戦いたくない戦闘用ゴーレムってのも有りかな?
「あれ? こいつ言う事をきかない?」
ガーゼルの街を出てからツァイ達で走り、正午近くなったので、昼飯にした。アインの分も弁当を作ってくれたので、アインはストーンゴーレムに戻って弁当を食べた。初めて長時間ゴーレムホースに乗ったので、ちょっと長めに休みを取る事にした。駈歩で進んできたが、ツァイ達は休む必要が無いため、馬に比べてかなりの距離を稼いでいた。アインがストーンゴーレムに戻ったので、人型のゴーレムを俺の命令で動かしてみようとしたんだが、命令をきかないのだ。
「アインが繋がっていないときには俺かアインの命令で、普通のゴーレムとして動くはずだ。アインちょっと、やってみてくれ」
アインがゴーレムを見つめていたが、少しして。
『マスター、アインノメイレイモキカナイヨ』
やっぱり、ダメなようだ。おかしいな......。
「あー、こいつのゴーレム核って、動作試験用のままだ。制御式いじっただけで、生成呪文を唱えてねえぞ」
そうなのだ、いきなりアインのゴーレム核で動かして、その後も姿勢制御だけしかさせてないから、動作試験用の制御式しか起動していないんだ。俺は、改めて生成呪文を唱えた。
「我が僕よ使役される物よ! いでよ! ゴーレム!」
すると、目が光り出し、俺に向き直った。
「お前の名前は、フィーアだアインの核が入っていない時は、俺かアインの命令をきけ」
「イエス、マスター」
「じゃあ、付いこい」
俺は、フィーアを連れて、街道から少しだけはずれると。幹の直径が30cmほどの木を指差して。
「この木をなぐれ」
「イエス、マスター」
フィーアはガントレットをスライドさせ手をカバーし、そのまま、凄い勢いで木を殴りつけた。すると、ガントレットが幹を貫通した。
「穴の上をハイキックだ」
「イエス、マスター」
一歩下がって、腕を引き抜くと右足を振り上げ、美しいフォームでハイキックを決める。穴を開けた所から木が折れ、蹴った部分はフィーアの反対方向に飛び出した。しかし、木は回転して上部は頭上から手前に倒れてくる。
「木を避けつつ、バスターソードで輪切りにしろ」
「イエス、マスター」
バスターソードを抜きざま、木に切り付け半歩動いて幹をかわし剣を鞘に収めた。幹は綺麗に輪切りになった。
「フィーア、一連の命令の場合は一々返事はいらない。最初だけで良いぞ」
「イエス、マスター」
俺達は。ケーナ達の所に戻ると。アインに向かって。
「アイン、ちょっとフィーアの攻撃を防御してくれ」
『イイヨ、フィーアカカッテキタマエ』
「あー、アインそのままじゃなくて、身長を180cmくらいにしてくれ。動きは、この前ゴーレムギルドでばらした、スチールゴーレムくらいのスピードで頼む」
『ワカッタ』
俺はインカムを付けると、アイン達から少し距離を置いてフィーアに命令を出すことにする。さて、どこまで曖昧な命令で戦えるんだ?
「アイン準備はいいか?」
右手を上げるアインを確認すると。
「ボディを殴れ、その後ラッシュだ」
フィーアは走り出した。アインは受ける体制だ。右腕を下から振り上げつつアインのボディーを狙う。アインは左腕を下げ、防御する。その後、隙を見つけるように左右の拳を叩きこむ、さらに高低差もつけた蹴りも織り混ぜながらアインを攻めるが、アインは全てを防御する。アインを構成する岩は、アダマンタイトやオリハルコンよりはずっともろいが、アインの魔力で強化されているため、砕けたりはしない。
「よし、爪を出せ、高周波ブレードだ、アインの右腕を砕け」
その命令の後、左右のラッシュをしながら、爪を出し、アインの右腕を粉砕した。まるで、この前ゴーレムギルドでスチールゴーレムをばらす様子を再現しているようだ。俺は、アイン達に向かって。
「そこまで!」
と声を掛けると。2体は停止した。
「あー! アイン大丈夫かい?」
ケーナが叫びながらアインに走り寄った。アインは左手で胸を叩くと、あっという間に右腕を再生させた。
「タケル兄ちゃん酷いよ! アインがケガしたじゃないか!」
ケーナはそう言って、俺に詰め寄って来た。
「アインがそのくらいでどうにかなる訳無いだろ。ゴーレム核を仕舞ったケースは、フィーアの爪でも傷一つ付かないように強化魔法を刻んである。万が一にもアインが傷つく事はないよ。なあアイン」
振り向くケーナに、安心しろと言わんばかりに大きく頷くアイン。
「そうなの? でもビックリしたよ。タケル兄ちゃん。もうこんなことは止めてよ!」
「ああ、悪かった、もうしないよ。アインも悪かったな」
『ヘイキダヨ、デモ、フィーアツヨイネ。マスターノメイレイガナイトウゴケナイカラ、ハヤイウゴキハデキナイケドサ』
「フィーアにはAIを刻んでないからな。意思は無いんだ。アインが入る時に邪魔になるだろうからな。でも、今くらい動ければ十分だろ。それに、アインが戦えば、そいつを経験として貯め込める。そうすれば、もっと短い命令でもちゃんと動けるようになるはずだ。」
「では、この子は、わたくし達の妹と言う訳では無いんですね」
いつの間にかツァイもライもやって来た。
「まあ、そう言う事だな。普通のゴーレムだ」
「妹が出来ると思ったんだがな、残念だ」
「ライは、ロリコンだけで良いだろケーナで十分じゃないか。さらにシスコンになる気か?」
「店長、俺はロリコンじゃ無い! それに、お嬢をそんな変な眼で見てない!」
「あれ? そうだったか? ここまで、ケーナを背中に乗せてきて、嬉しかったろ? そう顔に書いてあるぞ」
「俺達は、表情が変わるようには作られていないだろうが!」
「じゃあ、今度直してやろうか? 細かな心理にもきちんと反応するようにさ」
「店長、頼むから止めてくれ」
「ケーナに想いが伝わるかもよ」
「だから、止めてください、お願いします」
「ははは、わかったよ。今日の所は勘弁してやるよ」
さて、休憩も十分取れたところで出発するか。
ガーゼルの街から王都までは馬車で3日ほどの距離だ、俺達なら1日で走り抜けることも無理では無いが、途中で1泊することにしていた。
「ケーナ大丈夫か? 時間は有るんだ無理するなよ、俺だってこんなに長く馬に乗るのは初めてだ。どの位疲れが溜まるとかわからないからな」
「うん、もっと早く走っても平気だよ」
「後で、一度やってみような」
「らい。コンナニ、ユックリナラ、あいんヲ乗セテモ平気ダロ?」
「平気だが、アイン姉だって、疲れちゃいないだろ?」
「ソンナコトナイゾ。オ姉チャン疲レチャッタナー、誰カ乗セテクレナイカナー」
「だったら、ツァイ姉に乗せてもらってくれ」
「わたくしは主様以外乗せたりしません」
「ねえライ乗せてあげたら?」
「いいんだ、アイン姉は、俺達なんかよりずっと魔力量が多い、一度に使える量だって桁が違うんだから。どれだけ走ろうと、スピードを出そうと全く問題など無いんだ。甘やかすなお嬢」
「らいオ兄チャン、ふぃーあ疲レチャッタナー、乗セテクレナイ?」
「ダー、フィーアとか止めろアイン姉! そんな事しても乗せてやらんぞ!」
「ちぇ! らいノケチンボ!」
「あーそうだ、俺はけちだよ」
「ウー、覚エテロヨーらい」
その後アインは、音は小さいが甲高い音を発し始めた。
「アインどうした? 変な音が出てるぞ、調子悪いなら点検するぞ」
「何デモ無イヨ。ますたーハ気ニシナイデ」
故障じゃないなら別に構わないか。その後アインは特にライに絡むこともなく、今日、泊まる予定の町に着いた。
ケーナはよほど疲れたんだろう、晩飯を食べながら眠そうに、いや、半分寝ながら食べているな。器用なやつだな。ツァイ達は、屋根は必要無いので、裏庭にいる。アインも一緒だ、ただ、アインが全く俺達と会話をしない。俺も疲れていたので、気にしないで寝る事にした。さて、明日は王都に着くだろう。取りあえず宿を決めて観光してみるのもいいかな。アルトガイストで3つ目の街になるわけだが、さて、どんな所だろう。トラブルは避けたいんだが、元々がトラブルを片付けるために行くんだ、今更かもしれない。
「うわー、大きな湖だねー、綺麗だねー、あたしこんなに大きなの見たことないよ。タケル兄ちゃんは?」
そこには、昨日までの草原と森と山にしか見れなかった風景に比べると、ずっと美しい風景が広がっていた。対岸が霞んで見えるほど大きな湖、湖から流れ出る川、森も何となく美しく見える。
「ああ、俺も無いな、ちゃんとした旅行なんかしたことねえからな、でも確かに綺麗な所だな」
祖父ちゃんに修行のためあちこちに連れ回されたが、アレを旅行とは言わない。それこそ、対銃器用の戦闘なんか日本じゃ出来ねえからな。そのために海外にも行ったことならあるが、全く観光なんかしなかった。リボルバーの構造を覚えていたのは、その時に整備もやったからだ。自動式の拳銃やら自動小銃の整備もやったが、どういう原理で作動するのか知らないので、魔道具に応用出来ないのが残念だ。
「少し早いけど、昼飯にするか? この景色を見ながら飯を食うのもいいだろ」
「うん! 湖をゆっくり見てみたいよ」
湖の岸にちょっとした空き地を見つけて道を外れ、馬から降りた。シートを敷いて、今朝町を出る時に買ってきた弁当を広げた。
「アインもおいでよ。アインの分も有るんだよ」
「あいんハ忙シイカラ、けーなガ食ベテイイヨ」
アインは俺達から少し離れた所にたたずんでいる。とても忙しい様には見えないが、何をしてるんだ?
「タケル兄ちゃん、アインは何をしてるんだろう? ただ、立ってるだけだよね?」
「ああ、そうだなこんな事は初めてだな。まあ、好きにさせてやろう。さあ、弁当にしよう」
俺達は、シートに並んで座って、湖を見ながら弁当を食べ始めた。
「この湖ってどんな魚が獲れるんだろうな、この国って漁業も盛んなんだろ? 美味いのかな。この湖の反対辺りに王都があるんだ、美味い魚料理が食えるといいな」
「初めて食べるようなお魚の料理かー、楽しみだな」
「せっかくの王都だ、食べ物以外にも楽しめる物があると良いな」
その時だ。
「フフフ、ヤット起キタヨ」
アインが突然何やら言い出した。
「なーに? アインなにかしてたの?」
「どうした、アイン。そう言えば昨日からなんだか変だったよな? どこか調子悪かったのか?」
「違ウヨ、ふぃーあガオキタンダヨ」
「フィーアが起きた? どういう事なの? フィーアって寝てたの?」
フィーアが起きた? どういうことだ。寝てるも何も、元からフィーアにAIなんか組み込んでいないんだぞ。
「オーイ、らい! つぁいモ! コッチニ来ルトイイヨ!」
と、大声でツァイ達を呼んだ。
「どうしたのです? 姉様」
「なんだ? アイン姉」
「ミンナソロッタネ。デハ、ふぃーあヲ紹介スルヨ」
「「「「......」」」」
俺達は、何と言って良いかわからずに沈黙した。
「......」
そしてアインも黙ってしまった。
「ドウシタンダイふぃーあ。ミンナニ挨拶シナキャダメダヨ。セッカク起キタンダカラサ」
「あー、アイン? 何言ってんだ? フィーアにはAIなんか組み込んでないんだ。起きるとかないだろ?」
「ますたーこそ何ヲ言ッテルンダイ? ふぃーあハココニイルヨ。ホラ、ふぃーあ恥ズカシイノカ?」
すると。小声でアインが話し始めた。
「......マスター、ケーナちゃん、ツァイお姉ちゃん、ライお兄ちゃん、フィーアです......。アインお姉ちゃんが起こしてくれました。......挨拶が遅れちゃって、ごめんなさい」
「アイン姉何やってるんだ? そこまでして俺に乗りたいのか? そのネタは昨日やったろ。笑えない冗談を続けられても正直どう反応していいかわからないぞ」
「ライ、アインを乗せてやれよ。ここまで頑張ってるんだ、いいかげん乗せてやってもいいだろ」
「あの......、違うんです......。昨日から、お姉ちゃんと、ずっとお話ししてて、さっきやっと起きたと言うか......。わかったと言うか......」
「らいモますたーモ何ヲ言ッテルンダ。コノ子ハ、ふぃーあダヨ、あいんハ演技ナンカシテナイヨ」
「フィーアって、普通のゴーレムだってタケル兄ちゃん言ってたよ。ライ達の妹じゃないって」
「いえ! あ......、いえ、妹です。起きるのに時間がかかっちゃたけど。あたしちゃんとここにいます......」
俺は、混乱していた。どういうことだ? アインと話していた? どんな話をすれば、ゴーレムに意思が出来るんだ? 戦闘パターンの学習機能を使って、会話のパターンを覚えたのか? いや、それにしちゃ口調がアインと全く違うぞ。それとも、普通のゴーレムにも自我が出来る余地があったのだろうか?
「なあアイン、フィーアとどんな話をしたんだ?」
「イッパイ、イッパイ色ンナ話ヲシタヨ。昨日ノオ昼カラ、夜モ寝ナイデ、120倍速デ話シテタヨ」
「120倍速で24時間ぶっ通しか? あー、あの甲高い音は超高速で話してたせいか。どっちにしても、それだけ話せば既存のゴーレム核の潜在能力が目覚めても不思議は無いのか? 戦闘記録を保存する機能を利用して自我を作ったのか?」
既存の制御式で作ったゴーレム核だが内容が一番複雑な物を選んでいる。普通のゴーレム術師は、自分のゴーレムにそんな長時間話しかけたりはしないだろう。俺だってそんな事はしない。もし、ゴーレムの制御式にそんな機能が備わっていても、普通は発現しないって事になる。ひょっとして、昔このゴーレムの制御式を作った奴は、ゴーレムと意思を通わせる事を願ったのかもしれない。そして、そいつはゴーレムと会話する事に成功していたのかもしれない。アインのように黒板を使ってたりしてな。
「あははは、アイン凄いじゃないか。フィーアよろしくな、俺の事は店長と呼んでくれ」
「はい、店長ですね」
「うわー、ケーナだよ、家族が増えて嬉しいよ」
「ケーナちゃんよろしくね」
「そうですか、姉様が、フィーアよろしくね」
「はい、ツァイお姉ちゃん」
「......ライだ」
「うん、よろしくねライお兄ちゃん」
「本当に、アイン姉の演技じゃないんだな?」
「ライ、あんまりしつこいと、妹に嫌われちゃうよ。良かったね可愛い妹ができて、これで、シスコンだね」
「店長が言ったからって、お嬢まで変な事を言うな、俺はシスコンなんかじゃない。大体意味がわかって使ってるのか? 妹が出来ようがどうでもいい」
「ライお兄ちゃん、あたしのことどうでもいいの? ......嫌いなのかな?」
フィーアが泣き出しそうな小さな声で言うと。
「あ、い、いや、嫌いなんて事は無いぞ! どうでもいいって言ったのは、だな、えー、とにかく嫌いなんて事は無い! ほんとだぞ!」
「じゃあ......、スキ?」
「......」
「ライ? 妹を泣かせるなんてサイテ―だよ」
ライに汗を流す機能が有れば、間違いなく滝のような汗を流している事だろう。
「ケーナ、フィーアもう許してやれよ。ライはなロリコンでシスコンだから、ケーナもフィーアも大好きなんだよ、照れ屋さんだから、言えないんだよ、察してやれよ」
「わーい、あたしもお兄ちゃん大好き!」
フィーアはライの首に抱きついた。
「ちょ、ちょっとフィーア、止めろ! 離れろ! その体でしがみつくな! へこむ! 折れる!」
「ごめんなさい」
慌てるライからフィーアが離れた。んー、ライには是非表情を変える機能を付けてみたいな。まあ、そろそろからかうのは許してやるか。話題を変えるために。
「よし、フィーアが自分で動けるようになったんだ。ちょっとアインと模擬戦しようぜ」
するとフィーアが困った事を言い出した。
「イヤです」
「......えーと、昨日みたいに、アインの腕を砕けとか言わないけど?」
「イヤ......です」
この子も、意思がある事は確定だな。なんだか俺がいじめてるみたいな気持ちになってくる。
「えーと、理由を聞いてもいいかい?」
「この体で戦うのはイヤ、です。......アインお姉ちゃんが言ってました。この体の力と魔法は凄いんだって。ちゃんと使わないと大変な事になるって。......あたし怖いです、この体で大事な人を傷つけるのが怖いです。いろんな物を壊してしまうのが怖いです。戦うの怖いです......」
「あー、良くわかった。でも、アインが戦う時に、体の制御をするのは平気なのか?」
「はい、アインお姉ちゃんなら、この体をちゃんと使えると思います。だから、お姉ちゃんのお手伝いはしたいです」
なるほど、たしかに異常なほどスペックが高い体ではあるよな。暴走したらどうなっちまうんだろ?
考えるのは止めよう。それこそ、うちの子に限ってってやつだ。万が一暴走したら......。ケーナを連れて逃げちゃおうかな。
「まあいいか、フィーアの好きにすればいいさ、無理強いはしない。ガーゼルに戻ったら、もっと普通の体を作ってもいいしな」
「ありがとー店長」
そう言ってフィーアが抱きついてきた。骨がきしむ。
「ちょ、痛い、苦しい、フィーア離れろ」
「あ、ごめんなさい」
うん、少なくとももう少し体の制御が出来ないと、周りが危険かもしれん。
「さて、出発するか、もう少しで王都だ」
「うん」
ライにアインが近づいて。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんとあたし乗せてくれないかな?」
「え? ......あ、ああ良いぞ。お嬢、フィーアを乗せていいか?」
「うん良いよ、一緒に乗ろう」
「フフフ、しすこんノらいハ、妹ノオ願イヲ断レナイッテコトダネ。思ッタトオリダヨ」
「そのためか! そのためにフィーアを起したのか! アイン姉、普通そこまでやるか?」
アインの執念か、すげえな。
「寝テルダケダッタンダヨ? 普通ハ起コスダロ? らいダッテ、ふぃーあガ起キテ嬉シイダロ? ココデ、嬉シクナイナンテ言ウト、ふぃーあガ泣イチャウゾ」
「ぐっ、アイン姉きたないぞ」
「まったく、うちの男性たちには困ったものですね。主様だけでなくライまで、おかしな性癖があるとは、はあー」
「ツァイ、ため息つくな、なんだよ変な性癖って、ライはともかく俺にはそんな物は無い!」
「店長は、変だが、俺は変じゃ無い、ツァイ姉失礼だぞ」
「タケル兄ちゃん、そろそろ出発しようよ」
「ですね」
俺達は王都に向けて出発した。
「ライお兄ちゃん、重く無い?」
「ああ、平気だフィーア1人くらいどうと言う事は無いぞ」
「ホーラ、あいんヲ乗セテモ平気ダッタジャナイカ」
「いや、アイン姉を乗せてると思うと急に重くなった気がするのはなぜだろう? 不思議な気分だ」
「何ダトー、らいイイ度胸ダナ。次ノ休憩ノトキニ模擬戦スルカ? 揉ンデアゲヨウカ?」
「是非にと言いたいところだが、残念だな王都が見えてきた。あー本当に残念だ」
ライの言うとおり、森から出た所で遠くに王都が見えるところまで来ていた。さっきからすれ違ったり、追い抜いたりと人や馬車が増えてきていたが王都が近いせいだったんだな。俺達は目立つようで、すれ違う人は必ず振り返っていく。何となく居心地の悪さを感じながら、走っていると。1台の大きく立派な4頭立ての馬車が止まっているのが見えてきた。どうやら故障しているようだ。周りを馬に乗った騎士が護衛している。騎士達が俺達に気付き警戒しているようだ。俺達から馬車を守るように立ち塞がる。リーダーらしき騎士が俺に向かって話しかけてきた。
「すまないが、そこで止まってもらいたい。身分を確かめさせてもらえないだろうか」
へー、立派な馬車だから、貴族でも乗っているかと思ったが、護衛は礼儀正しいな。俺達は止まってカードを出しながら声を掛ける。
「俺はCランクの冒険者でタケルと言う。カードを見せれば良いのかい?」
「ああ、検めさせて貰ってもかまわないだろうか?」
近づいてきた騎士にカードを見せる。ケーナも俺に倣ってカードを見せた。騎士がアインを見て怪訝な顔をする。
「そいつは、俺のゴーレムだカードは持ってないよ」
アインはゴーレム登録票を持ちあげて見せ。
「あいんダヨ、ヨロシクネ。馬車ガ壊レタノカ? ダッタラますたーガ直セルト思ウヨ」
騎士はアインが喋ったので驚いたようだが、俺に向かって。
「このゴーレムの話は本当か? 我々は急いで王都に行かねばならん。今、馬を走らせ代わりの馬車を呼んでいるがこのままでは、大事な約束に遅れてしまいそうなのだ。本当に修理できるならお願いしたい」
「わかった、見せてもらおう、どこが壊れたんだ?」
俺は、ツァイから降りて馬車に近づきながら騎士に尋ねた。ケーナとアインもライから降りてきた。
「ああ、車軸が折れてしまたのだ。交換しなければ走れん」
馬車の下に潜り込んで、見てみると、車軸が折れて車体が沈み込んでいる。これならモデリングで付けられるだろう。俺は、馬車の下から出て。
「これなら、直ぐに直せるが、中に乗っている人に降りて貰えないか? たぶん平気だが、万が一、車輪が外れればケガをさせてしまう」
「わかった」
騎士は馬車に近づくと、馬車の中の人と話していっる。直ぐに踏み台が用意され、中から貴族と思われる中年の男性と娘だろうか若い女性が2人さらに、執事だろうか?男性が1人とメイドと思われる女性が1人降りてきた。
「アイン、馬車を持ちあげてくれ。壊すなよ」
「ますたー誰ニ向カッテソンナ事ヲ言ウノカナ。本当、失礼シチャウナ」
馬車から下りた3人もアインが喋るのを聞いて驚いている。アインは馬車の後部に手を掛けると、無造作に持ちあげた。
「悪い悪い、少しそのまま持ってろよ」
俺はもう一度馬車の下に潜ると。
「もう少し持ちあげてくれ。......よし、それで良い」
折れた車軸をモデリングでつなぎ合わせた。さらに、他の部分も軽く点検してみる。特に問題は無いようだ。馬車の下から出て。
「アインもう降ろしていいぞ、ご苦労さん」
と声をかけ。騎士に向かって。
「車軸は直した。他も軽く点検したが問題は無さそうだ」
「そうか、ありがたい。お礼をしたいところだが、もう時間が無いのだ今から急いでも間に合うかどうか。申し訳ないが先を急がせてもらいたい。君達も王都に来るのだろう? 後日、王都内にあるガルドナード侯爵の屋敷まで私を訪ねてもらえまいか? 私は侯爵様の騎士団の副団長でソウトと言う」
「いや、礼などされるほどの事はしていない。それより、急ぐんだったら、俺達が馬車を引こう」
「ん? ゴーレムホースなどで引いたのでは間に合うものも間に合わなくなるのではないか?」
「そちらの方が、ガルドナード侯爵様なのかな? 俺達が引くことを許可してくださるなら。ここで失った時間を取り戻すことは難しくないが?」
「私は、ラグルス・ガルドナードという。助けてもらい感謝する。して、そのゴーレムホースで引けば時間を取り戻せるとは本当なのかな?」
「ああ、このツァイとライはゴーレムホースだが、馬より早く走れる上に疲れ知らずだ。ここにどれだけ止まっていたのかは知らないが、どうせ間に合わないのなら任せてみないか?」
侯爵はほんの少し考えると。
「タケル殿に助けてもらえなければ、どちらにしろ間に合わないはずだったのだ、ここまで世話になったのだ、最後まで世話になってもかまわないだろうか?」
「任せてくれ、用事に間に合わないんじゃ、せっかく馬車を修理した甲斐がない。ツァイ、ライやってくれるか?」
「お任せください、主様」
「しかし、普通の馬で俺達に付いて来れるかな?」
侯爵達は驚いたようだが、騎士達はてきぱきと4頭の馬を馬車から外し自分たちの馬に繋いだ。俺は、ツァイとライに馬車を取り付け、侯爵達が馬車に乗ったのを確認すると。御者の横にケーナと座った。ソウトが。
「タケル殿、ゴーレムはどうするのだ?」
と声を掛けてきたが。
「アインは馬より早いよ。それより、ソウトさん、遅れそうになったら、声を掛けてくれよ。さて、ツァイ、ライ王都にいくぞ!」
ツァイ達はそれを合図に走り出した。もちろんアインは馬車の横を併走する。ツァイ達は馬車の重さなどまるで気にしていないかのようなスピードで王都への道を走りだした。王都の中をこんな速度で走れる訳が無いのだ、門に付くまでにどれだけ挽回出来るかが勝負になるな。
ソウト達が付いて来られなければ、意味が無いのでどうなることかと思っていたが、さすが侯爵騎士団の騎馬といったところか。少し加減はしたが、俺達に遅れず付いてくる。王都に近い街道だけあって、道がきちんと整備されているのだろう、馬車も大きく揺れたりせずに無事街道を走り抜けた。門を守る騎士にソウトがなにやら話すと、ほとんど待たされることもなく王都に入る事が出来た。町中に入った馬車は、騎士の乗る馬に付き従って速度を落とし王城に向けて進んでいく。ソウトが馬車の横に並ぶと。
「タケル殿、本当に助かった。おかげで、大事な会議に間に合う事ができる。タケル殿にはどれだけ感謝しても足りないくらいだ」
「なーに、乗りかかった船だ、困った時はお互い様だよ、気にしないでくれ。本当に間に合って良かったよな」
「ところで、タケル殿のゴーレムホースは凄い。馬より早いゴーレムホースが売り出されていたとは。新型か、しかも会話までするとは驚きだ。侯爵様も欲しがるであろうな」
「あー、ツァイ達は俺が作ったんだ。俺はゴーレムギルド員じゃ無いんでね、こいつらと同じゴーレムホースを手に入れるのは無理だな」
「なに? タケル殿は冒険者なのでは?」
「俺は、冒険者兼ゴーレム術士兼鍛冶士兼魔道具職人兼魔道具屋の店長さ、一度では覚えられないくらい長い肩書きだな。あははは」
「なんと、タケル殿はずいぶん多才なのだな。その若さで大したものだ、失礼だがまだ成人してそれほど経ってはいないのだろう? 17才くらいか?」
「ソウトさんは、人を見る目が有るな! 今まではずっと成人したてに見られてたんで、気にしてたんだ」
「17才だとしても、その若さで冒険者ランクがCで、ゴーレムもゴーレムホースも素晴らしい性能を持っている。きっと、鍛冶士としても魔道具職人としても凄いのだろうな」
「そんな事はないさ。魔道具職人も鍛冶士も始めたばかりでね。でも、アイン、ツァイ、ライの性能には自信がある」
「たしかに、他に類を見ない性能なのだろうな」
などと、話しているうちに王城付近に到着した。俺達は御者台から降りると、素早くツァイ達を馬車から外した。侯爵の関係者ではない俺達がこのまま王城に入る訳にはいかないからな。侯爵は馬車から降りて俺達に挨拶したそうだったが、俺の方から時間がもったいないからと言って、ドアを開けただけで別れの挨拶を済ませた。
俺達は王城から戻りながら。
「さて、まずは冒険者ギルドに行くか。宿を紹介してもらおうぜ」
「うん、ご飯が美味しい所がいいね」
「ああ、そこは一番重要だな」
「だよねー」