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王城でやらかしました

「何をしてるの。やめてよ。頭を上げてよ~ください」

ケーナがアタふたしている。ケーナの前には深々と頭を下げるダルニエルがいる。

「そうはいかないのだ、まずはケーナ殿に心からの謝罪をせねばならん。取り返しのつかないことをするところであった。もうやってしまったことを無かった事にしたいなどとは言わない。あんなことをしておいて虫のいい話をと思うだろうが、どうか謝罪を受け入れて欲しい。そうでなくては、自分が国公認の勇者として踏み出すことができないのだ」

「わかったよ。です。謝罪を受け入れるよ。です」

「ありがとうケーナ殿。これからの私を見ていて欲しい。ケーナ殿に恥じる行為などもう二度としない! これからは心を入れ替え弱き者を護る事を約束する!」

謁見の間を辞した俺達と勇者達は女王に誘われ一緒にお茶をする事になった。王城の中庭のテラスに来てテーブルに着こうとしたところでダルニエルが女王に許可をもらいケーナに頭を下げたのだった。ケーナが謝罪を受け入れると今度は俺に向かって。

「タケル殿にも迷惑をかけてしまい申し訳ない。あの時は、タケル殿に勝つことで頭が一杯だった。軽率な行動をしてしまった。謝罪を受け入れて欲しい。先ほど女王の前で誓った事は必ず実行することを誓う」

と言ってやはり、深々と頭を下げた。ケーナ以外に剣を振るった事は無いらしいので、あの時の精神状態は普通の勇者では無かったってことなのか。

「謝罪を受け入れる」

「ありがとう、タケル殿」

「あー、そのタケル殿ってのやめにしないか? 殿を付けて呼ばれるのに慣れてなくてさ、タケルでいい。ターニャもファーシャもそう呼んでくれ」

「「はい」」

と2人が答え。

「わかった、では、私のこともダルニエルと呼んでくれ。ケーナ殿もそう呼んでくれ」

「じゃあ、あたしのこともケーナって呼んでね」

「そうか? んー、ダルニエルか......」

「なんだ?」

「なんだか、言いずらいな。ダルルでどうだ?」

「どうだ? じゃない。尋ねるまでもなかろう、そんな呼び方はやめろ」

「えー、いいじゃないか。ダルル、そんなに嫌か?」

「いやだ!」

「だったら、......ダルリン、......ダルルン! これだ! うん、こっちの方がいいな」

「よくない!」

「えー、ダルルンいいよな? ケーナもターニャもファーシャもそう思うって言ってるぞ」

「「「 ......」」」

ダルニエルが3人を見ると、みんなが、首をぶんぶん横に振る。顔は笑いを堪えるような微妙な表情になっている。

「ふふふ、タケルは、面白いですね。貴族に対してそのような呼び方をするなど、でも、特別に仲の良い人の間では愛称で呼び合うのでしょう? だったら、タケル殿は、タケルンですか?それともタケリンかしら?」

ニッコリ笑って女王が言った。

「すみません、調子に乗ってました。やはり名前にはそれを付けた人の想いがこもっていますからね。変にいじるなんてもってのほかですね」

俺が言うと。

「そうであろう? 私が嫌がった気持ちがわかったか」

「ああ、よーくわかった。自分がやられて嫌なことは、他人にするべきではないな。うん、昔の人は良く言ったもんだ」

「ふふふ、やっぱり、タケルは面白いですね。ところで、女性の場合もそうなのですか? ケーナもターニャとファーシャもリンやルンを付けてもなんだかしっくりしませんよ?」

「いえ、陛下、ですから名前を変なふうに弄るのはですね......。弄るらなければいいのかな? 最高に可愛いよと言う意味を込めて、女の子の名前の後に「たん」と付けるというのがありますね」

「たんですか? ケーナたん、ターニャたん、ファーシャたんですか? 確かに可愛い感じになりますね」

「でしょ? ターニャたんもそう思うだろ?」

「その呼び方は嫌ね、普通に呼んで欲しいわ」

「えー? 良いじゃないか、可愛いよ。ターニャたん」

俺が言うと。

「嫌だと言ったでしょ!」

ターニャの拳が俺の頬にヒットした。実害が無ければこの手の攻撃は避けないのが俺の基本方針だ。

「ぐっ、い、良いパンチだ、俺と一緒に世界を目指さないか?」

ターニャが。

「何訳のわからない事を言っているの。もう一度言ったら、今度は本気で殴るわよ。つつ、ファーシャちょと、ヒールしてくれない。今ので手を傷めちゃった」

ファーシャがターニャに向かってヒールを掛けた。

「今の本気だったよな? 拳を傷めるほど本気だったじゃないか。これ以上の本気ってどんなのだよ。ターニャたん」

すると、ターニャは拳に炎をまとわせ、俺に向かってニヤリと笑った。

「黒焦げにしてやろうかと言っているのよ」

「すんませんでした! もう言いません、勘弁してください」

ターニャが拳の炎を消した。

「もう二度と言わないでちょうだい」

そこで、今度はファーシャに向かって。

「ファーシャたーん、俺の事もヒールしてくれないか? ターニャに殴られた頬がズキズキするんだ」

ファーシャは赤く染まった頬を両手で挟むと。

「なっ、何だか、恥ずかしいです。年下のタケルに可愛いと言われるなんて、どう反応していいかわかりません。」

と言いつつも。俺に向けてヒールを掛ける。

「え? ファーシャたん17歳だろ? 同い歳だぜ俺たち」

「タケル! 二度と言うなと言ったでしょう」

ターニャが目を細めて右の拳を持ちあげる。

「ちょっ、ちょっと待とうかターニャ。お前には付けてないだろうが。ファーシャたんは、嫌がって無いじゃないか!」

「ファーシャ!」

「同い年だったんですか。でも私もう成人してますし、可愛いと言われても戸惑って......え? お姉さま?」

「はあー、もういい。勝手にしてちょうだい」

ダルニエルが。

「ケーナたん......」

ケーナが頬を染めて。

「ダルニエルさん。あたし、それ恥ずかしい」

「あ、ケーナも嫌だったか。すまん、もう使わないようにしよう」

「......うん。あたし、可愛くなんてないから似合わないよ」

ダルニエルは、勢いこんで。

「いや、ケーナたんは可愛いぞ! 本当に可愛い! お世辞ではないぞ。なあ、タケルもそう思うだろ?」

「ああ、ケーナは可愛いぞ、うん、さすが俺の妹だ」

「さすが俺の妹って、あたしとタケル兄ちゃん血はつながって無いじゃないか! 適当な事言わないでよ、本当にタケル兄ちゃんはいい加減なんだから!」

「え? いや、いつも同じ物を食ってるからな、似てくるんだよ。うん」

「ほら、そうやって、またいい加減な事を言って! だいたい、お昼は結構バラバラじゃないか!」

「あなた達、似て無いと思ったら、血はつながっていないのね。ケーナちゃん良かったわね。ケーナちゃんはこのままま真っ直ぐ育ってね」

「おいターニャ、なんか酷い事言ってないか」

「お姉さま、そこはほら、反面教師と言うではないですか?」

「ファーシャもか、俺は悪い見本か?」

「うん、ケーナたんには、是非このまま成長して欲しいものだな」

「ダルニエルまで言うか!」

女王が。

「あらあら、タケルは、たんを付けるのは止めにしたの?」

「ええ、女性陣に不評なようですし、自分で使ってても結構恥ずかしいですしね」

ケーナが。

「だったら、最初から言わなければ良いのに。なんでそんな変な事言い出したんだい?」

「いやー、この場の雰囲気を和ませようとしたんだ。雰囲気硬かったろ? もっとフレンドリーな雰囲気が欲しいかなーと思ってさ」

その時、女王が誰にともなく。

「エリアナたん。......ちょっと、無理が有るかしら?」

......テラスを沈黙が包んだ。俺は、不自然にならないように。椅子を引き。

「陛下、お座りになりませんか? お茶の用意が終わっているようです」

「タケル、陛下ではないでしょ?」

「エ、エリアナたん、お茶にしませんか?」

女王は満足そうに頷くと、俺が引いた椅子に座り。

「皆さんもお座りなさい、さあ、お茶にしましょう」

なんとなく、お茶会が始まった。


「へー、ギガントは西の山を越えてきたのかー、なんでまた山なんか超えたんだ?」

ダルニエルのギガント討伐の話を聞いている。女王が直接本人から聞きたいと言い出したのだ。次は、俺の順番だそうだ。

「魔物の考えなど、私にわかる訳がないだろう。とにかくその情報を得て、準備の整わない騎士団に先んじて私達パーティが討伐に向かったと言う訳だ」

ダルニエルが言うと、続いてターニャが。

「私が、ファイアーウォールで足止めし、ダルニエルがライトニングで麻痺させたのです。そうして、エクスプロージョンを数発打ちこんで倒したところにダルニエルが近付いたの」

「ギガントって、でかいんだろ? それを足止めするって、どれだけ大きな炎の壁だったんだ?」

俺の問いにダルニエルが。

「私達が倒したギガントは40mを少し超えるくらいの大きさだった。それにしてもターニャのファイアーウォールは大きかったな。で、ライトニングをギガントの首に突き刺し体の中で雷を発生させたのだ。目や口から煙を出して息絶えたと言う訳だ」

「なるほど、巨大なギガントでもそうやれば倒せるって訳か。いやーすげえな大したもんだ」

褒める俺に、謙遜してかダルニエルは。

「それ程大したものでもない。ライトニングが有ればこそなのだ。それに、ターニャの魔法が無ければギガントに近付く事も出来なかったであろう。ファーシャがいたからこそ、ギガントにたち向かって行けたのだしな」

「いやいや、ギガントなんて魔物を倒すんだ、さすが勇者ってことかー。やっぱりダルニエルすげーよ」

女王が。

「凄いでしょう? その功績が認められ、ダルニエルが我が国公認の勇者として選ばれる事になったのですよ」

「本当に凄いな、俺じゃギガントは難しいなー」

「そんな事はあるまい。タケルはフェンリルバスターなのだ。魔物のランクはどちらもAランクだが、ギガントよりもフェンリルの方が厄介だろう」

「そんな事はない。アインがいれば何とかなるかも知れねえけどな、それにしたって作戦は立てなきゃな」

女王が。

「確かにアインは強いわね。さて、次はタケルの話が聞きたいわ」

俺は、ゴブリンとオーガを倒した話しを始めた。


「なるほど、確かに2対1000ではそのような戦い方をするしかないか。それにしても、オーガよりゴブリンの方が大変だったか」

とダルニエル。

「ああ、オーガと言っても、1匹だったら大した事無い。それよりゴブリンだ、1対1を500回やっても負けやしないが、2対1000を1度にやれと言われてもな」

「そこで、2対20を50回とは、普通は思い付かないのではなくて?」

と女王が言う。

「あの時は、ゴブリンは500匹だと思って始めたからな」

「それにしたって、25回も繰り返すなんて発想がどこから出てくるのやら、いったいタケルの頭の中はどうなっているのだ」

なんだか、ダルニエルに呆れられてる。続いて、フェンリルの話だが、あれには秘密があるからな、どこまで話したものか。


と心配していたんだが、話の途中で女王が。

「タケルは空が飛べるのですか? しかも、ギルド職員の女性を抱きかかえて。まるで古の英雄のようですね」

なんだか、女王の瞳がキラキラしているんだが、まさかここで飛んでみせろとか言い出さねえだろうな、まさかな......。

「タケル、その魔道具はどこにあるのです? 大事な物なのでしょうから、王都に持ってきたのですか?」

「いえ、持ってきていませんよ。それに、あれはフェンリルに壊されてしまって修理中なんですよ」

「タケル? 本当の事は言ってませんね。まるっきり嘘と言う訳では無いようですが」

女王が俺を見つめる。なんだ? この人は嘘が見抜けるのか?

「はあー、中枢部分は肌身離さず持っています。あれはアーティファクトなんでね、盗まれでもしたら大変な事になる」

さらに、じーっと、まるで何でもお見通しですよと言わんばかりに。見つめる事に何か力が有るような錯覚をおこさせる。

「あー、壊れた部分は、材料さえあれば直ぐにでも作れます。今度作ってきます?」

「いいえ、そんな必要はありません」

俺がホッとしていると。続いて女王はとんでもない事を言い出した。

「コルデノ、タケルが指示する物を直ぐ用意してください。さあ、タケル、コルデノに指示してくださいな」

コルデノを見ると、諦めたように俺に頷いた。何てこったい。

「じゃあ、ちゃちゃっと作って飛んで見せればいいんですね?」

女王は。

「いいえ、わたくしを抱き上げて飛んで見せてください」

「は? そんな事出来る訳無いでしょう! なんて事を言い出すんですか! 陛下」

「陛下? 呼び方が違いますよ」

俺を遮って、睨みつける。なんだこの人すげえ可愛らしい睨み方なんだけど?

「えーと、エリアナたん? そんな事出来る訳無いでしょう」

「あー、そうですね。こんな格好で飛んだら大変な事になっちゃいますね」

と言って、自分の格好を見降ろした。謁見の間にいた時のドレスのままなんだ、大体にして格好が問題なんじゃ無い、いったい何を考えてるんだこの人は。

「そうですよ、そんな格好で飛べる訳無いじゃないですか」

「わかりました」

諦めてくれたのかと思ったが。

「乗馬服に着替えてまいりますので、その間に準備してくださいね」

そう言うと、さっさと城に入ってしまった。俺は、コルデノに促され、思わず材料を指示してしまった。コルデノが城に入ってしまうと、俺とケーナとダルニエルにターニャとファーシャが残された。

「なんてこった。ファーシャ、女王様ってあんな人なのか?」

「昔は、かなりのおてんばだったと聞いた事があります。タケル、諦めなさい。ああなったら誰にも止められません」

「タケル、陛下にお怪我などさせるなよ、くれぐれもよろしく頼むぞ。小さな傷一つ付けただけでも大事になる」

「ダルニエルそんなに心配なら止めてくれよ」

「どうやって止めると言うんだ? あのキラキラした目を見ただろ。無理だ、わたしにはできん」

「女王を抱き上げて飛んだりしたら、国の偉い人に怒られたりしないのかね?」

誰にともなく尋ねる。すると、ターニャが。

「大臣達に見られたら怒られるでしょうね。でも、侍女長に見つかったら刻まれちゃうんじゃないかしら」

俺は、両手両膝を地面に付いた姿勢を取ると。

「おーあーるぜーっと」


コルデノが用意してくれた材料を受け取り、とべーるくん3号を作り始めた。まあ、2号の反省点を踏まえて、改良を進める。作り直すたびに性能が上がるんだから、作っていても楽しいのだが、この後の事を考えると、そうも言っていられない。

「さーて、こんなもんか?」

ダルニエルが。

「ほー、これが空を飛ぶ魔道具か? まるで、タワーシールドのようではないか? タケル、こんな物が本当に飛ぶのか?」

ケーナは。

「大丈夫なの? 前に、タケル兄ちゃん未亡人製造機って言ってたよね?」

ターニャが。

「あなた、そんな危ない物に陛下を乗せるつもりなの?」

「なれねえ奴がやれば危ねえってことだよ。それより俺は、乗せたくなんかねえよ」

などと話していると。

「タケルお待たせしました。どうです魔道具はでき上がりましたか?」

そこには、ブラウスにベストと乗馬ズボン姿の女王がいた。俺の倍以上の年齢のはずだよな? しかし、嬉しそうな表情のせいか、日ごろのケアのせいか、そんな年齢だとは感じさせない。体型的には、アシャさんに近いかな? でも、身長は少し低目かな? ナイスなボディだと言わざるを得ない。

「まあ、出来ましたけど。本当に乗ります?」

女王は目をキラキラさせながら。

「もちろんです!」

「はあー、わかりました。ではこちらに」

とべーるくんの金具に両足を固定すると。右手を差し出す。女王はその手を握り俺に引かれて側にやって来た。

「では、失礼します」

女王を抱き上げる。うわ! 柔らかい、良い匂いもする。女王は俺の首に腕を回す。おー、こっ、これは密着度が増した。俺って、こんなに歳上でもいけるのか? いや、女王は特別若く見えるからいいのか? と言った考えを振り払うように1度頭を振ってから、膝を曲げ、軽くジャンプした。高度維持の魔石に魔力を流す。そして、ボードの進行方向とは逆に向けて風を一瞬だけ出す。そう言えばテストしてねえもんな。

「きゃー、進んでいますよ!」

しばらくそのまま進むと。

「さて、本番行きますよ。怖ければ目を瞑っていてくださいね」

「平気です!」

その言葉を聞いて、上昇用の魔石に魔力を流しボードのノーズを軽く上げる。リストバンドに魔力を流し、城の一番大きな尖塔を右手に見ながら緩い角度で上昇していく。

「タケル! 飛んでいますよ!」

更に上昇角度を大きく取り尖塔を回り込み、緩い螺旋を描き更に上昇していく。夕陽に染まる雲を頭上に頂き、水平飛行に移る。

「タケル! ご覧なさい、あんなに夕日が美しいですよ」

と叫ぶ。ゴーグルも作ればよかったかかな。

「下を見てください」

「うわー、高いのですね。城があんなに小さくなって」

しばらく高度維持しながらゆっくり飛ぶ。女王の目から一筋涙が流れ風に飛ばされて俺の頬を濡らす。

「王都はこんなに美しいのですね。美しい街です、美しい湖です、国を囲む山々も森も平原も全てが美しいですね。これが、わたくしが守らねばならない国なのですね。あそこに小さく見える家の一つ一つに家庭が有り、家族の生活が営まれているのですね。幸せを願って日々精一杯頑張っているのでしょうね。それが、このように美しく見せるのでしょうか」

「そうですね、そうなのかもしれません。これが、陛下の治める国です。ダルニエルが守らなければならない国です」

「ありがとうタケル、わたくしの我儘を聞いてくれて。この景色、ダルニエルにも見せてあげたいです。タケルどうですか? 出来ますか?」

「嫌です。この、とべーるくんには、女の子しか乗せませんよ。陛下は特別です」

「あら、わたくしは女の子では無いと? わたくし今は独身ですよ。それから呼び方が戻ってますよ」

「陛下、エリアナたんはもう勘弁してください。国の偉い人に聞かれたら、不敬罪で投獄されちまいます」

「ふふふ、仕方有りませんね。この美しい景色に免じて許してあげす」

「ありがとうございます。では、そろそろ城に戻ります。暗くなると危ない」

城に向かってゆっくり降下を始める。 

「名残惜しいですが仕方ありませんね」

城の中庭に戻ると、なんだか、人が増えている。とべーるくんのノーズを上に向け上昇用の魔石に魔力を流し、スピードを落とすと着地した。女王を降ろすと。増えていた人が慌てて近付き俺に声をかけてきた。

「タケル殿! 何て事をしているのだ。陛下も陛下です。空を飛ぶなど、何という危ない真似をなさるのか! もしもの事があったらいかがなさいますか!」

「もう、いいではありませんか。なんの問題もなくこうして戻ったではないですか」

「そう言う問題ではありません! 軽率な行動はお控えくださいと申しておるのです!」

女王は、両の耳を手で覆って、首を振りながら。

「あーあー、聞えません聞えません」

女王と大臣? の話を聞いていると。耳を引っ張られた。

「いてて」

振り向くと、そこには......鬼がいた。

「あなたは、陛下になんて事をするのですか!!」

鬼じゃ無く、般若かも知れねえ。

「なんて事と言われても、ただ飛んだだけだよ? それも好きでやった訳じゃねえし?......」

声が徐々に小さくなっていったのは仕方が無いと思う。

「口答えしない! そもそも、何ですかその喋り方は、陛下の前で乱暴な口調で喋らないで!」

「はあ」

「返事は、きちんとなさい!」

「はい!」

「シモーヌ、あまりタケルをいじめないでくださいな」

「陛下! まったく、子供では無いのです。おてんばでは済まされないのですよ」

シモーヌか、まさか彼女が侍女長か? 切り刻まれる前にと、ダルニエルを手招きし、とべーるくんの後ろに立たせ、前ならえのように腕を前に伸ばさせる。両の手首を掴むと。

「行くぜ! 落ちるんじゃねえぞ!」

声をかけ返事を待たずに、上昇用の魔石に魔力を流し飛び上がると。ノーズを上に向けリストバンドの魔石に魔力を長めに流す。急上昇していく俺の背中から。

「ぎゃーーー」

悲鳴が上がる。その声に驚いて空を見上げる人達を後ろに、さっきより少し暗くなった夕焼けの空を駆け上がって行く。水平飛行にし速度を少し抑えながら。

「どうだ、空を飛んだ感想は? 本当は男なんか乗せる気はねえんだが、陛下の頼みだ。2度とやらねえからな、よっく見とけよ」

「陛下が、この景色を見ろと? 美しい景色だな。しかし、これを見せたかった訳ではないな。何かを感じろと言うことか」

「さすがだね。女王が涙を流しながら、美しい国だと、小さな家一つ一つに住む家族が幸せを願って日々精一杯頑張っている事こそが、この風景を美しく見せるんだろうってさ。ダルニエル、あんたが守る国だ、あんたが守る人々が暮らす場所だ、最初で最後の飛翔だ心に刻んどけよ」

「おう!」

更に濃くなった、夕日の中をしばらく飛ぶと。

「タケル、ありがとう」

どんな想いがこもった、ありがとうなのだろう。俺はノーズを城に向け戻って行く。


テラスに戻った。大臣? と侍女長? はどこかに行ってしまっていた。俺達に向かって女王が。

「さて、ダルニエルとタケルの発表の日取りが決まったのよ。5日後に大広間で発表しますから、それまでは王都にいてくださいね」

「「はっ」」

俺達は返事をする。

「それから、タケル。ライトニングとディフェンダーですが、バラバラにしてもらっては困りますが、調べるのはかまいません。コルデノ、ダルニエルもタケルに便宜を図ってあげてくださいね」

「「はい、承りました」」

「ところでダルニエル。空から見た国はどうでしたか? 美しかったでしょ?」

「はい陛下、国のため、国民のため、先ほどの誓い必ず実行するとの想いを更に強くいたしました。陛下のお口添えにより、あのようなすばらしい光景を見る事が出来ました一生の宝といたします」

その後、晩飯を勧められたが、友達を待てせていると言って城を出た。今度はとべーるくんはちゃんと持ってきた。

「タケルにいちゃん、ダルニエルさんて、そんなに悪い人じゃなかったね」

「ああそうだな、あの時はよっぽど気持ちがおかしくなってたのかもな」

「そうだね、ダルニエルさんが言ってた友達ってどんな人なんだろうね、よっぽど大切な約束だったんだろうね。もう答えてくれないって言ってたけどどうしちゃったんだろうね」

「さあな、そこまで突っ込んだ話が出来るような関係になれば教えてくれるんじゃねえか?」

「そうだね」

「しかし、ダルニエルは最後までケーナたん、て呼んでたな。あいつロリコンか? ライのライバル登場ってか?」

「タケル兄ちゃん、今度会ったらもう止めるように言ってよ、恥ずかしいよ」

「どうしてだ? 可愛いって思ってくれてんだ良いじゃないか。ケーナが可愛いのは本当の事だ」

「それが恥ずかしいんだよ。あたし、可愛くなんかないよ」

「そんなことないぞ、ケーナはもっと自信を持っていい」

「そんな自信もてないよ」

などと話をしながら宿の入口をくぐると。

「何だか楽しそうですね」

「自分が、どれほど人に心配をかけたかなどわかっていないのだろうな」

「あれ? 美少女奴隷達はどうしたんだい?」

アシャさん、ガーネット、ヴァイオラが口々に話しかけてくる。

「たっ、ただいまー」

「ただいま」

「おう、タケルありがとうよ、儲けさせて貰ったぜ」

「本当に、予告通りだったな、狙ってたのか?」

「さすが、タケル殿ですね」

スナフ、バトロス、ヒースが声を掛けてくれたが、返事をする間もなく、とべーるくんをヴァイオラに取りあげられ、アシャさんとガーネットに両腕を抱えられ宿の奥の食堂に連行された。この前2人に抱えられたときとは大分扱いが違うよな。状況はそんなに違わねえと思うんだけどな。


「アダマンタイト40トンか。よくもまあ、そんな物をもらってきたものだ」

ガーネットが、あきれた口調で言った。食堂の床に正座しながら闘技場を出た後の事を話しているんだが、なんで食堂? なんで正座? 俺って食堂で正座するのこれで何回目だ?

「どっちかと言うと、金よりアダマンタイトの方が欲しかったからな。あれは、金を出せば手に入るって物じゃねえからな」

アダマンタイトの産出量はあまり多く無い。Aランクの鍛冶士にしか売らない上に、さらに鍛冶士1人に1度に渡す量も制限している。しかし、制限された量でもどこからも不満が出ないらしい。使い道があまり無いのだ。兜のシールドや鋼の鎧に色を付けさらに多少強度も上げるような使い方しかないんじゃないだろうか? 金持ちや見栄っ張りの領主が騎士団の鎧兜に色を付けたりするみたいだ。「どこぞの赤備え」とか「蒼きなんとか」とか二つ名的に使うために、鎧兜の一部や全部を染めるのだ。要は、俺が巨大ロボをアダマンタイトで作ろうと思ったら、普通にやったんじゃ何時になったら材料が揃うかわからないって事だ。

「今回が最初で最後のチャンスかも知れなかったんだ、確実に物にするためには勇者の装備だけじゃ足りないかもしれないからな。保険で王女達を奴隷にするって話をあそこでして、女王が何か手を打つのを待ってたんだ」

「ホントかねー。王女様達を奴隷にして、あんな事やそんな事をするつもりだったんじゃないのかい?」

ヴァイオラが言うと、ケーナが。

「アインがね、タケル兄ちゃんはヘタレだから、何にも出来ないって言ってたよ」

「あははは、そうかいタケルはヘタレかい。あははは」

「がははは」

「わははは」

「そこ笑わない! 人の事ヘタレとか失礼じゃないか」

アシャさんが。

「お二人ともとってもお綺麗ですものね。歳もタケルさんに近いですし、いくらヘタレと言っても何にもしないつもりだったって事は無いですよね? もし交渉が上手くいかなかったり、勇者の装備だけでアダマンタイトが貰えたらどうするつもりだったんですか? 女王様が王女達の自己責任だと言ったらどうするつもりだったんですか?」

アシャさんまでヘタレ呼ばわりかよ。

「そうなってたら、困ったと思う」

「困ったって、そんな事も考えずにあんな事やったんですか? わざわざ、王女様達を引きずり出して? 戦って倒しちゃいましたよね? 確かに昨日は無茶をするとは言っていましたが、無茶しすぎです! あの後闘技場から連れ出されちゃって、とても心配したんですよ。本当に心配したんです。本当に......」

アシャさんの瞳がうるうるしている。

「あの時も、最後には丸く収めるって言ったじゃないですか」

「何もかも自分の思い通りに行くとは限らないんですよ! 王城に連れていかれたんだろうとは思いましたけど、こうして無事に帰って来るまでどんな想いで待っていたかなんて、タケルさんは考えてもいないんでしょうね!」

アシャさんは、立ち上がると走って食堂を出て行ってしまった。唖然と見送ってしまった俺に、ヴァイオラが。

「タケル追いかけな。アシャに何かあったら許さないよ!」

俺は慌てて立ち上がると、痺れて上手く動かない足を引きずって、なんとか宿から出て辺りを見渡した。アシャさんは見当たらない。

「どっちに行ったんだ?」

慌てて食堂に戻ると、とべーるくんを掴みもう一度表に出ると、とべーるくんを装着し夜空に向けて飛び上がった。

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