月と太陽の剣
†
一瞬何か暖かいものに包まれた気がした。
「ワハハハ!まだまだだな!シーグ!」
この声は……?この懐かしくも力強いこの声は……?
見ると、異形の兵士は倒れ、自分達を黒く大きな影が覆っている。
影は振り向くとシーグに向かって微笑んだ。
「……とうちゃん!」
百戦錬磨の大男……大盗賊ゲバルトの勇姿がそこにはあった。
―危機に見舞われし時一度だけ“この世ならぬ大切な者”が加勢致す―
あの、光輝く子供の言葉の意味が今やっと解った。
ゲバルトは、高貴なる魂に導かれ死者の国から戻って来たのだ。
「とうちゃん!」
張り詰めていた何かが弾け、父にすがろうとしたシーグだったが、その手は無情にもゲバルトの身体をすり抜けた。
「とうちゃんの仕事はこれで終りだ。頑張れよシーグ、頑張って自分だけの宝を見付けるんだ。とうちゃんはいつでも見守っててやっからな」
ゲバルトはそう云うと金色に輝く光の砂になり、天へ帰って行った。
そうだ、いつまでも感傷に浸っている訳にはいかない。シーグは潤んだ目を拭うと、周りに異形の兵士が居ない事を確認し、ブロンウィンに云った。
「俺、悪い奴をやっつけないと……姫さまは、危ないからここにいて」
しかし、王女は青き瞳を激しく燃やし、かぶりをふる。
「そうは行きませんわ、お姉さま!魔女を仕留めるには、銀の短剣と金の短剣が必要です」
「短剣?」
「銀の……月の短剣と呼ばれる物はこれです」
ブロンウィンはさっき、魔女の額を斬りつけた、銀の短剣を見せた。
「あっ……これは……」
シーグは自分の腰に下げていた、鞣し革の袋から、青い宝石の金の短剣を取り出した。
「そう!それです!それが太陽の短剣です」
―月の短剣は退魔の剣
太陽の短剣は破魔の剣
悪しきものを葬り去るには月の短剣で自由を奪い、太陽の短剣で心臓を指し貫くべし―
何処かから声が聞こえる。あの、光輝く高貴なる魂……フラウヒルデ王女の声が。




