女神の聖誕祭にゃっ
ファンタジーだけど、ファンタジーとはなんぞや
その昔、1人の女神によって世界が作られた。彼女の名前はディオーニャ。創世の女神と言われている。彼女はもっとこの大地を良くするため、三人の女神を作った。それが、空気を生み出した愛の神スパーロス、ヒトや動物を作った闘いの神アニーリアス、生き物に時間と死を与えた成功の神プリーニスなのだった。
しかし、ディオーニャはこの望まれた世界じゃ物足りなかったのだ。三人が生まれて千と何百年後かに、全てを燃やし尽くし、世界の終わりを告げる破壊神の亜妄を作った。するとディオーニャの目の前に見慣れない幼い女の子が現れた。その子は、プリーニスの子であり、神としてはまだまだ未熟な琉奇だった。
そんなことより、今日の日付は12月25日。我らが女神、ディオーニャの生まれた日。女神の聖誕祭なのだ。
「ねえ亜妄!!お祖母ちゃん喜ぶと思う?」
琉奇が亜妄に見せたのは、可愛らしい柄のマフラーとディオーニャの似顔絵。人間として生きている時もそうだが、琉奇の絵は壊滅的なのだ。人間体で二十歳になってもデッサンは狂い、悪魔のような絵を描いては上手でしょと自慢してくるのだ。人間体では歳の若い亜妄ですらまともな絵を描くというのに……。
「へぇ……琉奇は絵がうまいねぇ。これは、人間どもが阿鼻叫喚している地獄絵図かな?」
これが亜妄による可愛らしい幼女への精一杯の誉め言葉だった。
「ちっっっがぁぁぁぁぁう!!これが、お祖母ちゃん、でおばさん二人、亜妄、お母さん、んで俺だ」
幼女とはいえ、中身は成人男性。幼い容姿から思わない言動を言い放つのが彼の特徴だった。
「下手くそ」
それならば亜妄も容赦はしない。二人の激しい言い争いが始まった。
「何やってんだ馬鹿共」
アニーリアスが額に怒りマークを浮かべてこちらに来た。この状態は怒らせると恐ろしく、夜中にトイレに行けなくなるレベルの怒りだ。
「ごめんなさい」
この場合、謝るが勝ちなのだ。
「母上の誕生日なんだから手伝うかおとなしくしてろ、琉奇」
「俺ぇ!?」
「亜妄はこの神の世界じゃ大人だからな」
ニヤニヤと亜妄は琉奇の旋毛を見下す。人間の時は逆に見下されるため、彼女はこの世界が好きだった。琉奇は幼いうえに邪魔者扱いされて全く楽しくなかった。伯母の手伝いをしようとしても追い出され、亜妄は見下してくる。最後に母親であるプリーニスのもとへ行くと、ディオーニャの接待というすべての神たちにおいての大役を押し付けられた。それの本当の意味は仕事の間はお祖母ちゃんに預けたほうが良いということになる。彼は二十歳にもなって子供扱いされるのが楽しくなかったのだ。ディオーニャの部屋に向かいながら彼の目から涙が溢れそうになっていた。それを必死にこらえる。こんな姿じゃなければと思った。もっと早く覚醒出来れば良かったと思った。そうこうしているうちに扉の前まで着く。扉はノックをする前に開き、彼の泣きそうな姿をみたディオーニャがあせあせと彼のところまで早足で来た。
「どうしたの琉奇?どっかで転んだ?それとも嫌なことがあったの?」
ディオーニャは泣き出す寸前の彼を抱きかかえてよしよしと上下に揺らす。彼女にとってこの孫は可愛くて仕方がない。他の神には厳しくあたるが、孫だけには優しく、聖母のようだった。
「邪魔じゃらいもん……良い子だもん……」
ぐずぐずと鼻をすすりながら回らない呂律で琉奇が言った。
「誰が言ったの?アニーリアス?亜妄?」
「ママ」
「ママが言ったの?もー、可哀想に……良い子なのにねぇ」
琉奇が復活して二人で絵を描いていたらいつの間にか日が暮れていた。
「ママ……」
ぼそっと琉奇が言った。寂しくなってきたらしい。
「そろそろ戻るのかい?」
その言葉にこくりと彼は頷いた。琉奇はディオーニャの手を引いて歩く。
大広間がいつの間にかパーティ会場になっていた。ディオーニャの姿をみるなり娘四人がクラッカーを鳴らした。
「おめでとうございます、母上」
人間界の祝い方らしい、とスパーロスが一言添える。ホールケーキやご馳走が並んだ机を囲んで祝うのが亜妄や琉奇のいた地域のパーティなのだった。
「四人からのプレゼントです」
プリーニスが微笑みながら言った。
「お祖母ちゃん!!おめでとう」
琉奇がどこに隠していたのかわからない紙袋を渡す。中身はあのマフラーと似顔絵だった。
「みんな、こんな老いぼれのために……ありがとうね」
ディオーニャは娘たちと孫を優しく抱き締める。
「雪だ!!」
窓の外を見るとしんしんと雪が降っていた。ちょうど人間界の天気は雪。人間たちは女神の聖誕祭に雪が降るのは珍しく、幸せな証拠だと言っている。神様たちにとって今日は暖かい冬を迎えた幸せな休日だった。
誕生日おめでとうっていう話。