1日中馬を見てたけど、悩みがあるわけじゃないんだからね!
それから俺とケーナは、朝は一緒に修練をし、日中ケーナはお使いクエストに、俺はソロで受けられるクエストにと、それぞれに過ごした。アインはケーナと一緒だ。そんな日々を過ごし何日かすると。アネモネさんが。
「ケーナちゃん、おめでとう。今日のクエスト達成でGランクに昇格ですよ」
「やったー。タケル兄ちゃんGランクだってさ。討伐とかしなくても上がるんだな」
ケーナが嬉しそうに俺を見上げる。
「おー、おめでとう。討伐以外のクエストだって立派なクエストだぞ。ギルドに依頼する人たちは、多かれ少なかれみんな困ってるんだ。俺を含めて冒険者は討伐や護衛のような依頼料が高いものをやりたがるから、ケーナがやってるようなお手伝いクエストってどうしても後回しになるけど街の人たちを助けるって意味ではどれだって大事なクエストだ。俺は、常識があまりないから、お手伝い系はやったことないけどな」
「そうですよ、ケーナちゃん。お手伝いのような受け手がいないクエストはギルド職員ができる範囲でこなしていますが、なかなか手が回らないんです。ケーナちゃんは仕事が早いし、1日にいくつもこなしてくれるし。依頼者の方々も仕事が丁寧だっても喜んでいましたよ」
「えへへへ、おれでも役に立ってるのかな」
ケーナは嬉しそうだ。俺はケーナの頭をなでてやりながら。
「ケーナの依頼達成率は100%なんだろ? それって結構凄いんだぞ。この街に知り合いもできただろ? この街を拠点にこれからもやって行くんだから、そう言ったことも大事なことだぞ」
「うん!」
ケーナが元気に返事をする。そんな俺達をほほえましく見ていたアネモネさんが俺に向かって。
「そうそう、タケルさん。パーティ名の登録がまだですよ。そろそろ決めたらどうですか?」
「あっ、そう言えばまだだったな。おれ、ネーミングセンスねーからなー。ケーナは何かないか?」
冒険者パーティの名前って、やたらと勇ましいのや、中二病全開のが多いんだよな。蒼穹の翼なんてのは、おとなしいと言うか地味な名前だったりするもんな。
「タケル兄ちゃんが決めなきゃだめだよ、そう言うのはリーダーの仕事だろ」
「そう言うけどな、アインの名前決めたり魔道具の名前決めるのだって大変だったんだぞ。俺には無理だよ」
「魔道具はそのまんまだったもんね、アインってどういう意味なの?」
と聞かれて俺は困った。
「えーと、それはだな、........1って意味だな。1番最初に作った相棒だからな」
ぼそぼそと答えた。
「.....パーティ名はおれが考えたほうがいいかな.....。家族ってのは? どうかな....?」
「んー、ストレートすぎないか? ギルドのカウンターで呼ばれると結構恥ずかしくないか?」
ケーナもあまりセンスはなさそうだ。
「だったら、ファミーユでどうだ? 家族って意味だけど響きはよくないか?」
ケーナは、少し考えてから。
「うん! それがいい」
俺は、アネモネさんにむかって。
「じゃー、ファミーユでお願いします」
「はい、パーティ名はファミーユで登録しますね。2人ともカードを貸してください」
俺達はアネモネさんにカードを渡した。
「はい、登録完了です。これからもよろしくお願いしますね」
「「はい」」
と言って俺達はカードを受け取った。
「ケーナGランクに昇格おめでとう!」
『ケーナハ、マジメニキチントシゴトヲシテエライネ』
「へへへー、ありがとータケル兄ちゃん、アインもありがとー」
「さあ、冷めないうちに食べようぜ」
シルビアの宿の食堂でいつもよりちょっとだけ豪華な料理にケーナは、いつものようにハムスターになっている。アインは食事は取れないし、重くて椅子に座れないけれど今日はお祝いってことで食堂に来ている。そこに別のテーブルに料理を運んだアリアちゃんがやってきた。
「タケルさん、ケーナちゃん何かいいことでも有ったの?」
「ああ、ケーナの冒険者ランクがGになったんだ。今のところお手伝いクエストしかやって無いけど、ケーナきちんとやってるからな」
『マチノミンナモホメテイルヨ』
「ケーナちゃんおめでとう」
「アインがいつも一緒だから、心強いよ。アインも街のみんなに人気あるんだよ」
『アインカワイイカラニンキモノダゾ』
俺は、アインに。
「あははは、アインもご苦労様」
『ソウオモウナラ、アインモショクジデキルヨウニシテヨ』
「すまんアイン。それは無理だ」
するとアリアちゃんが。
「うん、ケーナちゃんが、冒険者があまりやりたがらない依頼を丁寧にやってくれるって褒めてるのをあたしも聞いたよ。ケーナちゃん頑張ってるね」
褒められることに慣れていないケーナは照れて真っ赤になっている。俺達の横を通った客の一人が。
「お、ケーナちゃんじゃねーか。今度依頼を出した時は、またよろしくな。他の冒険者は仕事が雑でいけねえ。仕事って言うからにはケーナちゃんみてえにきちんとやらなきゃな」
「タイロスさん、またろよしくね」
「おう」
ケーナに声を掛けた客は会計を済ますと帰って行った。ケーナは嬉しそうだ。
「ケーナ、お手伝いクエストだって重要だろ? ちゃんと評価してくれる人はいるんだよ」
「そうだよ、ケーナちゃん」
「えへへへ、うん、村ではこんなことなかったからさ。明日からも頑張るよ」
「たまには休みも入れような。アシャさんに注意されたことあるんだよ。俺が冒険者始めたころにな」
そこにシルビアさんがやってきて。
「アリア、ケーナちゃん達の邪魔をしちゃだめよ」
「はーい」
アリアちゃんは返事をして厨房に戻って行った。
「タケルさん、昼間ご領主様のお使いが来てこの手紙を置いていったわ」
手紙を受け取った俺は封を切り中身を取りだす。
「商店の営業許可だ。あとは......、店の候補を探したから明日3の鐘が鳴るころに使いの人が来るってさ。ケーナ一緒に見に行こう。クエスト取ってないよな? たまには休まないとな」
「うん、取ってないよ。おれも一緒に行っていいのか?」
「もちろんさ、店を出したら手伝ってくれるんだろ?」
「うん! おれ手伝うよ。楽しみだねどんな店になるんだろうね」
「タケルさんとケーナちゃんのお店かー楽しみね、ふふふ」
そう言うとシルビアさんも厨房に戻った。
晩飯を食べ終わった俺達はそれぞれの部屋に戻って休むことにした。
一人になると俺は。
「さーて、どんな店なのかな。......店で売る物考えないとな」
「店の名前どうしよう.....」
そんなことを考えながら俺は眠りに付いた。
ケーナと修練をやるようになって数日だが、ケーナは今日もやる気満々だ。基礎的なことしかやっていないのになぜこうもモチベーションが維持できるんだろう?
「ケーナ、毎日こんなことばっかりやってて飽きないか?」
「だって、タケル兄ちゃんが昔やってたことなんだろ?基本とか、体を鍛えるとかって重要なんだろ?」
「よくわかってるな。こういった地味な修練が大事なことは、後になって分かることが多くてさ、やってる時は気がつかねえもんなんだ」
まあ、ケーナはまだ12才だ、こっちの世界では働き始める年齢ではあるんだが、体のつくりがあっちの世界と変わらないんだとすれば、ハードなことをやらせると体の成長に影響が出るかもしれないし。あまり無理な修練はさせないつもりだ。
「まさか、俺と一緒にじゃない時に一人で修練してないよな?」
ケーナは、思い当たることがあるのか、目が泳いでいる。
「えーと、......時間が空いたときにやってる」
早く強くなりたいんだろうな。気持ちは分かるんだけど。
「ケーナいいか? 今おまえは、体が成長している時期なんだぞ。その時期にあまり筋肉つけると背が伸びないって言われてるの知ってるか? 今のままの身長で満足してるなら俺は何も言うことは無いんだけど」
ケーナは驚いたようで。
「えー、このまま身長止まっちゃうのかい?」
「いや、止まらないかも知れない。そんな話を聞いたことがあるだけだ。でも、今一緒にやってる修練だって軽くはないだろ?無理をすると保たないぞ」
「タケル兄ちゃんは、いくつの頃からやってるんだい?」
「俺か? 俺は.....いくつだったんだろ? 今のケーナよりは小さかったのは間違いないけどな。でも、体を作る時期は激しすぎる修練はやらなかったぞ」
「うん、背が伸びなかったら嫌だからな」
「そう言うことだ、後悔してもなー、こればっかりは後になっちゃどうしようもない」
「うん」
ゴーーーーーン
一の鐘が鳴った。
「よーし、飯にしよう。運動した後に沢山食えば大きくなる。....と思うぞ」
俺たちは部屋に戻って着替えてから朝飯にした。ケーナは今日も元気にハムスターのように食べている。「ケーナちゃんは、いつも美味しそうに食べてくれるから。わたしも作りがいがあるわ」
「シルビアさんの調理はいつも美味いよ」
「あら、タケルさんも嬉しいこと言ってくれるわね。ありがとうお世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃなくて、マジですよ」
「本当に美味しいよねー、タケル兄ちゃん」
「ふふふ、沢山食べてくださいね」
そう言ってシルビアさんは厨房に戻った。
3の鐘が鳴るころに俺たちは宿のロビーで領主の使いの人が来るのを待っていた。そこに、この間の執事のモローと一番隊隊長の女性がやってきた。
やばい、隊長の名前を覚えてない。たしか、......宝石の名前だったよな。えーと、ルビー? いや、もう少し長かった。スピネイル? それとも、カーバンクル? そんな感じだったか? いやいや、.....そうだ! ガーネットだった、と思う。
「こんにちは、タケル殿。お待たせしてしまったようですね」
「こんにちは、タケル殿」
「こんにちは、モローさん、ガーネットさん。まだ、約束の時間前ですよ。わざわざ、ありがとうございます。それから、殿付けは勘弁してください。年上の方からそんな風に呼ばれると居心地が悪いです。呼び捨てでかまいません」
俺がそう言うと。モローが。
「そうはまいりませんと言いたいところですが。....では、タケルさんと呼ばせていただきます」
ガーネットは。
「では、自分もそう呼びます」
「はい、それでお願いします。あ、そうそう、こちらの子は、ケーナです。俺の家族です。今日は一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんですよ。では、まいりましょう。ガーネットは今日は護衛として来ていますが、タケルさんには必要無かったでしょうね」
俺は。
「いえいえ、お心遣い感謝親します。ザナッシュ様によろしくお伝えください」
ケーナが。
「ケーナです。今日はよろしくお願いします」
うんうん、ちゃんと挨拶できるじゃないか。
「領主のザナッシュ様の執事で、モローと申します。よろしくお願いいたします」
「自分は、領都騎士団の一番隊隊長をしているガーネットだ。よろしく頼む」
んー、ガーネットさんは口調が硬いね。
「では、表に馬車を待たせていますので、お乗りください」
俺たちは馬車に乗り込むと。出発した。
馬車で移動した先は、職人街だ、歩いても良かったんじゃないかと思ったが、相手の都合もあるのだろうから好意に甘えることにする。それほど走らずに馬車は止まった。
「ここが1件目の店です。大きめの作業場と倉庫との要望には一番合っていますが、職人街の外れの方になりますね。とにかく中をご覧ください」
俺たちは、中に入った。
確かに作業場は広い。広すぎるくらいだ。体育館並みに広いんじゃねーかここ。広い分にはかまわないんだが、天井は希望より低く5mくらいか? 鍛冶場で金属を鍛え工房でパーツを作り作業場で組み上げる訳だが、ロボの大きさは10mくらいにはなるだろうから天井高は10数mないと都合が悪い。待てよ、寝かせたまま組み上げて、屋根をスライドさせてから、ジャッキアップで持ち上げるってのもロマンがある。発進シーンとしては盛り上がるな。でも、作業場の中で立ち上がるくらいはしたいよな。
「想像していたよりかなり広いですね、実際に物件を見るまでは感じがつかめなかったのですが。ここの半分程度の広さで良いので、天井高はここの倍以上あると理想的ですね。鍛冶場と工房はこのくらいで十分です」
すると、モローは手に持っていたファイルをめくり。
「なるほど、天井ですね? では、次に行きましょう」
また、馬車に乗り込んで移動する。次に付いたのは、なんだか見覚えがある場所だった。
「ここになります。場所はタケルさんの宿に近いところですね」
そうなのだ、宿にも近いが、ダイロックの鍛冶屋の道を挟んで斜め前なのだ。とにかく中に入ってみると、作業場は天井が高く15mほどありそうだ。作業場の出入り口のドアは天井まであり、背の高いものをそのまま出し入れできる。鍛冶場も工房もそこそこ広く俺が考えていた物に近いし店の展示スペースもコンビニ程度はある。ちょっと広すぎるかな?カウンターの位置をずらせば平気か。
「ここは、良いですね、気に入りました。ケーナはどうだ?」
「おれは、タケル兄ちゃんが何をしたいのか分からないから、何とも言えないよ」
「あ、それもそうだな。鍛冶屋兼魔道具屋兼雑貨屋ってところだが、基本は受注生産をメインに商売する感じで、資金は最初は冒険者の稼ぎを使っていくかな。研究開発から始めるから、鍛冶以外は商売になるには時間がかかるだろうな。最終的には、商売抜きで作りたい物があるんだ。そのために天井の高い作業場が必要なのさ」
それを聞いたモローが。
「では、ここでよろしいですか? よろしければ炉を新しい物と換えさせていただきます。もう手配はすんでおりますのでここであれば、3日ほどでお渡しできます」
「はい、お願いします」
宿が近いので、2人とはここで分かれることにした。3日後の朝2の鐘が鳴るころにこの場所で引き渡しとなるそうだ。
2人と分かれると、俺とケーナはその足で向かいのダイロックの鍛冶屋に顔を出した。
「こんちは、ダイロックさん」
「こんにちは」
俺とケーナが店の中に入ると。
「あら、いらっしゃい。小さなお客様だね」
中には、ケーナと同じくらいの背丈くらいだろう、中年の女性がいた。
「俺、タケルと言います。ダイロックさんに挨拶に来たんですが」
「あら、まあ、あなたがタケルさんですか、主人に色々聞いてますよ。若いのにとっても優秀な鍛冶士さんだって。あなたのおかげで、また剣を打つようになりましてね、毎日活き活きと仕事をしています。あたしも嬉しくて。ありがとう」
「いえ、俺の方こそダイロックさんのおかげで、いい仕事ができました。あ、こいつはケーナです」
「こんにちは、ケーナです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。あたしはターニャです。すぐ、主人を呼んできますね、今は一息入れているところですから」
ターニャは店の奥に入って行った。すぐにダイロックがやってきて。
「タケルか、久しぶりだな、調子はどうだ」
「元気にやってるよ。こいつはケーナ、おれと家族になった」
「ケーナか俺はダイロックだ、よろしくな」
「ケーナですよろしくお願いします」
「で、どうしたんだ? また、鍛冶場を使いたいのか?」
「いや、実は店を出すことにしてさ、この店の向かいなもんだから、挨拶に来たんだ」
「ほー、もう資金が貯まったのか。優秀な冒険者なんだな、タケルは」
「いや、そうじゃなくてさ、この前の一件の報酬として領主からもらえることになったんだ」
「なるほど、俺のライバルって訳だな、あははは」
「ダイロックさんのライバルを名乗れるようになるのはずーっと先の話だよ。3日後に引き渡しを受けることになってるんだ。当面は鍛冶と魔道具を受注で作ることになるだろうけど、開店休業状態のはずさ、自分の作りたい物があるから作業場が欲しかったってのが本音だしね」
「鍛冶屋じゃないのか?」
「鍛冶の作業はあるけどさ、それだけじゃない。モデリングや、オートマタの技術も使って作るんだ」
「ほー、それは興味深いな。店を開いたら寄らせてもらうぞ」
「ああ、じゃあまたくるよ」
俺たちはダイロックの店を後にしてシルビアの宿に昼飯を食いに戻った。
翌日、俺は朝から馬の牧場に来ていた。ケーナたちは今日もクエストだ、そろそろ、街の外でゴブリン討伐でもさせても良いのかな? 自分が標準的な冒険者とは言い難いので良く分からない。
「馬をじっくり見るのはこれが初めてだけど、綺麗な生き物だな。ゴーレムホースって実物を見ないで作ったんだろうな。あれは、馬に失礼だよな」
「その通りだ」
いきなり相づちを打たれて驚いて振り返ると。そこには、さっき見学を申し込んだ時にいたおやじがいた。
「おまえさん、よくわかってるじゃねーか。ゴーレムホースを作ったやつは馬を近くで見たことの無いやつだな。いや、見ようとしなかったんだろうな。犬だろうと猫だろうと生き物はそれぞれ違った形で、違った動きをするもんだ。馬があの形であの動きをするのには、ちゃんとした訳ってやつがあるはずなんだ。俺は学者じゃねーから詳しいことは分からねーけどな。おまえさんが言うとおり馬ってやつは綺麗な生き物だよな」
「本当に綺麗だな。俺もゴーレムホースが欲しいんだけどさ、あれは何だか違うんだよな。で、自分で作ろうって思ったわけさ。そのために、今日は馬を見に来たんだけど。あんまり綺麗だから見とれてた」
「なんだ、おまえさん子供かと思ったらゴーレムギルドにいるのかい。だったら、あれを何とかしてくれ、見るたびにむかつくんだ。ゴーレムホースってやつはよ」
「おれは、戦闘用ゴーレムを登録にギルドに行って、その場で副ギルドマスターにダメだし食らっちまったんだ。で、あそこで買うのも悔しいから、自分で納得できるやつを作ろうと思ってさ」
「そうか、そうか、じゃー、ああやって草を食ったり歩いてるところだけじゃなくて走ってるところも見てえんじゃねーのか?」
「それはそうだけど、馬の言葉は話せねーからな、馬に走って見せてくれと頼むわけにもいかない」
「あははは、俺も話せん。じゃー、走るところを見せてやろう。こっちに来な、向こうで調教しているやつを見せてやろう」
「いいのかい? それは、ありがたい」
俺はおっさんに付いて馬場に行った。そこでは様々な動きをさせて馬の調教が行われており非常に参考になった。ステータスで強化されているせいだろうが、馬の足の運びが良くわっかった。いくつかの足運びがあり、それぞれ違った動きをしている。メモを取りつつ観察させてもらった。おっさんが解説してくれたが、足の動きや足を地面に付く順番などはさすがに分からないようで、ステータス様々だ。常歩、速歩、駈歩、襲歩が2種類このくらいは区別できるようになった。それぞれの歩法のつなぎに一工夫必要だろうが、制御式を組み立てることはできそうだ。俺は、おっさんに礼を言うと牧場を後にした。
シルビアの宿に戻ってくると、ちょうどケーナとアインが帰って着たところだった。
「ケーナ、アインお帰り。ごくろうさん」
「タケル兄ちゃんもお帰り」
『マスターモ、オカエリ』
「ケーナ、今日もお手伝いクエストだったんだろ?がんばるな」
「えへへへ、アインが一緒にやってくれるから助かっちゃうよ」
『アインガンバッテル』
「そうか、そうか、アインもごくろうさん」
「タケル兄ちゃんは今日は何してたんだい?」
「ん? 俺か? 俺は牧場で馬を見てた」
「1日中?」
「ああ、1日中ずーっとだ」
「タケル兄ちゃん、何か悩みでもあるのか? おれでよければ相談にのるぞ」
『マスター、シゴトモシナイデ......ダメナオトナダネ』
「いやいや、そうじゃねーから! ゴーレムホースを作るのに参考にするんだよ。ケーナだって、ずーっとお使いクエストやってるわけじゃねーんだから。街の外で討伐するだろ? 素材持って帰るには馬車が必要なんだよ」
「ゴーレムホースって、ゴーレムギルドで売ってるやつだろ? タケル兄ちゃん作れるのか?」
『ケーナ、ダメナオトナニミエルケド、コウミエテモ、アインヲツクッタノハマスターダゾ。』
「あ、それもそうか」
それもそうかって、俺のことをどういう目で見てるんだ。
「そう言えば、アインって普通のゴーレムとは違うんだってタイロスさんが言ってたけど、どう違うの?」
「説明しよう。普通のゴーレムってのはな、アインみたいに自分で考えて動いたりできないんだ。土木工事したり、戦争の時に使ったり、魔物の討伐に使うやつもいるかな? だけど、ゴーレム使いが側で指示しないと細かい動きはできない。アイン、ダメな大人言うな」
「でも、ゴーレムホースって、誰でも使えるじゃないか」
「そうだな、ゴーレムホースは普通の人も使えるけど、荷馬車を引くような簡単なことしかできないだろ? しかも本当の馬とは全然動き方が違うのさ、馬みたいに走れるわけじゃ無いんだ」
「へー、じゃあタケル兄ちゃんが作るゴーレムホースってどんななの?」
「まあ、本当の馬の動きをできるだけ再現したいな。まあ、完全に再現ってのは無理だけどな。でも、本物より力も強くて、走るスピードだって早くするつもりだぞ。せっかくの工房だからな、最初に作るのはゴーレムホースにしようと思うんだ」
「でも、タケル兄ちゃんゴーレムギルドに入れてもらえなかったんだろ? お店でゴーレム売れないじゃないか」
「店はすぐに始める必要は無いのさ、別に金に困ってるわけじゃねーしな。何を売るかも決めてないんだから、当面は冒険者だ。冒険者をやるならゴーレムホースは必要だろ? まあ、馬車も作らなきゃいけないけどな。自分で作った方が安くできるからな」
「全部自分で作るのかい?」
「そんなことは無いけどな、言ったろ? 作りたい物が有るって。そいつのためにスキルにも慣れておきたいし。スキルを使ってどんなことまで出来るのか確かめたいんだ、目標は高いところに有るからな。今は色々と試したいのさ」
「タケル兄ちゃんが作りたい物ってなにさ?」
「あれ? 言ってなかったか? 巨大ロボさ」
だいたい10mくらいの物を想定してるけど、この世界なら十分巨大ロボと言えるだろう。
「きょだいろぼ? なんだいそれ」
「男のロマンを形にした物だ!」
「ロマンねー、この前は夢って言って、欲望全開だったよね」
「違うんだ。ロボは、純粋にロマンなんだ!」
『コノマエノマドウグハ、ジュンスイジャナカッタッテコトダネ』
「純粋だったよ。純粋だったけど、女の子にもてたいって心も純粋なんだ」
そこにアリアちゃんが顔を出して。
「なーんだ、宿の前が騒がしいと思ったら、タケルさん達かー。ケーナちゃん、アインちゃん、タケルさんおかえりなさい」
「アリア姉ちゃん、ただいま」
『アリア、タダイマ』
「アリアちゃん、ただいま。騒いで悪かったね」
「3人は中がいいよねー。なにを話してたの?」
アリアちゃんの質問に俺が答える。
「お店の場所が決まったからね、何を作ろうかって話さ」
「あ、お店決まったんだ。でも、何のお店かまだ決まってないの?」
「ああそうだな、店を持つなんて何年か先のことだと思ってたからな。アイデアは有るんだけど、売れる物のなのかどうかはちょっと微妙だね。焦らずやってみるさ」
「タケルさん、お店出したら、うちから出て行っちゃうんだよね? 寂しくなっちゃうな」
「いや、鍛冶職人の工房って基本通いだよ。鍛冶屋街ってうるさいからね、住む場所は別にする人が多いみたいだよ。俺達の店も仮眠はできるけど、住む場所じゃないよ」
「じゃあ、これからもうちに泊まってくれるの?」
「俺は、家事苦手だし、ここの飯は美味いからね」
「うん。おれもアリア姉ちゃんの宿の飯大好きだよ」
『アインハ、タベラレナイ、マスターガ、タベラレルヨウニハデキナインダッテサ』
「タケルさん、ケーナちゃんありがとう。アインはいつかタケルさんが何とかしてくれるよ。2人にはいつか、あたしが作ったご飯食べてもらいたいな」
「楽しみにしてるよアリアちゃん」
「おれも楽しみだ」
『マスター、ドリョクスルンダゾ』
「アインの食事はどうやったらいいのか想像もつかねえよ」
俺達は、宿に入った。
部屋に戻った俺は、ゴーレムホースの核について考えていた。前にビックボアを倒した時にとっておいた魔核があったはずなので、そいつを使ってゴーレム核を作るとして。どんな制御式を組み込めば良いか考えるのだが、今日見てきた馬の動きだけではどうもうまいイメージが湧かない。
「やっぱり、外から動きを観察しただけだとちょっと想像付かない部分があるな」
アインを作ったときは人間の動きをイメージしてたから特に問題がなかったんだろう。
「馬の体の構造が分からないからな。かと言って馬を殺してばらすってわけにもいかねえ......こともないか」
「馬型の魔物を討伐すれば良いか。ばらすときに観察すりゃいいな。明日はアインを連れて行くかな、ケーナは一人で平気かな」
ケーナに訪ねれば平気だと言うだろうが、いっそのこと一緒に連れて行くのも......ばらすところ見せてもいいもんかね。村では狩りをしていたって言ってたから平気か? 俺って過保護か?
「ケーナを誘ってみるか」