領主邸で暴れました
俺はその男の懐に潜り込みながら振り下ろされる腕を両手で受け止め体を返すと肩に乗せ抱え上げると、床に叩きつけた。所謂一本背負いだが、柔道と違って叩きつけた後に胸に肘をたたきこんだ。
『ミリッ』
骨が折れる感触が肘に伝わる。肋骨を何本か折った。
「グハッ」
投げられた相手は。うめき声を上げた。
これで、男の戦闘力はだいぶ奪えたはずだ。俺は男の剣を奪おうとしつつ護衛を見ると、そいつは俺の行動に一瞬我を忘れたように硬直していたが。次いで腰の剣に手を伸ばそうとしたので、男の剣を奪うことをやめ、護衛に向かって立ち上がりざま、両手を目の前から腰にふり降ろしグローブに魔力を流した。着替えてくるときに、思わずグローブも付けてきていた。
『バスッ』
両手の平から風を噴射し、護衛との距離を一瞬で詰める。右手で剣の柄頭を押しこむ。抜けきる前だった剣は元通り鞘に収まる。剣を抜こうとしていた右腕の袖を左手でつかみ手前に引いて護衛の体制を崩す。剣を押し込んだ右手で相手の襟を掴んで体を返し背負い投げに入る。その時。
『ムギュー』
素晴らしい感触が背中に当たった。
「チッ、お姉さんか!」
俺は床に叩きつけるのをやめ前方に向かって放り投げる。その際にお姉さんの剣を腰から引き抜いた。お姉さんが空中にいる間に振り返りざま剣を振り下ろしつつ、おそらく領主であろう中年男性に切りかかろうとする。領主は腰に手をやるが帯剣していないことに気づき慌てた。
「タケル、お止め!」
エメロードが俺を止めようとするが、やめろと言われて一々止めてたら命がいくつあっても足りない。
「先に仕掛けたのはそっちだ!」
気にせず剣を叩きつけたが、領主の目の前数十センチの所で剣が何かに当たってはじかれた。
くそ! 物理障壁か!! エメロードの魔法だと判断した俺は、剣をエメロードに向けて投げつける。剣は持ち手をエメロードに向けて飛んで行く。剣をよけるために集中が切れると判断し領主につかみかかった。狙い通り魔法障壁が消えたところで、領主の手首を左腕で決め、背中に捻り上げると。両膝の裏を次々に蹴飛ばし床に組み伏せる。右腕を首にまわして叫んだ。
「動くと折る!」
部屋の空気が凍りついた。
「俺の剣を持ってきて貰おうか」
すると、俺が首を抱えている男がしゃべった。
「ここまでだ、タケル殿手を離してはくれんか」
俺は、領主に向かって言った。
「あんたがこの暗殺の首謀者か? 残念だったな。暗殺者がここまで弱いと、殺されてやるには俺が殺されるための努力をしなきゃ無理だ」
俺が投げ飛ばしたお姉さんが。
「何を!」
と言って飛び出そうとしたので。領主の首をちょっと捻ってやると。うめき声を上げる。
「グッ」
お姉さんは、その場に止まってくやしそうにする。俺を連れてきた執事風の男が。
「無礼者! そのお方はご領主様だぞ! 今すぐその手を離さんか!」
「この国では、報酬を餌に呼びだした冒険者を殺そうとするのは無礼じゃないんだな? 俺を殺そうとした奴らを信用できると思うか? まずは俺の剣を持ってこい、無手だと手加減しずらい。剣さえ持ってれば、あの男の骨を折る必要はなかった。それに、あの太刀は俺が初めて打ったもんだからな。ここに置いて行くのは惜しい」
みんなが男を振り向いた。男は脇腹を押え片膝を付き剣を杖に立ち上がろうとしている。
「タケル殿、離してはくれんか? 悪ふざけが過ぎたことは謝罪しよう。殲滅の白刃の実力を確認したいと言う話になってな。モローよ、タケル殿の剣を直ぐに持ってきてくれ」
領主が話しかけてきた。モローは一礼すると部屋から出て行った。俺は領主から手を離すと。カードを1枚取り出してエメロードに話しかけた。
「ばあさん、ギルドもグルなのか?」
エメロードは。
「あたしはタケルを連れてきただけさ。まあ、ザナッシュの性格からしてあんたを試すくらいのことはするかもしれないとは思っていたがね」
「なるほど、確信犯ってわけか貸しにしとくぞ」
「お手柔らかに頼むよ。老人は労わるものだからね」
俺は、鼻を鳴らすと。
「ふん、せいぜい吹っかけさせてもらう。ところでばあさん、あんた治癒魔法は使えるかい?」
「あたしは、魔術師さね。ヒールくらいは使えんでもないが。骨折は直せないね」
「使えねえばあさんだ」
そう言うと、俺は肋骨の折れた男に近づくと。カードをかざしてハイヒールを掛ける。
「あんたも、苦労するな。上司は選んだほうがいいぞ」
「すまなかったな。俺はダンバルド、領都騎士団の団長だ。俺も、殲滅の白刃の実力を見たかったんだから、自業自得ってやつだ。」
ダンバルドはニヤリと笑った。どいつもこいつも勝手なことを。
その時モローが俺の太刀を持って戻ってきた。俺に渡すのを躊躇う様子を見て、ザナッシュが。
「モロー、タケル殿に剣をお返ししろ。そんな物が無くとも我々を害することは造作もないのだから。返しても状況は変わらん」
俺は、モローから太刀を受け取ると。ザナッシュに聞く。
「無事かどうか確認しても?」
「もちろん構わない」
みんなから離れて、窓際に進むと太刀を抜き放ち日にかざして確認する。細工などされていないことは鍛冶スキルのおかげで、持ってだけで分かるが、その事をわざわざ教えてやることもないだろう。
「ふむ、どうやら無事のようだ」
太刀を鞘におさめそのまま左手に持つと中央に戻った。剣を右手で持つのが礼儀だが、警戒していることをアピールするためと、こちらのマナーが分からないことから、このままにすることにした。ザナッシュは俺とエメロードにソファーを進め、自分はテーブルを挟んでソファーに座ると話しだした。
「さて、まずは謝罪せねばならんな。先ほどは試すようなことをしてすまなかった」
ザーナッシュは深々と頭を下げる。俺は。
「謝罪を受け入れる。頭を上げてくれ」
「では、自己紹介をさせてもらおう。私はザナッシュ・ガーゼルここの領主をやっている。この男はダンバルド、うちの騎士団の団長だ、こっちは、ガーネット同じく一番隊の隊長だ、そして、あちらがモローうちの執事だ、取り次の時はあの者が対応する」
3人がそれぞれ頭を下げる。
「俺は、タケル冒険者ランクC-だ」
俺も頭を下げ挨拶した。するとザナッシュが話を切り出した。
「さっそくだが、報酬の話だ。ギルドからタケル殿が、商売の営業許可証が欲しがってると聞いたが、許可証だけ出すと言うわけにもいかん。金額の問題では無いのは分かるのだが、こちらの腹が痛まぬようでは、報酬にならん。ましてや紙切れ1枚しか出せないと言って領民に笑われてしまう」
「そうは言っても、あんなことは初めてで、どれほどの物を要求していいものか分からなかったからな」
「なるほど、確かにあれほどのことを1人で成し遂げた者など歴史上存在しないのだから、その気持ちは分かる。そこで、考えたのだが、店1軒と設備1式でどうだ? 新築でもいいが職人街に作るとなるとよい場所が無いだろう。中古で我慢してくれるなら。急ぎ設備1式そろえられるぞ」
「そんなに? それなら文句なしだけど」
「では、希望を聞いてちょうど良い物件を探させよう。ところで、先ほどの剣をタケル殿が作ったと言っていたようだが、鍛冶師を始めるつもりなのかな?」
「すまんが、タケルと呼んでくれ、殿付けは慣れていないんだ。あれは、俺が普段使っていた物が持って来れなかったんで、この街に来て自作したもんだ、俺は鍛冶スキル持ちでね、あれを見た鍛冶師ギルドのマスターがCランクで登録させてくれた。鍛冶師もやるってところかな」
「ほー、鍛冶師ギルドがいきなりCランクか、ちょっと見せてくれんか?」
俺は、太刀をザナッシュに渡す。鞘から抜き出し、刀身を眺める目は輝きだした。
しばらく眺めていると。鞘に収め俺に返してよこした。
「分類すると、片刃のバスタードソードなのだろうが、打撃武器と言うより、どちらかと言えば斬ることに特化した物なのだな。しかし、美しいな。吸い込まれるようだ。是非一振り欲しいな、店を開いたら一番最初の客は私だからな。振り方が独特のものになりそうだから、その指導も頼みたいな」
「俺が育った国で使っていた物で、総称すると刀と呼ばれている。今見せたのはその中でも太刀と呼ばれる物だ。鍛冶師もやるつもりだが、魔道具も作るつもりだ、もし本当に店をもらえるなら、鍛冶場と工房、天井の高い広めの作業場兼倉庫があれば言うことは無い。冒険者をやめるつもりはないので、基本的に数を売るより質のいい物を受注生産する形で行きたいと思う」
「うむ、了解した、さっそく探して早いうちに紹介しよう。改修は場所を見てタケルの指示で行うことにする。よい場所が無ければ、新築するから、遠慮はするなよ」
「ありがたくお受けする」
そこで俺は、エメロードを見ると。
「ばあさん、ギルドには一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
「ん?借りが2つになったからな、出来る限り便宜は図るが、今話すことでもあるまい?」
「いや、領主様にも聞いて欲しいんでね」
「私にも聞いて欲しいとはどんな頼みなんだね?」
「戦争参加の強制依頼の免除を認めて欲しい」
「なるほど、そう言うことか、タケルはまだなのかい?」
「いや、7人だ。殺人、窃盗、誘拐そんな奴らだったよ。ばあさんは知ってるだろうが、俺は昨日12才の子供の後見人になって冒険者にしちまった。パーティを組んだ。甘いと思われるんだろうが、あの子が殺されるのも、殺す所も出来れば見たくない。あの子の意思であれば構わないし何れその時も来るだろうが、できるだけ先に延ばしたい。だから、俺のパーティメンバーが強制的に戦争に駆り出されるのを免除してもらいたい。通常のクエストであれば選ぶことはになるだろうが、その時も俺だけ出るってことになるだろう」
エメロードは少しだけ考えると。
「ギルド規約上違約金を払いさえすれば断れるんだよ?それでも、免除が?」
「ああ、いつも金があるとは限らんし、ギルドは冒険者の所持金を把握してるじゃねーか。払いきれない違約金でも設定されたらかなわん」
「分かったよ、ただし、お前さんがガーゼルの街を拠点にしている間だけになるけどいいかい? 依頼や一時的に他の街にいる時なんかは有効だから安心しな」
「自分の店を持つんだから拠点は動かさねーよ」
「なら、いいだろう。ザナッシュもそれでいいかい?」
「タケルの気持ちは分かる。私も、子供が戦争に駆り出されるのを見たいとは思わんよ。この国が自分から戦争を仕掛けることはあり得ない。戦争と言えば国を守るものだ。自分たちから守りたいと思える国にすればいいことだ。強制など本当はしたいとは思っていない」
その後、俺とエメロードはザナッシュと一緒に夕食を取り領主城を出た。エメロードとザナッシュは昔一緒にパーティを組んで冒険者をしていたそうだ。エメロードがリーダーを務めるパーティにザナッシュは加入していたそうだ。若いころは色々やらかしたらしい。
ギルドでエメロードと別れた俺は、シルビアの宿に向かった。しばらく一人で歩いていると。前を歩いているやかましい集団に気が付いた。どうやらケーナを真ん中に置いて蒼穹の翼のみんなが歩いているようだ。俺は走ってみんなに追いつくと。
「よう、今帰りか。ずいぶん盛り上がってるじゃないか」
と声を掛けた。みんなが振り向いて俺を見る。
ん?なにか変だ。
ケーナのはしゃぎようが凄いことになっているし。他のみんなはニマニマと俺を見ている。
「ケーナずいぶん楽しそうだな。飯美味かったのか? よかったじゃないか」
バトロスが。
「タケル、今帰りか、領主の話ってのはどうだったんだ?」
「ああ、店がもらえることになったよ。商売の営業許可証だけだと実質的には領主がせこく見えちまうってことだそうだ」
アシャさんが。
「どんな物を扱うんですか?」
「今の所は、鍛冶品と魔道具の受注生産を考えているんだが。これから先、もし仲間が増えたらそいつの特技も生かして行きたいから。雑貨屋になるんじゃないかな?冒険者もやって行くから街の人たちに認知されて来たら店番が必要になるよなー。あ、セクハラとか無いからね? ケーナがいるんだから変なこと言わないでくれよ」
「タケル兄ちゃんは、十分変なこと言ってるから今更だよ」
『マスター、ツウジョウウンテン』
「誰が、変なんだ! どんな状態が通常運転なんだ?」
「そんなことよりさ、今日はいいところに連れて行ってもらったんだ」
ケーナが嬉しそうに話しだした。そんなことって、俺の尊厳に係わることだと思うんだけど。
「タケル兄ちゃん、殲滅の白刃って英雄に会ったことあるかい?ガーゼルの街をオーガが率いる6000匹のゴブリンから守ったスゲー人なんだよ」
「しっ、知ってる人だけど会ったことはないかな?」
うん、嘘は言ってないな、自分に会うって普通は言わないからな。それよりゴブリンの数が増えてないか?
「ふーん、そうなんだ。タケル兄ちゃんもまだ、冒険者になったばっかりだもんな。そんな英雄と知り合う機会なんてなかなか無いよな。凄いんだよ、殲滅の白刃と滅失の魔術師って」
「でもさ、普通の人間がゴブリンとは言え6000匹相手に戦えるとかあり得ねえだろ?」
俺が言うと。ケーナは俺が言ったことを気にする様子も無く。
「タケル兄ちゃん、おれ殲滅の白刃のセリフ覚えたんだよ『別に全滅させてもかまわないんだろう?』って言ってゴーレムに立ち向かって行くんだよ。カッコイイねー。白く輝く魔法剣を振りきると、1度に50匹もゴブリンが倒れて行くんだよ。それに従者の滅失の魔術師の魔法だって負けてないんだ。業爆の魔法でゴブリンが吹き飛んで行くんだ。最後に残ったオーガとの死闘も凄いよね。タケル兄ちゃんオーガと戦ったことあるかい? オーガってねCクラスの魔物なんだよ。ゴブリン6000匹と戦った殲滅の白刃はね、疲れ果ててたけど、最後の力を振り絞ってオーガと戦うんだよ! 何十回斬りつけても直ぐに回復しちゃうオーガを最後には倒しちゃうんだ。そうして街を守ったんだ。でね、もっとカッコイイのはね。全然偉ぶっていないんだよ、災害級の魔物を倒したのに、報酬なんか普通の討伐報酬しか受け取らないんだ。そしてね『俺は、自分にやれることをやっただけですよ。この街には守りたい人たちがいますから』って、言葉を残してギルドを去るんだよ。いいよねー、カッコイイよねー!」
アネモネさんも情報流したのかよ。ケーナは一気に話すと顔を輝かせて俺に話してくれる。
「あー、そうだな、大切な人を守るためなら、頑張っちゃうのかもな」
おれは、ケーナの顔をまともに見れずにそこら辺をさまよわせるしかない。
チラリと、アシャさんを見ると、アシャさんはケーナをやさしく微笑んで見ている。
バトロスやスナフは酔っているのか、ケーナの話を聞きながら大きく頷き同意している。ヒースさんは俺を見ると、頑張ってくださいとでも言いたげな目を向けてきた。ヴァイオラはニマニマと俺を見ると。俺の肩を2、3度ポンポンと叩いて。こう言った。
「でも、ケーナ、殲滅の白刃も大変だよなー、この話を吟遊詩人たちが広めたらさ、英雄を倒して名を上げようって連中が大陸中から押し寄せてくるんじゃないか?」
「ヴァイオラ姉ちゃん何言ってるんだい! 殲滅の白刃が自分の名を上げようだなんてセコイ考えの奴らになんか負けるはず無いじゃないか。みんな返りうちさ! ねえ、タケル兄ちゃんもそう思うだろう?」
俺は、ヴァイオラの言ったことを考えていた。
大陸中からだって? 冗談じゃねーぞ! せっかく店を出して、やりたいことが出来る環境が整いつつあるんだ。おかしな連中に絡まれてたまるもんか。
「ねえねえ、タケル兄ちゃん? どうしたのさ、ボーとして」
「あ、すまん。でも英雄なんだろ? 無駄な戦いはしないんじゃないかな? だって、殲滅の白刃って無益な戦いを喜んでするような奴とは違うんじゃないか?」
「うーん、そうかも知れないね。強いからってそれをひけらかすのは格好悪いよね」
「ケーナ、カッコイイとかカッコ悪いとかを基準にして行動するってさ、英雄としてどうかと思うぞ?」
「そうだね。それがもう格好悪いね。殲滅の白刃は強いけど高潔な人物なんだよね!」
ケーナ、君は高潔の意味を知っていて使ってるのかね? 高潔な人物は決して、とべーるくん2号の上で、お姉さんに抱きつかれて喜んだりはしないと思うぞ。ぜったいにな。
ケーナが誰にともなく尋ねた。
「おれもあんな風になれるかなー?」
すると、スナフが。
「ケーナ、タケルに剣を教えてもらってるんだろ? だったらいつかは殲滅の白刃みたいになれるんじゃねえか?」
「うん! 今日からタケル兄ちゃんに剣術を習い始めたんだよ。そう言えばタケル兄ちゃんが蒼穹の翼を助けたって、ヒースさんが言ってたけど。タケル兄ちゃんってどのくらい強いの?」
ケーナの質問にどう答えようかと思っていると。アシャさんが。
「そうねー、ケーナちゃんはブラッドグリズリーって知ってる? とても大きなクマの魔物でね、Cクラスなのよ。その魔物に襲われていた私達を助けてくれた時は、一撃だったわね」
「Cクラスの魔物を1撃かー、じゃあタケル兄ちゃんも殲滅の白刃みたいにオーガを倒せるのかい? オーガもCクラスだったよね」
バトロスが。
「オーガを倒した時は。10秒かかったっけ?」
「えー、殲滅の白刃だって、何十回も斬り付けないと倒せなかったんだよ! それを10秒って」
あー、これはいつまでも隠してはおけねーな。蒼穹の翼も俺達をからかってるだけみたいだし。ケーナとは家族だしな。恥ずかしいけど、これ以上ケーナに手放しで褒められるのはもっと恥ずかしいしな。俺は、覚悟を決めた。
「オーガ相手にそんなに手間は掛けない。どっちかって言えばゴブリン1000匹の方が大変だったよ。なあ、アイン?」
『ゴブリンハタイヘンダッタネ』
ケーナはキョトンとして俺とアインを交互に見た。
「タケル兄ちゃん? アイン? オーガ? ゴブリン1000匹?」
「ああ、いくらゴブリンが弱いって言っても一振りで斬り倒せるのは3匹くらいだぞ。俺の剣は鋼の剣を太刀風に改造したもんだったし。魔法だって俺のは記述魔法だからファイアーウォールくらいしか使って無い。アインの爪だって一振りじゃ2匹くらいしか吹き飛ばないよ」
「えーと、タケル兄ちゃん何言ってるんだい? まるで殲滅の白刃と滅失の魔術師がタケル兄ちゃんとアインのことみたいじゃないか」
「ふふふ、ケーナちゃん、みたいじゃなくって、タケルさんとアインがその英雄なのよ。タケルさんは英雄扱いされるのが嫌みたいだけど。あなたのお師匠は歴史上初めて災害級の魔物の暴走をたった一人で止めた冒険者なのよ。アインはタケルさんのゴーレムだから一人で倒したことになっちゃうのよ」
アシャさんが嬉しそうにケーナに説明する。
「えーーーー! タケル兄ちゃんが殲滅の白刃でアインが滅失の魔術師ーーー!」
俺は、ケーナに釘をさしておく。
「ケーナ恥ずかしいからあんまり言いふらすなよ? ぜんぜん吟遊詩人の話に出てくるような戦い方じゃなかったんだからな」
『アインハマジュツツカエナイヨ』
ケーナは驚き過ぎたのか放心ながら、とんでもないことを言い出した。
「タケル兄ちゃんが英雄?.....滅失の魔術師もタケル兄ちゃん?.....綺麗なお姉さんを、お姫様抱っこして空を飛んで、ちょっと揺らしたら「きゃっ」とか言って首にしがみついてくれる.......彼女になってくれるかもってダメダメなこと言ってたタケル兄ちゃんが?」
それを聞いていたヒースが。
「タケル殿、先ほど言っていた魔道具は空を飛ぶための物だったんですか?」
俺は。
「ああ、とべーるくん2号(仮)が出来上がれば、空を飛ぶ魔物と空中戦が出来るようになるな。1号でも飛べるんだけど、このままじゃ両手が使えないからなー。ただ、飛ぶだけだ」
ヒースは呆れたように。
「はぁ、ただ飛ぶだけですか、それがどれだけ難しいことか分かっていないようですね。タケル殿には驚かされてばかりです。それで人類の夢を形にしたと言っていたわけですか」
ヴァイオラは。
「それに女の子をお姫様抱っこで乗せるってわけか。なるほど、欲望も乗せて飛ぶってわけね」
「いや! 欲望は乗せないから! ホワイトイーグルを討伐した時に思い付いたんだよ。空を飛ぶ魔物を討伐するためだよ? 本当だからな!」
「まあ、17年間女っ気無しの男の子の考えそうなことだよね。アシャ?」
「(お姫様抱っこ.......。).....え? なに? ヴァイオラ?」
「はぁ.....」
「え? え?」
キョトキョトと周りを見渡すアシャさん.....可愛いなー。美人のお姉さんの仕草が可愛いって反則だよな。
そんなことを話しているうちにシルビアの宿に付いた。別れ際にヴァイオラが。
「タケル、その魔道具ができたらあたしをのせて飛んでね。お姫様抱っこでも何でもいいからさ」
「練習すればだれでも飛べるような物を作るんだから、ヴァイオラ一人でも飛べるさ」
「ふふふ、あたしと一緒じゃ飛べないのかな? 誰と飛びたいんだい? ほれ、お姉さんに言ってごらん」
「誰とか言われても、一緒に飛んでくれる人なんか心当たりねーよ! どうせ女っ気無しだよ俺は! それに、2号のアイデアなんかまだ出来てねえよ」
「あははは、そうなんだ、心当たりはないのか」
「そんなに笑われると傷つくんだけど」
スナフが俺の背中を思い切り叩くと。
「タケルは若いし腕も立つんだからこれからいくらでもチャンスはあるぜ、がははは」
と励ましてくれた。
「それじゃな、今日はケーナをありがとう」
「今度はタケルさんも一緒に行きましょうね」
とアシャさん。
「ああ、その時は吟遊詩人がいない店がいいね。あれじゃ料理の味がわからない」
「ふふふ、そうね」
蒼穹の翼のみんなと別れてロビーに入るとそこにはシルビアさんがいた。
「「シルビアさんただいま」」
「ケーナちゃんタケルさんおかえりなさい」
挨拶をすませて俺は部屋に行こうとしたが、ケーナが。
「シルビアさん、タケル兄ちゃんが殲滅の白刃だって知ってた?」
「ええ、知ってましたよー。あたし達の街を命がけで守ってくれたんですよ。ケーナちゃんのお兄さんは、とても強くて、とってもとっても優しい人ですよ」
「うん!」
ケーナは嬉しそうに大きく頷くと2階への階段を駆け上がって行った。
「それじゃ俺も部屋に行きます」
それを追いかけるように俺も自分の部屋に向かった。