まあ、暇つぶしにはなったよな
時間前に騎士団の馬場に付いた。騎士団の連中だろう、かなりのギャラリーが柵の向こうに集まっている。ガルドナード侯爵達も俺達とほとんど同じ時間に付いた。間もなくゴーレムギルドの連中もやって来た。連中も2頭のゴーレムホースを連れてきた。体格の良い物と、スマートな物だ。力比べ用とスピード比べ用ってところだろう。ふーん、新型ってのは用途に特化したタイプって所かな? 今まで見てきた物はほとんど同じ体格だったからな。ふと見ると、オークのおっさんがアイン達を見る目がギラギラしている。どれだけアイン達が欲しいんだか。
「さて、双方揃った所で始めようと思う。どのような勝負の方法とするかだが、双方から1つづつ提案してもらいたい。2つの方法で勝負が付かなかった場合には、こちらから提案させて貰おう。それで構わないかな?」
「了解です」
俺に異存は無い。
「結構です」
おっさんも了承する。
「まずはタケル殿から提案してもらおうかな? 反証なのだから優先権をみとめてもよいであろう」
「では、馬場の周回コースを1周し、早くゴールした方の勝ちと言う事で」
ゴーレムギルドの提案は。
「こちらは、双方が綱を引きあってどちらが力が有るか比べたいと思います」
「では、勝負は、ゴーレムギルドの提案からとしよう。力比べからだな」
さて、力比べはライに任せよう。
「じゃあ、ライ任せるぞ」
「ライ頑張ってね」
「任せろ」
ゴーレムギルドはやはり体格の良い方を出してきた。まあ、ゴーレムホースの勝負なんて大体想像付くよな。
準備が終わり、双方のゴーレムホースがワイヤーロープで繋がれる。要は綱引きだ。合図とともに双方が引き始める。ライの方がスピードが有るので最初だけ少し飛び出したが。直ぐに拮抗した。
オークのおっさんが。
「どうした! ちゃんと引かんか!」
と叫ぶと、ケーナも負けずに。
「ライ! がんばってー」
と、応援している。力に特化しているのだろう、ギルドのゴーレムホースなかなかやるじゃないか。ここはライで正解って事か。俺はケーナに耳打ちした。ケーナが俺の方を見たので頷いてやると。
「ライー、信じてるから!」
その言葉を聞いたライは体を少しだけ屈めると、徐々に前に出始めた。
「主様、ライに何かなさったのですか?」
ツァイに聞かれた俺は。
「ツァイとライは基本的に同じ仕様なんだけどな。使ってる魔結晶は自然の物だからなどうしても個体差が有るんだ。ライの魔結晶はツァイのより一度に出せる出力が高くてさ、大体5%くらいかな、誤差では済まないくらいだな。まあ、魔力の総量は同じくらいだから、ツァイと同じ出力じゃないと都合が悪い事もあるだろうと思ってさ、リミッターが付いてんだよ」
「すると、先ほどのお嬢様の掛け声が?」
「ああ、リミッターを解除するには、最大出力を出している時に、ケーナの声で信じてるって言えばいい」
そんな話をしていると。ライが相手を引きずりだした。すると、ギルドのゴーレムホースは前足を上げ後ろに倒れこんでしまった。
「そこまで!」
の掛け声で、1回戦は終了となった。
「何をやっているのだ! お前達きちんと整備したのか!」
おっさんがギルド員に怒鳴っているが、思ったよりやるもんだ、油断してたら危なかったな。もっとも、スピード勝負じゃ負けねえだろうがな。ゴーレムの動きは相変わらずで、馬の足運びとはまるで違うしな。戻ってきたライにケーナが話しかける。
「ライご苦労様、やっぱりライは凄いね」
「まあな。お嬢の応援の声を聞いたら力が湧いてきた。しかしそれまでも全力で引いていたんだが? 店長どう言う訳なんだ?」
「ふふふ、ケーナの信頼に答えようとした時にリミッターが解除されるんだ。名付けて、男の子システムだ!」
「ますたー、モウチョット名前考エタホウガイイト思ウヨ」
「アインうるせえ!」
「主様、当然次はわたくしですよね? わたくしには女の子システムは無いのですか?」
「ないよ、お前の出力が基準になってるんだからな。大体骨格の強度が高いから、全力かけても全く問題ないんだ、お前にリミッター付ける意味がねえだろう」
「確かにそうですね。でも、後で魔結晶を高出力の物に取り替えてくださいませね。あんなゴーレムホースと同じ力しか出せないなんて、我慢できません。リミッターなど必要有りませんから、骨格の強度が許す範囲ギリギリでお願いします」
ツァイが言うと、ライは。
「でも、店長、そのシステムがあったほうが、奥の手が有るみたいでいいよな」
「お、ライは良くわかってるじゃないか。女にはわからねえよな、この感覚はな。ふふふ」
「ふふふ」
「ライ、タケル兄ちゃんの真似なんかしちゃダメだよ」
そこに、オークのおっさんが。
「何をゴチャゴチャと話しているのだ。今のはまぐれだ! スピード勝負なら負けん! さっさと始めようではないか」
ギルドのゴーレムホースが周回コースで待っている。もちろん人など乗せていない。コースに出ようとするツァイに、俺は頭にゴーグルを付けながら小声で。
「ツァイ少しハンディをやろうぜ」
「フフフ、はい、主様」
ツァイとスマートなゴーレムホースが並んで合図を待っている。ガルドナード侯爵の合図でスタートだ。
「初め!」
の掛け声とともに。オークのおっさんが。
「ゆけ! 全力で走るのだ!」
ゴーレムホースが走りだした。俺はツァイに。
「騎乗モードだ」
ツァイは騎乗モードに変形した。変形したツァイを見てギルドの連中は驚いている。
「俺のゴーレムホースは騎乗出来るんだ。人を乗せてどれだけ走れるかよーく見とけ!」
そう言うと走りだした。
「へー、スピードタイプか、少しは早く走れるみたいだな」
「そうですね、50キロほど出ているでしょうか?」
「へー、前に馬車を引いていたヤツはそれほど速くは見えなかったけどな」
周回コーは1周1キロくらいだ。しかし、半分程で追いついてしまった。ゴーレムホースは俺の進路を塞ぐようなコース取りをしてきた。
「ツァイ、飛べるか?」
「お任せください」
そう言うと、ツァイは更にスピードを上げ地面を強く蹴ると、ゴーレムホースを飛び越えた。そのままグングン引き離しコースを走り終えた。ツァイから降りた俺は、俺達を茫然と見ているギルド員達に向かって。
「俺が、あのゴーレムホースのどんな所を盗めばいいんだい? 力はそこそこだが、スピードは出ねえし、あれじゃ騎乗なんてできねえだろ?」
ギルド員は肩を落とし俯いた。オークのおっさんはガックリと膝を付いてしまった。ガルドナード侯爵が。
「勝負有りだな、オルストローク殿。さて、持ち帰って、証拠を吟味する必要は無いな。こんな場所だが、判決を出させて貰いたい。先ほどタケル殿が言ったとおり、ゴーレムギルドは何の根拠もなくタケル殿に難癖を付けゴーレムを奪おうとした事を認める」
オークのおっさんは膝を付いた状態から、座り込んで更に両手を地面に付いてしまった。
「よって、今後ゴーレムギルドはゴーレムホースの販売を中止し、すでに販売している物を全て回収する事。これは全ゴーレムギルドが対象となる。よろしいな」
付添いのゴーレムギルド員が。
「そんな事になれば、ゴーレムギルドの損害は計りしれません。ギルドを維持することすら不可能となってしまいます。それに、ゴーレム3体を奪おうとした事に対し、全てのゴーレムホースを回収するなどつり合いが取れないではないですか!」
ガルドナード侯爵が。
「そういうことは、先ほどタケル殿が提案した時に言うべきであったな、勝負に負けた者が言えた事ではないな」
うなだれるギルド員にそう言うと、ガルドナード侯爵は俺に向かって。
「タケル殿、ギルドから発言があったように、釣り合いが取れないなどと言うつもりは無い。無いんだが、ゴーレムホースがもたらした物、今後もたらすであろう物、これを失うことは我が国の損失に留まらないと私は思うのだ。どうであろう、ここは私に免じてこの処分緩めてはもらえまいか? その代わりにタケル殿への賠償については、金銭であろうと人の処分であろうと、今回の事に見合う物をゴーレムギルドに負わせることを約束しよう。先ほどタケル殿から提案があった時、私はタケル殿の勝ちを確信していたのだ。しかし、ゴーレムギルドが承諾した以上裁判長としては口を挟む訳にはいかなかった。裁判長としては失格なのだが、この国の貴族としてはこう言うしかないのだ。考えてはくれまいか、この通りだ」
と言って頭を下げた。ギルド員は期待を込めて俺を見ている。俺もガルドナード侯爵の意見には全くもって賛成だ。ゴーレムホースのおかげで、この世界が豊かになった事は間違いないだろう。前の世界の自動車とまでは言わないが、無くてはならない物になっているんだろうなと言う事は想像出来る。このまま本当にゴーレムホースを無くしてしまっては、人々の怨みはオークのおっさんやゴーレムギルドだけではなく、俺やガルドナード侯爵にまで及ぶかもしれない。とは言え、簡単に話を呑むんじゃ舐められるよな。どうしたものか。
「ガルドナード侯爵様、頭を上げてください。貴族が軽々しく冒険者に頭を下げるものではありません」
「では、分かってくれるのか」
頭を上げたガルドナード侯爵に対し。
「いえ、約束は約束です。裁判長のおっしゃったとおり、賠償内容に不満があるなら、少なくとも勝負の前に言うべきでしょう。ギルドが勝っていたら俺のゴーレムは問答無用で取りあげられていたんでしょうからね」
「うっ」
ガルドナード侯爵は言葉に詰まってしまった。ギルド員も再び俯いてしまった。俺は続けて。
「約束通り、ゴーレムホースは全て回収、今後の販売は差し止めて貰う。......ただ、ゴーレムホースはそうして貰うけど、ゴーレムホースじゃなければ、この約束は適用できないのか? 今まで販売した物も今後売る物も、「全てゴーレムドンキーだ!」と言われてしまったら、この世にゴーレムホースは俺のツァイとライしかいなくなる。今回の裁判の顛末を今後公表し続けたうえで。そこまでされてしまったらしかたないですよね。何と言ってもゴーレムホースなんてゴーレムギルドは売っていないことになるんですから」
「タケル殿......。どうだね? オルストローク殿、名を捨て実を取るか?」
「はい、タケル殿のおっしゃる通りにいたします」
この話は吟遊詩人が面白がって広め、さらに、人々の共感を得られた事から、ゴーレムドンキーの呼び方はあっという間に世界中に広まった。そして、他人の物を不当に奪うような人を指して「オルストロークのようなヤツ」と。やたらと物をねだる子供に対して母親が、「オルストロークのようになっちゃうよ」と戒める事に使われる事になる。
「さて、オルストローク殿、あなたはゴーレムドンキーの開発者だそうだが、ギルドランクは?」
と尋ねるガルドナード侯爵に。
「はい、Sランクです」
「タケル殿のゴーレムホースはギルドの物とは全く違う物のように感じたが、どうだね?」
「はい、走る姿を見れば分かるとおり全くの別物です」
「つまり、タケル殿は新たにゴーレムホースの開発に成功したということだな。走っている所を見せてもらったが、まるで本物の馬のように走っていたと思わないかね?」
「素晴らしいゴーレムです。あれがまことのゴーレムホースと言えるでしょう。あれに比べれば、私のゴーレムは正にロバです」
「さて、オルストローク殿、タケル殿をゴーレムギルドに入れるとしたらランクはどうなるね?」
「SSランクでしょうな、過去にSSランクだった者は数名おりますが、タケル殿のゴーレムに比べればそれらのゴーレムの性能は足元にも及ばない物がほとんどでしょう。そういう意味ではSSSと言っても言いすぎではないでしょうね」
「どうだね? タケル殿をギルドに加入させる気は無いかね?」
なに? ゴーレムギルドにおれが?
「ガルドナード様、せっかくのご配慮ですが、俺はゴーレムギルドに入るのはちょっと遠慮したい」
「なぜだね? 今のままではゴーレムを売ることができないのだろう? それではせっかくのゴーレムホースが宝の持ち腐れではないか」
「ガルドナード様、俺にとってギルドに入ることのメリットが無いばかりか、ギルド員の義務だとかが有って俺のゴーレムの情報を渡せとか言われたら納得がいかない。今のままの魔道具屋と冒険者でやって行くんじゃ金銭的に厳しいかも知れないが、俺がゴーレムホースを売り出す事でギルドの客を奪うつもりも無いですからね」
「だったら、ギルドには加入するが、ギルドへの義務は全て免除ではどうだ? 勿論法には従わなければならんが、ギルドの規約に縛られる事は無くなる。オルストローク殿どうだろうか? これ程のゴーレム術士だ、野に埋れさせるのは惜しいと思わんか?」
オルストロークは。
「おっしゃる通りです。タケル殿の加入については問題ありません。SSランクでの登録となると私の一存とは行きませんが、問題なく承認されるでしょう」
俺は慌てて。
「そう言う事なら入るのは構わないが、そんなランクは要らない。悪目立ちしすぎるだろそれじゃ。いざという時に俺のゴーレムが売れればいいんだから、Cランクくらいと言う事で」
「そうはいかない。しかし、悪目立ちと言うのであれば、Aランクだどうだろうか?」
「あー、それで良いか。鍛冶ギルドもAだしな」
「では、今回の裁判はこれで閉廷と言う事だな」
「やっほーー」
ケーナとライが周回コースを走っている。さっきまで後ろを付いていた騎士団の騎馬は今はかなり引き離されている。まあ、ライが本気を出せば馬じゃ追いつけない。解散し皆が帰った後に騎士団の連中がツァイと一緒に走りたいと言うので、ケーナとライに任せた。俺は、ギルドの連中が帰った後に1人のこったオルストロークの横に座り。
「変な形で裁判が終わったな、まあ暇つぶしにはなったか。でも、なんでこんな事をやったんだ? 元から無理があったよなこの裁判は」
「どうしても、あのゴーレムを調べたかったのだ。どうしてもだ」
「アインとフィーアか? やっぱりゴーレムホースはおまけか。あんたゴーレムギルドのグランドマスターなんだろ? 自分で作りゃいいじゃねえか、ギルドには資料だって沢山あんだろ?」
「散々研究したし、試作品だって作っている。しかし、満足のいく物など出来なかった。先日の勇者との勝負を見たが、そのゴーレムは正にわしの理想のゴーレムだった。冒険者の相棒として一緒に冒険が出来るゴーレムだった」
「まあ、俺の相棒だからな、性能は申し分ないだろ?」
「申し分ないどころか、想像以上のものだ、あれは素晴らしいゴーレムだ」
「だからって、他人の物を奪ってまでってのはどうかと思うぞ」
「そんな事は分かっているつもりだった。しかし、そんな思いなど吹き飛ぶほど夢中になってしまった」
力無くそう言うと。
「子供のころは、冒険者になりたかった。自分の見た事もない世界を見たかった、剣士を目指していたんだよ、そうは見えないだろうがな。毎日毎日剣を振り続けた、豆が潰れ血豆が潰れそれでも剣を振ったよ。しかし、わしには全く才能が無かった。剣術のスキルが付かなかった。落ち込んだよ、冒険者にはなれないんだと悲観したよ。そんな時に、親が剣士としてではなく、ゴーレム術士として冒険者になればいいと言ってくれた。両親ともにゴーレムギルド員でな剣の才のが無いわしにゴーレム術を教えてくれた。スキルは直ぐに取れたよ。これでも、周りに期待される才能を発揮していたんだ。目指すゴーレムを作るために様々な文献を調べもしたし、自分でも色々工夫してみた。一向に成果は上がらなかったがね」
「でも、ゴーレムホースを1人で作ったんだろ? それだって冒険者は助かってるぞ、一緒に冒険出来るゴーレムと言えるんじゃねえのか? 持ってないヤツは、いつか自分もって思って貯金してるんだ」
「あんな物は、単なる繋ぎだ。だから、呼び名なんぞどうでも構わんのだよ。ギルドで研究を続けるために作った方便だ、成果を出さねば、研究費が削減されるだけでなくギルドの研究員として在籍できなくなるのでな。おかげで、グランドマスターなんぞに祭り上げられてしまった。研究費こそ自由になるが、雑事に時間を取られて研究時間が取れずに嫌になっていた所だ。今回の責任を取る形で、マスターを退き研究室にこもる事が出来る。そう言う意味でタケル殿には感謝しないとな」
「あー、それは、......何と言えばいいのか」
「タケル殿のゴーレムは素晴らしい。人格を持ち、戦闘をし、魔法すら使う。全く想像もつかんよ、どんな制御式を作ればあんな事が出来るんだろうと思うと、居ても立ってもいられなくてな、タケル殿が自作のゴーレムホースを使っているとの情報を得て、あんな事をしてしまった。自分でも愚かな行ないだと思うが、あの時は最良の手段だと思ってしまった。申し訳ない」
と言って頭を下げた。
「いや、実害が無かったからな、もう気にしちゃいない。俺だって、作りたい物の為に色々無茶してるからな、あんたの気持ちは分からなくもない」
俺はズルしてスキルを取って、レベルを上げたからな、他人に自慢できるような事は全く無い。オルストロークのように、目標に向かって地道に努力してきた人間にどうこう言えるようなもんじゃない。
「あのゴーレムが作りたい物じゃないのか?」
「あんたのゴーレムホースと一緒だよ。あれはロボを作るための通過点だ、試験的に色々やってみた結果あんなのが出来上がったって訳さ」
「わしの目標を通過点とは、ははは。かなわん訳だな、目指す高さが違うと言うことか」
「いやいや、あんたの方がすげえと思うよ。ゴーレムホースだって本気で作れば俺のと同等の物が出来たんじゃねえのか? そうなってりゃ俺もギルドから買ってたところさ。馬の走り方や、体の構造をきちんと調べてから作らなかったろ? あれ足運びが変だぞ」
「そうか? 足運びが変か。たしかに外見をスケッチしただけで作ったからな」
「それで、あれだけ売れる物が作れるのかよ、やっぱりあんたの方がすげえよ」
「慰めは要らんよ、現実はあのとおりだ」
「俺のゴーレムホースはこのままじゃ売る訳にはいかないからな」
「なぜだ? もうゴーレムギルド員なのだから、自由に売買出来るんだぞ?」
「アインとフィーアに人格が有るのは分かってるだろうけど、ツァイもライも人格がある。ああ、ツァイが青いゴーレムホースでライはオレンジ色の方なんだが、ツァイは俺以外には誰も乗せようとしない、命令を聞かないんだ。ライはロリコンだしな。とても客に売る訳にはいかないよ、まだまだ、工夫が必要だ」
「店長、俺はロリコンじゃ無い! 失礼だぞ」
いつの間にか戻ってきたライが俺に向かって文句を言った。
「な? この通りだ」
「ははは、製作者の命令を聞かないゴーレムか。確かに、問題はあるようだな」
「アインだって、最初は名前が気にいらないって言って、俺に付いてこようとしなかったし、フィーアに至っては、戦闘用ゴーレムなのに戦うのは嫌だって言うしな」
「タケル殿のゴーレムは高性能だが、扱いが難しいと言うことか。しかし、話を聞く限り本当に人格はあるようだな。人格の有るゴーレムなど伝説のような物なのだ。過去に1人だけ人格の有るゴーレムを作った術士がいたと伝わっているだけだぞ。ドラムルと言うSSランクのゴーレム術士が作ったゴーレムには人格が有ったと言う伝説がある」
「ああ、アインとツァイとライのゴーレム核の制御式は、そのドラムルの111式をベースに俺が魔改造したもんだぞ、身体制御はあれで完成してるよな。それにフィーアは最後の作品の126式をそのまま使ってるんだが、あいつにも人格が有るぞ」
「なに! フィーアの制御式はドラムルの息子なのか!」
「ドラムルの息子って?」
「126式の制御式を使って作られた唯一のゴーレムは、ドラムルが死ぬまで手元に置いていた物だ。そいつには人格が有り、ドラムルと意思の疎通が出来たと言われている。だから、ドラムルの息子と言われていたらしい。ドラムルが死んだ後にギルドに引き取られたんだが、全く稼働しないまま自壊したと伝わっている」
「自壊か。自殺って事か?」
「人格があった事は結局確認出来なかったのでな、自殺とは言わんよ、今では信じている者はいない。わしを含めてな、しかも、残された制御式を使って作られたゴーレムは人格が発現するどころか、性能も大した物では無く制御式が完成していなかったと判断されたよ」
「大した性能では無かったか......」
「ああ、ドラムルが作り、世に出したそれ以前のゴーレムは素晴らしい性能でな、死後ギルドに提供された制御式で数体作られたのだが、やはり全てが使い物にならなかったのだ、今ではだれもドラムルの制御式など返り見る者は居なくなった。わしとて、研究のために過去の資料を当たらなければ知らなかった事実だ、結局は残された制御式はいずれも不完全な物ばかりだったらしいのだが、タケル殿はそのドラムルの制御式をそのまま使ったと言うのか......」
「あれは、不完全な制御式じゃねえぞ。自己学習型の制御式だ。ゴーレムに生成した後に教育してやらなきゃ最低限の事しかできない。ドラムルが手元に有る間に教育したんじゃねえかな? 量産していたんなら、教育が終わった核をコピーしたんじゃないか?」
「なるほど、そう考えればいいのか。なるほど」
「まあ、ゴーレムに人格が有ると色々大変かもしれないけどいな。気にいらない人間に害を与えるかも知れねえしな、そうなったら大事だ」
「確かにそうだな、そこまで考えた事は無かったな......」
そう言うと、オルストロークは考え込んでしまった。俺は続けて。
「アイン達は、単なるゴーレムじゃないんだ」
「単なるゴーレムでは無いとは?」
「ゴーレム術だけじゃ無く、鍛冶、オートマタ、記述魔法、魔道具の技術を全て使って作ったもんだ。ゴーレム術だけじゃ魔法なんか使えっこねえだろ?」
「なんと! そうか、だとすれば私の物にしても結局どうする事も出来なかったと言う訳か。ははは、バカな事をしたものよ。他人の事を羨んでいただけであったか。わしにはどうする事も出来ない高みに有ったと言う訳か、愚かな事をしてしまったな」
「そうとも言えねえだろう。何も、自分1人だけで目指さなければならない目標でもないって事じゃないのか? あんたがなりたかった冒険者ってのは、自分が出来ない事を仲間が補い、仲間が出来ない事を自分が補いながら、クエストの達成を目指すもんだ。ゴーレムを作るのだってそうやっちゃいけねえって事は無いだろ? 王都に来る前にガーゼルの街のギルドで俺に文句を言ってきたやつが、冒険者が使えるゴーレムを作ったって言ってた。結構いい出来だったぞ、まあ、アインにケンカを売ってバラバラにされちまったけどな。ひょっとしたらあの男もあんたと同じなのかも知れない」
「ほう、そんなゴーレム術士がガーゼルにいたのか。なるほど、同じような志を持った者を他分野や他のゴーレム術士から探し出しチームを作って完成を目指すと言うのもいいかも知れんな。なまじ、才能が有るなどと言われたものだから、何もかも自分1人で出来るものと勘違いしていたようだ、実際は大した人間でもないのにな」
「大したものさ、ただ、ちょっとだけ、視野が狭くなってただけだろ? これからさ、あんたのゴーレムも俺のロボも」
「たしかに、これからだな。見ていてくれ、いずれタケル殿に胸を張って披露できるゴーレムを作って見せよう」
「楽しみにしてるよ。さて、俺はそろそろ帰るぜ」
「ああ、あんな事をしておいて、言えた義理では無いが、たまにはギルドに顔を出してくれんか? わしが間違った事をせんよう目を光らせて欲しいんでな」
「まあ、気が向いたら寄らせて貰うよ、もっとも、俺はあんたの事をどうこう言えるような立派な人間じゃねえけどな」
俺達は馬場を後にし宿に戻った。
宿に戻ると、城からの手紙が届いていた。
「なになに? 明日城に来いか......。お披露目の準備みたいだな。ケーナ、お前も呼ばれてるぞ」
「あたしも? あたしは関係ないよね? なんで呼ばれるのかな?」
確かに、お披露目はケーナは呼ばれていないんだよな、でも、明日来いって言うんだからお披露目がらみだろう。
「理由は書いてないな、明日行けばわかるさ。食べ歩きはもう充分だろ? 付き合ってくれよ」
「はーい」
翌朝王城に行くと、コルデノが俺達を待っていた。コルデノの説明によると王城の大広間で他国や国内の貴族の前でお披露目した後に、騎士団の練兵場で演武というか、技を披露する、そして夜には王国主催のパーティがあるそうだもちろん出席者は国内外の貴族と言う事になるが、このパーティには俺の妹としてケーナも出席して欲しいとの事だった。説明を受けた後ケーナはターニャとファーシャに引きずられ衣装合わせに向かった。俺はサイズを測られただけで解放された。明日のパーティまでには用意してくれるそうだ。その足で王城内の工房に行った俺は。
「なあ、ダルニエルはどんな技を披露するんだ? やっぱりライトニングで雷を落とすのか?」
「そうだな、そういう事になるだろう。国民を守る為の術を披露し勇者としての力を見せねばならんのだからな」
「じゃあ俺は? フェンリルバスターとしての力を見せるって事なのか......。刀で切りつけただけだからなー。ダルニエルに比べると地味だな、ひたすら地味だ」
ガンドロクが。
「タケル殿はダルニエル殿との勝負の時にオリハルコンの鎧を斬れると言ったそうだが、それを見せれば良いのではないか?」
「ガンドロク様、オリハルコンの鎧ってめちゃめちゃ高くないですか? そんな事の為に斬って良いような鎧が余ってるんですか?」
「馬鹿を言っては困る。オリハルコンの鎧が余っている訳が無いだろう。しかし、オリハルコンのインゴットはここには沢山あるぞ、タケル殿は鍛冶士なのであろう? 作れば良いではないか」
「なるほど、鍛錬が終わってる物有ります? チャッチャと作っちまいましょう。でも、それだけじゃちょいとインパクトがなー」
何か考えようか。
「ダルニエルより目立っちゃまずいか?」
「別にかまわないさ、タケルのゴーレムが強いと言う事は皆分かっているが、タケル自身の強さを見せるというのは良いのではないか? 私より実績は有るのだから、それが本当の事だと分からせれば良いではないか」
「鎧を斬ったって、強さの証明にはならねえよな、模擬戦する訳にもいかねえんだろうし」
「タケル殿、考えていても仕方あるまい。とりあえず鎧を作ってしまえばどうだ?」
そう言われて、俺はモデリングで鎧を作って行く。途中で思い付いた事があったので、リボルバーワンドのカートリッジを作ってみた。さらに準備をしてコルデノと打ち合わせをしているうちに、ぐったりしたケーナが戻ってきた。ファーシャが。
「タケル明日が楽しみですね」
ターニャも。
「ケーナは可愛いからな」
ケーナは。
「あんな服着たことないから疲れた」
だそうだ。俺はコルデノとの打ち合わせを終えると王城を後にした。
翌日は王城の大広間で俺とダルニエルを貴族たちに紹介された。ダルニエルは国公認の勇者として紹介された。俺はフェンリルバスターとしての紹介だ。好意的な視線が多かったが、中には懐疑的な物や値踏みするような視線もあるがこれはしょうがない事だろう。その後場所を騎士団の練兵場に移し技の披露となった。練兵場の貴賓席には女王をはじめ、国の重鎮達、貴賓席の前方に有る座席には大広間にいた貴族たちが全て収まり、その他の練兵場を囲む土手には一般市民だろうか? 多くの観客が座っている。なるほど、市民にも見せるってことね。まずは俺から練兵場に出て行く。ダルニエルがメインであり、俺はついでだからな。昨日作ったオリハルコン製の鎧を中央に置き周りを適当に間隔を取った十数本の丸太からモデリングで作った人形で囲ませた。中央に立った俺は。
「誰か、中央に有る鎧に切り付けてくれないか? あの鎧はオリハルコン製だ。鋼の剣で切りつけ傷一つ付かない事を確認してくれ」
そう言うと、他国の貴族が進み出て、警護の騎士から剣を受け取り鎧に切りつけた。傷一つ付かない事を確認し、オリハルコン製の鎧で有る事を確認し周りに間違いない事を告げると席に戻った。
「さて、いっちょやってみるか」
俺は、貴賓席に向かって一礼すると、持ちこんだとべーるくんを足に装着した。リボルバーワンドを抜いてカートリッジを確認すると。そのまま飛び上がり、ノーズを急角度に持ちあげ全速力で飛び上がった。見ていた人々は驚いたように歓声を上げる。上空で水平飛行に移った俺は貴賓席の反対に向かってしばらく飛行した後に方向転換をし地上20m程の高度で、貴賓席に向かって速度を上げた。リボルバーワンドから雲を引きながら、練兵場の中央で右に90度のターンをし土手の上を高度を落としとび抜ける。
「さすがに貴賓席の上を飛んだら拙いよな」
観客の頭上をちょうど半周した所で中央に戻り、雲を引くのを止めると。スケボーやスノボの空中での技を思い出しながらアレンジして披露していく。要するにアクロバット飛行だ。技を出すたびに観客から、ため息や歓声が上がる。サーフィンのカットバックのような動きから上空に向かって雲を引きながら螺旋を描きながら上昇していく。300m程上がった所で雲を消しリボルバーワンドをホルスターにしまうと。上昇を止め、重力に引かれるままに、頭から落下していく。今度は、観客からどよめきや悲鳴が上がる、トラブルで落ちているように見えているのだろう。地面まに叩きつけられる寸前で姿勢を戻し、上昇用の魔石に魔力を流す。高度1mの所で落下は止まり、そのまま人形に向かって突進する。剣を抜いて、3体の人形の首を斬り落とした。ノーズを持ちあげ上昇しながら剣を持つ手と逆の手でリボルバーワンドを抜いた。高度100mくらいの所で、雲を引きながら曲線や直線を素早く描いて行く。描いてる本人にはちゃんと出来ているかどうかは分からないのだが、観客席からどよめきと共に空を指差し。
「王家の紋章だ!」
と、声が上がった。どうやら思った通りの図形が出来たようだ。そのまま更に上昇し、地上から俺が見えないんじゃないかと言うところまで上昇し、急降下に移る。ワンドをホルスターに戻すと、剣を両手で握る。こいつはアインが装備していた高周波ブレードのバスタードソードだ。中央のオリハルコンの鎧に向かって急降下しながら剣を上段に構える。王家の紋章を避けるように降下しボードを水平に戻す。鎧の前に降りながら、剣の魔石に魔力を流す。そのまま落下の勢いも使ってオリハルコン製の鎧に斬りつけた。
『ギャーン!』
と言う音と共に真っ二つに鎧が割れた。
『おーーー!』
どよめく観客。そのまま急旋回しながら残りの人形の全てを胴体を真っ二つにし、スタート地点に戻ると地面に降りた。とべーるくんから降り、剣を鞘にしまうと。大声で。
「俺や俺の守るべき者達に仇なす者は、落ち着いて表を歩く事は出来ないだろう!」
歓声が湧き、しばらく拍手が鳴りやまなかった。
「天駆ける英雄だ!」
どこかから声が上がると、客席の至る所から同じ声が上がる。
『天駆ける英雄』
やっちまった! また、中二的な二つ名が増えたか?
ダルニエルの所に戻ると。
「天駆ける英雄殿やってくれたな。私が目立たなくなってしまうではないか」
「ダルニエルまで止めてくれ、ちょっとやりすぎたか?」
「いや、フェンリルバスターなのだ、これくらいでちょうど良い」
と言うと、俺に変わって中央に進み出た。練兵場には今度は、赤と青と黒の丸太の人形がバラバラに数十体置かれた。貴賓席に向け一礼すると。ライトニングを前方に向けて構えた。剣が光り雷撃がほとばしる。赤い人形に次々と命中し頭の部分が爆ぜる。赤い人形全ての頭を吹き飛ばすと、今度は天に向けて剣を構えた。たちまち上空に黒い雲が出来上がる。
「せい!」
掛け声と共に、雷鳴が轟き、百本以上の稲妻が人形に向かって走った。1体当たり複数の稲妻が落ちた黒い人形は全てズタズタに裂けて倒れた。青い人形は全くの無傷だ。すげえな、ピンポイントに狙った的に当てられるのか。俺との勝負の時はかなり力を抑えて使っていたってことか。ダルニエルの方が派手だったな。
「王国に敵対する者は、誰であれ、私の雷撃から逃れる事は出来ないであろう!」
場内からは歓声がおこった。
『雷撃の勇者万歳!』
ダルニエルを称える声がそこいら中から上がった。ダルニエルはライトニングを掲げ観客に答えている。
「さて、後はパーティか。はあ、マナーなんか全く分かんねえぞ俺は」
俺は、ため息を吐いてこの後の事を考えていた。
ゴーレムギルドにはとりあえず恥をさらしてもらって、反省してもらいましょうと言った決着です。