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アシャさんの買った物って?

サブタイトルと中身はあんまり関係ないです。

サブタイトル付けるの難しいでーす。

翌朝いつものようにケーナと修練を始めた。ケーナは型を繰り返し、俺は型に入る前に、集中して五感を研ぎ澄まし周りを感じようとする。すると、いつものシルビアさんとアリアちゃんの気配の他にもう1人分の気配を感じた。建物の陰からこちらを伺うようにしている。たぶんガーネットだろう。俺は集中を解いてガーネットの方に顔を向けると。俺は。

「ガーネットさん、おはようございます」

ケーナも、俺が顔を向けた方を見て、ガーネットに気が付いて。

「あ、ガーネットさん、おはよう」

と、声を掛けた。宿の陰から出てきたガーネットは少し顔を赤らめて、俺達に挨拶を返してきた。

「おはようございます。タケルさん、ケーナさん」

そして、頭を下げると。

「一昨日は、大変見苦しい姿を見せてしまって申し訳ない。酔いつぶれて、寮まで送ってもらうなど。全く情けない」

ガーネットは、お持ち帰りの噂とかは知らないのかな? 知っていれば、もっと面白い反応がみれただろうしな。

「あー、その件に付いては、あまり気にしないでくれるとありがたい。ほら、今日から一緒に修練する仲間だからな、あまり遠慮とか無しで行きたいんだ。俺の事はタケルって呼んでくれないか? 敬語も無しにしてくれ」

「しかし、稽古を付けてもらうんだ、いわば、弟子なのだから、そう言うわけにはいかない。でも、タケルさんが、自分を呼び捨てにするのも、敬語を使わないのもかまわない」

「ああ、そうさせてもらうけど、ガーネットもそうしてくれないか? なんだか、距離が有るみたいでっちょっと嫌なんだよ。知り合ったばかりだから、距離を感じるのは当たり前なんだけどさ、出来れば、友達になりたいし、形からでも親しい感じにすれば、距離感が縮むのも早いんじゃないかと思ってさ」

ガーネットは少し考えてから。

「了解した。では、普段通りに話すことにする」

「あたしのことは、ケーナって呼んでね。ガーネットさん」

「ああ、わかった。では、ケーナも自分のことをガーネットと呼んでくれ」

「えーと、ガーネット姉ちゃんでいい?」

「ああ、それでいい」

そこで、俺はガーネットに提案する。

「じゃあ、ガーネットの剣を見たいから、俺と手合わせしてくれないか? ここじゃ周りに迷惑かけちまうから、店の作業場でどうだ?」

「ああ、かまわない」

俺達3人とアインは、店に向かって歩いていった。

「ガーネットに稽古を付けるって言っても、今までやってきたことを俺の型に変えるってのは無理があると思うんだ。誰に習ったんだい?」

「父だ、騎士団に入ってからは先輩や団長に付いて修練してきた」

「だったら、俺と立ち会いながら、今の技をさらに極めた方が良いのかな? まあ、方針を決めるためにも一度立ち会ってみようか」

「ああ、よろしく頼む」

店の作業場に入ると。ツァイが。

「おはようございます、主様、お嬢様、姉様。あら、お客様もいらしたのですね、おはようございます」

「おう、おはよう、ツァイ」

「ツァイおはよー」

『ツァイ、オハヨウ』

「お、おはよう?」

「そうか、ガーネットは初めてか、こいつは俺のゴーレムホースのツァイだ、ツァイ、この人は、ガーネット、今日から、朝は俺達と一緒に修練するんだ。ここを使うけど、いいよな?」

「ツァイと申します、よろしくお願いいたします。主様のお好きなようになさってください」

ツァイはガーネットに挨拶したあと俺に返事をしてきた。

「わ、わたしは、ガーネット、こちらこそよろしく。......タケルさん、このゴーレムホースが喋ってるのか?」

ガーネットの狼狽えようを見て、少し笑いながら。

「あははは、俺の作ったツァイは普通のゴーレムホースとは少し違うんだ。それから、ガーネット、俺の呼び方が戻ってるぞ」

「あ、ああ、そうだな、タケルが作るゴーレムは変わっているんだな」

「かもね、さて、まずはこれを」

俺は用意してあった訓練用の剣をガーネットに渡した。

「こいつは、俺が作った訓練用の剣だ、ガーネットはロングソードでいいのかい? 握りながら魔力を流すと物理障壁を張る。だいたい直径5cmくらいかな、当たっても大きなケガをしないように弾力を持たせてあるしヒールが掛かるから思いっきり出来るはずだ。障壁が青から赤に変わったら、魔力を追加で流してくれ」

剣を受け取るとガーネットは。

「ああ、これは、普段使っている剣とほとんど同じだな、これを自分のためにわざわざ作ってくれたのか?」

「まあね、この前帯剣してた剣に合わせてみた。ケーナの訓練にも使えるし、応用も考えてあるから、気にしなくていいぞ」

俺達は、作業場の中央で向き合った。

「ケーナ、合図してくれ」

「うん、じゃあいくよ。......はじめ!」

俺は剣を両手で持ち正眼に構える。ガーネットは右手1本で上段に構える。ガーネットが素早い踏み込みで剣を打ち込んできた。俺はそれに剣を合わせ、剣筋をずらし、そのまま、横薙に切り込んだ。素早く剣を引いたガーネットは俺の剣を受け、そのまま下がって少し距離を置くともう一度上段から鋭く切り下ろす。俺は、今度は剣を横に倒し持ち上げて受ける。ガーネットは剣同士がぶつかり合うと素早く剣を引き俺の右から斜めに切り下ろしてきた。俺は体を引き戻しそれを避けると、今度は上段から打ち下ろすと見せかけ途中で剣筋を変えると、合わせに来たガーネットの剣を避けるように胴にに剣を叩き込んだ。ガーネットは後ずさると。

「まいった」

「まだ行けるだろ?」

「ああ」

「衝撃はどう?」

「これなら、思い切って訓練出来るな」

それから、何度も打ち合いを重ねる。ガーネットはかなりの使い手だということがわかった。10回程立ち会ってから。

「この辺で良いだろ」

俺達はお互いに剣を引いた。ガーネットは肩で息をしている。とは言え、スタミナもかなりの物だ。

「思ったとおり、タケルは強いな。1本も取れなかった。こんな事は久しぶりだ。稽古を頼んで良かった」

「いや、ガーネットこそ、強いよ。で、どうだろう? こんな風に打ち合いをする事で、なにかつかめるんじゃないかと思うんだけど」

「そうだな、今はタケルのスピードに翻弄されているが、続けていくとこでいずれは1本取りたいな」

「そうそう、やられはしないぞ」

「これからもよろしく頼む。ところで、この訓練用の剣は凄いな。当たれば衝撃はあるが、ダメージは受けない。ケガを気にせず思い切り打ち込めるのはいいな」

「だろ? 魔道具としちゃそれほど複雑な物でもないしな、騎士団で訓練用にどうだい?」

「そうだな、団長に話してみよう。2本とも借りていっていいか?」

「え? 本当に? いやー、言ってみるもんだな」

「まだ、どうなるかは分からないぞ? だが、買うとしたら少し纏まった量になるだろうな」

「話をしてくれるだけでもいいさ。冒険者ギルドにも持ち込んでみようかな?」

「ああ、そうするといい」

「さて、次はケーナだ。打ち込んでこい」

「うん!」

ケーナと打ち合いを始めた俺達の横で、ガーネットは先ほどの打ち合いを思い出しながら、剣を振っているようだった。


修練を終えた俺達は、明日の約束をして別れた。朝飯のために宿に戻りながらケーナが。

「タケル兄ちゃん、ガーネット姉ちゃんどうだった? 強かったのは分かったけど、タケル兄ちゃんには適わなかったね」

「ん? 強かったぞ、俺の方がスピードが有るから、今のところは負けないだろうが、基本がしっかりしているからな、そのうち俺のスピードに慣れてくるだろ。その時には何か考えないと、やられちまうな」

「何かって?」

「俺が習った剣術は奥が深いんだぞ。そうそう遅れは取らないさ。もっとも、奥伝の2段までしか出来ねえけどな。俺だって、ガーネットと立ち会って行けば強くなれるさ。それにしても、ケーナも結構やるようになったよな。そろそろ、街の外に出てみるか?」

「え? いいのかい? F-に上がるには、Gクラスのうちに1度は討伐やらなきゃいけないんだって、アネモネさんが言ってた」

「そうか、だったら、G+になったら、一緒に討伐行くか」

「うん!」


俺達は宿に戻ると朝飯を食い、いつものようにケーナとアインはクエストに、俺も冒険者ギルドでBクラスの魔核が取れる魔物の討伐を受けようと思う。例によってアネモネさんに。

「アネモネさん、おはようございます。Bクラスの魔核が取れる魔物って討伐クエストとか出てます?」

「おはようございます、タケルさん。Bクラスですか? そんな物がそうそうあったら、この街は人が住めなくなっちゃいますよ。Bクラスなんて、ソロで討伐する物じゃないんです」

「俺の所のパーティはケーナとアインだぜ、あいつら連れて行ける訳ないでしょ」

「まあそうなんですけどね。でも、ケーナちゃんはそろそろ、G+に昇級ですよ、F-に昇級するには魔物を討伐しなきゃなりませんからね」

「それは、今朝ケーナから聞いたよ。今度、一緒に行ってみるよ」

「そうですね、タケルさんがいるんですから平気ですね。で、Bクラスの魔核を持つ魔物ですね。いつも出ている依頼ではありますが、ワイバーンの毒袋が有りますね。薬の材料になるそうです。街道に出てきた時に退治されて持ち込まれる感じですね」

「ワイバーンって、ドラゴンみたいなヤツだろ? どんな特徴があるのかな」

「ドラゴンの亜種ですね、飛ぶことに特化した下位種と言ったところでしょうか。ドラゴンと違って足は2本ですし、ブレスを吐きません。ですが、尻尾に毒針が有ります。顎の力も尻尾の力も強いです。普段は魔の森に居ますが、たまに街道に出てきて旅人を襲います。騎士団や高位の冒険者が退治していますが、なかなか、大変なんですよ」

「ふーん、そいつがBクラスか、ありがとうアネモネさん」

「はあー、行くんですね。気を付けてくださいね」

「ああ、じゃあ行って来るね」

「行ってらっしゃい」

ギルドを出た俺は、店に向かった。

「ワイバーンか、とべーるくん2号を作ってからだな。さて、改良点は検討ずみだからな、さっそく作ってみようか」

とべーるくん1号の問題点は、グローブから風を出すために、飛んでるときに両手が自由には使えないこと。それに、グローブから出る風が、推進には弱くて、姿勢制御には強すぎるってこと。姿勢制御や方向の制御はボードを使うことで問題なく出来る事がこの前のテストで解かっている。となれば、グローブから風を出す必要はない。そこで、両腕に魔石を付けたリストバンドを付け、そこに魔力を流す事で、背中から風を出せばいい。風の方向は2方向として、1方は背中から垂直に、もう1方はボードの進行方向とは反対方向にすればいい、急ぐ時は両方1度に出せば2倍とは行かないまでも、スピードも出るはずだ。ボードはそのままで良いから、リストバンドを作るだけでいい。


「よーし、これでいいな。少し練習すれば行けるだろ」

ツァイに馬車を繋ぐと店を出た。鋼色のツァイは結構人目を引くようだ。しばらく通りを進んでいくと、服屋から出てきたアシャさんを見付けた。布の袋を胸に抱えて、なんだか嬉しそうだ。女の人が服を買う時に嬉しいのは、世界が変わっても同じらしい。......そりゃそうだよな。

「アシャさん、こんにちはー」

俺が挨拶すると。アシャさんは飛び上がりそうなほど驚いて、こちらを振り返った。俺だと気が付くと、あわてて袋を背中に回して、顔を赤く染め。

「コッ、コンニチハタケルサン」

と、ぎこちなく挨拶を返してくれた。昨夜のことがまだ、後を引いてるのかな? 俺は、動揺しながらも、普通に聞こえるように。

「新しい服買ったんですか?」

「へ? は、は、はい! そうなんです! 新しい服なんです!」

なんだか、声が裏返ってる?

「アシャさんならどんな服でも似合いますよね。今度、着てるとこ見せてくださいね」

「え? 見せる? そんな......だめ! だめです!」

と、叫ぶと、さらに顔を真っ赤にして走って行ってしまった。

「昨夜のこと、誤解は解けたよな? また何かやっちまったのかな、俺」

俺は、落ち込みながらツァイを進めた。

「今の方は、アシャ様と仰有るのですね。主様とお付き合いなさってるのですか?」

「そんな風に見えたか? 見えないだろ? 見えないよな。お付き合いしたくてもあれじゃなー、ガーネットさんの事は誤解は解けたはずだよな」

「では、ケーナお嬢様のスカートをめくった件では? 主様、いくら小さな女の子にしか興味がなくても、ケーナお嬢様の後見人としてはいかがなものでしょう」

「なっ、何でお前そんなこと知ってるの? 誰に聞いた? 小さい女の子にしかって、俺はお姉さんの方が良いっていつも言ってるだろ!」

「さきほど、訓練中にお嬢様と姉様に聞きました。それと、主様? 街の真ん中で小さな女の子が好きとか大声で言わない方が良いですよ」

「え?」

俺が周りを見渡すと、何とも言えない眼差しで俺を見ている人たちがいる。自分の背中に子供を隠すお母さんもいる。俺は、この場から逃げるようにツァイのスピードを上げた。


街から出て少し進んだところで。

「うん、馬車の具合はいいようだな。思ったより揺れないし。ツァイどうだ、重くないか?」

「はい、重量は問題有りませんし、ジョイントも不都合ありません」

ツァイは馬車を繋ぐためのジョイントを両肩からだして繋いでいる。馬車を作るのは初めてだが、現行の物をじっくりと観察して作ったからな、それに、ギミックも仕込んだし。ただし、ゴムが無いので、車輪は、普通の馬車と同じで、木製の輪に鋼鉄のリングをはめた物だ。物理障壁で被ってしまおうかとも思ったが、走るには良いかも知れないが、ブレーキが全く利かなくなるので止めた。

「よし、俺は、とべーるくん2号のテスト兼練習するからな、魔の森に向かって走ってくれ速歩で頼む」

「はい、主様」

俺は、御者台から後ろの荷台に移動すると、足にとべーるくんを装着した。ボードの魔石に魔力を流し荷台から飛び上がると、ノーズを持ち上げ、リストバンドに魔力を流した。俺は、空に向かって勢いよく飛び上がった。

「おー、やっぱり2号の方がスピード出るな」

さらに、ノーズを上げ宙返りに向かう。頂点で、ボードの上昇用の魔石に魔力を流し、大きな弧を小さな弧に変えながら両方のリストバンドの魔石に魔力を流した。重力に引かれて降下する速度を増した。ツァイの頭上を越え、最高速度に向かって、速度を上げていく。

「高さが有るから、スピード感が今一無いなー。この前のツァイの全力と変わらないくらいか。顔に受ける風はあの時くらいだな」

俺は、リストバンドの魔力を止め、速度を落としていく。ボードを左右に振ったり、急旋回したり、実用的では無いがスピンもやってみた。

「ゴーグル欲しいなー。ガラスが無いから、やっぱり魔道具かなー」

しばらく練習をして、ツァイに並んで飛びながら。

「ツァイ、このまま馬車に乗り移るから、速度を維持して走ってくれ。速度や方向がずれそうな場合は声を掛けてくれよ」

「いきなりで、大丈夫ですか?」

「まーかせなさい!」

一度ツァイを追い越すと。上昇し速度を調整、馬車の荷台に乗り移った。

「よーし。成功だ」

足からボードを外し、御者台に移った。

「ただいまー」

「お帰りなさい、成功ですね。でも、たまにはわたくしにも乗ってくださいね」

「空を飛ぶのも楽しいけど、ツァイに乗るのもまた別の楽しさがあるからな。よろしく頼むよ」

「お任せください」


そうこうしているうちに、遠目に魔の森が見えてきた。街道から少しだけ外れて、ツァイを止めると。

「魔の森に近づきすぎないように、魔物の襲撃に注意してくれ。万一の時は、馬車は放棄だ。また作れば良いんだからな、ツァイの安全を優先だいいな」

「了解いたしました」

「さて、俺はワイバーン狩りに行って来る」

「行ってらっしゃいませ」

ツァイに見送られながら、とべーるくん2号で飛び出した俺は、魔の森の上空を中心方向と言っても広すぎてどっちが中心か今一解らないが。とにかくツァイから離れるように推進用の魔石1個を使って飛び始めた。

「ワイバーンって、普段から空を飛んでるのか? どこかで休んでたりするんかな? 魔の森の中の事なんか情報が無いからなー。縄張りとか有るなら入ったところで襲って来るかな?」

頭を振り、監視をしようと思ったが、目が回りそうなので止めた。そこで、五感を研ぎ澄まし周りを感じようとしてみる。森の中には幾つか魔物の気配らしき物を感じる。種類や個体の識別が付くようになるにはもっと修行しなきゃならねえんだろうな。しばらく飛んでいると。俺を目掛けてかなりの速度で近づいてくる物がある。右斜め前で、俺よりも高い位置から向かってくる。俺は、そちらを見上げる。

「あれが、ワイバーンか?」

そこには、翼を広げ俺に向かって飛んでくる魔物がいた。魔石に連続して魔力を流し、ノーズを上にして急上昇する。空中戦なんだから当然上を押さえた方が有利になる。......はずだ。空戦のゲームではそんな事を言っていた。だいたい、見上げながらじゃ、太陽の光をまともに見たりして、不利だ。ワイバーンは俺に合わせて、頭を上げ向かってくるコースだ。俺は、ホルスターから、リボルバーワンドを両手に抜くとヤツに向けてアイスボルトを数発撃ち出した。向かってくる相手だからといっても、俺も移動しているわけで、見越し射撃をしないと当たらない。修行の中で銃を撃ったことが無いとは言わないが、高速で飛びながら飛んでくる標的に当てるなんてやったことは無いんだから、ゲームの空中戦の要領だ。ロボで空中戦とか燃えたなー。ほとんど外れたが、翼の付け根に1発当たった。

「よし! ゲーマーなめんな。とは、言っても、にわかゲーマーだけどな」

ヤツは少しバランスを崩したが、何事もなかった様に俺に向かってくる。かなり接近したところで、俺は体を横に傾け急旋回をしてすれ違う。目測を誤って翼の脇ぎりぎりの所を通った。あんな物に当たったり。尻尾を振り回されたら、やばかったかもしれない。旋回を止めると、とりあえず、ツァイが待っていると思われる方向に向かって全力で飛び始めた。レーダーとか、誘導用のビーコンとか欲しい所だが、そんな物は無い。ヤツも旋回して俺を追いかけ始めた。

「速度はあいつの方が出るな。すぐにも追いつかれそうだ。でも、旋回半径は俺の方が小さいな」

速度を維持したまま、ノーズを右に振りボードの向きに連動した方の魔石にも魔力を流す。横にスライドするような動きになったはずだ。ワイバーンだって空を飛ぶ獲物は襲うだろうが、獲物だって翼を使って飛ぶんだろうから、自然界にはこんな動きをするヤツはいないのだろう。俺がいるであろう位置で顎を噛み合わせるが空振りに終わっている。しかし、見失ってはいないようで俺に向かって旋回してくる。素早くボードの裏を前に向け、上昇用の魔石に魔力を流すと失速して落ち始める。

「木の葉落としってのはこんな感じかな?」

ヤツは俺を見失ったようだ。そのまま、森の木の直ぐ上まで落ちて、姿勢を直し、姿勢を低くして、高度を維持する魔石に魔力を流しボードを水平にして空気抵抗を極力抑え、両方の推進用の魔石に魔力を流すと全速力で逃げ出す。直ぐに俺を見付けたワイバーンは上空から俺に向かって全速力で急降下してくる。あれは、相当怒ってるんじゃね? 後少しで追いつかれるところで、ノーズを上に向け、急上昇する。俺を捕らえきれずにヤツは森に突っ込んだ。森の木々がワイバーンの勢いによって弾け飛んでいく。

「まさか、墜落とかしないよな? こんなところで死ぬなよ」

上昇しつつ、森を見ていると。木の枝をはじき飛ばしつつヤツが上昇してくる。

「ギャーーー!!」

一声吠えると、俺を追いかけてくる。宙返りして、ヤツの後ろを取り斜め上から。アイスボルトを連射する。今度は頭、背中、翼と結構命中している。翼の付け根にも幾つか当たった。翼の動きが少し鈍ったようだ。ヤツを追い抜くと。見えてきた森の終わる方に向けてさらに加速して逃げる。アイスボルトのおかげで、冷気がたまり動きが鈍ったようだ。

「ワイバーンもは虫類なのか? 変温動物か? もっとも、恐竜は恒温動物だったって話だけどな。筋肉を動かして飛ぶんだから、冷えは大敵だろ? まっ、動かしてるうちに体温上がっちゃうんだろうけど」

そうこうしているうちに魔の森の縁を越えた俺は少しだけ速度を落とし、後ろを振り返りヤツの位置を確認する。怒り狂ったように俺に向かって大きな口を開け迫ってくる。そこで、上昇用の魔石に魔力を流し急上昇する。ヤツは俺を見失ったはずだ。リボルバーワンドをホルスターにしまうと。太刀を抜き斜め上から推進用の魔石2つに魔力を流し急降下しながら、追い越しざまに振り抜いた。頭を失ったワイバーンはそのまま草原に落ちていった。

「よっしゃ! 魔の森の中に落としたんじゃ拾うの面倒だからなー。ツァイはどの辺にいるかなーと」

上昇し現在位置を確認すると2kmほど先に街道が見えた。そちらに向かって飛んでいき、ツァイと合流した俺は、ワイバーンが落ちた場所に戻ってきた。馬車の後ろをワイバーンに向けると、荷台を後ろにずらし後端を地面に付ける。ウインチからワイヤーを伸ばしてワイバーンに縛り付けると、ウインチを巻き上げ荷台に乗せた。荷台を基に戻して、毒が有るという尻尾に注意しながら縄で固定した。その後、頭も拾ってきて、荷台に乗せる。ワイバーンは頭の先から尻尾まで7mくらい有るため荷台からはみ出してしまうが、尻尾の先に毒針が有るため折り曲げて縛り付けた。

「荷台はまだ余裕が有るけど、今のやつもう2回やるかな? 魔核は後2つは欲しいよな」

「主様、まだ大丈夫は、もうダメだとも言いますよ? あまりご無理なさらないでくださいね」

「ああ、でも、疲れは無いかな? もう1回だけ行くか」

「はい、気を付けて行ってらっしゃいませ」

再びツァイに見送られながら魔の森に向けて飛び上がって行った。


それから、数十分後。

「ギャー! 無理! 2匹とか想定外!」

俺は2匹のワイバーンに追いかけ回されていた。ヤツらは、俺に噛み付こうとして向かってくる。普段から、単独で行動するせいか知らないが、連携を取らないどころか、お互いに相手を邪魔しながら追いかけてくる。そんな訳で何とか逃げられているが、ちょっとやばいんじゃねえ? 急旋回や急降下、さらにトリッキーな動きでヤツらを避けながら逃げ回っている。ただし、現在位置とツァイのいる方向は何とか捕らえている感じだ。

「2対1とか卑怯だぞ! トカゲ野郎!」

叫んでもどうなる物でもないが、叫ばずにはいられない。魔の森を抜け平原を逃げ回る。2匹同時に噛み付こうとしてくる所を、急上昇で躱しさらに全力で逃げ出すと。いきなり下から数本の火線が上がった。驚いたが、俺に向かって来たのではなく、後ろのワイバーンを狙った物のようで1匹の翼に命中した。そいつは錐もみ状態で地面に落下していった。残った方は驚いたようで、俺から視線を外し下をのぞき込んだ。そのチャンスを逃さず、俺は小さな宙返りでワイバーンの頭上に出ると太刀で頭を切り落とした。

「今のは、ツァイか?」

翼を焼かれたワイバーンを探すと、よろよろと起きあがろうとした所を、ツァイの角で首を切り落とされた所だった。ツァイって強いのな。俺はツァイの側に降りると。

「ツァイ助かったよ、ありがとうな」

「はあー、あれほどご無理なさらないように申し上げましたのに。ダメな主様ですね」

「あー、すまない、2匹1度に襲ってくるとか、想定外でさ」

「わたくしの言うことなど、心に留めてはいただけないのですね。ヨヨヨ」

「悪かったよ、俺が悪かったけど。ヨヨヨはねえんじゃねえか?」

「まあ、主様がご無事でしたので良いことにしましょう。これに懲りて少しは自重してくださいませね」

「ああ」

俺は、2匹のワイバーンを荷台に積み込み、街に向かって馬車を走らせた。 


街に戻った俺達を見た門番の騎士は、ワイバーンを見て驚いていた。街道に出たときには騎士団が1小隊

(20人くらいらしい)魔術師団が1小隊(5人くらい)で討伐するそうだ。ガーネットって、けこう凄いんじゃ? ワイバーンはブレスを吐かないのでその程度で良いらしい。盾と槍で魔術師を守りながら魔法を当てるらしい。必ずしも、討伐出来るとは限らず、撃退するときもあるそうだ。


門を抜けると、通りを解体屋に向かって進んでいく。ワイバーン3匹を積んだ馬車はかなり目立つのだろう。街の人たちが驚いたように俺達を見ている。俺は解体屋に着くと、馬車を裏手に回し解体を依頼した。

「こんちは、ダーロットさん。こいつの解体を頼むよ。とりあえず毒袋だけ直ぐに欲しいんだ」

「いらしゃい! って、ワイバーンじゃねーか、しかも3匹もかよ、タケル1人でやったのか?」

「1匹はツァイが倒したんだけどな」

「ツァイって? 新しいパーティメンバーかい?」

「ああ、このゴーレムホースだ」

「ツァイと申します、よろしくお願いいたします。主様がいつもお世話になっております」

「おっおう。ダーロットだ、よろしく頼む。......って、ゴーレムホースが喋った!」

「俺のツァイは特別製なんだよ」

「あ、ああ、そうかい。.......解体料はワイバーン3匹で15000イェンだな。ちと高いが、こいつは面倒なんだ。明日の夕方までには解体しとくよ。毒袋はちょっとまってな」

「亜種とは言え、ドラゴンだもんな、硬いのかい?」

「それも有るが、こいつは無駄な部分が少しもねえ。解体にも気を使うし、誰にでも出来るってもんじゃねえんだよ」

「なるほどね、討伐報酬だけじゃなく素材も結構な値段で売れるってことか」

「それにしても、この切り口はすげえな。やっぱり殲滅の白刃ってところだな。がははは」

「その二つ名は止めてくれ。大したことしてねえんだから」

そんな話をしているうちに毒袋が取り出された。

「ほらよ、気を付けて持っていきな」

「ああ、ありがとう」

毒袋を受け取り金を払う、ギルドで納品し、クリア証を受け取ると、カウンターに向かった。アネモネさんが空くのを待ってクリア証おカードを渡すと。

「はあー、本当に1人でワイバーン倒しちゃうんですね。しかも3匹も」

「ちょっと危ない場面も有りましたが。そこはそれ、何とかなりました」

アネモネさんは半ば呆れながらも、処理をしてくれた。

「はい、カードをお返ししますね。これで、タケルさんもCクラスにランクアップです」

「ん? 俺も?」

「はい、ケーナちゃんも今日でG+に上がったんですよ」

「おー、大したもんだな。結構早いよね」

「そうですよ、お手伝いクエストだけでこのスピードはなかなかいないですね」

すると、食堂にいる冒険者たちから。

「よう、ケーナをあんまり危ない目に合わせるんじゃねーぞ」

「おまえさんとは違うんだからな、ケーナちゃんは女の子なんだぞ!」

「あんたは、冒険者的に規格外だけど、ケーナちゃんは普通なんだぞ。規格外に可愛いけどな」

「うん、あの健気なところが良いよな。癒される」

「あの子を見てると、俺ももっとがんばらにゃって気になるんだよな」

おれは、アネモネさんを振り返ると。

「ケーナって何気に人気者?」

「ええ、冒険者の間だけじゃなく街でも人気者ですよ。ケーナちゃん、いつも一所懸命だし、いつも笑顔が絶えないですしね」

「そーかー、ケーナ頑張ってるんだな」

「そうですよ、ケーナちゃんが、お手伝いクエストを丁寧にやってくれてるおかげで、他の冒険者の人達の仕事も変わってきたって評判です。ギルドにとってもありがたいことです。これからクラスが上がって行くと討伐が増えてしまうのがちょっと残念です」

「あははは」

「タケルさんに褒められるのが一番嬉しいでしょうから。褒めてあげてくださいね」

「いや、みんなに認められるって事のほうが嬉しいんじゃねえかな、ケーナの生い立ち考えるとさ」

「そうかも知れませんね。でも、タケルさんも褒めてあげるんでしょ? ふふふ」

「そりゃーね。それじゃそろそろ帰るよ。またね、アネモネさん」

「はい、お疲れさまでした」

ギルドを出た俺は店に寄って、馬車をしまうとツァイと別れて、シルビアの宿に戻った。その時に、ケーナへのプレゼントを持って帰ることも忘れなかった。

「しかし、生まれて初めて女の子に渡すプレゼントがこれかよ。......俺らしいと言うか何と言うか。アインにばれたら、また、ダメな大人とか言われそうだな」


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