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刀ができたぞー

今回も戦闘シーンは無しです。


1の鐘が鳴りやんでしばらくして、早朝にも関わらずダイロックの鍛冶屋から鎚を打つ音が響いている。最近あまり聞くことの無かった音に、近所の職人達の中には首をひねるものも多くいた。


「どうしたんだタケル。そんなに新しい剣が気になるのか?やる気のあるのはいいことだが、1の鐘が鳴って直ぐに来るとは。お前さん朝飯食ったのか?」

「食ってねえよ!食える気分じゃなかったんだよ!」

「なんだ?あれから帰って何かあったのか?」

「あったなんてもんじゃねーよ。生まれて17年あんまり長く生きてるわけじゃねーけど、あんなに恥ずかしい思いをしたのは、生まれて初めてだよ!」

「んー、わしくらい長生きしていれば散々恥をかいてきたもんだがね。ところでタケル、お前さん17才だったのか。成人したてだと思っとったよ」

「ああ、会うやつ会うやつに間違われるけど、ちゃんと17年生きてきたよ。これからもずーっとこんなことが続くかと思うと、俺にはもう、折り返し鍛錬をするしかねーんだよ」

そう、俺は朝からダイロックの鍛冶場で大きな鎚を打ち続けている。高い筋力ステータスとLV7と言う鍛冶スキルのせいであっという間に鋼が鍛えられていく。

「誰が英雄だ!誰が殲滅の白刃だ!街を守った英雄なんかじゃねー!大切な人達を守りたかっただけだ!」

「なあ、タケルよ」

ダイロックが俺にやさしく話しかけてくる。俺は熱した鋼から目を離し、ダイロックを見上げた。ダイロックは続けて。

「人間生きてりゃあっちこっちで恥をかくもんだ。誰かの為を思ってやったことでかいた恥なら、恥のかきかたとしちゃ上等な部類だぞ。まして人の命が掛かった場面で恥を掛けるなんてめったにできるもんじゃねえ。大切な人の命を守れたんだろ?盛大に恥をかきゃいいじゃねえか!守られたモン達が感謝してくれてんだろ!盛大に恥をかけばいいんだよ!」

俺は、ダイロックの話を聞いて少し冷静になった。

「鍛冶仕事は体力勝負だ!朝飯を抜いてくるようじゃいい仕事はできねえ!シルビアの所に戻って朝飯食ってこい!!」

俺はダイロックに鍛冶場を追い出された。しかたなく宿に朝飯を食いに戻ることにする。



『センメツノハクジン、オハヨウ。アサカラヤドヲトビダシテドコニイッテタノ?マスター』

「うるせえ、殲滅の白刃言うな!俺が殲滅の白刃なら、お前は滅失の魔術師だぞ」

『タシカニカナリハズカシイヨビナダネ』

「だろ?恥ずかしいだろ?」

そこにアリアちゃんが顔を出した。

「タケルさん、おはよー、朝早くからどこに行ってたの?」

俺は正直に言えるはずもなく。

「おはようアリアちゃん。ちょっと朝の散歩ってところかな。まだ朝飯は間に合うかい?」

「うん、準備するね。でも、その前に顔を洗ってきたほうがいいよ?ほっぺが真黒だよ」

アリアちゃんは食堂に入って行った。俺は、顔を洗うために裏庭の井戸に向かった。

「なんだ、アリアちゃんは普通じゃないか。そうだよ俺の顔はまだ、街の中じゃ広まっていないんだから気にしすぎだったんだよな」

俺は顔を洗うと食堂に入って、シルビアさんにも朝の挨拶をする。

「おはようシルビアさん。朝飯お願いします」

「おはようタケルさん。今日はいつもよりゆっくりなんですね」

「ははは、ちょっと散歩に行ってきました」

「あらそうなんですかー。わたしはまた、昨夜のことで照れてダイロックさんのとことで鎚でも振るってたのかと思いました」

シルビアさん、見てたのか?

「ハハハ、ナンノコトデショウワタシニハマッタクココロアタリガアリマセン」

「『殲滅の白刃』わたしは、カッコイイと思いますよー?ふふふ」

「すみません、そのことは忘れてください.....」

そこに、朝食を持ってアリアちゃんがやってきた。

「タケルさんおまたせ」

「おーありがとうアリアちゃん」

さっそく食べ始めるとアリアちゃんが。

「タケルさん。あたし、可愛くて、やさしくて、気立てはいいと思うよ?お母さんの娘だから、将来は美人でナイスボディに成長する可能性は高いと思うんだよね」

俺は、パンを喉に詰まらせそうになりながらやっとのことで呑みこんだ。

「ング、アリアちゃん?どこでそれを?」

「昨夜、カウンターの所でアシャさんと話してるのをそばで聞いてたもの。だから、今日中に街を出るなんて言わないでもう少し待っててね」

そう言うとアリアちゃんはあわてて厨房に入ってしまった。

そうして、直ぐに赤くなった顔だけ出すと。

「えと、少しじゃなくて、結構かかるかもしれない」

そう言って、また引っ込んでしまった。

「あら、タケルさん?いつの間にアリアのことを?アシャさんに言いつけちゃおうかなー?」

「シルビアさん、自分の娘のことで俺をからかうのはやめてください.....」

「ふふふ、もてもてですねー、若いっていいわよね。ちょっと焼けちゃいます」

そう言ってにっこり笑うとシルビアさんも厨房に入ってしまった。

「はー、こっちの世界に来て急に人間関係が濃密になってきたな」


朝飯を終えた俺はまた、ダイロックの鍛冶場に来て鍛錬の続きをした。刃金を作り終えた俺は鍛接によって、鍛錬したあと、大きさを整えた鋼の部品同士を組み合わせて接合した。ここからはモデリングで一気に工程を進めてしまう。火造り、空締め、生砥ぎの工程を一気に終わらせると。土置きだ、焼場土が鍛冶場には無かったので、鍛冶スキルの知識を使って自作した。この工程で刀の刃紋と反りを出すだけでなく刃の部分と棟の部分の焼き入れ具合を調節し、硬くしなやかは刃にするための重要な工程だここをスチルに任せることで失敗する心配をなくし焼き入れに入る。加熱状態を見極め水槽に入れて一気に冷却する。水中で反りが生じ完成形を思わせる。続いて焼き戻しを行って刀が出来上がる。反り具合の修正や本来は研師が行う各種の研ぎを一気にモデリングで済ませると、そこには。

「刀身はこれで完成だ」

美しい太刀が一振り出来上がった。拵えは後回しにして残りの刀を仕上げ始める。今回は、刃長80cmを超える太刀を一振り、刃長70cmほどの打刀を三振り、刃長50cmほどの脇差を作って、白木の鞘におさめた。

鞘に収まった刀を一振り一振り眺めたダイロックは。

「見事なもんだなこれは、バスタードソードのように叩き斬るのではなく。切り裂くように使うのか?刀身から何か力のような物を感じるな。そして何より美しいな」

「これが、俺が育った国で使っていた刀と言うタイプの剣だ」

「裏庭で試し切りしてみるか?」

「ああ」


俺達は鍛冶場の裏庭に出た。大分日が傾いてきた、4時ごろだろうか。庭に打ち付けた丸太に向かって俺は太刀を上段に構え。

「ヤッ!」

気合一閃刀を振り下ろした。丸太を綺麗に切り飛ばした。もちろん刀身に傷など一切ついてはいない。

「見事だな」

つづけて、打刀と脇差も試した。いずれも良い出来だった。

「明日は拵えをやるよ」

「ああ、まっとるよ」


ダイロックと別れシルビアの宿に帰ってきた俺を、宿のロビーでヴァイオラが待っていた。

「おかえり―、殲滅の白刃」

ニマニマしながら俺に呼び掛ける。

「ヴァイオラ勘弁してくれよ」

するとヴァイオラは。

「二つ名を持てるなんて嬉しくても嫌がるもんじゃないよ。それに、なかなかいい二つ名じゃないか」

「そんなもんかね、ところでどうしたんだい?」

「あーそうそう、タケルを迎えに来たんだよ。一緒に夕食をどうかと思ってね。そんなに遠くに行くわけじゃないよ。今日は、あたし達に付き合いなよ」

俺は、少し考えて。

「鍛冶仕事をやってきて汚れてるから風呂に入ってきてもいいか?」

「ああ、待ってるから入ってきなよ」

俺は、風呂に入る途中でシルビアさんにヴァイオラと出かけることを告げてから、風呂で汚れを落とし着替えて来た。部屋に戻る途中でロビーのカウンターにいるアリアちゃんに。

「アリアちゃん、ちょっとヴァイオラ達と晩飯を食べに行ってくるね」

「はい、ヴァイオラさんに聞いたよ。行ってらっしゃい」

アリアちゃんは、ちょっと浮かない顔をして答えてくれる。



ヴァイオラに連れられて来たのは、冒険者ギルドのそばにあるちょっと高級そうなレストランだ。

「ここだよー、みんな待ってるから早く入ろう」

「おれ、こんな高級そうな店入ったことないぞ」

「平気だよ、冒険者ギルドのそばにある店だもん。冒険者やギルド職員も結構来てるんだよ」

それなら、あまりかしこまることもないかと思った俺はヴァイオラに促されてレストランに入った。かなり大きな室内のテーブルは、ほぼ満員でこんなに流行っているなら美味い物が食えるんだろうと期待した俺を持っていたのは、円いテーブルに座ったアシャさんとアネモネさんの2人だった。

「あれ、アネモネさんも一緒なんだ。アネモネさんアシャさんこんばんは。今日は誘ってくれてありがとう」

「タケルさんこんばんは」

「こんばんはタケルさん」

2人に挨拶を返された。アネモネさんは冒険者ギルドの美人受付嬢だ。身長は結構高くて175cmくらいスラリとした痩せ形で茶色い髪を長く背中に伸ばしている目はやや暗めの青で、胸は結構残念な感じだ。

俺がアシャさんの隣に座るとヴァイオラが俺の隣に座った。

「アネモネさんって、2人と中がいいのかい?」

アネモネさんは。

「そうなんですよ、わたしがギルドに入ったころに2人も冒険者に登録したんですよ、まあ、かれこれ、3年くらいになりますね、そのころからたまにこうして食事とかしてるんです」

「へー、でも、俺ここにいていいのかな?3人と食事してるの見られると恨まれそうだ」

周りを見渡しながらそう言う俺に。ヴァイオラが。

「そうだね、こんな美人を3人も連れて食事なんてタケルは恨まれるどころか、明日の朝日は見れないかもね」

「ヴァイオラ、何てこと言うの。せっかくタケルさんが来てくれたのに」

とアシャさんが言うと。

「冗談だってばー」

とヴァイオラ。アネモネさんが。

「アシャさんは昔からまじめだからね、さて、注文しちゃいましょう。もう直ぐ始まっちゃうから」

何が始まるんだ?

「これから何かあるのか?」

「あれ、言ってなかった?まあ、食べてるうちに始まるよ。食べ物はあたし達が選んでもいい?」

とヴァイオラ。

「こんな高級そうな店入ったことないからな、まかせるよ。あ、飲み物は甘くない果実水にしてくれ」

アシャさん達がウエイトレスを呼んで注文をしている間に俺は、店の間かを見渡す。見たことのある人もそれなりにいる。冒険者ギルドのそばにある店だけあって関係者とか多いのかもしれない。

料理が来るまでに、3人と色々話した。3人とも話題が豊富で、俺はもっぱら聞き役だ。そうこうしているうちに料理に飲み物がそろった。3人は今日はワインのような飲み物だ。

「うまそうだ」

俺が言うと。

「ここも、なかなか美味しいんですよ。沢山食べてくださいね」

アシャさんがそう言いながら料理を取り分けてくれる。4人で乾杯してから食べ始めると直ぐに。周りから拍手が起こる。見渡すと.....。昨日の吟遊詩人が店の奥の舞台に向かって進んで行くのが見えた。

「まさか、......そう言うことなのか?」

「「「そういうこと!」」」

3人の声がハモった。

「いやー、本人を目の前にして、その英雄譚が聞けるなんて最高だよねー」

ニマニマしながらヴァイオラが言うと。

「わたし、昨日聞けなかったから楽しみにしてたんですよ」

こちらはアネモネさん。

「私は、タケルさんが嫌がると思って止めたんですけど、2人がどうせ、いつかは慣れなきゃいけないんだからって言って....」

アシャさんは困り顔だ、そんな顔をしても綺麗だなーと見とれつつ、こんなことに慣れるわけねーと俺は思っていた。


吟遊詩人は昨日のようにリュートのような楽器を奏で英雄譚を歌い始める。場は盛り上がった。もちろん俺の座るテーブルも、俺以外は盛り上がっている。俺は、昨日のように胸の中で突っ込みを入れながら、ひたすら味の分からなくなった料理を食べ果実水を飲んだ。


今日もまた、最後には拍手喝さいで、硬貨が宙を舞った。みんな自分たちの街を救ってくれた英雄に感謝と賛辞を惜しまない。

「こうしてタケルさん本人を目の前にして、英雄譚を聞けるなんて感激も一入ですね。唄も素晴らしかったですよね。一昨日討伐に向かった職員に話は聞いていましたが。やっぱり、吟遊詩人が唄うとより一層感激が増します。タケルさん改めてお礼を言います。ありがとう」

俺は照れるやら、恥ずかしいやらでどんな顔をしていいかわからないが。言いたいことだけ言わせてもらった。

「街を守った英雄なんかじゃ無いんだよ。この街に来てまだ、間もないけど、大切な人達ができたんだ。ただ、その人たちを守りたかっただけなんだ」

3人は笑顔で俺の話を聞いてくれた。そしてアシャさんが。

「そう言えば昨夜は聞き忘れたんですけど。美人で、可愛くて、やさしくて、気立てのいいナイスボディな女の子について今日は教えてくれますか?誰のことを思っての発言かしら?」

アネモネさんも。

「そう言えば、副ギルド長もタケルさんが、美人で、可愛くて、やさしくて、気立てのいいナイスボディなお姉さんを紹介してくれと言ってたと.....」

ヴァイオラが。

「ふーん、タケルは年上が好みなのかい?わざわざお姉さんって副ギルド長に言ったんだー。ここにいる3人はタケルが言うそのお姉さんに当たるのかな?それとも具体的に誰か想い人がいるのかい?」

「あー、その件につきましては。....できれば、言及を避けたいといいますか、特に想定している人物が居るわけでもないような、...そうでもないような?具体的な人が居ないからこその表現といいますか」

アシャさんが。

「可愛くて、やさしくて、気立てのいい、ここは、確かに気持ちは分かります。でも、美人でってところと最後の所はちょっと許せませんね。やっぱりタケルさんも見た目ですか?ボンキュッボンが良いってことですか?それが本音ですか?そこが目当てなんですね!」

「しょせんタケルも男ってことだよな」

とヴァイオラ。

「顔や、胸なんて暗くしちゃえば分からないじゃないですか!」

アネモネさんが言うので。俺がつい。

「顔はそうですが、胸はくらくても.....あっ」

「「「タケル(さん)サイテ―!!」」」

3人の目が据わってる。良く考えると。結構ワインをお代わりしていたような。


「スミマセン海よりも深く反省シテイルシダイデアリマス。今後は女性を外見で判断するようなことはイッサイイタシマセンデス」

3人のお説教は半刻ほど続いた。レストランの床に正座する俺と3人の酔っ払いを、レストランの客が生温かい目で見ていた。


吟遊詩人の唄う英雄譚を感激して聞いていたレストランの客達の中には、英雄殲滅の白刃と正座する俺とを結びつけて考えられるような想像力豊かな者は1人も居なかった.............ハズダ。


3人を送って宿に帰ってきた俺は、風呂に入り寝ることにした。ベッドの上でさっきの出来事を振り返っていた。昨日は過大な評価に、ただただ恥ずかしさしか感じられなかった。でも、今日は吟遊詩人の語る英雄譚に感激し歓喜する人々を見て、自分が褒め称えられることへの恥ずかしさだけを感じていたわけではないことに気が付いた。今日の俺は、あの人たちの笑い顔を作ることができたことに対して少しの誇らしさと、喜びを感じていたのかもしれない。こんな風に考えられるようになったのもダイロックのおかげかな。



「ゴーーーーン」

今日は、1の鐘が鳴る前に起き宿の庭で修練をしている。朝飯を食ってアインに挨拶し、ダイロックの鍛冶場に向かった。鍛冶場に近づくにつれ、鎚を打つ音が聞こえてくる。

「ダイロックさん、おはよーございます」

鍛冶場に入って見ると、ダイロックが剣を鍛えている。いや、もう剣の形にはなっていて微調整の段階かな。作っている剣は、両刃の剣バスタードソードのようだ。

「おう、タケルかおはよう」

「ダイロックさん剣を打ったのかい?ひょっとして徹夜かい?」

「ここ2日タケルの仕事を見ていてな、俺も1振り打ってみたくなった。見ての通りバスタードソードだが、タケルのやり方を見て自分なりに工夫をしてみた。こいつは叩き斬るだけじゃなく切り裂くこともできるはずだ。薄刃にしたせいで通常の両手剣みてえに打撃武器的な使い方ではちょいと威力が出にくいかも知れんが、純粋に切ることにこだわってみた」

「わしはもう武器は打たんって言ってたのに?それに、自分のことを俺って?」

「わははは、タケルを見てたら最後の1本を打ってみたくなったんだよ。俺ってのは気が若くなたせいかな?」

ダイロックは仕上げに取りかかりモデリングを行っている。俺は、自分の刀の拵えを作り始めた。

「よし、これで完成だ!」

俺の作業は終わった。

「俺もこれででき上がりだ」

ダイロックも出来上がったらしい。

「タケル、こいつの試し切りを頼めるか?こいつはドワーフの俺にはちょっと長すぎる」

ダイロックから剣を受け取ると俺は握りやバランスを確かめながら。

「ああいいよ、うちの剣術は刀しか使えないってことは無いからな。やらせてもらおう」

2人で昨日のように鍛冶場の裏庭に来た。

俺は剣を構えると。

「やっ!やーっ!」

丸太に向かって剣を2度振るった。1度目は叩きつけるように。2度目は切り裂くように剣を振るった。

「うん!良い剣だ。刃こぼれもしていないし、切れ味が別もんだなこれは。今までの剣とはメンテナンス方も違うから大変かも知れんが、作った本人なら刃の構造が分かってるからモデリングで行けるな。他じゃ無理だろこれ?」

「そうだな、メンテナンスは俺しかできねえな。今だって、自分が作った剣のメンテナンスはやってるんだ問題はない」

俺は、ニヤニヤしながらダイロックに聞いた。

「で、最後の1本は満足のいく出来だったのかい?」

ダイロックはニヤリと笑うと。

「おう!全然満足できるもんじゃねえ。まだまだ、工夫の余地が残ってるはずだ。剣を打つことから引退していたが、7年ぶりにカムバックってやつだ」

ダイロックは鍛冶場に戻ると、拵えを作り剣を仕上げた。

「俺はな、7年前に最後の剣を打ったんだがな、そいつがそれ以前に作っていたものから全く進歩してねえことに気が付いたんだよ。いつの間にかいつ作っても同じ品質の剣しか作っていなかったんだ。常に上を目指して剣を作っていたころのことなんか忘れちまってたんだ。物を作り出す人間ってのは、物を作るたびに前に進まなきゃいけねえと思って鍛冶師をやってたはずなんだが、老いぼれちまったんだと思ったんだ。体じゃなくて気持ちがよ。それで剣を打つのをやめて、それからは以前作った剣のメンテナンスと日用品しか作って来なかったんだ」

「同じ品質の物を求められてたんだろ?」

「求められている物はそうでも、作り手の気持ちまでそうなっちまったらダメだと思ったんだよ。でも、タケルが来てからの2日間俺は楽しくてな。無心で上を目指してた頃を思い出したよ。お前さんが来てくれなきゃこのまま、ただ老いて行くだけだった所だ。ありがとうよ」

「おれも、ダイロックさんに励まされて、気持ちが救われたからな。お互い様だよ、俺の方こそありがとう」

お互い照れくさかったんだろう。ダイロックは思い出したように切りだした。

「さて、剣を打ったから鍛冶ギルドに行かんとな」

「鍛冶ギルドに?」

「ああ、鍛冶ギルドに入っているもんが新しい武器を作ったら届が必要なんだよ。鋳造武器なら書類で数を届けりゃいいんだが、鍛造武器は現物を持って行かなきゃならん」

「俺は、ギルド員じゃねーから届ける必要ないよな?」

「うむ、そう言うことになるが、これだけの仕事ができるんだ、ギルドに登録したほうがいいぞ。鍛冶の材料を手に入れるにはギルドに入るしかねえからな」

「そう言うことなら登録しようかな?でも、俺なんか登録できるのかね?ゴーレムギルドに行った時は、用件も聞く前に、俺が作ったゴーレムを見て「そんな無様な物しか作れないやつなどギルド員にするわけがない」って言われたんだよな。あそこの副ギルドマスターに」

「鍛冶ギルドじゃそんなことは無いな。若いやつが未熟なのは当たり前だし、そいつらを指導するのもギルド員の務めだ。それに、タケルの作った刀を見て、ギルド員にしないような奴はあそこにはいねえよ」

「だったら、今から行こうか」

俺達はでき上がった刀と剣を持って鍛冶ギルドに向かった。



「久しぶりだなダイロック。やっと剣作りを再開したのか!」

鍛冶ギルドに来た俺達がカウンターの受付に並ぶと、ギルドの受付に少し待つように言われ、直ぐにギルドマスター室に案内された。

「ああ、7年ぶりに打ったんでな、登録に来たんだ」

「ほう?引退したと言っていたお前さんが7年ぶりに打った剣か。腕は落ちちゃいないかい?」

「落ちたかも知れんな。まあ、これを見てくれ」

ダイロックがギルドマスターに持ってきた剣を渡す。鞘から剣を抜いたギルドマスターは。

「バスタードソードか?大分薄く仕上げたな?これだと打撃力が.....ん!」

そのまま、しばらく黙りこんだギルドマスターは。

「ダイロック、お前が7年かけて工夫した剣がこれなのか?より、切ることに特化したバスタードソードか、冒険者が喜びそうだな。安心したよお前さんの腕がなまってないどころか。以前より良い物を持ってくるとはな」

「俺は7年の間日用品しか作っちゃいなかったよ。気持ちが老いていた。この、タケルのおかげでカムバックってやつさ」

「そういや、その小僧はタケルってのか?.....どこかで聞いた名だな」

俺はぎくりとした、最近心ならずも名前を売っちまったからな。

「タケルと言います。冒険者ランクC-です。鍛冶ギルドに入ることをダイロックさんに進められて今日は一緒にきたんです」

ギルドマスターは。

「どれ、お前さんが打った剣を見せてくれるか?」

俺は、5振りの刀をテーブルに置いた。ギルドマスターは、1振り1振り鞘から抜き出して眺める。しばらく見た後に。

「こいつは、何だ?今まで見たこともない形だ。ダイロックの剣よりさらに切り裂くことに特化しているな。しかし、美しい剣だな。まるで美術品だ。見ただけで切れそうなことは解るが....。使う所を見せてくれるか?」


俺達はギルドの裏庭に来た。ここにも試し切り用の丸太が地面に打ち付けてある。

俺は、直径20cm程もある丸太の前に進み太刀を構える。

本来こんな太い丸太を切るもんじゃねえけど。この世界に来てステータスが上がってる。この太さで行けるか試してみたいしな。

「やっ!」

気合と共に太刀を振り下ろした。見事に丸太は切断された。もちろん太刀には刃こぼれ一つできていない。ギルドマスターは。

「凄まじい切れ味だな。そんなに薄い刃で良くこんなもんが切れるな」

感心したような、呆れたような口調だ。

「こいつは俺が前にいたところで使っていた刀と言うタイプの剣だ」

「よし、鍛冶ギルドはタケルを歓迎しよう。ランクは、そうだなCでいいな」

「え?初めは一番下からじゃないのか?」

「こんな剣を作れる奴に見習いのランクを付けてどうするよ。うちのギルドは完全実力主義だ。作り手のことは作品が教えてくれるってもんだ。これを持って、受付で手続きとギルドの説明を受けて来い」

俺は、ギルドマスターからメモを受け取るとカウンターに行った。手続きをした受付のお姉さんはここのギルドも美人さんだった。俺が渡したメモを見ると、少し驚いてから、笑顔で手続きをし、ギルドの説明をしてくれた。

鍛冶ギルドは、鍛冶師達の便宜を図ることを目的とするギルドであること。作った物に比例した会費を払うこと。作った武器は数量や品質を届け出ること。これは、領主に報告され管理されることになる。ランクによって、買える金属の種類や量が決まっていること。ちなみにCランクだとミスリルとオリハルコンまで買えるそうだ。

説明が終わり俺はギルドを後にした。

「刀も手に入ったし、明日からまたクエストやろうかな。領主から商店の営業許可が出たら。鍛冶屋と魔道具屋でも開こうかな。炉がある工房がある店とか借りなきゃな。いくらくらいするんだろ?店を開くなら従業員も欲しいよなー」

独り言をしゃべりながら宿に向かって歩いていると。

「そこで、美人でナイスボディな年上の女性店員を雇い、セクハラするんですね!そうなんですね!」

「うわ!.....アシャさん」

急に声を掛けられて驚いて振り返るとそこには、眉をひそめ頬を膨らませたアシャさんがこちらを睨んでいた。

「やっ、やだなーアシャさん、そんなこと考えたこともないですよ?」

「何気に疑問形じゃないですか!」

「そんなことより俺、鍛冶ギルドに登録してきたんですよ。この間の報酬に商店の営業許可がもらえるかも知れないんで、店を持ちたいんですよねー」

「従業員にセクハラですね!セクハラするんですね!」

「いや、そこから離れましょうよ。作りたい物があるんです。そのためにスキルを取ったようなものなんですよ」

「タケルさんが作りたい物ですか?アインちゃんのようなゴーレムですか?」ゴーレムギルドには入っていませんよね?」

「ゴーレム?いえ、ロボです!」


なんか、打ち切りエンドみたいなセリフで終わりましたが、俺達のロボはまだまだこれからだ!

いつになったらロボ出るんだろ?


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