ケーナすげえな
冒険者ギルドを出た俺は、とりあえず、情報屋に向かうことにした。アインはケーナの所に帰した。地図を頼りに分かりにくい道をたどり、地図に示された建物に入って行った。中には受付のカウンターがあり、紹介状を渡すと、奥に有る部屋の一つに通された。そこには、エメロードよりは少し若いかなといった感じの老婆が1人で座っていた。
「お前さんがタケルかい、よく来たね。で、殲滅の白刃、今日は勇者の事でも調べに来たのかい?」
「ああ、よろしく頼むよ。勇者様をボッコボコにしたくてね」
「勇者相手に喧嘩を売るタイプには見えないけどね」
「喧嘩を売った覚えはない。勇者からの押し売りだぞ今度の事は」
「そうだったね。で、勇者の事が知りたいって事かい?」
「それも有る。だれでも知っている情報も含めて勇者の事と、あいつの戦い方、武器、それにパーティメンバーに付いて知りたい。いくらだい?」
「お前さん1対1で戦うんじゃ無かったのかね? パーティメンバーの事も必要なのかい?」
そんな事まで知ってるのか? ギルドの情報管理ってどうなってるんだ?
「そんな話を、正直に信じちゃいないよ。勇者様がピンチになったらどうなるか分からねえだろ?」
「なるほど、本気で勝ちに行くようだね。それでも、手持ちの情報で間に合うね。5000イェンだよ」
「わかった」
俺は、銀貨を5枚テーブルに置く。
「ダルニエル・シュバルリ達勇者パーティ「黄金の翼」は、ギガントバスターズだ」
ギガントは身長数十メートルの巨人でAクラスの魔物だ。通常は魔術士団が複数で、包囲攻撃をして足をつぶし、倒れたところを騎士団が討伐するって感じらしい、フェンリルほどの無茶はしなくてもいいらしいが、1パーティで倒せる魔物じゃない。勇者様、なかなかやるじゃないか。
「ダルニエルは19歳、「雷激の勇者」と呼ばれている。現シュバルリ公爵の息子だ。シュバルリ公爵領のトルネって所を任されてるね。子爵だよ。自信家で、過激な性格だと言われている。まあ、我がまま貴族ってところかね。王家への忠誠心は強い、家柄の良い貴族を至上と考える発言が目立つ。平民には厳しく当たることが多いね」
公爵の身内だろうとは思っていたが、息子だったか。
「貴族様でもあるのね。」
「まあ、勇者なんぞやってるから実際にそこに居ない事も多いがね」
「なるほど」
「残ったメンバーの2人は、王国の女王の娘で、ターニャ・アースデリアが19歳、第3王女で魔術師だ、炎系統の魔法と障壁を主に使い、上級魔法を使いこなす。炎を使うせいかどうかは分からないが、強気で激しいが、さっぱりした性格だと言われている。ファーシャ・アースデリアは17歳、第4王女でヒーラーだ、こっちもエクストラヒールやエンチャント系の上級魔法を使う、おだやかな性格だと言われているけどね。2人とも、戦いになると容赦ないらしいね。勇者が絡むと見境がなくなるとも言われているよ」
「第3王女と第4王女か、女王様多産だな」
「冒険者登録もしていて、Cランクの冒険者パーティでもあるね。ダルニエルが使う武器のライトニングは王国からの貸与品で、雷を打ち出す魔法剣さ。雷の威力は本物ほどではないけど、なかなかの物らしいよ。1度に数カ所に雷を落として攻撃した事も有るみたいだ。鎧のディフェンダーも、やはり貸与品で、物理障壁を鎧の表面に添って張ることが出来る。王女達が持つスタッフやワンドも銘こそ付いてないが、それぞれ一級品らしいね」
雷か、厄介だな。
「なんだ、こいつら王国公認と同じことじゃねえか」
「まあ、そう言うことだね」
「俺なんかに、かまわなくても地道にやってりゃ、王国公認だろうに。なんて迷惑な連中なんだ」
「勇者にも、事情が有るんじゃないかね?」
「かもね、もっとも、俺には関係ない事情だろうけどな」
「なるほどね、次は......。そうだな、王国とシュバルリ公爵領が保有するアダマンタイトの量だな。別々に頼む」
「そんな物どうするんだい? まあいい、ちょっと待ってな」
老婆は部屋から出ると、間もなく帰って来た。
「国の金属の保有量とか、機密事項なんだからね。こいつは10000イェンだね」
まあ、売れるかどうか分からない情報を貯め込むんだ経費はそれなりにかかるよな。俺は小金貨を1枚テーブルに置いた。
「王国に25トン公爵領に15トン。公爵領は大きな鉱山を複数抱えているからね」
「ふーん、意外と少ないな」
まあ、使い道があんまりないしな。取っておいても仕方ないかもな。
「じゃあ、最後だ、俺ってフェンリルバスターだろ? そして勇者はギガントバスターズだって言ってたよな。俺、田舎もんでさ、貴族待遇って言われても、ぴんと来ないんだよ。特典とか教えてくれるか?」
「うちは情報屋だ、情報を売るのが商売だがね。ちょっと調べりゃ直ぐに分かるような事を売る訳にもいかないね。サービスで教えよう。いいかい、貴族待遇と言っても。貴族として報酬が出るって訳でも、官位や領地が貰える訳でもない。税金も払わなきゃならない」
「国に取り込まれる訳じゃ無いんだな」
「そう言うことだね。でだ、王や女王に謁見が出来る。その際に最低限の礼節があれば、作法はとやかく言われない。平民がなる事が多いんだから仕方ないんだろう。王族や貴族の主催するパーティに参加出来る。もちろん招待状は必要だよ」
「俺には無縁な話しだな」
「これは貴族もそうなんだが、自分に悪さを働いた者への処罰の重さに口を挟む事も認められている。重くするのも軽くするのもね。無礼打ちもできる。平民を殺した時は、その場所の領主に届ける義務が有るんだが、あまりに理不尽な理由の場合は、処罰も有る建前だ。でも、言い分が結構認められるらしいね」
なるほど、ケーナを殺してはいないから、届ける必要も無いって事か。
「なんだそりゃ、やりたい放題じゃないか」
「自分より身分の低いものの行為を寛容に許すのが貴族の美徳とかされていてね、正式な貴族も含めて、むやみやたらと振りかざさない者の方が多い」
なるほど。勇者様は少数派ってことね。
「それから、平民に対して定められた法には必ずしも従う必要は無いね。だが、あまり無茶をすれば王国貴族の法に照らして裁かれる。それに、「権利の上に黙して座す者を守る必要はない」とも言われているね。様々な権利も、黙って待っていたって適用してやらないから、使いたきゃ申し出ろってことみたいだ」
「黙ってる意味なんて有るのかい?」
「それこそ、平民の法に従って生きたいって言うバスターズたちも多いんだよ。元が平民だったりすれば、自分だけ特別にされるより、そのほうが楽って考える者は多いのさ。まあ、本人達に自分を守れるだけの力が有るんだから平気ってのもあるのかもね。後は、貴族も含めて、情けない罪で捕まって、身分を隠すなんて場合は、平民として処罰するって事だ。ただし、どっちの場合でも、その辺は裁く者の裁量でどうとでもなるけどね」
「なるほどね、なんとなーく理解した。俺には特に必要無いと思いたいな。ありがとう」
「初見の客だしね、サービスさ。これからもよろしく頼むよ」
情報屋から出ようとした俺は、1つ聞きたかった事を思い出した。
「あ、そうだ。この国って、奴隷制度ってあるのかい?」
「あんた、そんな事も知らないのかい? どこの田舎者だい。まあいいさ、こいつもサービスしとくかね」
老婆の話によると、奴隷はやっぱりいる。大きく分けると、3種類。まずは犯罪奴隷。これは、鉱山で重労働をする犯罪者達。殺人や誘拐犯や強盗は死刑だから、そこまででは無いものがこれに当たる。まあ、懲役刑のようなものと考えれば良いのか、罪の重さで労働期間が決まる。そして、借金奴隷、まあこっちは借金をし、返済出来ない者が奴隷商に売られ奴隷になる訳だ。こっちは、一生を売り渡す事になる。買った者は最低限の衣食住を保証すればいい。個人の間で奴隷契約を結ぶことも有るそうで契約条件は様々だそうだ。まあ、俺が奴隷を持つことはないな。必要な情報を得た俺は、老婆に礼を言って店を出た。
情報屋を出て、店に向かった俺は。途中でシルビアさんとアリアちゃんの所に寄って、ケーナの無事を報告した。2人は安心してくれたようだ。そうして、店によってアダマンタイトを手にすると、ダイロックの店に向かった。
「こんちは、ダイロックさん」
「おう、タケルよく来たな」
「こいつを見てくれ」
「これは、まさか、アダマンタイトか?」
「ああ、何とか形になった」
その後、色々試したダイロックは。
「凄いもん見せてもらったぞ。生きてるうちに見れるとは思ってもいなかったがな」
「でさ、この前の200キロは使っちまったけど、もう少し欲しいんだ」
「ギルドに行けばAランクに上がるのは間違いないぞ? 自分で買えば良いじゃないか」
「あまり、目立ちたくないんだけどな。冒険者がメインだろ? 鍛冶屋もいずれはちゃんとやろうとは思っているけど今はまだね」
「確かに、こいつを見せてしまうとな、定期的に納品することくらいは頼まれるんじゃねえか? 弟子入りしてえとか言うかもな」
「それくらいで済むのかね? まあ、製法を教えたって構わねえけど。口で伝えて、1度だけ見せるくらいのことしかしねえぞ」
「それは、やり過ぎだ。1度は失われた技術だ。研究してる鍛冶屋も少なからずいる。誰かが再現できたってんなら、自分もって思うだけさ、多くの連中はな。ただし、中にはおかしな奴もいる、タケルにちょっかい出すかも知れねえがな。それは、しょうがねえだろ? そうなるヤツがいても、仕方が無いくらいの技だからな」
「確かに、技術的には難しいが、こいつの使い道って有るのか? 大量に捌けるもんじゃないよな?」
「現物が有れば、用途は誰かが探してくれるさ。俺には今の所、鎧の関節に使うくらいしか考えつかねえけどな」
俺達は、2人で鍛冶ギルド行き、マスターに面会した。アダマンタイトを見せ、俺が作れることは秘密にしたいと言うと。定期的に納品してくれれば製作者は秘密にしようと言われた。無理のない量の納品で話を付け、俺はAランクになった。その場でアダマンタイトを100キロほど注文し、それを積んだ馬車と一緒に店に戻った。
「さーて、骨格をアダマンタイトに変更したいよな。今の所280キロくらい有るんだから、アダマンタイトに変更して、身長を少しだけ小さくすれば、250キロ切るんじゃねえかな?」
アダマンタイトの鍛錬を始めた。骨格を全てアダマンタイトに変更し身長を175センチ弱に変更し終えると。頭部をいじってゴーレム核の光りが目の所だけ見えるようにした。それに黒っぽいスモークだったマスクを薄いベージュ色に取り替えた。遠目には人に見えるかもしれないって程度だ。外装を付けた。それから動作試験用の魔結晶の制御式を変更し、普通のゴーレムと同じ程度の動きが出来るように直した。こいつにはAIは組み込んでいない。こいつを積んでおいて、アインが使わない時は俺の命令で動くゴーレムとして使えるようにする。近くにいればアインの意思で動かす事も可能だ。装備に使う色付きのアダマンタイトを鍛錬したところで。
「これで、良いかな。あとは、装備だよな。まあ、明日にしよう」
ケーナを迎えに行って、一緒にシルビアの宿に戻った。
「ただいま」
「シルビアさん、アリア姉ちゃんただいま」
「「ケーナちゃんおかえり」」
2人はケーナを抱きしめた。ケーナも嬉しそうに2人に手を回した。
「心配させて、ゴメンね。アシャ姉ちゃんのおかげで、もう全然何ともないんだよ」
「よかったね。斬られたって聞いて心配してたんだよ」
「よかったわね、すぐ、晩ご飯準備するわね。そうそう、お風呂に入ってきたら?」
今日の晩飯はケーナの好物が沢山並んだ。喜んだケーナが慌てて食べて喉に詰まらせたりした。食事が終わったところでケーナに声を掛け俺の部屋に呼んだ。
「ケーナ、お前を斬った男の正体が分かった。相手は、ダルニエル・シュバルリと言って、シュバルリ公爵領の勇者様で子爵だそうだ」
「ダルニエル・シュバルリ、シュバルリ公爵領の勇者様。......勇者様で貴族様なのかい?」
「ああ、そうだ」
「そうか、あたし貴族様にシチューぶちまけちゃったんだね。だから、斬られちゃったのか」
「どうするケーナ? ヤツに復讐したいか? したけりゃ俺がやってやるぞ。そのチャンスを本人からもらった」
「え? あたし生きてるもん。復讐する理由が無いよ?」
ケーナは本当にそう思ってるみたいだ。
「おいおい、理不尽な目に遭って、ケガをしたんだ。タダで済ます気か?」
「あたし、もうケガしてないよ。父さんが言ってたよ。復讐なんかし始めたら、どっちかが死ぬまで止まらなくなる。どっちかが死んでも家族が残ってるんだ。そうしたら何人の人が死ぬんだ? どこかで止めないと大変な事になるって。だったら、あたしが止めたほうがいいよ。あたしの代わりに復讐なんかして、タケル兄ちゃんが死んだら嫌だよ。絶対に嫌だよ」
煽るような事を言ってみたが、本当のところケーナには復讐なんか考えないで過ごしてもらいたい。これは、勝手な俺の願望だ。でも、ケーナの答えは俺が期待していた以上の物だった。ケーナは俺なんかよりずっと凄いな。
「そうか、ああは言ったけど、俺もケーナに、復讐したいなんて言って欲しく無かったからな。変な事言って悪かったな。ごめん」
俺はケーナに向かって頭を下げた。
「いいよ、あたしがケガしたのが悪いんだから、タケル兄ちゃんが謝ることないよ。あたしこそ、心配かけちゃってごめんね」
「んー、しかし、ケーナは良い子だな。俺の妹なんて勿体ないな。兄だって言うなら俺も、もっともっと大きな人間にならなきゃな」
「あたしは良い子じゃないよ。普通だよ」
あんな事を考えてるヤツが普通なら、俺どんだけ器が小さいんだろ。
「ところで、タケル兄ちゃん? 勇者様に復讐するチャンスって何のこと?」
「あー、それな。勇者がこの街に来た理由ってのが、俺と勝負するためなんだと。面倒だから断ったんだけど、どうしてもって聞かないから。無茶苦茶な条件付けて諦めさせようとしたら。それでもやるって言うからさ。断り切れなかったんだ」
「えー、勇者様と勝負するの? あたしのせい? やっぱりタケル兄ちゃん、勇者様に復讐するつもりなの?」
「いや、ケーナの事は全く関係ない! ケーナを斬ったのが勇者だって知ったのは、勝負を受けた後だよ、もし、知ってたら、その場で勝負してたんじゃね―かな?」
「ふーん、で、どんな条件を出したのさ」
「俺が勝ったら、勝負の時に使った装備と、カードに入ってるイェン全部寄こせって言った。お互い相手を殺すのは無しだ」
「全部ってどれくらい? 10万イェンくらいかい? 無茶苦茶言うねタケル兄ちゃん」
「いや、700万イェン超えてたぞ。そうしたら向こうが切り良く1000万イェンだって言ってさ。金だけじゃねえぞ、剣も防具も魔道具だ」
「1000万イェン? 剣も防具も魔道具? なにそれ、勇者様はその条件飲んだの?」
「どうせ、自分が勝つんだから、気にしないって事じゃねえの? 俺だって、ゴブリンと勝負するならそのくらいの事言っても平気だぞ?」
「タケル兄ちゃんは、ゴブリン並みってことか」
「いやいや、例えだからな。俺はゴブリンよりはずっと強いぞ」
「そんな事は分かってるよ、で、どうするのさ? そんな勝負受けちゃって」
「受けた時は、適当にやって、負けちまおうと思ってた。そうすりゃ、これからも、そんなこと言い出すやつが居なくなると思ったしな。でも、ケーナの事をアインに聞いたからな、ボッコボコにしてやろうと思ってた」
「思ってただけ?」
「情報屋に行って、ちょっと調べてきた。勇者に協力してもらって、ロボを作る資金と材料を調達出来ねえかなって思ってさ」
「それ、協力してもらうんじゃなくて、利用させてもらうって事だよね」
「その通り! やっぱり、ケーナは洞察力が鋭いな」
「はあー、まあ、勇者様から言い出したんだから、利用するだけしちゃえばいいよね」
「そう言うことだな。で、10日後に王都の闘技場で勝負することになった。ケーナも一緒に来てくれよ」
「王都に? あたしも行っていいの?」
「ああ、初めて行く王都だ、少し見物してこようぜ」
「うん、楽しみだね。あ、でもタケル兄ちゃんは大変だね」
「そうでもないさ。命が掛かってる訳じゃ無い。勝ちに行くけど、負けてもギルドからの金は入ってくる段取りになってる。といったところで、今日はもう寝るか」
「うん、おやすみタケル兄ちゃん」
「おやすみケーナ」
翌朝修練が終わって、ガーネットにケーナを斬ったヤツの事を話したが、難しい顔をしていた。相手が勇者で、しかも、貴族なのだから、ガーゼル領の騎士であるガーネットでは手が出せないって事なんだろう。
「領主様に報告するが、相手を処分するのは難しいだろうな」
「まあ、ケーナは無事だったんだし、相手が相手だしな。しょうがねえさ」
「力になれず申し訳ない」
「ガーネットのせいじゃねえよ」
「そうだよ、ガーネット姉ちゃんは何も悪くないよ」
「そうは言っても、自分の気持ちがおさまらん」
そんな話をして今日は別れた。
今日から、普通にクエストに向かおうとしたケーナを止めようとしたが、アインが無理はさせないと言うので許した。
「さて、装備を付けようか。柔らかいアダマンタイトにも色が付けられたからな。良い感じに作れそうだ。胸部装甲と、腰部装甲、それにグリーブと、ガントレットで良いかな? 外装が光沢のある黒だからな。装備の色は、朱に燻銀で良いかな? 真紅に金ってのも良いけど、ちょっと派手だよな」
胸は、硬いアダマンタイトで、いわゆるビキニアーマーにした、上部を首まで伸ばし肩には大きめの肩当てを付けた。腰は、柔らかいアダマンタイトをスカート状の装甲にして、前側の両足の付け根に大きなスリットを付け前を短めに、後ろを膝の少し上までの長さにした。腿の中ほどまでのブーツ状の装甲を履かせ、腕のガントレットには、物理障壁と格納式の高周波ブレードの爪を付けた、アインの武器はやっぱり爪だろう。腰のベルト状のパーツにはゴーレム核を外したアインの強化パーツを付けられるようにし、こいつからも魔力供給が出来るようにした。Aクラスの魔核とまではいかないが、こいつの魔力量はとんでもない事になるだろう。
さらに、前に作った、オリハルコン製の高周波ブレードのバスタードソードも装備した。
「よし、頭以外は、ロボみたいになったよな、武骨な感じじゃなくて華奢な外見だけど。これで強い方が絶対にカッコイイよな。いっそのこと、それっぽいヘルメット作ろうかな?」
などと考えてみる。でもそうすると、人間が鎧を着てるみたいになるか? 人間そっくりって事になっちまうか?
「さて、テストは明日にするとして、チャッチャとケーナの馬を作ろうか。王都に行くまでにケーナに練習させなきゃならねえしな」
2台目のゴーレムホースを作り始めた。こいつは一度作っているから、スムーズに作業が進んだ。ツァイと同じ仕様のゴーレムホースが夕方までに出来上がった。外装の鋼にオレンジ色に染めたアダマンタイトを薄く貼りつけてみた。メッキの仕方とか知らないんだからしょうがない。ツァイにも色を付けてやろうかな? などと考えながら、ゴーレムホースを見ていると。背中から声がかかった。
「主様、それがお嬢様用の馬ですか? 綺麗なオレンジ色ですねー。いえいえ、別にわたくしは今の鋼色で構いませんとも、えー、別に羨ましくなんて有りません」
「ツァイ、お前何色がいい?」
「青でお願いします!」
食い付くような勢いでツァイが言った。
「わかった、綺麗な青にしような。きっとお前に似合うよ」
「まあ、主様ったら」
そこに、ケーナとアインが帰って来た。
「ただいまー」
『タダイマ』
「おかえり」
「おかえりなさい」
「でも、明日な。ケーナが戻ってきちまった」
あからさまに、落胆した声で。
「そうですか、明日ですか、まあ、かまいませんけどね」
沈んだ声のツァイの首を撫でながら。
「ケーナ、お前用のゴーレムホースできたぜ。それに、人型のゴーレムもだ」
オレンジ色のゴーレムホースを指差した。
「うわー! 素敵だね! オレンジ色のゴーレムホースだ! これ、あたしが使っていいの?」
「ああ、ケーナのゴーレムホースだ。今から起動させるから、名前を考えてやれよ」
「え! 名前? あたしが付けなきゃだめ? ネーミングセンスが、タケル兄ちゃん並みなんだよ、あたし」
「何気に失礼だな」
「えーと、......。そうだ、タケル兄ちゃん。アインて1のことって言ってたよね。じゃあツァイって2のことなのかい?」
「え? えーと、ツバァイが2だな」
「なるほど、2番目の女と言う意味なのですね。主様」
「なんだよ、2番目の女って。ツァイって良くない? 良い響きだと思わない?」
「はい、大変気に入っておりますよ。わたくしは」
『アインモ、ジブンノナマエ、キニイッテルヨ』
「でさ、3は?」
「ドライだ」
「ふーん、.......。よし! ドラだね。流れから言って」
「そっちを切るのかよ。さすがケーナだな。俺ならライってしちまうところだな」
「あ、ライの方が良いね。うん、ライにするよ!」
「そうかい、ちなみに、4はフィーアだけど、こいつはそのままの方がいいよな」
「うん、フィーアいいね。人型の方はフィーアにするのかい?」
「うん? 言って無かったっけ、こっちのゴーレムはアインにやる事にしたんだ」
と言って、ゴーレムを指すと。初めて目に入ったようで。
「うわー! カッコイイね! あのエッチなゴーレムがこうなるの! これをアインが使うの? でも、今のままの方が可愛いのにな」
『ケーナ、アインハ、リョウホウツカウンダヨ』
「え? そうなの? 今のアインと会えなくなるわけじゃないんだね。よかった」
『コノカラダジャナイト、ゴハンガ、タベラレナインダヨ、ツカエナイマスターノセイデサ』
「こらアイン、使えない言うな。さて、起動させるぞ」
俺はゴーレムホースに向かって生成呪文を唱える。
「我が僕よケーナに使役される物よ! いでよ! ゴーレム!」
ツァイの時のように、目が輝き装甲の継ぎ目から光が漏れだした。ハイブリッドホースはゆっくりとケーナに向かって歩き出した。ケーナに向かって頭を下げる。
「ケーナ、名前を付けてやれ」
「うん、君の名前はライだよ。よろしくねライ」
「ライ。......登録完了した。よろしく、お嬢」
「ライ、現在の状態を最適状態として記録。この状態から変形や壊れた場合は、ケーナか俺に報告してくれ」
「承知した。製作者殿」
製作者殿って。その呼び方何とかならねえかな? なんと呼ばせればいいかな。
「あー、ライ、俺の事は店長と呼べ。ケーナがメインに使うことになる。守ってやってくれ」
「了解、店長」
『ヨロシク、ライ、イチバンウエノオネエチャンノ、アインダヨ』
「よろしくね、わたくしは、ツァイ、2番目の姉よ」
「よろしく姉貴、弟のライだ」
ふーん、ライは男なんだな? 生成呪文唱える時に、ライって男の名前だよなって思ったからかな。
「ねえ、ライ、あたしの事はお嬢って呼ぶの?」
「イヤか? 店長の妹なんだろう? 製作者の妹なのだ、お嬢様じゃないか」
「妹だけどさ、んー、まあいいか、ライの好きに呼んでいいよ」
さて、今度はアインだ。
「アイン、核を出してくれ。新しいケースに入れてやる。こいつはこうやって、2つに別れるんだ。ゴーレム核じゃ無い方は、腰の部分に付けられるからな」
『ハイ、マスター。イタズラシチャダメダヨ』
「するかそんなこと。良いから出せ」
アインの体が崩れ、山になった岩の上にゴーレム核が乗った。それを拾うと、ケースを開け新しいケースにゴーレム核と魔結晶を入れ直した。ゴーレム核の入った部分を分離し。
「フェイスオープン」
と言うと。マスク部分が前にせり出た。ケースを入れて。
「フェイスクローズ」
すると。マスクが戻りゴーレムの目が光り出し、体に力が入ったように見える。
「オットット、何ダ? 体ガフラフラスルゾ」
その通り、体がフラフラし始めた、そして見る間に揺れが大きくなり、よろけて膝をついた。
「ますたー、何ダカ、体ガ変ダヨ」
「アイン、大丈夫? どこかおかしいの?」
「ンー、オカシイ所ハ無イヨ。デモちゃんと立テナイ」
どう言うことだ? ロボットじゃないんだから、体の制御は全てゴーレム核が行う。アインは今までちゃんと動いていたんだから。核に不備は無いはずで、ちゃんと立てないなんて事になるはずがない。なぜ、ちゃんと立つことすらできないんだ? しばらく考えていると。ああ、そうか。バランスだ。
「アイン、今までの、ブラッドグリズリーとは体型が全然違うんだ。コイツ用の調整をしなきゃダメだ。体の自立制御は、サブのゴーレム核に任せろ」
「了解シタヨ」
しばらく膝をついたまま動かなかったアインが、スクっと立ち上がり。今度はしっかりと立ち上がった。そして、腕を上げると、顔の前で手を開閉した。
「ふふふ、良イ感ジダヨ。力ガ溢レテクルネ」
「一応、スピード特化型だからな。今までよりも体重が軽くなってると思うぞ、魔物とぶつかると、当たり負けするかもしれないから気をつけるんだぞ。打撃の軽さはスピードで補ってくれ。それから、魔法は4つまで同時に使えるけど、魔力の残量に注意しろよ」
「了解ダヨ」
「取りあえず、明日試してみよう。ケーナもライに乗る練習するぞ、王都に行く時は、ツァイとライに乗って行こう」
「うん、わかったよ。ライ、よろしくね」
「まかせろ、お嬢」
「あいんハ、ドウスレバイイノ?」
「お前は、走るんだよ。その体なら、俺を乗せたツァイよりも全然早く走れるはずだ。ゴブリンと追いかけっこした時みたいに、魔力の残量を気にする必要も無いぞ」
「ますたー達ダケ、ズルイゾ。...ソウダ、らい、けーなハ軽インダカラ、あいんヲ乗セテモ平気ダヨネ」
「無理だな、アイン姉は重すぎる」
その時、アインの目の色が変わって。
「らい? 今重イッテイッタカ? オ姉チャンニムカッテ何テコト言ウノカナ?」
と言って、ライに近づくと正面から睨みつけるようにしながら。
「あいんハ重クナイゾ、ますたーガ軽クナッテルッテ言ッテルジャナイカ」
ライは若干後ろに下がりながら俺を見て助けてくれオーラを放っている。
「アイン、勘弁してやれよ、お前が重いとか関係ないんだよ。ケーナだけを乗せて走りたいんだよ、ライは小さな女の子が大好きなんだよ」
「ナーンダ、初メカラソウ言エバイインダヨ。ソレヲ、あいんガ重イトカ言ウカラ、オカシナコトニナルンダヨ」
「いや、だれが小さな女の子が大好きなんだ。俺はそんなんじゃない!」
「違うのか? ケーナの小さなお尻が、走るたびに背中に当たるのが楽しみで仕方がないんだろ? ライも男の子だよな。アインも分かってやれよ、恥ずかしくて言い出せない男心ってやつさ」
「店長、勝手に俺の男心を代弁するな。そんなんじない、お嬢のお尻とか、カンケーない」
「ん? だったら、ケーナに良いとこ見せたいってか。なーんだ、やっぱり男の子な理由じゃないか」
「ちがーう。お嬢のことなど、関係ない。アイン姉を乗せると、スピードが落ちる。ツァイ姉において行かれるのが嫌なだけだ」
「なるほど、ライは、わたくしよりスピードが出るんだぜ、と言いたいんですね。良いでしょう! 主様の方がケーナお嬢様よりも体重が重いですが、弟に勝負を挑まれて負けるわけにはまいりません。わたくしは、ライと違って、主様に良い所を見せたいですからね、その挑戦受けて立ちましょう」
「ライ、ツァイとケンカしちゃだめだよ」
「え? ちがう。ケンカじゃないぞ」
「そうそう、ライはな、ケーナに「うわー速いね、ライって凄いんだねー」って言って欲しいだけなんだ。でも、素直になれない可愛いやつなんだ」
「そうなの? ケンカじゃないの?」
「店長の言ったことは全くのデタラメだが、ケンカじゃ無いのは本当だ」
「そうか、みんなで仲良くしようね」
「さて、腹が減ったな、宿に帰ろうか」
「うん、あたしも、お腹ぺこぺこだよ」
アインは、ストーンゴーレムに戻って3人で宿に帰った。晩飯を食べた後に、俺は店に戻って魔道具を作って。明日、冒険者ギルドに持ち込もう。