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呪いの歴史





 

 小さな侍女、オルガは暗い書庫のうず高く積まれた本の中から一冊の書物を取りだし、埃にまみれた表紙から竜の絵を見付ける。


 読み書きはブロンウィン王女から教わったが、このような(いにしえ)の言葉と飾り文字で書かれた物は表紙の題名さえ読むのも困難だ。


 しかし、その表紙に描かれた、まるで中の膨大なる頁を守っているかの様な恐ろしく、しかし、美しい翡翠の色をした竜がこの書物こそが王女ブロンウィンの探している、ヴェロアの歴史がしたためられてある物である事を証明していた。


 埃を全て払い、自分のショールに包むと、足早に書庫を出た。誰にもこの書庫へ入った事を、この本を持ち出した事を見られてはいけないと云う、王女のいいつけ通りに。




 「これによると、ヴェロアが一度滅びた代に双子の王子が生まれた。と、あるわ」


 オルガが本を手渡すや否や、直ぐにその黄ばんだ頁を捲り、一心不乱に読んでいたブロンウィンがそう云いながら顔を上げた。


 「でも、こんな但し書きもある。“双子と云うのは表向きで、一人は正妻の子、もう一人は側室の子であった。奇しくも同じ日に生を受け……”」


 それが王と王妃の変貌と、どのような関係が?と、オルガは訊きたかったが、あまりに真剣に本の隅々を、挿し絵の細かな模様や染みまでもを読み解き調べている王女を見ていると、声を掛けるのも躊躇ためらわれた。


 「側室の名はサヴラと云い、不思議な事に誰もその素性を知る者は無かった……」 


 王女はそこまで読むと、黙ってオルガと目を見合わせた。


 「姫様……今、サヴラと仰いましたか?」


 聞き覚えのある名。

 確か数年前、王に首をねられたまじない師の老婆の名。



 王女は何かを思い出した様に頁を捲り、竜の絵のある頁にあった記述を読み上げる。


 「五代目ヴェロアの王の子、べリアル王子は、死した許嫁いいなずけ東の国アズウェルの末の王女サヴラに……」


 「またサヴラ……」


 いくら学の無い侍女と云えど、これは只の偶然では無いと思い始めた。


 異国風のこの名前自体が、この国では珍しいものであったし、何より本の記述によると、ヴェロアに災いがある時に必ず出てくる名である事に気付いたからだ。

 

 しかし、一度ヴェロアが滅びたのは二百年前。

 五代目ヴェロア国王の時代に至っては四百年も前の出来事である。


 いくら、老婆とは云え、何百年も行き長らえて来た訳では無いだろう。



 ……普通の人間ならば。


 「姫様、もうじき夜が明けます」


 東の地平線が白み、遥かなる山々の麓が浮き上がるのを見て、オルガは慌てて、古き書物を貪るようにして読むブロンウィンに声を掛ける。


 「大変、この本は衣装箱の中に隠しておく事にしましょう。オルガ、今夜は御苦労様」


 小さな侍女は軽く礼をすると浮き彫りの施された美しい扉から去って云った。



 この時王女は、まさかオルガの姿を見るのがこれで最後になろうとは思いもしなかった。












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