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「恐喝」と書いて「しょうばい」と読む?

ガーネット登場!

「タケルさん、騒ぎの元はあなたですか。事情をお聞きしても?」

「ああ、そこのおっさん達が俺達に、ツァイをよこせって言って、いきなり抜剣して襲いかかってきたんで、投げ飛ばした。強盗未遂ってやつだな」

おれは、ガーネットに事の次第を説明した。少し説明を省いたけど、まあ、ほぼ間違ってない。

「なるほど、強盗未遂だな。よし、こいつるらを捕らえろ。詰め所の牢にぶち込め」

ガーネットの部下の騎士達がおっさん達を捕らえて、連行しようとすると。腕を折ったおっさんが。

「ちょとまて、誰が強盗だ! そのガキがいきなり後ろから襲いかかってきたんだ。突然だったからやられちまったんだ。俺達は被害者だぞ! みろ、この怪我を」

それを聞いたガーネットは。

「タケルさん、彼らはああ言ってるが?」

「いやいや、周りにいた人達に聞いてもらえば分かることだ。なあ、みんなそうだろ?」

すると、周りにいた人たちが口々に、俺の言うことが正しいと言ってくれる。

「まあ、だいたいそうかな?」

「そいつらは剣を抜いて斬りかかったが、その兄ちゃんは素手だったな」

「嘘は言ってないな」

「少し、省略しすぎてねえか?」

「そいつら、そのゴーレムホースをよこしなって言ってたな」

「正面から、投げに行ってたな」

俺の言ったことが正しいと....言ってるよな? すると、おっさんが。

「俺達はDランクの冒険者だ、そのガキや周りの連中が言うことと俺達の言うことのどっちが信用できるかは解るだろ!」

この世界で冒険者と言えば、魔物から街を守る者としてそれなりに信頼されている。冒険者ランクFが見習い、Eが駈け出し、Dが一人前、Cがやり手、Bが凄腕、A以上は別格的な扱いだ。Dランク以上になれば、街を守る者としてそれなりに信頼され発言力もある。

「なるほど、タケルさんはCランクだったな? そちらの言うことより信頼出来ると言う事になるが?」

ガーネットが言った。

「ああ、まだC-になったばっかりだけどな」

おっさんは驚いたようで。

「馬鹿言うな、そんなガキがCランクだと。そんなに簡単にギルドランクが上がるわけねえだろうが!」

と、叫んだ。

「簡単じゃなかったぞ? オーガが率いたゴブリン1000匹全滅させるとか、もう2度とやりたくねえからな」

それを聞いたおっさん達がそろって。

「「「ガーゼルの英雄がこんなガキだってーのか!」」」

と言って絶句した。

「俺は、ガキじゃねえ、もう17だ。それになんだよ、その恥ずかしい呼び名は」

「タケルさんは、殲滅の白刃だけじゃなく、ガーゼルの英雄とも呼ばれているそうだ。そっちの呼び名の方も王都では使われるらしい。この者たちは最近、王都から来たんだろう」

ガーネットが説明してくれた。

「あー、他の街にも広がってるんか....。しかもガーゼルの英雄とか、恥ずかしすぎる」

「えー、タケル兄ちゃんかっこいいじゃないか」

「何という呼ばれかただろうと、タケルさんのやったことが英雄的な行いだったことには変わりがないのだ。恥ずかしがることではない」

ガーネットはそう言うと、部下に向かって。

「そいつらを連れて行け」

ぼちぼち散って行く人々の流れに乗って、おっさん達は連行されていった。ガーネットは俺に向かって。

「今日は7の鐘までで勤務が終わるんだが、2人で、どこかで会えないだろうか?」

キターー! コレがキターーってやつなのか? 綺麗なお姉さんが俺を誘ってくれているってことか。あー生きてて良かった。俺は、領主邸での事を思い出していた。そう、あの『ムギュー』だ、『ムギュー』すばらしい感触だった。俺がそんなことを考えていると。ケーナが俺の服の袖を引っ張って。

「タケル兄ちゃん、なにボーっとしてんだ? また、変なこと考えてるのか?」

「そっそっ、そんなことないぞ! 考えてないぞ!」

「あわててるな、あやしい」

『マスター、ヘイジョウウンテン』

「はあー、主様」

「どうだろう? 今日でなくても良いんだが、時間を取ってもらいたいのだ」

と、言葉を続けた。

「あっああ、だったら、今日でいい。7の鐘が鳴るころに冒険者ギルドの前で待ってるよ」

「ありがとう、少し待たせてしまうかも知れないが、出来るだけ急ぐ」

「ああ、少しくらい待っても平気だ。じゃあまた」


ガーネットと別れた俺達は。店にもどるところだ。

「タケル兄ちゃんて、綺麗なお姉さんに本当に弱いんだな」

「なっ、ナニヲイウノカナケーナクンハ」

『ケーナ、シカタガナインダヨ、マスターダモノ』

「主様、どんなことを想像してたのですか?」

俺は、何と言ったら威厳を保てるかと考えたが、何も思いつかなかったので。話題を変えることにした。

「ところでケーナ、お前女の子の着るような服持ってないじゃないか。ワンピースとかスカートとか明日買いに行こうぜ」

『ア、ニゲタ。デモ、ケーナノフクヲカウノハサンセイ』

「それは良いですね、ケーナお嬢様はせっかく可愛らしいのだから」

「可愛いとか言うなー! おれはこの格好でいいよ。動きやすいし、丈夫だし。スカートなんか村に居た頃から着たことないし」

「スカートが動きにくいって事はないだろ? それに、スカートじゃなくたって女の子らしい服って有るんじゃないか? 俺は、そういったことには詳しくないからシルビアさんにでもお願いしてさ」

「いいよ、勿体ないよ。シルビアさんだって忙しいんだからそんなこと頼めるわけないだろ! 迷惑かけちゃうよ」

「いやいや、妹が可愛い格好するてのは嬉しいからな。金のことは気にするな。ツァイもいるし馬車も有るんだから。これからはもっと稼げるさ。まあ、シルビアさんが無理でも何とかなるさ」

「妹....、嬉しい....、タケル兄ちゃんがそうまで言うなら....、そんな格好してもいいかな....」

「よし、決まりだな」


俺達は、店に戻ってツァイを作業場に入れるとシルビアの宿に戻った。ロビーに居たシルビアさんに。

「「ただいまー、シルビアさん」」

と2人そろって挨拶をする。

「ケーナちゃん、タケルさん、おかえりなさい」

そこで、俺はシルビアさんに。

「シルビアさん、俺は、今日初めて聞いたんだけど、ケーナが女の子だって知ってました?」

と言うと。

「はあー、やっぱりタケルさんは、ケーナちゃんを男の子だと思ってたんですね。まあ、ケーナちゃんの口調と格好じゃしょうがないかな。でも、もう少しケーナちゃんを見てあげる余裕は欲しいわね」

「そうですね、最初に見たときに男の子だと思っちゃったんですよ。その後、一緒にいることも多かったんですから気が付いても良かったですよね」

「タケルさんも、まだまだ若いからしょうがないかな」

「いつまでも、若さを言い訳にしないようにガンバリマス。ところで、シルビアさん明日時間有りませんか?」

「あら、こんなおばさんにデートのお誘いかしら?」

おれは、右手の親指と人差し指をくっつけるように前に出して。

「あー、シルビアさんをおばさんだとは、これっぽっちも思っていませんが。デートのお誘いではなくて、ケーナの服を見てもらいたいんです。俺はそういうの全くわからないから。こいつわざとこんな格好してるみたいなんですよ。女の子が1人でこんな街に来たら危ないと思って、髪を短くして、男の格好をして、自分の事を「おれ」なんて呼んで。無理して男の真似なんかしてるのはちょっとね」

「あら、そんな理由があったんですね。いいですよー、お昼の時間が終われば少し時間が空きますから。ふふふ、楽しみねー、ケーナちゃん可愛いから、どんな服でも似合っちゃうわね」

ケーナはペコリと頭を下げると。

「シルビアさん、お願いします」

シルビアさんがケーナに微笑みかける。

「うーんと可愛い服を買いましょうねー」

「え、クエストを受ける時に着られるくらいの普通のでいいよ」

後込みするケーナに俺は。

「別に一着じゃなくて良いんだから、クエスト用以外にも普段着買ってこい。予算は小金貨1枚までならOKだ」

と言って、巾着から小金貨1枚を取り出し、ケーナに渡した。

「こんな大金子供に渡すなんて何考えてるんだよ!」

ケーナは驚いて、俺に金を返そうとした。

「あのなケーナ、ちゃんとした服って以外と高いんだぞ。それに、全部使ってこいって言ってるわけじゃない。変に遠慮なんかするなってことだ」

ケーナに金を渡すと俺は、シルビアさんに。

「じゃー明日はよろしくお願いします。それから、俺は今からちょっと出てきます」

「はい、明日は任せて。気を付けて行ってらっしゃい」

おれは、シルビアの宿を出ると、冒険者ギルドに向かった。


ギルドの前で待っていると、7の鐘が鳴って直ぐにガーネットがやってきた。さっきまでの騎士隊の制服から着替えていた。胸元に大きめのリボンが付いた白のブラウスに紺のスーツ、スカートは膝下丈のタイトなものだ、足下はヒールを履いている。髪の毛もアップに纏められており、一言で言うと、「仕事の出来る秘書!」って感じだ。良い、実に素晴らしい! 赤毛に赤い目のワイルド系の美女のガーネットは騎士服姿もとても似合っていた。でも、秘書さんのような服装に着替えてきた彼女はクールビューティーな感じになっていた。ガーネットにはこういったカッチリした感じの服が似合うなー。騎士として鍛えているのだろうが、ごつごつした感じは全くなく。しなやかな印象だ。胸は、シルビアさんやアシャさん達ほど大きくはないが、十分なボリュームである! 何と言っても、あの『ムギュー』は鮮明に覚えている。

「待たせてしまって申し訳ない」

「いやいや、それほど待ってはいないさ、7の鐘が鳴ったばかりだ。じゃー、晩飯を食いながらで良いかな?」

「そうだな、どこか希望はあるかい? 無ければ、そこのレストランでどうだろうか?」

「ああ、かまわない。この街のレストランとかほとんど知らないんだ」

俺達は、冒険者ギルドのそばにあるレストランに向かった。以前アシャさん達と来た店だ。何か引っかかる物を感じたが、なんだろう?

「いらっしゃいませ、お二人すね」

その訳は店に入ってウエイトレスの女性の微妙に引きつった笑顔を見て気が付いた。

(そうだ! 俺ってこの前この店で3人の綺麗なお姉さんに半刻も正座でお説教されたんだった!)

しかし、今更店を変えるのも不自然だし、このまま入るしかないだろう。ガーネットと俺は奥のテーブルに案内され向かい合わせに座った。そうして、料理と飲み物を頼んだ。俺はいつものように果実水を、ガーネットはワインを頼んだ。料理が来るまで俺達は、当たり障りのない話をしていた。どうやら、本来の用件は飯の後に落ち着いて話したいらしい。この前もらった店のことや、俺が作ったハイブリッドホースのこと、騎士隊の仕事や訓練の様子など色々な話題でなかなか面白かった。しかし、粗方料理を食べ終わる頃には、ガーネットの口が重くなってきた。ワインを3杯もお代わりしている。前にここで3人と食事した時も思ったけど、この世界の女の人って、みんな酒強いんかな。ガーネットを見ると、目が潤み、目尻から頬がうっすらと桜色に染まっている。無茶苦茶色っぽいお姉さんに変身している。


「先日タケルさんに投げ飛ばされた時の事が忘れられないのだ。騎士団1番隊の隊長となってからは、訓練でも、試合でも負けた事などなかった。自分を負かすことの出来る男に合いたいと思っていた。そんな男になら、自分は、いえ、ガーネットは全てを捨ててでも付いていこうと思っていたのです。タケル様、どうかガーネットを、おそばに置いてくださいませ」

「ガーネットさん、そんな事をいきなり言われても、俺達は知り合ったばかりで、お互いのことを何も知らないじゃないか」

「ガーネットと呼んでください、タケル様。あの時感じた気持ちに間違いは無いと。2度目にお会いした時に直感いたしました。ガーネットは、タケル様をお慕いしております」

なーんて言われたらどうしよう。

「俺も、ガーネットのこと好きだよ」

とか言っちゃったり? で、二人は付き合うことになっちゃったり? うわーどうする俺? とか妄想全開で考えていると、ガーネットが重い口を開いた。

「先日タケルさんに投げ飛ばされた時の事が忘れられないのだ。騎士団1番隊の隊長となってからは、訓練でも、試合でも負けた事などなかった」

ヤホーーイ、キター! 俺の考えていた通りの言葉をガーネットが。

「あの時、油断していたとは決して言わないが、隊長が投げ飛ばされて、動揺してしまった。自分がまだまだ未熟だと言うことを思い知らされた」

あれ? 

「どうだろう、稽古をつけてもらえないだろうか? タケルさんは冒険者だ、騎士団の俸給で支払える額の報酬で出来る範囲でかまわない、この通りだ」

と、頭を下げるガーネット。あれれ? 後半が全く違う話になっている。....まーそうだよな、俺に合いたいっていってもこんな話だよな。はあー。

「あー、稽古は、妹と毎朝1の鐘が鳴る前にやってるから、その時に一緒にやるなら報酬はいらない。俺の剣術はガーネットさんがやっている物とは全く違うから参考になるかはわからないけど、それで良ければってことになるかな」

ガーネットは急に立ち上がるとテーブルを回り込んで俺の手を両手で握りしめ。

「ありがとうタケルさん! ....あれ? なんだか? 頭がクラクラする」

と言って俺にもたれ掛かってきた。俺は、ガーネットを抱きとめると。

「ちょっ、ガーネットさん、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ、少し飲み過ぎただけだ」

俺の胸に両手を当てて体を起こし....た。までは良かったが今度は後ろに倒れそうになった。

「酒強いんじゃなかったのか?」

もう一度抱きとめて俺が言うと。

「酒はたしなむ程度だ。こんなに短い時間でこれほど飲んだのは初めてだ、緊張していたのかもしれない」

と言って、体の力を抜いた。俺はあわてて椅子に座らせると。

「本当に大丈夫なのか? 家まで送るから、どこに住んでるんだ?」

「騎士団の女子寮だ。領主邸の中にあるぞ。でも、1人で帰れるから! 自分は酔ってなどいない!」

「酔っぱらいはみんなそう言うらしいぞ? 危なっかしいから送るよ」

「酔ってなどいないと言って....」

と言うガーネットはなんだかふらふらしている。お持ち帰り出来そうな感じだ。もちろんそんなことはしないけどな。出来ないんじゃないぞ! そんな卑怯なまねはしないんだ! 俺は心の中で涙した。

代金を支払うと。そのまま寝てしまったガーネットをお姫様だっこして運んだ。ガーネットの可愛らしい寝顔を見ることが出来た事で今日は満足しよう。途中で寝ぼけた彼女が俺の首に片手を回し頭を胸に預けてきた。いい匂いと、アルコールの匂いがした。こいつは、ご褒美なのか? 拷問なのか?


領主邸にガーネットを運ぶと女子寮の寮長に引き渡し俺は宿に戻った。寮長はとても驚いた顔をしていたが、何も言わずにガーネットを引き受けてくれた。


「ガーネットさん、柔らかかったなー。女の人って柔らかいんだなー、騎士なんてやってるからもっと筋肉質なのかと思ってたけど、女の人って筋肉の付き方が男とは違うのかな。でも、やっぱり色っぽい話にはならなかったな。あのまま、お持ち帰りしたかったなー。寝顔可愛かったな。いい匂いだったな」

ガーネットの事を考えながらベットに横になった。

「そう言えば、いつからやるか決めなかったな。明日詰め所に行ってみるか今週は同じスケジュールで警邏するって言ってたからな、それに一度試合ったほうが良いかも知れないな。俺より強かったりしてな」

なかなか寝付けないまま夜は更けていった。どうせ寝付けないならと、さっきゴーレムギルドの前で思いついた魔道具の試作品を作ってみた。こいつも、売れるかどうかは微妙だな。



次の日、俺はケーナとアインとツァイと一緒に冒険者ギルドに来ていた。本格的にツァイを使う前に一度街の外で実際に走らせてみようと思ったからだ。だから、馬車は今日は引いてきてはいない。ツァイには鞍の他に荷台も格納してあるから、いざという時は荷台に獲物は搭載できる。ケーナはいつものようにお手伝いクエストだ。俺はオーガの討伐が目に付いたのでそれを持ってアネモネさんのところで受付だ。

「タケルさん。ちょうど良いところに来てくれました。ギルド長が呼んでいまして、今から探しに行くところでした。お時間いただいてよろしいですか?」

「ばあさんが? なんの用だい?」

「実は、ちょっと面倒なことになっていまして」

「え、俺、ちょっと用事が....」

「あるんですか?」

アネモネさんが上目遣いに聞いてくる。

「いえ、有りません。ギルド長の部屋に行けば良いのかな?」

「はい、付いてきてください」

「じゃあケーナ、今日も一日頑張ろうな」

「うん、タケル兄ちゃんもね!」

「ちゃんとお昼過ぎにはシルビアさんの所に行けよ」

「いつも、お昼はシルビアさんの所で食べてるんだよ」

「ああ、そうだったな。可愛い服買ってこいよ」

俺は、ケーナと別れてギルド長室にやってきた。中に案内されると、そこには、エメロードの他にもう1人みたことの無い男がソファーに座っていた。小悪党って雰囲気だなこいつは。

「タケルよく来たね。こっちに座りな」

エメロードは自分の横のソファーを指した。

「ばあさん何の用だ? 今日は予定が有るんだ、手短にたのむぞ」

俺は、そう言いながらポケットに入れていた手を出し、エメロードの横に腰掛けると、小悪党風の男の向かいに座った。小悪党は。

「ギルド長、この、礼儀を知らない子供がそうなのかね?」

人を子供扱いしやがって、失礼な奴だな。自分は礼儀をわきまえてるつもりか?

「あんたの所が指名依頼で契約した「黒竜の牙」の連中を牢にぶち込んだのはタケルだよ」

「黒竜の牙? そんな恥ずかしい名前なのかあの連中。あんな奴らに指名依頼したのか、物好きな奴もいたもんだな」

俺は、小悪党のおっさんを無視して、エメロードに向かって言った。

「私は、バロウズ商会の手代のクロイス。お前のおかげでうちの商会が損害を受けた。賠償してもらわねばならん」

クロイスが何かふざけた事を言っている。それでも、クロイスを無視して。

「ばあさん、バロウズ商会って有名なん?」

と尋ねた。

「なんだいタケル。おまえさんバロウズ商会も知らないで商売始めるつもりだったのかい? ここいらの国の幾つかに支店を出してる大店だよ。アースデリア王国には王都に支店を出しているよ。何でも取り扱うが、うちのギルドでは魔核を引き取ってもらってるよ」

「しょうがねえだろ、田舎の村から出てきたばっかりだぜ俺は」

さらに、無視してやると。

「お前がうちの商会に損害を与えたんだ、子供だからと言って許してやるわけにはいかん」

俺は初めてクロイスに顔を向けると。

「おれが? バローウッズ商会にどんな損害を与えたんだって?」

クロイスは俺が子供だと思ったのか、口元に笑いを浮かべながら。

「これだから、子供は困る。お前が襲いかかった冒険者パーティ「黒竜の牙」は、我がバロウズ商会が指名依頼で護衛契約した者達だ。お前のせいで、彼らの釈放に手間取っている。うちのように大取引きをする商会の出発が1日遅れるだけでどれだけ損害が出るかなど、子供には想像も付くまい」

「ああ、想像付くわけねえだろ。バーロウズ商会なんて名前聞いたの今日が初めてなんだから。でも、この国じゃ強盗未遂犯をそんなに簡単に釈放しちまうのか? ぬるいな」

「強盗未遂だと? 何のことを言っているんだ? 昨日の事件は、お前が黒竜の牙に襲いかかり事件をでっち上げたんじゃないか。現場を見ていた証人がいるんだ。すぐにでも騎士隊がお前を逮捕しに来ることになるんだぞ」

いやらしいニヤニヤ笑いを浮かべ、嬉しそうに俺に説明してくる。証人なんかいるわけが無いんだが、買収でもするつもりか? そんなことを素早く考えて、俺は怒りも現わに立ち上がって。

「いい加減なことを言うな! 俺はそんなことをやっちゃいねえ!」

「これだから子供は困る。話し合いと言うものを知らんと見える」

「町の人を買収するつもりだな! 汚ねえぞ!」

「ふん、下衆な事を。買収ではなく、こんな街の奴らなど、わずかなイェンをちらつかせれば本当のことを思い出すんだ。貧乏人なんぞそんなものだ」

「何言ってやがる! この街にはそんな卑怯な奴なんか1人もいねえよ! だいたい、今度のことは、黒竜の尻尾の連中と俺の間で起きた事だ。バロウッズ商会とは何の関係もねえ。あんたは、あの尻尾の連中に損害賠償請求でも何でもすりゃ良いじゃねえか!」

さらに笑いを深めて。

「黒竜の牙は我がバロウズ商会が指名依頼で契約した冒険者パーティなのだよ。いわば、商会の従業員といった者達なのだ。その大事な従業員が不当に捕らわれているのだ。真犯人を探し出し一刻も早く釈放してやらねば商会のメンツに関わるんだよ。本当なら、100万イェン程度の損害賠償を請求したいところだが、そんな大金を子供が持っているわけないからな。子供とは言え、お前も冒険者なのだろう? 魔核を持ってくれば許してやらんこともないぞ? Aクラスの物なら1個、Bクラスなら10個そして、自分から罪を認め騎士隊に昨日の事は勘違いだったと申し出れば許してやらんこともないんだぞ、はははは」

大口を開けて笑い出した。

「何を言いやがる。魔核は個人的に使うんじゃなきゃ全て冒険者ギルドに売るのが決まりだ。そんなことも知らねえのか!」

クロイスは笑いを止めさらにこんな事を言った。

「そんなことは、ギルドに知られなければどうと言うことはない。そこに、ギルド長が座っているようだが。ギルド長には、相応のイェンをお支払いする事が出来る」

「お前は、ギルド長のことも買収する気なのか!」

「買収ではない。ギルド長も、もう良いお歳だ、耳が遠くなることも有るのではないか? イェンの前ではな。あーははは」

「バロウズ商会ってのはいつもこんな事をやってるのか!」

「当たり前だ! 真っ当な事だけやっててここまで商会が大きくなるわけが無いだろう?」

エメロードは黙って成り行きを見ていてくれるようだ。そこで、俺はポケットに手を入れ魔道具を操作した。そして怒った振りを止めると、にこやかな笑みを浮かべゆっくりと深くソファーに座り直すと、足を組んでクロイスに話しかけた。

「クロスさん、とても良い話を聞かせてもらったよ、ありがとう。俺はこれから店を構えて商売を始めようと思っているんだがとても参考になる話を聞かせてもらったよ」

クロイスは俺の豹変ぶりに怪訝な顔をしている。俺は、ポケットから手のひらサイズの長方形の魔道具を取り出しながら。

「さて、クロイさん。俺は冒険者だけど、鍛冶屋もやるんだ、そして魔道具職人でもある」

クロイスは落ち着いて話を始めた俺をにらみつけながら。

「さっきから聞いていれば何だ! 私はバロウズ商会の手代のクロイスだ! そして契約しているのは黒竜の牙だ! そんな事も覚えられんほど愚かなのかお前は!」

「あれは、わざとだ。気に障ってくれたなら幸いだ」

「なんだと!」

「さて、クロイス。商売の話をしようじゃないか」

「お前! 私を呼び捨てだと。私と商売しようなどと! 冒険者風情が何を言い出すか!」

クロイスの言葉を無視して。

「この魔道具は、俺の店で売り出そうかと思っている物でね。お前が何年こんな汚い商売をしているか知らんが、今までに、見たことも聞いたこともない魔道具だと自信を持って言える物だ」

そう言うと俺は、魔道具を操作した。すると魔道具からは。


『「ばあさん何の用だ? 今日は予定が有るんだ、手短にたのむぞ」「ギルド長、この、礼儀を知らない子供がそうなのかね?」「あんたの所が指名依頼で契約した「黒竜の牙」の連中を牢にぶち込んだのはタケルだよ」「黒竜の牙? そんな恥ずかしい名前なのかあの連中。あんな奴らに指名依頼したのか、物好きな奴もいたもんだな」「私は、バロウズ商会の手代のクロイス。お前のおかげでうちの商会が損害を受けた。賠償してもらわねばならん」「ばあさん、バロウズ商会って有名なん?」』


俺は再び魔道具を操作して再生を止めた。

「これは、うちの店の目玉商品の『試作ろくおーんくん1号』だ、クロイスさんへのプレゼンテーション用に俺がソファーに座るまでの間の会話を録音してたんだ。どうだい? こんな魔道具見たこと無いだろ?」

クロイスは驚愕の表情を浮かべ言葉が出ないようだ。

「この後用事が有るって言ったよな? 領主のザナッシュ様の所に行くか、街の広場でデモンストレーションするか迷ってたんだ。どっちの方がより効果的だと思う? 商売の先輩としての意見を聞かせてくれないか?」

俺の言葉に驚いたクロイスは、力無く。

「....そんなことをされたら私は破滅だ....」

「そこでだ! クロイスさん。この魔道具『ろくおーんくん』通常なら300万イェンするんだが。先輩商人でもあり、魔核を取り扱っているクロイスさんには。特別にAクラスの魔核3個でお譲りいたしましょう。しかも、なんと今なら、殲滅の白刃のサイン色紙も付いて来ますよ! いかがですか? 今がチャンスです。ギルド長のばあさんは耳が遠くてこの会話を聞いてないそうなので、今が最後のチャンスですね」

ここで、久しぶりにエメロードが口を開いた。

「クロイス、知らなかったようだから教えてあげるけどね。このタケルは「殲滅の白刃」の二つ名を持つ冒険者なんだよ。この子は恩を売るつもりが無いんだけどね。この街の連中はあたしを含め1人残らずこの子に恩を感じているのさ。今の会話の中身だがね、広がりようによっちゃこの街で商売出来なくなっちまうよバロウズ商会はね。あんた、これから先どうやって暮らすつもりか知らないが、あんたんとこの商会はそんなに温いのかい?」

クロイスは、ふるえる声で。

「ガーゼルの英雄....」

「あれ? クロイスさん顔色が優れませんね? トイレならこのドアを出て右の突き当たりですよ」

にっこり笑って教えてやる。もちろん俺はこのフロアーのトイレの場所なんか知らない。

「あ、ああ、私はちょっとトイレに行ってもいいかな?」

エメロードがそっけなく。

「階段から落ちるんじゃないよ」

クロイスが覚束無い足取りで部屋を出ていった。エメロードは、ため息を付きながら。

「はあ、タケルはもっと純真な若者だと思っていたよ」

「何を言ってるんだよ。純真だろ? 先輩商人に今一番欲しいものをおねだりしちゃう程にはな」

「ところでタケル、あんた、そんな物本気で売るつもりなのかい?」

「これか? 昨日あんな事が有っただろ? 用心のために作ってみたんだよ昨夜。使い方によっちゃ結構便利だと思うんだけどどうだい? 俺しか持ってないって所は無茶苦茶アドバンテージを感じるんだけどさ、商売を始めたら売るかも知れねえな」

「記録出来る時間はどのくらいなんだい?」

「こいつは試作品だからな。だいたい1刻くらいだな。記録用の魔石は交換出来るから魔石の数だけ記録出来る。将来的には1個で半日分くらいは記録したいね」

「独り占めする事のメリットは計り知れないね。ギルドが使っている事を極秘にしてくれて、店で売らないなら1個300万イェンは決して高くはないね」

「材料費はタダだけどな。それ、ゴブリンの魔石だし。枠は木だからな」

などと、話していると、クロイスが木箱を抱えて戻ってきた。

「タケル殿、ここにAクラスの魔核が3個有ります。ぜひ、その魔道具を譲っていただきたい。」

俺は箱の中身を確認すると。確かにAクラスの魔核だ、本物を見るのは初めてだが、直径25cm以上もある大きな魔核だ。Cクラスの物が15cmくらいだった事を考えると大して大きい感じはしないが。クラスが上の魔核から作った魔結晶は魔力を蓄える量もスピードも体積に比例せず、無茶苦茶大きくなるのだ。

「確かに、Aクラスの魔核だな。では『ろくおーんくん』だ壊れたら大変だ。気を付けて取り扱ってくれよ」

俺から「ろくおーんくん」を受け取ったクロイスは、この場でもってハンマーを取り出すと魔道具を壊し始めた。魔石まで粉々にするとようやく安心したのか。放心状態でギルド長室を出ていった。

「ありゃ、しばらくは立ち直れないね」

俺は大事なことを忘れていた。

「あー! サイン渡すの忘れた」

エメロードは手を額に当てて、頭を軽くふりながら。

「タケル、あんた鬼だね」


俺は、ギルドを出るとツァイを連れて街の外に向かって歩いていた。

「クロイさんよ、あんた勿体ないことしたよな。まだ、世界に2個しかない魔道具だったんだぜ。先行量産型「ろくおーんくん」が壊れた今はこいつ1台になっちまったがな」

ポケットから「試作ろくおーんくん1号」を取り出すと。ツァイの小物入れにしまいこんだ。



3個目の魔道具です。

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