さあ、クエストの時間だ
初めての戦闘シーンと言えるほど、大したものではありません。
1の鐘がなる前に目が覚めてしまった。
「初クエストを前にワクワクが止まらないってか?」
「ファンタジー物の定番だと、薬草採取ってことなのかな?でも、森の浅い所にあるような薬草を人を雇って取って来させるもんか?とは言え、深いところの薬草じゃ初心者クエとは言えないしなー」
「それとも、ゴブリン退治か?」
「やっぱりワクワクしてきたぞ!」
独り言の癖ってなんか、むなしい。
そうこうするうちに1の鐘が鳴った。
部屋を出て、朝飯を食べ、宿をあとにした。朝飯の内容については、普通すぎるとだけ言っておこう。
卵は高級品なのか付かなかった。
冒険者ギルドに入ると、掲示板の前は結構混雑しているが、FとGクラスの前はそこまで混んではいないようだ。
「何かいいのないかな?....よくわからん」
受付で聞いてみよう。
昨日、登録してくれた職員さんがいたので声をかけてみるか。
「おはようございます。」
「おはようございます。いよいよ今日からクエストですね」
「はい、そうなんですが、掲示板見てもよくわからなくて、なにか、お薦めのクエストってありますか」
職員さんは、ちょっと考えると。
「タケルさんは剣術がお得意なようですから、討伐系のクエストはどうでしょうか」
「動物や魔物を殺したことはありますか?」
「魔物は無いですね」
「では、慣れる意味でゴブリンなどどうでしょうか、Fクラスなのであまり依頼料は高くありませんが、小さな群れで行動するので油断すると危険です」
「1匹の戦闘力は高くないようですよ討伐証明は右耳です」
「なお、素材は魔核くらいですね、どんな魔物にもありますからね、もっとも弱い魔物の物は小さなものなので魔石にしかなりませんから、こちらもあまり高くはありません。」
「魔核ですか」
「はい、魔物の心臓に食い込むように付いています。これはどの魔物でもほとんど共通の特徴ですね、強い魔物の魔核は魔結晶に加工できますので、こちらはかなり高額で買い取ることができますよ」
「ゴブリンだと5匹単位の討伐ですが500イェン、魔核は5個で50イェンですね」
安いな、油断すると危険な魔物なのにこの値段って。
「安いんですね、1日10匹倒さないと、宿にも泊まれないんですね」
「ゴブリンは繁殖力が高くて、街からちょっと離れるといくらでもいますしね、畑を荒らすのでほおっておくわけにもいきませんし、高ランクの冒険者は見向きもしないので初心者が数を倒してくれないと、大変なことになってしまうんですよ」
「なるほど、では、それを受けます」
「ゴブリン討伐は、依頼票は出ていないので、事後報告でいいですよ」
「わかりました、ありがとうございます」
俺は、ギルドをあとにした。
昨日街に入った門を出て南に向かう街道を少し歩き、道から外れてゴブリンを探してみる。
「.....そう言えば、ゴブリンってどんな魔物なんだ?」
姿形がわからないでどうやって探すんだ俺....。
「ゲームや小説のゴブリンと同じようなら、体は小さく肌は緑色か茶色、醜い顔つきで小さな角が生えてるって感じかな.....そうそう、あんな風に.....って、あれか?あれなのか?!」
右手に見える深い藪の中から、身長130cm程で、肌はくすんだ緑色、額に1本の短い角を生やし、手にこん棒や錆びた剣を持った5匹のゴブリン?が現れた。
向こうも俺に気が付いたようだ。
「ゴブ!」
と吠えて、得物を振り上げこちらに向かって駆けだした。
「あの見た目なら、ためらわずに殺れるかな」
しかし、『ゴブ!』って吠えるのか.....捻りがないな。
俺は、刀っぽい剣を引き抜くとゴブリンを迎え撃つことにする。
ゴブリンは、戦術も連携も無く、ただバラバラに掛かってきたので、前に出ながら手前の奴から順番に切り倒していく。
「ゴb」「ゴブ!」「ゴブッ」
すれ違いながら次々に3匹を切り倒し
「ゴブ!」
振り向きざまに1匹、それを見て逃げようとする奴を背中から切り捨てた。
「ゴッブ」
返り血も浴びることなく、文字どおり秒殺した。
「人型の生き物を殺すのは初めてだけど、特に嫌悪感とか湧かないもんだな、切られる時も『ゴブ!』って吠えるのな」
「さてと、討伐証明と魔石だっけ、あ、魔核か」
俺は、まわりを警戒しながら、1匹目の討伐証明の右耳を切り取ると魔核を取るために胸をナイフで切り裂いた。
このナイフと証明部位を入れる袋は、初心者冒険者お勧めセット(1000イェンなり!)に入っていたもので、他に素材を入れる大きめの袋と、ロープ、水筒が入っていた纏めるとちょっと大きめのウエストバックのように腰に付けることができるものだ。
魔核を取り出すと、ゴブリンは溶けるように消えてしまった。
「え?....魔核を取ると死体は残らないってことか」
「魔核を取る前に素材を取らないとダメってことだな」
「手に付いた、血は消えないんだ、不便だな、体から離れてると消えないってことか、討伐証明や素材は残るんだから当り前か」
魔核とつながっていた部分は消えるってことだな。
それから、昼過ぎまで草原や森の浅い部分を探しまわってゴブリンを狩りつづけた。
「さて、今日はこの辺で勘弁してやる!はははは」
戦闘しすぎでハイになってるわけではない、ゴブリンを倒すのに躊躇いがないことがわかると、狩りと言うか刈りと言うかな状態になってしまい、飽きてしまって無理やり気分を盛り上げていたんだ。
「昼飯も食わずにひたすら狩りしてしまった、腹が減ったなー、もう戻ろうかな」
街に戻って、門の兵士にカードを見せ街に入る。
「なんだか、いい匂いがするなー、串焼きの肉かちょっと、食ってみるかな」
肉の串焼きを売る店の1軒によって。
「おっちゃん串焼きいくら?」
「おう、1本30イェンだよ!」
威勢よく答えが返ってきた。
「3本ちょうだい」
「まいど!」
ぱくぱく、むぐむぐ、もぐ。
ギルドに向かいながら串焼きを食べる。
「かなり、うまいな~、何の肉なんだろ?」
「豚とは違うし牛でもないな」
「もっとも、肉なんてスーパーで売ってるやつ以外は.....普通は知らないよな、俺は色々食べてるけど」
ギルドの裏口から入って係員にカードと討伐証明と魔核を出したら驚かれた。
「6050イェン.....55匹かー、ゴブリン専門で狩っても十分暮らして行けるような行けないような微妙な稼ぎだな」
そこいらじゅうにいたから、手当たり次第に狩ったしな、当面はこれ専門でもいいかもな。
安全確実に稼げるからな、異世界だし、ムチャクチャ強い魔物とかもいそうだしな。
ん、無理はいかんよな。
(もうすでに、新人が無理して討伐をしているように周りが見ていることに気がつくのは、もう少し先のことになる。)
宿に帰る前に、武器屋とか雑貨屋とか行ってみるかな。
よし、雑貨屋に行くことにしよう。
ポーション的な何かを買っておくのも必要だしな。ケガし戦闘継続力が落ちたら、即自分の死につながるような世界だもんな。
ギルドで紹介された、冒険者用の雑貨屋に入ると。
「いらっしゃいませ~」
キタ~~~。
まさにキタ~!ってのはこのことだ、店員さんが女の子だ!女の子ですよ!.....この世界に来て初めて女の子と話ができるよ!
「なにかお探しですか?」
女の子が怪訝そうな顔で。
「.....あのー」
はっ、意識が飛んでいたぞ。
「えーと、ポーション的ななにかを...」
ポーションで通じるのか?
「ポーションならこちらです、ライフ、スタミナ、マナの弱から中ランクまでしか扱ってませんけど」
初めて女の子と会話する機会だったから、頭の中が『女の子だ―』状態だったが、可愛いが、可愛すぎるが、よく見ればこの子、12才くらいじゃね?....俺の心はどれだけ乾ききってたんだ、ロリ属性は無いからな俺は、どちらかと言えばお姉さんタイプの方が....ゲフゲフ。
「えーと、昨日この街に来て冒険者になったばかりなんだよ、どんなポーションを買えばいいんだい?」
「そうですねー、剣を下げていらっしゃるので、魔法使いではないですよね?ライフポーションと、スタミナポーションでしょうか、ライフポーションには、飲んですぐに回復するけど、あまり大きく回復しない物と、じわじわ回復するけど回復量の多い物とがありますよ」
「すぐに回復するってやつは、戦闘中でも使えるくらいなのかい?」
記述魔法のヒールで戦闘後の回復はできるし、戦闘中に使えるポーションで決まりだよな。
「はい、冒険者の皆さんはそのように使ってくれているようです」
そこで、女の子は躊躇いながら。
「でも、すぐ効くタイプの物はちょっと......」
「在庫ないのかい?」
「いえいえ、在庫はあるんですが」
「高いのかい?予算は3000イェンくらいだけど」
「それなら、弱ポーションなら3本買えますけど」
何だか、煮え切らないなーと思っていると。
「.....んです」
恥ずかしそうに話すのは可愛いんだけど、小声で聞き取れない。
「え?」
「不味いんです!、とても不味いと評判なんです!」
なろほど。
「命には代えられないから、効果が確実なら仕方ないよね」
「ケガをしたことを、心の底から後悔するくらい不味いですよ」
「えっと、これからはケガをしないように気をつけるようになるって効果もおまけで付いてくると思えばいいのかな?」
すると、女の子は顔を輝かせて。
「はい!そうですよね!そう考えれば良いんですよね!」
「あ、でも、そうすると、あたしが作ったポーションが売れなくなっちゃう....」
「え?君が作ってるのかい?ポーションを?」
「あー、子供だと思って馬鹿にしてます?まだ、弱ポーションしか作れませんけど、あたしが作ってるんですよ」
ちょっと、むくれた感じも可愛いなー、妹がいたらこんな感じなのかな。
「いやいや、こんなに小さな子が弱とはいえポーション作れるなんてすごいって思ったんだよ!ほんとだよ!馬鹿になんてしてないよ!そう聞こえたんならあやまるよ!」
なんだか、必死に弁解してしまった、なにしてんだろ俺って。
「小さい子って、あたしもう12才ですよ」
さらに、むくれてしまった。
ちなみに、この世界では12才ってのは働き始める年齢だそうだ。
「ごめんごめん、友達にもよく言われるんだよ、俺は人を見る目が無いってさ、悪気は無いんだ、ほんとにごめんよ」
すると、むくれた顔はどこえやら、可愛い笑顔になって。
「ふふふ、お兄さんいい人ですね、冒険者って荒っぽい人ばかりだと思ってました」
そうさ、どうせいい人で終わるタイプさ.....。
「....じゃー3本もらおうかな」
「どこのどいつだ!うちの可愛い娘を口説いてるのは!」
「うわー、ちがいます、口説いてなんかいません、可愛い子だなーとは思いましたが口説くなんてとてもできません!」
後ろから、厳ついおっさんに怒鳴られて、わけのわからないことを口走ってしまった。
「お父さん、お客さん怒鳴ってどうするの!」
「お、お父さんでしたか、かか可愛い娘さんですね」
どきどきどきどき
「お前に、お父さんなどど呼ばれる覚えは無い!」
「お父さん!」
「もう、あっちにいってよ!」
「(がーーーーん)アリシアに冷たくされた、お前だ、お前のせいだ!」
おっさんに襟を掴まれて頭をガクガク揺らされた。
その後アリシアちゃんに助けられたが、頭がクラクラする。
おっさんは、店の奥に追いやられた、涙目だった。
アリシアちゃんのお母さんが美人なんだな!まちがいないな!
「アリシアちゃんって言うのか、俺はタケルこれからもちょくちょく買いものに来ると思うからよろしくね」
「はい、タケルさんこれからも、ご贔屓に」
にっこりとほほ笑むアリシアちゃん。
ロリ属性は無いけれど、ないけれど、ナインダケレド......ポーションはここの弱ポーションしか買わないと心に誓う俺だった。
その夜に宿で試しに一口飲んでみたが、このポーションは気付け薬にもなるんじゃね?重病人でも飛びあがるんじゃね?ってくらいすさまじい味だった。
こんなモノ、戦闘中に飲めるわきゃないだろうが!手元が狂うどころか足元も怪しくなるわ!
絶対に、ケガなんかしないと改めて心に誓う俺の頬を熱い涙が流れていた。
「あ、武器屋行くの忘れた」
次回もまったり進むのか、それとも急展開か。