魔結晶が大きいせいだよ!本当だよ?
スキルのおかげで、柔らかいアダマンタイトの作り方は、だいたい分かっている。適度な温度にしてから、鍛錬をする。温度が下がり過ぎないように炉と金床を行き帰させる。鍛錬が済んだら、冷ます。これだけだ、しかし、これだけのヒントしか俺の鍛冶スキルのレベルでは出て来ない。
「加減が微妙なんだろうなーきっと、俺に出来るかね?」
取りあえず、インゴットを一つ熱し始める。色がオレンジになった所で、取り出そうとすると。スキルのせいか、まだ早すぎる気がする。もう暫く待って、取り出し、鎚で叩いていく。少し叩くと、また、炉に戻さなければいけない気がしてきた。すぐに叩くのをやめ炉に戻す。スキル任せの鍛錬になるが、まあ仕方ないだろう。
「こんな、風にやってたんじゃ人に教えられねえなー。考えるんじゃなく感じるんだってか。んー無理だな、説得力がまるでないな」
とにかく一度通してやってみないことには、この方法が正しいのかもわからない。しばらく一心に鎚をふるったり、炉に戻したりを繰り返していると、ここだと閃く瞬間があった。素早く焼き入れをしようとして、ふと疑いの気持ちが湧いた。焼き入れって鋼を硬くするためにやるんじゃないのか? 少し考えて、まあ、とりあえす今回は閃く通りにやってみようと思いながら、用意していた水に付けた。『ジュッ』という音と共に、水蒸気がもうもうと上がった。温度が下がり引き上げてみたが、ここでは、特に何も閃かなかった。
「ん! 硬い......な」
やはり、焼き入れは違うのだろうか? それとも、冷やし方に秘密が有るのだろうか。焼き入れをするまでは、間違っていなかったように思える。まあ、あくまでも勘のレベルなんだけど。
「まあ、硬いんだから、外部装甲に使おう。色はこれから付けられるんだしな。最初から上手く出来たんじゃつまらねえからな。......かなり負け惜しみが入ったな」
泣きが入る前に出来上がるかな。とりあえず、もう一度だ。
何度目の失敗だろう。んーどこの工程が違うのだろうか? スキルからくる閃きが正しいとすれば。冷まし始めるまでは良いと感じる。冷まし方なのだろうか? 冷まし方って言ってもなーどうすればいいんだろう? よし、もう一度だ。また、熱し始める。
鍛錬が終わり、さて、冷ましに入ろうとしたところで、店の方から何やら大声が聞こえてきた。
「だれだ? こんな所に来るヤツは。......あ、客か?」
鍛錬したアダマンタイトを放り出して店に向かった。
店に顔を出すと。中に冒険者達が大勢いる。俺に気が付いた1人が声を掛けてきた。
「おう、やっぱり殲滅の店はここだったか。カウンターに誰もいねえから、どうしたのかと思ったぞ。さっそくだけどよ、あの空を飛ぶ魔道具って幾らするんだ? 俺達でも買える値段なのか?」
おー、初めての客だったのか! この人数全部がとべーるくんを欲しがってるのか? そう言えば、5小隊の屯所に置きっぱなしだ。後で、取りに行かなきゃな。
「あれは非売品だ、と言うか爺さんの形見のアーティファクトなんだ。俺じゃ作れねえ。申し訳ない」
すると、店に来ていた全員から、ため息が漏れた。
「そりゃそうか、昔話の英雄が使ってたのも、あんなやつかも知れねえ物だもんな。いくら、お前さんでも簡単に作れるもんでもねえか」
「そう言うことだ。しかし、みんなが、あれ目当てなのかい?」
「いやいや、野次馬さ、あの魔道具って幾らぐらいするもんなのかってよ」
「他の魔道具を欲しいなんて事はないか? 冒険者が使えばかなり便利な1品が有るんだけどな。使い道を考えたらそれほど高いもんじゃ無いと思うぜ」
それを聞いた連中の目つきが変わった。
「見てみたいって顔だな。ちょっと待っててくれ。今用意する」
と言って、工房に入った。さて、テストは済んでるんだ、ちゃっちゃと作ろう。そう思いながら、鋼のインゴットを筒状にモデリングして行く。アイス系の魔法陣と風系の魔法陣を小さな点で魔石に描きその周りを意味の無い魔法陣のような模様で飾った。そして筒に埋め込む。魔石に魔力を流して、覗いてみる。まあ、こんな物だろう。筒の周りと覗きこむ方に革を張って冷たさが伝わりにくくし、金具で押さえれば出来上がりだ。俺は、そいつを持って、店に戻った。
「待たせちまったかな? こいつは見本だ。実際に売る商品は受注生産になる」
客の1人が。
「ずいぶん小さなもんだな。それで、空が飛べるのか?」
違う客が。
「空を飛ぶ魔道具は、売りもんじゃねえって言ってただろうが。で、その筒は何だい?」
「ちょっと、表で試してみてくれ。ここじゃ分かりずらいからな。筒に付いている魔石に魔力を流している間だけ、遠くの物が大きく見える魔道具だ」
何人かが興味を引かれたように、また、何人かは胡散臭い者を見るような顔で、表に出る俺に付いてきた。俺は、まず、自分で魔力を流し、覗いてみる。すると、大体10倍くらいの大きさに見えるようだ。魔法の氷で作ったレンズはかなり出来が良く。歪みも、曇りもなく良く見える。氷の手前に風魔法を使って、冷気を遮断しているから、肌に冷たさを感じる事もない。初めは風魔法で空気の密度をいじってレンズにしようとしたんだが。結構難しかったのだ。倍率が固定なら、こっちの方が簡単だ。後で自分用の倍率が変更できる物を作るときには、研究してみようと思う。
「いいかい? この魔石に魔力を少しだけ流して、こっち側から覗いて見てくれ。1つしかないから順番に頼むぜ」
冒険者達は、代わる代わる望遠鏡を覗きこんでは驚いたり感心したりしている。なかなか、代わらないやつもいて、ちょっともめそうになったが、それも仕方ないだろう。なにせ、今まで無かった魔道具だからな。覗き終わった冒険者に囲まれて。
「こいつはすげえ。スカウトが使えば今までの何倍も討伐の効率が上がるぞ」
「たしかに、こんな魔道具見た事も聞いた事もないぞ」
この辺りでもガラスは作られているのだが、それなりに高価である上に小さな物で日中の明かりとりに使う程度だ。加工精度と加工技術が低く、透明なガラスなど無い。ましてや、レンズを作るなど無理なのだ。
「幾らするんだ? 納品にどのくらい掛かるんだ?」
「え? ......」
値段とか、全く考えていなかったぞ。高いと売れないだろうし、真似する魔道具職人も出てくるだろう。安いと、買いたい客が増えちまうだろうし。落とし所が難しい。
「20000イェンだな。受注生産だから、注文から2日くらいで出来上がると思う。ただし、冒険者にしか売らないし。今回作るのは10個だ、あまり数は作れないからな。壊れたら修理はするが、分解して中身を探ろうとかするなよ? そんな事をしたら直さないからな」
まあ、ここにいるのは全員冒険者か。20000イェン、日本円で約20万円だ、決して安い買い物じゃないが、こいつの有効性は前の世界で実証されているようなもんだ。この値段で売れるかどうかは疑問だが、全部売れたら日本円で200万円だ、2日間の稼ぎとしては破格だ、あまり数を売る必要はない。俺だって冒険者だ自分が冒険に行けなくなるんじゃ意味が無い。
「そんなに安いのか? 魔道具なんか、1品物だって多いからな。もっと高いと思ってたよ」
「空を飛ぶ魔道具だって、どうせ買えっこないと思いながら、冷やかしで来たんだからな」
俺は、驚いて。
「普通の魔道具って、いったい幾らするんだよ? それから、20000イェンだぞ? 安いか? 俺ってしくじったか?」
家電製品のデジカメなんかも、出たばかりのころは高かったんだろうと思って設定した20000イェンが安いだって?
「タケル、いまさら200000イェンだとか言うなよ。それでも、買いたい奴はいるだろうがな」
はあ? 200000イェン? 2個でゴーレムホースが買えちまうぞ? ただの、望遠鏡が?
「そいつが有れば、効率良く討伐が出来るし、無駄に危険な魔物に近づく必要だって無くなるんだ、俺だって欲しいぞ」
「技術を盗もうとしたって、20000イェンじゃそこまでの旨みがないしな」
いまさら、5000イェンでも儲けは出るんだ、などとは言えない。
「殲滅よ、分割払いじゃだめか?」
別に、分割でも良いと言う前に。
「どこのお人好しだって、冒険者にそんなことさせるかよ。俺達はいつ大怪我して、引退するかわかんねえんだぞ」
「がははは、ちげえねえ」
そこら中から笑いがおこった。
「よし、欲しいやつは、店の中で、注文書を書いてくれ。とりあえず、前金は要らないが、2日待ってくれよ、もっとも1個しか売れなかったら、明日でいいけどな」
俺が店に入って、カウンターに付くと、10人程がカウンターの前に並んだ。それを見て。
「おいおい、安い買いもんじゃないんだから、よく考えてくれよ。後で、返品するってのは無しだぜ」
そんな事を言いながら、注文書を書かせると、7人目で、10個になってしまった。
「なんてこった、こんなに売れるのか? もう10個になっちまったぞ。しょうがねえ、これから、先は3日待ちになるけど、それでも良ければ注文してくれ。それでしばらくは作れないぞ」
結局16個注文を受けた。皆が帰った後に、前に、ホルスターを注文した店に行って、型紙と革の現物を持ち込んで、20組分の革の加工を発注した。
「あーあ、今日は昼飯を食べそこなったな。昼前から、望遠鏡のデモンストレーションなんかしちまったからな。でも、3日後には、320000イェンかー。意外と稼げるな」
作るのは大して時間がかからないしな。ゴブリンとかの魔石はそこそこ在庫が有るからな。俺が店に戻ると、店の前に5小隊の騎士がとべーるくんを持ってきてくれていた。礼を言って受け取った。騎士は少しおどおどしながら、とべーるくんを置くと帰って行った。工房で、望遠鏡を20個作った。残りの4個は、買ってくれそうな人がいるからな。蒼穹の翼、ガーネット経由で騎士団、冒険者ギルドにも聞いてみるか? 後は革が届けば完成だ。そこで、思い出した。
「あ、アダマンタイト」
鍛錬したアダマンタイトを炉の前に放り出して店に出た事を思い出した。鍛冶場に戻ると。炉の前に放置されたアダマンタイトが......。柔らかくなっていた。炉から離して、完全に冷ましてから。
「あー、全体の温度をゆっくり均一に下げるってことなのかな?」
しかし、色が黒っぽいからまるでゴムの板みたいだな。モデリングを使い、薄く引き延ばしてみる。んー、ゴムと言うよりレザー? いや、黒光りしてるから、安ぽいビニールレザーみたいだな。試しに鎚で叩くとその部分が硬くなって、変形しない。オリハルコンのナイフで勢い良く突いてみたら、やっぱり硬くなって全く刃が通らない。ゆっくり押してみると、へこんで行くが、後ろから見ると、尖ることはなくゆるいカーブを描いてへこんでいる。
「んー、できた? できたな! こんなんで良いのか?」
偶然できちまったからな、もう一度やってみるか。
鍛錬が終わったアダマンタイトを炉のそばに放置して今日はそのまま店を出た。明日になれば結果はわかるだろう。
宿に帰った俺は、ケーナに今日作った望遠鏡を渡して。
「今日作った魔道具だ。便利だから使ってみな。ここに魔力を流して、こっちから覗くんだ」
「なんだい? タケル兄ちゃんは今日も仕事もしないで、こんな物を作ってたのかい?」
「いやいや、それを作るのだって仕事だぞ」
ケーナは俺に言われたとおりに、魔力を流し覗いた。そして、空いている手を前に出して握ったり開いたりしている。
「何してるんだ?」
望遠鏡を目から離すと。
「あれ? 目の前に有ったテーブルが遠くに行っちゃた」
「ぷっ、わはははは」
「これなんだい? 遠くの物が近くに来たり戻ったりするよ。近くに来ても触れないし。タケル兄ちゃん、これどうなってるの?」
「遠くの物が大きく見える魔道具だ。こいつを今日16個注文を受けたんだぞ、1個20000イェンだから、320000イェン分の売り上げだ。もっとも2日後に10個残りは3日後だから、その時にならないと、金は全部は入らないけどな」
「えー、そんなに? 凄いね!」
「だろ?」
「タケル兄ちゃん仕事してたんだね!」
「驚くのはそこかい!」
「あははは」
「なんだか、楽しそうね」
そこに、シルビアさんが料理を持って来てくれた。
「今日俺が作った魔道具の話をしてたんですよ。店を出して初めて注文が入ったんです。それも16個もですよ。遠くの物が大きく見える魔道具なんですけどね。冒険者に受けたみたいで、ただ、その場の勢いで注文して、後でキャンセルが出なきゃ良いんですけど」
「あら、面白そうな魔道具ですね。それですか?」
「ええ、使い方は簡単で魔石に魔力を流すだけです。試してみますか?」
シルビアさんは望遠鏡を持つと魔力を流し覗いた。
「あら!」
そうして、さっきのケーナのように手を前に出して上下に振りだした。
「あははは」
「あははは」
俺が笑うと、ケーナも笑い出した。望遠鏡を目から離したシルビアさんは。ちょっと顔を赤らめると。
「ふふふ、遠くの物が大きく見えるって説明されたのに、思わず手が出ちゃいました。不思議な魔道具ですね。これをタケルさんが作ったんですか」
「そうですよ」
「たしかに、これは冒険者が欲しがるでしょうね。世界中の冒険者や騎士団に売れば大金持ちになっちゃいますね」
「無理ですよ、そんなに作る気はありませんし、第一そのうち真似するヤツも出てくるでしょう」
「そうかしら?」
「確かに、仕組みは分かりにくくなってますけど、現物を見れば、職人なら作れるでしょう。まあ、それまでは独占販売ですけどね」
「あらあら、欲が無いですね」
「この街の冒険者パーティが2個ずつ買ってお終いって所じゃないですか? 他の街に売りに行く手段が無いですし。俺は冒険者で良いですよ。商業ギルドに知り合いでもいれば、売りようも有るかも知れないですけどね」
「シルビアさん、これ1個20000イェンもするんだよ。本当に売れるのかな?」
「まあ、そんなに安く売っちゃうんですか? だったら、誰も真似しないんじゃないかしら? 魔道具って、お金持ちしか買えないくらい普通は高いですからね。その値段で売る魔道具屋なんていないでしょうから、タケルさんから買うしかないんじゃないかしら」
「そのくらいじゃないと、冒険者は買えないですよ。せっかくなんだから、使ってもらわないと」
「えー、その値段で安いの? うーん、あたしいつになったら、そのくらい稼げるようになるのかな」
「こいつはケーナにやるよ。心配かけたお詫びだ」
ケーナは顔を輝かせると。
「え? 良いのかい?」
「ケーナちゃん良かったわね」
「うん。大事に使うね」
「壊れても、直ぐに直せるから、ドンドン使えよ。道具なんか使ってなんぼだ」
「うん!」
ケーナはちょっと考え込むと。
「タケル兄ちゃん。この魔道具の名前って、ひょっとして。みえーるくん?」
それを聞いた俺は、笑いながら。
「あははは、ケーナ、ネーミングセンスねーな。あははは」
「タケル兄ちゃんに合わせたんだよ! どうせ、そんな名前なんだろ?」
「フッ、ケーナ、見事な洞察力だな。正解だ!」
「「あははは」」
2人して笑いあった。
「ふふふ、本当に仲が良いわね」
そんな俺達を、シルビアさんが楽しそうに見ていた。
翌朝の修練の時にガーネットにみえーるくんを見せると。
「これは凄いものだな。コルム村の時にこの魔道具があれば、冒険者の犠牲者を出すことも無かったかもしれないな」
ガーネットは、そう言うと、しみじみとみえーるくんを眺めた。冒険者の死に責任を感じているんだろう。
「あの時はまだ、こいつが無かったんだし、しょうがないさ。それに、冒険者は自己責任でクエストに挑むのさ。ガーネットが気に病む事はないんだ。ただ、冒険者をただのならず者として使い捨てにするような事はしないで欲しいな。まあ、あの時のことをそんな風に感じてくれるガーネットなら、俺が今更言う事じゃねえか」
「ああ、自分の見込みの甘さであんな事になったが、もうこんな思いはしない。しないために全力を尽くそう」
「その気持ちを持って任務に当たるガーネットって、凄いよな」
「ん? 騎士とはそういうものだ。ただ、そう思う事件に当たった時は、手遅れで命を落とすことになるのだ。タケルのおかげで、チャンスをもらった。だったらその体験は将来に生かさなければな」
そうして、今日の訓練が始まった。別れ際に騎士団で採用するか検討すると言って帰っていった。
朝飯のあと、今日は討伐に行くと言うケーナ達と別れて、店に戻った。
「さーて、アダマンタイトはどうなったかな?......うん、硬いな。昨日成功した状態とはちょっと、違ったって事か。まあ、早々上手くはいかねえか。でも、一度は成功してるんだし、方向性は見えてるんだ、そのうち何とかなるだろ」
今日も挑戦だ。鍛錬の方法はあれで正解だろう。後は冷まし方だ。おそらく均一にゆっくりと冷ますんだろう。成功した時の状況を思い出して見る。炉のそばに放置しただけじゃ成功しないんだよな。どうなってたんだっけ?
「鍛錬が終った所で客が来たんだよな。そうして、炉の前に放置......、した時に。灰の中に入ってたような? でも、灰が利いた訳じゃないよな。より温度が下がるのが遅くなったのか?」
アダマンタイトを冷ます時に工夫が必要ってことだよな。鍛錬の時もそうだったけど、急激な温度の変化を避けるようにする事で、あの柔らかい感じが出るのだろうか? 単なる焼きなましではないってことだろう。でもインゴットを解かすときは普通にやったよな。インゴットを作るときだって......。やっぱりわからない。高温に上げて、鍛錬を始めてからは、シビアな温度管理が必要って事なのか? 赤外線温度計とか有ればいいんだけどな。
「まあ、無いものはしょうがない。今の仮説が正しいとしてやってみるか。冷ます前の形で、全体が均一に冷めるように出来ないか? ......無理だな。それに、成功したやつは、普通に板状だったしな」
鍛錬の時のタイミングはスキル任せで出来たんだよな。だとすれば、付きっきりだったら、スキルで出来るんじゃないか? とりあえず、炉でインゴットを熱し始める。
鍛錬が終わった。炉の近くに置くために、位置を調整し始めた。ここだ、と閃くところがあった。それから、なにか閃くたびに位置をずらして行く。結構な時間を掛けて冷ました。
「よし、こんなもんか?」
成功したやつと、同じくらいまで冷めたアダマンタイトを炉から離す。完全に冷めた物は、柔らかかった。
「よし!」
成功だ。こんな風にやるのかよ。1つのインゴット1キロから作るのにこんなに時間がかかるのか。毎回同じタイミングで冷ませば良い訳じゃないだろうしな。でも、大体のタイミングはつかめたからな、少しだけ、量産してみようか。冷めるのを眺めている間に鍛錬ができそうだ。忙しくはなるが、やってみよう。このままでは必要な量が出来上がるのはいつになるかわからない。次のインゴットを熱する前に、昨日注文した革を取りに行った。持ち帰り、みえーるくんを仕上げてしまう。こっちの作業はサクサクと進み、あっという間に20個出来上がった。動作確認も済んだところで、アダマンタイトの作業に戻る事にした。
「ふう、今日はここまでかな。とりあえず15キロか、今日も昼飯抜きで作業しちまった」
最初は関節部分だけをアダマンタイトでカバーしようと思ったんだが、やっぱり、全身を覆う事にしよう。そうすれば、用途に応じて、装甲を変更できるからな。汎用性ってやつか。そうすると、体を全部覆うにはもう少し必要か? アダマンタイトの重さはオリハルコンよりも軽く鋼と同じくらいだからな。余裕を見て、35キロくらいは必要になるよな? 厚さ2mmとして2㎡くらい必要になるんだから。まあ、だいたいそんなもんだろう。このペースでいけば明日中にはアダマンタイトの加工は終わるな。
「あー、腹が減った。でも、ケーナが戻るまでは、ゴーレムの作業を続けるか」
シリンダーを張った骨格の上に、直にアダマンタイトはかぶせられないので、外装としてのアダマンタイトの下に、内骨格と外装が触れないようにする装甲が必要になる。そいつでアダマンタイトを支える事になるのだから。最初に考えたオリハルコンの装甲を小さくしたような物を付ければ良いんだよな。あ、アダマンタイトの方が軽いんだから、こいつで作るか。失敗したアダマンタイトをモデリングで成形し骨格にボルトで固定していく。さらに、リボルバーワンドの機構を組み込んだ。左右の前腕にカートリッジ5個用のシリンダーを、腿に7個用のシリンダーを取り付けた。
「これで、同時に4種類か、同じ魔法を4個使える事になるよな。せっかくBクラスの魔結晶を2連装で積むんだからな。そのくらいのことはやってもいだろう」
Bクラスの魔結晶は直径で20cm程になる。どこに搭載するかと言えば、あそこしかないよな。
「んー、直径20cmの魔結晶を入れる部分の大きさってどのくらいになる? 直径×円周率に球の中心間の距離の2倍を加えればいいのか? 1m越えちまうな。装甲を付けるからもっと太くなる」
計算してみるとちょっと、あり得ない数字が出てきた。身長180cmくらいで作っているとは言え、無茶苦茶巨乳になる。ウエストは50cm前半になるんだから......。いくらゴーレムを人間そっくりに作ってはいけないと言っても、そっちの方向で人間離れさせてもなー。大きければ良いというものでもないしな。両の腿にリボルバーワンド入れる関係で腰回りも結構太くなるからな。アインじゃねえけど、砂時計になっちまう。
「魔結晶を作る魔法紋のパラメータをいじって何とかなるかな?」
魔法紋のパラメータを検討すると、必ずしも球にしなくても平気なようだ。縦長に伸ばしたり、卵型にしたり出来る。ただし、一部をへこませたり、尖らせたりは出来ない。
「やっぱり卵型だよな。外装付けた時に綺麗に見えるほうがいいからな」
さっそく、パラメータをいじって魔法紋を描き、魔結晶を作った。魔核が激しく輝いて卵型の魔結晶が出来上がった。太い部分の直径が16cmになった。これならそれほどおかしな外見にはならないだろう。出来上がった魔結晶に、体の制御や連結時の制御式を書き込み終わった。通常のゴーレムと違い、体を直接動かすのではなく、シリンダーを動かす。ゴーレム核からの体を動かす命令をシリンダーを制御する命令に変換してやらなければならない。この方式は、ツァイを作る時に一度やっている。こいつも含め、まだまだ、全てが試験と言うか、試作と言うか。巨大ロボへの通過点だ! などと気合を入れている所にケーナ達が帰って来た。挨拶をすますと、ケーナが。
「タケル兄ちゃん、ゴーレム出来上がってきたね。あとどのくらいで出来上がるの?」
「そうだな、5日くらいか?」
「へー楽しみだな」
「その後に、ケーナのゴーレムホース作ってやるよ」
「やったー」
ケーナが飛びあがって、両手を上げて万歳した。
今日はみえーるくんの1回目の発売日なのでケーナに店を手伝ってもらう事にした。と言っても、待ち遠しくて全員が朝のうちに来店してくれたので、直ぐに解放されたケーナはお手伝いクエストだ。俺は朝から、アダマンタイトの加工を始めた。昼には必要な量がそろった。その後、スモークのかかった透明な物を少しと。色のついた物をそこそこ作った。透明な物を使って顔を作ることにしよう。人間に似せて作るのがダメだと言うのだ、マスクを付けた人間と見分けが付かない、とか言われないように半透明なマスクの奥にゴーレム核が見える様にすれば良いだろう。目の部分になにか工夫はしたいな。少なくとも人間ソックリとかは言われないだろう。その代わり体型はできる限り人間に近付ける。
「こんなもんか? もう少し鼻を高くするか。口は、どうせ動かさないんだから、それっぽく見える凹凸があれば良いか。目はー、大きめで、切れ長? いや、パッチリ?」
目は、モデリングでそれっぽく見えるように加工していく。
「とりあえず、こんなもんか実際に組み立ててから修正すればいいか。後は頭だな。髪型は、ショートじゃないと邪魔だな。髪の毛なんて植えられないんだから、薄くして溝を付けて片方の縁をギザギザにすれば。......フィギュアみたいだな、1/1スケールか?」
フィギュアみたいだと考えた時に、ふと思いついた。......けも耳ってのはどうだ? いや、俺は特にケモナーってわけじゃない。人間と見分けを付けやすくするためには必要な細工......な訳はないな。
却下だ。あまり悩まずに、少し長めのショートボブにした。
「さーて、魔結晶を組み込んでみよう」
胸の部分に2つ魔結晶を組み込んだ。今作った頭部を接続してから、アダマンタイトで、外装をかぶせていく。柔軟性はあるけど伸縮性はないので、パーツを分けて作り、平たいスプリングでつなぎながら全身に被せていく。全身をカバーしたところで、動作確認を行うと、変な音もしないし動きを妨げもしない。
「まあこんなもんだろう。ここから、本格的に動かしながら修正をしていけばいいか」
出来上がったゴーレムのボディは、マネキンのようになった。いや、色が黒いから、ボディスーツを着せたマネキンか?
「しかしこれは......」
俺が、出来上がったボディを眺めていると。
「タケル兄ちゃんって、こういうのが好きなの?」
「タケルって、この服を誰に着せるんだ? やっぱりアシャかい?」
「いいえ、私はこんなに背は高くないですし、なにより、このウエストでは着れませんよ! アネモネじゃないんですか?」
「背はともかく、このウエストでは、わたしも着れませんね。それにこれだと、胸がスカスカになりますから!」
「自分も、街の警邏中にこんな体型の女性はみた事が無いな」
俺は、中古の機械人形のように、ギクシャクと振り向いた。
「コンニチハ、ケーナ、ヴァイオラ、アシャサン、アネモネサン、ガーネット。ミナサンオソロイデ、ナンノゴヨウデショウカ?」
皆の視線が痛い。実際に突き刺さってるように痛い。
「あー、これは新型のゴーレムでして。誰かに着せる服ではないですよ?」
「タケル兄ちゃんのエッチ!」
「タケル、エローい」
「タケルさん......」
「タケル、いやらしい」
「タケル、自分は個人の趣味に口を出すつもりはないが......」
「いや、皆さんが何を考えてるのかは分かりませんが、そんな事は全く無くてですね。少しも、いやらしい気持など持っていない訳でして。まあ、確かに少しエッチイかなーとは思わない事も有ったり無かったりしましたが。こいつのプロポーションは、機能性を追求したといいますか。内部構造から自然に導き出された形と言いましょうか」
俺の言葉を遮って、ヴァイオラが。
「で、タケル、このゴーレムのサイズは?」
「え? 身長180センチです!」
「で。タケル、このゴーレムのサ・イ・ズは?」
「ウエカラ、90、52、88ノGデスネ?」
「ほー、カップのサイズまで答えてくれてありがとう、そんな事まで良く知ってるね?」
アネモネさんが続けて。
「アンダー65でウエスト52ですか。絞り過ぎですね。不自然です」
「人工物デスカラ、ソコハ......、ネエ? 生物じゃないから、内臓入って無いから、太くする必要が無いでしょ。内臓は無いぞう......なんてね? ははは」
場がシーンとなる。......逃げ出したい。
「ウエストが細いのは分かりました。じゃあなぜバストがそんなに大きいんですか? 内臓が無いのはそこも同じですよね?」
「胸には、ワイバーンの魔核で作った魔結晶が2つ入ってるから。そのまま作ると、魔結晶の直径が20cmになっちまって、大きくなりすぎるから、魔結晶の出力を落とさない範囲で変形させて、最大直径16cmにしたらこうなった」
アシャさんが。
「え? ワイバーンってこの前討伐した物ですよね? Bクラスの魔物ですよね? その魔核を2つも使ったんですか? ゴーレム核ってそんなにいくつも魔結晶使うんですか?」
「普通は1つで良いんだけど、連結して使えばそれだけ出力が上がる。ツァイはDクラス3つだし、アインも今はCクラス3つ使ってる。こいつも、ゴーレム核は後1つ頭に入る事になるな、胸の2つは魔力の供給がメインでゴーレム用の制御式はほとんど入って無い。Aクラスの魔結晶なら1つで済むんだろうけど、入れる場所が無い」
「ふふふ、入れる場所が有れば入れちゃいそうですね。Aクラスの魔結晶って大きいんでしょ?」
「大きいね、この前のフェンリルのは他のAクラスのやつよりもっと大きいな」
ガーネットが。
「それはそうだ、フェンリルは人間が倒した事があるから、Aクラスの魔物だが、昔あいつを倒した方法は、無茶苦茶だ。あいつは、想定されているAクラスを超えている魔物だ。魔核が大きくて当然だろう」
よし! 話しが逸れるぞ。
「へー、フェンリルってそんなに凄い魔物なのかー」
ケーナが。
「話しが逸れて良かったって顔してるね。タケル兄ちゃん」
アシャさんが。
「さて、ケーナちゃん。晩御飯に行きましょうか。タケルさんの理想の女性はここには居ないから。晩御飯は誘っても迷惑でしょうからねー」
「うん! あたしお腹ぺこぺこだよ。あ、でもあんまりお金持ってないから、高いところは行けないよ」
「ケーナ、子供はそんなこと気にしてはだめだぞ」
「そうよ、お姉さん達が御馳走してあげるから平気よ」
「あのー? 俺もお腹減ってるんですけど?」
「「「「あっそ」」」」
今日の晩飯は一人で食べる事になった。
翌日俺は、ヤツあたり......いや、気分転換の為に久しぶりに討伐に出た。もちろん、みえーるくんは全て朝のうちに引き取られた。ケーナはお手伝いクエストに行くと言っていたな、昨日もお手伝いクエストだったのだが、今日も是非にと頼まれたそうだ。
討伐と言う名の憂さばらしを終えた俺は、冒険者ギルドに討伐報告に来た。すると、俺を見つけたアネモネさんが。
「タケル! ケーナちゃんが、誰かに斬られたわ。アシャが治療したけど、意識が戻らなくて、「旅人の止り木亭」に運ぶって!」
それを聞いた俺は、ギルドを飛び出した。