俺は帰って来た・・・と言うほどの事でも無いか
王城の一室に用意された服に着替えてみたが.....。これは服と言うより、衣装だムチャクチャ派手な衣装だ。いや、衣装というより仮装だ、王子様のコスプレだ。ガックリと肩を落とし情けない顔でこっちを見つめる男が鏡に写っている。
「しゃあねえか、どうせダルニエルのおまけなんだしな。今更もっと普通の服がないのか? なんて聞けるわけもないか」
俺は着替えた部屋を出て控室に向かった。控室にはダルニエルが1人でソファーに座っていた。
「うっ、俺の服って地味だったんだな......。ダルニエル、サイズが合う服ってそれしか無かったのか?」
「ん? サイズが合うとはどういう意味だ? この服は私の服だぞサイズが合うのは当たり前だ」
何だと、そう言えばこいつ公爵の息子じゃねえか、たしかにこいつって王子様みたいなもんだな。布地も上等だし金糸銀糸で派手な刺繍がされている。んー、俺に用意してくれた服って地味だったんだな。ダルニエルの服と同じくらい上等な布地なんだろうが、刺繍は銀糸だけだし、刺繍の意匠も小さい。
「ダルニエルって、王子様みたいだな」
「何を言っているのだ。私は公爵家の人間だ、そんなことを言うと、王家に対し不敬に当たるぞ」
「そうか? ファーシャが末っ子なのか?」
と言いながら、ダルニエルの向かいのソファーに座る。
「そうだ、そしてターニャの上に王子様が2人、王女様が2人いる。そうでなければ、王女が私とパーティを組んで冒険者などになりはしない」
それもそうだな、ターニャが3女、ファーシャが4女だって話だったしな。
「ところで、タケル。さっきは大分派手にやったな、あの魔道具欲しがる者は大勢いるぞ、大儲けできるじゃないか」
「いや、あれは売れないよ、あれは、爺さんの形見のアーティファクトだ俺は作れない」
ダルニエルは疑いの眼差しを向けながら。
「ほー、作れないねー」
「ああ、作れないって事にしておきたい。それに、あんな物が権力者に渡ったらどうなると思う? 空飛ぶ騎士団なんてものを作ったらどうなる? それこそ無敵の騎士団が出来上がっちまう。街1つ灰にするなんて簡単だぞ」
「そんなに恐ろしい魔道具なのか?」
「まあな、俺が使ったからな、いずれ誰かが作るだろうが、それまでは俺だけの物にさせてもらう」
「誰かが作るか」
「今まで研究していたヤツにとっては良い見本だろ? 出来るかどうか疑いながら作るより、飛べるって事が分かっていれば研究は進むだろうな」
ダルニエルは俺に確認するように。
「なるほど、アーティファクトなんだな?」
「そうだ、アーティファクトだ」
ダルニエルは俺の言いたい事は分かってくれたようだ。
「でも、派手と言うならダルニエルの方がよっぽど派手だったじゃねえか」
「そんな事は無いぞ、タケルの後では全くインパクトが無かっただろう」
「俺のとべーるくんは防ぐ方法は幾らでも思い付くだろうが、あれは防ぎようが無いからな。見る人が見れば俺なんかよりよっぽど脅威だぞ。混戦の中でさえ、敵味方を区別して攻撃出来るんだ。しかも、あれってまだまだ広範囲でも多くの人数でもいけるだろ? 俺のは戦場では脅威には成り得ないさ」
「1つではか?」
「そう1つだ。そいつを有効に使うには、俺が真っ先に駆け付け、戦場を混乱させる。そこにダルニエルが颯爽と登場して止めを刺すって感じじゃねえのか?」
「美味しい所は私に譲ると言うのか?」
「ああそうだ、でもダルニエルの到着が遅れれば、俺が司令官の首を取って敵が潰走してるかもな。あははは」
俺が挑戦的な目で見ると。ダルニエルは片方の頬をひきつらせながら。
「ほー、では急いでいかねばならんな、あははは」
俺達が笑い合っていると。
「あら、楽しそうね」
と言って、ターニャがファーシャと一緒に部屋に入って来た。2人とも華やかなドレスに身を包んでいる。ターニャは大人っぽいドレス。ファーシャは可愛らしさもあるドレスだ。
「おー、2人とも素敵だな」
俺が言うと。2人が。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ダルニエルが。
「ケーナたんは? まだ、準備に時間がかかってるのか?」
「ケーナたんって言わないでよ、恥ずかしいよ」
2人の後から部屋に入って来たケーナは、いつもと違ってドレス姿だ。2人のドレスに比べれば華やかさでは劣るが、年相応の可愛らしさがあるな。ケーナは俺達の方を見ると。
「ど、どうかな? 変じゃないかな?」
「ケーナ似合ってるぞ」
「うん、ケーナたんは、可愛い。ドレスも似合っている」
ケーナは真っ赤になってうつむいてしまった。ファーシャが。
「私が、子供のころに着ていたドレスなんです。ケーナに着てもらいましたが、どうです? 似合っているでしょ」
「ファーシャのドレスなのか、ありがとう」
「ふふふ、クローゼットの奥に仕舞い込まれていてはドレスも可哀想ですからね。ケーナが着てくれて、喜んでいますよ」
皆がそろった所を見計らったようなタイミングで、侍女が俺達を呼びに来た。大広間に入るとほとんど待たされることなく王女達が入場し、パーティが始まった。ダルニエル達は数人に囲まれ話をしている。俺はと言えば。
「息子が大変迷惑をかけてしまった。謝罪する」
シュバルリ公爵が詫びに来ていた。
「はい、謝罪を受け入れます。ただ、公爵様が重ねて謝罪されなくとも、ダルニエル殿からの謝罪もありました。結果からすれば大したことは無かったですし」
「タケル殿はそう言うが、あれは、私の領の勇者だったのだ。今回国公認の勇者になったとは言え、あの時のダルニエルがやった事の責任は私が負わねばならん」
「いえ、ダルニエル殿の責任については、歴代一の勇者に成る努力をする事で果たしてもらいます。公爵様が負う必要は有りませんよ」
「そうであったな。息子は大変な誓いを立ててしまったな」
「元からそのつもりだったようですし、努力もしてきたに違いありません。さっきのはライトニングを使いこなしている証拠です。あれは、あの剣を持っただけで一朝一夕に出来る事では無いのでしょう。勇者スキルを持ち努力を惜しまない人間が、民衆のため国の為に本気で歴代一を目指すのです結果を残すに違いありません」
「タケル殿にそう言ってもらえると、あれの父として嬉しいものだな」
その後も少し話をし、別れ際には冒険依頼で近くに来たら顔を見せてくれと言ってくれた。んー、社交辞令だよな? シュバルリ公爵が去った後はガルドナード侯爵がやって来た。馬車を直した時の礼を言われ、ゴーレムギルドへの対応も自分の申し出に応じた事を感謝された。
「ところで、ゴーレムギルドへの処分は何も無いのと同じだったがタケル殿はあれで良かったのか? ゴーレムホースをそのままにして欲しいとは言ったが、全く賠償が無いと言うのはどうかと思って気になっていたのだ」
「その事ならあれで十分です。いずれはゴーレムギルドに入らなければと思っていましたしね。最高の条件で加入する事が出来ました。技術供与だけでなく煩わしい雑事も無くなったのはありがたいですよ」
「それで良かったのかね? オルストロークの事は?」
「あの人ですか。裁判所でアインを欲しいと言った時に思ったんですよ。こいつは俺と同じ人種だってね、自分の好きな事興味がある事に関しては見境が無くなるんですよ。あの後2人で話してみて間違いないと確信しました。だからあれでいいんですよ、処罰したいとは思えなかったのでね」
「なるほど、同じか。ふふふ。タケル殿は懐が深いのだな」
「そんな事は無いんですけどね。俺に実害を及ぼさなきゃあんなもんでかまいません」
「しかし、いずれそれではすまない時が来るやも知れん。その時は遠慮なく頼ってもらいたい。これでも侯爵などやっているのでな、それなりに力になれると思う」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと。そこに割り込んできた者がいた。確か、他国の王族で外交官的な男だったな。もう1人はどこかの国の騎士か? 礼装の軍服みたいな服を着ている。
「フェンリルバスター殿、先ほどの演武を見せてもらったが、大道芸人の曲芸よりは大分楽しめたぞ」
貴族がニヤニヤしながら言った。バカにしたつもりなのかもしれないが、そりゃそうだよなアクロバット飛行なんだから。曲芸だよあれは。
「楽しんでいただき光栄ですね」
俺が皮肉に気が付かないふりで礼を言うと。変な顔をしている。こいつは何を期待しているんだ? 続けて軍服の男が。
「オリハルコンの鎧を叩き斬った事には驚かされたが、空から不意打ちで大将首を狙うなど名誉ある騎士の戦い方ではない」
バカにしてるつもりなんだろうなこいつは。
「冒険者らし野蛮な戦い方だな」
こいつは俺をなんだと思ってるんだ? 冒険者以外の何者でもねえんだぞ。
「名誉のために死ぬ必要が無いんでね。気楽なもんさ」
「ふん!」
そう言うと2人は去って行った。ガルドナード侯爵が。
「タケル殿、あんな事を言われても平気なのか? あそこはもっと怒るべき所ではないか。なめられるぞ」
横で話を聞いていたケーナが。
「そうだよタケル兄ちゃん。馬鹿にされて悔しくないの?」
「俺をなめてくれた方が良いじゃないか。本番で痛い目を見るのは向こうの勝手だ、それにさっきの攻撃なんか見せもの以外のなにもんでもねえぞ。本当は、敵の目の前にわざわざ降りて行く必要なんかねえんだ。地面に油を撒いておいて、空から松明落としてやればいいんだからな。鎧を着た騎士なんか蒸し焼きだ」
本当は空から魔法をぶっ放すつもりだけどな。
「タケル兄ちゃん、鬼だね」
「タケル殿、それはいかがなものかと思うが」
「冒険者なんてのは結果が全てなんですよ。依頼を達成するためには手段は選びません。名誉のために死んじまったら大事な人も守れない」
と言ってケーナの頭に手を置いた。ケーナは嬉しそうな顔だ。
「なるほど、守るべき者を守ることこそ名誉と言うことか。私も国民、領民を守る事を第一と考えてきたしな、タケル殿の言う通りかも知れん。しかしな、相手が攻めてくる気を起さないように自分の力を示す事も必要だと思うぞ。そうすれば余計な殺生をせずとも良いのだからな」
なるほど、武力を誇示する事で無用な争いを避けるって方法もありか。
「国同士ならそうかも知れません。付けいる隙を見せては大変な事になるでしょう。でも、俺は冒険者ですからね。俺が大した事無いって思って油断してくれればそのほうが有りがたい。」
「まあ、その辺はタケル殿がフェンリルバスターと言う事で十分ではあるがな。ははは」
とガルドナード侯爵が笑う。
「ところでタケル殿はいつまで王都に滞在するんだね? 時間が有れば一度屋敷に来てはくれんか? 夕食かお茶にでも招待しろと娘たちがうるさくてな」
なに? あの時のお嬢さん達が! それは是非ともと思ったが、ケーナが服の裾を引っ張る。
「お気持ちは有難いのですが、明日には立ちたいと思っています。店を10日も空けていますので。もっとも客などほとんど来ないんですけどね、あははは」
頭に手を当てて笑うと。ケーナが。
「タケル兄ちゃんは本気で店をやる気が有るのか疑問だよ」
「店は本気だぞ。ロボを運用する時の隠れ蓑として店をやってた方がかっこいいじゃないか」
「何がしたいのか、あたしにはわからないよ」
「ははは、男のロマンだ、女にはわからんよ」
「では、いずれ近いうちに寄ってくれるかね?」
「はい、今度王都に来た時にでも寄らせてもらいます」
その後も何人かの貴族と話したが、今日の演武については賛否両論と言うところだった。女王や王子、王女達とも話す機会があったが、王子達は女王ほどオチャメな感じではなかった。やがてパーティも終わり俺達は王城を辞し宿に戻った。ケーナは慣れないドレスを着て疲れたと言って直ぐに寝てしまった。さーて、明日は王都を出よう。ガーゼルの街を大分留守にしちまったからな。そろそろシルビアさんの作る飯が恋しくなってきた。
翌日は、ゴーレムギルドで登録手続きを済ませ王都を後にする。ダルニエル達が見送りにきてくれた。
「タケルまた会おう。ところで、一度私の師匠に会ってみないか? 凄まじく強い方だ、タケルの言うとおり私は一度も勝てんのだ。タケルならひょっとしたら勝てるのではないかと思うのだが」
「俺の師匠も強かったよ。きっとダルニエルの師匠も強いんだろうな。俺はまだまだ自分の流派の技も極めてねえからな、勝ち負けはともかく何かヒントになるかも知れねえからいつか寄らせて貰うよ」
「ああ、父の領地にいるのだ。私が居なくとも会えるように話を通しておこう」
「ありがとう、じゃあまたな」
「またな、ケーナたんも元気でな、また会おう」
「うん、ダルニエルさんもターニャ姉ちゃんもファーシャ姉ちゃんも元気でね」
「「ケーナちゃんも元気でね。また会いましょう」」
3人に別れを告げ俺達はガーゼルの街に向かってツァイとライを走らせた。アイン達はライが乗せている。やっぱりライはシスコンだな。
行きと同じに帰りも途中で1泊し今日もツァイ達を走らせる。そうして遠くにガーゼルの街が見えてきた。
「おー、ガーゼルの街だ!」
「何だか随分留守にした感じがするね」
「ああ、10日くらい留守にしただけなのにな。まあ、王都では色々なイベントが有ったからなー」
「そうだね」
「さあ、もう一息だ。競争しようぜ! いけーツァイ!」
「はい、主様」
俺はツァイを全力で走らせる。
「あーーー! タケル兄ちゃーん! ライいくよー」
「任せろお嬢! ツァイ姉には負けん! と言う事でアイン姉降りろ!!」
「分カッタヨ」
と言って、アインはライから飛び降りた。ライは一気に全力で俺達を追いかけ始めた。
「ふふふ、あいんトふぃーあニハ勝テナカッタミタイダネ」
結局一番早かったのは、アイン達だった。
「アイン姉に勝てるわけ無いだろう。魔力量が違いすぎるんだから」
「ライだって早かったよ。ツァイに勝っちゃったもんねー」
「まあ、当然だな、お嬢は店長より軽いんだ。それに俺には奥の手が有る」
「姉様はともかく、ライにも負けてしまうとは。......屈辱です!」
「まあ、しかたがないさ。ライには、男の子システムも有るからな」
「このままという訳にはいきません。主様、魔結晶の交換をお願いします。やはりいざという時にスピードは必要です!」
「そうだな、アインと同じくらいのスピードまで出せるようにするか。ここ一番で必要になるかもしれねえからな」
「はい、楽しみにしています」
「おい店長、そんなことしたらお嬢を振り落とすんじゃないか?」
「そこで、わたくし達と乗り手の絆が試されるのです。ライ、この次は負けませんよ」
「ツァイ姉、お手柔らかに頼むよ」
「ライ、次も勝つよ!」
「ああ、まかせておけ」
などと話しながら歩いていると冒険者ギルドに付いた。俺とケーナは中に入って行った。午後のこの時間は受付は手が空くころのようで、アネモネさんの前には誰もいなかった。
「アネモネさん、ただいま」
「ただいまー」
「タケル、ケーナちゃんおかえりなさい。王都では大分派手に活躍したみたいね」
アネモネさんは笑顔で迎えてくれた。
「それほどでもないさ。これお土産、よかったらギルドのみんなで食べてくれ。そして、これはアネモネさんに」
買ってきたお菓子の詰め合わせを渡し、別の包みを渡す。
「あら、私にですか! ありがとうございます」
「気にいるかどうか分からねえけど、女の人にお土産買うの初めてだから」
アネモネさんは包みを開け。
「わー、マフラーですか」
「これから冬だからな、そんな物しか思いつかなかった。良かったら使ってくれ」
「ありがとう。大事にしますね」
「ああ、じゃあ数日休んだらクエスト受けるから」
「はい、またよろしくお願いしますね」
俺達が帰ろうとすると。
「あ、タケル。注文票を預かってるんだけど、ちょっと待っててね」
注文票? あー、みえーるくんの注文票か? と思って待っていると。
「本当はこんな事無料ではやらないんだけど。ギルドの都合で王都に出掛けてたんだから、サービスにしておくわね」
そりゃそうだろう。こんな事一々やってたらギルドの仕事進まねえもんな。
「ありがとう。で、どうやって注文主と連絡取ったらいいんだ?」
「ギルドの掲示板使っていいわよ、今回はそれも含みでサービス」
「ありがと。次はちゃんと利用料払うよ」
「はい」
受け取った注文票をざっと見てみると。
「えーと、27個だな?」
「ギルドからの注文も入ってるからそっちはお願いね。10個よ」
「了解だ。じゃあまた来るよ」
「はい、お疲れ様でした」
ギルドを出た俺達は、店によってツァイとライを中に入れ、シルビアの宿に行く事にする。
「ただいま戻りました」
「ただいまー」
「「おかえりなさい」」
ロビーにはちょうどシルビアさんとアリアちゃんがいた。シルビアさんが。
「無事に戻ってくれたのね。よかったわ」
アリアちゃんが。
「ケーナちゃん、王都はどうだった? 後でお話聞かせてね」
「うん」
俺がシルビアさんに包みを渡しながら。
「これお土産です」
「あらあら、ありがとうございます。開けてもいいかしら?」
「どうぞどうぞ」
シルビアさんは包みを開け、中身を取り出し肩に羽織ると。
「まあ、素敵なショール。これかの季節にぴったりですね」
「気にいってくれると良いんだけど」
「はい、とてもうれしいです」
そして、アリアちゃんにも包みを差し出し。
「これはアリアちゃんに」
アリアちゃんは顔を輝かせて。
「あたしにも有るの? ありがと―」
「女の子になんか何を買ったら良いかなんて分からなかったから。良かったら使ってくれるかい」
包みの中から出てきた物を見てアリアちゃんの笑顔が更に大きくなる。
「わー、綺麗なバレッタ」
銀製のバレッタだ、宝石は付いていないが、細かい細工が施されている。
「リボンも可愛いけど、そんなのもたまには良いんじゃないかと思ってね」
「うん、大事にするね」
さっそく付けて。
「どおかな?」
「似合うよ」
俺が言うと、ケーナも。
「アリア姉ちゃん素敵だよ」
「アリア良かったわね、でも、タケルさんこれって高価な物じゃ?」
「平気平気、今回は結構収入が有ったからね。2人にはいつもお世話になってるからさ、お礼もかねて」
すると、ケーナも。
「これは、あたしからー。お菓子だよー食べてね」
にこにこしながら、包みを差し出す。
「まあ、ケーナちゃんも? ありがとう」
「ありがとう、ケーナちゃん」
「へへへ、あたし誰かにお土産買うなんて初めてなんだよー。お土産渡す相手がいるっていいよねー」
「ああ、そうだな誰かが待っていてくれるってのは良いよな」
「うん!」
ケーナは満面の笑顔で。大きく頷いた。
「さて、俺は部屋で晩飯まで少し休んできますね」
「あ、あたしもー」
「はい、お疲れ様でした」
夕食までの時間部屋で休む事にした。久しぶりのシルビアさんの料理はめちゃくちゃ美味かった。
翌日騎士の詰所に行ってガーネットに戻った事を告げると、話が有るので今夜会いたいと言われた。シルビアの宿で晩飯を一緒にとの約束をし、店に向かった。ケーナはギルドで依頼を受けると言うので別れた。ガンドロクに土産を渡してから店に入った。
「さーて、ディフェンダーを作ってみようか」
せっかく調べさせて貰ったんだしな、ディフェンダーバージョンタケルってやつを作ってみる事にしよう。ダルニエルの本家ディフェンダーの欠点を俺なりに改善してみよう。
「まずは、物理障壁だな。練習用の剣に付けた物理障壁同士だと、相殺しねえんだよなー、なんでだろ?」
考えられる事は3つ有る。柔らかい物理障壁に改造した点が1つ、それから、光るようにしたこと。ヒールの効果を付けた事。まあ、全部の相互作用かもしれねえから4つか? 練習用の剣と普通の物理障壁を近づけてみると、この場合も障壁は相殺しない事が分かった。
「普通の障壁同士の場合は相殺されちまうんだよな......。と言う事は、だ」
1つの鎧に、練習用の剣に付けた障壁をベースにした障壁と、普通の物理障壁の両方を付けてみりゃ良いんじゃねえか? さっそく試作してみようか。俺は店を出て防具屋に出かけた。
「金属鎧はともかく革鎧は作れねえからなー」
近所の防具屋に行って、俺の体型に会う革鎧を買ってきた。全身を覆う物ではないが、俺が普段使っている革鎧よりも防御している部分は多い。
「まあ、鎧の部分の表面だけに障壁が現れる訳じゃねえから全身をカバーするヤツでなくてもいいだろ。こっちの方が動きやすいし、軽いしな......なーんだ、こいつで成功すればディフェンダーの欠点は全て解決じゃね?」
Dクラスの魔核から魔結晶を作る事にする。鎧の表面に付けるので、球形では無く平べったい形にしてみる。縦に伸ばしたり卵型ではないので、総魔力量も出力量も減ってしまうが仕方が無い。そこは数でカバーだ。計6個の魔結晶を作り1つには通常の物理障壁の式を記述していく。ディフェンダーの物を参考にしているので記述式が多くなるが、とりあえず今回はそのまま刻んでみる。成功したら次に作る時には無駄な記述部分を減らそうと思う。次の魔結晶には、光らせる部分を追加した障壁の記述式を刻む。それから、別の魔核には柔らかくする部分を追加した障壁の記述式を追加した物を刻む。そいつを組み合わせてーと。金具に組み込んで鎧に装着してみる。
「さーて出来たぞ。台座に固定して、障壁を展開っと」
魔結晶が動力だから別に着ていなくても発動する。青く光り出した鎧に向かって、俺は刀を抜くと斬りつけた。
『ガキッ』
「うん、ちゃんと障壁出てるな。次は」
刀に魔力を流し障壁を張り、また斬りつける。
『ガキッ』
「おー、成功だ」
続いて、鎧がカバーしていない部分も斬りつけたが、ここもちゃんと障壁を張っている。
「次は、光る方の魔結晶をはずしてみるか」
今度は障壁は相殺されてしまった。次に柔らかい方をはずしてみたがこちらも相殺された。
「なるほど、光る方と柔らかい方の相互作用で、相殺されないようになるって訳か......。だったら元の障壁っていらねえんじゃねえか?」
光る物と柔らかい物だけ残し、元の障壁をはずしてみると。思った通り、こいつは無くても大丈夫なようだな。でも、念の為付けておこうかな、万が一こっちの障壁を破る方法が有った場合は元々の障壁が有った方が良いだろう。
「さて、次は1つの魔結晶に記述出来れば......って、無理だな。元々の障壁の記述式に光る物と柔らかいものを追加で加えるんだから、別々の魔結晶に記述しなきゃ発動しねえよな」
と言う事で、更に各々に1つづの魔結晶を接続し追加の動力とした。試しに俺の全力で斬りつけたが鎧には傷一つ付ける事は出来なかった。
「まあ、これで完成でいいんだけど......。光ったんじゃ夜とか室内とかで目立ってしょうがねえな」
まあ、試作1号だしこれでいいか。
「さて、そろそろ良い時間だな。ガーネットを待たせるのも悪いからな」
鎧を台座から外し自分に装着してから店を出た。
シルビアの宿に着くと、すでにガーネットは食堂で待っていた。
「待たせちまったな、すまない」
「いや、自分も今来たところだ」
そこに、ケーナが部屋から降りてきた。
「タケル兄ちゃんおかえり」
「ただいまケーナ」
「あれ? タケル兄ちゃんその鎧どうしたの?」
「そう言えば、今まで使っていた物とは違うようだな」
「ふふふ、2人ともよくぞ聞いてくれました。こいつは、ディフェンダーバージョンタケル試作1号だ!」
「何だか、長い名前だね」
「しかし、普通の革鎧にその装飾はちょっとどうかと思うが、タケルの趣味なのだから、自分がどうこう言うことではないな」
名前は後でちゃんとしたのを考えよう。
「まだまだ、試作段階だしこの部分が物理障壁を張る部分なんだからしょうがないだろ? 名前の事は何も言うな」
「なに? そいつがあの勇者のディフェンダーと同じ物だと言うのか?」
「えー、ダルニエルさんのは、オリハルコンの鎧なんでしょ? 革鎧でも平気なの?」
「ふふふ、見てろよ」
俺は、物理障壁を展開してみせた。革鎧が青く光った。
「ほー、それが物理障壁を張った状態なのか。......目立つな」
とガーネットが言うと。ケーナが。
「革の鎧が光ると......。安っぽい感じが更に強調されちゃうんだね」
「やっぱり、安っぽいか。そうなんだよなー。でもこいつは試作品だからな、これから改良するさ」
「しかし、作るのが早いな。本当に障壁が貼られてるのか?」
「台座に載せて試した時は平気だったぞ。装着して試してないから、裏庭でちょっと試してみようか。ガーネット、頼めるか?」
「ああ」
俺達は裏庭に出て試してみた。最初は軽く試してみたが、平気だったので、全力で斬りつけてもらった。
「なるほど。確かに、物理障壁だな。大したものだな」
「凄いねタケル兄ちゃん」
「だろ? だろ? もっと褒めてくれ」
俺がおどけて言うと。
「「はははは」」
2人が笑う。
「さて、ガーネット何か話が有るんだろ? 晩飯を食いながらでもいいか?」
「ああ、自分も夕食はまだなのだ」
3人で食堂に戻ると、晩飯を食い始めた。食べながらと言うのも何なので、食べ終わってからと言う事になった。食後のお茶を飲みながらガーネットは切り出した。
「今日はタケルにお願いがあるのだ」
「俺に? なんだい?」
「実は、自分は騎士団を退団したいのだが」
それを聞いたケーナが驚いて。
「え? ガーネット姉ちゃん騎士団辞めちゃうの?」
「こらケーナ、まだ話の途中だぞ」
「あ、ごめんねガーネット姉ちゃん」
気にするなと言うように首を振ったガーネットは話を続けた。
「退団については条件付きの許可になったのだ」
「条件付き? 魔物でも狩って来いってのか? そんな事ならもちろん手伝うけど」
「いや、条件と言うのがな、その......」
ガーネットは何だか言いにくそうにしていたが。
「タケルのパーティに入る事が条件なのだ。どうだろう入れてはもらえないか?」
「なーんだ、そんな事......え?」