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復讐になるだろ?

闘技場を出た俺達の前には、6頭立ての大きく立派な馬車があった。コルデノが俺達に乗るように促す。

「アインはどうすれば? こいつの体重は大人4人分は有るぜ」

アイン達なんて言うと混乱するよな。コルデノはターニャとファーシャに向かって。

「お2人は、あちらの馬車にお乗りください」

そう言うと、俺とケーナを促して馬車に乗せる。馬車の中には、1人の女性が乗っていた。どことなくターニャ達に似た年配の美しい女性がこちらを見つめている。さて、娘を奴隷にすると言った男に対しどのような感情を持っているのか、その穏かな表情からは窺う事はできない。俺達は座席に座る。

「こんにちは、タケルと言います。ご一緒させていただきます」

「こんにちは、ケーナです」

「あいんダヨ」

「フィーアです、こんにちは」

「はい、こんにちは、私はエリアナです。今日は久しぶりに面白い物を見せて貰いました。タケル殿は強いのですね」

コルデノが乗り込み馬車が走りだした。女王はエリアナとして俺と話をするつもりのようだ。だったら気が付かないふりするかな。

「いや、勇者も強いぜ、事前に準備していても最初の雷はやばかった。それに、アインがいなきゃどうなってたかわからない。まあ、腕や足の1本も斬るつもりでやれば勝てるけど、そこまでする勝負でも無かっただろ」

「あいんモ強イヨ」

「あら、そうでしたね。アインの強さには、驚愕しました。ゴーレムがあれほどの動きをすとは、まったくもって驚きです。それに、お喋りもできるのですね、魔法も使っていましたものね、これほどのゴーレムをタケル殿が作ったのですか?」

「はい、ゴーレム術とオートマタの技術の融合です。ちょっと変わってますが俺の1番最初の相棒ですよ。もっとも、この形になったのは1週間ほど前なんですけどね。それまではブラッドベアー型のストーンゴーレムでした。もっと強くなりたい、魔法を使いたいと言いましてね、作りかけだったこの体をアインにやったんだ」

「デモ、ますたーガだめだめダカラ、ゴ飯ハ食ベラレナインダヨ。マッタク困ッタますたーダヨネ」

「アインはご飯を食べるのですか?」

「アインお姉ちゃんは、ストーンゴーレムになれば食事が出来るんです」

「アインは、味覚は無いが、食感を楽しむために食事をするのが趣味なんだ、栄養にはならないがね」

「しゅっ、趣味ですか......」

エリアナが驚いているようだ。

「そう言えば、フィーアとは?」

「ああ、このゴーレムには2つの人格が入ってるんだ。戦闘用のアインと姿勢制御用のフィーアがね、戦闘用の方はストーンゴーレムとしても動ける」

「人格? ゴーレムでしょ?」

「ああ、俺が作ったゴーレムだ、でも、ちゃんとした意思が有るんだぜ、他に2人ゴーレムホースがいるが、1人は俺以外の人間を乗せることを承知しない、俺が言ってもだ。このアインだって、俺の言う事に同意できるから言う事を聞いているだけだ」

「そんなゴーレムを使ってるの? 危ないんじゃないのかしら?」

「まあな、そうとも言えるが、代わりに俺達に万が一の事が有って指示をする前に動けなくなっても、俺達を守ってくれる。......と思う」

「と思う、んですね」

「大丈夫ダヨ、あいん達ハますたータチガ大好キダカラネ」

「もし、暴れ出したらどうするんですか?」

「どうしようもないな。こいつフェンリルより強いからな。逃げちゃおうかな、な、ケーナ?」

「逃げちゃっていいわけ無いだろ。それに、アイン達が暴れるなんて絶対無いよ」

「ますたーヤけーなニ何カアッタラワカラナイヨ。あいんハ勇者デモ止メラレナイヨ。ふふふ」

エリアナもコルデノも平然としている。この人達なかなかの人物だな。

「フェンリルより強いんですか?」

「ああそうだ、俺はもう1回フェンリルとやりあっても負けねえけど、アインには勝てるかどうか分かんねえぞ」

「自分のゴーレムより弱いなんて」

「何言ってんだい、普通のゴーレム術師は自分のゴーレムに襲われたら、防ぎようが無いぞ?」

「それはそうかも知れませんが、普通は術師の言う事を聞かないなんて事は無いはずです」

「アイン達だって、言う事は聞くぞ、無茶を言わなければな。俺が命令したって、自分が大切に思っている人には絶対に危害なんか加えねえってところが違うだけさ」

「安心していいのか、安心できないのか判断に迷うところです」

「今日だって、勇者と手加減して戦ったじゃないか。俺の言う事を聞いてくれた証拠だ」

「それのどこが証拠なんですか?」

「ケーナが斬られた時に一緒にいたゴーレムは、このアインだ。アインはケーナを妹のように思って大切にしてる。自分が斬られた事は全く気にしてないが、勇者がケーナにした事を許しているかどうかは分からねえ。しかも、ケーナは俺には勇者に復讐なんてするなって言ったがね、アインには言ってねえんだ。この意味分かるかい?」

「ケーナちゃんの気持ちを、きちんと理解していると言う事ですね」

「そう言う事だ」

「よく分かりました。アインよろしくね、仲良くしてくださいね」

「ウン! モウ、友達ダゾ!」

「ええ、そうね。フィーアもよろしくね」

「はい、よろしくです」

「ケーナちゃんも、仲良くしてね」

「うん! よろしくエリアナさん」

「ケーナちゃんは、ケガはもう平気なの?」

「ケガはアシャ姉ちゃんが直してくれたからね、もう何とも無いんだよ」

「アシャお姉さん?」

「うん、やさしくて、ものすごーい美人なんだよ。凄いヒーラーなんだよ。蒼穹の翼ってパーティのメンバーなんだ」

「へー、そうなんだ。ところで、ケーナちゃん、ケーナちゃん達のパーティ名って何て言うのかな?」

「ファミーユだよ、家族って意味なんだ、タケル兄ちゃんが付けたんだよ」

エリアナが俺の方を見た。

「俺がケーナの後見人になって冒険者登録したんだよ。俺もケーナも身寄りが無いんでね。2人で家族になろうってさ」

エリアナが笑顔で。

「そう、いい名前ね」

ケーナが満面の笑みを浮かべて

「うん!」

「ケーナちゃん、さっきタケル殿が言っていた事は本当なの? 復讐はどこかで止めないと、何人もの人が死ぬ事になるんだって、自分のケガはもう何ともないんだから、ここで止めにするって。なかなかそうは言えないものよ、凄いのねケーナちゃんは」

「あたしは、凄くなんてないよ。父さんがそう言ってたんだよ」

「そう、お父様が、......そうですか」

「ところで、あの2人、タケル殿は契約奴隷にすると言っていましたが?」

「ああ、せっかく思い通りに動いてくれたんだ、手札として有効に使わせて貰う。さすがに本当に奴隷にしようとは思っちゃいない。まあ、引き取り手がいない時は......」

「いない時は?」

「どうしたらいいと思います?」

「ふふふ、自分から言い出したのでしょう? それに、あの子達は覚悟を決めていると思いますよ」

「奴隷を持つなんて考えた事もねえからな。困る」

「タケル兄ちゃん、困るんなら最初からあんな事言わなきゃいいじゃないか」

「ケーナ、その場の勢いってやつだ。あの時はああ言わないといけない気がしたんだよ」

「アシャ姉ちゃんにどんないい訳するのか今から考えておいた方がいいんじゃないの?」

「そうだよなー、あー、頭が痛てえ」

その時、馬車が止まった。コルデノが。

「お待たせいたしました。到着したようです。こちらからお呼び立てしておいて申し訳ございませんが、少々お時間を頂きたいのです。控えの間に軽食など準備させますので、そこでお待ちください」

「はい、ではそう「あいんモ、食ベタイゾ。庭ノ土ヲ貸シテ、後デ返スヨ」って言ってるけど、どうでしょう?」

エリアナが笑いながら。

「ふふふ、いいですよ。馬車から降りたら入口の横の土を使ってね」

「ワカッタゾ」

外からドアが開けられ、踏み台が用意されたようだ。コルデノが馬車から降りる。ケーナが続き。

「うわー、凄い! 立派な建物だね。まるでお城みたいだね、タケル兄ちゃん」

次に俺が降りる。

「正解、ここはアースデリアの王城だ」

「え?」

と言って、ケーナが固まった。後ろの馬車からターニャとファーシャも降りてくる。

「ココノ土ヲ借リテイイカイ?」

アインはマイペースだ。頷くコルデノを確認してから、フィーアはフェイス部分を開けゴーレム核を取り出した。腰から強化パーツを取り外し核と組み合わせて地面に置いた。アインが光を発し地面に穴を開けながらクマに戻った。黒板を宿に忘れて来たな、と思ったが。

「エリアナさん、ありがとうございますと、言ってます」

なるほど、フィーアが通訳するわけね。エリアナが。

「クマさんになると、アインは喋れないんですか?」

「ああ、普段は黒板を使った筆談になるが、カタカナしか書けないから結構読みにくい。今日は宿においてきちまったんだ」

「では、部屋に案内させていただきます。こちらへ」

エリアナと別れ、俺たちは案内されるまま、城の廊下を進んで行く。城の中は華美に過ぎてはおらず、趣味の良い調度品で飾られている。しばらく歩いて立派な部屋に通された。謁見に来た者達の待合室の1つなのか?

「では、こちらでしばらくお待ちください」

そう言って部屋を出るコルデノを見送る。ケーナは立派な部屋に驚いているようだ。俺はソファーに座ると。

「ケーナ、ボーッとしてないで、座って休め。今から緊張してたらこれから大変だぞ」

みんなでソファーに座る。

「ターニャもファーシャも、何だか落ち着いてるな。このままじゃ、俺の契約奴隷だぞ。べつに、泣きわめかれたり、魔法で攻撃されたりしたい訳じゃないんだけどさ、何だか不自然だよな?」

ターニャが。

「闘技場でタケル殿が言ったとおり、あそこで介入してしまった行動の責任は自分達で取るべきだと言うことね」

ファーシャが。

「それに、タケル殿達の会話を聞いていると、契約内容にそれほど無茶な条件が入るとも思えなかったと言う事もあります」

「マスターは、基本的に女の子に弱いからね、こんな事や、そんな事、ましてやあーんな事は出来ないってことさ、ヘタレだね。ってお姉ちゃんが言ってます」

「こんな事やそんな事やあーんな事ってなんだよ。なんの事を指すのか良く分からねえよ! それに、ヘタレって失礼だろうが!」

「タケル兄ちゃんって、ヘタレ?」

「だーー、ケーナ何てこと言うんだよ。女の人と付き合った事が無いから、そう言った事に不慣れなんだよ、これからだよ、何もかもこれからなんだよ!」

俺の心からの叫びを無視するように、ファーシャが。

「ケーナちゃん、あっ、ケーナちゃんでいいかな?」

「うん」

「わたしの事はファーシャって呼んでね。あの時はごめんなさいね、ダルニエルを止められなくて」

と言うと。

「私の事はターニャ呼んで。本当に、無事でよかった」

「アインが止められなかったんだから、ファーシャ姉ちゃんやターニャ姉ちゃんに止めるなんて出来なかったよ。ケガはアシャ姉ちゃんが直してくれたからね、もう何とも無いんだよ」

ファーシャが確認するように。

「アシャお姉さん?」

「うん、やさしい姉ちゃんだよ」

その時、部屋がノックされ。

「失礼いたします。お待たせいたしました」

コルデノと一緒に侍女が数名ワゴンを押しながら入って来た。

「急がせましたので、このような物しか用意できませんが、ご容赦ください」

そう言ってテーブルに並べられた料理は、ケーキ、クッキー、サンドイッチにスコーン等の軽食と飲み物だった、いわゆるアフタヌーンティに出される軽食のようだ。俺は、頭を下げ。

「ありがとうございます。作法など全く知らないので、見苦しい点あるかと思いますがご容赦ください。さあ、ケーナも腹が減ってるだろ? いただこう」

「うん、見た事も無い料理だよ、綺麗だねー、食べちゃうの勿体ないね」

「料理は、食べてもらうために有るんだよ。美味しく食べてあげないといけないよ。いただきまーす。ってお姉ちゃんが」

さっそく、アインが食べ始める。つられて、ケーナもスコーンに手を伸ばす。

「ケーナ、スコーンにはそのジャムかクリームを付けるんだぞ」

俺は、サンドイッチを摘んで食べ始める。ケーナはジャムを付けたスコーンを食べ始めるが、おしとやかに食べている。ここで、からかうとロクな事にならないから、大人しくしておこう。

「ターニャとファーシャもどうだ? 俺達だけじゃ食べきれない。残しちゃ勿体ない」

ターニャは。

「私は、さすがに食べる気分じゃないわ」

ファーシャが。

「私もです、それに、残らないんじゃないでしょうか?」

みると、ケーナの食べるペースが上がっている。さすがにハムスターのようにはなっていないが、それにアインが凄い勢いでクッキーを食べている。

「ははは、そうだな。どうだ、ケーナ美味いかい?」

「うん、美味しい。初めて食べる物ばっかりだけど、みんなおいしいね」

「そうだな、美味いな」

「ごちそうさまでした。土を戻してくるね。だって」

アインとフィーアが立ち上がって部屋を出て行こうとする。

「あ、誰か付いて行ってやってくれませんか。城の中を勝手に歩くのは不味いでしょうから」

すると、侍女の1人が、一緒に部屋を出て行った。

「マイペースですね」

とファーシャ。俺は。

「まあね」

と答え、俺とケーナも適当に切り上げる。直ぐにアイン達も戻ってきた。

「くっきーガトテモ美味シカッタヨ。こるでのサンありがとー」

「ご満足いただけたようでなによりです」

そこに、新たに侍女が現れコルデノに何やら話している。

「準備が整いましたので、こちらにおいで下さい」

「あ、武器はここで預ければいいのかな?」

「そうですね、ここでお預かりいたしましょう」

俺達は武器を置いて部屋を出た。


それほど歩く事も無く目的の部屋に付いたようだ。いわゆる謁見の間と言ったところなのだろうか。

「どうぞお入りください。中央よりやや前方でお待ちください」

俺達は部屋に入り言われた通りの場所でケーナを真ん中にして、右側にターニャとファーシャ左側に俺とアイン達と並ぶ。部屋の中には貴族と思われる人々、武官に文官、更に護衛の騎士達と結構な人数がいる。俺達の入室を待っていたのだろう。

「女王陛下のご入場です」

さっき闘技場でしたような礼を取る。作法なんか知らないので、これしかやりようが無い。少し待つと女王から声がかかる。

「タケル殿、良く来てくれました。顔を見てお話しましょう。皆も楽にしてください」

俺達は立ち上がる。そこには、エリアナが玉座に付いていた。王女は俺を見つめて話しだした。

「タケル殿、災害級の魔物の暴走を治め、更にフェンリルの討伐と二度に渡り国の危機を救ってくれたこと礼を言います」

「ありがとうございます。偶然出くわした魔物達を倒しただけですが、この国の平和に貢献できたのであれば幸いです」

「倒しただけですか。ふふふ、アレをただ倒しただけと言える。お強いのですね」

「いえ、魔物の暴走は倒しやすい状況がそろっていましたし、フェンリルは偶然の要素も大きかったものですから」

「そうですか、ガーゼルの街に偶然あなたがいた事に感謝しなければいけませんね」

んー、あそこに俺がいた事は偶然なのか? アレを治めるためにあそこに居なければいけなかったのだろうか。だとすれば、誰が俺を送り込んだんだ?

「フェンリルバスターの発表に付いては、春の叙勲式に行う事になります。春にまた王都に来てください。様々な花が咲き乱れて今より華やかになりますよ」

「はい、華やかな王都今から楽しみです」

「ケーナ、あなたも是非来てくださいね」

「へっ、ひゃっ、ひゃい!」

女王を見て驚いていたところに、突然声をかけられ慌てたのだろう。声が裏返ってる。

「タケル殿、硬い話し方はここまでになさい。ここからは普通に喋って欲しいの、今の話し方では本当の気持ちが見えてきません。先ほどの闘技場ではこんな風ではなかったでしょう?」

「本心を隠すための口調では無いのですが、陛下がそうしろとおっしゃるなら、普通に戻させてもらおう。妹の前で格好付けたかっただけだしな、それもこれ以上はもちそうにない」

「ふふふ、そうですか、妹の前だからですか。ふふふ、面白い人ですね」

「で、本当の気持ちを見たい話ってやつは、今から始まるのかな?」

「ええ、そうです、これからが本番です。さて、貴方が今回の勇者ダルニエルとの勝負で得たライトニングとデフィフェンダーは国からダルニエルに貸与していたものです。本来他人に渡して良い物ではないのです。それについて、貴方は知っていたようですね。ついては、所有権を放棄して欲しいといったらどうです? もちろんただでとは言いません。元々、スキルに勇者が無ければただの剣と鎧です。あなたには使えないのですよ」

「あの剣と鎧は是非欲しい。放棄なんて勿体ない事は出来ないな。俺には使えないと言ったが、そうでもない、要は使い方さ。それに、あれオリハルコン製だと思うんだ、あれをただの剣と鎧とは言えない」

「使い方ですか?」

「ああ、俺は鍛冶士兼魔道具職人もやるんだ。あいつをバラして、調べつくして、たとえ劣化版だとしても誰でも使える物が量産出来れば、買い手には困らないだろうと思う。アースデリアの騎士団の装備だって、そいつに切り替わるかも知れないぜ」

周りにいる貴族達からちょっとしたどよめきが起きる。顔をしかめる者が多くいる。まあ、そうだろうな。

「なっ、あれは国宝とまでは言いませんが、国の大事なものである事に変わりは無いのです。バラされたりなどされては困ります」

貴族達も大きく頷いている。

「タケル殿は魔法剣を作れるのですか?」

「ええ、俺が使っている剣も、アインの装備している剣も魔法剣と言えなくは無い。さっき俺が勇者を叩いた時に使ったように、魔力を流すと物が斬れなくなる魔法剣だよ」

今度は貴族達の失笑を買った。切れない剣に価値などないってところか? なるほど、だから、物理障壁をキャンセルする方法が広まっていないのか。

「街中でグレートソードを振りまわす酔っ払いを取り押さえた事が有るんだ。殺さずに捕らえなければいけない場合などには便利だな。技量が圧倒的なら、出来なくもないだろうが、そうでない場合は難しい。だが、こいつを使えば、普通にぶん殴ればいいんだ楽だろ?」

「なるほど、生け捕りにする事で情報などを得られると言う訳ですね」

「そういった使い方もできる。アインの使う剣は逆に、魔力を流すと切れ味が増す魔法剣だな、あれならオリハルコンの鎧も斬れる。もう一工夫すればディフェンダーだって斬れない事は無い。勇者に嘘は言ってない」

今度はまたどよめきだ。何とも忙しい貴族様達だな。

「と言った訳で、使い道が有るんだ。なにも勇者や国への嫌がらせで、貰うと言う訳じゃない」

「どうしても、返して欲しいのですが、代わりの物で手を打つ気はありますか? 勝てばこんな話になるのはわかっていたでしょ? どうせ何か考えているのでしょう?」

「まあ、おっしゃる通りなんだけど。その前に、勇者がなぜ俺に勝負を挑んだのかが知りたい。たしか、俺を倒せば国公認になれるような事を言っていたと思う。まあ、あの時はまともに取り合う気が無かったから記憶違いかも知れないがね、それから、勇者を呼んで欲しい。城に居るんだろ?」

「分かりました、ダルニエル殿を呼びなさい」

直ぐにダルニエルが謁見の間に来て、挨拶をすると俺達の脇に並んだ。

「では、質問に答えましょう。彼はギガントバスターズです。勇者スキルを持っているのですからそれで国公認の勇者としての資格は十分だと言えます。彼を国公認とする議題も話し合われる会議が開催される直前の事だったのですよ。タケル殿が災害級の魔物の群れを1人で倒してしまったとの情報が入って来たのです。その会議で議員の1人がガーゼルの英雄より功績が劣るようでは国公認として相応しくないと言い出したのです。会議がそういった流になってしまって、次回に持ち越しになっただけなのです。タケル殿を倒す事を条件にとの話など出なかったのです。しかし、ダルニエル殿にタケル殿より功績が劣っている、タケル殿より強い事を証明しなければ勇者には出来ない。といった意味のことを告げた者がいたようなのです」

「誰だそいつは、人迷惑な奴だな! そいつのおかげで、勇者がガーゼルに来て、ケーナを殺しそうになったって訳か」

俺が周りの貴族を見渡すと、俺から目を逸らす貴族が何人かいる。彼らが勇者を公認に反対したか、勇者をそそのかした奴か。

「つまり、勇者は国公認になるだけの能力は認めれれているって事でいいのかな?」

「そうですね、その通りです。ただ、今日あなたと戦ってあんな結果になってしまいました。少なくともしばらく国公認の勇者にとはいかないでしょうね」

「なるほど、了解した。じゃあ、さっきの返事だが、欲しい物と、やって欲しい事が有る。そいつが認められるなら、剣と鎧は諦めてもいいかな」

「まずは、欲しい物からお聞きしましょうか?」

「アダマンタイト40トンですね」

「アダマンタイトをそんなに......。国の保有量を調べてください」

その言葉で、文官の1人が謁見室から出て行った。

「しばし、中座させていただきます。許可をいただきたい」

1人の貴族が王女の許可を得て退出した。 

「タケル殿、それほどのアダマンタイト。何に使うのですか? 鍛冶士兼魔導具職人と言っていましたね。アダマンタイトはAランクの鍛冶士でないと扱えないはずですが?」

「最近Aランクになったんですよ。こう見えて、超一流の鍛冶士なんですよ俺。でも、アダマンタイトを買える量には制限が有るんでね。流通量にも限りが有るし」

俺がそう言うと。貴族の1人が。

「女王様、発言をお許しいただけますかな」

「ガンドロク殿か? ドワーフであり国の鍛冶の長であるあなたの意見聞かせてくださいな」

「ありがとうございます。なあ、タケル殿、鍛冶ランクAで超一流とは、ちと言いすぎではないか? 確かにその若さでAランクとは大したものだ。増長する気持ちは分からんでは無い。しかし、ガーゼルのギルドマスターは、ドルクだったか。奴めモウロクしたのか? Aランクとはそれほど簡単になれる物では無い」

「そうかい? これでも、控えめに言ったんだけどな。ダイロックさんは、あれができれば世界一の鍛冶士と言われる事は間違いないって言ってたんだぜ」

「なに? そう言えばダイロックは今ガーゼルにいるのだったな。奴とは親友なのだ、あいつは簡単にそんな事を言うような奴ではない」

へー、ダイロックさんの親友かー、だったらいいかな。

「陛下とガンドロク様以外には、言いたくないんだけど。話を広めるかどうかはガンドロク様にお任せします。陛下、この場で内緒話ってしてもいいですかね? 陛下にはガンドロク様から話してもらうって事で?」

「ええ、構いませんよ」

ガンドロクが俺の側にやって来た。俺は小声で。

「ギルドマスターは、定期的に納品してくれれば秘密にしてくれるって言ってたんだ。そこんとこよろしくな」

そう言って、今モデリングで先端を丸くした棒手裏剣を手渡した。怪訝な顔で受け取るガンドロクに。アインの腹を指差し。

「まずはそいつで、軽く押してくれ、その後に素早く突いてみてくれ」

なにか、閃くものが有ったのか、真剣な顔で俺に言われたとおりにしてくれた。そして驚愕した顔を俺に向ける。

「タ、タケル殿」

続けて何か言う前に、俺は自分の口に立てた人差指をあてた。ガンドロクは頷くと。女王に向き直り。

「陛下、失礼いたしました。がはっはっはは。いやー、タケル殿申し訳ない。先ほどの暴言を許して欲しい。」

女王は怪訝な顔をして。

「ガンドロク殿?」

「うむ、Aランクならば、アダマンタイトを扱うには十分な腕前であると言えますな。いやー、モウロクしたのはわしの方ですかな。鍛冶の腕前と歳や見た目には全く関係など無いというのに」

そう言って、元いた場所に戻った。戻る前にニヤリと笑って、俺に小声で。

「仕事をほおり出して、タケル殿に弟子入りしたいところだが、そうもいかんな」

と言った。そこに、先ほど部屋を出て行った文官と貴族が戻って来た。

「陛下、ご報告いたします。我が国のアダマンタイト保有量はおおむね25トンです」

貴族が。

「陛下、発言をお許しください」

女王が頷くと。

「我が、シュバルリ領の保有量は15トンです」

女王が俺を見て。

「タケル殿? 初めからこちらを狙っていたのですね」

「さあ、何の事でしょう?」

「さて、40トンのアダマンタイト、ライトニングとディフェンダーに見合う物でしょうか? 少し高すぎはしませんか?」

「高いか安いかは、勇者に決めて貰えばいい。装備は国に返すのではなく勇者に返す。勇者にアダマンタイトを貸すかどうかは国の判断だ。俺の希望としては、そこの狂犬に首輪を付けてくれるとありがたいんだがね」

狂犬と言う言葉に勇者が反応し、ピクリと動いたが何も言わずに前を向いたままだ。

「勇者と話したい。こんな場所だが、本音が聞きたい。あんた、どうして国公認の勇者になりたいんだ? 名誉が欲しいのか?」

「ダルニエル殿。発言を許します、本音で話しなさい。どのような話であろうと、タケル殿と話した内容であなたの立場を不利にする事はいたしません」

女王が勇者を促した。勇者は前を向いたまま話始めた。

「名誉は後から付いてくる物だ。そんな物が欲しい訳ではない。友に誓ったのだ、私が勇者スキルを持っているとわかった後でも、それまでと態度を変えずに接してくれた親友と約束したのだ。歴代一の勇者になるとな。その為の通過点だ、まずは国公認の勇者にならねば先に進めん」

「歴代一の勇者か、あんた随分と無茶な約束をしたもんだな。何をもって一番とするんだ? 魔物の討伐数か? それともドラゴンでも倒すか?」

「わからん! あいつはもう答えてはくれない! その答えを見つけるためにも国公認の勇者にならねばならんのだ!」

「ふむ......」

今の話を聞いて元々の計画を少し変更する事にする。

「陛下、では、ここからが、やって欲しい事の話だ」

「はい、やって欲しい事とはなんですか?」

「ああ、勇者を国公認にする話だ、もう一度検討して欲しい。と言うか、勇者の事を正当に評価して欲しい、少なくとも俺がやった魔物の討伐と比較するのは止めてくれ、機会があったら、同じ事が出来たかも知れないんだ。競争してた訳じゃねえんだし、俺は勇者じゃねえんだから、比較する意味が無い」

謁見の間にいた者達全員が息を呑む。勇者は驚いた顔で俺を見る。貴族の1人が

「何を言うのだ! 国の事に部外者が口を出すな!」

「私は、お前に敗れたのだ、国公認になどなれるはずが無かろう」

「国の事だか何だか知らねえが、その部外者の俺がやった事を持ちだして、俺を巻き込んだのはそっちだろうが。」

女王が。

「タケル殿どう言う事なのか、説明してください。あなたが、ダルニエル殿を国公認の勇者になどと、どう言うつもりですか?」

「闘技場でも言ったが、このケーナに復讐は止めろと言われた。だから、剣で勇者を傷つけるつもりは全く無い。でもそれは、妹を傷つけられた怒りまでも忘れた訳では無いと言う事だ。復讐は別の形でやらせて貰う」

「ダルニエル殿を国公認にする事のどこが復讐なのですか?」

「復讐になりませんかね? 俺は十分復讐になってると思うぜ。自分から仕掛けた勝負で勝てなかった相手の進言で国公認の勇者になり。その人間のいる国で勇者をやってもらう。国からアダマンタイト25トンを借り受け、これからしばらくは、国の飼い犬として首輪を付けられおしとやかにふるまって貰う。俺との勝負に負けた勇者として自分を見る国民の目に耐えてもらおう、手だしはするなよ。ケーナがした程度の無礼は寛容に許してやってくれ。品行方正で高潔、弱い者にやさしく不正を許さず、お前さんの親友が願った、勇者ってやつはきっと素晴らしい勇者なんだろ? これから歴代一の勇者として実績を示し続けてもらおう!」

勇者が驚いた顔で俺を見ている。部屋中の人間が驚く気配が伝わる。女王の方を向き。

「俺が出す条件は勇者を国公認にしろって事じゃねえ。元々、国公認の勇者としての資格は十分だったんだろう? 俺がやった事と比較するんじゃ無く、勇者の業績そのものを評価してくれ。国で一番強くなければ、国公認の勇者になれねえのかい? 勇者の師匠ってもう死んじまってるのか? そいつに勇者は勝てるのかい? 俺なんか師匠に一度も剣を当てる事は出来なかったぜ。たった1年前に死んだ老人にだぜ? それに、俺だって、この国で一番強いって訳じゃねえはずだ。勇者だってそうじゃねえのか? そこはこれからの頑張り次第だろう。聞いてくれるなら、ライトニングにディフェンダーそこに、ターニャとファーシャも付けて返そうじゃねえか。どうだい? アダマンタイト40トンに見合わねえかな?」

女王はほほ笑むと。

「いいえ、ライトニングとディフェンダーと王女達に見合う対価でしょう。しかも、国公認の勇者が国のため弱き国民のために心を砕き働いてくれると言うのであれば安い物でしょう。幸いここにはあの会議の議員が全員そろっています。どうでしょう、皆さんダルニエル殿を国公認にする事認めて宜しいでしょうか? 遠慮はいりません意見を述べてください」

シュバルリ公爵が手を上げ発言を許される。

「タケル殿に破れた勇者が国公認となれば、周りの国から侮られるのではないでしょうか? そうなれば攻め入ってくる事も想定されます」

王女が。

「今まで国公認の勇者はいなかったのです。それでも攻めてくる国は有りませんでした。それに、今のアースデリアには、フェンリルバスターのタケル殿もいるのです。春の叙勲を待たず、早々に発表してしまえばよいのです。そうなれば、国の護りが弱くなったといった印象を与えることは無いでしょう」

女王は勇者を見て。

「ダルニエル殿、今のあなたの評価は言わばマイナスの状態です。まず、これをゼロに戻す事から始めなければいけません。ケーナに斬りつけたと聞きましたが、これからは自重しなさい。国民に対し慈愛の心を持ちなさい。タケル殿の言う歴代一の勇者を目指してみますか? 歴代一とは今代の人々が決める物では無いのですよ。後代の人々が決める物です。タケル殿のおっしゃる歴代一の勇者とは決して追いつけない影のようなものです。歴代一の定義など無いのです。答えの出ない問いかけの答えを探して一生を棒に振るかもしれません。その覚悟が有りますか?」

「はい、陛下のお言葉を心に刻み努力いたします」

「では、あなたは今からアースデリア王国公認の勇者です。国民のため励みなさい」

「はっ! 拝命いたします」

よし! アダマンタイト40トン!! さーて、みんなにどう説明しよう。俺は、頬を膨らませたアシャさんの顔を思い出した。胃がキリキリするような気がする。 

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