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領主騎士団五小隊全滅?

翌日も朝飯は不味いオートミールだった。修行の時はサバイバル訓練みたいなこともやらされた俺は、大抵の物を美味しく食う事ができたが、最近はシルビアさんの美味い飯しを食べているせいか、オートミールは厳しかった。まあ、完食したけどな。あー、かつ丼食いてえ。そうして、無駄な1日が始まった。


昨日と同じ不毛なやり取りが終わって、不味いオートミールを食いながらトーマスから色々な話を聞いた。そして、固いベッドで眠る。あーあ、明日は脱走でもしようかな? ケーナ心配してるかな。


硬いベッドにも拘わらず、ぐっすり眠っていた俺は、殺気を感じて目を覚ました。背中がゾクリとする。フェンリルが発していたような禍々しさは無いが。発している物は凄まじい。

「おい、トーマス! 起きろ」

「んー、なんだ。タケル? まだ、表は暗いじゃないか」

トーマスが眠そうに目を擦りながら上半身を起こした。

「凄まじい殺気だ。何か来てる。それもかなりヤバイやつだ」

「え? ヤバイやつ。......魔物か?」

「解らん、この前のフェンリルとは全く違うからな、禍々しさが無い」

「じゃあ、人間か?」

「俺の祖父ちゃんや、師範ならこのくらいは出せるか......」

でも、祖父ちゃんたちは殺気を押さえるからな。まさか、わざと出してる? どんなヤツがこの殺気を放っているんだ? 素手の俺が対処できるのか? トーマスを守れるか? などと考えながら外の様子をうかがうと。騎士達が何かと戦っているようだ。幸いにも、こちらに向かってくる気配はない。さて、逃げる事を許してくれる相手だろうか。留置場から脱出する手段を考えてみようか。


しばらくすると、いきなり殺気が霧散した。

「消えた......」

「え? 殺気がか?」

「ああ、見事に消えた」

いったいどういうことだ? すると、留置場の扉が開き誰かが入ってきた。暗くてよくわからないが、ドアを開けて入って来たのだ。騎士達と戦っていたのは人間だったようだ。殺気は放っていない。侵入者は俺の留置場の前まで来ると。鉄格子に向かって腕を数回振るった。凄まじい切れ味の刃物だったらしく、火花を散らして、ちょうど人が通れるほどに鉄格子が切断され、俺の方に向かって倒れてきた。真っ暗な通路に比べると、わずかに明るい留置場の中に入ってきたのは。

「シルビアさん?」

そう、料理用の包丁を手にしたシルビアさんだ。シルビアさんは俺に走り寄って。

「タケルさん、大丈夫ですか? 酷いことされませんでしたか?」

俺は、シルビアさんの言葉にただ頷くことしか出来なかった。

「あー、よかった」

シルビアさんは、そう言うと、俺に抱きついてきた。俺は、何も言えずにシルビアさんに抱きしめられた。どうして、こんな所にシルビアさんが? まさか、今まで感じてた殺気の相手がシルビアさんの訳はないし、誰かが一緒に来ているのか? いや、あんな化け物のようなのと、一緒に居られる訳が無いな、あれは、気が弱い人が近くで受けたら気絶するほどの物だった。どう言うことだ? そう言えば、鉄格子を切断してた包丁って、俺が作った高周波ブレードか? いくら良く切れるとは言え、宿の女主人でしかないシルビアさんにあんなことが出来るはずが無い。などと、混乱する頭で考えてはいたが、その一方で、シルビアさんのダイナマイトなボディーを堪能してもいた。あー、素晴らしい。これは夢か? だったら、俺、ずーっとこの夢を見ていたい。夢ならばいいかな? と思ってシルビアさんの背中に腕を回して俺からも抱き締めてみる。うわー、柔らかい。良い匂いもする。あー幸せだなー。その時、胸が濡れてるような気がして、シルビアさんの顔を見てみると。涙ぐみながら。

「帰って来られないくらい酷いことされてるのかと思って心配したんですよ。本当にケガとかしていませんか?」

「はい、全然大丈夫です。心配かけてしまってすみません。」

やっとのことで、それだけ言う事ができた。シルビアさんは、俺の胸に顔をうずめると振るえる声で。

「本当によかった」

と言って、静かに泣きだした。俺は、どうしていいか分からずに、ただ、抱きし締めた腕に少しだけ力を入れて。

「俺、大丈夫ですから」

と、繰り返し言葉を掛けることしかできなかった。


しばらくそうしていると。

「おーい、お二人さん。良い雰囲気いの所悪いんだけど。状況を説明してもらってもいいかな?」

トーマスに声を掛けられて。

「あらあら、わたしったら。まあまあ、どうしましょう」

俺と、抱き合っている事に改めて気が付いたように。あたふたし始めたので、腕を解いて、シルビアさんを解放した。

「あー、今のは、むしょ仲間のトーマスだ、本業は吟遊詩人ね」

「あっ、お久しぶりですトーマスさん。また、うちの宿でもお願いしますね」

「はい、よろしくお願いします。......いや、そう言う事じゃなくて。なんで、シルビアさんが、こんな所に?」

「そうそう、騎士団の連中はどうしたの?」

「え? えーとね......」

ニッコリ笑うシルビアさんの目が泳いでいる。

「まさか、殺してきたとか?」

「まさか! ちょっと、気絶してもらっただけよ?」

「じゃあ、外に感じた殺気の正体って......」

「あら? タケルさんって、こんな所から、表の殺気なんて分かっちゃうんですか?」

「いや、気の弱い人が隣にいたら倒れそうなくらい凄まじかったですよ?」

「......そんなことどうでもいいじゃないですか。ケーナちゃんとアリアがとても心配しているわ。さあ、帰りましょう」

騎士団の連中を気絶させて、留置場に侵入し、取り調べ中の人間を連れて帰っちゃうって、どう考えても拙いよな。とは言え、ここで俺が残るって選択はないな。そんなことしたら、シルビアさん一人の罪になっちまう。俺が逃げちゃえば、全部俺の指示でやったって事にだって出来るしな。かなり苦しいとは思うけど、シルビアさん一人で帰すよりはましだろう。

「はい、帰りましょうか」

そして。

「トーマスはどうする? 一緒に逃げるか?」

「え? 俺は遠慮させて貰うよ。タケルは平気だろうけど、俺は、逃げると罪が重くなる」

「俺は平気ってどういうことだ?」

「お前さん分かってないのか? まあ、シルビアさんに聞いてみな。それを承知で来てるんだろうからな」

俺が、シルビアさんのを向くと。シルビアさんは大きく頷くと。

「トーマスさんを巻き込んじゃダメですよ。さあ、こんな所は早く出ましょう」

俺は、2人の言っている意味は良く分からなかったが、とりあえず、やることは変わらないので、逃げ出す事にした。トーマスに別れを告げ留置場を出て、屯所の廊下を通り、玄関から表を窺うと、こちらを囲むように、騎士団が展開している。

「あら、気が付いちゃったのね。ちょっと時間を掛け過ぎたかしら」

「ははは、どうします? 飛び道具が来ても俺一人なら、何とかなります。シルビアさんは、ここに居てください」

「んー、平気ですよ。行きましょう」

そう言って、俺の手を引いて玄関を出て行く。すると、玄関を遠巻きにしていた騎士たちが、俺達が進む分引いていき、ついには、人垣が割れた。割れた先には、屯所の門が見える。そして、門の前には、ダレフ一人が残った。

「脱走か! 貴様を帰す訳にはいかん! 脱走などすれば罪が重くなるだけだ! 今なら、この書類にサインをすればこのまま帰してやらんでもないぞ」

「サインなら、他を当たってくれ、俺は照れ屋なんだ」

「どこまでも、ふざけた事を言うやつだ。そこの女がどうなっても良いのか。そいつは、宿屋の女主人だな。お前、こんな事をしてタダで済むと思っているのか!」

「タケルさんなら一人でどうにでも出来るでしょうから、わたし何もする気は無かったんだけれど。ケーナちゃんを人質にしてタケルさんをどうにかしようなんてね。ダレフ、あなたちょっとやり過ぎよ」

コイツ、ケーナを攫おうとしたのか! 俺がダレフに向かって行こうとしたが、シルビアさんが手を握ったまま動こうとしない。俺は振り向いて。

「シルビアさん?」

と、声を掛けた。

「お前、私を呼び捨てとは。平民がわきまえろ!」

シルビアさんは、俺を掴んでいないほうの手を頬に当てて。

「あら、覚えていないのかしら? わたしそんなに変わった?」

ダレフはシルビアさんを改めて見つめ、そして驚いたように。

「シルビア殿ではありませんか! あなたのような方が、なぜこんな冒険者風情と係わるのですか!」

シルビア殿? あのダレフが、シルビアさんをそんな風に呼ぶなんて、2人は昔からの知り合いみたいだな。

「やっと、思い出してくれたのね。15年ぶりくらいかしら? 思い出してくれたなら、話は早いわね、タケルさんは連れて帰るわよ。いいわよね?」

ダレフは納得できないと言った顔をしている。

「......そうはいきません。シルビア殿の事はどうすることも出来ませんが、その男は帰す訳にはいかないのです。そうしなければ、私は父上に合わせる顔がありません」

「タケルさんは、フェンリルバスターよ。あなたには、どうすることも出来ないのよ」

「ちがう! そいつはそんな者ではない。そんな者で有る訳が無いのです......」

と言いながらも、道を開けた。

「後で、お父様の所に行くわ。伝えておいてくださいね」

シルビアさんは、ダレフの前を通る時にそう言うと。俺の手を引いて、2人で屯所を後にした。


門を出て少し歩いたところで、俺は切りだした。

「シルビアさん。どう言うことか説明してくれますか?」

「ええ、一昨日タケルさんが帰ってこなかったでしょ? ケーナちゃんは、昨日あちこち探し回ったのよ。冒険者ギルドで、騎士団の屯所に行くって言ってたと聞いて、自分でも行ったのだけれど、何かの間違いだって言われたって言って帰って来たの。そして、昨夜遅くに騎士が3人訪ねて来てね、ケーナちゃんを連れ出そうとしたの。タケルさんが呼んでるって言ってね。こんな夜更けにおかしいでしょ? それを指摘したら、押し入ろうとしたから......」

「たから?」

「叩きのめして、事情を聞いたのよ」

叩きのめしたんだ、シルビアさんが? 

「そうしたら、タケルさんが言う事を聞かせるために、ケーナちゃんを攫うって言うから......」

「シルビアさんが、屯所に乗り込んだって訳ですか? 包丁を持って?」

「ふふふ、タケルさんのプレゼントしてくれた包丁、本当に良く切れるのね。鋼の剣をスパスパ切っちゃうんですもの、驚いたわ」

「そりゃあ、オリハルコン製の高周波ブレードですからね、大抵の物は切れます。でも、ただの宿屋の女主人にはそんなこと出来ないはずなんですけどね」

「それはまあ、...そのーね?」

にっこりと笑うシルビアさんに俺は。

「ね? じゃないでしょ。そんなに可愛く笑ってもダメです。シルビアさん、あなた何者です? あの殺気だってそうです。わざと押さえなかったんでしょうけど、あんなの感じたの久しぶりですよ俺」

「昔は、冒険者をしてたのよ。それなりに、名も通ってたのよ」

「はー、冒険者ですか、......分かりました。ケーナを助けてくれてありがとうございます。そんなことまでするとは思っていなかったので、油断しました。俺が甘かったですね」

「ダレフは何をしたかったのかしら?」

そこで俺は、今回の事情を推測も含めて話した。

「んー、そこまで強引な事をするなんておかしいわね、なにか事情があったのかしら?」

「さあ? でも確かに、やり方に無理があるな。少しでも冷静なら穴だらけな事に気付くよな」

「昔は、真っ直ぐな子だったんだけどな」

「そう言えば、15年ぶりだって言ってましたね」

「ええ、ダレフは7つだったかな。父親の後を継いで立派な領主になるんだって言ってたわ」

昔を懐かしむように話をする。そうこうしているうちに、宿に付いた。宿の前にはケーナとアリアちゃんとアインが、俺達の帰りを待っていてくれた。

「「ただいまー、心配かけたな(たわね)」」

「「おかえりなさい!」」

『オカエリ』

宿に帰ると俺達は、4人で朝飯にした。オートミールが続いたせいで、やたらと美味い朝飯だった。あ、フェンリルバスターって何なんだ? シルビアさんに聞き忘れた。



俺は、店に来て、新しいゴーレムを作り始めた。これからも、あんなことが無いとは限らないからな、ケーナを守る為って訳じゃないが、昨日の取り調べと言う名の、無駄な時間をゴーレムの事を考えていたので、構想はバッチリだ。鍛錬していたオリハルコンで骨格を作っていく。オートマトンのスキルのおかげで、人型の骨格なら別に、人型の魔物を解体する必要が無いので助かった。ツァイを作った時の経験も役に立った。骨格を作りシリンダーの装着をしている所に、領主の執事をしているモローがやってきた。

「タケル様、ザナッシュ様がお会いしたいとのことですので、お迎えにまいりました。着替えは結構ですので、馬車にお乗りください」

「え? ザナッシュ様にお会いするのは構わないのですが、こんな格好でよいのでしょうか?」

「はい、至急お会いしたいと仰せなのです」

俺が、馬車に乗り込むと、中にはシルビアさんもいた。つまり、今朝の事について説明しろってことなんだろう。

「モローさん、本当にこんな格好で良いのかしら? わたしご領主にお会いできるような服なんか持ってはいませんけど。とは言え、これでは」

シルビアさんの格好は、普段店で着ているワンピースだ。なにを着ていても素敵だが、さすがにフォーマルな格好ではない。でも、俺なんか作業着だぞ。

「シルビア殿に以前御越しいただいた時は、革鎧でしたか? あの時に比べれば」

「モローさん、それは、言わないでくださいな」

と苦笑している。


ザナッシュの執務室に通された俺達は2人並んで、ザナッシュと向かい合いソファーに腰掛けている。

「今回の事は、申し訳ない事をしてしまった。心からお詫びしたい」

「はい、実害が無かったので、今後こんなことが無ければ特に構いませんが」

「ええ、わたしもです」

「ありがとう、身内の恥をさらすことになるが、このままでは、訳がわからないだろうから、君達には事情を説明させて貰いたい」

ザナッシュによると。ダレフが領主の後継者として、戦功が必要だと思いつめている様子であったこと。今回のガルムの討伐は、そんなダレフに手柄を立てさせる意味合いも有ったとのこと。

通常のガルムの群れで有ったなら確かに良いガス抜きになったかも知れない。しかし、今回に限ってはそうはならなかったって事か。

今回の討伐に失敗する訳にはいかないと思いつめていたダレフにとっては、300匹はいるであろうガルムの群れ、ましてやフェンリルまでいたとあっては、かえって討伐が成功してしまった事で、何も出来なかった自分がどうしてよいか分からなくなってしまったそうで、あんな事をしでかしたらしい。プレッシャーに弱いタイプなのかと思っていたが、並大抵のプレッシャーではなく、真面目な性格ゆえに自分を追い詰めてしまったのかもしれない。

「ダレフが先ほど私のところに来てな、王国の騎士団で一からやり直したいと言ってきた。憑き物が落ちたような顔をしていた。あのような顔を見るのは本当に久しぶりであった。シルビア殿に会って何か感じるものがあったのであろう。本来ならここで、詫びさせる所なのだが、直ぐにでも王都に出立したいと言って、私に紹介状を書かせると、その足で出立してしまったのだ」

「素直で真っ直ぐな子でしたからね」

「私が、あの子に余計なプレッシャーを与えてしまったのかもしれん。過度な期待で、息子を押しつぶしてしまう所だった。シルビア殿には気付かせてもらって感謝の言葉も無い」

「いいえ、私こそ無茶なことをしてしまいましたね。ちょっと、頭に血が登ってしまいました」

「ところで、屯所の留置場から脱走した訳ですが、それについてのお咎めは?」

「シルビア殿は、ドレイクバスターズであるし、タケルはフェンリルバスターだ貴族待遇が受けられる称号なのだよ。つまり一般の法では君達を裁けないってことだ」

「Aクラスの魔物を5人以内の単独パーティで討伐すると、そのメンバーは討伐した魔物の種類にバスターズを付けて称号にするのよ。1人で倒した場合はバスターね」

「そうだ、バスターズで男爵と、バスターで子爵と同等となる。Aクラスの魔物を倒すような者達と、どういう風に接すればいいか決めておきたいと言う訳だ。そんな者を怒らせたら国が滅んでしまう。それに、家に取り込むのに、結婚と言う手段を使うためでもある。相手が平民じゃ面倒であろう? つまり、今回の事を裁く者はここにはいないと言うことだ。」 

普通は、ぞんざいに扱われたって国は滅ぼさねえぞ。

「シルビア殿は、ドレイクつまり下位種ドラゴンを倒している。たしか、一本角のランドドラゴンだったな」

ドラゴンを? シルビアさんが? 俺は、シルビアさんを繁々と見つめてしまった。俺の視線に気が付くとシルビアさんは少し頬を染めた。年上の女性に対して失礼かもしれないがめっちゃくちゃ可愛い。

「昔の事ですわ。今は小さな宿屋の主人ですから」

それを聞いて、俺は。

「どこかで、認定式みたいなことがあるんですか? 全く出たくはありませんけど」

「国内外に知らせねばならんからな。この国では年に2回春と秋に叙勲式がある。その時に一緒に発表されることになるが、叙勲ではないので、今からでも、フェンリルバスターを名乗れるな。そして、出席は代理でも構わない事になってる。なにしろ、どこかで魔物を退治しなきゃならないことも有るだろう? その辺は考えられているさ」

なるほど。

「だったら」

「タケルは出席しない訳にはいかないだろうな。なにせ、災害級の魔物の暴走を1人で止めてしまった事もあるのだ。女王陛下が会いたがるに決まってる」

「サイデスカ」

「面倒なことばかりではないぞ、特典も有る。まあ、タケルなら特典など気にしないだろうがな。なんなら、後で書面にしてやろう、1度、目を通しておくといい」

「はあ」

「それから、今回の報酬については、ガーネットが戻ってからと言う事になるが良いだろうか?」

「いえ、それなら、ギルドから出る報酬で十分です。魔核は自分で使いますが、素材が結構な値段で売れるでしょうから」

「それはそうだろうが、だからと言って私が報酬を出さなくて良い事にはならんさ」

たしかに、それはそうかもしれない。変に固辞するのも失礼なのかな?

「では、コルム村で死力を尽くした者達の一人としての報酬をお受けします」

「ははは、タケルらしいな。わかった。皆の報酬も十分考えよう」

「ありがとうございます」

そうして、俺達は領主の城を出た俺達は、帰りも馬車で送ってもらった。晩飯には少し早いので、店の前で別れて、さっきの続きをした。


「さーて、骨格にシリンダーは張り終わった。動作確認用の魔石を作るかな。どうせなら、魔結晶にするか。Dクラスならいいか」

ツァイの時に魔石で作った物を思い出しながら作ってみた。動作確認をしたが、なかなかの出来じゃねえか? 今日の作業はここまでにしよう。



翌日は、久しぶりにケーナと討伐に出かけた。

「ケーナ、馬は、もう少し待ってくれるかい? 先に作っておきたい物が有るんだ」

「うん、いいよ。あたし、体が小さいから、まだちゃんと乗れないと思うし。タケル兄ちゃんが作りたい物から作ってよ」

「ありがとうケーナ、ところで、ツァイと全く同じで良いのか? 基本的な所は同じだけど、見た目とか、使える魔法とかは変更出来るぞ」

「んー、だったら、魔法はハイヒールが使えるといいな。うちにはちゃんとした回復役がいないから」

「分かった、そうしよう」

そんな事を話しながら歩いていると。そろそろ、コボルトの出現する場所に近づいた。

「さて、そろそろ討伐開始だ。今日はコボルトな」

「コボルトって、強いって聞いたけど?」

「ああ、個体の戦闘力はゴブリンより強くて、オーガより弱いくらいかな? でも、群れの数が多い事と、連携を取れるところが厄介だな。1度やって見せるからよーく見てな」

「うん!」

俺はそう言うと、ちょうど森から出てきたコボルトに向かって、走りだした。ドラグーンを抜きファイアーウォールをセットし、刀も抜いて、ケーナに見本を見せるように立ち回った。続いて、俺と2人でコボルトと対峙したケーナは、全く危なげなく倒して行く。これなら、1人でも平気か? いや、アインと一緒の方がいいな。アインと組ませると、いつも一緒にいるせいか、俺と組むよりスムースな戦いをする。これなら、十分F-でもやれるだろう。


そうして、ケーナは今日F-に昇格した。ささやかだが、晩飯のおかずは少しだけ奮発した。そうそう、トーマスも解放されて、新しいタイプの英雄譚を披露した。もちろん1回目はシルビアの宿だ。評判はなかなかのもので拍手が鳴りやまず、硬貨も凄い事になっている。ケーナも感激していた。俺は、まあ、料理の味はわかる程度には落ち着いて聞く事ができた。



さて、今日からしばらくは、店の作業場に通う事にする。ケーナはアインと2人で討伐とお手伝いクエストをこなす事にするそうだ。アインは強化されているから、万が一にも危険はないだろう。

「さーて、外装はどうしたもんかな? 馬と違って、動作は完全に人間と同じにしたからな。硬い外装で干渉せずに上手く動くかね?」

オートマトンは骨格にそのまま服を着せてしまうので、全身を装甲する事はないようだ。本物の馬に比べると、走る事に特化したツァイの装甲は、それほど、複雑ではないが、きちんと関節部分もカバー出来ているわけではない。人に近い動きが出来るようにしたい今度のゴーレムは、複雑な動きに対応しなければならないが、人間が使うフルプレートメイルだって、関節部分の防御力は低くなるのだ。これを何とかしたいのだが、なかなか難しい。取りあえず肘と膝の関節をカバーする物を付けて見たが、可動させる角度が大きいため曲げた時に隙間が出来てしまう。かと言って曲げた場合に合わせると関節を伸ばせない、隙間を大きく取ればいいのだが、それだと肩幅や骨盤も広げなければならない、人間のプロポーションに近づけたいので却下だ。ちなみに、人間と全く見分けがつかないゴーレムを作ることは、各国で禁止されている。暗殺事件とかあったのかな? オートマトンと組み合わせれば出来ないことは無いかもしれないが、余計な心配だろう。見れば作りもだと直ぐわかるよな、普通は。関節の装甲は薄くして、細かく分割してみると何とか使えそうな物が出来た。次は、腹部をカバーする装甲だ。内蔵が無いぞ......、ごほごほ、無いために、人間ではあり得ない細さに出来るはずだ。ウエスト50cmくらいにしてみよう。


カチャカチャ、ポロ、カチャガチャッ、ポロポロ、カチャカチャガチャ!ポロ......。

「がー! 細けえ、面倒くさい! ポロポロ落ちやがって。舐めてんのかーコラ!」

腹部の動きって複雑だからな、前後左右に動き、さらに捻りも加わる。パーツはどんどん細かく薄くなっていく。オリハルコンだから、強度は問題ないんだろうか? この間、フェンリルに噛みちぎられた革鎧に付けていたオリハルコンはこれよりは薄かったか?

「とりあえずこんなもんか」

骨格に付けてみた。ゆっくり動かしてみると、細か過ぎて隙間が出来てしまう。

「だめだな、作り直しだ」

今度はもう少し大きなパーツで作って取りつけてみる。とりあえずうごかしてみようか。

『ギャン!』『ギュギュ!』『キー!』『ガガガ!』

「あー、うるせえー! ストップ!」

だめだ、動かすたびに、凄まじい音がする。ツァイの時より継ぎ目に遊びを持たせていないのが原因だろう。しかし、戦闘用のゴーレムなんだから、隙間が開いていたら、シリンダーとか狙われてしまうだろう。

「やっぱり、アダマンタイトしかねえか?」

この世界の金属の中でも、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトと言ったファンタジー系の金属がある。ミスリルは軽くて魔力の通りが良く硬さも鋼などよりある。オリハルコンは鋼の何倍も固く強いが少し重い。この二つは大体前の世界の物語の同名の金属と同じだが、アダマンタイトはちょいと違うのだ。鍛錬の仕方や、焼き入れの温度、少しだけ他の金属を混ぜ合金にする等すると、様々な性質になる。お手軽金属とも言われる金属だ。オリハルコンと同等の硬さにもなれば、色を付けたり、ガラスほどではないものの、バイザーとかにするなら十分な透明度を持たせることすら出来る。そして、革のように柔らかく、しかも、衝撃を受けた部分が硬くなると言う変な性質にすることも出来るのだ。どこかの国で国宝となっている鎧は、まるでレザースーツのようにしなやかでありながら、刃物を全く通さないどころか、槍で突いたところが硬化しへこみもしないそうだ。伸縮はしないようだが、パーツごとの合わせ目に余裕を持たせ、硬くしたパーツで継ぎ目をカバーしてやればその辺は平気だろう。関節の装甲をオリハルコンで隙間を付けて作り、その上を柔らかいアダマンタイトでカバーすれば内部への干渉も防げるはずだ。

「問題は、俺が鍛冶ギルドCランクって事なんだよな」

アダマンタイトはAランクでないと、入手が出来ない。さらに、製品として売らねばならないのだそうで、横流しは無理なのだ。しかも、柔らかいアダマンタイトを作る技術は既に失われた技術で、今作れる鍛冶職人はいない。透明に出来る職人すら貴重な存在だ。兜の面に使う事で、十分な視野を取れるのだから、需要は十分ある。つまり、例の鎧は正真正銘のアーティファクトって事だ。俺の鍛冶レベルなら、作れない事は無いのだが、インゴットを入手出来ないのだから、地道にギルドランクを上げなきゃならない。

「しかたねえ、ダイロックさんに相談するか」


「どうしても必要なんだけどどうだろう? 柔らかいアダマンタイト作ってくれないか?」

俺は、ダイロックに柔らかいアダマンタイトの製造を依頼している。

「タケルの頼みだから、叶えてやりたいがな、俺じゃ透明なアダマンタイトまでだな。ああ、色は付けられるぞ。そもそも、あれは失われた技術だぞ、そんな物が出来るなら、世界一の鍛冶師と言われる事は間違いないぞ」

「ダイロックさん凄げえな。透明のだって、作れる鍛冶師はあまり居ないって聞いたぞ」

「鍛冶屋の中でも、防具を作る連中にしか必要な技術じゃないからな。俺みてえな武器専門のヤツには必要ねえんだよ、本来はな。まあ、俺は、好奇心から覚えただけだ。それほど、難しい技術じゃねえんだぞ。透明まではな」

「でも、柔らかくするのはムチャクチャ難しいってことかい?」

「そう言うことだ。で、どのくらい欲しいんだ?」

「そうだな、40キロも有ればいいかな」

これは、フルプレートメイルが余裕で出来る程度の量だ。

「そのくらいなら、インゴットは直ぐに手配できるな。あまり売れないからそれほど在庫は置かないだろうが、それっぽっちならギルドの倉庫の床は見えねえだろう。がははは」

「作ってくれるのかい?」

「出来るかどうかは、何とも言えねえが明日の朝一番でうちに来い」

「ああ、ありがとう、ダイロックさん」


ダイロックの店を出ると夕方になっていた。店に戻ると、ちょうどケーナが帰って来たところだった。

「おかえりケーナ、アイン、ツァイ」

「ただいま、タケル兄ちゃん」

『タダイマ、マスター』

「ただいま戻りました、主様」

作業場に来たケーナは。

「これが、タケル兄ちゃんが作りたいって言ってたヤツかい? 人型のゴーレム?」

「そう言うことだ、今回の事もあったしな、アインの他にも戦闘用ゴーレム作ってみようと思ってな」

「ツァイを作ってた時みたいだね」

「ああ、そうだな」

そうして俺達は、宿に戻った。するとそこには、コルム村から戻ったガーネットが来ていた。

「おかえり、ガーネット、お疲れ様」

「ガーネット姉ちゃんおかえり」

「ただいま、ケーナ、タケル。やっと、戻れたよ」

「ガルムの討伐はどうだった?」

「ほとんどが、あの時討伐できたからな。残党狩りはほとんど被害を出さずに済んだよ」

「それは良かった。どうする? 明日の修練は、休みにするかい?」

「いや、疲れはない。明日からよろしく頼む」

その後、一緒に晩飯を取り。ダレフの事や脱走の事も話題にした。ガーネットは、ダレフがまだ、ああなる前の事も知っていたので、心配していたそうだ。次第を聞いて安心したと言っていた。その後、また明日と言う事で別れた。



翌日の修練を終えた俺は、ダイロックの店に来た。

「おはようございます」

「おう、おはよう。来てるぜタケル。アダマンタイトのインゴットだ」

作業場の床には、アダマンタイトのインゴットが積んである。

「あれ? これかなり多くないか? 100キロ以上有るだろ?」

「アダマンタイトは一度焼き入れしちまうと、インゴットに戻せねえんだ。正確に言うと、戻したインゴットで作れるのは、硬いアダマンタイトだけだ。まあ、色くらいは変更出来るがな」

「つまり、これだけあっても十分とは言えない?」

「とりあえず200キロある。試すには十分とは言えねえが、このくらい有れば、透明にするくらいには上達するだろう。とりあえずやってみな」

「え? ちょっと待ってくれよ。横流しはダメなんだろ」

「何を言ってるんだ? 今、うちの炉は壊れてる。タケルの店の炉を使わせて貰うんだ。出来上がった物は、タケルに渡すんだから、そっちでやったほうが便利だろうが。そして、お前の店なんだ、お前が鍛冶場で何をしていようとも、誰も何も言わんさ」

「ダイロックさん......」

「俺じゃ、どれだけやっても柔らかいアダマンタイトは作れね。だからな、タケル、お前が自分でやるんだ!」

「......分かった。やってみる。ありがとうダイロックさん」

「なーに礼はこっちが言わなきゃな、最近俺は腰を痛めちまってよ、仕事が出来ねえんだ。だが、客から柔らかいアダマンタイトを作る注文を受けてな、どうしようかと思ってたところさ。ちょうどいいから、タケルにやってもらうだけだ」

と言って、ダイロックは鍛冶場に入ると、元気に剣を打ち始めた。


シルビアさんが無双するお話でしたが、本当に残念ながら一人称のおかげで描写出来ませんでした。


すみません、嘘付きました。戦闘シーンが苦手なので一人称を良い事に逃げました。

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