団で1番隊の隊長なんだからすごい事だよな」
「隊長に相応しい実力の者などまだまだいるさ。タケルの訓練用の剣のおかげで、団員の実力は底上げされてきている」
「だからってガーネットが冒険者になるってことには結びつかないよな」
「そうだな、ガルム討伐の時には、自分の状況判断の甘さから冒険者達が命を落としてしまった。自分が隊長などしていていいのだろうかと悩みもしたし、騎士としてこれからもやっていけるのかと不安にもなった。しかし、せっかくタケルに救われた命だ教訓を生かす機会を貰えたのだと考えることにした」
あのことをそんな風に感じてたのか。真面目なガーネットらしいな。
「だったら、どうして冒険者になんか?」
「ケーナの事だ、騎士団員では、......いや、騎士団員だからこそどうしようもない事だった。何も出来ない自分と違って、タケルは犯人を見つけ出し、犯人を懲らしめる事も出来る事を示してくれた。これは冒険者だから出来た事だろう? もっとも、本意ではなかったようだがな」
「まあな」
「自分でも、自分の気持ちが分からなくなってしまったのだ。なぜ、あんなに短い間に気持ちがどんどん変わっていって、騎士を辞め冒険者になろうと考えるようになったのか」
「たしかに不思議かもしれないけど、自分の心なんか自分でもわからない事が多いって言うからな」
「そうかも知れんな。その気持ちをすっきりさせようと思って、休暇を使って王都の姉に相談に行ったという訳さ。姉には悩むだけ悩めと言われた。悩んだ末に出した結論は間違いではない。遠回りしたり、反省したりする事があったとしても絶対に間違ってはいないと言われた。自分が死ぬ時になって後悔してなきゃ良いんじゃないかっと。それに、その時になって後悔してもどうしようもないのだから気にするなと言われた」
「なんだか、豪快なお姉さんだな」
「ああ、そうだな」
悩んだ末の結論ということか。
「では明日騎士団長の所に行ってくる。その後寮から引っ越しだ。大した私物は無いから時間はかからんがな」
「団長の所には俺達も一緒に行くか?」
「そうしてくれるか?」
「ああ、もう仲間だからな」
「うん、あたしも仲間だもんね」
「2人ともありがとう」
翌日は3人で騎士団に来た。団長のダンバルトは。
「そうか、タケル殿のパーティに入れる事になったか。ガーネットはうちの騎士団のエースだ、本音を言えば、そう簡単に手放すわけにはいかんのだ。しかし、ガーネットの意思も尊重したい、そこで、街を拠点にしており、防衛にも実績のあるタケル殿の所に居てくれると言うのなら今後も安心できると思ったわけだ」
「こちらこそ、有難いことさ。それだけ俺達を買ってくれているってことだろうし」
「それはそうだ。フェンリルバスターのタケル殿だ、当てにしている。それに、ガーネットだって、もう俺では敵わないほどの腕になっているのだからな、期待させて貰う。まあ、冒険者なのだから、街を離れて活動すり事も有るのだろうが、拠点はこの街なのだろう」
「店が有るんだから、直ぐに拠点を移すつもりはないさ」
「だったら、十分だ。うちの騎士団の実力は上がってきている。いつまでもタケル殿をこの街に縛り付ける訳にはいかんからな。それもタケル殿の剣のおかげなのだがな。はっはっは」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
ダンバルトは、ガーネットを見て。
「ガーネット、冒険者としての活躍楽しみにしているぞ」
「団長殿、今までお世話になりました」
と言うと、ガーネットは深々と頭を下げた。挨拶を済ませると俺達は解散し、ガーネットは寮にケーナはアイン達とお手伝いクエストにと向かった、そして俺は店で昨日の続きを始めた。
「さーて、ディフェンダーバージョンタケル試作1号の改良からだな。いくらなんでも鎧が光るってのはダメだよなー」
だけど、光る障壁が無いと物理障壁が完成しないんだよな。試してみたが、光は青でも赤でも良かった。色は関係ないって事だ。光を弱くするとどうなんだろう? いや、いくら弱い光でも暗闇では目立つよな。
「光る障壁か、どうしたもんかな。......待てよ、紫外線とか赤外線みたいな人間には見えない光だったらどうだろう?」
うん、良いんじゃないか? アレだって光には違いないんだろうし、パラメータをいじればいけるんじゃねえかな。
「あ、紫外線って体に悪いんだよな。横にいる人間が日焼けしちゃっても拙いよな。だったら赤外線か? でも、ヘビみたいに赤外線を感じる生き物がいるよな魔物にだっているかもしれないな。そいつらからはより目立つって事になるのか。いやいや、元々体から出る赤外線が分かるんだから、今更だよな? 逆に目立ち過ぎて人間に見えないかもしれないしな」
よし、赤外線を出す障壁にしよう。
試作1号の改良が終わった。さっそく試してみると、ちゃんと物理障壁を張る事が出来た。
「ふふふ、テストも成功したし、よし! 完成だ。さて、時間もまだ早いし、あれ作ってみるか」
俺は次の魔道具を作り始めた。
「んー、難しい。どこかで見た事有るようなデザインにしかならないな」
あっちにいたころに見たアニメやマンガのデザインみたいな感じになっちまうな。まあ、こっちに来てまで著作権もねえだろうしまあいかな? とはいえ、もう少し考えてみよう。
「今日の所は、これはこの辺でいいか。一晩寝ればもっといいデザインを思い付くかもしれねえしな」
そこで、昨日ギルドで受け取った、みえーるくんの注文票の事を思い出した俺はサクッと作る事にした。魔石を加工したところでいい時間になったので店を出て、革の加工を注文してから宿に帰った。ガーネットはもうシルビアの宿に部屋を取っていた。俺達は新メンバーの加入を祝っていつもよりもちょっとだけ豪華な食事をした。金は持っているのにチョットだけ豪華ってところが小市民だよな。
翌朝修練をしてから朝食を済ませ、俺達は冒険者ギルドに向かった。道すがらケーナが。
「アネモネさんきっと驚くね」
「自分が冒険者になると言う事はそんなに変なのだろうか?」
ガーネットが憮然とした表情でたずねた。
「そんなに落ち込む事じゃないよ。ただ、変と言うよりも、定職を持っているヤツが自分から辞めて冒険者になるなんて珍しいんじゃないのか?」
「珍しいか、まあ、騎士団を追い出された訳じゃないのだから、そうかも知れんな」
「まあ、冒険者になる理由なんて他人それぞれさ、気にしてもしかたが無い」
「自分は元々気にしてなどいなかったのだがな」
「そうか、悪い悪い」
「ごめんねガーネット姉ちゃん」
「気にするな、謝る程の事ではない」
そんな会話をしているうちに冒険者ギルドに着いた。カウンターの列に並んでいると。やはり、中にいた冒険者達がこちらを見て何やら話している。やはりガーネットは有名人だからな。それとも、俺達と一緒に並んでいるせいか? しばらく待つと俺達の順番がまわって来た。アネモネさんに向かってガーネットが。
「自分の冒険者登録を頼みたい」
「えー! ガーネットさんが冒険者?!」
アネモネさんは椅子から立ち上がって大声を上げた。よっぽど驚いたんだろう。
「それから俺達のパーティメンバーに登録してくれ」
「え? ファミーユにガーネットさんがですか!」
「ああ、戦力の増強ってやつだな」
本当は、増強しなきゃならないのは後衛なんだけどな。椅子に座りなおしたアネモネさんが気を取り直したように。
「失礼しました。では、身分証明を提示してください。それから、こちらの登録用紙に記入をお願いしますね」
記入が済んだ書類を受け取ったアネモネさんはカードを返却しながら。
「では、カードをお返しします。ガーネットさんのギルドランクはE-からのスタートになります」
「新人はG-からではないのか?」
「普通の新人はそうですが、騎士団の隊長を務めていたなどの実績が有る場合はGとFは跳ばす事になっています」
「えー、あたしよりランク高いの? ガーネット姉ちゃん凄いな」
それはそうだろう、騎士団で隊長をしていたような人間を、見習いやゴブリン討伐なんかがメインのクエストしか受けさせないのは勿体ないだろうしな。
「すまないなケーナ」
「あ、ガーネット姉ちゃんのせいじゃないから、謝らないでよ。それに、あたしだっていつまでもFランクのままじゃないんだからね」
「そうだな」
「では、パーティ登録するからタケルのカードを貸してね」
俺はカードを渡した。すると、アネモネさんが。
「そうだ、タケルのパーティに今晩の指定クエストが入ってるわよ。昨日言い忘れちゃった。ごめんね」
「え? 指定クエストって、言い忘れたって。どんなクエストなんだ?」
すると、ガーネットが。
「タケル知らないのか? ギルドの指定クエストと言ったら墓守りのことだろ。自分でも知っているようなことだぞ」
「そんなこと言われても、冒険者になってそんなにたって無いんだ、しょうがないだろ」
「タケル達は初めての指定クエストよね。初めての場合だけ経験者のパーティと一緒にやってもらう事になるわね。蒼穹の翼よ、説明と打ち合わせが有るから7の鐘にギルドに来てね。8の鐘から徹夜になるから頑張ってね」
「徹夜か、俺は平気だけど、ケーナとガーネットは大丈夫か?」
「あたし昼寝しないと起きていられないかもしれない」
「自分は平気だ、もっとも明日は仕事に差し支えるかもしれないな」
しかし、墓守り? 何かの隠語だよな? まさか、本当に墓場の見回りだったらどうしよう? ......幽霊。俺は自分が冷や汗をかいている事に気が付いた。
「今日はファミーユと一緒のクエストだったはずですよね? なんで、ガーネットさんがいるのかしら?」
部屋に入って来たアシャさんが、俺達を見て訊ねてきた。
「今日、うちのパーティに入ったんだ。そうしたら、たまたま指定クエストで、蒼穹の翼と一緒になったってことさ」
「なっ、なんですって! ファミーユはパーティメンバーの募集してなかったじゃないですか!」
「え? 俺もケーナも前衛寄りだからヒーラーと魔術師は絶賛募集中だけど?」
「掲示板に何も載せてなかったじゃないですか」
掲示板?
「あー、掲示板ってそんな風に使うのか! 昨日みえーるくんの注文主との連絡に使っていいってアネモネさんに言われたやつか。なるほどねー」
「はー、知らなかったんですか。ギルドに登録した時に説明あったでしょ?」
そんなことあったのか? ......うん。アリステアから10年経ってた事に驚いて聞き流したな。
「たぶん、聞き流した。はっはは」
アシャさんは、呆れたように。
「はっははじゃ無いでしょ。まったくしょうがないですね」
そこに、ヴァイオラが割り込んできた。
「で、どうしてガーネットさんが、タケルのパーティに入る事になったんだい? どんな手を使えば騎士団の隊長を引き抜けるんだ? しかも、こんなに強くて美人だなんて、まったくタケルって、やる時はやるヤツだったんだね」
「そんなんじゃねーし」
俺は、経緯を話し。
「元々、友人だったわけだし、毎日剣の修練を一緒にやっていたんだ。別段ドラマティックな出来事なんか有るわけねえよ」
「それもそうか。タケルがガーネットさんをどうこう出来る訳ないよね」
ヴァイオラになんだか失礼な事を言われた。ああそうさ、どうせ俺は女の人と付き合ったことなんかねーよ。ガーネットから話がなきゃ、絶対に俺から誘うなんて出来なかったさ。
「だからと言って『ガチャ』」
アシャさんの言葉の途中で会議室のドアが開き、アネモネさんが入って来た。
「みなさんお揃いですね。ではさっそく説明させて貰いますね」
指定クエストの説明が始まった。
「嫌だ! 拒否する! 行かない!」
俺が言うと。
「何言ってんだ! 冒険者ギルドの指定クエストだぞ、断れるわけねえだろうが」
とバトロスが言い、そしてアネモネさんが。
「まあ、最近寒くなってきましたから大変だとは思いますが、皆さんが持ち回りでやっている事です。今夜がファミーユの順番なんだから諦めてください。そんなに徹夜が嫌なんですか?」
「徹夜の2日や3日何ともない」
「徹夜が平気なら全く問題ないじゃないですか。共同墓地に行って、出現したゴーストに聖水を掛けるだけの簡単なお仕事です。報酬が安くて誰もやりたがらないんですから仕方が無いじゃないですか。だいたい、タケルはお金持ってるじゃないの、みみっちい事言わないの」
「報酬が安いからやりたくない訳じゃねえ!」
「タケル兄ちゃん、わがまま言ってないで行くよ」
振り返るとみんなが会議室から出て行くところだった。ゴーストだと? 本当に幽霊が出るってのか? 仕方なくみんなについてギルドを後にした。
「タケル、なんでそんなに墓守が嫌なんだい?」
ヴァイオラに聞かれたおれは。
「ゴーストに聖水掛けるって言ってたじゃないか。幽霊が出るんだろ? もうすぐ冬だぞ、季節感を考えろってんだよ」
「はあ? 幽霊? タケルの住んでた村じゃ幽霊って言うのかい? ゴーストなんて一年中出るだろ。どうして季節感なんて話になるんだい?」
幽霊なんて夏のもんだろうが。
「幽霊なんて夏のもんだろ、冬に幽霊が出るなんて誰トクなんだよ」
「タケル殿の居た所では、ゴーストは夏にしか出現しなかったと?」
ヒースが言った。
「夏どころか、そんなもの見たこともねえよ。大体、幽霊なんて物は実在しない!」
すると、アシャさんが。
「タケルさんのいた村にはゴーストが出現しなかったと言うんですか? そんなに高位の司祭が常駐していたって事ですか?」
ん? 高位の司祭? そいつが居ればゴーストが出ないって事か? 何だか、俺が知ってる幽霊とみんなが言うゴーストって違うものなのか?
「えーっと、ゴーストってどんなもんなんだ?」
みんなが呆れた顔で俺を見る。ガーネットが。
「タケルはゴーストを知らんと言うのか? 墓場や戦場などで地中から出てくるんだ。ゴーストが数体集まって、死体に取り付くとそいつが、ゾンビとして動き出すんだ」
「え? ゾンビがいるのか?」
バトロスが。
「タケルはゾンビも見た事が無いって言うのか。いったいどこに住んでたんだ?」
「村の外れに祖父ちゃんと2人で住んでた?」
「なんで疑問形なんだ? いいか、ゴースト単体なら全くと言っていいほど害はない。墓場から出てくるから死んだ人間の霊って事は間違いないんだが、ぼやっとしてて誰の霊かなんて特定はできない」
「祟られたり、取りつかれたりしねえのか?」
「祟るってなんだよ。生きてるうちに出来ない事が死んでから出来るようになるわけねえだろう。取りつくと言えばゴーストが数体集まって死体を操る訳だが、こいつはタダそこら辺をフラフラする死体だからな、衛生的に問題が有る。疫病でも流行ったら大変だ。だから、ゴーストのうちに聖水をかけて地面の下に戻すんだ。高位の司祭がちゃんと除霊するまでのつなぎだ」
「人を襲ったりは?」
「ゴーストが辺りをフラフラするだけなんだ。ゾンビになったって人なんか襲わない大体放置された死体しかゾンビにならねえ」
「じゃあ、アンデットっていないのか?」
「スケルトンやリッチ、それからデュラハン、ヴァンパイアなんかのアンデットはいるがあいつらは魔核を持ってる魔物だからな。聖水をかければ引っ込むゴーストとは直接関係ないだろゾンビだって、火を付けて燃やした後に聖水かければ動かなくなるし魔核も持っていない」
「聖水かければ引っ込むんなら、墓地に聖水撒きゃいいじゃねえか。一々聖水かけて回る必要ないだろ」
「一度地面に落ちると、効果が無いんだ。それに墓地全部に撒くなんてどれだけ聖水が必要かわからんだろうが。それで済むならこんなクエスト出すわきゃねえ」
それはそうだ。話している間に墓地に着いた。皆がランタンに火を付け、俺が持ってきた大きめのクーラーボックスサイズの箱からバトロスが聖水を取りだした。
「ゴーストが出たらこいつを上からかければいい。大体ビンの4分の1くらいでいいんだ。どうだ? 簡単な仕事だろ?」
と言って、俺にビンを渡そうとして。
「タケル、そこ」
ビンを持つ手の人差指で俺の後ろを指差した。俺は振り向いて。白いぼやっとした物を見た。
「ぎゃーーーーー!!」
と悲鳴を上げて飛び退き何かにしがみ付いた。皆は俺の行動に驚いてその場に固まった。俺はと言うと、顔はゴーストの方を向いたままだが、何やら柔らかくいい匂いの物に抱きついたみたいだ。
「タケル、アシャに抱きつきたい気持ちはわかるが、ゴースト見て悲鳴を上げるってどうしたんだ?」
そうバトロスはそう言うと、ゴーストに聖水をかけた。ゴーストはフルフルと震えながら地面に沈んで行った。振り向いた俺は顔を赤らめたアシャさんと目が合った。もう一度飛び退いた俺は。
「アシャさんごめん!」
「いえ......」
「タケル兄ちゃん、ゴーストが怖いの?」
ケーナに言われて。
「こっ怖くなんかねえよ」
と言うと、ヴァイオラが疑わしげな目で俺を見ながら。
「ふーん、だったら、タケルは1人で回るかい?」
俺は速攻で頭を下げると。
「すいませんでした! 嘘言いました。怖いから1人で回るのは嫌だ!」
と言う訳で、2人組で墓場を回る事になった。俺はアシャさんと、ケーナとヒース、ガーネットとスナフそして、バトロスとヴァイオラだ。4方に別れゴーストを探し始めた。
「タケルさんが、ゴーストが怖いなんて意外ですね、何か訳でも有るんですか?」
「え? あー、子供のころに遊びで百物語ってのをやった時に怖い目にあってさ、それ以来幽霊とかダメなんだよ」
「遊びですか? ゴーストが怖くなるような遊びですか。変な遊びですね」
「一度やった時に、無茶苦茶怖かったんだよ」
アシャさんは、俺から視線を外すと。
「タケルさん、ほら、後ろに」
「ぎゃーーーーーー!!」
俺は、頭を抱えて座り込んだ。手に持っていた聖水を頭からかぶった。
「ほら、タケルさん、もう平気ですよ。ゴーストは引っ込んじゃいましたよ」
アシャさんに言われ、振り向くと。ゴーストが地面に沈み込むところが見えた。
「ひっ!」
息を呑むとまた頭から聖水の残りをかぶった。
「大丈夫ですか?」
「......冷たい」
「あー、私がやりますからタケルさんは......。そうだ、私の手を握っててください、そうすれば平気ですよ。私が付いていますから」
アシャさんの手を握るのは恥ずかしかったが、ゴーストが出るたびに聖水をかぶる訳にはいかねえからな。素直にアシャさんにしたがった。
朝になり、墓守は終わった。ぐったりと地面に座り込む俺を心配そうにケーナが覗きこんで。
「タケル兄ちゃん、大丈夫かい? 一晩でゲッソリしちゃったね」
「大丈夫じゃ無い」
そう、全然大丈夫じゃ無かった。何度悲鳴を上げ、その度にアシャさんにしがみ付いただろうか。5回以降は覚えちゃいない。
「アシャさん、迷惑かけてほんとスミマセンでした」
頭を下げ、力無く言うとトボトボと重い足取りで宿に帰った。
「だれでも、苦手はありますよ、気にしないでくださいねー」
とアシャさんは言ってくれたが、情けなさすぎる。......アシャさん呆れたよな。嫌われたよな。あそこまで情けないと、同情されたかもしれない。どんよりと落ち込む俺をケーナとガーネットが慰めてくれたが余計に落ち込む。徹夜明けだし今日はもう宿で明日まで寝ちまおう。
翌朝修練を終え、朝食後に再び店にやって来た。ガーネットとケーナそれにアインとフィーアに向かって。
「さて、第1回パーティメンバー会議を開催します」
「会議って何するのさ?」
「それはだな、ファミーユの今後の活動について、みんなで意見を出し合いましょうって事だな」
「つまり、次の指定クエストをどうやって乗り切るのか、とか言う事か?」
「ガーネット、その話は勘弁してくれ、とりあえず今は忘れたい」
「あー、すまなかった」
「だったら、どんな意見を出せばいいのさ?」
「うちのパーティは、今まで俺とケーナとアインしか居なかった。ランクが違いすぎるから、バラバラに活動してたし、護衛依頼なんかも受けていなかった。でも、ガーネットが入ってくれたし、アインとフィーアを分離する事だって考えられるだろ? 受けられるクエストの幅も広がる訳だけど、メンバーが基本的に前衛寄りって事が問題だと思うんだよな」
「タケルは魔法が使えるが、近接戦闘の能力が高すぎるからな。後衛にしたんじゃパーティの力がかなり落ち込むな」
「それは言えるな。ケーナは剣を教えてはいるけど、まだまだ、始めたばかりだからな、後衛に回るってことも有りだろう? 魔法だって使えるんだし」
「あたしはタケル兄ちゃんとちがって、使える魔法の回数が大分少ないよ?」
「前に、弓をやりたいみたいな事言ってたじゃないか」
「うん、父さんが狩人だったからね。でも、タケル兄ちゃん弓は教えられないって言ってたよね。父さんに教わった事なんか無いんだから無理だよ」
「自分も弓は使えないな」
俺がやった事の有る日本の弓道の弓はこっちのとは全くの別物だしな、大体命中精度を期待出来るまで上達するにはどれだけ掛るかわかんえし、そもそも百メートルも離れた的に実用範囲で命中するもんじゃない
「だったら、遠距離攻撃用の魔道具作るか?」
「出来るの?」
「どんな物になるかわからねえけどな。遠距離攻撃で数を減らして接近戦になったら、前衛でいいんじゃないか? 俺は前衛寄りの中衛で、回復や攻撃魔法も使えばいい。アインとフィーアは前衛でタンク役、無詠唱で攻撃魔法使えるし、何と言うか万能型なんだから特に後衛にする必要は無いよな」
「フフフ、ますたーヨクワカッテイルネ。あいんトふぃーあノこんびハ最強ダヨ」
「そうだな。で、ガーネットは前衛でアタッカーだな」
「ああ」
「じゃあ、防具も用意するからそれまでは、俺抜きでクエストを受けてくれるか?」
「はーい。凄いの作ってね」
「ワカッタヨ」
「楽しみにしているぞタケル」
「まかせろ。それから、せっかく金が手に入ったからな、店の改装をしたいんだ」
「今だって店なんかほとんど開けてないのに、もう改装なんかするの?」
「そうなんだけどさ、ちゃんと店をやって無いから改装で閉めたって大丈夫なんじゃないか。少し作業場を大きくして、中に重量物用のクレーン欲しいんだよなー」
「ああ、巨大ロボだっけ? 巨大ってどれくらい?」
「巨大ロボ? なんだそれは?」
「全高10mを超えるくらいかな? 俺が乗って自由に操るゴーレムみたいなもんかな」
「人が乗るゴーレムか? なぜ人が乗って操る必要があるんだ? 普通のゴーレムでいいじゃないか」
え? 普通のゴーレムで良い? ......いやいや。ゴーレムじゃダメだ。俺が乗れなきゃダメだよな。
「ゴーレムじゃダメだ、俺が操ってこそだ。俺の夢だ!」
「まあ、タケルがやりたいんなら止めないさ。タケルのやる事はちょっと普通じゃないからな。自分が考えても分からないようなメリットがあるのだろう」
メリット? そんな物有るのか? いやロボを作る事が優先だ。どんなメリットがあるかなんてのはでき上がってから考えればいいさ。人型なんだから、汎用性は有る! はずだ。
「じゃあケーナ、一緒にクエストを受けてみよう」
「うん」
皆が店を出て行った。さーて、ガーネットとケーナの防具を作ろうか。それとも、遠距離攻撃用の魔道具を作ろうか?