アイ キャン フライ!
ケーナの元気っ子な所をどう表現したものか。
荷物が無いってことは、着替えや日用品も無いってことだ。さて、俺が金を出してやるのは構わないんだが、ケーナが素直に受け取るとは思えないな。どうしたものか。......金が掛かるものから納得させちまえば後はなし崩しに行けるんじゃね?
俺は少し考えてから切り出した。
「俺は、シルビアの宿ってところにお世話になってるんだ。ケーナもそこでいいか?金なら、ある時払いの催促無しでいいぞ。ギルドからはちょっと遠いけど飯が美味いんだよ」
「野宿するからいい。待ち合わせの時間にはギルドに行くようにするから」
やっぱりケーナはそう言うだろうな。
「あのな、野宿なんてしてると街を警備してる騎士に連れて行かれて、街から追い出されるぞ。いいからこい」
「冒険者にしてくれただけで十分だよ。タケル兄ちゃんにそこまでしてもらうわけにはいかない!」
「あのな、アインがいるけど、俺も両親死んでるし、その後、たった一人の身内だった祖父ちゃんも死んでるからな。ケーナと同じ一人なんだよ。いいか? 俺はケーナの後見人だぞ」
「冒険者になるにはタケル兄ちゃんに後見人になってもらわなきゃいけなかったんだから仕方ないじゃないか」
「いいや、仕方が無いないから後見人になったわけじゃねえよ。俺はケーナと家族になるつもりだ! そのつもりがなきゃ後見人になんかなるもんか! 今日からケーナは俺の家族だ!」
「え、タケル兄ちゃんがおれの兄ちゃんになってくれるのか?」
「ああ、今から俺達は家族だ、同じ所に泊まるのは当たり前だ!」
俺がそう言うとケーナは俺に飛びついて来たそして思い切り泣きだした。父親が死んで今まで村のお荷物と感じながら一人で頑張ってきたんだろう。俺の一言で、張りつめたものが切れたのかもしれない。
しばらくしてケーナは泣きやんだ。
『アインモケーナノカゾクダゾ』
「ぐす、アインもおれの家族なのか?」
『アインネエチャンッテヨブトイイヨ』
「それはちょっと、アインはおれより背が小さいし。『チイサイイウナ!』可愛いから、姉ちゃんって感じじゃないよ」
『マア、カワイイトイッテクレタカラユルスケド』
『ダッタラ、アインデイイ』
アインとケーナの会話を聞き流していると.....!!
「アインお前って女なのか!!」
『ナニヲイマサラソンナコトヲ』
「ゴーレムに性別があるとは考えもしなかったからな」
『コノ、「スナドケイ」ノヨウナプロポーションヲミレバワカルダロ』
と言ってセクシーポーズらしきものを取るアイン。
いや、お前寸胴だからな!心の中で突っ込んだが口には出さない。きっと女の子にもてたいと言う俺の願望がゴーレムにまで性別を付けちまったんだろう。
「あー、砂時計はともかくこれからは女の子として扱うよ」
今まで女の子と付き合ったことは無いからどうやっていいかは分からないけどな。
家族になるってことを納得したケーナは、着替えや日用品を買うことについても素直に言うことを聞いた。
ひととおり買い物をした俺達は、シルビアの宿に付いた。俺はカウンターにいるアリアちゃんに話しかける。
「アリアちゃんただいま」
「おかえりタケルさん。その子は?」
「この子はケーナ、今日からパーティを組む相棒だ、俺の家族さ。部屋空いてるかい?」
そこに、シルビアさんもやってきた。
「おかえりなさいタケルさん。タケルさんの隣の202号室でいいかしら?」
「ケーナです。よろしくお願いします」
「あら、この宿の主人のシルビアです。よろしくお願いしますね」
「娘のアリアです。よろしくねケーナちゃん」
俺は部屋に荷物を置いてくると食堂に行った。ケーナは風呂に入ると言っていた。初めて入るらしくアリアちゃんが使い方を説明してくれるらしい。
俺は、シルビアさんにケーナのことを話した、家族になったと話すと。少し涙ぐみながら。
「2人とも苦労してきたのね、うちにいる間は自分の家だと思って暮らしてね」
「俺には祖父ちゃんがいたからね、ケーナは父親が亡くなってから、村で暮らしていてもずっと一人だったんだろうからな、おれが家族になれればいいんだけどな」
「大丈夫よ、ケーナちゃんはタケルさんのことを信頼してるわよ、今日初めてあったとは思えないくらいにね、あとは一緒に過ごす時間がより2人の絆を深めてくれるわ」
「だといいね、あ、今日はナルルムのメロールは無しでお願いします、ケーナはもう家族だから」
「ふふふ、そうね」
「あの痩せ方だと村では結構厳しい暮らしをしてたと思うんだ。ここの料理はどれも美味いので。シルビアさんのお薦めでお願い」
「あら、そんなに褒められるとどんな料理をだしたらいいか困っちゃうわね。飲み物はいつものでいいかしら?」
「うん、それでたのみます」
食堂に降りてきたケーナを待っていたかのように沢山の料理が並べられた。
「タケル兄ちゃん、これ全部食っていいのか?」
「ああ、今日は俺達が家族になった日だからな、ちょっと特別だ。でも、ここは普段の飯も美味いぞ」
ケーナはまるで、ハムスターのように両の頬を膨らませてシルビアさんの料理を味わっている。
「あのなケーナ、料理は逃げないんだからもっと落ち着いて食え」
「わっでごんがうぼあ「あー、食うかしゃべるかどっちかにしろ」むぐむぐ」
「そこで、食う方を選ぶわけね」
「あー美味かった。こんなに美味い物生まれて初めてだよ。シルビアさん凄いな。これから毎日こんな美味いものが食えるんだな。この街にきてよかったよ」
「あら、ありがとう。ケーナちゃんが気に入ってくれてよかったわ、明日からもわたしがんばっちゃうからね」
シルビアさんは食器をもって厨房に戻って行った。
「シルビアさんの他にも料理人はいるんだけどな、朝飯はシルビアさんが作ってくれるんだぞ」
「朝が楽しみだな」
「さて、飯も食ったから明日の予定だ、ケーナは朝は早く起きられるか?」
「うん、日が出たら働き始めるのが村のやり方だからな。今朝1番初めに鐘が鳴った時にはもう起きてたぞ」
「その1番目の鐘が鳴ると朝飯の時間だ、その1刻前に起きて訓練をしよう。ケーナの使う武器は何だい? 狩りをしていたんなら弓か? それとも腰に挿してるナイフか?」
「狩りはしてたけど、力が無いからまだ弓は引けなかった。このナイフは父さんの形見だから。タケル兄ちゃんはどんな武器を使うの?」
「俺は刀....剣だな、弓もやれるけど、人に教えるほどじゃない。第一俺が使っていた弓はここら辺のとは形が違うんだよな」
「だったらおれ、剣がいいな。タケル兄ちゃん教えてくれよ」
「ああいいぞ、でも俺の指導は厳しいぞ、付いて来れるかな?」
「ああ、弱音なんか吐かないよ」
ケーナは本当に弱音など吐かずに修練に付いてくるだろう。12才か、修練を始める歳にしては早くは無いが平気だろう。魔物相手の戦い方なんて俺だって慣れてるわけじゃないしな。一緒に修練って所だな。
「そして、修練の後に朝飯。そして魔道具1号のテストだ」
「今日は悪かったな。おれのせいで予定が変わっちゃって」
「気にするな。テストより大事な用事があったんだから、そんなもの後回しに決まってる」
食事が終わると俺達はそれぞれの部屋に戻って眠りに付いた。
さて、今日から修練を開始するわけだが、初伝の1段から始めることにする。型を教え、繰り返させる。基本が大事なのはどんな事にでも言えることだ。しばらくは、午前中は型の修練そして、午後はお使いクエストや、弱い魔物の討伐などをさせるつもりだ。
1の鐘が鳴るまで型を繰り返させて、朝飯を食べることにする。ケーナは今朝もハムスターだ。朝飯が済んだら3人で街を出る。途中の屋台で弁当を買って適当な平原に向かった。
「タケル兄ちゃんが作った魔道具ってどんな物なんだい?」
「よく聞いてくれたな、ケーナ! それは人類全ての夢。誰でも空を自由に飛ぶことが出来たらいいな! を実現する魔道具「とべーるくん1号」だ!!」
「魔術師なら魔法で飛べるんじゃないかな?」
『ナマエ......ナニモイウコトハナイヨ』
「魔術師は飛べるかも知れないけど、よっぽど優秀じゃないと自由に飛びまわるなんて出来ないと思うぞ」
俺達はしばらく歩くと平らで当たりに邪魔になる物もない草原に着いた。
「さて、このあたりでいいかな」
おれは準備に取り掛かる。と言ってもボードを足に固定し、グローブを付けるだけだ。それぞれのパーツがやることは単純だ。ボードには魔石が2つ付いており、1つは魔力を流している間は乗っている人間の体重を相殺できる程度の出力で風魔法を発動しボードを浮かす。もう1つは魔力を流すと瞬間的に強い風魔法を発動し強力にボードを押し上げる。これだけだ、そして両手に付けたグローブは魔力を流すと手の平から一定の出力で風を噴射する。こいつは推進力であると同時に、姿勢制御をするためにも使うことになる。
「さて、やるぞ。.....ケーナ、アイン、まあ大丈夫だと思うけど少し離れてな」
2人が離れるのを待って、俺はボードの魔石に魔力を流す。周りの草が風になびいていく。ボードは.....浮かない。
「あれー? 浮かねえな.....。そうか。高度を維持だけの出力しか出ないんだっけ」
そう、高度を維持するってことは、高度0ならその高度そのままってことだよな。俺はもう1方の魔石に魔力を流す。すると、いきなりボードが跳ね上がり足を持ち上げた。バランスを崩した俺は頭を地面に叩きつけられた。
「ぐがーーーー!」
目から火が出るってのはこのことか! 俺は頭を抱えてのたうちまわる。ケーナとアインが慌てて寄ってきて。
「タケル兄ちゃん大丈夫か!」
『マスター、アタマヘイキカ?』
と、声を掛けてきた。
「まるで、頭が地面に叩きつけられたように痛い」
「まるでじゃなくて、まともに叩きつけられたよ」
「平気だ、痛いが平気だ」
俺は、ヒールのカードを取りだし自分にヒールを掛ける。
「よし! もう何ともないぞ。今のはちゃんとボードの真上に重心を乗せていなかったせいでこんなことになったんだな。次はもっとちゃんとやるぞ」
俺は起きあがり、再びボードの魔石に魔力を流す。ボードの周りに風が起きる。今度は両腕を広げ、手の平をやや下向きに後ろに向けると、魔石に魔法を流す。手の平から風魔法が噴出し、勢いに押された両腕が変な軌道を描き顔の前で手の甲がぶつかり合った。俺はゆっくりと前に進んでいたボードの上で両肩を押さえてうずくまった。
「う、腕が変なふうに動いたぞ。脱臼したかと思った」
「タケル兄ちゃん大丈夫?」
『シンパイスルコトナイヨケーナ、マスターハジョウブ』
俺はヒールのカードを使うと。
「もっと体に密着させて発動しないとダメだな.....。まあ、少しは進んだんだから、順調だ」
俺はテストを続けた。
「まるで、顔面を地面に叩きつけられたように痛い」
「まるでじゃなくて、まともに叩きつけられたよ。もう、やめたら?」
「ぐわ! 誰だ! こんなところに藪を置いた奴は!」
「初めから、そこに藪はあったよ」
「ボードが大きくて取り回しに問題が.....」
「足が、変な方向向いてるけど痛くないか?」
「あーはっはっは、つかんだ、何かをつかんだ」
「木から下りてこいよ」
「推進用の魔法で姿勢制御なんて繊細なことができるわけ無いだろうが!」
「タケル兄ちゃん、頭にコブ出来てないか?」
「ふふふ、つかんだ、何かをつかんだ」
「さっきも同じこと言ってたよ」
そして2時間ほどが経過して。
「わーはっはっはっはー、飛んでいる! 俺は飛んでいるぞ! 重力に囚われた人間どもよ、見るがよい、これが俺の力だ!」
「タケル兄ちゃん、セリフが悪役みたいだ」
ある程度飛べるようになったころには、「とべーるくん1号(改)Ver9」はサーフボードサイズからスノーボードサイズになり形も角が落ちた長細い台形になって下向きに小さなフィンが2枚付いた形に進化していた。
さらに、姿勢制御は風魔法では無く、ボードに受ける空気と体を傾けることで十分なことが分かってきた。何事もやってみなければわからないと言ったことだな。俺は、両手のグローブに魔力を流す時間を長くして少しボードのノーズを持ち上げた。
「やほーーー」
宙返りをし、その勢いを殺さずもう一度上昇し、上昇しきったところで体をひねりそのまま急降下。地面に追突する寸前で、ボードの魔石に魔力を流し瞬間的に強い風を吹き出し急停止そのまま地面に降りた。
「ケーナ、アイン見たか! この華麗なボード捌きを!」
振り向くと、ケーナがパチパチと拍手をしてくれている。
「あれ? ケーナ、アインはどうした?」
「アインなら、転がるところを見てるのに飽きたからちょっと狩りに行ってくるって」
「なんだと、あいつは俺の華麗な飛行を見ていなかったってのか」
「えーと、3回目に木に引っ掛かった頃かな? 半刻くらい前だよ」
「.....まーいいか、問題点の洗い出しも大体終わったし、アインが戻ったら帰ろうか」
「タケル兄ちゃん。おれもそれ使えるのかい?」
「使えるさ、魔力さえあれば、魔石に魔力を流すコツさえつかめば誰でも飛べるさ」
魔石に魔法紋を刻んだ場合は刻印魔法が使えないと魔法が起動しないんだけど、このボードのように魔法陣を刻印した物を使った魔道具は魔力さえ流せばだれでも使える。
「まあ、こいつはこのままじゃちょっと使えないからな。新しいのはケーナの分も作ってやるよ」
「作ってくれるのはいいんだけど、なんでこのままじゃ使えないんだい?」
「まず、推進用の風魔法をグローブから発生させるから、飛行中に両手が使えない。手の平から出すから、物を持っていたら飛べないってことさ」
「持てないと何か不味いの? さっきはちゃんと飛べてたよ?」
「飛行中に剣が持てないと空中戦が出来ないだろ? もともと空を飛ぶ魔物と近接戦闘をするために作ろうとしてたんだからな」
「......えーと、それって、作る前から分かってたんじゃないの?」
「......ケーナ、そんな小さなことに拘るようじゃ大成しないぞ!」
「気が付いていなかったんだね......」
ケーナが生温かい目で俺を見つめる。
「そんな目で見られると照れるぜ」
そこにアインが袋一杯にゴブリンの討伐証明を持って帰ってきた。
『マスター、モウアキラメタノ? コンジョウナイナ』
「違うわ! テストは成功だ今日のデータを元にして「とべーるくん2号」は軽やかに宙を舞うことになるだろう」
『2ゴウ? ヤッパリダメダッタンダ』
「ち・が・う! 両手がフリーにならないとダメなんだよ。女の子をお姫様抱っこして空中デート出来ないじゃないか!」
「......魔物と接近戦をするためじゃ......」
『ケーナ、カエロウカ』
「うん」
「あれ? ケーナくん? アイン? 君達には分からないのか? 人類の夢だろ、空を自由に飛べるってことだぞ?」
「あー、そうだね。夢だよね。人の夢と書いて儚いって読むらしいよ?」
「えー、綺麗なお姉さんを、お姫様抱っこして飛ぶんだぞ? ちょっと揺らしちゃったりすると「きゃっ」とか言って首にしがみついてくるかも知れないんだぞ? 雲の上で一緒に夕陽とか見ちゃうんだぞ! いい雰囲気になっちゃうと思うだろ? そうしたら告白とかしちゃったりして、彼女とかになってくれたり、それだけじゃなくて、もっとこう何と言うか......」
「人類の夢の為じゃなくて、タケル兄ちゃんの夢の為に作ったわけだ」
「.....えーその事に付きましては......。我がパーティは、飛行する魔物に対して決定的な攻撃力を得ることに成功したわけでありまして。これは、他の冒険者に対して大きなアドバンテージであると言えるわけですよ? これは凄いことだと思ったりしない?」
「今更そんなこと言っても説得力がないよ」
『マスター、ダメダメダネ』
2人は街に向かって歩き始めていた。
「おーい、待てよ。俺も帰るから」
街に戻った俺達は冒険者ギルドに向かって歩いていた。すると後ろから声をかけられた。
「タケルさん、こんにちは、今戻ったんですか?」
アシャさんだ。笑顔が今日も素敵です。
蒼穹の翼のみんなだ。魔物の討伐クエストを受けたんだろう。ゴーレムホースの引く馬車に魔物の素材を積んでいる。
「アシャさん、みんなもこんちは」
すると、ヴァイオラが。
「タケル、アシャにだけ名指しで挨拶するとはいい根性してるね」
「ヴァイオラもこんちは」
「あたしはおまけなんだー」
「そんなことねーよ」
ヴァイオラのからかいを否定すると。アシャさんが。
「あら、その子は?」
「ああ、ケーナだ。昨日俺が後見人になって冒険者登録したんだ。よろしく頼むよ。昨日知り合ったんだけど、もう俺達は家族だからさ。ケーナこっちのみんなは、蒼穹の翼って言う冒険者パーティのメンバーだ、俺がこの街に来た時に知り合って、仲良くしてもらってるんだ」
「ケーナです。よろしくお願いします。タケル兄ちゃんは、おれの後見人になってくれて、身寄りが無いおれを家族にしてくれて。アインも家族だって言ってくれて......」
ケーナは、顔を赤くして照れながらも嬉しそうに話す。
「アシャです、よろしくねケーナちゃん」
「ヴァイオラだよ、よろしくね」
「バトロスだ、蒼穹の翼のリーダーをしている」
「スナフだ、よろしくな」
「ヒースです、我々蒼穹の翼はタケル殿に助けられましてね、それから仲良くしてもらっているんですよ」
ヒースさんは相変わらず物腰が柔らかい。俺が。
「バトロスさんは、こう見えてもまだ、27才だ35才じゃないからな」
と、からかうと。
「お前くらいだそんなことを言うやつは。タケルと違ってケーナの目は節穴じゃないよな?」
『ケーナニシタラ、27モ35モドッチモオジサン』
「なんだとアイン。俺はおじさんじゃねえ! お兄さんだ」
「俺から見ても、27才は立派にオジサンだ」
「タケルの目は節穴だから、何を言われたって気にしねえさ! そうさ、気持ちが老けなきゃおじさんとは言わねえんだよ」
そこでヴァイオラが。
「見た目が老けてるのは否定しないんだね。あははは」
「がははは」「ふふふ」「あははは」
ヴァイオラの言葉にみんなが笑った。もちろんケーナも。
「ところで、タケルさん変わった形の盾ですね。戦闘スタイルを変えたんですか? でもソードストッパーは付けたままですね?」
アシャさんが俺に問いかけてきた。
「アシャさんよくぞ聞いてくれました。これこそが人類の夢を形にした魔道具だ。一昨日完成して今日はそのテストに行ってたんですよ」
すると、ヴァイオラが茶々を入れてきた。
「タケルの妄想を形にした魔道具ねー、若いタケルの欲望がどんなものか聞かなくても分かるけど、興味あるなーお姉さんは」
「妄想ちがうし! ジ・ン・ル・イの! 夢だし」
すると、ケーナが。
「タケル兄ちゃんが、綺麗なお姉さんにしがみつかれて、いい雰囲気になってって言ってた」
『アインモ、ソウキイタ』
「ケーナ? アイン? 君たちが何を言っているのか俺にはヨクワカラナイヨ?」
振り返ると、アシャさんとヴァイオラが呆れたように俺を見ていた。
「仕方が無いじゃないか! 17年間一度も女の子と付き合ったことないんだぞ! 少しくらいそう言うことを考えたって仕方が無いじゃないか......仕方が無いじゃないか? 若いんだもの」
最後の方は自分が情けなくなって小声になった。
「17年間彼女なし.....」
スナフが大声で笑いながら。
「がはははは、こんな街の真ん中で、俺全くもてない宣言かー、タケル凄いな、俺にはとても真似できん」
「あははは、タケル、そのうちきっと可愛い彼女が出来るよ?」
「ヴァイオラ、最後疑問形になってるよ、本当に出来ると思うか?」
「あはははは」
ヴァイオラの目が泳いでいる。他のみんなは生温かい目で俺を見ている。
「そんな目で俺を見るなー」(涙目)
そうこうしているうちに冒険者ギルドに付いたので、俺達は討伐証明を提出した。待っている間にバトロスが俺に声を掛けてきた。
「俺達は打上げをするんだが、タケル達は、今日これから用事あるか? 用事が無ければ一緒に飯でもどうだ?」
「ああ、俺は何もないな。ケーナは?」
「おれも何もないよ」
「ケーナも一緒でいいんだろう?」
「もちろんだ。じゃー6の鐘が鳴るころにギルドの前に来てくれ」
「ああ、よろしく頼む」
しかし、その後俺には用事ができちまった。
俺達が、クリア証を持って受付カウンタに行くと。アネモネさんに声をかけられた。
「タケルさん。ギルド長がお呼びです。一緒に来ていただけませんか?」
「え? 今からかい?」
「はい、お話は直ぐに済むと思います。お願い出来ますか?」
「ああ、ちょっと行ってくる」
俺はアネモネさんに返事をすると。みんなに声を掛け、アネモネさんに連れられてギルドの奥に案内された。
「ギルド長が俺に何だってんだろ?」
「タケルさんがギルドに顔を出したら案内するようにって、さっき言われたばかりなのよ。直ぐに済むから用事があるって言ってもとりあえず連れて来いって」
と言いながら、目の前のドアをノックした。
「アネモネです。タケルさんをお連れしました」
すると中から。
「おはいり」
と声が聞こえた。
「失礼します」
アネモネさんはドアを開け、俺を中に招き入れた。そこには執務机に付いた老婆がいた。
このばあさんがギルドマスターなのか? 軽く100才越えてんじゃねーか?
「お前さんが、タケルかい? これはまたずいぶん若いね。とりあえず、そこにお掛け」
俺とギルド長がソファーに座るとアネモネさんはお茶を2人分入れて部屋から出て行った。
「あたしはエメロード、ガーゼルの冒険者ギルドのギルド長をやってる。」
「タケルだ」
「ふーん、いい面構えをしているね。タケル、あんたいい冒険者になるねー。あたしがあと10才若きゃほっとかないんだけどねー」
「10才若くても、ばあさんのままだろうが、いったいあんたいくつなんだよ」
エメロードは、歳に似合わないほど素早く俺の頭を殴ると。
「女性に歳を聞くもんじゃないよ!」
「いてえな、手の早いばあさんだな」
「ふん、こんな老人が殴るのをよけられないようじゃ大したことないのかい?」
「殴りたそうにしてたからな、実害がなきゃ避ける必要はないだろ?年寄りには優しいんだよ俺は。で、用件ってのはなんだ?」
「ああ、領主がお前さんに渡す報酬ってのがあったろ? 今日、使いが来てね、今晩会いたいそうだ。あたしも一緒に行くから準備をしてきな。その格好じゃ領主の前に通しちゃもらえない。着替えてから6の鐘までにギルドに来ておくれ」
確かに、俺の格好はひどいもんだ。地面を転げ回ったんだから仕方ないけどな。
「わかった、と言いたいところだが、領主様の前で着れるような服なんか持ってねーよ」
「今みたいに汚れてなきゃ平気さ、冒険者の格好なんてみんなそんなもんさ」
「了解した6の鐘だな」
俺はギルド長の部屋を出るとみんなの所に戻った。
「これから、領主の所に呼ばれた。飯は俺抜きで行ってくれ。出来ればケーナは一緒に連れて行って欲しい」
「この間のことですね。わかりました、ケーナちゃん一緒に行きましょう」
「うん。タケル兄ちゃん。領主様と知り合いなのかい?すげーな」
ケーナが尊敬のまなざしを向けてくる。
「知り合いじゃねーよ。この間ちょっとあってな、呼び出しだ」
一度宿に戻り着替え装備を身に付けた俺は、杖を持ったエメロードと一緒に馬車で領主の城にやって来た。門番に用件を伝えると。中に案内され屋敷の入口で執事風の男に刀を預け領主の待つ部屋へと案内された。屋敷内は華美と言えるほどの装飾はなく、かと言ってみすぼらしくはない。趣味のいい内装なんじゃないかと思う。もっとも、城になんか入ったことないからよくわらんが。執事は両開きのドアをノックしてから返事を待ちドアを開けると俺達に中に入るように促した。エメロードを見ると、俺に用事があるんだから先に入るように促された。こんな場所での礼儀など知らない俺はそう言うものかと思い。部屋の中に足を踏み出した。
部屋に入って中を見ると立派な服を着た体格のよい中年男性と、その護衛?それから...ふいにドアの影、俺の死角に気配を感じ振り向くと剣を振り降ろそうとする男が見えた。