【第一部】4話
もう気付くと外は明るくなりだしていた。
パジャマのまま連れて来られていた為、神社を出ると異常に寒く感じた。
神社と隣接する形で家がある為、玄関まではすぐだ。
ふと玄関に目をやると心配そうな顔でおかんが立っていた。
「あんた大丈夫かい?」
親父とは違い、ちゃんと心配してくれていたそうだ。
「まぁね。でもなんか異常に疲れたし、眠いわー」
と言っていると親父が、
「今日はこのままG神社へ送って行くからな。」
「ほ??」
何を言っているんだこの親父は??
本気で殴りたくなった。
「夜中に奴に襲われたらまたお経あげんといけねぇじゃねーかよ。
寝不足になっちまうわ。後は熊さんに任せる。」
熊さんとはG神社の坊さんのこと。
にしても、これが親の言うことかい。
とりあえず、荷物の支度だけさっさと済ませて、おかんが用意してくれた
おにぎりを持ち家を出た。
親父もその間に熊さんに連絡をとっていたようだ。
外にでて愛車に別れを告げ、親父のハイエースへと乗り込んだ。
車に乗ってひとまず一服。
チリチリと焼けるタバコの先を見ながらこれから何がおきるのか考えていたら
親父が運転席にやってきた。
「ようし。忘れ物はねーか?隣の県だから2時間くらいか」
車の時計に目をやると8:00を回っていた。
着くのはは10:00過ぎだろうな。
タバコを灰皿へ押し付けハイエースは、G神社へと出発した。
───────────────。
出発して1時間くらいだろうか。
眠気でうとうとしていたが必死に起きていた。
街を抜け山道をひたすら走っている。
なんだか妙に静かに感じた。
ちょうどトンネルに差し掛かった。
トンネル内にあるライトがオレンジ色に見える。
・・・・。
トンネル入って何分経ったのだろう。
こんなに長かったっけ?
と疑問に思っていると親父が、
「お前が奴と干渉しちまったからお前にも霊感の類が目覚めちまったんだな」
?が頭に浮かんだ。
まぁ俺は兄弟達と比べて霊感はないと感じているし、
なにしろ幽霊を見たことすらない。
金縛りはあるけど科学的に立証されてるし。
だから俺は今までオカルトを信じていなかった。
とりあえず意味がわからなかったから親父に聞いてみた
「どういう事?」
親父は険しい表情で俺に言った。
「お前の霊力が山のよくないモノを連れてきちまったって言えばわかるか?
一族としては稀だがお前には生まれつき霊感の類はほぼなかった。俺や長兄、
次兄はそれなりにあるが、あるが故にいちいち変なもんを連れてきやすいから
とりあえず変な気がしたらひたすら意識を別の方へもっていき考えないように
する事で避けてきた。やつらは自分の存在を気付いてくれた奴の所へついていくからな」
「ただお前の場合、奴と干渉した事によって奴の力の一部が移っちまったのさ。
それがかなり霊といった類のモノには刺激が強いらしいな。」
なんとなくだがわかった気がした。
今までなんで俺だけ霊感が無いのか不思議だったし、なにより今までとは違うような感覚が俺の中にあるからだ。
これが第六感ってやつなのかな?
「で、今これどうなってるの?」
「山のお偉いさんがお前に刺激を受けて危険視してんだろうな。
このトンネルから出さないつもりらしい」
まじかよ。
俺なんもやってないのにぃ・・
一応駄目もとで聞いてみた。
「どうすりゃいんだよ?俺が謝ればいいのか?」
すると親父は、
「それで許してくれりゃ楽なんだがなぁ。とりあえず酒は車に積んであるし
やりたかねーが頼むしかねーな。」
そう言うと親父は車を止めて外に降り、後ろに積んであった日本酒の
一升瓶を取り出した。
「何するつもりなん??」
俺が聞くと親父が予想外な事を言い出した。
「うちの神様を呼び出すのさ。」
え?
突然の事にびっくりした。
「うちに神様なんていたのかよ」
そういうと当たり前の如く親父が返してきた。
「当たりめーだろ。祭事のときや、奴を封印する時だって
神様の力を借りてやってるんだぞ。そもそも人間の力だけで
人外の力を押さえつけたりする事自体無理だからな。
そもそも神社なのに神様いねんじゃおかしいだろが。
まぁ詳しく説明すると長くなるが一応うちの神社は変わってて
神社自体は奴を封印する為にあるからうちの神様の為にあるものでは
ない。神様は別の所にいる。」
ごもっともで・・。
俺が納得していると親父が綺麗な紫色の布に包んである物を取り出し
その包みを解いた。そこには見慣れた物が入っていた。
「それうちの神棚に置いてある狐の置物じゃぁねーか」
「そうだ。あんま神様を移動するのはよくねぇんだが状況が状況だけに
今回は特別に持ってきた。」
「つー事はうちの神様ってオキツネ様なん??」
親父は呆れた顔で俺に言った。
「今更かよ。ばか息子。」
(まったくここまでアホだったとはな・・)
親父は呆れはてているようだった。
「それでどうやって呼び出すんだ?」
俺が親父に問いかけると親父は先程の紫の布を
地面に広げ、その上にオキツネ様の置物を置いた。
元々銅で作られたのであろうオキツネ様の置物は
不気味に光ってるように見えた。
その置物の前には赤い杯が置かれそこに
日本酒を注ぎ出した。
「よし。準備は出来た。呼び出すが驚くんじゃないぞ。
お前も霊感が付いたせいで見えちまうと思うからな。」
そう言うと親父は数珠をだしぶつぶつとお経のような物を
唱えだした。
・・・・・。
親父が始めてからどれくらい経ったのだろう。
5分。。嫌、10分は経ったであろうか。
まだ親父はひたすら唱え続けている。
俺の緊張の糸が解けだした頃突然、先程まで肌寒かったトンネル内に
暖かい風が流れ込んできた。
ふと、トンネルの先を見つめると先程までどこまでも道が続いていたが、そかから光が溢れてきて
あっという間に目の前が眩しくて前が見えない程になっていた。
ただ、この感覚最近どこかで味わった気がする。
だが、その答えを知るまでにそう時間は掛からなかった。
そう。夢で闇の中から救いだしてくれたあの光だ。
最近の事なのだが懐かしくも感じる程、心地のよいモノだった。
目を細めていると光の中から人影が見え始めた。
すると段々と光りも弱まり、その人影の姿がはっきりと見えてくる。
その姿は白い装束衣装のような物を羽織り、綺麗な長い黒髪、整った輪郭、細くつり上がった目元、
ぷっくりと重厚のある赤い唇、身長も170㎝程あるであろう。
普通にモデルをやっていそうなスタイルの良さ。
このトンネルに場違いと思わせる程の絶世の美女が目の前に現れたのだ。
俺はあまりの光景に言葉が出ずにいた。
すると沈黙を破るかのように親父が前へ出てそのまま一礼した。
それに続くかのように俺も頭を下げた。
「オキツネ様、このような場所にお呼び出ししてしまった事をお許し下さい。」
そう言うと親父はまた深々と頭を下げた。
すると、オキツネ様の口が動きだした。
「まったくじゃ。む?そこにおる小僧は今朝救い出した小僧かの」
「そうです。度重なるご助力には一族一同大変感謝しております。」
オキツネ様は見た目とは裏腹に、鋭い眼光で誰も寄せ付けぬような迫力があり、
その姿に俺は完全に固まってしまっていた。
「小僧から、不快な気を感じるのぅ。こればかりは取り除く事は出来ん。
奴を鎮めん限りはな。」
オキツネ様と目が合う度全てを見透かされているようだった。
「一応儀式が終わるまでは結界を張りその中に居てもらおうと考えています。」
オキツネ様は何かを考えているようだったが、すぐに口を開いた。
「まぁそれも良かろう。ただ小僧の中に奴の力の一部が留まっている以上、
何が起きるかわからん。気をつける事だな。」
親父は深々と頭を下げた。
「ご忠告有り難う御座います。それと、もうお気づきかと思いますが、
今この空間に我々は閉じ込められてしまいました。何かこの状況を
打開する手立ては御座いませんか?」
オキツネ様の口元が微かに緩んだ気がした。
「わらわがここに舞い降りる際に、山の神とは話を付けておいた
もう大丈夫であろう。」
親父と俺は再度深々と頭を下げ礼を言った。
顔を上げた時にはもうすでにオキツネ様の姿はなくなっていたが、
その代わり、視線の先にはトンネルの出口の向こうにある明るい日の光だけが差し込んでいた