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今回はちょっと難産でした。

予定をちょっと過ぎての投稿になりました。もし、待っていてくれた方がいたら、すみませんでした。

次からは、安易に活動報告に次話の投稿予定とか書かないように気をつけます。

今日は寝る前に、この前アインと約束した強化について考えている。一つの案としては、アインのゴーレム核に複数の魔結晶を連結する事だ。ミスリルで繋いでみようか? 強度を保つのが大変だよな。でも、使える魔力量が数倍になることで、体を大きくできると言うメリットがあるな。今のサイズにしているのは、大きな体を維持する為に魔力を使うと普通のゴーレムと同じになっちなうからだし、今のスピードを得るためには致し方ないところだ。普通のゴーレムはもっと大きいんだよな。でも、動きが遅く、戦争の時に城壁や、街の外壁を破壊する事が主目的になる。相手が動かないんだからスピードよりも硬い体と強い力が求められる。冒険者が使っているゴーレムは少し小さめでスピード重視にはなっているが、アインほどではなく盾と言うか壁役をさせるか、大きな獲物で動きが遅い魔物を取り押さえる。と言った用途に使われているようだ。

「今のスピードを維持したまま体を大きく出来れば確かに強くなったと言えないこともないよな? でも、ツァイより弱いって事を気にしてるみたいだからなー」

対空戦闘が出来るようにするってのは体を大きくしても無理な話だ。ゴーレムのアインに対空戦闘なんてどうやってやらせれば良いかなんて、想像もつかない。案と言えばもう一つ有るには有るんだが、しばらくは無理だ。......そろそろ眠くなってきた。明日ケーナはお手伝いクエストだから、何か作ってみよう。



今朝も、いつものように修練だ。ケーナは、アインと、俺はガーネットと模擬戦をした。それが終わると、ガーネットが。

「タケル、明日からしばらく修練には来られなくなる。少し離れた山間の村から近隣にガルムの群が来ているとの連絡が入った。今日これから準備に入って明日には街を出発しなければならない」

ケーナが。

「ガルムって、大きなオオカミの魔物だよね。ガーネット姉ちゃん気を付けてね」

「ありがとうケーナ。しかし、群の規模もわからないんだ。普通の群なら20匹から30匹ってところなんだが。万が一と言うこともあるし。騎士団2小隊に魔術師団1小隊、それから、冒険者ギルドにも依頼を出すんだ。今日中には依頼が出されると聞いている。複数のパーティが参加する事になるはずだ」

「ふーん、冒険者は斥候ってところかな? 俺達は斥候とか出来ないな」

俺はとべーるくん2号があるから、偵察出来ないことは無いが森の上から見ただけじゃガルムの規模を正確には把握出来ないだろう。

「ガルムはDクラスの魔物だが群の規模によってはかなり手強い相手だ。冒険者には斥候だけでなく、戦闘や回復も、してもらわなければならなくなるだろう。標準的な冒険者パーティでないとな」

それを聞いたケーナが、俺に尋ねてくる。

「ファミーユは標準からは外れてるよね?」

「だろうな、ケーナも俺もアインも基本は近接戦闘で、ツァイはファイアーボルトと角しか攻撃手段が無い。俺もケーナも回復は出来るけどハイヒールまでだからな、後は魔術師とスカウトとちゃんとした回復役は欲しいところだな」

「ファミーユ。それがタケル達のパーティ名なのか? 聞いたことのない言葉だな」

「家族って意味なんだって。タケル兄ちゃんが付けたんだよ」

「俺が育ったところでは家族の事を、そんな風に呼ぶ国もあったんだ」

「なるほど、家族か。良いパーティ名だな。冒険者のパーティ名は勇ましい物が多いからな、そう言うのはタケル達らしくていいな」

ガーネットも俺達の関係やケーナの生い立ちのことは話してある。と言うより、修練を頼まれた時の雑談の中で話した。

「と言った訳で、この街を数日間留守にする事になる」

「気を付けて行ってこいよ」

「ケガしないでね。ガーネット姉ちゃん」

「ああ、ケガなどするものか。それより、自分たちが留守の間は、ケーナ達にこの街を守ってもらわないとな。でも、ケーナも無理は禁物だぞ」

「うん」

ガーネットと別れた後は、ケーナはアインと一緒にお手伝いクエストに、俺は魔道具を作ったりして過ごした。


「さーて、こんなもんかな」

ゴーグル兼ヘルメットになる魔道具を作った。飛ぶにもツァイに乗るにも必要な物だ。頭の上にカチューシャのように装着し、頭全体を物理障壁で包む物だ。そのままでは、宝石が付いたカチューシャそのものなので、自分で付けるには抵抗を感じた俺は、マイクを伸ばしインカムみたいな機能も付けることにした。「ろくおーんくん」を作ったときに風魔法で音声を拾い、再生できる事は確認済みだったので、魔道具間で風魔法で通信出来ないか試したところ、可能であることがわかった。要するに糸電話だ。風魔法なので、開けた場所でないと使えないし、距離が離れすぎるとタイムラグが出てしまうが、空を飛んでいる時や、馬に乗っている時に会話するならこれで十分だろう。これで、前から飛んでくる物に気を付ける必要も、風圧で目が開けていられないなんて事も無くなる。

「次はアインだな、魔結晶を連結するとか、なんのひねりも無いけど、魔力の総量を増やすことで出来ることは増えるはずだ」

アインの強化パーツを作ってみる事にした。と言っても、魔結晶をミスリルで連結し魔力総量を増やすだけだが、オリハルコンのケースも作り、ケースを強化する記述魔法を描いた。これで、ゴーレム核を狙った攻撃からも守れるだろう。アインなら自分の意志で体のサイズは変更できるはずだ。



今日は、ケーナと魔物討伐だ。今日からはゴブリン以外の魔物も相手にするつもりだ。オークやコボルトになるだろうが、一応掲示板も確認しておこうと言うことで、冒険者ギルドに来てみた。ギルド内はいつもより人が多い気がする。掲示板の前にも人集りが出来ている。きっと例のガルムの件だろう。などと考えていると。

「よう、タケルもガルム討伐か?」

振り返ると、蒼穹の翼のみんながいる。バトロスに声を掛けられたらしい。

「うちのパーティが行けるわけないだろ。ガルムってDクラスの魔物だって言うじゃないか。うちはパーティクラスはEだぞ」

「確かに、ケーナを連れて行くわけにはいかねえか。今回の依頼はパーティ限定だしな」

「だったら、絶対に無理じゃねえか。蒼穹の翼は受けるのかー。相手がDクラスだからって、油断する訳は無いだろうけど、相手の規模が不明だって言うし気を付けて行ってきてくれよ」

「そうなんだよな、規模が不明ってのがなー何とも気に入らないが、その調査も含めての依頼だってんだからしょうがねえよな、斥候と回復が必須ってんだからな」

スナフが。

「まあ、うちはスカウトもヒーラーも優秀だからな。そんな依頼でも受けられるってことだ。がははは」

ヒースが。

「騎士団も魔術師団も一緒ですし、滅多なことにはならないでしょう。タケル殿もそのうちパーティメンバーを増やすのでしょうから、今回は我慢ですかね」

「我慢とかしてないし。もともと、それほど積極的にクエスト受けるつもりもないんだよな。そろそろ店も始めたいしな」

「そう言えば、どのくらいの予定で討伐に行くんだ?」

「そうですね、行きは上りになりますけど現場に行くだけだと2日程でしょうか。騎士団が馬車を用意してくれるそうですから。向こうに着いたら、さて、どのくらいかかることやら。こればっかりはガルムの規模によるとしか言えないですね、最悪村に籠城して救援を待つなんて事だって無いとは言えない」

そんなヒースにスナフは。

「全く、ヒースは心配性だな。ガルム相手にそんなことになるわけねえだろ」

「だから、最悪と言ってるじゃないですか。私だって、そんなことになるとは思っていませんよ」

俺達がそんな話をしていると。向こうで話していた、ケーナとアシャさんとヴァイオラも終わったようだ。

「じゃあ、行ってらっしゃい。アシャ姉ちゃん、ヴァイオラ姉ちゃん」

「ああ、行ってくるよ」

「はい、行ってきます」

俺も2人に。

「気を付けて行ってらっしゃい。アシャさん、ヴァイオラ」

「行ってくるよ、タケル」

「行ってきます。もし、ピンチになったら、また助けに来てくださいね。ふふふ」

「はははは、まーかせなさい」

「ふふふ」


蒼穹の翼と別れて掲示板を見ているが、これと言って目を引く物もなく。ケーナに声を掛ける。

「何か、良いのあるか?」

「どれが良いかなんて、あたしに判るわけないよ?」

「ですよねー。と、言うことで、今日はオーク討伐に行きまーす」

「オー!」

と言うわけで、街の外でオーク退治に向かった。


俺達は話しながら街道を歩いている。

「ケーナ、オークの棍棒には注意しろよ。あれに殴られたら、俺でも頭が取れちまう。それから、刀で受けるのもしないほうがいい」

「えー、頭が取れたらあたしは困るよ」

そりゃそうだろう。困らないヤツがいたら会ってみたい。

「あ、ケーナ、これ付けてみな」

「なんだいこれ、髪飾りじゃないか。あたし髪の毛まだのびてないから、こういうのいらないけど?」

と、言いながらも素直に頭に付けてくれた。耳のところがずれていたので、直してやる。

「髪飾りに見えるけど、なーんと、頭を包み込む物理障壁を張る魔道具だ。首から下は責任持てないからな、自分で何とかしてくれ。ちなみに障壁に加わった衝撃は中には通らないから、頭を殴られても頭に掛かった力が全部首にきて首が折れるなんてことは無いから安心してくれていい。オーガの棍棒くらいは防ぐはずだぞ、試してはいないけどな。でも、思い切って殴られてみるって選択はあまりおすすめしない、万が一ってこともあるからな」

「そんなことしないよ、これを付けるだけで良いのかい?」

「左の耳の部分に魔石が有るから、そこに魔力を流せ、切れそうになったら、左の耳に「びー」って音がするから、追加で魔力を流すこと」

俺も、同じ物を頭に付けながら。

「それから、こいつを付けている者同士は離れていても、会話が出来る。と言っても、お互いに相手が見えてる範囲でだけどな」

「見えるなら、大きな声で話せば良いじゃないか」

「小声で話さないと、魔物に見つかっちゃうだろ?」

「あ、そうか」

「さて、そろそろかな」

ツァイを残して3人で探していると、3匹のオークがいた。

「とりあえず、ケーナは1匹な。残りは俺達がやろう」

オークは大きいので、アインで稽古してないしな。

「うん!」

と、元気良く走り出したケーナを俺とアインが追い越して、2匹のオークを倒した。ケーナは残った1匹に斬りかかっていく。やってみると、ケーナの素早い動きにオークは付いていくことが出来ず、一方的に斬られている。ただし、ケーナもオークの分厚い皮膚と脂肪に阻まれ致命傷はあたえられない。オークの身長170cmに対しケーナは140cmくらいしかないので、脇差しでは、なかなか、急所に届かない。オークの棍棒を躱しつつ斬りつける。あのスピードの棍棒を至近距離で躱しているのだから大したものだが、結構プレッシャーを感じているはずだ。緊張が切れた時が危ないかもしれないと思って見ていると。攻撃が全く当たらないことに焦れたオークが大降りしたところを姿勢を低くしてすり抜けざまに左のアキレス腱に斬りつけた。後ろに抜けたケーナを追って振り向こうとしたオークは、アキレス腱を切られたためにバランスを崩し倒れ込んだ。そこで振り向いたケーナは首を切り落とした。

「ふう」

と、息を吐き出して緊張を解いたケーナが俺の方を見て。

「タケル兄ちゃん、オーク倒したよ!」

「ああ、大したもんだ。相手の体勢を崩して攻撃したのは正解だな」

「へへ、脂肪が厚くて利いてないみたいだったからさ」

「でも、それに気が付くまであんなに近くで攻撃を躱し続けるってのは上手くないな。ちょっとかすっただけで吹き飛ばされるんだ。思ってる以上にプレッシャーを感じてたはずだ。緊張がとぎれると当たっちまうぞ。そうしたら、そこで終わりだ」

「プレッシャーかー。うん、確かに緊張してたかもしれない」

「緊張して動きが鈍る訳じゃなかったからな、適度な緊張はしててもいい。ただ、緊張しっぱなしだと、疲れを自覚出来なかったりするからな、注意しろよ」

「うん、わかった!」

「よし、じゃあ、もう少しオークと1対1な」

「うん!」

俺達は、また、オークを探して歩き出した。


結果から言うと、ケーナは1対3でもオークを倒す事が出来た。剣だけで戦おうとせず、チーフ(リボルバーワンド)も使っているが、大したものだ。途中にアインの強化も試してみた。......俺って、アインに勝てないかもしれない。相性が悪すぎるなアインとは。



翌日、お手伝いクエストをするケーナと別れた俺は、店をオープンさせることにした。

「うん、こんなもんだろう。花輪も花かごも無いけど。アイン看板は出したしな」

店の名前は、「鍛冶と魔道具の店ファミーユ」だ。最初のうちは、鍛冶品と魔道具をオーダーメイドで製造販売するつもりだ。アイン看板には、「困ってることを相談してください。解決する為の魔道具を制作いたします」と書いておいた。普通の人が、魔道具イコール高価な物ってイメージを持っていることは、この前のガーネットの話で理解している。そう簡単には客は来ないだろう。オーダーメイドについては、特に気にする必要は無い。魔道具なんてどこの職人でも大量生産はしていないみたいで、全て、オーダーメイドのような物だ。俺は、魔結晶や魔石を自分で用意出来るし、モデリングを使えば魔法陣を描くのも、成形するのも簡単に出来てしまう。だからといって、今まで売られているような物を安く売ると、他の魔道具屋が困る事になるだろう。ずるしてスキルやステータスを上げたからなー、そいつを使って真面目に商売してる人たちから客を奪うつもりはない。よって、客が欲しい物をオーダーメイドで提供するって事にしたわけだ。だいたい、自分の魔道具ばかり作っていたからな。売れるような物は開発していないし、冒険者兼業だから、自分のアドバンテージを考えてしまうと、今まで作った魔道具は売る気になれない。ケーナと討伐に行く日は休みにして、1日置きに店を開ければ良いだろう。


今日は開店1日目だ宣伝もして無いんだから、当然客は1人も来ない。

「暇だ、無茶苦茶暇だ。なにか作ろうかな? なにか良い物ないかな?」

そんな簡単に客など来るはずもなく、暇にしている。宣伝を兼ねてなにか作って売り歩いてみようか? それとも、ピンポイントで何か作って売り込んで見るか? そう言えば、ダーロットが魔物の解体が大変だって言ってたな。

「高周波ブレードの解体用包丁でも作ってみるか?」

俺は、超音波包丁を作ってみることにした。たしか、刃を超音波で1秒間に数万回振動させるんだったよな? 元の世界では実用品も有った訳で、必ずしもSF武器って訳じゃない。もっとも、SFの武器みたいにどんな物でも切れるって訳じゃ無いらしいけどな。

「音波かー。音となれば風魔法だよなー。刃を少しだけ前後にスライドするように柄に取り付けて、後は、風魔法で小刻みな振動を与えればいいのかな? あ、防震対策もしないと手に何か悪影響とか出そうだな」

などと、色々アイディアを練っているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。



翌日、俺達は討伐に出かけた。いつもの街道とは別の道を歩いている。

「今日はあっちの森の方に行ってみようぜ、魔物によっては、3人で連携する訓練もしてみよう」

「うん、ところで、タケル兄ちゃん」

「店なら、客は1人も来てないぞ。昨日は売り物になりそうな魔道具のアイディアを練って終わりだ」

「なんで、あたしが聞きたいことがわかったの?」

『ウシロメタイキモチガアルカラ、イイワケヲカンガエテオイタンダヨ』

「あーそうか! ちゃんと働いて無いって事に引け目は感じてたんだね」

「あー、君たち勝手に人の心を読まないように。それにな、今までに無かった物を作ろうとしてるんだ、なかなか、大変なんだぞ」

「リボルバーワンドやとべーるくんを売れば良いんじゃないの? 欲しがる人いっぱいいると思うよ?」

『トベールクンノコトハ、ジンルイノユメッテイッテタヨネ? ジブンダケデドクセンスルノ?』

「あんな物売るわけないだろ? あれは、俺達のパーティ専用にするんだ。他のパーティに使われると、獲物を取られる。それに、安全性がかなり低い、未亡人製造器とか言われたくねえ」

「そんな危ない物に乗ってるの? タケル兄ちゃんが死んじゃったら、あたしどうしたらいいの?」

『ケーナヲノコシテ、シヌヨウナコトヲシタラ、アインガユルサナイヨ』

ケーナが可愛いことを言ってくれる。

「ちゃんと仕組みを理解しないで使うと危ないってことさ。作った本人がちゃんと使えないわけ無いだろ? 心配するな」

俺は、ケーナの頭をグリグリとなでながら言った。

「タケル兄ちゃん、痛いよ。グリグリしないでよ」

「あははは、悪い悪い、ケーナが可愛いこと言うからついな。ゴメン」

「もう! 可愛いとか言わないでよ」

「はははは」

『ケーナハ、カワイイゾ』

などと、話しながら街道を歩いていると。前の方からふらふらと歩いてきた人が突然倒れた。俺とケーナは顔を見合わせると、あわててその人に駆け寄った。うつぶせになった人を仰向けに起こした。かなり若い男だ。俺達は声を掛けた。

「おい! どうした、大丈夫か?」

「けがしたの? どこか痛い?」

すると、男は、俺の服の袖を掴み。

「い、いそいで、...ガ、ガーゼルの冒険者ギルドに...行かなければ」

と、かすれた声で、必死に訴えた。

「わかった」

おれは、男に肩を貸すと。ツァイの引く馬車の荷台に横たわらせた。女の子なら抱き上げるんだけど。ケーナとアインに、水を飲ませてやるように言い、馬車を街に向かって走らせた。


ギルドに付くと水を飲んで少し回復したのか自力馬車から降りた男は勢いよく中に飛び込んで行った。俺達も成り行きで中に入った。男は受付で話をした後、奥から出てきた副ギルド長のバッカスに肩を貸されて、カウンターの奥に連れて行かれた。俺は、アネモネさんに声を掛け。

「アネモネさん、今の人どうしたの? 東の街道で拾ってきたんだけどさ。必死になってここに来ようとしてたみたいなんだ」

「タケルさんが連れてきてくれたんですね。ありがとうございました。内容を検討して正式な発表となるでしょうが、タケルさんもギルド内に待機していてくれませんか?」

「ん? まあ、乗りかかった船だし、気になるからかまわないよ。あっちのテーブルでケーナと何か飲んでるよ」

「はい、事情も話さずすみませんが、よろしくお願いします。何となくですが、タケルさんにいてもらった方が良いとおもいまして」

「ギルドの受付の勘ってやつかい?」

「まあそう言うことです」

俺とケーナは、アネモネさんに言われた通り、テーブルで飲み物を飲むことにした。アネモネさんは、他の冒険者達にも少しの間ギルド内で待機するようにお願いしていた。


しばらく、ケーナと話をしていると。受付カウンターの中からバッカスが大声で呼びかけた。

「ギルドからの特別クエストだ、ここにいるみんなは大会議室に集まってくれ!」

アネモネさんのお願いが有ったせいばかりではないようで。騒ぎを気にした冒険者達はあれから出ていった者はいない。入って来た者たちも残っている。まだ時間も早かったせいか、俺達を含んで30名ほどが大会議室に入っていった。みんな思い思いに椅子に座ってバッカスの話を待っている。そこにエメロードが入ってきて。

「みんな、集まってもらってすまないね。さっそくだけど、コルム村から使いが来た。先日ガルム討伐依頼が出たことは覚えているだろう? ガルムだけじゃなくてどうやらフェンリルもいるらしいって話だ」

少しざわついていた会議室の中がしーんと静まりかえった。フェンリルってなんだ? ガルムがいるならフェンリルがいてもおかしくはねーんじゃねえか? どっちもオオカミの魔物なんじゃね? とか俺が考えていると。エメロードは続けて。

「知ってのとおり、あいつはAクラスの魔物だ。冒険者総出で出張るだけじゃなく領主の騎士団にも出動を要請しなきゃならない。本当ならだがね。使いの話じゃ、白いガルムを見た者がいるってだけなんだ。Dランク以上の冒険者が確認していればギルドとしても動きようが有るんだけどね」

へー、Aクラスの魔物か。確かAクラスってやつは、とてつもなく強いが、過去に1度でも人間に討伐された事のある魔物って事だよな。それこそ、騎士団総出で倒したとしても、討伐の記録が有ればとりあえずAクラスだったよな。ちなみに、討伐記録のないドラゴン種なんかはSクラスだそうだ。エメロードの話は続いている。

「使いは、人しか通れないような近道の間道を使ったらしく。討伐隊とは会っていないそうだ。討伐隊からの報告を待っていたら手遅れになるかもしれない。かといって、確証無しに騎士団は動かせない。早急に状況を確認するために、ギルドの職員を出すことになった。付いては、馬に乗れる者数名に護衛を依頼したい。もし、フェンリルだった場合には、その場に残って村の防衛をしてもらう事になるかも知れないからね、そこんところを良く考えて志願してもらいたい」

予定通りならアシャさん達はもうコルム村に着いてるはずだ。どうする? 俺は、今すぐにでも飛び出したい衝動に駆られた。しかし、相手はAクラスの魔物だ今まで討伐してきた魔物とは格が違うんだろう。などと考えている間に、他の冒険者達は、色々と質問をしていたようだ。俺は、大声で。

「護衛する職員は何人なんだ?」

エメロードは俺を見つめると。

「1人だね、残った者で、色々やらなきゃならない。場合によっちゃ国の騎士団も出てくる事になるんだ、人はいくらいても多いって事はない」

俺は、立ち上がると。

「だったら、体重が軽い者を選んでくれ。馬車で2日の距離なら、俺なら1刻半も有れば届けてやる」

周りの冒険者達から、罵声や呆れた声が上がるが、発言者が俺だとわかると皆口をつぐんだ。殲滅の白刃の二つ名や、最近やらかした、ワイバーン3匹の討伐のおかげか?

「どうやるのかは、直ぐにわかるだろう。タケル任せたよ。では、解散。タケルはギルドの前で待ってておくれ。準備にどれくらい掛かる?」

「討伐途中で帰ってきたんだ、直ぐに出れる」

「わかった、こちらの準備もそろそろ終わる頃だ」


俺は、ツァイの引く馬車に戻って、とべーるくん2号の準備をしながら。

「アイン、ゴーレム核に戻ってくれ。お前には一緒に来て欲しい」

アインは、ゴーレムの姿を解くと、岩の中からゴーレム核が現れた。俺は、それをポーチにしまう。

「タケル兄ちゃん、気を付けてね。絶対にあたしを1人にしないでね」

ケーナの頭をグリグリしていると。エメロードを先頭にギルドの職員が大勢出てきた。冒険者達はさっきから、俺達の周りを囲んで、俺の様子をうかがっている。すると、革鎧を着て腰にショートソードを付けたアネモネさんが俺に向かって歩いてくる。

「タケルさん、よろしくお願いします」

「え? アネモネさんが行くのか?」

驚いて聞く俺に、アネモネさんは。

「はい、かなり危険な任務になることは承知していますが。ここで、待っているのも辛いですし。わたしはこう見えても、ギルドの戦闘部隊にも所属しているんですよ」

ギルドの戦闘部隊だって? それじゃ俺より高ランクなんじゃね?

「わかった、よろしく頼むよ。じゃー、これを付けてくれるかい」

俺は自分の頭にゴーグル兼ヘルメット兼インカムを付けながら、同じ物をアネモネさんに渡した。あ、こいつの名前考えてない。

「ここのところに魔力を流してくれ。しばらくして「びー」って音がしたら、追加で魔力を流してくれ」

「はい、でも、何をする魔道具なんですか?」

「風が強いから、目を守るように、物理障壁が出る魔道具だ。準備はいい?」

「はい。ところで、馬は?」

俺は、それには答えず。とべーるくんに足を固定すると。アネモネさんの手を引いて、抱き寄せた。

「きゃっ」

可愛い悲鳴を上げて、俺の腕の中に収まったアネモネさんをお姫様抱っこに抱え上げると。周りから怒声が上がったが、気にせず。

「じゃあな、ばあさん行ってくる」

「孫をよろしく頼んだよ」

「えー、孫だって! 全然にてねーー!」

と言うと。上昇用の魔石に魔力を流し、空中に浮かび上がった。ボードのノーズを上げると、リストバンドに魔力を流し緩い螺旋を描いて空に飛び出した。

「きゃーーーーー」

アネモネさんの可愛い悲鳴を聞きながら、俺は、インカムを音量が調整できるようにしなきゃなと考えていた。


次回は、戦闘シーンがマシマシになると思いますが、苦手なんです、戦闘シーン。

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