王都へ
いよいよ、王都に出発です。
翌日修練が終わると、夕べ作った魔道具を冒険者ギルドに持ち込んだ。エメロードが居なかったので、バッカスに話しをする事にした。広域集音マイクを出して。
「こいつは、結構な範囲の声を拾う魔導具だ」
それから、スピーカーを幾つか出して。
「そしてこいつは、拾った声を何倍にも大きな声にして出す魔導具だ」
「そんなものをどうしろってんだ? 使い道も無えし、買わんぞ」
「まあ話しを聞いてくれよ。こいつを、王都の闘技場に付けて欲しいんだ。俺と勇者が戦う時に、俺たちの声を闘技場中に聞かせたい。客だって、ただ戦ってる所を見てたってつまらねえだろ? 絶対にその方が盛り上がるって。戦ってる時の音なんかも聞こえるんがぜ、客は喜ぶぞ」
少し考えたバッカスが。
「確かに、そいつはいいのかもしれんな。で、幾らするんだ? と聞きたいところだが、お前さんには、今度の儲けの2割を報酬として払うんだ。タダで良いよな? うん、そうか、太っ腹だな。大成するやつってのはやっぱり違うな!」
別に大成なんかしなくても構わねえけど。
「ああ、構わねえけど。絶対に取り付けてくれよ、取り付けなかったら、報酬1割り増しな」
「おう、面白そうだからつけるぜ。しかし、何でそこまでして、戦闘中の声なんか客に聞かせたいんだ?」
「相手は、勇者様だ。俺がヤツをボッコボコにしたら、俺が悪者に見えちゃうだろ? 戦闘中に客が俺の味方になってくれるよう、誘導するんだよ。勇者が暴言を吐いたりしてくれれば、さらに効果的な演出ができるって思わないか?」
俺の話を聞いたバッカスは、呆れながら。
「はー、何を言い出すかと思えば、まったく呆れたヤツだな。ちょいと性格に問題はあるが、実力は本物だぞ。ギガントバスターズは伊達じゃねえ、雷撃の勇者って呼ばれてるんだ、どうやって戦う気なんだ?」
「わからん、これから考える。相手が勇者様だからって負けてやなきゃならない義理はねえからな」
「まあ、そうだな。せいぜい盛り上げてくれ」
「ああ、期待してくれ」
そう言ってからバッカスに別れを告げ、ギルドを後にした。
次に、俺達はゴーレムギルドに向かっていた。ここに来るといつもトラブルが起きるような気がする。今日はどうだろう? などと考えてたのが悪かったのか、俺がアインを連れて受付カウンターで書類を書いていると。
「何を言うか、大きく重鈍なゴーレムなど、固定された物を壊すくらいしか使い道が無いだろうが。多少は小さくなっても、素早く動けるゴーレムの方が使いたい者は多いはずだ。魔物と戦う事が出来ないから、ゴーレムは戦争か土木工事にしか使えないと言われるんだ。俺の作るゴーレムはそんな事は無いぞ、冒険者が魔物討伐に連れて行っても十分な戦力になる」
「でも、小さなゴーレムじゃ数を揃えないと戦争なんかじゃ使えないぞ」
「戦争なんかこの国じゃ起きないだろうが、だからゴーレムホースしか売れない現状になるんだ、俺のゴーレムは、冒険者のパートナーとして十分な性能を発揮できる」
ふーん、アインみたいなゴーレムでも作るつもりかな? AIみたいな制御式が書けなきゃ1度に使うゴーレムの数が制限されるだろうに。書類を書き終わり登録料を払った俺達は、登録票を受け取りカウンターを離れた。小さなゴーレムの話を聞かされていた奴がアインを指差して。
「だったら、あんなヤツを作ったのか?」
それを聞いて俺達の方を振り向いた男は。
「なんだ? あんな、ひ弱そうなゴーレムなんか作るか。だいたい、なんだあれは。女性型のゴーレムなんて邪道だ。メイドでもやらせるのか? 何のためにあんな形にする必要が有る。俺が、女がいない可哀想な男のためにゴーレムなど作る訳が無かろうが。ゴーレムは戦うために使ってこそだ」
なるほど、メイドかアインなら料理を含む家事全般を無難にこなすかも知れないな。
「彼女がいないねー。そう言う用途を考えるのも有りなんじゃねえのか? あれは、そういった使い方をするための物なんだろう」
馬鹿を言ってもらっては困る。今のアインの戦闘能力は間違いなく俺以上だ。......なるほど、俺より強いよなアインは。立ち止まって考えていると。男が近づいてきていた。
「おい、そんなゴーレムなんか作ってどういうつもりだ。そんな物を作るから、俺のようにちゃんとしたゴーレムを作る者が誤解され、ゴーレムが売れないのだ」
コイツ昼間っから酒でも飲んでるのか? アインとお前さんのゴーレムを一緒にするな。と思いながら、男を無視して立ち去ろうとすると。
「そんな物しか作れないようなら、ゴーレム術師など止めてしまえ。お前のように、おかしな奴と一緒にされるのは迷惑だ。おい、聞いてるのか」
「ソンナ物ッテ、あいんノコトカ?」
「なっ、なんだと、このゴーレム喋るのか!」
「ナンダ、喋ルごーれむヲ見ルノハ初メテカ? ウチニハアト2人イルゾ、ソンナ物モ作レナイヨウナごーれむ術師ガますたーヲ馬鹿ニスルノカ」
「な、喋る事がなんになるんだ! 戦闘力も無いくせにゴーレムの本当の使い方を教えてやろうか」
「フッ、あいんヨリ強イノカ? ソレハ凄ナ、是非教エテ欲シイネ」
「なんだと! 見せてやろうじゃないか。なんなら、戦おうか? もっともお前なんか一撃でバラバラになっちまうだろうがな」
「おい、アイン止めろ。今日はこれからテストだろうが。ケーナ達が待ってるんだ。行くぞ」
「ゴランド、お前も止めろ。すまんね、コイツ自分の作ったゴーレムが売れないもんで、ちょっとイライラしてるんだ。いつもはこんな奴じゃないんだ、勘弁してくれ」
「いや、うちのアインも口が悪くてな、こっちこそ悪かったな」
「ますたーガ謝ルコトハナイヨ、コノ失礼ナごらんどガ悪インダ、デモますたーガ止メルカラ今日ハ許シテアゲルヨ。自慢ノごーれむガ壊レズニ済ンデヨカッタネ」
アイン挑発するな、と思っていると。
「てめえ、良く言った。後ろに模擬試合用の広場が有るちょっと来い」
「ますたー、5分モカカラナイカラ、チョット待ッテテネ」
そう言うと、ゴランドについて行ってしまった。
「あーあ、しょうがねえな。あいつこんな性格だっけ?」
「あんたのゴーレムって、意思が有るのか? しかも主人の言う事を聞かないってどう言う事だ?」
「制御式をそんな風にしちまったからな。アインにはちゃんとした人格が有る、仕方が無い、見物に行くか。どうせ、テストで動かさなきゃいけねえんだしな」
「テストって、出来たばかりなのか?」
「ああ、体の方が昨日出来上がったんだ。連れがいるんでね、そいつら連れて後ろにいくわ」
男と別れて、ケーナ達を連れてギルドの後ろにある広場に向かった。ケーナ達に事情を離すと。
「タケル兄ちゃんを馬鹿にされて怒っちゃったんだねアインは」
「アイン姉様が、やらなければわたくしが相手をしているところです」
「店長が変なのは、事実なんじゃないか?」
ライが言うと、ケーナとツァイに睨まれた。
「ライ、自分が言うのは構わないけど、他人に言われると頭にくるもんだよ」
「そうですよ、アイン姉様は主様を大切に思っていますからね」
「大切に思ってるなら、こんな所で騒ぎを起こさないで貰いたいもんだ。お前らはもう喋るなよ、これ以上騒ぎを大きくしたくない」
「承知しました」
「了解した」
広場に着くと、中央付近にアインが1人で立って、相手が来るのを待っているのが目に入った。見物人も何人かいる。そこにゴランドがゴーレムを連れてやってきた。
「こいつはまた......」
「んー、ムキムキだね」
そこには身長2.5m程の金属性のゴーレムがいた。体はボディビルダーのように逆三角形で、腕や足は人間ではあり得ないほど太い。全身で強さを表現しているようだ。
「気持チ悪イごーれむダネ、美シクない!」
「そんな、口が利けるのも今だけだ。準備はいいか?」
「イツデモコイダヨ」
「よし、行けスチールゴーレム! 奴を倒せ」
スチールゴーレムか、鋼ってことね。アインの敵じゃねえな。もっとも、アダマンタイト製のゴーレムなんて作るやついるのかね? 走りだすスチールゴーレム。ゴランドが自慢するだけあって、なかなかのスピードでアインに迫る。アインは、ガントレットをスライドさせ、手をカバーすると、爪を出し構えを取った。振りかぶったスチールゴーレムの腕が振り下ろされようとした時に、アインは動き出した。目にも止まらぬとはこのことか。最小限の動きで腕を振り、あっという間に、スチールゴーレムをバラバラにしてしまった。高周波ブレード使ったな。広場にはゴーレムが崩れ落ちるガラガラといった音が響き渡った。茫然と立ち尽くすゴランドを一瞥し、無言でこちらにやってくるアイン。
「ますたーオマタセ。てすとニ行コウカ」
「ああ」
通りに向かって歩き出した俺達を、広場に集まった連中は信じられない物を見るような眼で見送っていた。
門を出てしばらく歩いて広めの草原に出たところで皆に話しかける。
「よーし、この辺でいいだろ。ライは取りあえず並歩から徐々にスピード出してみな。途中異常を感じたら止まって俺を呼べ」
「了解した」
と言って、ライは動き出す。
「アインは、その体になれる事からだな。いろいろ動いてみな」
まあ、さっきは、とんでもない運動性を発揮してたけどな。
「ワカッタ」
アインは準備運動のような事を始めた。
「ツァイは、騎乗モードで屈んでくれ。操作方法をケーナに説明するからさ」
「はい、主様」
屈んだツァイの両側から覗き込んで説明を始める。ツァイの外装はブルーメタリックに変更済みだ。
「いいか、このハンドルを左手でシッカリ掴んでろよ。後は行きたい方向を言えばいい。言葉を話すと舌を噛むかもしれなりから、走り出したあとは、このレバーを前に倒せばスピードが上がる。この引き金を引けば止まる。このハンドルをこうひねれば右に曲がるし、逆なら左だ。ひねる角度で曲がる角度を調節する。前に倒せば、前進だ、引けば下がる。下がる速度はそれほど早くない。急旋回して、前進した方が早いな。ツァイもライも、この操作どうりに動いてくれるが、こいつらには自分の意思がある。ケーナの操作が危険なときや、危険に気付かない時は、自分達の判断で動くこともある。その時は声をかけてくれるから、ハンドルを強く握って、その動きで吹き飛ばされないようにしろよ。まあ、もう少しでライも戻るだろうから、とにかく慣れることだ」
「うん、やってみる。あたしに出来るかな?」
「当たり前だ、本物よりも乗りやすいはずだし、ケーナのことを考えながら走ってくれるんだ。何も心配なんかいらない。とは言え、慣れてないんだから、こいつを付けろ。落馬しても絶対に怪我なんかさせない」
そう言ってケーナの左腕にベルトを付けた。ベルトから伸びた紐をハンドルに取り付ける真似をして見せると、けーなに。
「こいつは物理障壁をケーナの周りに張り巡らせる。この紐が外れると展開するからな。ライの上で外れると飛び上がるから、楽しそうだがやるなよ。ライから降りる時はこっちを外すんだぞ」
「うん、わかったよ」
「さて、そろそろ戻ってくるか?」
平原を見渡して、ライを探すと全力疾走でこちらに向かってくる。俺たちに近づくとスピードを落とし目の前で止まると。
「店長、異常なしだ」
「ライ、楽しい? 初めて走った気持ちはどお?」
「ああ、楽しいぞ。お嬢にもすぐにわかる。さあ、乗ってみろ」
騎乗モードになって屈んだライにケーナが跨ると、鞍と鐙が調整される。エアバック的な魔道具をハンドルに取り付けるケーナに。
「頭に付ける、防護の魔道具付けろよ、風で前が見えなくなるぞ」
自分でも付けながら、ツァイに跨った。俺たちを乗せたツァイとライは、ゆっくりと歩き出した。
「ケーナ物理障壁試してみな、このスピードなら大丈夫だろ、後ろに飛んでみな」
頷いたケーナは、鐙を蹴って後ろに飛び上がった。紐が外れ、そのまま落ちていくケーナが、地面に叩きつけられる前に、空中に浮き上がって止まった。と思ったら、慣性に従ってライに向かって転がり出した。
「キャーーーーーーーーーー!」
止まって後ろを伺っていたライに向かって転がり、ライに当たると止まった。ライが止めたってことだが。俺が近づくと。
「目が回る、クラクラするー」
そりゃあそうだな。あれだけ派手に転がればそうなるよな。
「ベルトのボタンを押してみな、障壁が消えるから。足が地面を向いているタイミングで押せよ」
そのようにしたケーナは、足から地面にゆっくりと降りて。フラつきながら尻餅を付いた。普通の物理障壁は、地面についた部分は効果を発揮しないように調整している。というより、そのように展開するように魔法が組まれている。でなきゃケーナみたいに地面から浮き上がっちまう。歩くこともできないってわけだが、こいつの機能としてはその方が有難い。しかし、本人が目を回すようでは、使えないな。俺はケーナから魔道具を受け取ると魔法紋を変更し始めた。
「キャーーーーーー!」
うん、回転は止まったな。結局、物理障壁って地面との摩擦が無いので、展開する形状をかえても自然に止まるには結構な距離が必要だということだな。何か魔法陣を加えてやらないとな。土魔法でアンカーでも付ければいいだろう。
「というわけで、ケーナの尊い犠牲的な協力のもと、落馬しても怪我などしない「あんしーんくん」が出来上がったわけだ。ケーナ喜べ、これでもう何の心配もなくライに乗れるぞ。良かったな」
「店長、お嬢は今、心が何処かに旅立っているようだ。とてもじゃ無いが、話など聞ける状態ではないぞ」
「あれ? そうなのか? こんなことくらいで放心してしまうとは情けない。とべーるくんの時よりズーッとマシじゃないか、ケガしてないんだから」
そこで、ケーナが復帰した。
「タケル兄ちゃん、ライに乗るって大変なんだね。あたし、もっと、簡単に考えてたよ」
「お嬢様、乗るだけならもっと、簡単ですよ。でも、主様がお嬢様に絶対に怪我なんかさせたくないから、こんなことになってるんですよ」
「そうなの?」
「はい、主様はそのまま乗っていますしね。もっとも、主様とお嬢様では、力も身体能力も大分違いますから仕方ないですね」
「ケーナ、もう大丈夫だ。目一杯走っても平気だぞ。ライもすまなかったな、いくらケガはしないと分かっていても、ケーナを落とすのは嫌だったろ?」
「いや、お嬢を乗せて力いっぱい走るためだ、我慢もするさ」
「ライ、もう平気だって、走ってみて」
「おう。しっかり摑まっていろよ」
そう言うとケーナとライは、ゆっくりとだが走り出した。思ったより、早く乗れるようになりそうだ。
「さーて、アインはーと......」
アインを探して辺りを見回すと、ちょっと離れたところの森の木の1本が、バラバラになって崩れ落ちた。
「大分なれたみたいだな。うん」
俺は、ツァイに向かって。
「アインの所に行くぞ乗せてくれ」
俺は、ツァイに乗るとアインに合流した。
「アインどうだ?」
「ますたー、ばっちりダヨ」
「じゃあ、今度は走ってみようぜ、ツァイの横をスピードを合わせて走ってみてくれ。ツァイ行くぞ!」
「はい、主様」
そう言うと、ツァイは走り出した。アインは追走してくる。並歩、速歩、駆歩とスピードを上げ、回転襲歩、交叉襲歩になっても、全く遅れる様子は無い。
「ツァイ全速力だ。俺の事は気にせずやってくれ」
ツァイは更にスピードを上げる。アインはそれでも俺達の横を同じ間隔を保ったまま、走っている。
「アイン思いっきり行ってみろ。お前の全力を見せてくれ」
「ハイ、ますたー」
インカムからアインの返事が聞こえたと思うと、俺達の真横の地面から土煙が大きく上がり、アインがあっと言う間にスピードに乗り遠くに行ってしまった。
「すげえな、200キロくらい出てるか?」
「そうですね、今わたくしが93キロで走ってますが私では全く追いつけませんね」
「ツァイ、止まってくれ、アイン適当に戻ってこいよ」
「ハイ、ますたー」
ツァイが止まると、ハンドル操作で向きを変え今度は駆歩で、ケーナの方に向かって戻った。ケーナ達を見ると、駆歩で走っている。横に並んで声を掛ける。
「ケーナ、良い感じじゃないか。この分なら、そんなに掛からずに全速出せるんじゃないか? なあ、ライ」
「そうかい? ライのおかげだね」
「お嬢の筋が良いんだ。身体能力が高い」
ケーナが、照れたように。
「へへへ。ところで、アインは?」
俺は、後ろを見て、土煙を見つけると。
「あの、土煙がそうだ」
と言って、指をさす。ケーナは後ろを振り返ると。
「え? あれがアインなの? 凄い勢いで近づいてくるんだけど」
「アイン姉? いったい何キロ出てるんだ。......店長、俺達じゃあんなスピード出ないよな?」
「ああ、無理だな。あれに積んだ魔結晶のパワーは凄まじいからな。ライもツァイもあそこまでのパワーは無い。でも、お前達のボディでも、魔結晶を大きな物に替えれば行けるぞ。ボディの剛性は似たようなもんだからな。でも、そうすると長時間人が乗れなくなるかな?」
「それでは、意味が有りませんね。いずれそれが必要になるかもしれませんが、その時はその時です」
そんな話をしていると。
「ますたー、凄イネ。ドコマデモ走ッテ行ケソウダヨ」
「どうだ? どこかおかしな所は無いか?」
「絶好調ダヨ!」
「そうか、ケーナはどうだ? お尻い痛くないか?」
「大丈夫だよ、ライに乗るって凄く楽しいね。でも、そろそろお腹が空いたよ」
「ああ、そうだな、街に戻ろうか」
「で、ライはどうだ? ケーナのお尻の感触は良かったかな?」
「そんなこと、知るか。気にしてなどいない!」
「と、照れるライであった」
「だから、チガーウ」
「あははは、照れるな照れるな」
「俺は、照れてなんかいない!」
そう言う事にして、街に戻る事にした。初めての乗馬だ、ケーナも疲れてるだろう。
「え? ええ? これがアインなの? だって、ボーンって、ギュンって、バイーンって? ええええ?」
アリアちゃんが混乱している。
「ふふふふふ、ありあ、コノないすぼでぃに驚イテイルネ。コレハ、ますたーノ趣味ダヨ。人間ノ女ノ人ニ相手ニサレナクテ、コンナごーれむヲ作ッチャウヨウナ、カワイソウナますたーダケド、仲良クシテアゲテネ。コレデモ、良イトコロモアルンダヨ」
「おい、アイン、お前無茶苦茶ひどい事言ってるぞ! 確かにもてないけど、相手にされないとか酷くないか? ちゃんと話をしてくれる女の人だって少しはいるんだぞ」
「ありあト、しるびあト、あしゃト、あねもねト、ヴぁいおらト、がーねっと以外ニダレ?」
「アイン、あたしが抜けてるよ」
「アア、ソウダッタネ、ケーナモ居タネ」
「アインが喋った。黒板が無いから変だと思ったんだけど。喋れるんだね」
「俺が、新しく作ってたゴーレムをアインが欲しがったから、やったのさ。強くなりたいって言ってさ。熊型だって、むちゃくちゃ強いんだぜ、でも、魔法が使いたいって言うからな」
シルビアさんが。
「え? ゴーレムが魔法を使うんですか?」
「はい、でも、中級魔法までしか使えませんよ。記述魔法なんで」
「はあー、アインちゃんが字を書いた時も思ったんですが、タケルさんのゴーレムって変わってますよね」
「そうかな? ツァイもライも喋るし、魔法も使いますよ」
「ツァイにライですか?」
「ああ、ここに連れてきた来たこと無かったですね。表にいるゴーレムホースです。ゴーレムギルドのは、何だか気に入らなかったんで、自分で作ったんです。ギルドに入る気は無いんで、店で売れないんですけどね」
「なるほどね。でも、アインちゃん、もの凄いプロポーションですね。世の女性を敵に回しちゃいますよ。タケルさんの趣味が良く分かりますね。アリア、頑張らないとね。ふふふ」
「お母さんの娘だもん! もう少ししたら、あたしだって......。アイン見てなさいよ!」
「ふふふ、楽シミニシテイルヨ」
「ムキー!」
「シルビアさん、この体型にはちゃんと理由が有るんですよ! けして、俺の趣味ではないんです! 本当ですよ。中をお見せできないのが残念です的な意味が有るんです」
「この鎧を付ける前は、凄ーくエッチな体だったよね、アイン」
「シカタガナインダヨ、女ノ子ニモテナイ、可哀想ナマスターノ願望ガツマッテルンダヨ」
「違う! 外装の中には、骨格とシリンダーと魔結晶しか入ってねえよ! 勝手に変な物を詰め込むんじゃねよ!」
「タケル兄ちゃんの願望って、変な物なんだねー」
「違うから! そうじゃないから! そんな事言うと泣くぞ! 泣いちゃうぞ俺」
「ふふふ」
「「あははは」」
昼飯を終えた俺は、店でリボルバーワンドのカートリッジを作ろうとしている。ケーナは初めての事で疲れただろうからと、宿で休ませている。
「雷ねー、初級と中級魔法には無いよな。雷って雲の中に溜まった静電気が落ちてくるもんだろ。どうやって、狙った所に落すんだ? いや、剣から直接打ち出されるんだろうか? 避ける事できねえよな、早いんだしな。大体、物理障壁で避けるのか、魔法障壁で避けるのか、それとも両方か。」
攻撃魔法を防ぐ障壁は、魔法によって違う。土系統と水系統は大体が物理障壁でいける。火系統は魔法障壁で防ぐんだが。俺が使うアイスボルトのように、氷の矢と衝撃は物理障壁、冷気は魔法障壁でないと防げないものも有る。記述魔法以外を使う魔術師は、一度に一つの魔法しか使えないので、攻撃魔法の種類によって障壁を選ぶ必要がある。俺は、一度に2つ使えるので、両方展開できるが、そうすると攻撃手段が足で蹴ることしか無くなる。さらに、障壁で防げるとは限らない。記述魔法に無いって事は、上級魔法の可能性もある。そんなものを中級魔法の障壁で防げるとは限らない。
「取りあえず、記述魔法で雷を作ってみてテストするか? いや、下手すりゃ黒焦げだ。相手を殺すのはNGなんだから、勇者の雷を受けてみるか?......それで、麻痺でもしたら目も当てられないな、却下だな」
やっぱり避雷針でも作った方がいいのかもしれない。
「避雷針か、闘技場の中に避雷針立てたら怪しいよな。水の柱でも立ててみようか。でも、そこら中水浸しにしたら感電しそうだよな。氷の柱でどうだろう? 氷って電気流すのか? 流さないって聞いたような気がする。しかも、戦いになったら邪魔だよな」
もっと、電気を流しやすい物質を使った避雷針のようなものを考えるか。確か、銅と銀がダントツに良く、たしか、僅差で銀の方が勝っていたはずだ。自分の周りに銀粉を撒き、そいつを土魔法を使って鳥篭に組み上げるってのはどうだろう。本当の鳥篭のように目を細かくする必要はないだろう。その中で物理障壁と魔法障壁を展開すれば何とかなるかもな。
「うん、これだな。これならリボルバーワンドを使うよりも、専用の魔道具を作ったほうが良いな」
Dクラスの魔結晶を使って、魔法紋を刻んでゆく。特定の物質を操って、簡単な構造物を作るんだ。作り上げる物の形が1種類ならたいして難しい記述は必要ない。相手を殺さない程度の雷って本当に雷なのかどうか解らないが、本物より大分弱いんだろう。銀粉を使い、出来るだけ短時間で極細の篭を作るってことだ。
「よし、こんなもんか。モデリングでも出来そうだけど、それだと篭から出るのが面倒だからな。魔力を切れば銀粉に戻るほうが手間がかからなくて良いよな。仕込む銀粉の量で、使用回数が決まるけど10回分くらいで良いだろう」
ウエストポーチに付いたスイッチを押すと銀粉をまき散らし、篭を作る。その内側に魔力障壁と物理障壁を張る。銀粉が切れても障壁は張れるんだから、ひょっとしたらそれだけでも雷を防げるかもしれない。まあ、これ以上は雷対策が思い付かないんだからしょうがないだろう。10回も防げれば、そのうち対策も思い付くかもしれない。
「さて、あと1日か2日で、ケーナもライを乗りこなすだろう。そうしたら王都に向けて出発だな。明日ガーネットに話さなきゃな」
俺は、店を出て宿に戻った。そこには、蒼穹の翼の皆とガーネットが来ていた。
「こんちは。今日はどうしたんだい?」
バトロスが。
「タケルが、勇者と勝負するって聞いてよ。励まそうと思って来てみたんだ。それから、明日から護衛の仕事で、この街を離れるからよ」
ガーネットは。
「自分も、同じような理由だ。この前の件が片付いたので長期の休暇が貰えたのだ。ちょっと姉の所に行ってこようと思ってな、しばらく街を離れるん事になる」
「おー、ありがとう。押し売りされた勝負だけど、相手が勇者だからって遠慮はしない。勝ちにいく。俺達も、遅くとも3日後には出発する。俺もケーナも初めての王都だからな、観光もしたいんだ」
皆で、テーブルを囲んで食事をする事になった。食事を待っていると、
ガーネットが。
「タケル、ケーナの復讐のつもりなのか?」
「いや、勝負を受けてからなんだよ、ケーナを斬ったやつが勇者だって分かったのはさ。それに、ケーナが、復讐なんかするなって。そんな事し始めたら、結局どっちかが死ぬまで止まらなくなるって、家族まで巻き込んだら、いったい何人の人が死ななきゃならないんだって言ってさ。自分のケガは綺麗に直して貰ったんだから、ここで止めるって。そこまで言われたら、復讐するとか言えないだろ?」
それを聞いたバトロスが。
「それはそうだな。しかし、ケーナは凄い事を言うな。子供に考え付く事とはとても思えない」
「うん、父さんが生きてた頃にあたしに言った事があるんだ」
ヴァイオラが。
「へー、ケーナのお父さんって凄いね」
「へへへ、そうかい?」
アシャさんが。
「ええ、とても素敵なお父さんね」
「うん!」
そうこうするうちに、料理もそろったので、みんなで食事を楽しんだ。
翌日の午前中の訓練で、ケーナはライを乗りこなせるようになってしまった。ケーナの運動能力はかなりの物だ。午後は旅の準備をして早めに寝る事にし。そして次の日は朝飯を取った後、出発する事にした。シルビアさんとアリアちゃんが門まで見送りにきてくれた。
「はい、これお弁当。気を付けて行ってね」
「ありがとうございます」
「ありがとう、シルビアさん」
「あたしの作ったオムレツも入ってるんだよ」
「うわー、ありがとうアリア姉ちゃん」
「ありがとうアリアちゃん、お弁当楽しみだよ」
2人はニッコリ笑って。
「「行ってらっしゃい」」
「「いってきまーす」」
俺達は手を振りあって別れた。
「さあ、王都に向かって出発だ!」
「うん!」
「ウン、シュパーツ!」
次回には到着します。