ゴーレムホース?そんなことよりも、魔法使いっぽいアイテム作っちゃいました
翌朝いつもの時間に起きた俺はケーナと修練している。
「うん、少しずつ良くなってるぞ。もう少ししたら街の外でゴブリン討伐してみるか? あ、その前にケーナの刀も作らないとな。領主の刀を打つときに一緒に作るか」
「ほんとか? 楽しみだな」
「ケーナは村で狩りもしてたんだよな?」
「ああ、そうだよ、弓が使えないから、簡単な罠で小さな獣を狩ってたんだ」
「弓かー、覚えたいなら1本買おうか?」
「んー、自分の稼いだ金で買えるようになったら考えるよ。今はお金無いからな」
ケーナがやったクエストで稼いだ金は全部ケーナが使うように言っているんだが、この子は無駄遣いはけしてしない。貯金して、俺に返すつもりのようだ。お手伝いクエストと言ってもケーナのように1日に数個こなしていけばそれなりの額になる。とは言っても、安宿に泊まって、とりあえず空腹を覚えないくらいの食事が出来る程度ではあるが、ケーナは1人でも暮らせる程の稼ぎは得ている。もっとも、アインが一緒に手伝っているし、シルビアの宿クラスの宿に泊まれるほどではないんだけれど。
「はあはあはあ」
俺は店まで、全力疾走してきた。作業場兼倉庫の中を見て。
「うん、何も盗まれてないな。よく考えてみたら、オリハルコンとミスリルのインゴットなんだよな。盗まれなくてよかったな。今晩からアインに店の警備してもらうか。他の店って防犯対策どうやってんだろ?」
そうなんだ、昨夜は気が付かなかったんだけど、オリハルコンもミスリルもそこそこ高価な金属だ。インゴットだから所持金の半分ほどで買えたが、こいつを盗まれたらちょっと困ったことになる。
「でも、材料費だけでゴーレムホース買えるくらいの出費になっちまったなー。巨大ロボを作るとしたらいったいいくらくらい掛かるんだろ。俺のロボ作成の前に最初に立ちはだかるのが資金だとは....巨大すぎる壁だ」
気を取り直して、今日はアクチュエーターを作ることにする。魔力を流すと伸び縮みする魔力シリンダーとでも言うべき物だ。前の世界でロボットの関節を動かすお手軽なアクチュエーターと言えばサーボモーターだったりするが、俺としては筋肉の動きを再現したいところだ。大きな機体を動かす為のサーボモーターとか魔力で実用的なモーターを動かす方法が思いつかない、大きな力を出すためにはより大きなモーターが必要になるはずだ。俺としては巨大ロボの四肢の末端が太いとかはちょっと許せない。外見は力強さよりも、優美さを求めたいと思う。ゴーレムホースの場合は内蔵が無いことから実際に作用する部分から離れた場所にシリンダーを配置する事も可能になる。そしてワイヤーを使って四肢の関節を動かすことで、末端部分が細くても十分な出力を得ることが出来るはずだ。
まず1本作ってみる。魔力を流すとシリンダーが縮む。
「うん、こんなもんだろう。でも、ミスリルって魔力を流すときの抵抗が少ないんだな。....こいつでカードを作れば砕けないんじゃないか?」
俺は、思いついたことを早速試してみる。鍛錬して純度が上がったミスリルでカードを作りウォーターボールの魔法を描き魔力を流してみる。ウォーターボールの魔法が発動したが、カードはそのまま残った。さらにカードを再び使うことも出来た。
「なるほど、木片で作ったカードや銀貨を使って記述魔法を発動するときに砕け散っていたのは、魔力に対する抵抗のせいか。....ミスリルでカード作るか? でも、使い捨てにするには勿体ないな。使ったカードを拾ってくるってのもちょっと美しくないな」
それに、回収しきれなかったカードを誰かに使われたらまずい。子供が拾って万が一記述魔法が使える才能があってエクスプロージョンとか発動させたら死人が出るかもしれん。
「発動させる時の設定を見直せば一々投げる必要は無いかもな。そうすると....。複数のカードを出し入れするのが素早く出来ないな。それには....。前の世界で何かヒントになるような物ないかな?」
素早く出し入れできて、確実に使いたい魔法を選択出来るような道具か。
「あー、あれだ! あれなら分解したことも有るし、知力ステータス上がってるから構造も部品の形も完全に思い出せる。そのまま使う訳じゃないけどいけるんじゃねーか? 詠唱魔法のスキル取らなかったけど、魔法使いっぽいこと出来そうだな」
俺は、ゴーレムホースのことなど忘れて、思いついたアイデアを形にする事に夢中になった。
「モデリングでパーツを作ればすぐだな。えーと、記述魔法はカードじゃなくても描けるよな。良く使う魔法を選んでカートリッジ型に記述してーと」
「できた!」
昼飯の時間より前に出来上がった。アイデア優先で作ったので、デザイン的にはどうかと思うが一応完成した。
「リボルバーワンドーーー」
そう、記述魔法を使う時にカードを選んだり、カードに記述したりする時間を無くする為のワンドだ。形はまるっきりリボルバー式の拳銃だ。ただし、こいつの機構は若干本物の拳銃とは違う。シリンダーに魔法紋を描き込んだカートリッジを込め、中立位置にあるハンマーを押し込むとシリンダーからバレルの部分にカートリッジが装填される。引き金を引くことでカートリッジに描かれた魔法紋に魔力が流れ魔法が発動する。グリップにミスリルを使うことで俺からなら魔力がスムースに流れるし、魔石に記述した訳じゃないから記述魔法が使えないと作動しない。そして、ハンマーを中立位置に戻すとカートリッジはシリンダー内に戻りハンマーを引くとシリンダーが回転する。ハンマーを中立位置から引く動作を繰り返せば必要な魔法紋の描かれたカートリッジが選択出来るって訳だ。両手に持てば、攻撃魔法と結界魔法を同時に使える....ハズだ。
「これで、ケーナと一緒に討伐クエストを受けるときに俺が後衛に回れるな。よし! さっそく試射してみよう」
俺は、作業場兼倉庫に来てみた。
「いくら何でも、家の中で攻撃魔法とか無いわー」
俺は、魔石を取り出すと、対物理障壁と対魔法障壁の魔法陣を描き込んでインゴットやゴーレムホースを障壁内に入れると、戸締まりをして店を出て、街の外に向かった。
街から出て、しばらく街道を歩き、以前アインを作った時に来た岩場にやってきた。
「よし、この辺でいいかな」
リボルバーのシリンダーには、ファイアーボルト、アイスボルト、アースボルトと言った初級魔法と、エクスプロージョン、アイススピア、ウインドカッター、と言った中級魔法を装填してある。魔法はそれぞれバレルから直線方向に真っ直ぐ飛ぶように調節している。
「まずは、ファイアーボルトからだな」
シリンダに番号を刻印してあるので、どのカートリッジが装填位置にあるのかは見れば分かるようになっている。ハンマーを押し込んで1番に入れたカートリッジをバレルに装填すとトリガーを引いた。すると、ファイアーボルトが発動し狙った岩に向かって飛んでいった。
『ボン』
小さな炸裂音を出してファイアーボルトは俺が狙った岩を焼いた。立て続けに3発打ってみるとねらい通りに炎の矢が3本飛んでいく。ハンマーを中立位置に戻し、そのまま3度ハンマーを引いてから押し込んだ。
「これで、エクスプロージョンが装填されたはずだ」
ねらいを定め引き金を引いた。エクスプロージョンが発動する。
『ズガン』
ファイアーボルトより大きな音と大きな爆発が起き、狙った岩が少しだけ吹き飛んだ。ゲームによってはエクスプロージョンとか強大な威力が有ったりするものだが、アルトガイストでは中級魔法だから、所詮こんなものだろう。
「せっかく魔法が使えるからって、キャラ設定の時にかなりMPにポイント振ったからな。いくらでも打てるんじゃねーか?」
MPの減り具合をカードで確認してみると総量からほんの少しだけ減っているようだ。カードのHPとMPは最大値に対して現在値がどの程度残っているかってことがバーの減り具合で確認出来るのだが、総量がどのくらい有るのかは数字として表示されない。これは不便なようだが、俺がキャラ設定で振り分けたような数字はかなり異常なはずなので、ばれずに済むと考えればメリットの方が大きい。
「ちゃららちゃら~! タケルの魔法使いのレベルが上がった~」
と、言ってみる。アイスボルトやウインドカッター、アースボルトなども使ってみる。
「確かに、魔法は打てるんだけど、これじゃただのワンドだよな。せっかくの記述魔法なんだから、基本的な魔法のままってのは面白くないよな」
そう、せっかく記述魔法で発動条件とかいじれるのに、そのまま使うことはないだろう。小説などで定番の魔法で飛んでいく物に回転運動を加えて威力を上げるなんてことをやってみるのもいいだろう。カートリッジの魔法紋を変更しようとして考えてみると。
「ファイアーボルトが回転するとどんな効果が出るんだ? ....効果が有るとは思えないな。アイスボルトやアースボルトを回転させると威力は増す気がする」
早速アイスボルトとアースボルトを回転させて飛んでいくように改変した。両方を岩に向けて打ってみたところ。
「アイスボルトとアースボルト効果の違いがわからねえ。氷の矢も土の矢も矢の形をした硬い物が飛んで行くってことには変わりないもんな」
しばらく考えると。
「よし、アイスボルトは回転しながら飛んでいった氷が当たったら砕け散って氷が消えるようにしよう、衝撃と冷気が移るようにする。アースボルトの方は回転しながら飛んでいった硬い土が当たった後に細かい破片に砕けるようにしよう。こっちは凶悪になるな。ファイアーボルトは。....細く長いレーザービームみたいに飛んでいく方がいいか? とりあえず試すか」
カートリッジを改良してワンドに装填し打ってみる。岩の上にいくつか的として置いた輪切りにした丸太に向けてアイスボルトを打ち込む、的は勢いよく後ろに飛んでいった。アースボルトを打つと的の中心に大きな穴が空いた。ファイアーボルトは打った後に上から下に向けて的をなぞったら、左右に切断された。
「だいたい思った通りの効果が出たな。次は、実戦で使ってみるか」
俺は獲物を求めて歩き出した。
しばらく歩くとオークが居た。3匹が集団で歩いている。俺は1匹の胸に向かってアースボルトを打ち込んだ。オークの胸に小さな穴が空いたと思ったら背中が弾けた。2匹のオークは驚いて周りを見渡す。奴らが俺を見つけると同時に、俺はシリンダーを回してファイアーボルトを装填し2匹目のオークの額を狙った。額に小さな穴が空くと、そのまま倒れ込んだ。残ったやつがこちらに向かって棍棒を振り上げ走ってくるが半ばまで届く前にカートリッジをアイスボルトに換えて棍棒を持つ手に向けて打ち込んだ。棍棒を取り落としたところに、顔、右肩、左腕と次々に打ち込む衝撃で膝を付いたところに頭に向けて数発打ち込んでみる5発目で頭が砕け散った。4発で頭が凍り付き5発目の衝撃で砕けたんだろう。
「んー威力強すぎじゃね? 初級魔法を超えてねえか?」
この辺の魔物相手ならこれで十分だ、それに、対人戦闘用と考えればオーバーキルだな。
オークを討伐したあと、さらに討伐を繰り返し、ゴブリンやコボルトの相手もしてみた。コボルトは10匹の群れだったので、エクスプロージョンと太刀を併せて戦ってみた。カードを使った戦闘よりもスピーディーな戦闘ができた。
「これはいいな、元々戦闘に使ってた魔法なんて限られてたんだから、あとは、目くらまし用のカートリッジと、ヒール、それに障壁が、魔法用と物理用くらいか? ああ、ファイアーウォールもいるかな?
「魔道具にして、誰でも使えるように調整することも可能だろうが、これ売るわけにはいかねえんじゃねえか?」
こんな、魔道具を持った奴が自分に向けて使ってくるとか、勘弁して欲しいよな。
「まあ、俺専用のワンドとして使う分にはいいか」
カートリッジが6個しか入らないから、障壁とかヒールとか入れるにはもう1つ欲しいところだ。
「シリンダーの数に制限が有るわけだから。装填する魔法は厳選する必要が有る。それから、革加工の職人のところに行ってホルスター作らなきゃな。こいつをそのまま置いてくる訳にはいかねえから、ダミーのワンド用意するかワンドもう1つ作るからホルスターは2個だな」
俺は適当な木を拾うとモデリングでリボルバーワンドのダミーを作るとその足で革職人に店に行きホルスターを2個注文した。結局、ゴブリン、オーク、コボルトの討伐数は70匹を超えていた。ちょっと調子に乗りすぎたかも。冒険者ギルドに来て、カウンターのアネモネさんにケーナが来たかどうか確認する。
「ケーナちゃんはまだ戻っていないですね。ところで、タケルさん。今日のゴブリンの討伐とか久し振りなんじゃないですか? 数を減らしていただけるのはありがたいのですが」
「ああ、ちょっと新しいワンド作ったんで、実践テストのつもりで少しだけ討伐しようと思っていたんだけど、途中から、夢中になっちゃって、気が付いたらあんなに狩ってたんだよね。あははは」
「はあ、どうしますケーナちゃんなら、もうすぐ戻ると思いますよ」
「そうだね、ここで待つことにするよ」
俺は、食堂で果実水を飲みながらケーナの帰りを待つことにした。
ケーナ達と合流した俺は一緒に店まで歩いていた。
「タケル兄ちゃん、今日はどうしたのさ、店でゴーレムホース作ってるんじゃなかったのかい?」
「いやー、新しい魔道具思いついてさ作って見たんだよ。店でテスト出来るようなもんじゃないから、魔物討伐してきたんだ。ゴブリンとオークにコボルトで73匹だな」
「魔道具のテストでそんなに討伐しちゃうのかい? で、ゴーレムホースは出来上がったの?」
「え? えーとだな、シリンダー1本作ったかな? そこで、新しい魔道具のアイデアが閃いてさ。サクッと作っちゃったんだよな」
「全く進んでないってことかい?」
「はい、ソノトオリデスネ。アマリコンヲツメテモイイコトナイトオモッタンダヨ? ホントダゾ?」
「タケル兄ちゃんのやることに口出しなんかしないから。言い訳しなくてもいいよ。その魔道具の方を先に作る必要があったんだろ? 仕方ないよ」
『ケーナ、マスターヲアマヤカシチャダメダヨ、ホオッテオクト、ドンドンダメナオトナニナルヨ』
「そんなことねーよ」
これ以上何か言われる前に俺は話題を変えることにした。
「そうだ、アイン、今晩から店の警備頼めないか? よく考えたらさ、オリハルコンとミスリルのインゴットが置いてあるんだ、盗まれたら大変だからな。昨夜は思いつかなくてさ、今朝焦って確認しに走っちまったよ」
『アインニオマカセダヨ』
「ああ、よろしく頼むよ。そうだ、泥棒が来ても絶対に殺すんじゃないぞ。主人がいないところで人なんか殺したら理由に関わらず処分されちまうからな。手足の骨を折るくらいなら構わねえけど、絶対に殺すんじゃないぞ」
大事な事なので2回言ってみた。
「タケル兄ちゃん、ゴーレムって、盗賊でも殺しちゃいけないのかい? 悪い奴らなら構わないんじゃないのか?」
「いいかケーナ、普通のゴーレムってのはな、そう言う判断は出来ないんだ。街の中に人を平気で殺しちまうような奴がいた場合、迷い込んだ人全部を殺しちまう奴って思われちまうんだよ。そう言う判断は主人がするもんだし、主人がいても相手が襲い掛かって来たならともかく、そうでなきゃやり過ぎだ」
「アインが処分されたらいやだよ。アイン気をつけてね」
『ダイジョウブダヨ、ケーナニシンパイカケルヨウナコトハシナイ』
そんな話をしているうちに店についた。作りかけのゴーレムホースを見たケーナは。
「何だか細いんだね。街で見かけるのってもっとガッチリしてるよ? それに骨みたいだよ」
「そりゃあな、これにシリンダーを付けて、外部装甲を付けるんだ。今は骨しか出来てないよ」
「フーン、じゃあまだまだ出来上がらないのかい? なのに、魔道具のテストとかしてたのかい?」
「まあ、そう言うことだな。シリンダーは結構直ぐに付けられると思うんだけど。その後に動作試験や装甲の組み付けがあるからな。大体1週間位かかるかな? まあ、初めて作るんだからそれ以上かかるかもな」
「それまで、クエスト受けられないんだろ? お金大丈夫ななのかい?」
「ははは、ケーナ君、君の後見人を甘く見てもらっては困るね。1週間くらいクエストを受けないくらいで金がなくなるわけないぞ」
「でも、タケル兄ちゃん初めて作るんだろ? いつ出来上がるかなんて分からないじゃないか」
「心配する気持ちは分かるが、アインは、一晩で作ったんだぞ? それなのに、こんなに凄いのができたんだ、要は、時間じゃないのさ」
「へー、アインてそんなに直ぐに出来ちゃったんだ」
『アインモハジメテキイタヨ、ショウゲキノジジツダヨ』
「ほら、俺って、やるときはやるやつだからな」
『ヤラナイトキハ、イチニチジュウウマヲミテタリスルンダネ』
「あ、あれは、必要なことだったんだよ! おかげで、ゴーレム核はちゃんと出来上がってるんだぞ! 本当だぞ」
2人の視線が痛い。
「とにかく、もう直ぐできるからさ、楽しみにしていたまえ。でだ、アイン、店の警備を頼んだぞ」
『オマカセダヨ』
アインは敬礼した。まあ、こいつがいれば、コソ泥なんか簡単に捕まえちまうだろう。アインに店を任せると、俺とケーナはシルビアの宿に戻ることにした。しかし、店の警備については何か手を打たないとまずい事になるな、警備用のゴーレムでも作るかな? 俺はそんなことを考えながら歩いていた。アリアちゃんにアインを店に置いてきたとこを話すと寂しがっていた。何気に、アインをきにいってるみたいだ。
シルビアさんに聞いてみたところ、結界を張る魔道具が売っているそうだ。結構良い値段がするらしい。さっき魔石で作った障壁を魔結晶で作れば良いってことだな。明日からはアインを警備に置いておくことはしなくていいかな。
翌日は朝から、シリンダーを作り骨格に装着する。本物の馬のように細い足首にするために、シリンダーの配置を作用する部分から見ると、体に近い部分に付けていく。末端は軽くした方が慣性が少なく素早い動きが出来るはずだ。一通りシリンダーを装着し終わったのは、4の鐘が鳴る前だ。動作試験用の魔石を組み込み、魔結晶からミスリル製のコードで魔力を供給する。魔石には音声で制御する魔法紋を記述してある。
「常歩スタート」
ゴーレムホースは台座の上でゆっくりとした動きで歩く動作を始めた。俺は、台座の周りをゆっくりと歩きながら、おかしなところが無いか確認していく。
「異音はしないな。動作もなめらかだ。歩き方は、牧場で見たのとほぼ同じだな。少しこのまま様子を見るか」
俺は、ゴーレムホースをそのままにして、シルビアの宿に昼飯を食いに行くことにする。すると、宿の前にアインがいた。
「よお、アイン」
『マスター、マタ、サボリカ?』
「違うよ、またってなんだよ? いつ俺がさぼったんだよ。一応シリンダー付け終わったから動作テスト中だ、じーっと見ててもしょうがねえから飯を食いに来たんだ。ケーナは中だろ?」
『ウン、イマハイッタトコロダヨ』
「おう、ありがとう」
アインに礼を言うと、俺も昼飯を食うために食堂に向かった。
「あ、タケルさんいらっしゃい。ケーナちゃん来てるわよ」
「アリアちゃん、Aランチ....。いや、ケーナと同じ物にするか。お願い」
「タケルさんもBランチ?」
「ああ、Bランチを頼むよ」
「はい、ではすぐに用意しますね」
アリアちゃんに案内されて、ケーナが食事しているカウンターに案内される。
「ケーナ、隣いいか?」
俺の方を向いたケーナの頬はやはりハムスターのようになっている。皿の上には山盛りのサンドイッチが乗っている。
「ば、だげづじい「食べてからで良いから」もぐもぐ」
ケーナが、嬉しそうに飯を食う横で俺もBランチを食い始める。スープにサンドイッチだ。今日は運動もしていないし、まあ、こんなもんだろう。口の中の物を飲み込んだケーナが。
「タケル兄ちゃんも、お昼だね。ここのランチは量が多くて美味しいからいいね」
「ケーナのは特大なんだろ? そりゃー多いだろう」
「え? これ特大じゃないよ? Bランチだよ」
「そうなのか? 職人街が近いから、きっと盛りが良いんだな」
明らかに、ケーナの皿のサンドイッチは普通のより多いが、食べ盛りのケーナの為にシルビアさんがやってくれてるんだろう。
「ケーナはいつもBランチなのか?」
「うん」
「屋台の串焼きとか食ったりはしないのか?」
「食べたいけど、ちょっと高いよ」
「ケーナだって、そこそこ稼いでるじゃないか」
「お手伝いクエストじゃなかなか、1日の目標金額に届かないんだよ」
「目標金額? いくらに設定してるんだ?」
「えーとね、宿代の600イェンとBランチ45イェン合わせて645イェンだよ。目標を超えるのなかなか大変なんだ」
「越えた日はどうするんだ?」
「越えなかった日の分に足すんだよ。まだまだ、足りないんだよ。タケル兄ちゃんに返さなきゃいけないからな。服とか装備の代金までだと何時になるか分からないよ。無駄遣いするわけにはいかないよ」
ケーナは、俺が出している金を、借金だと思ってるんだろうか? 思ってるんだろうな。最初の時にある時払いで良いって言っちまったからな。んーどうしたもんかな。
「そうか、ケーナは偉いな」
この子のしたいようにさせてやるか。
「えへへ、そんなこと無いよ、普通だろ。いつか、屋台の串焼きを自分で稼いだお金で腹一杯食うんだ。横を通るたびにいい匂いがしてさ、美味そうだよね」
「そうだな、自分で稼いだお金で食べる串焼きは格別美味いんじゃねーか」
「うん!」
おれは、ケーナの頭に手をやると髪の毛をぐしゃぐしゃにしながらなでた。ケーナがいじらしい。俺は金に困ってどうしようもないって経験は無いからな、格別美味い串焼きの味ってやつは味わったことが無いのかもしれない。
「その時は、俺もさそってくれるかい? 一緒に食いに行ってもいいか?」
「もちろんさ! おれがタケル兄ちゃんにご馳走してやるんだ」
「格別美味い串焼きか、楽しみだな」
俺もしばらくは串焼きはお預けかな。ケーナの髪をぐしゃぐしゃにしながら、ふと、カウンターの中を見ると、シルビアさんとアリアちゃんが俺達を優しい眼差しで見ていた。
「タケル兄ちゃん、サンドイッチ食べられないよ。頭揺らさないでくれよ」
「あー、わるいわるい。あははは」
昼飯を食べた俺達は宿の前で分かれた。
「ケーナ、無理するなよ。アイン、ケーナを頼むぞ」
「平気だよ」
『マカセテクレタマエ』
なんだか、アインが偉そうだな。俺がケーナ達を見送っていると。シルビアさんが。
「ケーナちゃん、いい子ね」
「そうだな、俺なんかよりよっぽどしっかりしてるなあれは」
「ふふふ、タケルさんもいい子ですよ」
「いや、俺がいい子って、勘弁してくださいよ。こう見えても17ですよ俺は」
「あら、そうだったわね。ふふふ、ごめんなさいね」
「いや、いいですけどね。さて、おれも店に戻って、続きをやりますかね」
「はい、行ってらっしゃい」
「いってきます」
シルビアさんに挨拶して、店に向かった。
店に戻ると、ゴーレムホースはまだ、常歩を続けていた。そろそろ半刻を過ぎている。
「ストップ」
俺は声を掛けると、各部分をチェックしていく。
「異常な熱を持っている部品は無いな。シリンダーにゆがみも出ていない。サスペンションもオイル漏れしてないな」
常歩では全く問題なく動いていた。
「速歩スタート」
さっきまでより速度を上げる命令を出す。ゴーレムが動いている間に俺は別の作業に取りかかる。動力用の核を納めるケースをオリハルコンで作る。ここは丈夫な材料で作ってやらないとな。次に、頭部をやはり、オリハルコンで作り始める。ゴーレム核を入れる部分だし、ケースを作って入れるよりも始めから全部オリハルコンで作れば良いだろう。頭骸骨を作って鋼で装甲しそうになって、そこまでやる必要は無いことに気が付いたんだ。
「そう言えば、オートマトンの部品の中に、スピーカーが有るな。付けてみるか? アインと違ってチョークと黒板持たせるわけにはいかねえしな。状態の異常とかを自分から話してくれた方が手間かからねえしな」
頭部を改造していく。
「ヘッドライト有った方がいいな。とは言え目が光るとかよりは、胸に大きめのライトを埋め込んだほうが使いやすいよな。でも、額にも付けた方が横も照らせていいかな?」
さらに改造していく。Dクラスの物とはいえ、複数の魔結晶を使うから魔力にはそこそこ余裕がある。
頭部が出来上がったので、鋼を鍛錬し始める。途中でチェックをして異常が無いことを確認すると。駈歩に切り替えた。
「駈歩スタート」
鋼を鍛錬し終わると、モデリングで大まかに形を作っていく。動きが大きいから、内骨格タイプを選択したが、どうしても装甲に隙間が出来ると思う。関節が弱点とか、テンプレ過ぎる展開は勘弁して欲しいので、余っている魔力を使って、状態維持の魔法陣を描くことにしようか。
駈歩も十分な時間やらせていたので、止めて状態をチェックすると、特に異常は見あたらなかった。
「足に負荷が掛かって無いからな。こんな物か、最後に襲歩だな」
襲歩とは、全速力で走る馬の走り方だ。回転襲歩と交叉襲歩があり回転襲歩から交叉襲歩へとスピードを乗せていくそうだ。
「回転襲歩スタート」
俺が、襲歩をさせたところで、店の表側のドアが開き元気な声が聞こえてきた。
「タケル兄ちゃん、ただいまー。今日はお客さん連れてきたよ」
ケーナだ、客って言ってたが、俺の店は何を売るかも決まってないぞ。
「おー、今行く」
俺は返事をすると。作業場から店につながるドアを開けた。
「ケーナ、客って言ったって、うちは何を売るか、まだ決めてねーんだぞ」
「とべーるくん」に次いで、2つ目の魔道具「リボルバーワンド」が登場しました。相変わらず商品にはならない魔道具です。
ありふれたアイディアかも知れませんが、自分的には頑張って設定したつもりです。
これからも、色々考えますのでよろしくお願いします。
主人公のネーミングセンスの無さは作者譲りです。