笑撃の事実!
俺が店に顔を出すと、そこには蒼穹の翼のみんなが店に入ってくるところだった。
「おー、いらっしゃい。まだ、何も準備出来てないけど、俺の店にようこそ」
「よお、店が決まったってケーナに聞いたんでな、様子を見に来たんだ。いい場所にあるじゃねえか」
バトロスが店の中を見渡しながら言った。
「邪魔するぞ、結構広いんだな」
スナフだ。
「おじゃましまーす。ここで、何を売るつもりなんだい?」
ヴァイオラが尋ねてきた。
「例の空を飛ぶための魔道具とか売る気ですか?」
ヒースだ。前にも言ってたが「とべーるくん2号」に興味があるのかな?
「こんにちは、タケルさん。思ったより広いんですね」
アシャさんも来てくれた。
「まだ、売る物とかは全然決めてないんだよ。こんなに早く店が持てるとは考えて無かったからな。今のところは、自分が使う冒険用の道具を作り始めたところさ」
と言って、俺はリボルバーワンドを見せた。
「これは、リボルバーワンド。記述魔法を使うためのワンドだな」
これにヒースが食いついた。
「それが、ワンドですか? 金属製なんですね。ミスリルとは違うようですが?」
「ああ、オリハルコンでフレームを作って、ミスリルで魔力を通す部分を作ってる」
「オリハルコンですか。重くはないのですか? あー、タケル殿なら力はありますね。なるほど、接近戦もするから、強度が必要ってことですね」
「そう言うことだ。記述魔法で発動するから、今のところ俺専用ってところだけど。魔力があれば使えるように改造する事は可能かな」
「確かに、冒険者をしている魔術師は詠唱魔法を使う者がほとんどでしょうからね」
「魔力を流せば発動するから連射が出来るのがメリットだけど、中級魔法までしか使えないからな。強い魔物と戦う時には使えないかな」
「連射ですか! それは画期的ですね。詠唱時間の問題は馬鹿に出来ませんから。連射が利くなら魔術師の戦い方が変わって来ますね」
そこにヴァイオラが割り込んだ。
「ちょっと、ちょっと2人で難しい話しないでよ。タケル、店を案内してよ」
ヒースが苦笑いしながら。
「そうでしたね、つい、興味がある話題だったので。申し訳ない」
俺も笑いながら。
「あははは、悪い悪い、つい、好きな話題だと食いついちまう。じゃー、店を案内するよ」
俺は、店、工房、鍛冶場、作業場と順に案内した。作業場ではゴーレムホースが台座の上で走る動作を繰り返している。アシャさんが。
「タケルさん、それゴーレムホースですか? 何だか変わった形をしてますね」
アシャさんの見つめる先には、頭もなく、骨に変な筒やワイヤーがまとわりついた物が木の台の上で馬のように走っている物が写っているんだ。たしかに、変な物以外の何物でもないわな。
「これは、骨格にシリンダーが付いただけだからね、今は動作試験中なのさ。これに馬の頭と尻尾、それに装甲が付くから、ギルドが売ってるゴーレムホースよりは馬らしく見えるようになると思うよ」
すると、ヴァイオラが。
「これ、頭が無いし、台に乗ってるからちょっと自信無いけど。ずいぶん大きいんじゃない?」
「え? そうかな、馬の骨格を調べたやつと同じサイズにしたんだけど」
「えー。タケル、馬を殺して解体したのかい? 勿体ないことするんだね」
「違うよ、バイコーンを討伐して解体したんだ。さすがに馬を買ってから解体とかしねーよ」
それを聞いていたアシャさんが、おずおずと聞いてきた。
「タケルさん。バイコーンと同じサイズのゴーレムホースを作ってるんですか? あれは魔物ですよ。普通の馬よりもずっと大きいですけど。馬具とか、馬車とかサイズが合わないんじゃないでしょうか」
確かに、よく考えてみるとバイコーンは結構な大きさだった。専用の馬車は作るつもりだが、後々のことを考えれば標準的な馬のサイズの方がいいに決まっている。
「なんてこったい」
「タケル兄ちゃんて、大本のところで、抜けたところがあるよね。この前の『とべーるくん』の時もそうだったよね」
「ケーナ、抜けてるとか言うか、失礼しちゃうな」
『ソウダヨケーナ、マスターハコレデフツウダヨ、シカタナインダヨ』
「アインはケーナより失礼だな。やっぱり、普通の馬のサイズに変えた方がいいな。ちょっと手間が掛かるけど、2頭目を作るときも大きくしなきゃならなくなるのは都合が悪いしな」
アシャさんが、慰めるように。
「でも、早いうちに気が付いて良かったじゃないですか。売るときに気が付いたんじゃ大変ですもんね」
ゴーレムギルドに入っていないとゴーレムを売ることは出来ない。つまり、俺は最初からゴーレムを商品にとは考えていなかった。
「これは売れねえよ。ゴーレムギルドの副ギルドマスターが嫌なやつだからな。あんなところに入るつもりはない! ギルドに入らなきゃゴーレムを売ることは出来ねえからな。それに、売るとしたって買い手が付かないくらいの値段になっちまう」
するとスナフが。
「これって、ゴーレムホースなのか? 俺達のヤツとは全く別物だろ。ゴーレム核が無いのに動いてるじゃねえか」
「ああ、今の状態は、ゴーレムじゃなくて、オートマトンだな。でも、実際に動かすときはゴーレム核を乗っけることになるから、ゴーレムホースになるんじゃねえかな? このままでも、歩いたり走ったりは出来るけど、それじゃ障害物を避けたり魔物と戦ったり出来ねえからな」
それを聞いたバトロスが。
「タケルのゴーレムホースは、そんなことが出来るのか? 俺達のは命令通りに馬車を引くことしか出来ねえぞ。口で進む方向を指示したり、その木を避けろとか言えば良いんだから簡単だけどな」
「ギルドが売ってるゴーレムホースってそんなヤツなのか? アインのゴーレム核をベースに制御式作るからな、アインみたいに自分で考えて動けるようになるぞ」
ヴァイオラが関心したようなあきれたような口調で。
「冒険者としても、ゴーレム術士としても規格外なんだな、タケルは」
その時だ。
『バギッ』
と、音がしたかと思うと、台座が折れて、ゴーレムホースが壁に向かって走り出した。走り出して直ぐに魔力を供給していたコードが外れたので、ゆっくりと歩いて壁にぶつかって止まった。
「あー! GH01が」
俺はあわてて駆け寄ると壁の状態を見た。
「ふー、壁は無事だな」
すると、みんなが口を揃えて。
「心配するのは壁か(なの)」
と、非難する。
「そりゃそうさ、この店って、もらったばっかりなんだぜ。GH01はこんなことじゃ傷一つ付くわけがないからな。骨格はオリハルコンだしシリンダーはミスリルだ」
アシャさんが。
「オリハルコンにミスリルですか、びくりです。確かに、とても売り物になる値段に収まるとは思えませんね。普通のゴーレムホースは木と青銅で出来てると思いますよ。ところで、GH01って?」
「ん? このゴーレムホースの名前だけど? ゴーレムホース1号ってことで」
「タケル兄ちゃん....。いや、なんでもない」
「ケーナちゃん、大人ですね」
『マスター、ナントイッテイイカワカラナイヨ』
「だったら、黙ってればいいだろ。どうせ、ネーミングセンスなんてねーよ」
「タケルさん、そんなこと無いですよ。アインちゃんなんて、すごく良い名前じゃないですか、センス良いですよ」
「アシャ姉ちゃん、アインって『1』って意味なんだってさ、1番最初の相棒だからってタケル兄ちゃんが言ってた」
「えーと....。でも、アインって素敵な名前ですよ!」
アシャさんて、やさしい。
『アインモシラナカッタヨ』
『デモ、アインヲアイボウッテイッテクレタノハウレシイナ』
「ふふふ、アインちゃんはタケルさんの相棒なんですね。素敵な相棒さんですよ」
『アシャ、アリガトー』
おれは、台座を直してGH01を据え付けながら。
「今日はこの辺にするよ。明日はこいつを小さくしなきゃならないから大変だしな。みんなでシルビアの宿で晩飯にしないか?」
すると、ヴァイオラが。
「そうそう、あたし達もタケル達を誘いに来たんだよ。腹ぺこだから早く行こうよ」
おれは、結界魔法を準備し、店のを締めた。
「へーシルビアさんにそんなこと言ったんだ、タケル兄ちゃんらしいね」
「なんだよケーナ、俺らしいってどういうことだ」
「綺麗なお姉さんに弱いところ? シルビアさんだけじゃなくて、アシャ姉ちゃんにも弱いだろ? タケル兄ちゃんはさ」
「ケーナ、ヴァイオラお姉さんのことを忘れてないかい?」
「あははは、ヴァイオラ姉ちゃんにも弱いよね」
シルビアの宿の食堂で俺達は晩飯を食っている。ナルルムのメロールの時の話で盛り上がってるところだ。そこにアリアちゃんもやってきて。
「そうなのよ、あたしなんかじゃ相手にされないんだよ。でも、将来性はあると思うんだよね、そう思うでしょケーナちゃん?」
ケーナはアリアちゃんの胸のあたりを見ながら。
「アリア姉ちゃん....、がんばれ」
「ケーナちゃん!」
「「「あははは」」」
「ふふふ」
俺を肴にして和やかなうちに食事が終わった。蒼穹の翼のみんなも自分たちの宿に帰っていった。それにしても、ケーナのやつ人を何だと思ってるんだ? 綺麗なお姉さんに弱いだって? 当たり前じゃないか! 男の子なんだから。
寝る前の時間を使って、俺はリボルバーワンドのカートリッジを作っている。
「初級魔法を変更したらそこそこ威力が上がったよな。いや、発動内容が変わったと言うことか? 扱える魔力の量が決まっていて、その範囲内で発動する現象をコントロールするパラメータをいじったって感じなのか? まてよ、現象を追加することもできたぞ」
そうだ、アイスボルトやアースボルトに回転運動を加えることができた。これは、基本となった魔法には無い現象だったはずだ。....無いわけではなく回転のパラメータに0が入っている状態が基本になる魔法なのか? とすれば、魔法紋の内容の解析ができれば、ひょっとして....。俺の頭の中には記述魔法について面白い考えが浮かんできた。
「魔法紋がプログラムのような物だとした場合は....。プログラムの雛形があると仮定して、詠唱魔法で発現する魔法と同じ結果が出るように各種パラメータの調整がされているんじゃないか。だから、記述魔法は属性関係なく使うことができる。雛形が無いから詠唱魔法の上級魔法は使えない。記述魔法のレベルが上がってくればパラメータをいじることができるようになる。俺のレベルは7だから簡単に操作できたと考えれば良いのかも知れねえな」
この考えが正しいかどうかは分からないが、いじれるパラメータが発現する現象だけじゃないとしたら。
「初級魔法の雛形を使うけど、扱うことのできる魔力の総量を変更することができるとしたら。思いっきり沢山の魔力を使ったファイアーボルトやエクスプロージョンとかできるんじゃねーか? なにか試しに作ってみるか」
俺はカートリッジに記述する魔法紋をいじろうとしたが、明日のゴーレムホースの変更のことが気になりだしたので今日のところはそのまま寝ることにした。
ベッドに横になって、目をつむっていると突然ひらめいた。
「そうだ、ゴーレムとオートマトンの技術を合わせて作ったんだから、ハイブリッドホースって呼べばいいんじゃね?」
....俺のネーミングスキルはLV0らしい。こんなスキルだってキャラ設定のスキル一覧には有ったかもしれない。なんてことを考えているうちに寝てしまった。
「まずは、シリンダーを外して骨格を縮める作業からかな。何だか大きいなーとは思わなくも無かったんだよなー」
今日は、ケーナ達と別れた後、さっそくハイブリッドホースの改修をしている。モデリングスキルのおかげで、イメージさえしっかりしていれば作業はスムーズに進む。このあたりは、知力ステータス様々といったところか、記憶力がかなり良くなっている。あっという間にシリンダーも張り終え、今朝の状態に戻った。俺は昨日の続きとばかりに、交叉襲歩をスタートさせ最終テストを始めた。その間に装甲の変更やさっき思いついた頭部の改造も行った。全てのパーツの組付けが終わり、装甲の継ぎ目の調整も済んだところで、動作確認を常歩、速歩、駈歩、回転襲歩、交叉襲歩の順で行い、異常の無いことを確認したところで、昼を告げる鐘が鳴ったので、昼飯を食いに行くことにした。
昼飯から戻った俺は、ハイブリッドホースにゴーレム核とバッテリー用の魔結晶を装填し、鞍と鐙そしてハンドルを出し入れするギミックを付けた。ハンドルと言っても、自動車やバイクのような物ではなく、左手一本でつかみ、進む方向や、速度を調節することができる装置のことだ。なんと言っても、騎馬戦をするためには右手をフリーにしなくちゃならないし、言葉で操ることはできるが、微妙な方向や速度の設定は自分でもできるようにしたかったんだ。戦闘中に声で操ったら、相手にバレバレになることも、ハンドル操作が必要な理由だ。馬車を引くときには必要ないので背中に格納できるようになっている。
「よし、完成だ、生成呪文はケーナ達が来てからにしよう」
そこには、鋼でできた馬が1頭立っていた。外見上馬と違うのはボディーが鋼なことと、鼻の上に1本の角が付いていることか。バイコーンの角は額に2本突き出ているが、こいつは鼻の上に付けた。角と言うより剣のような形をしている。刃は付いていないが、ファイアーボルトの魔法を元にして、炎をまとったヒートソードとして使ったり、ファイアーボルトそのものとして打ち出すことができる。鼻面に付いているのは剣としての使い勝手が良いようにだ。
「それじゃチャッチャと馬車を作っちまうか」
あらかじめ注文してあった木材とモデリングで作った金具を使って馬車を作り始めた。ゴムは無いのでタイヤは木製の車輪に鋼の輪をはめた物だ。とても人間が乗れるような物じゃないが、サスペンションとダンパーはつけ、御者台の椅子にはコイルスプリングと綿を詰めたクッションを敷いてみた。これでも普通の馬車よりましなはずだ。ボールベアリングも付けてみたが、この世界じゃ明らかにオーバーテクノロジーか? 魔物を積むための荷台だから幌は付けていない。そうこうしているうちにケーナとアインがやってきた。
「タケル兄ちゃん、やっとゴーレムホース完成したんだね」
『キョウハサボラナカッタンダネ』
「やっとってなんだよケーナ。これだけの物を作ったにしちゃ早くできた方だと思うぞ。それから、ゴーレムホースじゃなくて、ハイブリッドホースな? アイン今日はってなんだよ」
「ハイブリッドホース? ところで、これ、動かないけど完成してるのかい、タケル兄ちゃん?」
「ああ、完成した。はずだ。2人が来るのを待ってたんだよ。今から機動させるぞ」
俺は、そう言うと、生成呪文を唱えた。
「我が僕よ使役される物よ! いでよ! ゴーレム!」
すると、ハイブリッドホースの目が輝きだし装甲の継ぎ目から光が漏れだした。光が収まると。ハイブリッドホースはゆっくりと歩き出し、アインの目の前でピタリと動きを止めアインを見下ろした。アインもハイブリッドホースを見上げる。2体はしばらくお互いを見つめ合った。ハイブリッドホースの右前足がゆっくりと上がると....。アインの頭を踏みつけた。アインはその場に留まって両手をクルクルと振り回した。その様子を呆然と見ていた俺にケーナがあわてて。
「タケル兄ちゃん、止めなくちゃ!」
「ああ、そうだな」
俺も立ち直って、返事をした。
「おい! やめねえか! アインもHVH01も、けんかすんな!」
すると、ハイブリッドホースがアインを踏みつけながら、俺の方に顔を向け。
「HVH01って、ひょっとしたらわたくしのことですか? 主様....はあ」
それを聞いた俺は、言葉を失った。きっと間抜けな顔をしていることだろう。ケーナが俺に向かって。
「ゴーレムってしゃべれるんだね。アインがしゃべれないから、みんなそうなのかと思ってたよ」
アインは頭の上から足を払い落とすと、俺に詰め寄って。
『コイツ、ナマイキダ』
「えーと、ハイブリッドホースだな、スピーカー内蔵だからしゃべれないことは無いと思ってたけど、ここまでとは、声が女の子なことも含めて予想外だ」
HVH01も俺に詰め寄って来た。
「主様? わたくしの名前、ちゃんと決めて下さいます?」
なんだか、声に怒りがこもってる? えーとなにか良い名前は....。アインがドイツ語で1のアインスを変えたやつだから。ドイツ語の2は、ツヴァイか。男みたいだな。HVH01がさらに詰め寄ってきた。俺は焦りながら。
「えーっと、....ツァイでどうかな?」
「ツァイですね。はい、主様....登録いたしました」
俺は、続けて。ツァイに命令する。
「ツァイ、現在の体の状態を最適状態として記録してくれ」
「はい、主様....記録いたしました」
「今記録した状態から壊れたり変形した場合は報告してくれ」
「はい、主様」
これで、メンテナンスの手間が大分減ることになるだろう。
「ところで、主様、この熊とそちらのお子さまはどなたですか?」
「こいつはアイン、最初に俺が作ったゴーレムだ。そしてあっちがケーナ俺の家族だ」
「そうですか、ツァイと申します。よろしくお願いいたします。アイン姉様、ケーナお嬢様」
『ネエサマ....。ヨロシクダヨ、ツァイ。サッキノコトハ、ユルシテアゲルヨ、ウマレタバカリノ、イモウトノシタコトダカラネ』
「え? お嬢様?」
俺は困惑した。
「お嬢様? おれがお嬢様なんてやめてくれよ!」
「そうだぞ、ツァイ、ケーナは男の子だぞ」
まあ、ツァイは出来たばかりだし、馬型だから人間の性別なんか分からないんだろうが、ケーナを女の子だなんて、いくら、将来はイケメン確定の美少年だからといって間違えるかね?
「タケル兄ちゃん、おれ女だぞ」
「なんだって!」
ケーナが女の子? だって、自分のこと「おれ」って言ってるじゃないか! 俺は一人っ子だったから、弟の存在ってやつに慣れてなかったせいで、照れくさくて家族って言ってたけど。いつか、みんなに俺の弟だって紹介出来るようになろうと思ってたのに。
「タケル兄ちゃん、おれを男だと思ってたのか?」
「ああ....、思ってた。女の子だったなんて」
『マスター、アイカワラズダメダメダナ』
「主様がこんな方だとは」
アインの発言を認めなきゃいけないようだ。ツァイなにげにおまえが一番ひどくねえ?
「へへへ、街に来るときに考えたんだよ。女の子が1人でいたら、危ないだろ? いろいろとさ。だから、自分のことをおれって言って、髪も短くしたんだ。男に見えてたよな?」
『ケーナハオンナノコニシカミエナカッタゾ。アシャモヴァイオラモキガツイテルダロ』
「えー、おれの努力は無駄だったのか?」
『マスターニハ、ムダジャナカッタンジャナイカナ』
「ああ、男の子だと信じて疑わなかった。俺は一人っ子だったからな、弟って人に紹介するのが照れくさかったから、家族って言ってたんだし。女の子だと思ってたら後見人にはなってねえかも」
「え? なんでさ、タケル兄ちゃんは女の子好きじゃないか!」
『ウン、ケーナノイウトオリダナ』
「はあー、こんな小さな女の子にしか興味を示さないなんて。主様ってかわいそうな方?」
「なんだか、おまえら3人すごく息が合ってないか? あのなケーナ、いくら何でも困ってる女の子に声を掛けて後見人になるなんてことする訳ねえだろうが。俺はおまえ達が思ってるよりずっとずーっと繊細なんだ! 下心が無くても何となく無理だ! ツァイため息付くな、傷つくだろうが、それに、小さな女の子にしかって何だ、俺はナイスボディのお姉さんの方が好きだ」
その場が静かになった。あれ? やっちまったか? ケーナが話題を変えるように。
「じゃあ、これからどうしようかな。タケル兄ちゃんくらい鈍い人なんかそうそう居ないだろうし意味が無かったのかー」
「俺以外にもケーナを男だって思ってるやつは居る! バトロスとスナフは俺と同じで男だと思ってるはず? 特にスナフは絶対にそうだと思うぞ」
でないと、俺の立場が。
「でも、ケーナが女の子らしい格好に戻すのは賛成だ。女の子が無理して男の格好なんかしてるのは痛々しい。髪の毛もそのままでも可愛いけど、伸ばすのも良いんじゃねえか」
「タケル兄ちゃん、可愛いとか言うな! 恥ずかしい」
ケーナは真っ赤になって言い返した。その姿を可愛いなと思う俺が居た。つい、今まで男の子だと思っていたケーナが可愛いだと? 女の子だと分かった瞬間これか? 俺やばい奴か?
「おーあーるぜーっと」
落ち込む俺のことを無視するように。
『ケーナハ、カワイイゾ』
「はい、ケーナお嬢様はとても可愛くていらっしゃいますよ」
「可愛いって言うなー恥ずかしい。ツァイはお嬢様って言うなーもっと恥ずかしくなるだろ」
しばらくして俺が立ち直るまで3人はそんな話をしていた。ツァイはケーナをお嬢様と呼ぶことは譲れないようだ。
「さて、気を取り直して、ツァイのゴーレム登録に行くか。その前にっと」
俺は登録タグを付ける鎖を残っていたオリハルコンで2本作ると、アインのタグを付け替え、ツァイの首にも掛けてやった。
「主様、わたくしに、こんな高価なアクセサリーなど....。女の子なら誰でも良いんですね」
「ちげーし、ゴーレムタグをを付ける鎖だし! アインの鎖も取り替えただろうが!」
「分かっています。冗談です」
冗談を言うゴーレムって。どこかで制御式を間違えたのか?
「ハア....。とにかくゴーレムギルド行くぞ。ツァイは町中であまりしゃべるんじゃねーぞ、目立ちすぎると良いことなんかねえからな」
「はい、主様」
俺は、ため息を付くとツァイにそう言って店を出た。
ゴーレムギルドに付くと3人をギルドの前に待たせ、俺1人でギルドの中に入って行った。ツァイの登録を済ませて戻ると。ギルドの前でケーナ達が柄の悪い冒険者風の男達3人に絡まれていた。
「おい坊主、おめえみてえなガキが持つにしちゃえらく立派なゴーレムホースじゃねえか。俺達が使ってやるからそいつをよこしな」
「何言ってるんだ! ツァイはタケル兄ちゃんのゴーレムだお前らなんかに渡せるもんか!」
「タケル兄ちゃんだと? お前の兄貴じゃどうせ大したこと無いやつなんだろ? 俺達のようなDランクの冒険者が使った方が、そのゴーレムだって喜ぶってもんだ。つべこべ言わずによこさねえか」
なんてこった、さっそく目立ってるじゃねーか。
「あー、大したこと無い兄貴だ、俺のツァイに何か用か?」
「あー? なんでえ、兄貴のほうも弱っちいガキじゃねえか。てめえらなんかが持つには、分不相応なゴーレムホースだからよ、俺達が有効に使ってやろうって言ってるんだ」
「ツァイを渡す訳にはいかねえな。俺はゴーレムギルドに入ってねえから、自分が作ったゴーレムを人に譲る訳にはいかねえんだわ。そんなことをすれば、領主に罰金払わなきゃならねえ。下手すりゃこの歳で犯罪者だ」
そうなのだ、商売の営業許可証が有れば店を出して魔道具やポーションなどは誰でも売ることが出来るし、鍛冶品でも武器じゃなきゃ同じくギルドに登録する必要はない。ただし、剣などの武器やゴーレムはギルドに登録していないと売るわけには行かないのだ。ギルドを作るときに無制限に武器が広まったりしないようにとの取り決めがギルドと国々の間で取り決められたらしい。
「それに、どう見ても、うちのツァイに釣り合わねえなー、おっさん達じゃな」
「なんだと、ガキが! ふざけた言ぬかしやがるとただじゃおかねえ」
冒険者風の男は気が短いらしく、俺の言葉に反応して、剣の柄に手を掛けると剣を抜いた。周りで俺達を見ていた人々から驚きの声が上がる。脅しのつもりだろうが、町中で剣を抜くってどれだけ短気で馬鹿なんだこいつは。俺は、ケーナを後ろに庇うと。
「おいおい、こんなところで抜剣とか、おっさん正気か? おっさんに斬られてやるほど、人生嫌になっちゃいねえぞ俺は」
「うるせえ、小生意気なことをぬかすガキには、大人がきっちりと教育してやらねえとな」
「やれやれ、こんな町中で剣を振り回すような馬鹿に何を教わればいいかわからないよ」
おれは、肩をすくめ首を振った。俺がまったく恐れる様子が無いことに苛立ったのか、男は剣を構えると一歩前に踏み出した。
「てめえらみてえな、口の減らねえガキはこうだ!」
男は叫ぶと、そのまま剣を振り下ろした。本気で俺を斬るつもりなのか? 俺は男に近づいて剣を持つ右手の手首を掴むと、領主邸でダンバルド相手にやったように一本背負いを掛けた、ただし、あの時と違って今日は肘を決めて折った。さらに、殺さないように手加減し石畳に叩きつけた。
「グハッ」
一声唸ってから。右腕をおさえ。
「ぎゃー、腕がー」
それを見ていた男の連れの2人はあわてて、抜剣しようとした。右の男が俺から近かったので剣の柄に掛けた手を左手で掴み剣が抜けないようにした。そうしながら、左にいる男の剣の柄頭を右足で思い切り蹴ると剣は腰から外れて男の後ろに飛んでいった。左手で手を掴んだ男の後頭部を返す右足の膝で思い切り蹴ると手を離した。剣をとばされた男の懐に入り込んで、背負い投げを掛ける。そうして、後頭部を蹴られて道に倒れ込んだ男の背中に向けて、背負った男を思い切り叩き付け、さらに肘を叩き込んだ。
『ミシッ』
俺は立ち上がって。
「ふう、町中で抜剣とか、おっさん達何考えてんだ?」
その時、人混みをかき分けて、騎士隊の制服を着た数人が現れると、中の1人が叫んだ。
「そこまでだ! 騒ぎをやめないか!」
「あ、ガーネットさん」
とりあえず、ゴーレムホース出来上がりました。
ケーナが女の子だったというのは良くある話すぎますね。でも、みんなが書いてるのを読んで、自分でもこの展開は書きたかったので後悔はちょっとしかしません。第1話で、主人公がケーナを少年と紹介していますが、忘れてください。