ランナウェイ(逃亡者)
サックリと読んでみてください。
短いですが、ハードボイルド風味。
男臭いお話も大好物です(笑)
ネオンが煌めき喧騒が夜に吸い込まれる街中を、一人の男が走り抜ける。
一見サラリーマン風の出で立ちをした男を振り返ってまで確認する人はいない。
俺は逃げる。
絶対に、奴から逃げきってみせる。
『お前は俺を裏切った。地の果てまで追いかけてやるからな…』
背中に残してきた声は、憎悪が滲み出た呻きを伴って俺を押し潰す。
こんな結果になることは知っていて俺は行動に起こしたのだから、当然の報いだというのはわかる。
そう…これは報いなんだ。
『俺達は親友なんて言葉じゃはかりきれない間柄だ。まるで家族だろ。な?兄弟』
そう言った男は墓の中。
俺は情より金を選んだ。
誰にそそのかされたわけじゃない。
ただ俺が、最低の男だったという話しなだけなんだ。
大通りまでくると、一台のタクシーを拾った。
気を落ち着かせるために上着の内ポケットからタバコを掴むと、トントンと、ケースから指先で一本を取り出す。
「お客さん、禁煙ですぜ?」
視線をあげてバックミラーを見ると、いかにもヘビースモーカーなオッサンがこちらを睨みながら呟いた。
「すまないね。それにしても世の中は変わりましたね。愛煙家は肩身が狭い」
俺は慌ててまた内ポケットにタバコをねじ入れてから、タクシーのオッサンに当たり障りのない話題を振ってシートに深く腰を沈めた。
タクシーは、エンジン音を感じさせずに動き出す。
「あぁ、全くですな。最近は、恩を仇で返すっちゅうやからが平気でゴロゴロしてやがる」
行き先を告げずに走り出すタクシーに、俺の背筋がヒヤリとした。
スピードが上がりきる前に腰を浮かせてドアを開け放ち、俺は転がるようにしてタクシーから飛び降りる。
「…この、裏切りものがっっ!!」
遠くからオッサンの罵声が聞こえたが、街行く群れの中に、それはすぐに溶け込んで消えていった。
奇妙な者を見るような大勢の視線を振り切って、俺はまた走り出す。
確実に奴の息がかかっていた。
その他大勢が皆、敵に見える。
あぁ、人を裏切った代償は、こんなに恐ろしいものなのか。
けれど俺は逃げる。
更なる罪を重ねても、俺は逃げきってやるんだ。