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少年冒険者

「ロボ? ですか? なんですそれ? .....あ、セクハラ発言から私の目を逸らそうとしていますね」

「俺がいつセクハラ発言なんてしたんですか?そんなこと、......考えたことも無いですよ?」

アシャさんが疑わしげに俺の目を見る。ここは目を逸らしちゃいけないところだろう。よって、俺達2人は見つめ合うことになる。そう、道の真ん中でだ。周りから生温かい目を向けられていることに気が付いた俺は。一つ咳払いをすると。

「んんっ! ロボってのは俺が住んでたところで流行ってた物語に出てくる物ですよ。大きな鋼でできたゴーレムのような物ですが。ゴーレムと違って人が乗り込んで操るんです」

アシャさんも周りに気がついたのか。慌てて前を向くと俺と並んで歩き出した。

「大きなゴーレムのような.....。そのロボを作りたいんですか?」

「はい! 本当は鍛冶もモデリングもオートマトンもロボのために取得したスキルですからね。ゴーレムと記述魔法だってロボに使えそうかなって思いはありました」

それから、シルビアの宿に着くまでの間、俺はロボについて熱く語った。ロボがいかに素晴らしいか、そして美しいか、気が付くと、ドリルやパイルバンカーにまで話題が飛んでしまった。アシャさんと別れる時に彼女の顔が若干ひきつっていたように感じたのは気のせいだろうか?


その夜俺はベッドの上でのたうち回っていた。

「やっちまった。こっちに来てからその手の話を全くしてこなかったからなー。フラストレーションが溜まりまくってたんだ。向こうでも朝野達男連中としか話せない話題だったって言うのに。アシャさんに話したって分かるわけないじゃないか!」

ガーゼルに来てから女の人と話す機会が増えたから油断してたんだろうな。向こうでも女の人だけでなく極一部の人間にしか理解できないような趣味なんだから。アニメも特撮も無い世界の住人に、しかも大人の女性が食いつく話しじゃないことくらい気がついて当り前なはずなのに。アシャさんが気軽に話してくれるから何処かで甘えてたんだろうなー。女の人となんかちゃんと話したことなかったから他に話題が無いとは言え。.....これもみんな祖父ちゃんと朝野が悪いんだ」

祖父ちゃんが生きていたころは剣術漬で、その後は、ロボ漬の毎日だ、女の子との共通の話題なんか何もない生活だったんだ。


「まっ、俺が本当にロボを作ったらアシャさんだってその素晴らしさが分かるに違いない! うん、きっとわかる!といいな......もう寝よ」



翌朝1の鐘が鳴る前に起きた俺は、型の反復を終え朝飯を食ってからアインを連れて冒険者ギルドに向かった。最近刀を打っていたからギルドに来るのは久しぶりに感じる。それほど間は空けていない、よほど鍛冶に打ちこんでたんだろうなー。ギルドに入ると掲示板に向かいCクラスのクエストを眺めてみる。

「何かいいクエストないかねー。ブラッドベアとか物理攻撃で何とかなりそうな奴がいいよな」

などと呟きながら探していると。そう言えば魔物を狩って素材が多かった場合に持ち帰る手段が無いことに気が付いた。素材を捨ててくるのは勿体ないが、馬車を、それもゴーレムホース付きで持ってないと、実質的に担いで持って来れる物しか金にならないってことだ。

「アインに荷車でも引かせるか? あのサイズとは言え体は岩だ、体重は200キロを軽く超えるだろう。それをあのす早さで動かすんだから相当力あるんじゃねえか? 荷車を手に入れなきゃならねえから今回は無理だけど。となると、受けるクエストはーと。うん、これだな」  

俺は、クエスト依頼票を剥がすと受付の列に並んだ。今日はアネモネさんとは違うお姉さんが担当になった。

俺が、カードと依頼票を渡しながら。

「このクエストを受けたいんだけど」

と言うと、お姉さんは依頼票を見て。

「はい、ホワイトイーグルの討伐クエストですね。あら? 同じCクラスのクエストにホワイトイーグルの羽根の採取依頼があったんじゃないかしら? 通常は1度に受けられる依頼は1つなんですが、こう言った関連する依頼は重複して受けられるんですよ。そちらも同時に受けますか?」

「んー、ホワイトイーグルを倒す時に燃やしちゃったら、クエスト失敗になっちゃいますよね?」

「そうですね。......討伐依頼は討伐する個体を指定して依頼しますから、依頼を受けてからでないと基本的に討伐は認められませんかが、採取依頼は手持ちの素材を提出することもできますから、ホワイトイーグルを討伐した時に採取できて、戻った時に依頼が残っていれば依頼を受けても平気ですよ」

「なるほど、でも帰ってきたら誰かが受けてるってこともあり得ますよね?」

「それは仕方がありません。基本的に早いもの勝ちですからね。その場合でも、少し安くはなりますがギルドで引き取りできますよ」

「分かりました、なるべく羽根を持ち帰ることにするよ」

「はい、では受注の処理は済みましたので、頑張ってください」

「はい、行ってきます」



俺は、アインを連れて東に向かう街道を歩いていた。ホワイトイーグルはガーゼルから半日ほど歩いた木こりの村からの討伐依頼だ。ホワイトイーグルは大鷲の魔物だ名前の通り白く美しい羽根は貴族の間で珍重され装飾品に使われるらしい。産卵期前に雄が巣を作りその巣を中心として縄張りを作るんだそうで、依頼を出した村が伐採している森が丸々その縄張りに入っちまったそうだ。とにかく縄張りに入った者は人だろうと動物だろうとお構いなしに襲いかかる。そう言う意味では、縄張りに入っちまえば向こうからやって来てくれるんだから相手を探す手間は掛からない。飛んでる相手だろうとこちらを襲うからには接近戦で倒せるだろう。


と、思っていた時もありました。

「うわっ」

俺はホワイトイーグルの放つ風魔法の刃を慌ててかわす。風は見えないが気配を感じることで、なんとかよけられる。アインはよけられずにまともに食らってひっくり返った。ストーンゴーレムだから風の魔法じゃ直接のダメージは受けないが、倒れた時の衝撃を受け続ければどうなるか分からない。

「アイン! お前は、そこに寝てろ。転げまわると壊れちまうかもしれない」

『ウン、アインハネテルヨ、マスターガンバレ』

「おう!」

俺は返事をしたが、さてどうしたものか。


村に付いた俺達は村長から話を聞いてその足でホワイトイーグルの討伐に向かったんだが、敵を知り己を知れば百戦危うからず。昔の人は良く言ったもので、敵のことを全く知らない俺はかなりピンチに陥っていた。

空を飛べるわけじゃなし。棒手裏剣が届くところまでは奴は降りても来ない。もっとも、あの巨体じゃ効くかどうかは怪しいところだが。

「モデリングで盾でも作ろうかな?」

よけながら考えてるんじゃ良い考えも浮かばない。よけながら奴を観察していると。魔法を打つ時には空中に止まらなければいけないようだ。飛んでたんじゃ狙いが定まらないんだろう。一度止まると魔法を数発打ち、そしてまた飛ぶことを繰り返している。どうやって止まってんだろ? 

「風魔法を使い強い向かい風でも作って揚力を得ているってところか。だから動き始める時は一度降下して速度を付けているんだな。......」

大鷲の魔物だから空を自由に飛べるのは当たり前なんだが、魔法を使う時だけは必ず同じ動きを同じタイミングで行っている。しかも、俺に魔法が当たらないことにいらついたのか、魔法を使う時の高度がかなり下がってきている。

「もう少し、奴の高度が下がれば、やれるか?」

俺はちょっとした思い付きを検討し始めた。失敗すれば奴も警戒するだろうから一度きりしかチャンスはなさそうだが、そうなったらそうなったで今より状況が悪くなるわけでもない。作戦を考えるとアインに呼びかけた。

「アイン、少しだけ囮になって時間を稼いでくれ」

『ネテテイインジャナカッタノ?』

「ちょっと試したいことがあるんだ」

『オーケー』

アインは起きあがると。両腕を大きくふり自分に注意を向けさせ走りだした。アインに狙いを変えた奴はアインを追いかけだした。

「1分で戻ってこいよ!」

アインに呼びかけると、俺は手頃な太さの木を切り倒しモデリングを使って盾のようなものを1枚作った。形を整えたところで1分たったのかアインが戻ってくるのが見えた。俺はアインに向かって走り出し止まって魔法を打ちだそうとしていた奴に向かって石を投げつけた。奴は魔法を中止すると一度俺達を追い越して少し離れて旋回するとこちらに向かって降下を開始した。俺はアインに指示を出すと位置に付いた。魔法が当たらないことにいらついているのか、奴は今まで以上に接近し高度も下げている。俺はタイミングを見計らうと奴が空中に止まったところで、アインに声を掛けた。

「今だ!」

アインは、俺の足元に手を入れると奴に向かって思いっきり投げつけ、アインの手を蹴った俺は、勢い良く奴に向かって飛び出した。驚いた奴は慌てて魔法を中止するとすぐさま降下する体制になった。俺は空中でさっき作った盾状のボードをスノーボードのように両足に付けると立ち上がり奴の頭の上を飛びすぎる瞬間を狙って体をひねりボードのノーズを上に向けた。体を伸ばし空中で逆さまになった俺は空気の抵抗と重力を受け勢いを殺すと。今度は体を折り曲げ、降下に入った奴に体の正面を向けて、左手に持ったカードに魔力を流し風魔法を使った。勢い良くホワイトイーグルに向かって加速した俺は太刀を居合い切りの要領で抜き放ち、降下に入ったばかりでスピードの出ていない奴の首を切り落とすと、ボードを操作し着地した。

「アイン、ナイススローイング!」

『マスターカッコヨカッタヨ』

「おー、そうだろそうだろ」

『マスター、ケンソンッテシッテル?』

「知ってるわ! でも、今のは格好良かったろ?」

『アンナコトスルマエニ、カンガエテイライヲウケタラ?』

「ですよねー」


俺は、ホワイトイーグルを村まで運びクエストの完了を村長に確認させた後に、ガーラムの街に帰るとこにした。ホワイトイーグルは体長3m翼長8m棒にくくり付ければアイン1人で持ち運べる。こいつは俺なんかより力は強いからな。こいつもCクラスの魔物だからおそらく魔結晶が取れるだろう。ロボを作る時に動力にできるんじゃないかと思っている。

街に戻った俺達はギルドに行く前に魔物の解体屋に直行しホワイトイーグルを解体してもらった。解体屋のおやじさんが綺麗な死体にビックリしていた。解体が済んだ素材をギルドに届けてもらっているうちに、ロビーの掲示板を見て羽根の採取依頼の受付を済ませると報告カウンターで提示した。

「ホワイトイーグルをソロかい? さすが殲滅の白刃ってところだな」

「今回はたまたま運よく討伐したけど、同じことをもう1回ってわけにはいかないな」

俺は、カードとクリア証を受け取った。1度に2つのクエストをクリアしたので結構良い報酬になる。ロビーに戻って受付のアネモネさんにクリア証を渡した。アネモネさんと挨拶を交わし手続きを依頼して俺は聞いてみた。

「ホワイトイーグルって、普通はどうやって討伐するんですか?」

「普通はって、タケルさんはどうやったんですか?」

「飛び掛かって、首を剣で切り落としましたけど? アインとは相性悪くって、でも仕留める時は手伝ってもらいましたけどね、あいつがいなかったらあそこまで綺麗には討伐できなかったかな」

アネモネさんは、しょうがない人だとでも言いたげに肩をすくめ首を振ると。

「木に止まっている所を複数の弓で撃ったり、魔法を使って落したところを囲んでって感じだと聞いてますね」

「ソロでは無理?」

「普通はCクラスになる前に仲間を見つけてパーティーを組むものなんですからね。Dクラスだって、パーティーで受けることを推奨してるくらいですよ。タケルさんが異常なんです」

「だって、俺この街に来たばかりだよ? 仲間に入れてくれるような知り合いなんかいないよ」

「そう言う人は、もっと必死に入れてくれるパーティーをさがすものです」

「あはは、ぼちぼち行くさ」

俺がアネモネさんと話しながら処理を待っていると。少し離れた受付で揉めている声が聞こえてきた。

「なんで、冒険者に登録できないんだよ! 12才から大丈夫だって村長が言ってたんだぞ!」

「確かに12才から登録はできますが、成人するまでは後見人が必要なんです。後見人にはD-クラス以上の冒険者じゃないとなれません」

「今日村からこの街に来たんだ、そんな知り合いはいないよ!」

「だったら、冒険者になることは諦めてください」

「そんなこと言わないで何とかしてくれよ」

「規則なんです。後見人を探してください」

俺は、アネモネさんに。

「成人前は冒険者なれないのかい? お使いクエストとかなら行けるんじゃね?」

と聞いた。アネモネさんは。

「はい、後見人制度ができるまでは、成人になる前にトラブルに巻き込まれることが多く、最悪命を落とすこともあったそうです。わたしはタケルさんも成人前かと思いましたよ」

「俺は幼く見えるみたいなんだよなー、みんなに成人したてだと思ったって言われたよ」

「ふふふ、見た目より少し年上のように言ってくれてたんですね」

「あー、ひどいな、気にしてんだよこう見えても」

「ごめんなさい。ふふふ。はい、処理完了です」

俺はカードを受け取るとギルドを後にした。さっきの少年は後見人を見つけられるんだろうか? 人一人の行動に責任を持つってことはかなりの覚悟がなきゃできないだろうな。アインを連れて街をブラつき露店などを冷やかしながら今日の討伐のことを考えていた俺は少年のことなど忘れてしまった。


「そう言えば、今日みたいな飛行タイプの魔物を相手にするには今のままじゃどうしようもないなー。記述魔法じゃ中級までしか使えないし、弓はそれなりに使えるけど、メインにするほどじゃないと思うんだよな。アインなにか無いかな?」

『キョウツカッタホウホウハ?』

「アインに投げてもらってもそれほど距離が稼げるわけじゃ無いだろ?護衛依頼なんかの時には自分だけ逃げ回って機会をうかがう余裕なんてないさ。自由に空を飛べるわけじゃないしな。魔術師なら飛行魔法とか使えるのかね?あ、飛んでも接近戦ができないんだから意味が無いか」

「積極的に攻撃できないってのがつらいよな、魔道具とかで遠距離攻撃できないもんかな?」

『マスターハ、マドウグツクレルノ?』

「記述魔法は本来魔道具を作るのに発達した魔法みたいだからな。アイデア次第で何とかなるかもな。俺達2人とも近接戦闘だから、俺が遠距離攻撃できれば良いんだよな。記述魔法の攻撃力じゃ高が知れてるしな」

この世界の遠距離攻撃は魔法か弓だ。自動小銃や狙撃銃でも作ればいいのかも知れないが、俺には銃の構造など分からない。ああ言った物は徐々に発展していくから完成するもので、完成形を知っているからと言ってどうなる物でも無い。ただ、欲しい結果がイメージ出来るってことはゼロから考え出すとこに比べればかなりのアドバンテージではあるよな。モデリングで形は出来るんだし、鍛冶で材料はそろうだろう。記述魔法とオートマトンで地球の現代技術を再現するってことか。ロボを作る為にもそう言った発想は必要になるな。とは言え、拠点も無い状況ではそう言った道具は作れない。

「作れないからと言って、このままじゃいづれ行き詰るな」

その時風に巻き上げられた木の葉が空中をクルクルと回り、また風に押されて滑空して飛んで行くのが見えた。今日アインに投げてもらったボードが空を自由に飛びまわっているように見えた。

「風魔法をうまく使えば空を飛べたりするのか?......」

俺は、店を回って、魔石を数個適当なサイズの木の板など色々買って宿に帰った。


「ただいま、アリアちゃん」

「おかえりなさいタケルさん。ずいぶん荷物持ってるね。....えーと、宿の部屋を勝手に改造されると困るよ。棚でも作るの?」

アリアちゃんは俺が持って帰った荷物を見て棚でも作ると思ったみたいだ。

「違うよ魔道具を作ってみようと思ってね」

「タケルさん魔道具も作れるの?」

「初めての魔道具だけどね」

「何を作るの?」

「人類の夢をかなえる道具さ!」

「夢が何でもかなう魔道具なの! タケルさんすごーい」

「アリアちゃん。俺にはそんな物は作れないよ」

俺が苦笑すると。

「タケルさんなら、そんなことも出来るんじゃないかなと思ったんだけど」

「まー出来てからのお楽しみってやつかな」

「ふーん、じゃー楽しみにしてるね」

「ああ」


俺は晩飯の後、部屋に入ると色々考え始めた。

「風に乗って飛ぶんだから、スノーボードよりもサーフィンに近い感じかな?風に乗るイメージだけど、ボードに風で推進力を与えるんじゃ重心の関係でうまくいかないよな。推進力の他に舵を取る物も必要だろうし、ウインドサーフィンみたいなものか?.....帆があると邪魔か?」

色々と考えたが、とりあえず作ってみることにした。

板を鉄で補強し魔法紋を記述した魔石を組み込みとりあえずボードを作った。飛行機のような翼の形で揚力を発生させる物ではなく風に向けた角度で揚力はコントロールすることにする。足を固定する器具を鉄と革紐で加工して出来上がりだ。後は推進力と姿勢制御用に魔石をはめた手袋を作った。手の平から風を出して推進と姿勢制御すればかなり自由に飛び回れるはずだ。

「まあ、とりあえず完成としようか。明日はテスト飛行だ」



翌朝宿を出た俺はかなり目立っているようだ。革鎧にソードストッパーと言う軽装で背中にリュックを背負い、細身のタワーシールドのような板を持つと言うかなり奇妙な姿をしているからだ。アインが。

『マスター、ソレハナニ?』

と聞いてきたので。

「魔道具1号だ」

と答えると。

『マスター、ネーミングセンスナイネ』

「ほっとけ!」


どうせ、外に出るんだし簡単な依頼でも受けようかとギルドにやってきた。するとアインが。

『アインノバショニダレカイルヨ』

こいつはギルドで俺を待つ時には、いつも入口のドアの横で待っているんだが、今日はそこに先客が膝を抱えて座っている。アインが黒板に何か書き始めた。

「なんだ?『ようようにいちゃん、誰に断ってここにいるんや?』って、お前はチンピラか!」

アインの頭を軽く小突くと俺はその先客が昨日受付で見た少年だと気が付いた。

「後見人が見つからなかったってことか」

すると、アインが。

『ソコハ、アインノバショダゾ』

アインが少年に黒板を見せている。少年は驚いて後ずさろうとしたが壁があって下がれないことに気が付き慌てて横に飛びのいた。満足げにアインは少年がどいた後に座ってしまった。俺はため息をつくと。

「すまないな、俺のゴーレムが驚かせちまったな」

少年に謝った。

「これ、兄ちゃんのゴーレムなのか?色々ビックリだな」

俺の方を見上げた少年の顔には涙の跡があった。

「まあ、面白いやつだろ。ところでどうしたんだい? こんなところに座って。腹でも痛いのか?」

「そんなんじゃない。腹は減ってるけど」

「そうか、じゃーアインが驚かせたお詫びに飯でも奢らせてくれないか?」

「え?いいのかい?」

「俺の方こそすまなかったな、奢らせてくれるかい?」

「うん」

「じゃあちょっと、手と顔でも洗ってこいよ。表で座ってたから埃付いてるぞ」

少年は顔を洗いに行った。あんな歳でも男だ、涙の跡があるぞと言えば傷つくだろう。


顔を洗ってきた少年と同じ席に付き、俺は果実水を少年には朝定食を注文した。

「そう言えば紹介がまだだったな、俺はタケル冒険者だ」

「おれはケーナ冒険者になりに村を出て昨日街に来た」

こんな子供が1人で村から出てきたってのかよく無事だったな。ケーナは身長は140cmあるかないかと言ったところ、薄い茶色の髪に茶色の目。少しやせ気味に見える。顔は子供だが、整っている。将来はイケメン冒険者として女の子に騒がれるようになるんじゃないか?......別に羨ましくなんか、無いと言えば嘘になると言わざるをえない。

「俺も、つい半月前に冒険者になったばかりだけど少しだけ先輩だな。でもよく1人で街まで無事に来れたな」

「父さんに付いて、狩りを教わってたから、獣の気配を探ったり自分の気配を消すのは得意なんだ。夜は木の上に登って寝たから」

「へー、ケーナ凄いじゃないか」

そこに朝飯が来たので話を中断した。

「じゃ、ゆっくり食べな」

ケーナはよほど腹が減っていたのか、むさぼるように食事をした。あっという間に食べ終えたので。

「お代わりはいるかい?」

と聞くと。頷いたので追加注文をする。

「で、冒険者になりに来たって?」

「うん、そうなんだけど、12才じゃ後見人が居ないと冒険者になれないみたいなんだ。村長はそんなこと一言も言ってなかったんだけど、村長は元冒険者だったんだよ」

「村長が冒険者をしてた頃と変わったんだろうな。で帰るのかい? その様子じゃ後見人見つからなかったんだろ?」

「おれ村には帰れないんだ。今年は猟も作物も不作で冬が越せるかどうか怪しい。身寄りが無いおれのことなんか、養う余裕なんてないんだよ。俺が狩ってくる獲物なんかじゃ全然足りないし、父さんが魔獣から村を守って死んだからって、今まで置いてもらってたけどもう無理なんだ。俺のことなんかに構ってる場合じゃないんだ。母さんは小さいころに死んじゃったし、身寄りはないから俺一人生きて行ければ良いんだ。でも、この街に知り合いなんかいないから、どこの誰かも分からない奴なっか誰も雇えないって言われたし。金だって無い。冒険者になるしかないんだよ、でも、後見人なんか見つからないし。おれはこんなことで負けるわけにはいかないんだよ。おれは父さんの子供なんだ!村を魔獣から守りぬいて死んだ強い父さんの子なんだ!!」

ケーナは肩を震わせているが、涙はこぼさない。強い子だな。村人たちの負担になっていることを申し訳なく思っていたんだろう。狩猟と採取と農業がそこそこ上手くいかないと破綻するような小さな村なんだろう。みんな自分たち家族が生きるので精一杯で、自分は邪魔なんだと。その事を感じ取っていたんだろう。自分の境遇を恨みもせず。自分の未来を切り開くためにこの街までやってきたんだろう。きっと誰も悪くないんだよな。.....切ないな。

この子を、この心が強くやさしい少年のことを守ってやりたいと考えている自分に気が付いた。いやいや、ちょっと待て、俺だって17才で家も無くこの世界に身寄りもいない。仕事だって冒険者だぞ、定職に付けない人間がやる仕事だ、とても誰かを助ける余裕なんか無いはずだ。この世界じゃこんな話はありふれた話のはずだ。そのたびにそいつを助けるのか? 下手すりゃ2人で共倒れだぞ。でも、ケーナの話を聞いちまった。1人前になる手助けをしたいと思っちまった。

「あー、ケーナ? 実はさ、俺パーティメンバー探してるんだよ。今は、あのアインと2人で討伐を中心にクエストを受けてるんだが、ちょっと補強しようかなってさ。よかったら俺のパーティに入ってくれないか?」

「え、いいのかい? 俺まだ12才で何もできないよ」

ケーナの顔が一瞬輝いたが、直ぐにしょんぼりとした。

「頼んでるのは俺の方なんだけどな。俺もこの街に来て半月だからさ、なかなか信用できる人間なんて見つからないから困ってたんだよ。ケーナには朝飯の貸しがあるから、悪さなんかしないだろ?」

「驚かせたお詫びだって言って無かったか?」

「あれ? 覚えてたのか、ケーナ賢いな。じゃ、お代わり分が貸しだ。あははは」

「兄ちゃんの話はありがたいけど、冒険者になるには後見人が要るんだよ。D-ランク以上の冒険者じゃないとダメなんだってさ。冒険者になって半月の兄ちゃんじゃ後見人なんてなれないだろ? だれか、いい人知ってるのかい?」

俺はケーナにカードを見せながら。

「ふふふふふー、まーかせなさい! 俺の冒険者ランクはC-だぞ。もっとも討伐数で言うとD-くらいだけどな! 昨日だって、Cクラスの魔物のホワイトイーグルを討伐してきたんだ。後見人の資格くらいあるだろ」

「冒険者になって半月って言ってたのに.....。歳だって俺とそんなに離れて無い.....」

「ちょっと待とうかケーナくん。俺は17才だ! お前より5才も! 年上だ!」

「え? 兄ちゃん成人してたのか!」

「何気に失礼だな。で、どうかな? 俺のパーティに入ってくれるかい?」

ケーナは立ち上がると。俺に頭を下げて。

「お願いします。俺をタケル兄ちゃんのパーティに入れてください」

ケーナか、本当にいい子だな。

「こちらこそ、よろしくな。お代わり冷めちゃうから食っちまいな」

「うん!」

ケーナは1人分をすでに完食しているとは思えない勢いでお代わりを食べ始めた。その両目には涙が光っていた。


「と、言うわけで、このケーナの後見人になるんで、冒険者登録お願いします。それから、俺とパーティ組むんその登録もよろしく」

俺は、ちょうど手のあいたアネモネさんに話しかけた。

「なにが、と、言うわけなのかはよく分かりませんが、良いんですね? 被後見人のやることに責任を持つことになりますよ?」

「ああ、承知している。手続きとギルドの説明をしてやってくれ」

「はい、では、こちらの用紙に必要事項を記入してください。それと、カードの提示をお願いします」

アネモネさんは、俺の答えに頷くとケーナに話しかけた。


「では、続いてパーティ登録にはなります。タケルさん、この用紙に必要事項を記入してください」

俺は、用紙の欄を埋めながら。

「パーティ名って決めないとだめか?」

「はい、後で変更は利きますが、有名になると変えずらくなりますから真剣に決めてください」

「アネモネさん。なぜ俺が適当に決めようとしたのが分かったんです?」

すると。

「ギルド受付担当の勘です」

だ、そうだ。

「後日でもいい?」

「いいですよ、ただ、なるべく早めにお願いしますね」

「はーい」

パーティの処理が済み俺達はギルドを出た。


「アイン、こいつはケーナだ、新しいパーティメンバーだ。ケーナこいつはアイン俺の相棒だ」

「ケーナだよ。よろしくアイン」

『アインダヨ、マスターノアイボウダヨ、ヨロシクケーナ。サッキハワルカッタネ』

「おかげでタケル兄ちゃんと知り合えたんだから、ありがたかったよ」

『ソウ? ダッタラ、モウレツニカンシャシタマエ』

ケーナが苦笑している。

「さーて、自己紹介も終わったし、これから街の外に出て魔道具1号のテストを行う!」

俺が宣言すると?

「タケル兄ちゃん、魔道具職人なのかい?」

『ネーミングセンスナイヨ』

「冒険者兼鍛冶師兼魔道具職人だな、今の所は。アインは余計なお世話だ、完成したらちゃんとした名前は付けるよ」

ギルドでちょっと寄り道したが、いよいよ魔道具1号のテスト飛行だ。俺達3人は門に向って歩き始めた。ケーナを見て俺は疑問が浮かんだので質問してみた。

「ケーナ、荷物を忘れてるぞ」

そう、ケーナはカバン一つ持たずに歩いている。

「おれ、荷物なんて持ってないよ。村からこの格好で歩いてきたんだ」

俺達は、ケーナの買い物をするために道を引き返して露店が多く出ている地区に行くことにした。

.....魔道具1号のテスト飛行は明日になりそうだ。


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